ブルックナー(交響曲第0番~3番)

2021年5月11日 (火)

ブルックナー 交響曲第3番 クリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルハーモニー CD新盤

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クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2020年11月27ー29日録音/SONY盤)

ウィーン・フィルとブルックナーの全曲演奏、CD録音プロジェクトを開始したティーレマンの第8番に続く第二弾は第3交響曲です。ウィーン、ムジークフェラインザールにおけるウィーン・フィル定期演奏会でのライヴ・レコーディングとのことです。

何しろ第8番が自分の中ではクナッパ―ツブッシュ、シューリヒトに並んでベストスリーに入れたくなるほどの名演でしたので、今回も期待は大きかったです。

で、聴いてみましたが、実は期待が大き過ぎたのか、第一印象は「今一つ」の感想を持ちました。それは楽譜に第2稿(1887年版)を使用していることが理由では無いでしょう。恐らくは録音の音造りに起因するような気がしました。これはライブ収録ですが、極めてホールトーン的な音で、それも会場の後方座席で聴くような感じに聞こえます。ですので各楽器の音が遠く、生々しさに不足します。もっともそれは、全体の音を丸く柔らかくブレンドさせる効果もありますので、必ずしも悪いこととは言えません。たぶん元々の演奏自体が一音一音を際立たせるような表現では無いので、それが音造りと二重に重なり合って「まったりした」印象になったのでは無いでしょうか。

ですので「こんなはずではないのだが。。」と半信半疑で二度目を聴いてみると、音造りに耳が慣れたせいか、最初よりも印象が向上しました。特に第二楽章の後半から第三楽章、終楽章では管弦楽の響きの美しさとスケールの大きさに惹き付けられてゆきました。同じ第2稿を使ったクーベリックやハイティンクよりも響きの美しさは優りますし、最終稿を使ったベームには演奏の彫りの深さこそ及びませんが、それでもベーム盤は金管楽器が幾らか金属的に感じられないことも無いので、その点でもティーレマン盤には好感が持てます。

やはりこれは第3番のマイ・フェイヴァリット盤に仲間入りします。特に第2稿のディスクとしてはベストです。

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ブルックナー 交響曲第8番 ティーレマン/ウィーン・フィルの新盤

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2013年5月28日 (火)

ブルックナー 交響曲第3番 ザンデルリング/ロイヤル・コンセルトへボウ管のライブ盤

81hjtilpfpl__aa1500_クルト・ザンデルリンク指揮ロイヤル・コンセルトへボウ管(1996年録音/コンセルトへボウ管弦楽団アンソロジー第6集1990-2000より)

ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団による自主制作CDについては、クラウス・テンシュテットのマーラー交響曲第5番の演奏をご紹介しましたが、このセットには興味をそそられる録音が目白押しです。そこで今回は、その第2弾としてクルト・ザンデルリングの指揮したブルックナー交響曲第3番をご紹介します。

ブル3といえば、ザンデルリング・ファンには1963年にライプチッヒ・ゲヴァントハウス管を指揮した録音が隠れ名盤として余りにも有名です。(じゃ”隠れ”では無いだろって?それもそうですね。) コンヴィチュニー時代のゲヴァントハウス管の武骨な音をそのまま生かしたスケール大で豪快な演奏でした。それから33年後の演奏と言うことですが、名門コンセルトへボウが相手とあれば期待に胸が膨らみます。

第1楽章はコンセルトへボウの美音を生かした厚みのある響きを醸し出しています。フォルテで音が固くならず、ふくよかな響きが非常に心地良いです。柔らかく歌う弦楽の美しさも旧盤を凌ぎます。反面、音の凝縮が幾らか弱い印象を感じ、旧盤での緊張感は減衰しています。これはライブという条件のせいかもしれません。

第2楽章の美しさは旧盤を大きく凌ぎます。コンセルトへボウの底光りするような響きは本当に美しいです。ヨッフムがこのオケと残した幾つかの名盤を思い出してしまいます。

第3楽章に入ると、音の集中力が高まってきた印象を受けます。けれども響きはあくまでも柔らかく、金属的な響きに陥ることが有りません。

第4楽章もまた同様で、迫力は有っても金管をむやみに強奏させないので響きが濁らず、音の美しさが失われません。ブラームスやブルックナーの演奏にはこの点が不可欠だと思いますが、多くの有名指揮者が過ちを犯すところです。中間部でゆったりと落ち着きを持って歌わせるのにも強く惹かれます。

決して枯れているわけではなく、生命力を充分に感じますが、全体的にゆとりと気宇の大きさを感じさせる正に大人のブルックナーという風情です。正に円熟のザンデルリングによる至芸の極みです。旧盤とどちらが好きかと問われれば、個人的には迷わず新盤と答えるでしょう。

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ブルックナー 交響曲第3番 名盤
ヘルベルト・ケーゲルのブルックナー交響曲第3番

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2010年5月28日 (金)

