~サマースペシャル・名曲シリーズ~ ブルッフ 「スコットランド幻想曲」op.46 名盤
毎日暑い日が続いています。
こんな時には、家で爽やかな気分に浸れる音楽を聴くのが一番です。「グリーンスリーブスによる幻想曲」に続いて、スコットランドにちなんだ曲を聴きましょう。マックス・ブルッフの「スコットランド幻想曲」です。
ブルッフはドイツの作曲家ですが、ベルリンの音楽大学の教授でもあったので、生徒の中には日本の山田耕作なんかも居ました。ブルッフの一番有名な作品は「ヴァイオリン協奏曲第1番」で、僕もとても好きな曲です。けれども、同じヴァイオリン協奏曲のスタイルをとりつつも、もっと自由に書いた名作が「スコットランド民謡の旋律を自由に用いた、管弦楽とハープを伴ったヴァイオリンのための幻想曲」です。これでは余りに長過ぎるので、通常は「スコットランド幻想曲」と呼ばれます。
ブルッフの音楽の基調はドイツ・ロマン派としてのロマンティックな音楽ですが、たとえスコットランド民謡を使わなくてもどことなく爽やかな雰囲気を持っています。「ヴァイオリン協奏曲第1番」も、やはりそうでした。ですので「スコットランド幻想曲」ともなると本当に涼しげな空気感が一杯に広がります。爽やかで懐かしいメロディが幻想的な雰囲気の中に次々に現れてきます。民族楽器のバグパイプを模した和音なんかも登場します。
演奏会で取り上げられる機会が決して多いとは言えませんが、珠玉の一品と呼べる素敵な曲なのです。もしもこの曲を聴かれたことが無い方は、是非ともお聴きになられてほしい名曲です。
元々出ているCDの種類もそれほど多くは有りませんが、僕の愛聴盤をご紹介してみます。
ヤッシャ・ハイフェッツ(Vn)、マルコム・サージェント指揮ロンドン新響(1961年録音/RCA盤) 何という艶やかな音色と鮮やかなテクニック!ヴィルトゥオーゾ風な演奏はこの曲には向かないと思って来ましたが、ここまで見事に演奏されると降参です。確かにスコットランドの素朴な風景や自然とは異なるかもしれませんが、飄々とした雰囲気でベタベタ粘着するわけではありません。圧巻は終楽章で、さながらサラサーテの様ですが、余りの凄さに唖然とするばかりです。この曲の代表盤としてはお勧めしませんが、二枚目以降の必聴盤として強く推します。
チョン・キョンファ(Vn)、ルドルフ・ケンぺ指揮ロイヤル・フィル(1972年録音/DECCA盤) この曲は余りにたっぷりと歌われると甘さが過多になって爽やかさが失われてしまいます。大家が演奏すると往々に陥りやすいです。ドイツの森では無く、北国スコットランドの景色を目の当たりにするような空気感が欲しいのです。その点、若きキョンファのバイオリンは実に端正で余分な脂肪分が無く、凛とした雰囲気がこの曲にうってつけです。懐かしい歌い方といい、リズムの切れの良さと言い、正に最高です。更に名匠ケンぺのオケ伴奏も実に素晴らしく、それほど優秀でもないロイヤル・フィルからうっとりとするような美しい演奏を引き出しています。この演奏は、この曲の不滅の名盤だと思います。
アルトゥール・グリュミオー(Vn)、ハインツ・ワルベルク指揮ニュー・フィルハーモニア管(1973年録音/フィリップス盤) グリュミオーはとても美しく端正な演奏を聴かせます。ビルトゥオーゾ風でないのがこの人の魅力です。旋律を柔らかく美しく歌わせる点でこの曲の良さを際立たせていると思います。ただし終楽章ではテンポが遅すぎて躍動感に欠ける感が無きにしも非ずです。ワルベルクのオケ伴奏は非常に立派で素晴らしいです。
サルヴァトーレ・アッカルド(Vn)、クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1977年録音/フィリップス盤) パガニーニを得意とするアッカルドですが、意外なほどの名演です。テクニックは完ぺきですが、ハイフェッツほどヴィルトゥオーゾ風には聞こえません。むしろじっくりゆったり音楽の情緒を味合わせてくれます。マズア/ゲヴァントハウスの音の立派さも特筆ものです。基本的にはドイツ風の厚い響きですが、暗い音色が北欧の曇った空と空気を連想させます。
五嶋みどり(Vn)、ズービン・メータ指揮イスラエル・フィル(1993年録音) 五嶋みどりの初期の録音です。カップリングのシベリウスでは透徹した曲の魅力が十分に表現できているとは思えませんでしたが、どちらかというとブルッフの方が楽しめます。若さに似合わずどっしりとした恰幅の良さを感じますし、技術的にも安心感が有ります。歌心にも不足しません。ただ、大げさではありませんが軽いポルタメントが頻出するので甘めの口当たりとなり、全体的に北欧のクールな空気をあまり感じさせません。それはメータとオーケストラにも同様なことが言えます。従って個人的には上位に置くのはためらわれる演奏です。
