シューマン(交響曲)

2024年7月22日 (月)

シューマン 交響曲全集 ~名盤~

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シューマンの音楽の魅力と言えば、後期ロマン派のような派手さの無い、本当に浪漫的な佇まいの中に幸福感だけでなく、焦燥感や孤独感などが混然一体となった音楽であることだと思っています。「渾然一体」というのは大事な点で、それが音そのものにも言えるからです。ですので北でも南でもないドイツ中部の響きこそがシューマンに最もしっくり来ます。
個人的にはシューマンの最もシューマンらしい魅力はピアノ曲に有るとは思いますが、歌曲や室内楽、そして管弦楽作品からも充分に感じ取ることが出来ます。4曲の交響曲については、これまで鑑賞記を曲毎に上げていましたが、それを改めて全集盤として上げてみました。

Cci00034_20240722104801 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/Berlin Classics) ゲヴァントハウスの管楽器と弦楽器とが美しく一体化した音は正に伝統的なドイツの響きで、特にこの当時の古風な音は大きな魅力です。コンヴィチュニーの指揮も全体的にゆったりとしたテンポで少しもせせこましさを感じさせない堂々と立派な構えが、いかにもドイツの頑固親父を想わせるカぺルマイスターぶりです。4番などはロマンティックな雰囲気にやや不足する気はしますが、どの曲にも深い味わいが有ります。録音は古くなりましたが年代的には優れます。

Schumann-295 ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィル(1964年録音/グラモフォン盤) クーベリックの一度目の全集です。当時のベルリンPOの暗く重いドイツ的な音色と高い合奏能力、それに管楽器の個々の上手さが大変魅力です。ただし全体的にクーベリックの解釈には後述するバイエルン放送響との二度目の録音ほどの円熟味は有りません。従って全集としてはバイエルン放送盤を取りたいです。曲毎では2番、4番辺りが優れると思います。録音は古くは成りましたが悪くは無いです。

Schumann-41nzqngtwfl_ac_ ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮シュターツカぺレ・ドレスデン(1972年録音/EMI盤) シュターツカペレ・ドレスデンの全盛期の音は特別です。柔らかく厚みが有り、いぶし銀の響きが最高だからです。サヴァリッシュの指揮はテンポ感が非常に良く、生命力と重厚さが両立していて中でも3番の演奏が特に優れています。健康的な明るさは1番でも生かされていますが、4番ではややマイナスに働いています。EMIと東独エテルナとの共同制作だった為に響きの素晴らしさを捉えた名録音で、アナログ盤では最高でしたがCDではその魅力が充分に伝わるとは言い難いのが残念です。

Schumann-s-81ixrm7eifl_ac_sl1500_ クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1973年録音/シャルプラッテン盤) コンヴィチュニーからゲヴァントハウスの音楽監督を引き継いだマズアは生真面目な指揮者ですが、大抵の演奏はテンポも表情も変えることなく曲を進めるのに退屈してしまいます。この全集でもその印象はそのままなのですが、4曲の中では第2番、第4番が比較的楽しめます。ゲヴァントハウスの古風でいて堅牢なドイツ的な響きはとても魅力です。録音は年代相応と言う感じです。 

231_20240722105201 ズービン・メータ指揮ウィーン・フィル(1976-81年録音/DECCA盤) 録音当時のメータは本当に勢いに乗っていました。どの曲でも生き生きとして切れの良いリズムによる躍動感が素晴らしく、旋律のしなやかな歌わせ方も抜群です。ウィーン・フィルは弦楽も管楽もその上手さに加えて音がとにかく美しく、トゥッティでは透明感が有りながらも薄さは無く、極上の響きを味わえます。それにはDECCAの優れた録音も大きく貢献しています。全体としては暗さよりも明るさが勝る印象の為、曲毎では1番、3番辺りが特に優れていると思います。 

Cci00034b_20240722104801 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) クーベリックは上述の1960年代初めのベルリン・フィルとの旧録音(DG盤)にも良さが有りますが、個人的には解釈がより熟したこのニ度目の録音の方を好みます。1番や4番などでは全ての部分がベストの出来映えとは言えませんが、どの曲も総じて優れた演奏だと思います。オーケストラの優秀さも言うまでも有りません。ほの暗いロマンの香りやシューマネスクな味も良く出ています。さほど近代的ではない、ふくよかで柔らかい南独的な音色もそれはそれで楽曲に適しています。比較的地味ですが良い全集です。 

Schumann-715er3xdltl_ac_sl1054_ ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1981-84年録音/フィリップス盤) どの曲でもハイティンクらしい自然体で地味な指揮ぶりですが、元々地味で誠実、効果を狙うようなところのないシューマンの音楽には適しています。作品にしっかりとした重みを与えて、繰り返し聴くほどに味わいが滲み出て来ます。4曲ともムラの無い仕上がりです。何と言っても名門コンセルトヘボウの演奏の上手さと音色が素晴らしく、魅力的なシューマンの響きはSKドレスデンと並び立ちます。所有するのはDECCAからの再リリース全集ですが、フィリップスらしく柔らかく厚みの有る優れた録音です。

Schumann-s-028945304922 レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル(1984-85年録音/グラモフォン盤) ライブ録音による全集盤なので、どの演奏にもレニーらしい高揚感が感じられます。1番は緩急とディナーミクの幅が大きく、造形感がやや失われた感も有りますが、濃厚なロマンティックさや表情の多彩な変化が楽しめます。2番はレニーが好んで演奏しただけあり、非常に説得力と聴き応えを感じます。3番、4番も重々しさと彫の深さが有り、ウィーン・フィルの音の魅力も大きく貢献していて素晴らしい全集です。録音も優れます。

Schuman_vonk_654_20240722104801 ハンス・フォンク指揮ケルン放送響(1992年録音/EMI盤) ケルンの大聖堂に象徴されるように、この古都の楽団の暗めの響きはいかにもドイツ的で、シューマンにはとても適しています。もちろんアンサンブルも優れます。フォンクは何度か難病を乗り越えて活動して来た人なので、指揮ぶりも誠実極まりなく、姑息な演奏効果を狙ったりせずに全体をゆったりと陰影を生かした表現で仕上げているのが素晴らしいです。地味な存在ですが、録音も優れますし強くお勧め出来る全集盤です。 

7310sqqwqs195512 ジョゼッぺ・シノーポリ指揮シュターツカぺレ・ドレスデン(1992-93年録音/グラモフォン盤) やはりSKドレスデンのシューマンの古雅な響きは魅力的です。となると、どうしてもサヴァリッシュ盤との比較となりますが、速めのテンポでキレ良く躍動感に溢れるサヴァリッシュに対して、シノーポリの方が幾らかゆったり気味でスケール感が有り、堂々とした印象です。管楽器などのソロの質の高さではサヴァリッシュの録音時のメンバーの方が上なのですが、録音の質の差というよりもリマスターの結果としてシノーポリ盤の方がCDの音は圧倒的に優れます。 

Schumann-s-m44045296582_1 リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィル(1993-95年録音/フィリップス盤) 同じウィーン・フィルの演奏でもフィリップスによる録音の為か、メータのDECCA盤、レニーのDG盤よりもずっと柔らかく地味な響きに感じられます。シューマンとしてはこの方が「らしい」かもしれません。全体的には幾らか速めのテンポで流れてゆきますが、極端なほどではありません。この人がイタリアものを演奏する時とは完全に違うのはやはりウィーンで勉強した影響もあるのでしょうか。各曲の楽章ごとに出来栄えに幾らか凸凹があるものの、トータルでは優れます。 

Cci00036_20240722104801 クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1998-99年録音/RCA盤) 北ドイツ放送響の実際の生音は、ずっしりと厚みの有る暗い響きでいかにも北ドイツ的です。それがシューマンの音楽にはよく適します。エッシェンバッハもまた現代では珍しいくらいに暗い情念を持つ人で同質性を感じます。演奏には1番の1楽章のように速いテンポで幾らか肩透かしをくらった印象を受ける場合も有りますが、2番の様に暗い響きと沈滞した雰囲気が音楽にぴったりの曲も有ります。全体としてはユニークでいてシューマンの本質を突いた優れた全集だと思います。