ヘルベルト・ケーゲルのブルックナー交響曲第3番

本当はマーラーの9番の記事を書くためにCDを順に聴き直しているのですが、中々進まないのでひとつ別の記事にします。

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ヘルベルト・ケーゲルは東ドイツで活躍した指揮者ですが、1990年にピストル自殺しました。自殺の原因は明らかでは無く、東西ドイツの統一後に仕事が減ったことに落胆しただとか、色々と言われてはいます。この人のレパートリーは意外に広く、ベートーヴェン、ブルックナー、マーラーといったドイツものだけでなくショスタコーヴィチからシベリウス、ビゼーまで、ジャンルも元々は合唱指揮者だけあってオペラなども得意としていました。実はケーゲルには熱烈なファンが多く、その人達にとってはほとんどが大変な名演とされています。僕はケーゲルを多くは聴いていませんが、残念ながらこれまで最高レベルに気に入った演奏は有りません。中ではマーラーの「大地の歌」が、例えれば『棺に体を半分収めたような』暗く重苦しい、ユニークで印象的な演奏でした。この人の録音はほとんどが、ライプチヒ放送響、もしくはドレスデン・フィルです。どちらのオケも超一流とは言いがたいので(ライプチヒ放送は、以前のアーベントロート時代には優秀でしたが)、どうも聞き劣りするのも正直なところです。そんなケーゲルが珍しく、名門ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を指揮してブルックナーの3番を演奏したCDが有ります(1986年録音/WEITBRICK盤)。これを最近聴いてみたのですが、中々に良いのです。なんといっても純ドイツ的で無骨な音色を残したゲヴァントハウス管そのものに惹かれます。けれども、そのオケの響きを生かしてブルックナーの魅力を引き出したケーゲルも素晴らしいと思います。繊細であっても神経質にならず、スケールの大きさはあっても騒々しくならず、ほぼ理想のブルックナーです。さすがにクナッパーツブッシュのような風格は感じませんけれども、とても素晴らしい演奏だと思います。以前に、第3番の記事を書きましたが、録音の良い演奏では特別に気入ったものが無いので、これは僕のベスト盤のひとつに上げられるかもしれません。そうなると自ら命を絶たずに、ゲヴァントハウスやシュターツカペレ・ドレスデンのように優秀なオケともっと録音を残して欲しかったと思います。

<過去記事>「ブルックナー交響曲第3番 名盤」

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2010年1月 3日 (日)

ブルックナー 交響曲第3番ニ短調 名盤

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早いもので新年三が日も今日で終わり、明日からはまた仕事です。今年も頑張りましょう!

さてニューイヤーの「新世界より」で中断したブルックナー&マーラー特集でしたが、ブルックナーの第3番から再開です。ブルックナーの交響曲は第3番から第6番までが中期と呼べるでしょうが、その中での最高峰が第5番というのは誰もが認めるところです。けれども、この第3番も中々に人気があります。楽想の豊かさでは第4、第6を凌ぐかもしれません。

この曲は初稿がワーグナーに捧げられた為に「ワーグナー交響曲」の愛称で呼ばれます。実際に初稿(1873年版)ではワーグナーの旋律が引用されていました。しかしこの初稿はオーケストラから「演奏不能」と言われて初演が行われませんでした。そこでブルックナーは楽譜に手を加えて第2稿(1877年版)を書き上げます。その際にはワーグナーの旋律の引用を大幅に削除しました。ところが演奏会は成功には至りませんでした。
結局ブルックナーは晩年に再び改定を行って第3稿(1889年版)を完成させます。ワーグナーの引用は全て省かれて、晩年の雰囲気を持つ箇所が増えました。その為に何となく統一感に欠ける印象も受けるものの、全体としてはすっきりとまとまりの良いものと成りました。やはりとても美しくチャーミングな作品です。一般的にはこの第3稿が最終稿として広く演奏されています。

ちなみに初稿によるCDも発売されていて、原点を知るという点で貴重かつ面白いのですが、個人的には一度聴いたらそれで充分と言う気がします。むしろ第2稿の方が、晩年に手を加えられてないないだけに、最終稿に対して存在価値が有ると思います。

第1楽章<中庸の速さで躍動的に> 弦のトレモロに乗って吹き鳴らされるトランペットで始まり、スケール大きく響き渡るトゥッティとなる楽想は中期の魅力で一杯です。後期の曲ほどに深刻でないので理屈抜きに楽しめますが、反面深さに欠けるのはやむを得ません。頻発する二連と三連音符の組み合わさった美しい動機は典型的なブルックナーの楽曲です。

第2楽章<アダージョ・クワジ・アンダンテ> アダージョですが、後期と違って幸福感を湛えた明るさが有ります。自然や神への祈りをも感じるとても美しい楽曲です。

第3楽章<スケルツオ> 初期の曲よりも段違いに充実しています。激しいリズムの主部に対比されるトリオのゆったりとした舞曲は明るく素朴で何とも魅力的です。

第4楽章<フィナーレ・アレグロ> 急速で厳しい響きの第1主題が終わると、明るいヴァイオリンの伴奏に乗って荘重なコラールが歌われます。この部分も大変にチャーミングで、初中期ならではという感じです。終結部は例によって壮大に鳴り響いて感動的なエンディングとなります。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

Brucci00010 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1954年録音/DECCA盤) 昔から宇野功芳先生が推薦している有名な演奏です。僕も学生時代にLP盤を購入してよく聴きました。モノラル録音にしては良好な音質で昔のウイーン・フィルの陶酔感溢れる美音がこぼれ落ちるようですが、現在となってはやはり音質への不満が無いわけではありません。第1~3楽章まではクナにしては速めのテンポで進めていて緊張感も有って良いのですが、第4楽章に緊張感が不足するのが大きなマイナスです。後述のライブ盤の凄演を知っているファンにとってはこの"ゆるい"スタジオ録音盤に満足するのはちょっと難しいと思います。

