J.S.バッハ(カンタータ、オラトリオ他)

2015年1月15日 (木)

J.S.バッハ カンタータ 第147番「心と口と行いと生活で」BWV147 名盤 ~主よ人の望みの喜びよ~

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「G線上のアリア」や「トッカータとフーガニ短調」などと並ぶバッハの最もポピュラーな曲の一つが「主よ人の望みの喜びよ」です。このコラールはカンタータ 第147番「心と口と行いと生活で」に含まれていることから、このカンタータ自体もバッハの200曲以上残存するカンタータの中で最も親しまれています。もっとも「主よ人の望みの喜びよ」というタイトルは、ピアニストのマイラ・ヘスがピアノ独奏曲に編曲した際に付けられたものです。

このカンタータはバッハがライプチッヒのトーマス・カントルに就任した1723年の「マリアの訪問の祝日」(毎年7月2日)のために書かれましたが、原曲はそれより先に待降節(クリスマスを待つ時期)の為に書かれた未完のカンタータであり、それに更に曲を加え改作を行い完成をさせました。有名なコラールもこの時に新たに作曲されたものです。

曲は、処女のままイエスを身ごもったマリアが老女エリサベト(洗礼者ヨハネの母)を訪れ、その祝福を受けて神を讃える歌「マニフィカト」を歌うというのがその内容です。全体は第1部と第2部に分かれ、合計10曲から構成されるというカンタータとしてはかなり規模の大きなものです。

第1部
1、合唱「心と口と行いと生活で」
2、レチタティーヴォ(テノール)「幸せな口よ!」
3、アリア(アルト)「おお魂よ、臆することは無い」
4、レチタティーヴォ(バス)「頑(かたく)な心は、強き者をも盲目にする」
5、アリア(ソプラノ)「イエスよ、道を開いてください」
6、コラール(合唱)「私がイエスを持つことのなんという幸せ」(「主よ人の望みの喜びよ」)

第2部
7、アリア(テノール)「イエスよ、助けたまえ」
8、レチタティーヴォ(アルト)「至高の全能者の不思議な御手は」
9、アリア(バス)「私はイエスの奇跡を歌う」
10、コラール(合唱)「イエスは変わりなきわが喜び」

もちろん最も知られているのは第1部最後のコラールですが、第2部最後のコラールにも同じ旋律が使われています。まずは、この2曲のコラールがこのカンタータの核心と言って良いでしょう。けれども、トランペットが祝祭的に活躍する第1曲の合唱と第9曲のバスのアリアも非常に輝かしく印象的ですし、第3曲のオーボエ伴奏によるアルトのアリアと、第5曲のヴァイオリンを伴うソプラノのアリアは、しみじみと深く心に訴えかけて実に素晴らしいです。
聴きどころの多さでは、僕の最も好きなカンタータ第140番「目覚めよと呼ばわる声あり」と、がっぷり四つというところです。どすこい!

それでは、僕の愛聴盤に参りましょう。

Bach_richter__sx425_カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合唱団/管弦樂団(1961年録音/アルヒーフ盤) リヒターはカンタータの全集は未完に終わりましたが多くの録音を残しました。これはその選集からです。ピリオド演奏派の少人数による洗練された合唱と比べると大人数のそれには幾らか古さを感じますが、神の頂きに少しでも近づきたいという精神の強さが感じられるのはむしろこちらの方です。ゆったりと大河の流れの如く歌われる二つのコラールの何と感動的なことでしょうか。バッハはやはり”小川”では無く”大海”です。アルトのテッパーやソプラノのブッケルの歌も器楽独奏と相まって素晴らしく感動的です。録音は僅かに古さが感じられます。

Bach022ヘルムート・ヴィンシャーマン指揮オランダ声楽アンサンブル/ドイツ・バッハゾリスデン(1972年録音/フィリップス盤) これもリヒターと同様に遅めのテンポでスタイルの古さを幾らか感じます。リヒター盤よりも合唱の規模は小さそうですが、ピリオド派の極少人数よりも多く、このカンタータの場合はこれぐらいが好きです。独唱陣にはコトルバス、ハマリといったかつての名歌手が揃っています。二つのコラールはリヒターと同じようにゆったりとした大河の流れを想わせますが、美しさに於いては随一だと思います。