Schumann-s-628 ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン(2003年録音/テルデック盤)バレンボイムは1970年代にシカゴ響と、2021年にはSKベルリンと全曲録音を行っていますが、これはその中間の二度目の録音です。最も充実していた時代の演奏なので、全体は活力が有り恰幅の良さが魅力的です。どの曲でもゆったりと管弦楽のほの暗く厚みの有るドイツ的な響きを生かして何とも魅力的です。管楽器と弦楽器の溶け合い具合が素晴らしく、シューマンの音として秀逸です。この響きを守れたこともバレンボイムの名門歌劇場での長期政権が揺るがなかった理由の一つでしょう。録音も優れます。 

Schumann-s-190759434123 クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカぺレ・ドレスデン(2018年録音/SONY盤) 来日した際にサントリーホールで行われた全交響曲チクルスのライブ録音です。どの曲もティーレマンらしい遅めのテンポで重量感のある演奏が魅力的ですが、何と言っても管弦楽の響きが魅力です。会場で聴く生音はさぞや素晴らしかったと想像しますし、SONYによる録音は幾らかスッキリとし過ぎであるものの、あのドイツ的なドレスデンサウンドをほぼ忠実に捉えている印象を受けます。曲別では2番、3番の演奏が特に優れると思います。 

はて、こうして全集盤を並べてみても、決定盤を絞ることは難しいです。以前ならサヴァリッシュ盤を選びましたが、今と成ってはリマスターの音がマイナスです。そこでドレスデン・サウンドを味わいたいならシノーポリ、ティーレマン盤が優位です。ただし同格かそれ以上の素晴らしさはハイティンク/コンセルトヘボウ盤です。
しかし結局は各曲のお気に入りをその時の気分に応じて聴くのが一番かと。なんだ、全集盤の比較の意味が無い?? 

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2019年12月11日 (水)

シューマン 交響曲第2番 名盤 ~苦難から歓喜へ~

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シューマンの交響曲でポピュラーなのは1、3、4番です。それは、どの曲にもシューマンらしいロマンティックで美しいメロディラインが沢山盛り込まれていて親しみ易いからでしょう。それに比べると2番は少々趣が異なり、短い動機や経過句ばかりが目立ち、明確なメロディラインが余り登場しません。そのことが一般的な人気の無さに繋がっているのだと思います。

しかし、この作品がつまらないか、というとそんなことは無く、逆にマニア好みの秀作です。特に第3楽章の悲劇的で美しい曲想には抗し難い魅力が有ります。その深々とした雰囲気に浸っていると、何となくブルックナーのアダージョでも聴いているな気分にもなります。2番は日本では演奏会で余り取り上げられませんが、ヨーロッパではむしろ2番と3番の演奏機会が多いのだそうです。ジョージ・セルのように明らかに2番を多く取り上げるマエストロも存在します。

一方で第2楽章のような難所も有ります。延々と続くヴァイオリンのスピッカートはシューマンのソナタや室内楽にもしばしば見られますが、大編成でこれを要求されると優秀なオーケストラでないと音がゴチャゴチャに聞こえてしまいます。それもまたマニアの耳を楽しませるのかもしれませんが。

シューマンはこの曲を既に精神疾患に悩まされていた1845年末から約1年間を費やして作曲しましたが、その間にも幻聴や耳鳴りのために作曲を一時中断し、双極性障害の症状も現れるようになっていました。しかし完成したこの曲の終楽章の輝かしさを耳にすると、苦難と危機を克服して書き上げることが出来た“歓喜の歌“にも思えます。

さて、それでは愛聴盤をご紹介してみたいと思います。

51hiagsyixl__ac_ ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1957年録音/ERMITAGE盤) 2番を好んで演奏したセルには全集盤が有りますが、これはマニアには知られたルガーノでのライブ録音です。さすがと言うか、実演でもクリーヴランドの鉄壁の合奏力は揺らぎなく、切れの良さと緊迫感が素晴らしいです。難を言えば金管楽器の音色が明晰過ぎてシューマン特有のくすんだ響きからは遠い点です。

Cci00034 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/Berlin Classics盤) シューマンゆかりのライプチヒのゲヴァントハウス管の演奏です。60年代初頭当時のこの楽団の古風な音色が魅力です。弦楽の厳格な弾き方は旧東ドイツ特有のものです。コンヴィチュニーの指揮はややゆっくり目に感じますが堂々と立派なもので現代のスマートな演奏とは一線を画します。聴くほどにじわじわと味わいの増す好きな演奏です。写真の全集盤に含まれます。

Schumann-295 ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィル(1964年録音/グラモフォン盤) クーベリックの一度目の録音です。1楽章はゆったりと開始され、主部に入っても慌てずにつづら織りを丁寧に紡いでゆく雰囲気に惹かれます。2楽章のベルリンPOの精妙なアンサンブルは流石です。3楽章ではその管弦楽の暗い響きが曲想に適していて素晴らしいです。終楽章では合奏能力の高さがとても聴き応え有ります。録音は古くは成りましたが悪くは無いです。

91tjgjdkunl__ac_sl1500_ ジョージ・セル指揮ベルリン・フィル(1969年録音/Testament盤) セルにはもう一つライブ録音が有り、ベルリン・フィルへの客演と興味深いものです。しかしこの時の演奏は非常に素晴らしいです。クリーヴランドのそれと比べてもアンサンブルは遜色なく、しかもドイツ的にブレンドされたまろやかな響きが大変に魅力的です。録音がそれほどパリッとしない分、逆にアナログ的な印象を受けて聴いているうちに全く気にならなくなります。

  Schumann-41nzqngtwfl_ac_ ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立歌劇場管(1972年録音/EMI盤) シュターツカペレ・ドレスデンの全盛期の音は柔らかく厚みが有り、いぶし銀の響きが最高です。EMIと東独エテルナとの共同制作の録音がそれを忠実に捉えていて、CDでもそれなりに味わえます。演奏はことさら劇的に聴かせることは無く極めてオーソドックスで、全集の中では余り目立ちませんが、やはり良い演奏です。写真の全集盤に含まれます。

Schumann-s-81ixrm7eifl_ac_sl1500_ クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1973年録音/シャルプラッテン盤) ゲヴァントハウスの音楽監督をコンヴィチュニーから引き継いだマズアは”真面目”の前に”くそ”を付けたいほどで、演奏はテンポも表情も変えることなく曲を進めるので退屈でした。ところが元々地味なこの曲ではその生真面目さが逆に姑息な演出効果を狙った演奏よりも心に訴えかけて来ます。じわりじわりと高まる高揚感が有ります。ゲヴァントハウスの古風でドイツ的な堅牢で暗い響きも魅力です。写真の全集盤に含まれます。

Cci00034b ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) 1楽章はゆったりと開始され、主部に入っても極端に速くならないので一見地味な印象を受けます。けれども曲の細部のニュアンスの変化を上手くつけているあたりは上述のベルリンPOとの旧盤と同様です。オーケストラの柔らかく美しい音も魅力的で、元々晦渋さを持つこの曲をことさら分かり易く大袈裟に演奏していないのが、むしろ本質に迫る結果に繋がっています。写真の全集盤に含まれます。

231 ズービン・メータ指揮ウイーン・フィル(1981年録音/DECCA盤) DECCAの録音が捉えたウイーン・フィルの音がとにかく美しく、透明感が有りながらも薄さは無く、極上の響きを味わえます。メータの指揮は健康的で躍動感が有りますが、オケを適度に歌わせていて魅力的です。3楽章では静かに深く沈み込んで行く雰囲気を十全に醸し出しています。但し全集の中では1番、3番当たりの方が出来は良いように思います。写真の全集盤に含まれます。