Bru899 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1960年録音/Altus盤) 楽友協会大ホールでのライブ録音です。演奏だけを取ればDECCAの54年盤よりも格段に優れた出来栄えです。ウイーンフィルの甘くこぼれるような美音と晩年のクナのスケールの大きさを兼ね備えた理想的な演奏だからです。第1楽章の二連/三連主題の弦の柔らかさはDECCA盤以上ですし、トゥッティの緊張感を持つ響きには凄みすら感じさせます。但し問題はマスタリングで、中音部の抜けた高音強調型の音がキンキンうるさいことです。データを見るとエンジニアが巷で悪評の高いアイヒンガー&クラウスとあります。これでは貴重な音源の発掘価値がぶち壊しというもので非常に残念です。 

Burukunacci00011 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮北ドイツ放送響(1962年録音/Music&Arts盤) 晩年のハンブルクでのライブ録音です。音質が非常に良いのが嬉しいです。60年盤と違って中低音がぶ厚い録音(マスタリング)なので、クナのスケールの大きさが充分に感じられます。第1楽章の前半では遅いテンポに緊張感がまだ付いていきていませんが、後半は緊張感が増してスケール壮大となります。第2楽章もたっぷりとして良いのですが、ウイーン・フィルの柔らかく魅惑的な表情と比べると聞き劣りがします。第3楽章は一転して厳しく豪快なリズムが素晴らしいです。音楽がオケに合っているのでしょう。終楽章も同様で遅いテンポで巨大な音楽となっています。コラールも非常にゆったりとして懐かしさを感じさせて素晴らしいです。

91ih6m1lil_ac_sl1500_ ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ミュンヘン・フィル(1964年録音/イタリア・メモリーズ盤)  この演奏は音楽プロデューサーの中野雄先生が実際にお聴きになられたコンサートとのことで、著述もされています。曰く「地鳴りのような響きの記憶は鮮明に耳の奥に残っている」です。最初に聴いたゴールデン・メロドラム盤は音質が余りに貧弱なので手放しましたが、その後に出たメモリーズ盤の6CDセットは鑑賞に耐えます。いずれ正規録音盤のリリースに期待はしますが、それまではこれで充分です。クナのこのミュンヘンでのラストコンサートは中野先生の記憶が全くその通りであろうことが良く判ります。この最晩年のクナの3番はウイーンでの1960年盤と並ぶかそれを越えるものである気がします。

0021512bc クルト・ザンデルリンク指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1963年録音/Berlin classics盤) かつてゲヴァントハウスの首席指揮者を務めたコンヴィチュニーがブルックナーの5番、7番に名盤を残していますが、これは彼が他界した翌年の録音です。ですのでオケの響きがコンヴィチュニー時代そのままの質実剛健で古色蒼然としたものです。ウイーンスタイルの柔らかさは有りませんが、素朴で下手な味付けの無い音色に逆に惹かれます。それでも第1楽章の二連/三連部分などは弦もとてもよく歌っています。若きザンデルリンクの豪快さも凄いですが、個人的な好みでは少々音を鳴らし過ぎで、管の強奏がやや耳につきます。第2楽章の弦の素朴な音色は良いですが、盛り上がりのカロリーは中々高めです。第3楽章は速めのテンポで実に豪快ですが、トリオではゆったりと歌っています。第4楽章はじっくりとやや遅めのテンポですが迫力は満点。後年のザンデルリンクのスタイルを感じさせます。クナ以外では最も豪快な演奏と言えるでしょう。但しコラールはゆったりと魅力的です。

Bruchcci00010 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1965年録音/EMI盤) 同じウイーン・フィルを振ってもクナの豪傑型のスタイルとは全然異って実にスッキリと端正な演奏です。初期の曲という点ではシューリヒトの方が正統的なのではないかと思ったりもします。シューリヒトが同じEMIに残した8番、9番と比べると出来栄えは落ちるかもしれませんが、これも60年代のウイーン・フィルの美感を捉えた名演だと思います。トゥッティになっても音の柔らかさと張りを兼ね備えていて実に素晴らしいです。第2楽章の純粋な美しさも非常に印象的ですし、第3楽章の良い意味で"軽み"の有るリズムも素晴らしいです。第4楽章は少しもうるさくならずに徐々に高揚してゆく辺りは流石にシューリヒトの匠の技です。録音は古めですが、僕の持っているドイツプレス盤はしっとりとした音でさして不満は感じません。

230065299 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1966年録音/CBS SONY盤) アメリカの団体の演奏するブルックナーにはとんと興味が無かったのですが、結構好きなファンが居るようなので、試しに聴いてみました。確かにカッチリと優れたアンサンブルで、これが古典派なら良いのかもしれませんが、後期ロマン派には不向きという印象です。マルチマイクによる録音で各パートの分離が良過ぎることもそう感じさせる要因の一つです。楽しく伸びやかに演奏して欲しい箇所でも解放感が感じられません。従って余り繰り返し聴きたいとは思いません。第8番がカップリングされていますが、そちらの方が上出来です。

41z9svllqklカール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1970年録音/DECCA盤) この演奏は昔聴いた時には金管の音が金属的に感じられて余り良い印象は有りませんでしたが、いま改めて聴くとやはり素晴らしい演奏です。ベームの引き出す厳しく引き締まった響きは音楽の穏やかさや陶酔感を遠ざけるものの、造形感や構築力が見事で、音楽が立派に聞こえることこの上もありません。とても迫力が有りますが荒さは感じません。ウイーン・フィルの音の美しさ、繊細さを生かしながら豪快さと両立をさせていて聴き応え充分の名演奏です。

