J.S.バッハ 管弦楽組曲全集 BWV1066~1069 名盤
バッハの「管弦楽組曲」は全部で4曲存在しますが、この「管弦楽組曲」という呼び名は元々は使われていませんでした。単に「序曲(Overtures)」とされていただけです。4曲とも、その「序曲」で開始され、そのあとに「クーラント」だの「ガヴォット」だの「メヌエット」だのと、短い曲が幾つか自由に並べられています。けれども、どの「序曲」も長大で、組曲全体の長さの約三分の一から半分をも占めますので、後ろに続く曲はなんだかおまけのようです。
これらの中で最も頻繁に単独でも演奏されるのは第3番の2曲目「Air」で、一般に「G線上のアリア」と呼ばれる曲です。この曲は本当に敬虔な美しさを湛えた曲ですし、その「序曲」も輝かしい曲で非常に良いのですが、全体の出来栄えとなると、やはり第2番が群を抜いていると思います。荘厳な序曲はまるで「マタイ受難曲」を想わせますし、ロンド、サラバンド、ブーレ―、ポロネーズ、メヌエット、バディネリーと、どれも名曲ぞろいです。個人的には終曲の短い「バディネリー」が大好きで、子供のころにラジオから流れたこの曲に凄く惹きつけられた記憶が有ります。
第2番に次いでは、むしろ第1番が気に入っています。第4番も悪くはありませんが、他の曲に比べると大分インパクト不足です。「ブランデンブルク協奏曲」は全曲が名曲なのに比べると、幾らか物足りないですね。もちろん好みの問題もありますが。
CDでは、全曲を買い求めるのがもちろんベストなのですが、よく第2、第3番だけで1枚のCDに収められてもいますので、それだけでも決して不足は無いと思います。
それでは、僕の愛聴盤をご紹介します。
カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管(1960年録音/アルヒーフ盤) オールド・ファンなら誰に聞いても「定番」に上げると思います。演奏は第2番が最高です。序曲の峻厳さはまるで、この人の「マタイ受難曲」の演奏を聴いているようですし、オーレル・ニコレの滋味溢れるフルート演奏を聴くことができます。ところが、第3番の序曲などでは堂々として聴きごたえが有りますが、トランペットの音量が大き過ぎてバランスを崩しています。これはこの人の「ロ短調ミサ」でも感じた欠点です。ですので、全体は手放しで好きな演奏というわけでもありません。
カール・ミュンヒンガー指揮シュトゥットガルト室内管(1961年録音/DECCA盤) かつてリヒターと並んでバッハ演奏で一世を風靡したと言っても過言でないミュンヒンガーのステレオ初期の名盤です。所有するのは2、3番のみですが全曲の録音も有ります。ゆったりと遅いテンポで、ロマンティックな味わいをも漂わせているので、現在聴くと古めかしさを感じる反面で何とも心が癒されます。これは挑戦的なピリオド楽器派では得られないことです。厳格なドイツ的リズムを刻むのも微笑ましいです。2番のフルートソロは名手ランパルです。
パブロ・カザルス指揮マールボロ祝祭管(1966年録音/SONY盤) 実は昔アナログ盤で愛聴したのはカザルス盤でした。この人の「無伴奏チェロ組曲」や「ブランデンブルク協奏曲」の演奏には、少々古臭さを感じてしまいますが、この管弦楽組曲には感じません。もちろん現代楽器による編成の大きい演奏ですが、あくまでも弦楽が主体となり、トランペットの音は完全に柔らかく弦に溶け込んでいます。その点では古楽オケ以上かもしれません。また、驚くほどにリズムが厳しく、生命力を持っています。この老カザルスの指揮ぶりには、畏怖心すら感じてしまいます。第2番、第3番はもちろん素晴らしいですが、1番や4番なども、とても良い曲に感じさせてくれます。この組曲の芸術的価値を最も高めている演奏かもしれません。最後に「G線上」の演奏が、うわべの綺麗さとはまるで無縁で感動的なことを記しておきます。
ラインハルト・ゲーベル指揮ムジカ・アンティクヮ・ケルン(1982、85年録音/アルヒーフ盤) 初めは82年に録音された第2番だけを聴きましたが、それまで聴いて来たこの曲とはまるで異なる新鮮さがとても気に入りました。楽器の響かせ方も含めて非常に室内楽的で、緻密なアーティキュレーションが実にスリリングだったからです。しかも表面的な印象は全く無く、バロック音楽と真剣勝負する真摯さに圧倒されたのです。その後、85年に録音された3曲もやはり同様に素晴らしい出来栄えです。ゲーベルという演奏家の底知れない凄さを感じてしまいます。彼らの「ブランデンブルク協奏曲」も素晴らしい演奏でしたが、この演奏もまた格別です。
トン・コープマン指揮アムステルダム・バロック管(1988年録音/RCA盤) 古楽器派としては非常にオーソドックスな演奏です。響きは古雅で美しく、安心して聴いていられます。ただし、逆に「古楽器による演奏」だということ以外には余り魅力を感じません。第2番の序曲や「G線上」などは、軽やかに通り抜けてしまうだけで、感動には程遠いように思います。それが「バロック音楽」というものなのであれば、僕はバロック音楽には縁遠い人間だということになるかもしれません。皆さんはどのように感じられるのでしょうね。
ということで、現代楽器では偉大な精神を感じさせるカザルス盤、古楽器ではゲーベル盤が気に入っています。
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