Schumann-715er3xdltl_ac_sl1054_ ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1984年録音/フィリップス盤) ハイティンクらしい自然体で地味な指揮ぶりなので、この曲をこれから親しもうという人には向かないかもしれません。けれども、作品にはじっかりとした重みを与えて、繰り返し聴くほどに味わいが滲み出て来ます。とにかくコンセルトヘボウの演奏と音が素晴らしく、これほど魅力的なシューマンの響きは滅多に聴けません。DECCAから再リリースされましたが、フィリップスらしく柔らかく厚みの有る優れた録音です。所有するのは写真の全集盤です。

Schumann-028945304922 レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1985年録音/グラモフォン盤) バーンスタインもまた第2番を好んで演奏した一人です。ロマンティシズムに溢れ、緩急とディナーミクの振幅の幅の大きな表現です。3楽章など一瞬マーラーかと思うほどです。その為に古典的な造形感は失われていて、聴き手の好みは分かれるかもしれませんが、ウイーン・フィルの気迫あふれる力演は説得力が有り、非常に聴き応えを感じます。写真の全集盤に含まれます。

Schuman_vonk_654 ハンス・フォンク指揮ケルン放送響(1992年録音/EMI盤) ケルンの大聖堂に象徴されるのか、この古都の楽団の暗めの響きはいかにもドイツ的で、この曲にはとても適しています。フォンクの指揮も誠実極まりなく、演奏効果を狙ったりせずに、全体をゆったりと陰影を生かした表現でまとめ上げていて、とても素晴らしいです。録音も優れます。

Iimg1200x10681536227310sqqwqs195512 ジョゼッぺ・シノーポリ指揮シュターツカぺレ・ドレスデン(1993年録音/グラモフォン盤) 同じSKドレスデンの演奏でも、サヴァリッシュよりもゆったり気味でスケール感が増していて堂々とした印象です。管楽器などのソロの質の高さではサヴァリッシュの録音の時のメンバーの方が上なのですが、流石に20年の差は大きく、こちらは録音の優秀さでカバーしています。写真の全集盤に含まれます。

M44045296582_1 リッカルド・ムーティ指揮ウイーン・フィル(1995年録音/フィリップス盤) 颯爽としたテンポで駆け抜けるいかにもムーティらしい生命力のある演奏です。全体的にアンサンブルが非常に優れますが、それでいてメカニカルに感じないのは流石はウイーン・フィルです。また3楽章には深い味わいを感じさせます。それにはウイーン・フィルの美音を十全に捉えた録音も大きく貢献していると思います。写真の全集盤に含まれます。

Cci00036 クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1998-9年録音/RCA盤) 北ドイツ放送響の厚みの有る暗い響きがシューマンの音楽にぴったりです。おまけにエッシェンバッハの指揮がじっくりとした構えでそれに輪をかけます。三楽章の悲劇的な雰囲気はバーンスタインに並びますが、どこまでも沈滞した感じが最高です。終楽章でさえ決して開放的では無く、暗さを感じさせるのがユニークです。この人の全集盤の中でも最も優れていると思います。

Schumann-s-628 ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン(2003年録音/テルデック盤) バレンボイムとしては1970年代のシカゴ響に続く二度目の全集録音に含まれます。ちなみにSKベルリンとは2021年にも再録音を行っていますが、これは最も充実していた時代の演奏なので、全体は活力が有り、ディナーミクにメリハリが効いています。この楽団のほの暗く厚みの有るドイツ的な響きはシューマンの楽曲の雰囲気を醸し出すのに大きく貢献しています。

190759434123 クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカぺレ・ドレスデン(2018年録音/SONY盤) 来日の際にサントリーホールで行われた全曲チクルスのライブ録音です。後期ロマン派的な重厚感のあるスタイルで、会場で聴く生演奏は素晴らしかったと想像しますが、こうしてCD化されてみると歴代の層々たる名盤にはやや聴き劣りしてしまいます。とはいえ4曲の中ではこの演奏が最も気に入っています。

以上、中々の名演奏が並びますが、個人的には最もユニークかつ聴きごたえの有るエッシェンバッハ盤がお気に入りです。次点としてはハイティンク盤、バーンスタイン盤というところでしょうか。

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2011年4月 9日 (土)

シューマン 交響曲第1番「春」変ロ長調op.38 ~春への祈り~

朝晩はまだ幾らか肌寒く感じますが、昼間はだいぶ暖かくなり、東京では桜が満開となりました。例年であれば春満喫というところですが、今年は未曽有の大災害が起きてしまい、亡くなられた大勢の方や、いまだに被災地で困窮生活を送られている方々のことを思うと非常に心が痛み、とても心の底から春の喜びを感じることは出来ません。きっと同じような心境の方は多いのではないでしょうか。

昨年の春にはこのブログで、ベートーヴェンの「スプリング・ソナタ」を取り上げました。いかにも春を迎えた喜びに満ち溢れた曲です。他にも春を題材にした音楽は、メンデルスゾーンの「春の歌」や、ヨハン・シュトラウスの「春の声」と、多く有りますが、ほとんどの曲は春の喜びが一杯の明るい曲です。そんな中で少々趣が異なるのが、シューマンの交響曲弟1番「春」です。

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この曲のどこが趣きを異にするかと言えば、明るいだけでは無く、暗さを感じさせる部分が案外多いからです。

シューマンは、この交響曲第1番を初めは「春の交響曲」と呼んでいました。各楽章にも春に関連したタイトルを付けていましたが、それは後で削除してしまいました。それでもシューマンは、この曲の初演者であるメンデルスゾーンに宛てた手紙の中で、第1楽章について「春の訪れを表現している」と記したそうです。確かに音楽にそのようなイメージを感じます。けれども途中途中で幾度も気持ちの翳りを感じさせます。第2楽章ラルゲットも美しいですが、とても寂しい雰囲気が有ります。更に第3楽章スケルツォでの気持ちの重さは一体何なのでしょう。とても春には思えません。第4楽章ではようやく晴れやかな気分を感じさせますが、それでも北ドイツ的な控えめな明るさで、南ドイツのような開放的な明るさとは異なります。

この曲は、明るい陽の光りの下で春の訪れを喜ぶ人が居る一方で、その同じ時間にも世界のどこかには病気に苦しむ人や、命を落としている人が居るのだと言う複雑な気持ちを表現しているように思えてなりません。春だというのに決して底抜けに明るくなれないのが、いかにもロベルトなのだと思います。タイトルに惑わされて、この曲を明るいだけの曲と捉えては大きな間違いです。正にシューマネスクな曲なのです。

実はこの曲のシューマンの自筆譜では、冒頭のトランペットとホルンによるファンファーレが現在の楽譜よりも三度低く書かれていました。ところが当時のバルブ無しの楽器では演奏が難しいことから、初演時にメンデルスゾーンの助言によってシューマンは現在の音に書き変えました。その後、更に改定を加えましたが、現在一般的に使われているのはその改定版のほうです。この自筆譜は改定版に比べると響きが非常に暗く感じます。シューマンは元々はこの曲に随分暗い音をイメージしていたのです。ですので、この曲を理解するためには自筆譜初稿版による演奏も是非聴いておく必要が有ります。

この曲は1841年に、そのメンデルスゾーンが指揮するライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によって初演されました。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

Furtwangler_schu_franck ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1951年録音/ロンドン盤) ミュンヘンのドイツ博物館のホールでのライブ録音です。この曲の持つデモーニッシュな面を表現した演奏です。導入部の暗い雰囲気に驚きますが、主部に入ると生命力に溢れます。けれども堂々とした重さを失いません。テンポの揺れやルバートが頻繁に現れますが、少しも不自然にならずにスムーズに流れるのは流石です。2楽章の深いロマンも素晴らしいですし、3楽章の重量感には圧倒されます。終楽章もやはり重さと暗い情熱の有る演奏でシューマネスクなことこの上ありません。残念なのは、録音年代の割に音が余り良くないことです。フルトヴェングラーのシューマンと言うと4番ばかりが評価されますが、録音さえ良ければこの1番ももっと評価されてしかるべしです。