71x8jyc3ql_ac_sl1100_ クラウス・テンシュテット指揮バイエルン放送響(1976年録音/Profile盤) テンシュテットが世に広く知られ始めた時期の録音ですが、バイエルン放送響とのミュンヘンでのライブが残されたのは嬉しいです。ブルックナーに適性を持つオーケストラの音を得て、非常に充実感に溢れた演奏となっています。マエストロの迸るエナジーは時にブルックナーの音楽をはみ出しますが、第3番に関しては特に後半の3,4楽章では荒れ狂うほどの迫力を持ちながらも、曲想と相まって違和感は全くありません。スケール大きく広がり、ずしりとした手応えの有る理想のブルックナー演奏だと言えます。録音も明晰さと柔らかさ、そして臨場感に溢れたバランスの優れた音質です。

Bruckner-image-2 オイゲン・ヨッフム指揮ドレスデン国立歌劇場管(1977年録音/EMI盤) 当時の同じ東ドイツの楽団としてゲヴァントハウスを聴いた後に聴くと、いかにもふっくらと柔らかい音に感じます。と言ってもウイーンの洗練された艶っぽさとは異なるずっと素朴な音です。トゥッティでの溶け合った美しい響きには法悦感さえ感じます。ゲヴァントハウスでは残念ながらこういう感覚は得られません。但し70年代のヨッフムの指揮はスケールが大きい訳ではなく、第1楽章の最後などはややアッチェレランド気味なのでスケールは小さくなります。第2楽章以降はヨッフムがことさら何かをしている訳ではなくオケの美しい響きに任せているという印象です。ですので聴いている時にはとても心地が良いのですが、聴き終えた後にそれほど強い印象は残りません。写真の全集盤(オランダ盤)は中低域の音が厚く、本来のドレスデンらしい音なので満足しています。

Bru951 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) ドイツ音楽を得意にするクーベリックだった割にはブルックナーのスタジオ録音は僅かにSONYへの3番、4番のみでした。これは大変に残念な事です。遅めのテンポでゆったりとスケール大きくオケを響かせますが、弦と管が上手くブレンドさせて美しく、トゥッティでもうるさくなることが有りません。ミュンヘン・フィルといいバイエルン放送といい南ドイツのオケは本当にブルックナーに適正を感じます。唯一気に入らないのは4楽章のコラール部分のヴァイオリン伴奏です。少々ぶっきらぼうでいじらしさに欠けている気がします。この演奏では第2稿(エーザー校訂版)が使われているのが貴重です。クーベリックには他に70年のライブ録音(Audite)も有りますがそちらは未聴です。

Brucknersymphonie3wsmataciccoverロブロ・フォン・マタチッチ指揮ウイーン響(1982年録音/METEOR盤) 海賊盤ですが上げておきたいと思います。マタチッチの第3にセッション録音は有りませんが、このMETEOR盤の他にはBBCレーベルから出たフィルハーモニア管との1983年ライブ盤が有ります。この1982年盤は録音もまずまずですし、ウイーン響の音にはしなやかさが有って中々に良いです。マタチッチですので豪快さとおおらかさを兼ね備えて余り神経質にならないのはこの曲には好ましいです。ライブ特有の演奏の傷は散見されますが気になるほどでは無いですし、何よりマタチッチの演奏を聴けるだけでも有難いです。

Bruckner71lp1ko6byl__sl1429_ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送響(1985年録音/Profile盤) ヴァントのブルックナーは出来不出来が少なく常に高次元を保っていると思いますが、この演奏からは意外に感銘を受けませんでした。大きな理由としては金管のハーモニーがそれほど美しく感じられないからです。かといってクナッパーツブッシュのライブのような豪快な迫力も有りません。実演で聴けばともかく、CDで聴く分にはライヴ録音のデメリットが出てしまったようです。同じ北ドイツ放送響とのライヴに1992年録音(RCA盤)も有って自分は未聴ですが、そちらのほうが恐らく出来映えは良いのではないでしょうか。

Bur3_kegel ヘルベルト・ケーゲル指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1986年録音/WEITBRICK盤) 東ドイツで活躍したケーゲルですが、1990年にピストル自殺する4年前の録音です。ケーゲルが珍しく、名門ゲヴァントハウス管を指揮したブルックナーで、なんといっても純ドイツ的で無骨な音色を残したゲヴァントハウス管そのものに惹かれます。そのオケの響きを生かしてブルックナーの魅力を引き出したケーゲルも素晴らしいです。繊細であっても神経質にならず、スケールの大きさはあっても騒々しくならず、ほぼ理想のブルックナーです。ですのでマエストロには自ら命を絶たずに、このような優秀なオケともっと録音を残して欲しかったです。(更に詳細は下記の<関連記事>を参照のこと)

Chli_bru3 セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1987年録音/EMI盤) クナッパーツブッシュやクレンペラーのテンポの「遅さ」が凄いと感じるのは、通常早い部分で遅くなるからです。元々遅い部分では驚くほど遅くはないのです。ところが晩年のチェリビダッケの場合は、元々遅い部分が更に遅くなります。それで聴いていて息が詰まってしまうのです。この3番の演奏も典型的な晩年のスタイルです。スケールの大きさを感じるよりも、聴き通すのに長さを感じてしまいます。この演奏に関しては、ミュンヘン・フィルの響きも特別に美しいとも思えません。