51zb5vcyvll__sl500_aa300_ヘルムート・リリング指揮ゲヒンゲン聖歌隊/シュトゥットガルト・バッハ合奏団(1983‐4年録音/ヘンスラー盤) これは全集盤からの演奏です。リヒターと比べれば幾らか速めのテンポによる演奏ですが、ピリオド楽器派ほどの先鋭性は持ちません。けれども独唱、合唱、器楽全ての出来映えは優れていますし、音楽を落ち着いて味わえる中庸かつ極めてオーソドックスな演奏です。全体に”厳しさ”よりは”穏やかさ”の印象を強く受けます。やや微温的ですし、際立つ個性は感じられませんが、コラール全集の中の1曲として聴くには最適だと思われます。

Bach_519a2cg4dblニコラウス・アーノンクール指揮テルツ少年合唱団/ウイーン・コンツェントゥス・ムジクス(1984年録音/テルデック盤) アーノンクールがレオンハルトと完成させたカンタータ全集からの単売です。最大の特徴は合唱にテルツ少年合唱団を使い、ソプラノ、アルト・パートを合唱団のメンバーが歌っていることです。大人のプロの団体と比べれば”つたなさ”が感じられますが、反面彼らの持つ清純さはかけがえのないものです。トーマス教会合唱団の理想的な録音が無い以上、大きな存在感を示しています。アーノンクールにしてはことさらに癖のある演奏をしているわけでは有りませんが、トランペットの音色が古色蒼然としていたり、独奏楽器を情緒的に奏させたりと楽しませてくれます。但し、二つのコラールは合唱の強弱の付け方が大胆で、作為的に感じられます。

Bach_516srtg7x8lジョン・エリオット・ガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ(1990年録音/アルヒーフ盤) ガーディナーはピリオド楽器派にしては穏健な部類なので演奏に自然に溶け込めます。極端に小さ過ぎない編成も好ましく、楽器の古雅な響きが美しくとても心地良いです。合唱、独唱ともプロの大人ですので、同じ古楽派でもアーノンクールとは全く異なる味わいが有り、これはちょっと好みでも甲乙が付けられません。二つのコラールはリズムが軽く弾む様ですが、ドラマティックに過ぎることなくイエスを讃える喜びが自然と湧き上がります。バッハが”大海”では無く”小川のせせらぎ”に感じられますが、これもまた悪くありません。

さすがに名曲ですので良い演奏は多いのですが、残念ながら自分にとっての決定盤にまでは到達していないというのが正直なところです。強いて言えばリヒターかアーノンクールになるのですが、もしも歴代のトーマス・カントルのクルト・トーマス、マウエルスベルガー、あるいはロッチェが聖トーマス教会合唱団と録音を残してくれていれば自分にとっての理想的な演奏に成ったのかもしれません。

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2012年3月31日 (土)

J.S.バッハ カンタータ 第140番「目覚めよと我らに呼ばわる声あり」BWV140 名盤

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「バッハは小川にあらず、海よりも偉大である。」と語ったのはベートーヴェンです。「Bach」はドイツ語で「小川」を意味するので、例えに使ったわけです。

それにしても、この小川さんは大変な人です。教会音楽家ですので、宗教声楽曲を数えられないほど多く書いていますし、器楽曲などもやはり相当な数に及びます。そのうえ、子供の数も数えられないほど(というのはオーバーですが、20人です)たくさん作ったことは良く知られています。「音楽の父」であり、大勢の子供の父親でもあったわけです。作曲に忙しかったのでしょうに、夜もホントに精力的だったのですね。やっぱり偉人は違います。

話を戻して、声楽曲の大傑作と言えば何と言っても「マタイ受難曲」「ヨハネ受難曲」「ミサ曲ロ短調」です。これらは大海に浮かぶ大陸のようなものです。極論すれば、バッハはこの3曲に始まり、この3曲に終わると言っても言い過ぎでは無いのかもしれません。でも、そうは言っても、他にも多くの名作が有ります。特にカンタータには、楽譜が残っているものだけで200曲以上、分らなくなったものも合わせると300曲は書いているはずだと言われています。そんなアルプス山脈のようなカンタータ群には、聴き込もうとしても、余りの曲の多さに、どこから山頂を目指して登って良いのか分からず、山のふもと辺りでうろうろしている自分を見るような気分です。

でも、そんなカンタータの中に、昔から大好きな愛聴曲が有ります。第140番「目覚めよと我らに呼ばわる声あり」です。この曲のコラールは、何でも「三位一体節後第27日曜日用の作品」として書かれたそうですが、キリスト教徒でない自分にはそれが何のことかよく分かりせん。ただ、この日は暦の関係で、復活節が相当早く、3月26日以前に繰り上がった年にのみ巡ってくるそうで、かなり珍しいのだそうです。バッハのカントル在職中にもたった2回有っただけなので、この日のためのカンタータはこの曲が唯一なのだそうです。

