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2011年12月 4日 (日)

ブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 ~続・隠れ名盤~

晩秋のブラームス特集ですが、今回からは室内楽を聴いてゆきます。まずはヴァイオリン・ソナタを聴きましょう。このジャンルは、これまでにブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 名盤、それにブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 隠れ名盤で二度記事にしています。それらの演奏はどれも気に入っているのですが、中でも特に好きなのはシェリング/ルービンシュタイン盤とスーク/スコダ盤です。けれども、その後にまたお気に入りに仲間入りした演奏が二つ有ります。どちらも古いモノラル録音であり、余りポピュラーな存在ではありませんので、「続・隠れ名盤」としてご紹介したいと思います。

第1番、第3番のみ

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ヨゼフ・シゲティ(Vn)、ミエチスラフ・ホルショフスキー(Pf)(第1番:1951年、第3番:1956年録音/MYTHOS盤)
シゲティは好きなヴァイオリニストの五指に入る存在ですが、ブラームスのソナタに関しては、一般的にはステレオ録音の2番しか知られていません。けれどもその演奏は2番単独で言えば、シェリング、スーク以上に好きな演奏なのです。であれば、当然他の曲も聴きたくなります。実はシゲティは1950年代に米コロムビアにかなりの録音を行ったそうですが、当時発売された音源のCD化は全くと言って進んでいません。最もこの米レーベルは現在はソニー傘下で、カザルスやブッシュの貴重な録音も廃盤にした状態ですので、あきらめる他に無さそうです。そんな中でも、その偉大な音楽価値を認識するマイナーレーベルはあるもので、近年BiddulphやMYTHOSが当時のアナログ盤から復刻を行なっています。このディスクも初期LP盤からの復刻です。まず聴いた瞬間に、音質の良さに驚きます。柔らかく厚いヴァイオリンの音色はアナログそのものです。第1番の1楽章の人間味溢れる表情はどうでしょう。多用されるボルタメントも小賢しい演出とは一切無縁で、自然な情感が心からにじみ出ています。2楽章の大きくヴィブラートを効かせたたっぷりとした歌い方は、表情が余りに豊かなので、聴きようによっては演歌のようです。けれども聴き手の胸を打つことこの上ありません。この音楽を聴いて心揺さぶられないなんて有り得ないと思います。3楽章も遅いテンポで、ブラームス得意の延々と続くシンコペーションの旋律をたっぷりと歌います。この楽章が、これほどまるでエレジーのように哀しく聞こえたのは初めてです。やはりシゲティはジプシーの血を持つハンガリー出身だからなのでしょうか。第3番では、バイオリンの哀しい音色に惹かれます。ボルタメントが「甘さ」では無く「泣き節」につながるのは、ハンガリーの演奏家に共通している点です。この演奏はオイストラフ/リヒテルのような力強さは有りませんが、胸に染み入ってくる情感においては、それ以上と言えます。2楽章は完全な「エレジー」です。やるせないまでに哀しくも懐かしい情景がここには有ります。3、4楽章もやはり遅いテンポでたっぷりと歌いますが、これほどまでに人間味を感じる演奏は聴いたことがありません。この復刻CDは、長年の渇望を癒して余りある有り難い存在です。1番と3番が収められていますし、何しろ音質が素晴らしく、針音やプチ・ノイズもほとんど気になりません。なお、Biddulphレーベルからも2曲が別のディスクに分かれて出ていますが、そちらは聴いていません。

第1番~第3番

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シモン・ゴールドベルク(Vn)、アルトゥール・バルサム(Pf)(1953年録音/テスタメント盤) 
ポーランド生まれで、ドイツで活躍し、その後アメリカに帰化したゴールドベルクの最後の奥様が日本人ピアニストの山根美代子さんだったことは良く知られています。この人はまた、フルトヴェングラーに認められて僅か20歳でベルリン・フィルのコンサート・マスターに就任したことも知られています。多分に戦争の歴史に翻弄された人生であったことは否定できませんが、生涯演奏家を続けられたことは幸せだったのではないでしょうか。そのゴールドベルクのブラームスのソナタ集のディスクの存在は知っていましたが、じっくり聴いたことはありませんでした。それが聴きたくなったのは、このブログにコメントを頂いたViollinPaPaさんのお薦めだったからです。