514hng6cotl_ac_ ベルナルト・ハイティンク指揮ウィーン・フィル(1988年録音/フィリップス盤) ハイティンクがウィーン・フィルと録音した何曲かのブルックナーは一口で言うと金管楽器が煩く感じられて好みでは無いのですが、この3番もやはり同傾向にあります。オーケストラは良く鳴っていますが、響きが単なる”音響的”で感動を覚えません。加えて本来魅力的なはずの弦楽器も歌わせ方が一本調子です。一見すると大きな欠点の無い良い演奏に聞こえるかもしれませんが、自分にとっては聴きどころのない凡演に感じられます。ただしこの演奏は第2稿を使用していて、その点では存在価値を感じます。

410b5j59mml_ac_ 朝比奈隆指揮大阪フィル(1993年録音/ポニーキャニオン盤) 朝比奈さんのブルックナーの実演を初めて聴いたのは、この曲で、1970年代のことでした。それは動的な活力に満ちて野趣に溢れた演奏で大変魅了されました。一方でこの録音は円熟期に入った時代のセッション録音です。評論家の故・宇野功芳氏が常に推薦盤に上げて絶賛したのは有名ですが、しかし現在あらためて聴いてみると、他の世界の優れたオーケストラの録音と比べると、技量が少々痛々しく感じられます。不安定な管楽器、音の弱さ、アンサンブルの不揃いと色々と有るので、朝比奈さんの指揮の魅力ではカバー仕切れません。他の曲の録音も含めて、このコンビはやはり実演で聴くのが幸せだったと思います。

81hjtilpfpl__aa1500_ クルト・ザンデルリンク指揮ロイヤル・コンセルトへボウ管(1996年録音/コンセルトへボウ管弦楽団アンソロジー) これはコンセルトへボウ管による自主制作CD「コンセルトへボウ管弦楽団アンソロジー第6集1990-2000」に収められる演奏です。前述の1963年のゲヴァントハウス管盤が名演でしたが、その33年後の録音です。1楽章からこのオケの美音を生かした厚みのある響きを醸し出しています。フォルテで音が固くならず、ふくよかな響きが非常に心地良いです。柔らかく歌う弦楽の美しさも旧盤を凌ぎます。反面、音の凝縮が幾らか弱い印象を感じ、旧盤での緊張感は減衰しています。2楽章の美しさは旧盤を大きく上回ります。底光りするような響きが本当に美しいです。3楽章、4楽章と集中力が高まり、迫力が増しますが、金管をむやみに強奏させないので響きが濁らず、響きが柔らかく美しいです。ゆとりと気宇の大きさを感じさせる正に大人のブルックナーという風情です。(更に詳細は<関連記事>を参照のこと)

71vatdnej8l_ac_sl1000_ クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン放送響(2001年録音/WEITBLICK盤) これはザンデルリンク最晩年の録音で、いかに第3番を好んでいたがが分かります。レーグナー時代に名録音を数多く残した旧東独のこの楽団から、非常に美しい響きを醸し出しています。フォルテでも金管を咆哮させるようなことはありません。ふくよかで柔らかい音からのみブルックナーの法悦の響きは生まれます。マエストロのとるテンポは全体的に非常に遅く、演奏時間的にはチェリビダッケ以上です。ところがザンデルリンクの演奏では決して息苦しくなることが有りません。音楽がどこまでも深まるだけです。この人はブラームスの演奏に関しては「神様」ですが、ブルックナーも3番の他に晩年に残した4番、7番はいずれも神様級の素晴らしさでした。

Bruckner-3-71rptih0zl_ac_sl1200_ワレリー・ゲルギエフ指揮ミュンヘン・フィル(2017年録音/ワーナークラシックス盤)ブルックナーの聖地リンツの聖フローリアン修道院で2017年から3年かけて交響曲の全曲演奏と録音が成し遂げられました。過去に層々たるブルックナー指揮者たちが指揮台へ上がったこの楽団にはブルックナーの響きが沁みついています。修道院の長い残響の美しさは有名です。ゲルギエフは最初の年に1番、3番、4番を演奏しました。後期の作品はごく自然体ですが、初期の曲では幾らか表現意欲を感じさせます。それが不自然なことは無く、逆に初期作品の幾らかの物足りなさを補う結果をもたらしています。この曲も震えるほどに美しくロマンティックで心から魅了されます。全集盤も出ています。

71t9t66jsil_ac_sl1500__20211127184801 クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル(2020年録音/SONY盤) ティーレマンのウィーン・フィルとのブルックナー全曲CDプロジェクトの第二弾で、ウィーンでのライヴです。極めてホールトーン的な録音なので、各楽器の音が遠く、生々しさに不足します。もっともそれは、全体の音を丸く柔らかくブレンドさせる効果もありますので、必ずしも悪いことではありません。特に第二楽章の後半から第三楽章、終楽章では管弦楽の響きの美しさに惹き付けられます。金管楽器が少しも金属的に感じられ無いのも非常に好感が持てます。第2稿(ノヴァーク版)が使われているのは貴重です。(更に詳細は<関連記事>を参照のこと)

第3番は、個人的に一番楽しめるのはクナッパーツブッシュのウィーン・フィルとの1960年ライブ盤、それにミュンヘン・フィルとの1964年盤なのですが、録音が余り良く有りません。そこで録音の良いディスクからは、ベーム/ウィーン・フィル盤、テンシュテット/バイエルン放送響盤、ザンデルリンク/ベルリン放送響盤、ゲルギエフ/ミュンヘン・フィル盤の4つを上げたいと思います。

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2009年12月19日 (土)