Cci00034 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/BerlinClassics盤) 何と言っても初演を行なったゲヴァントハウスの演奏です。管楽器と弦楽器とが美しく一体化した音は正に伝統的なドイツの響きです。60年代初頭当時の古風な音がたまらない魅力です。コンヴィチュニーは融通の利かない頑固親父のような指揮ぶりで、少しもせせこましさを感じさせない堂々と立派な構えが、いかにも往年のカぺルマイスターです。う~ん、これぞドイツ!写真の全集盤に含まれます。

Schumann-295 ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィル(1963年録音/グラモフォン盤) クーベリックの一度目の録音です。1楽章の主部に入ると闊達に進みますが、その割に高揚感はいま一つです。2楽章は当時のベルリンPOの音色の為か暗く沈んだ印象です。3楽章はその暗い響きの割には重々しさに欠けます。終楽章はいたってオードソックスで整ってはいますが覇気が無く、シューマネスクな味わいも含めて物足りません。全体として印象に残らない演奏です。録音は悪くは無いです。

Schumann-41nzqngtwfl_ac_ ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立歌劇場管(1972年録音/EMI盤) シュターツカペレ・ドレスデンの全盛期の音は特別です。柔らかく厚みが有り、いぶし銀の響きが最高だからです。当時の録音は余り評判の良くないことが多かったEMIですが、これは東独エテルナとの共同制作だった為に、響きの素晴らしさを損なわない名録音です。サヴァリッシュの指揮は速いテンポで生命力に溢れ、春の息吹を感じさせますが、リズムが前のめりにコケることは決してありません。写真の全集盤に含まれます。

Schumann-s-81ixrm7eifl_ac_sl1500_ クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1973年録音/シャルプラッテン盤) ゲヴァントハウスの音楽監督をコンヴィチュニーから引き継いだマズアは”真面目”の前に”くそ”が付きました。それが言い過ぎなら”生”にしておきましょう。熱くならず、テンポも表情も変えることなく曲を進める指揮は実演でも退屈でした。この曲の春の息吹も陽光の陰影も表わすことなくあっさりとしたものです。ゲヴァントハウスの純ドイツ的な暗く厚い響きだけが唯一の魅力です。写真の全集盤に含まれます。

Schumann-028945304922_20240715121901 ズービン・メータ指揮ウィーン・フィル(1976年録音/DECCA盤) 1楽章の生き生きとしたリズムによる躍動感が素晴らしいです。2楽章では一転してウィーン・フィルの美しい音と歌わせ方が魅力的です。3楽章は重々しさと切れの良さの切り替えが上手いです。終楽章もまたリズムが生きているのとシューマンらしい愉悦感が楽しいです。DECCA による録音は透明感が有り、美しい響きを味わえます。所有するのは写真の全集盤です。

Cci00034b ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) 導入部がゆったりと開始されたかと思うと、主部は速めのテンポで闊達になります。曲の各部の気分による変化を明確につけているのは良いのですが、幾らか小賢しさを感じないでもありません。オケのふくよかで柔らかい音は魅力的で、この曲に適しています。うるさいことを言わなければ中々に良い演奏だと思います。クーベリックとしても上述したベルリンPOとの旧盤よりも、この再録盤のほうを好みます。写真の全集盤に含まれます。

Schumann-715er3xdltl_ac_sl1054_ ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1983年録音/フィリップス盤) ハイティンクらしい中庸で自然体の指揮ぶりですが、ここでは誠実な楽曲をそのまま生かす演奏ながらも、じっくりとした手応えと重みが有り、ちょっとしたテンポの加減が味わいを深めています。その魅力を更に増してているのがコンセルトヘボウの素晴らしい演奏と音色です。ドイツの楽団以外でこれほど魅力的なシューマンの響きはまず聴けません。現在はDECCAから再リリースされていますが、フィリップスらしい柔らかく厚みの有る優秀録音です。所有するのは写真の全集盤です。

Schumann-s-028945304922 レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 1楽章は重々しく開始したかと思うと、その後の緩急とディナーミクの振幅の幅が非常に大きく極端で、古典的な造形感が失われた感が有ります。聴いていて何だか落ち着きません。2楽章も美音の割には余り深く沁みて来ません。3楽章は濃厚なロマンティックさが魅力です。終楽章は速めですが表情の刻々とした変化が楽しめます。所有するのは写真の全集盤です。

Cci00035 オトマール・スイトナー指揮ベルリン国立歌劇場管(1986年録音/DENON盤) これはシューマン自筆の初稿譜による演奏です。まず冒頭のファンファーレ部分から、普段聴き慣れた曲との違いに驚かされます。けれどもこの音こそがシューマンの元々のイメージなのですね。スイトナーの指揮は、全体的にゆったりしたテンポでシューマンの持つ音楽の暗い陰りの側面を忠実に感じさせてくれます。SKベルリンの持つ深く柔らかい響きも実に魅力的で惹きつけられます。この演奏は必ず聴いておく必要が有ります。

Schuman_vonk_654 ハンス・フォンク指揮ケルン放送響(1992年録音/EMI盤) ケルンの大聖堂を想わせるような響きです(なんて陳腐な言い方??)。ふくよかで目の詰んだ響きがいかにもドイツ的で、シューマンの音楽に適しています。フォンクの指揮も全体にゆったりと陰影を生かした表現で中々に素晴らしいです。終楽章の彫の深いリズムと表情も秀逸です。フォンクの残した全集には中々の名演が揃っています。

Schumann-s-1200x10681536227310sqqwqs1955 ジョゼッぺ・シノーポリ指揮ドレスデン国立管(1993年録音/グラモフォン盤) ウィーン・フィルのシューマンも良いですが、やはりSKドレスデンのシューマンの古雅な響きは魅力的です。となると、どうしてもサヴァリッシュ盤との比較となりますが、1楽章はシノーポリの方が幾らかゆったり気味で落ちついています。2楽章は淡々としていますが味わいを感じます。3楽章は古典的な造形感が見事です。終楽章はテンポが遅めなのでシューマンの屈折した気分が感じられます。録音は優れます。所有するのは写真の全集盤です。

Schumann-s-m44045296582_1 リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィル(1993年録音/フィリップス盤) 1楽章導入部は意外なほど遅く堂々としていますが、主部に入っても決して速過ぎません。同じウィーン・フィルでもフィリップス録音の為か、メータのDECCA盤、レニーのDG盤よりもずっと柔らかく地味な響きに感じられます。シューマンとしてはこの方が「らしい」かもしれません。2楽章のほの暗さを湛えた歌にも共感を覚えます。3楽章、終楽章はムーティにしては大人しいですが適度な重さは良いと思います。所有するのは写真の全集盤です。

Cci00036 クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1999年録音/RCA盤) 実演で聴く北ドイツ放送響の音は、ずっしりと厚みの有る暗い響きでいかにも北ドイツ的です。それがシューマンの音楽にはよく似合います。エッシェンバッハも現代では珍しいくらいに暗い情念を持つ人ですが、この曲の1楽章は意外に早いテンポで闊達です。3楽章、4楽章もそれほど重くはなりません。期待が大きい分、エッシェンバッハにしてはこの演奏は幾らか肩透かしをくらった印象無きにしもあらずです。写真の全集盤に含まれます。

Schumann-s-628 ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン(2003年録音/テルデック盤)バレンボイムは1970年代にシカゴ響と、2021年にはSKベルリンと全曲録音を行っていますが、これはその中間の二度目の録音です。1楽章のゆったりと恰幅の良い演奏に惹かれますが、管弦楽のほの暗く厚みの有るドイツ的な響きが何とも魅力的です。管楽器と弦楽器の溶け合い具合が素晴らしく、やはりシューマンはこの音だなぁと納得。3楽章、終楽章も遅めのテンポで重量感が有ります。所有するのは写真の全集盤です。