ゴールドベルクは戦前のバイオリニストにしては、非常に端正な弾き方をします。幾らか速めのテンポでビブラートは控え目、ボルタメントも多用する割には目立ちにくく強調された感じが有りません。技術的には音程、リズム、ボウイングが実に安定していますが、それをひけらかすような感じは全くありません。要するに音楽の内容表現にひたすら奉仕するようです。ある種「求道的」な印象すらするほどです。現代のメカニカルな演奏とは全く異なり、実に人間的な味わいを感じます。大げさな表情づけは無いのに、胸いっぱいに音楽が浸みわたってきます。ここには古過ぎず、新し過ぎない中庸で魅力的な音楽が有ります。そういえばブラームスの音楽の特徴も同じではないでしょうか。この演奏では、3曲とも緩徐楽章の第2楽章に特に惹かれます。情感が心に沁み入ってきます。それでいて、第3番の4楽章あたりの緊迫感も充分です。決して優しい情緒だけの演奏家ではありません。共演者のバルサムのピアノもとても良いです。このCDはドイツ・グラモフォンからのライセンスなのですが、ニューヨークで録音を行ったのは、どうやらDECCAらしいです。ですので、音質は非常に優れています。

<追記>
素晴らしい演奏はまだまだ有るもので、ユーディ・メニューイン盤も愛聴盤の仲間入りをしました。

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コメント

ゴールドベルクは聴いたことがないので興味深いです。
若い頃はオイストラフ×リヒテルの激しい3番をよく聴いていました。

曲としての好みが3>1>2なので、シゲティも聴いたことないですが、よさそうですよね。

投稿: かげっち | 2011年12月 6日 (火) 12時45分

かげっちさん、こんにちは。

オイストラフ&リヒテルは凄い迫力なのですが、あそこまで必要かというと疑問です。過ぎたるは及ばざるがごとしの感、無きにしも非ずです。

僕はシゲティ大好きですが、この人の晩年の演奏は好き嫌いが分かれるようです。テクニック重視の人には決して勧められませんし。

投稿: ハルくん | 2011年12月 6日 (火) 21時56分

↑そこはまあ、聴くわたしの若気の至りということで(笑)

投稿: かげっち | 2011年12月 7日 (水) 12時35分

↑いえいえ、僕も若いときは熱中して聴いていましたよ。(笑)

投稿: ハルくん | 2011年12月 7日 (水) 12時40分

今晩は、ハル様、かげっち様。2人の会話があまりに楽しそうで勝手に割り込みさせてもらいますよ~。
今、ブラームスとモーツァルトのクラリネット五重奏のカップリングのCD鑑賞中なのです。
私の考えるところのベストメンバー→第一ヴァイオリン…諏訪内晶子 第二ヴァイオリン…奥村愛 ヴィオラ…ハルくん チェロ…新倉瞳 クラリネット…かげっちさん
どーです!夢の五人(美女3&イケメン2)こんな五人の演奏家なら、見ている私はもう鼻血ブー・高木ブー・もひとつおまけのシシカバブーてな感じでしょうか?
では失礼します。

投稿: from Seiko | 2011年12月 7日 (水) 21時11分

Seikoさん、こんばんは。

いやー、そんなメンバーのアンサンブルとは、夢のまた夢です。夢のアンサンブ~ル、飛んでイスタンブ~ル、なんちゃって。(笑)
楽しい夢をどうもありがとうございました!
実現可能なのは、かげっちさんとのヴィオラ&クラのデュエットだけですね~

投稿: ハルくん | 2011年12月 7日 (水) 23時13分

>Seikoさん
いやはや、こんな夢の競演(妄想の饗宴)を企画していただき恐縮です。あまり美女揃いだと気が散って、演奏どころではなくなる可能性が高いですね。普通の配置だと私の正面に晶子の眼差しが(勝手に呼び捨てにしてはいけません)、ハルくんさんの両脇には愛と瞳が(だから呼び捨てにするなっていうのに)・・・
>ハルくんさん
ヴィオラ&クラのデュオってどんな曲がありますか?ピアノとのトリオならモーツァルトやブルッフがありますけどね。

投稿: かげっち | 2011年12月 8日 (木) 12時21分

かげっちさん、ああは言ったものの、ヴィオラ&クラのデュオ曲なんて知りません。
仕方がないので。やはり”妄想クインテット”でいきましょうか。なら、晶子の正面には自分が絶対に座ります。目と目が合ったら体が硬直してしまうでしょうけどね。

投稿: ハルくん | 2011年12月 8日 (木) 22時53分

やはり妄想クインテットでいくしかないのですね。しかたない、席順は譲ることにします(笑)すると舞台下手からCl,Vn1,Vn2,Vc,Vaという配置しか考えられないですね。両端が男になります。

話題を戻すと、諏訪内ブラームスって聴いたことないんですけど、どうなんでしょう?オイストラフ的な演奏だったりして?