ブルックナー 交響曲第2番ハ短調 名盤

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「第0番」「第1番」「第2番」の3曲がブルックナーの初期の交響曲です。中期から後期の作品のあの深遠な世界に魅入られてファンになった(入信した?)人達にとっては初期の作品もまた大変味わい深い作品群です。これらを聴いて初めてブルックナー鑑賞の最終段階と言えるでしょう。ですが逆に初期作品から聴き始めると音楽の持つ魅力を理解する前に退屈してしまう恐れがあります。ですのでこれからブルックナーを聴いてみようかと思われる方には、中後期の「7番」辺りから聴き始めて「3番」「4番」「5番」「8番」「9番」と順に制覇して頂くことをお薦めします。

初期の3曲の中では、やはり最後の「第2番」の出来栄えが優れています。中には中期の「第3番」「第4番」よりも好む方もいらっしゃるのでは無いでしょうか。第1楽章モデラートは、さながら心を弾ませてアルプスの野山を散策しているような雰囲気です。遠くの雄大な山々を眺めてみたり、足元に咲く花々に目を留めたり、爽やかな空気を吸ったりと、大自然の美しさを満喫できます。第2楽章アンダンテも同様なのですが、更にゆったりとした曲想でずっと瞑想的です。第3楽章スケルツオは、いかにも初期のブルックナー的な野趣に溢れたとても楽しい曲です。そして第4楽章フィナーレは非常にスケールが大きく、心が沸き立つような楽章です。この楽章だけは初めて聴く方でも即座に魅了されることでしょう。

それでは、僕の愛聴盤をご紹介します。後期の曲に比べると普段聴く回数がずっと少ないので所有するCDは限られています。

Bru_yoh02 オイゲン・ヨッフム指揮バイエルン放送響(1968年録音/グラモフォン盤) ヨッフムの一度目の全集はベルリン・フィルとバイエルン放送響とを曲によって振り分けていますが、音の傾向からするとバイエルン放送響のほうがブルックナーには適していると思います。オーストリアに最も近く、アルプス山脈の麓と言っても良いミュンヘンの楽団は昔からブルックナーが得意です。恐らくはドイツの国の中でもオーストリアと気質が似ているのと、素朴で明るい音が適しているのだと思います。この演奏はそんな特色が生かされた素晴らしい演奏です。曲の隅々までデリカシーに溢れて美しいですし、3、4楽章の切れの良さも最高です。現在は分売もされているので、これ1枚でこの曲を楽しむのにも何ら不足は有りません。

Bru_holst ホルスト・シュタイン指揮ウイーン・フィル(1973年録音/DECCA盤) シュタインはわが国のN響を何度も指揮しましたのでオールドファンには良く知られるドイツ正統派ですが、僕はこれまで特別感動した演奏を聴いたことが有りません。全て中の中レベルどまりでした。とは言え、この演奏はウイーン・フィルを指揮したブルックナーなので期待は高まります。ところが第1楽章は早めのテンポにどうも忙しなさを感じてしまいますし、響きも少々うるさい感じです。第2楽章はさすがにウイーン・フィルで美しいですが、第3、第4楽章になると切れの良い力演であるものの、やはり全体的にうるささを感じます。なお、この演奏はハース版ですが、ノヴァーク原典版の方が良いと思います。

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カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウイーン響(1974年録音/TESTAMENT盤:EMI原盤) 後年のジュリー二の極端に遅いテンポで粘りつくような演奏とはだいぶ異なります。非常に良く歌わせていますが、決してもたれることは有りません。ウィーン響の音もとても美しく、トゥッティでうるさくならないのも良いです。流麗なカンタービレは正にジュリーニ調ですが、明るい表情がややイタリア的?に感じられる気もします。3、4楽章はスケールは非常に大きいですが、音楽の厳しさという点ではやはりヨッフムのほうが優る印象です。全体的にはとても美しく良い演奏だと思います。

Bruckner-image-2 オイゲン・ヨッフム指揮ドレスデン歌劇場管(1980年録音/EMI盤) ヨッフム二度目の全集への録音ですが、バイエルン放送盤の名演をも更に上回る最高の出来栄えです。基本的な表現は同じですし、どちらのオケも魅力的なので1、2楽章では甲乙が付け難いですが、3楽章は新盤の方が幾分遅いテンポでスケールの大きいことがプラスです。後期の曲的な演奏と言えるでしょう。逆に終楽章ではテンポを速めて緊迫感が増していて、思わず惹きこまれます。これはブルックナーの指定の"速く"を徹底した結果です。僕はこの演奏を第2番のベスト盤にしたいのですが、海外EMI盤の廉価BoxセットはArtリマスターであり、高音が強調されているためにドレスデンの音らしからぬ響きに聞こえます。そこで旧盤(オランダ盤)に買い換えたところ、中低域の音がずっと厚くなり、本来のドレスデンらしい音になって非常に満足しています。

Bru_scro02 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキー指揮ザールブリュッケン放送響(1999年録音/ARTE NOVA盤) スクロヴァチェフスキーの演奏も非常に魅力的です。この人のブルックナーの中でも特に優れた1枚ではないでしょうか。スタイルとしてはヨッフムの旧盤に似ています。1、2楽章はとても美しいですし、スケルツォや終楽章の切れの良さもヨッフムに比べても遜色が有りません。ザールブリュッケン放送響も中々に優れたオケですし、音色に素朴さを失わないのがプラスです。これは廉価盤ですが録音も優秀ですし、このCDだけでも曲の魅力を充分に味わうことが出来ると思います。