Schumann-s-190759434123 クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカぺレ・ドレスデン(2018年録音/SONY盤) 来日した際にサントリーホールで行われた全交響曲チクルスのライブ録音です。ティーレマンらしい遅めのテンポで重量感のある演奏が魅力的ですが、終楽章ではテンポを揺らして非常に楽しませてくれます。会場で聴く生の響きはさぞや素晴らしかったと想像しますし、SONYによる録音は幾らかスッキリとし過ぎであるものの、あのドイツ的なドレスデンサウンドをほぼ忠実に捉えている印象を受けます。写真の全集盤に含まれます。

以上の演奏は、どれも魅力的なのですが、SKドレスデンのドイツ的な響きを堪能できるサヴァリッシュ盤、シノーポリ盤、ティーレマン盤はどれも素晴らしいです。同じドイツの名門SKベルリンのバレンボイム盤やハイティンク/コンセルトヘボウ盤も捨てがたいですが、初稿版のスイトナー盤も必聴です。
ウィーン・フィルではムーティ盤を取りますが、録音を度外視した演奏のみの魅力では、フルトヴェングラー盤が最高です。

今年の春には、この曲以上に相応しい曲は無いのではないでしょうか。被災に遭った東北地方には、早く本当に暖かな春が訪れることを心から祈ります。

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2009年11月 1日 (日)

シューマン 交響曲第4番ニ短調op.120 名盤 ~浪漫と幻想~ 

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シューマンは生涯に交響曲を4曲書きました。僕はそのうち第1番「春」や第2番もとても好きですが、第3番と第4番を特に好んでいます。第3番「ライン」については以前、j自分自身のドイツ・ライン地方への旅行記としてご紹介したことが有りました。
<旧記事>
シューマン 交響曲第3番「ライン」 ~ハルくんのラインへの旅~

そこで今回は第4番について書きます。この曲は最もシューマンらしいシンフォニーだと思います。シューマンの最大の特徴である「ロマン的で、幻想的」な要素が一番よく出ています。正にシューマネスクな作品です。この曲には「幻想的交響曲」とでも副題を付けたいところですが、ベルリオーズに先を越されてしまいましたからね。

それにしても、この曲は第1楽章の導入部から、なんとも幻想的です。ほの暗いロマンの香りが濃密に漂います。「生き生きと」と指示のある主部に入っても、危うい香りがそのまま続いて行きます。音楽の屈折した雰囲気は正にシューマンの本領発揮です。

第2楽章「ロマンス」は、タイトルどおりロマンの極みです。孤独感いっぱいに沈滞します。オーボエとチェロのユニゾンによる主題も美しいですが、中間部のロマンティックなヴァイオリン独奏もこたえられません。

第3楽章スケルツォにも「生き生きと」と指示が有りますが、まるで楽しい雰囲気にはほど遠い印象です。何か運命的な重みを感じずにはいられません。しかしこの楽章も極めて魅力的です。

第4楽章の遅い序奏部を終えると「生き生きと」と指示された主部が始まります。この楽章でようやく明るさを取り戻します。途中から始まる、付点付きリズムは「交響的練習曲」の終曲に代表されるシューマンのお得意のリズムです。

さて、僕の愛聴盤ですが、この曲にはフルトヴェングラーの歴史的名盤が有りますので、それを中心にご紹介したいと思います。

41zjc1rtd0l__ss500__2ヴイルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) フルトヴェングラーが亡くなる前の年の演奏です。「シューマンの4番と言えばフルトヴェングラー」と言われるぐらい有名な録音です。比類無いほどにロマン的で情熱的な演奏ですが、とにかく凄いのはオーケストラがまるで生き物のように自由自在。楽器の音が全くせずに音楽そのものしか感じさせません。この曲の1楽章は中間部がとても鳴りにくく、しばしば演奏に失望することが多いですが、フルトヴェングラーの場合は情熱が迸るように立派に鳴り渡ります。2楽章のロマンも最高。当時のベルリンフィルのコンサートマスター、ジークフリート・ボリスの奏でるヴァイオリン・ソロは甘いポルタメントを効かせて耳がとろけるようです。過去最高の演奏と言えるでしょう。4楽章も極めてドラマティックであり、中間部の付点リズムの生命力も他の指揮者とは次元が異なります。既に50年以上も昔の録音ですが、いまだに最高の演奏であり続けています。モノラル録音ですが、フルトヴェングラーの録音の中でも最も音質の良い一つなので鑑賞には全く差支え有りません。

61csek5ybyl_ac_sl1024_ ヴイルヘルム・フルトヴェングラー指揮ルツェルン祝祭管(1953年録音/audite盤) 上記のグラモフォン盤はセッション録音ですが、こちらは同じ年のルツェルン音楽祭でのライブ演奏です。以前TAHRAレーベルからもCD化されましたが、今回のaudite盤では音質がかなり向上しました。高域にひずみが聞かれますが、演奏は充分に楽しめます。しかし、録音の優秀なグラモフォン盤が有って、これがそれに並び立つだけの価値を持つかと言えば大きな疑問です。よほどのフルトヴェングラーマニアでなければ不要だという気がします。え、お前持ってるんだろ?って。はい。。。

Cci00034 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/BerlinClassics) ゲヴァントハウスの音が魅力的です。管楽器と弦楽器とが美しく一体にブレンドされたくすんだ響きは伝統的なドイツの音です。ここまで古風な音は現在ではちょっと聞けないと思います。コンヴィチュニーの指揮も同様にオーソドックスで良いです。けれども、この曲にしては少々落ち着き過ぎている気はします。2楽章はもっと強いロマンの香りが欲しいですし、3、4楽章は更に情熱の高ぶりを見せたほうが魅力が増したと思います。

4543638002245 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1962年録音/Altus盤) クナッパーツブッシュ/ウイーン・フィルのライブ盤はどうしても外せません。評論家の福嶋章恭さんが最高の演奏と述べておられる演奏です。確かに余りのスケールの大きさに度肝を抜かれますし、これはフルトヴェングラーに対抗し得る唯一の演奏だと思います。但し、クナ特有の大きな間の取り方や、時に最強奏する金管がまるでワーグナーを感じさせてしまい、シューマネスクな演奏という点ではやはりフルトヴェングラーのほうが上かなと感じるのです。これまでは海賊盤でしか聴くことができませんでしたが、Altusから正規録音盤がリリースされました。モノラルですが音質は極上の素晴らしさで、演奏の凄さが改めて認識されます。

Schumann-295 ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィル(1963年録音/グラモフォン盤) この演奏は昔LP盤で聴いていましたが、フルトヴェングラーの凄演に比べて緊張感のない演奏だと思っていました。しかし改めて聴き直せば中々に素晴らしいです。後述するバイエルンRSOとの新盤よりも演奏に流れの良さと勢いが有りますし、当時のベルリンPOがまだドイツ的な暗く重々しい音を残していたのが良いです。ただし、OIBPリマスターは余り成功しているとは思えません。その音の良さが少なからず失われています。

976 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1969年録音/オルフェオ盤) ベームには約10年後のグラモフォン盤も有りますが、これはザルツブルグでのライブ録音です。音質は年代相応ですが、幾らか高音に硬さを感じます。1960年代のベームにしては意外に解放感があり堅苦しさを感じません。ウイーン・フィルのしなやかな美しさも魅力です。シューマンの音楽に本来ベームの資質は合わないような気もしますが、ウイーン・フィルの音が中和させているように思います。終楽章の序奏で管のピッチが合わないのはご愛嬌ですが、続く主部のシューマン・リズムの味わいが忘れさせてくれます。

Schumann-41nzqngtwfl_ac_ ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立歌劇場管(1972年録音/EMI盤) 第3番「ライン」でも書きましたが、シュターツカペレ・ドレスデンの全盛期の響きを聴くことが出来る素晴らしい演奏です。柔らかくも厚みが有り、正に「いぶし銀」としか表現のしようの無い素晴らしい音です。ゲヴァントハウスを「野武士」の響きだとすれば、ドレスデンはさしずめ「大納言」の響きでしょうか。アナログ盤で聴く限りは、その響きを忠実に捉えた録音なのですが、CDで聴くことが出来るのはその50%と思ってください。サヴァリッシュは早めのテンポで若々しく新鮮な指揮ぶりで、ドレスデンの響きと融合して魅力的です。但しその反面、健康的過ぎるので、彼らの全集の中では1番や3番のほうが曲想に適していると思います。