投稿: かげっち | 2011年12月 9日 (金) 12時57分

 こんにちわ。

ブラームスに魅かれていますが、室内楽はクラリネット五重奏曲以外は聴いたことがありません。
初心者としてヴァイオリン・ソナタをユング君さんよりダウンロードさせていただきました。
1番と3番をゴールドベルクとバルサムの1953年盤で聴きましたが、聴き易いうえ心が安らぎました。
まだまだ聴かないと本当の良さは解りませんが、室内楽を少しずつ聴いて行きたいと思っています。

こういうブログで話題にならないと、どれから聴いたらいいのやら解りませんので、いい機会と思っています。そして感謝しつつ聴いています。

投稿: たつ | 2011年12月 9日 (金) 22時34分

かげっちさん、こんにちは。

そんなことはありません、舞台下手からVn1,Vn2,cl,Vc,Vaという配置がいいでしょう。これならごく一般的なオケの配置と同じです。Va位置から晶子様を眺めるのに邪魔な指揮者も居ませんしね。(笑)

諏訪内さんは録音にとても慎重なので、ブラームスはまだですね。もっと情熱を内に秘めたクールな演奏になるんじゃないでしょうか。

投稿: ハルくん | 2011年12月10日 (土) 10時00分

たつさん、こんにちは。

ブラームスの中で傑作の宝庫と言えるのが室内楽です。是非ともじっくりお聴きになられてください。
傑作ばかりですが、初めにお勧めするのは、3曲のヴァイオリンソナタ、弦楽六重奏曲1番、ピアノ五重奏曲、それにクラリネット五重奏曲あたりです。
以降は、ヴィオラソナタ、ピアノ三重奏曲集、ピアノ四重奏曲集、かな。それ以外の曲も全て素晴らしいのですけれど。

投稿: ハルくん | 2011年12月10日 (土) 10時07分

シゲティは大好き。バッハもベートーヴェンもブラームスも。骨太のぐっきりした音楽。甘ったるい音で歌うのでなく、音の運動性やその構造がくっきりえがかれる。

しかしながら、ブラームスのコンチェルトは例外。同様の演奏で、もっと気迫に満ち、もっとアイデアにみち、もっと歌い、もっとはるかにうまい演奏がある。ヌブのライブだ。死ぬ前の方。

ヌブを聞いてから、シゲティのはお蔵入りになってしまった(オイストラフもハイフェッツも同じ)

投稿: gkrsnama | 2019年3月27日 (水) 00時47分

gkrsnamaさん

ヌヴ―の死ぬ前のというと1949年のドラティ/ハーグオケとのライブでしょうか?
あれは確かにヌヴ―自体はSイッセルシュテット/NDR盤以上のように思いますね。実に素晴らしいです。オケがやや劣りますが、ドラティの指揮で三楽章などはリズムと迫力が最高です。

もっとも私の場合にはシゲティもオイストラフもシェリングも、新しいバティアシュヴィリも皆な大好きですので、それぞれの演奏の持つ魅力を楽しんでいます。

投稿: ハルくん | 2019年3月27日 (水) 11時04分

ハルさん初めまして、アリアーガと申します。

ブラームス隠れ名盤のゴールドベルクとバルサンの演奏について
 ハルさんの試聴と全く同じ思いです。
私はLP 1972年発売 ライセンス MCAー1020 ビクター盤で愛聴しています。

ブラームスのソナタは凄い演奏が揃っていて壮観ですが私はこのLPで聴くのが大好きです。

投稿: Ariaga | 2019年5月10日 (金) 10時42分

アリアーガさん、こんにちは。
コメントを頂きまして誠にありがとうございました。

LP盤でお持ちなのですね!
ヴァイオリンに関してはアナログで聴くのがやはり最高ですね。

ゴールドベルク盤は地味ですが実に良いですよね。第3番に関しては激的な演奏も魅力ありますが、3曲を通して聴くには滋味溢れるタイプの演奏が好きです。

是非またお気軽にコメント下さい。楽しみにお待ちしております。

投稿: ハルくん | 2019年5月12日 (日) 16時16分

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