71le5dvv0l_ac_sl1200_ リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィル(2016年録音/グラモフォン盤) ザルツブルク音楽祭におけるムーティの75歳の誕生日を記念した演奏会のライブです。さすがに現在のウィーン・フィルはライブでも抜群に上手く美しさの限りです。ムーティは往年のブルックナー指揮者のような威厳は有りませんが、1楽章などは恰幅の良さも持ちながら、自然体で力みのない指揮ぶりが心地好いです。元々そういう要素の強い音楽ですので相応しいと言えます。2楽章の美しさも最高です。終楽章では途中からライブの高揚感がじわじわと増してゆき最後には非常に力強く終わります。ウィーン・フィルの美しい音を明瞭に捉えた録音も素晴らしいです。ヨッフム盤と肩を並べる名盤だと思います。

Bruckner-2-91vp1ftdgl_ac_sl1500_ ワレリー・ゲルギエフ指揮ミュンヘン・フィル(2018年録音/ワーナークラシックス盤) ブルックナーの聖地リンツの聖フローリアン修道院で2017年から3年かけて交響曲の全曲演奏と録音が成し遂げられました。過去に層々たるブルックナー指揮者たちが指揮台へ上がったこの楽団にはブルックナーの響きが沁みついています。修道院の長い残響の美しさは有名です。1楽章は速めのテンポでサクサクと足取りを進め、若々しさを感じます。対旋律は明確に処理されて、各部の表情がとても豊かです。2楽章は美しく、奥深さも感じさせます。3、4楽章はやたら煽らずに落ち着きが有り、底光りするような美しさと魅力が有ります。全集盤も出ています。

Bruckner-81dhcrsyqql_ac_sl1500_ クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル(2019年録音/SONY盤) ウィーン・フィルとの全曲チクルスの一つです。1楽章は比較的あっさりと流していますが、がっちりとしたドイツ的な音ではなく、やはりオーストリア的なのどかさが感じられます。対旋律の意味深さは秀逸です。2楽章アンダンテも同様です。それが3楽章スケルツォでは適度なキレの良さが快感です。中間部の美しさも流石はウィーン・フィルです。終楽章では更にスケールの大きな恰幅の良さが非常に聴き応え有ります。ウィーン・フィルの響きも正にブルックナーの為に有るかの様な素晴らしさで、豪快さと美しさが刻々と入れ替わる妙が最高です。録音は素晴らしい響きのウイーンのムジークフェラインザールで聴いているような臨場感が有ります。 過去のヨッフム、ムーティ盤に迫る名盤がまた登場しました。

<補足>ムーティ/ウィーン・フィル盤、ゲルギエフ/ミュンヘン・フィル盤、ティーレマン/ウィーン・フィル盤を追記しました。

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2009年12月14日 (月)

ブルックナー 交響曲第0番二短調 名盤

Bruckner アントン・ブルックナーの交響曲には第1番から9番の他にもへ短調交響曲と第0番が存在します。このうちのヘ短調は全くの習作ですが、第0番のほうは少々ややこしいのです。この曲に着手したのは第1番よりも以前ですが、完成したのは実は第1番よりも後だというのが現在の定説です。ですがブルックナー自身は2番の名称を与えることなく0番としました。その理由は分かりませんが、ちょっと可哀相な作品です。ですので一昔前には交響曲全集にも含まれませんでしたし、単独でも録音がされることは滅多に有りませんでした。けれども最近は全集に含まれるケースが増えましたし、コアなファンの間では結構聴かれています。

ブルックナー・ファンにとってはこの曲からアルプスの山々の美しさや悠久の自然を感じ取る事は難しく有りません。第1楽章アレグロは少々変化に乏しく長ったるく感じないでも有りません。しかし第2楽章アンダンテは非常に美しい曲ですし、第3楽章スケルツオも素朴で野趣を感じるあたりは初期の作品としてよく出来ています。第4楽章モデラートはバロック的な対位法による旋律の絡みが主体の曲ですが、初期作品とはいえ音楽はとても立派です。

とはいえ、第1番、第2番と比べれば、魅力は及ばないというのが正直なところで、滅多に聴くことはありません。ですので所有CDも僅かに1種類だけなのですが、それをご紹介します。

Buru0 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮ザール・ブリュッケン放送響(1999年録音/ARTE NOVA盤) ブルックナー指揮者には大きく分けてクナッパーツブッシュ、マタチッチ、ヨッフム、朝比奈などに代表される細部にこだわらない無手勝流豪快型と、細部を彫琢して積み重ねていくシューリヒトやヴァントに代表される職人型の二つのタイプが有ると思います。スクロヴァチェフスキは完全に後者の職人型です。但しシューリヒトやヴァントは職人として100%完成の域に到達しましたが、スクロヴァチェフスキは2人と比べてしまうとせいぜい90%というところでしょうか。何年か前にこの人がN響定期で振った8番を聴いてなかなか感心しましたが、後期の曲の場合には更なる高みを望んでしまいます。

とはいえザール・ブリュッケン放送響と残した全集の中でも初期の曲については、非常に満足のできるレベルです。初期の曲を後期の曲のように巨大に演奏するのも一つのやり方ですが、その曲の等身大の大きさの演奏というのもリファレンスとして貴重だと思います。そういう点でスクロヴァチェフスキ盤は安心して曲を楽しむ事が出来ます。ザールブリュッケン放送響は技術的にも問題は有りませんし、この曲に名演奏を残してくれた事を喜びたいと思います。

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2009年11月24日 (火)