Schumann-s-81ixrm7eifl_ac_sl1500_ クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1973年録音/シャルプラッテン盤) コンヴィチュニーからゲヴァントハウスの音楽監督を引き継いだマズアは”真面目”の前に”くそ”を付けたいほどで、大抵の演奏はテンポも表情も変えることなく曲を進めるので退屈します。この曲でも生真面目さはそのままですが、ゲヴァントハウスの古風な響きを生かして、いかにもドイツ的なシューマンを聴かせるのは良いです。1楽章は重厚さと推進力のバランスが良く、3楽章も堅牢なリズムが良いです。終楽章では更に高揚感が欲しかったです。写真の全集盤に含まれます。

Schumann-028945304922_20240715121901 ズービン・メータ指揮ウィーン・フィル(1976年録音/DECCA盤) 1楽章はウィーン・フィルの音色が実に美しく、メータの指揮にもしなやかさと躍動感が有って素晴らしいです。2楽章は暗さが不足しますが更に美しいです。3楽章は堂々とした重量感が魅力です。終楽章のテンポは決して速くは無いですが、リズムの切れの良さが心地良いです。その中にもシューマン特有の屈折感が感じられます。DECCAの録音は極上です。所有するのは写真の全集盤です。

Cci00034b ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) クーベリックは上述のベルリンPO盤が有りますが、このバイエルンとの新盤では円熟味が感じられる反面、流れの良さは幾らか失われました。1楽章はゆったり気味でスケール感は有るものの情熱の高まりに幾らか物足りなさを感じます。2楽章はほの暗いロマンの香りが味わえますし、3楽章は重々しく手応えが有ります。終楽章も付点リズムの処理にシューマネスクな味が良く出ていますし、徐々に高まっていく情熱が見事です。管と弦とが柔らかく混じり合った響きは魅力的です。

41thnp4da4l_ac_  クラウス・テンシュテット指揮ベルリン・フィル(1980年録音/EMI盤) シューマンの管弦楽には古雅でドイツ的な響きが良く似合いますが、カラヤンの手により音色の近代化が進んだベルリン・フィルの響きにはそういった音は求められません。けれどもテンシュテットの壮大でスケールの大きい重量級の指揮は、その響きに合っていて、大変聴き応えのある演奏となっています。響きは違えども、ここにはドイツ音楽のロマンと精神がしっかりと残されています。個人的にはこの人にベルリン・フィルのカラヤンの後継者となって欲しかったです。

Schumann-715er3xdltl_ac_sl1054_ ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1981年録音/フィリップス盤) ハイティンクの指揮は常に中庸で、この演奏もごく自然体です。それはそれで良いのですが、同時に音楽の含蓄の乏しさも露呈しています。それを補うのがコンセルトヘボウの素晴らしい演奏と音色です。ドイツの楽団以外でこれほど魅力的なシューマンの響きは聴けません。現在はDECCAから再リリースされていて、幾らか音のエッジが増している感じは有りますがフィリップスらしい柔らかく美しい録音です。所有するのは写真の全集盤です。

Schumann-s-028945304922 レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) ライブ録音ですが、1楽章の導入部は重々しさと彫の深さが有り、主部では推進力と焦燥感が魅力です。2楽章は意外とあっさりしてロマンの香りが物足りませんが、3楽章は重みが有って良いです。終楽章はリズムのキレが良く躍動しています。フィナーレの一気呵成にたたみ掛ける迫力が凄いです。写真の全集盤に含まれます。

Cci00035b セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1988年録音/EMI盤) 遅いテンポによるいかにもチェリビダッケらしい演奏です。1楽章は柔らかい響きでスケールが大きいのは悪くないのですが、情熱の高まりが感じられないのが気に入りません。2楽章の深々としたロマンの香りは魅力的です。ヴァイオリン・ソロも味わい深いです。3楽章は遅いテンポで暗くロマンティックな雰囲気に満ちていて良いと思います。極端に遅い終楽章冒頭のブリッジ部分はユニークですが違和感を感じます。主部も遅いテンポで聴いていて段々もたれてくるのも事実です。但し、最後は普通にアッチェレランドして終わります。一貫性の無さを感じないでもありません。

Schuman_vonk_654 ハンス・フォンク指揮ケルン放送響(1992年録音/EMI盤) オランダの名匠フォンクが、ケルンの街のオーケストラを指揮した演奏です。フォンクは難病を乗り越えて苦労して活動をしている人ですが、苦悩と浪漫を感じさせるこの曲には向いています。ケルン放送の音はくすんだ北ドイツ的な響きで曲に適しています。1、2楽章は暗いロマンの味わいが有って中々に素晴らしいです。3楽章もリズムに重みが有ります。終楽章はテンポが速めで活力が有ります。全体的に地味な印象が残りますが、この演奏はそこが良いのです。

Schumann-s-1200x10681536227310sqqwqs1955 ジョゼッぺ・シノーポリ指揮シュターツカぺレ・ドレスデン(1993年録音/グラモフォン盤) 冒頭からSKドレスデンの厚く重々しい響きに魅了されます。主部に入るとやや速めのテンポですが堅牢な管弦楽の聴き応えは充分です。2楽章は淡々と歩みますが各楽器から情緒がこぼれるように感じられます。3楽章の重量感も流石です。終楽章はまたテンポが速く、全体の統一感に何となく欠ける気がします。録音は素晴らしいです。所有するのは写真の全集盤です。

Schumann-s-m44045296582_1 リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィル(1993年録音/フィリップス盤) 1楽章は導入部から主部の速いテンポへの移行にやや稚拙さが感じられるのが残念です。2楽章は静けさの中の寂寥感に惹かれます。3楽章には凛とした威厳を感じます。終楽章は速過ぎない良いテンポで曲の表情の変化が楽しいです。フィリップスの録音はシューマンのほの暗い響きを感じられて好ましいです。所有するのは写真の全集盤です。

710olr0l3l_ac_sl1461_ クルト・ザンデルリンク指揮スウェーデン放送響(1997年録音/WEITBLICK盤) ザンデルリンクといえば何を置いてもブラームスが最高ですが、このシューマンも実に素晴らしいです。遅いテンポでスケール巨大な点ではクナにも匹敵します。ただしこちらは厳格に刻むリズムが正に純正ドイツ風です。この楽団は元々優秀ですが、このような演奏が出来るのにも驚きます。3楽章から終楽章に移るブリッジの深淵さなどはさながらブルックナーの雰囲気です。これは録音も優秀で美しく、ザンデルリンクの大きな遺産の一つとして数えられるでしょう。

Cci00036 クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1999年録音/RCA盤) ハンブルグを本拠地とする北ドイツ放送響は今では数少ない古風でドイツ的な音を持つオーケストラです。柔らかく混じり合ったほの暗い響きはシューマンの音楽に適しています。エッシェンバッハも暗くロマンティックな演奏を得意としているので、やはりシューマンに向いています。1楽章は中間部の爆発力はフルトヴェングラーには及びませんが、全体としては優れています。2楽章は深々というよりも早めのテンポで軽いながらも優しい雰囲気が独特です。3楽章も早めですが暗い情熱を感じて悪く有りません。終楽章の情熱の高まりも大変素晴らしいです。

Schumann-s-628 ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン(2003年録音/テルデック盤)バレンボイムとしては1970年代のシカゴ響に続く二度目の全集録音に含まれます。ちなみにSKベルリンとは2021年にも再録音を行っています。1楽章は重々しい響きで開始され、主部に入っても堂々として聴き応えは充分です。2楽章は弱音中心でロマンの香りはやや薄めです。3楽章はこの楽団の暗く厚い響きと重量感が良いです。終楽章では推進力と重みが両立していますが、フィナーレのアッチェランドには唐突感も有ります。