諏訪内晶子(Vn)、ネヴィル・マリナ―指揮アカデミー室内管(1996年録音/フィリップス盤) わが愛しの晶子様、24歳の時のCDデビュー録音です。演奏本位で言えば、キョンファ盤以外は何も要らないとさえ言いたいところですが、プレイヤー本位(というかCDジャケット本位?)ということでは、やはり晶子様です。当時のお嬢様も今ではすっかり大人の女性になり、私生活や脱税問題で色々と叩かれて苦労しているようなので気の毒です。しかし、この演奏は彼女のスリムな体形のように脂肪分少なく爽やかです。変に甘ったるくならないのがこの曲にピッタリです。マリナーの指揮が同様の素晴らしさです。オケの音が余りに美しいのでBGMっぽく感じないでも無いですが、それぐらい北欧の空気感を漂わせていて爽やかだということです。
<補足>
五嶋みどり/メータ盤、ハイフェッツ/サージェント盤、アッカルド/マズア盤を追記しました。
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コメント
こんにちは
この頃のチョン・キョンファの演奏は本当に素晴らしい
ですね。
キレがあって、気迫があって、聴いていると日本刀の
美しさに通ずるものを感じます。
これから、久しぶりに聴いてみようと思います。
投稿: メタボパパ | 2011年8月16日 (火) 14時14分
メタボパパさん、こんにちは。
おっしゃられるように、この頃のキョンファは切れの良さで、日本刀の名刀のような印象でしたね。
僕も今日、久しぶりに聴き直してみてに本当に素晴らしいと思いました。
投稿: ハルくん | 2011年8月16日 (火) 14時24分
ハルくん、こんにちわ
スコットランド幻想曲ですか、中々、いい曲ですね。私が持っている録音は、オイストラフ(vn)、ホーレンシュタイン指揮のものです。
諏訪内氏は、チャイコフスキー・コンクールで優勝した頃の映像が最も好きです。あの頃は可愛らしかったのですが。
投稿: matsumo | 2011年8月16日 (火) 17時47分
matsumoさん、こんにちは。
オイストラフ&ホーレンシュタインというのは珍しいですね。DECCA録音というのも珍しいですし。ただ残念なことに、いまだ聴いたことがありません。一度聴いてみたいなぁ。中古店でみかけたら聴いてみます。
諏訪内さんがチャイコフスキー・コンクールで優勝した頃は、本当に可憐で可愛かったですね。自分的には、すっかり大人の女として熟した最近の雰囲気が大好きです。疲れ加減の表情がたまりません。
投稿: ハルくん | 2011年8月16日 (火) 18時30分
ハルくん、おはようございます。
今回は、ハルくんに対抗?して、愛聴盤は、
チョン・キョンファ独奏、テンシュテット指揮の新盤及びアン=アキコ・マイヤース独奏、岩城指揮OEK でしょうか。
チョンは、新盤の方が録音の良さもあってか、情熱的ですがヴァイオリンの音も円やかで聴きやすいです。マイヤースは、 チョンに負けず情熱的です。ちなみに、諏訪内さんとのジャケ対決でも負けていないのでは。マイヤースは、三月、震災の影響で帰国されましたが、その後もチャリティーコンサートを開催するなど、いろいろ、頑張っているようです。
愛聴盤に、もう一枚追加するとしたら、コーガンでしょう。ものすごく、力強い演奏でした。
投稿: ひらけん | 2011年8月22日 (月) 07時37分
あっ、やらかしてしまいました。
私のコメントは、ヴァイオリンコンチェルトの第一番でした。大変、失礼しました。今後、きちんと確認しますので、今回は、御容赦ください。
投稿: ひらけん | 2011年8月22日 (月) 07時49分
ひらけんさん、こんにちは。
いえいえ、全然構いませんよ。むしろその方が楽しいです。ヴァイオリン協奏曲第1番もいい曲ですよね。とっても好きです。
その1番ですが、キョンファの新盤も良い演奏ですよね。切れの良い旧盤とはまた違った良さを感じます。マイヤース盤は聴いたことが有りませんが、僕は何しろ美人に弱いので一遍に気に入ってしまうかもしれません。
コーガン盤は持っていますが、良くは憶えていません。