ブルックナー 交響曲第1番ハ短調 名盤

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アントン・ブルックナーはオーストリアのリンツにある聖フローリアン教会でオルガニストを勤めていました。敬虔なカトリック信者である彼は自らの作品を神様に捧げようとしたのです。このことだけでも彼が随分浮世離れした人物であったことが分ります。彼の作品の中心は交響曲と宗教曲ですが、一般に人気の有るのは何と言っても一連の交響曲作品です。よく彼の作品は「オルガン的」と言われますが、それは単に管弦楽の響きの方法論であって、決して音楽の本質では有りません。本質は、浮世(俗世間)を離れた、あたかも自然界や宇宙界、森羅万象の世界を想像させる、およそ他のいかなる作曲家とも異なる独自のものです。けれども、このような音楽というのは、自然や季節の移り変わりや"もののあはれ"を理解する日本人にとっては感覚的に案外受け入れ易いと思います。ですので日本には本国ドイツ、オーストリア以上にブルックナー・ファンが大勢居ます。数年前迄は朝比奈隆やギュンター・ヴァントというブルックナーを得意とする指揮者が現役でしたので、ブルックナー・ファン達も非常に賑やかでしたが、最近は少々沈静化してしまった感が有ります。巨匠の時代の終わりと共に、ブルックナー演奏の時代も区切りが付いてしまったとすれば大変残念な事です。

ブルックナーの交響曲には第1番から未完成で終わった9番迄の作品の他にも、第0番、習作の第00番が有ります。近年は全集盤に0番と00番が入るものも増えています。ところで僕はブルックナーは大好きですが、全ての交響曲を万遍無く聴いている訳でも有りません。愛聴していると言えるのは後期の大曲である5番、7番、8番、9番ぐらいです。次いでは3番、4番、6番でしょうか。1番、2番ももちろん好きですが、普段はほとんど聴きません。ところが熱烈なブルックナーファンは初期の0、1、2番も愛好しますし、8番、9番あたりの曲は、あらゆる録音を全て聴くという人も決して珍しくは有りません。事実知り合いの中にも存在します。そういう意味では自分は熱烈なブルックナーファンとは言えないかもしれません。

交響曲第1番は1868年にブルックナー自身の指揮で初演されました。マーラーの第1番の初演が1889年ですので、先んじること21年です。規律正しくいかにも独欧系の音楽という風情で進行する第1楽章アレグロ、オーストリアの美しい自然を想わせる第2楽章アダージョ、野趣に溢れた第3楽章スケルツオ、激しく高揚する第4楽章フィナーレと、いずれも魅力的です。ブルックナーファンにとっては無条件で楽しめます。しかしファン以外が聴いて楽しめるかというと果たしてどうでしょうか。正直よく分かりません。これからブルックナーを聴かれるという方は、まず先に3、4、5、7、8、9番を聴かれた後からでも遅くないと思います。

この曲は普段聴く事が無いので所有するCDの種類もごく限られてはいますが、ご紹介しておきます。

41kqn94kz0l__ss500_ オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル(1965年録音/グラモフォン盤) ヨッフムはブルックナーを非常に得意にしていた名指揮者です。特に晩年の幾つかのライブ録音はいずれも最上のブルックナーでした。この1番はグラモフォンでの最初の交響曲全集の中の録音で、宇野功芳先生が昔から絶賛している演奏です。ベルリン・フィルがフルトヴェングラー時代のドイツ的な音色をかろうじて残している時期の録音なので嬉しいです。元々パワフルなオケが音楽を踏み外さずに、力強く、かつ美しく響かせているのはやはりヨッフムの実力だと思います。終楽章などは実に見事です。アダージョの美感やスケルツオの切れの良いリズム感などにも惚れ惚れします。

Bruckner-image-2 オイゲン・ヨッフム指揮ドレスデン国立歌劇場管(1978年録音/EMI盤) グラモフォン盤に続いて二度目の全集の中の録音です。完全無欠のベルリン・フィル盤に対して、ドレスデン盤はどこかアンサンブルにスキが有るような気がします。それはオケの持つ性格も有るのかもしれません。宇野先生などはベルリン盤の方が上と言われています。ところが僕はドレスデン盤にも大いに惹かれます。聴きようによってはややメカニカルな音に聞こえるベルリン・フィルよりも、音に素朴さが有るドレスデンの方が聴いていて心地よいのです。録音も透明感の有るグラモフォンに対して、こちらは東独エテルナ録音なので中声部が厚く感じられます。どちらか片方を選んでも問題は有りませんし、両方を聴かれればもちろん更に良いと思います。写真の全集盤(オランダ盤)は中低域の音が厚く、本来のドレスデンらしい音なので非常に満足しています。

Bruckner-1-71pymmadixl_ac_sl1200_ ブルックナーの聖地リンツの聖フローリアン修道院で2017年から3年かけて交響曲の全曲演奏と録音が成し遂げられました。過去に層々たるブルックナー指揮者たちが指揮台へ上がったこの楽団にはブルックナーの響きが沁みついています。修道院の長い残響の美しさは有名です。1楽章を落ちついた歩みで開始され、力みが皆無です。凛とした空気感が素晴らしく、改定前のリンツ稿の使用でありながら、中期作品のような余裕と貫禄を感じさせます。これを聴けばゲルギエフがブルックナーを正統的なスタイルで掌中に収めていることが直ぐに分ります。全集盤も出ています。

これ以外ですと、アバドがウィーン・フィルと新旧二度の録音をしていますし、ヴァント、スクロヴァチェフスキー辺りも無難なところだとは思います。但し僕は聴いていません。

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