Schumann-s-190759434123 クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2018年録音/SONY盤) 日本ツァーでのサントリーホールにおけるシューマン・チクルスのライブ録音です。この楽団の古雅な響きによるシューマンの素晴らしさはサヴァリッシュ、シノーポリの両盤によって折り紙付きです。この演奏もSONYによる録音が明瞭でドレスデンサウンドの生の響きが想像されます。ただし演奏に関しては、3楽章までがどこか疲れて集中力を欠いたようにも感じられるのが残念です。

以上ですが、フルトヴェングラー/ベルリン・フィル盤は不滅の名盤だとしても、クナッパ―ツブッシュ、ザンデルリンク盤もまた肩を並べる素晴らしい演奏です。

<補足>クナッパーツブッシュのウイーン・フィル盤を正規盤に書き替えました。フルトヴェングラー/ルツェルン盤、クーベリック/BPO盤、メータ盤、テンシュテット盤、ハイティンク盤、バーンスタイン盤、シノーポリ盤、ムーティ盤、ザンデルリンク盤、バレンボイム盤、ティーレマン盤を追記しました。

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2009年5月 9日 (土)

シューマン 交響曲第3番「ライン」変ホ長調op.97 名盤 ~ハルくんのラインへの旅~ 

今回の旅行記は創作ではありません。実話なのです。(写真はクリックしてもらうと大きくなります)

今から3年前のことですが、ハルくんはデュッセルドルフに長期赴任している日本人の旧友に会いに行きました。しかも、その友人とはおよそ20年ぶりの再会だったのです。彼はそれは大歓迎してくれて、その晩は街のビアレストランで再会の祝杯を挙げました。ドイツの地ビールはそれは美味しかったです。

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翌日は友人の車で観光案内をしてもらうことになり、一路ケルンへ向かいました。約一時間程度で着いたケルンには、名高い大聖堂が有ります。中世の巨大な建築物です。ロベルト・シューマンはデュッセルドルフに移ってまもなく、ケルン地方を中心に旅をしましたが、この大聖堂の威容には大変感銘を受けたそうです。旅から帰ってすぐに作曲したのが交響曲第3番「ライン」でした。それにしても、この大聖堂は実に巨大なのです。何でも一年中修復を続けているそうですよ。有る部分の修理が終わると、また別の部分が傷んでくるので、それを永遠に繰り返すのだそうです。大きな修理工房が裏手に有りました。

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大聖堂は上の方まで延々と階段で歩いて登ることができるので、その日も結構な人数の観光客が一生懸命登っていました。フーフー言いながら、やっとこさ展望階まで登ってみると、眼下には街の真ん中を堂々と流れるライン川が見下ろせました。素晴らしい景色です。

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翌日はライン川の上流方面に車を走らせました。川沿いの小高い丘の上に、次々と中世のお城が見えてきます。大きな城も小さな城も、みなその土地のかつての領主の居城だったのです。そしてライン川が悠然と流れる様を眺めていると、頭に浮かんでくるのは「ライン」の第2楽章です。そして周りののどかな町並みと人々の静かな生活風景は第3楽章です。特に夕べの時間帯はイメージがぴったりだと思います。

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更に上流に上ると、だんだん川幅が狭くなり流れの勢いがどんどん増してきます。この辺は「ライン」の第1楽章のイメージですね。そして、ついにあの有名なローレライの岩に到着しました。土曜の昼間にもかかわらず、他にはほとんど観光客が居ないので、友人と僕は岩の上に登ってゆっくりとライン川を眼下に眺められました。「岩」といってもそれは実は大きな丘なのです。なんとも雄大な景色を堪能できました。ローレライ伝説というのは「波の間から聞こえてくる美しい歌声に船の舵取りが気を取られてしまい座礁して沈没してしまう」という内容ですが、確かにこの岩の近くは急流で一番の難所のようです。昔から「美女の誘いには気をつけろ」というのが男性への教訓だったようですね。僕も一度で良いので美女に誘われて沈没してみたいものです。

デュッセルドルフへの帰り途中も、頭の中ではずっとシューマンの「ライン」が流れっぱなし。それはそうですよね、シューマンはこの景色を見て曲を作ったのですからね。

19歳の時に初めてライン川を見たシューマンは感銘を受け、母親に宛てた手紙で次のように書いています。

『老いて堂々とした父なるラインの初めて見せる光景を、冷静な心全体で受け止めることができるように、ぼくは目を閉じました。それから目を開いてみますと、ライン川はぼくの前に古いドイツの神のようにゆったりと、音も立てず、厳粛に、誇らしげに横たわり、それとともに、山や、谷のすべてがぶどうの楽園である、花が咲き緑なすラインガウのすばらしい全景が広がっていたのです』

ハルくんもシューマンと同じようにラインの旅の感動にひたるのでした。「うーん、ドイツ!」「ライン!」「シューマン!」「ビール!」「美人!」(は余り見かけなかったなぁ。残念。)

さて、思い出深い交響曲「ライン」なのですが、僕はこの曲はどうしてもドイツの楽団の音で味わいたくなってしまうのです。愛聴盤をご紹介しますので、どうぞご一緒にラインの旅を味わいましょう。

Cci00034 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/Berlin Classics) ゲヴァントハウスの音もまた格別です。よくシューマンのオーケストレーションは鳴りが悪いと言われますが、カラヤンのようにピッチを上げて鳴りを良くしてしまっては全く違った音に変わってしまいます。管と弦が混じりあったくすんだ響きこそがシューマンの音なのですよ。この古色然としたオケの音を味わいましょう。コンヴィチュニーの指揮もゆったりしたテンポで貫禄充分です。 

Cci00036b カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1962年録音/Scribendum) 音楽評論家の中にはこの演奏を推薦している方もいらっしゃるし、僕自身も人後に落ちぬシューリヒトファンなのですが、この演奏は正直余り好きはありません。軽快なテンポで颯爽と進む演奏からは、どうもシューマンの音楽の持つほの暗さが聞こえてこないからです。元々がコンサートホールという廉価レーベル録音なので音質が良くないせいも有るかもしれませんが、もう少し厚みの有るドイツ的な響きを聞かせて欲しいものです。

Schumann-295 ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィル(1964年録音/グラモフォン盤) 1楽章では当時のベルリンPOの剛直とも呼べるドイツ的な響きがライン川の雄渾な風情を想像させます。2楽章は流れが速めで広がりにやや不足する印象です。3楽章もあっさりとしています。4楽章から終楽章はオードソックスで良く整ってはいますが、セッション録音のマイナスとして盛り上がる高揚感に不足します。録音は古くなりましたが悪く無いです。

Schumann-41nzqngtwfl_ac_ ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立歌劇場管(1972年録音/EMI盤) 学生時代に最初に買ったのがサヴァリッシュの全集のLP盤でした。SKドレスデンの全盛期の音を聴ける本当に素晴らしい演奏です。金属的な音が全くしない柔らかさと厚みの有る腰の強さを併せ持つ稀有な音だと思います。ザンデルリンクのブラームス全集とサヴァリッシュのこの演奏でSKドレスデンのとりこになったファンは非常に多いと思います。初期のLP盤で聴く音は更に格別ですが、今となってはCDではどうしてもデジタル臭さが残ります。サヴァリッシュの指揮はテンポ感が非常に良く、溢れる生命力と重厚さが両立していて最高です。全集の中でも3番の演奏が特に優れていると思います。

Schumann-s-81ixrm7eifl_ac_sl1500_ クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1973年録音/シャルプラッテン盤) ゲヴァントハウスの音楽監督をコンヴィチュニーから引き継いだマズアは”真面目”の前に”くそ”を付けたいほどで、大抵の演奏はテンポも表情も変えることなく曲を進めるので退屈してしまいます。この曲でもその生真面目さはそのままです。2楽章でも大河を模したような流れが感じられません。4楽章から5楽章にかけても通り一遍の演奏です。しいて言えばゲヴァントハウスの古風で堅牢な暗い響きだけは魅力です。写真の全集盤に含まれます。