いずれ第1番もまとめて聴き比べてみたいと思います。
投稿: ハルくん | 2011年8月22日 (月) 20時52分
ハルくん、こんばんわ。
朝は、コメント誤りで、申し訳ございませんでした。
会社が終わり、家に帰って、「スコットランド幻想曲」を探した結果、ハルくんの愛聴盤のチョン・キョンファとオイストラッフ独奏、ロジェントヴェンスキー指揮盤(Brilliant)の二種所有でした。コンチェルト第一番を六種所有していることを考えると、スコットランド幻想曲も少し買いたさないといけないですね。
さて、曲の方ですが、チョン・キョンファ大好きですので、昔からよく聴いていましたが、メロディーが印象的で、曲名のとおり、ファンタジーですよね。
演奏もチョン・キョンファは、素晴らしく文句なしでしょう。曲のファンタジー的要素を余すことなく伝えていると思います。
なお、オイストラッフの演奏は録音に恵まれていませんが、情緒的な部分で、ぐっとテンポを落とし、ゆったりと歌い上げています。
投稿: ひらけん | 2011年8月22日 (月) 22時47分
ひらけんさん、再びコメントをありがとうございます。
チョン・キョンファ盤の演奏は本当に素晴らしいですね。若さゆえの瑞々しさと曲とが実にマッチしています。
オイストラッフには、ロジェントヴェンスキー盤も有ったのですね。知りませんでした。
この曲は元々それほど録音の数が多いわけではありませんので、幾つもそろえるのは案外難しいかもしれません。
投稿: ハルくん | 2011年8月22日 (月) 23時08分
曲名を見た瞬間、おっ!と思いましたが、やはり出ましたね(晶子様)( ̄ー ̄)ニヤリ
こんなふうに「さわやか」に弾くか、キョンファの初版のように情熱的に弾くか、どちらもよいですね。
投稿: かげっち | 2011年8月25日 (木) 13時16分
かげっちさん、コメントたくさんありがとうございます。
アハハ、よまれましたか。晶子嬢!(笑)
先日、脱税と騒がれた彼女ですが、実際は海外公演の収入を日本で申告していなかっただけです。税金は海外で支払い済みなので、申告すれば本来対象から控除されるんだそうです。一部の報道で、彼女が一般から非難されるのはとても気の毒に思います。やっぱり僕が傍に付いていてあげなくては駄目なのかなァ。(笑)
投稿: ハルくん | 2011年8月25日 (木) 22時05分
↑女房役ということで?
投稿: かげっち | 2011年8月26日 (金) 12時06分
↑いや、身も心もの支え役です。但し稼ぐのはもちろん彼女ですが。
うん?やっぱりこれって女房役?
投稿: ハルくん | 2011年8月26日 (金) 14時14分
おはようございます、ハルくん。
先だって『オーケストラの森』の尾高氏を記事にしていただきましたが、放送されなかった分を含めて、本日BSで2時間枠で改めて放送がありました。そのカットされた部分が何と…晶子様のブルッフの1番だったのですよ! 真っ赤なドレスの晶子様、素敵でしたよん。前から思ってたけど、2楽章って『亜麻色の髪の乙女』に似てるメロディーがありますよね(もち、ドビュッシーじゃないヴィレッジシンガーズの方)黒髪の乙女の晶子様にお似合いの曲でしたっす。いつもより尾高さんが、ニヤけていたり晶子様に向ける視線が多くないか心配しましたが、そんな事はありませんでした。流石にチューさん、人間が出来てます!今でもピアニストのゆきこさんとラブラブなのかしら?奥様とは学生時代からのお付き合いと聞いた気がします。
ハルくん、BS契約解除して残念でしたね~↓
投稿: From Seiko | 2011年8月28日 (日) 10時32分
Seikoさん、こんにちは。
えっ、なななんと晶子様をカット!
それは正に許しがたいです!
最近の彼女ならば、きっとチョン・キョンファにも負けぬ名演だったに違いないので、聴きたかったぁ~(涙)
BS契約せずに失敗しました!
それにしても、真っ赤なドレスの晶子さま・・・夢に出て来そうです。夢に出てきたら、今度こそちゃんとプロポーズします。過去の過ちは繰り返しません!(←って、また妄想が始まった!??)(笑)
しかし、あんな美人を前にして毅然としたチューさんは尊敬ものですね。やはり素晴らしい人です。
2楽章の「亜麻色の髪の乙女」のメロディですね。よく分かりますよ。「皇帝」第1楽章の「上を向いて歩こう」並みに似ています。
投稿: ハルくん | 2011年8月28日 (日) 18時33分