41thnp4da4l_ac_ クラウス・テンシュテット指揮ベルリン・フィル(1978年録音/EMI盤) シューマンの管弦楽には古雅でドイツ的な響きが良く似合いますが、カラヤンの手により音色の近代化が進んだベルリン・フィルの響きにはそういった音は求められません。けれどもテンシュテットの壮大でスケールの大きい指揮は、その響きに合っていて、大変聴き応えのある演奏となっています。響きは違えども、ここにはドイツ音楽の精神がしっかりと残されています。個人的にはこの人にベルリン・フィルのカラヤンの後継者となって欲しかったです。

Cci00034b ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) クーベリックには上述した60年代のベルリン・フィルとの録音も有り、それは当時のベルリン・フィルの響きが聴けるのが捨てがたい魅力です。一方、このバイエルン放送響との演奏は、南ドイツ的で明るめ、ふくよかで柔らかい音が非常に魅力的で、この曲に更に適しています。スケールも大きいですし、要所で現れる微妙な間やリズムの念押しが非常に効果的で、これは中々に素晴らしい演奏だと思います。

Schumenn-s-12-extralarge カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ロスアンジェルス・フィル(1980年録音/グラモフォン盤) ジュリーニはシューマンを積極的に取り上げていたようには見えませんが、第3番だけは好んで演奏したようです。これはEMI盤に続く再録音でした。ゆっくりとしたテンポでスケール大きく、各部の楽器を強く明確に奏させる典型的なジュリーニのスタイルですが、旋律をレガートで弾かせるのは好みが分かれるでしょう。ロス・フィルにはヨーロッパ的な音を目指していたそうですが、純ドイツ的な音を好む人には物足りないでしょう。

Schumann-715er3xdltl_ac_sl1054_ ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1981年録音/フィリップス盤) ハイティンクの指揮は良くも悪くも中庸ですが、この演奏は妙な効果を狙うこともなくゆったりと自然体で構えた良い演奏です。もっともそれはコンセルトヘボウの素晴らしい演奏と音色を抜きには語れません。SKドレスデン以外でこれほど魅力的なシューマンの響きは耳にした覚えが無いです。現在はDECCAから再リリースされていて、幾らか音のエッジが増している感じは有りますがフィリップスらしい素晴らしい録音です。所有するのは写真の全集盤です。

Schumann-028945304922_20240715121901 ズービン・メータ指揮ウィーン・フィル(1981年録音/DECCA盤) 1楽章は生き生きとしたリズムが心地良く、ウインナーホルンも美しいです。2楽章は大河の流れが今一つの印象です。3楽章はほの暗い情感に惹かれます。4楽章は管楽の威容と弦楽の美しさが見事です。終楽章も軽快なリズムの中にシューマン特有の愉悦感が感じられます。DECCAの録音はウィーン・フィルの美しい響きを十全に味わえます。所有するのは写真の全集盤です。

Schumann-s-028945304922 レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) ライブ録音による全集盤なので演奏に高揚感が感じられます。1楽章は適度の重々しさと彫の深さが有り、要所では情緒を深く表出します。2楽章も流れの良さと美しさが有ります。3楽章はロマンティックな静けさが良いです。4楽章は荘厳な趣です。終楽章は速めですが表情の変化が楽しいです。フィナーレは鳴りが良く壮麗です。

Cci00035 オットマール・スイトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1986年録音/DENON盤) スイトナーはモーツァルトなど古典派では速いテンポで颯爽とした演奏をすることが多いですが、ロマン派の曲になると案外と遅いテンポでスケール大きく演奏します。このシューマンもそのスタイルです。1楽章は金管の鳴りが良いので、しなやかさと同時に力強さを感じさせます。2楽章は彫が深く、3、4楽章も翳りある情感に惹かれます。終楽章も遅いテンポでおおらかで広がりの有る演奏が魅力的です。録音はホールトーン的で弦と管のがまろやかに溶け合って美しいです。

Cci00035b セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1988年録音/EMI盤) いつもながらの遅いテンポによるチェリビダッケらしい演奏です。響きの美しさは有りますが、素朴さに欠けるのでこの曲に向いているとは思えません。それに情熱の高まりが無いのが気に入りません。3楽章もテンポが遅過ぎるので、すっかりもたれてしまいます。4楽章、終楽章も同様です。終楽章の最後になって突然壮大に鳴り出すのですが、これは何なのでしょう。やはりチェリビダッケは僕の感性からは大分遠い指揮者であると思います。

Schumann-s-1200x10681536227310sqqwqs1955 ジョゼッぺ・シノーポリ指揮シュターツカぺレ・ドレスデン(1992年録音/グラモフォン盤) やはりSKドレスデンのシューマンのドイツ的な響きには絶大な魅力があります。古雅で厚く美しい音色そのものから情緒が滲み出てくるようです。この曲のサヴァリッシュ盤は最高ですが、シノーポリの壮大でスケールの大きい演奏もまた実に素晴らしいです。終楽章のみ軽快でやや含蓄に欠ける気がしますが、録音の良さはアドヴァンテージです。所有するのは写真の全集盤です。

Schuman_vonk_654 ハンス・フォンク指揮ケルン放送響(1992年録音/EMI盤) この曲とは所縁の深いケルンの街のオーケストラの演奏です。僕はこういうのに弱いのです。オランダ人のフォンクは何度か難病を乗り越えて指揮活動をしている人なので尊敬します。ケルン放送はベルティーニ時代よりも幾らか精度が落ちたような気もしますが、ドイツのオケらしい音色はやはり魅力です。フォンクの指揮もライン川のように雄渾で自然な流れを感じさせてとても良いです。

Schumann-s-m44045296582_1 リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィル(1993年録音/フィリップス盤) 1楽章は幾らか速めに流れてゆきますが、極端なほどではありません。2、3楽章も飄々と流れます。同じウィーン・フィルの演奏でもメータ盤、バーンスタイン盤よりもあっさりとして地味な印象ですが、フィリップスによる録音がシューマンの管弦楽のほの暗い響きをより良く感じられるのは好ましいです。所有するのは写真の全集盤です。

Cci00036 クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1999年録音/RCA盤) 北ドイツ放送響は2000年にヴァントの指揮でブルックナーの9番の名演を聴きましたが、実に北ドイツ的な響きでした。厚みの有るほの暗い響きはシューマンの音楽に一層似合うと思います。エッシェンバッハは今どきの指揮者にしては珍しいくらいに暗い情念を持っている人なのでやはりシューマンに相応しいと思います。僕はこの演奏もとても好きです。

Schumann-s-628 ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン(2003年録音/テルデック盤) バレンボイムとしては1970年代のシカゴ響に続く二度目の全集録音に含まれます。ちなみにSKベルリンとは2021年にも再録音を行っています。全体は中庸のテンポですが、ディナーミクに変化を加えてメリハリを効かせています。ところがこの楽団のほの暗く厚みの有るドイツ的な響きが決して派手さを感じさせません。ゆったりと進む終楽章にも逆に新鮮さを感じます。フィナーレは素晴らしい聴き応えです。

Schumann-s-190759434123 クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2018年録音/SONY盤) 来日した際にサントリーホールで行われた交響曲チクルスのライブ録音です。何と言ってもこの楽団の古雅な響きによるシューマンの素晴らしさはサヴァリッシュ、シノーポリの両盤によって折り紙付きですが、この演奏も生の響きはさぞや素晴らしかったと想像します。SONYによる録音も明瞭でいて、ドレスデンサウンドをほぼ忠実に捉えています。ティーレマンのゆったりとしたテンポの堂々たる演奏は非常に魅力的です。要所でのテンポの揺らし方も効果的です。

以上から、僕のベスト盤を一つ上げるとすれば、何の迷いも無くサヴァリッシュ/SKドレスデン盤です。この曲の演奏として傑出していると思います。但しCDのリマスターがドレスデン本来の響きを再現するには限界が有るので、録音の良さも加味してハイティンク/コンセルトヘボウ盤とティーレマン/SKドレスデン盤を上げたいです。

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