この曲の歌詞は、マタイ伝の一節が元になっていますが、それは花婿の到着を待つ花嫁と出迎えの10人の乙女たちの話です。

『結婚式が予定されて、花嫁と乙女たちは花婿の到着を待っているが、いつまでたっても到着しないので、皆寝込んでしまう。すると、夜も更けた頃に花婿の到着を告げる物見らの「目覚めなさい」という声に起こされる。けれども、灯火の油をちゃんと用意していた5人の乙女は婚礼に参加できたが、残りの5人の乙女は参加させてもらえなかった。』という内容の話です。

「花婿」というのはイエスのことで、「10人の乙女たち」というのは我々人間(信者)のことです。要するに、これはイエスの再臨(神の国の到来)についての例え話です。その日は中々やっては来ないけれども、その日のためにいつも心して準備しているように、という教えなのですね。

曲は7曲で構成されています。

1.コラール「目覚めよと我らに呼ばわる声あり」

2.レシタティーフ(テノール)「来る、来る、花婿が来る」

3.アリア(ソプラノ、バス)「いつ汝は来るや、我が救いよ」

4.コラール(テノール)「シオンは物見らの歌うを聞く」

5.レシタティーフ(バス)「さあ私のところに来なさい」

6.アリア(ソプラノ、バス)「我が友は我がもの」

7.コラール「栄光が汝に向かって歌われよ」

第1曲のコラールは付点リズムでさっそうと、かつ威厳を持って足取りを進めます。非常に素晴らしい曲ですが、そういえば、ソフトバンクのお父さん犬のCMの初めのころのにバックで流れていました。

第3曲の二重唱は、イエスと花嫁として描かれた信者の魂との対話です。オブリガードで奏されるヴィオリーノ・ピッコロが非常に美しいです。

第4曲のコラールは、バッハの書いた最も美しいコラールではないかと思います。弦楽のユニゾンに伴奏された歌のなんと美しいこと!ところが、実は大きな問題が有ります。この曲のテノールのパートが、楽譜上にただ「テノール」と書かれている為に、合唱なのだか独唱なのだかが明確でなく、演奏は解釈で分かれます。楽譜の指示では確かに独唱のように受け止められなくも有りませんが、3曲のコラールのこの曲だけが独唱で歌われるのには違和感を感じます。結論は出ないでのしょうが、個人的にはこのテナー・パートの音型はどう聴いてもコラール(合唱)音型ですので、合唱が正解だと思っています。

第6曲の二重唱も再びイエスと花嫁の対話ですが、印象的なオーボエの助奏を伴って、「汝は我と天のバラの中で楽しまん」と喜びを歌う至上の愛のデュエットです。

第7曲のコラールは栄光の喜びに溢れた感動の終曲になります。

このカンタータは本当に素晴らしい作品です。他にも好きなカンタータは幾つか有りますが、この曲ほど充実仕切った名作は、いまだ知りません。バッハ愛好家にとっては、何を今更のことでしょうが、もしも、これから聴き始めようという方がおいででしたら、真っ先にお勧めしたいのがこの曲です。

僕の愛聴盤ですが、教会合唱団が好きなので、かなり偏っています。

089クルト・トーマス指揮聖トーマス教会合唱団/ゲヴァントハウス管(1960年録音/Berlin Classics盤) 大学生のときに最初に聴いた演奏です。東芝EMIのアナログ盤でした。現在はCDで聴いていますが、この名曲をこの演奏で知ったのは幸せでした。ゆったりとしたテンポのコラールは威厳に満ちていて、立派この上ありません。第4曲のコラールも独唱では無く合唱ですが、これを聴いてしまっては独唱では満足できません。独唱陣もロッチェ、グリュンマー、アダムの3人とも素晴らしいですが、二重唱のアリアも最高です。ゲヴァントハウス管も現代楽器ながら古風な音色が素晴らしく、上手さも文句無しです。クルト・トーマスはラミンの後任としてトーマス・カントルに就任しましたが、たった3年で西側へ亡命してしまったために、録音が非常に少ないので、カンタータ集のCDが海外盤だけとはいえ数枚残されているのは嬉しいです。

P1000831エアハルト・マウエルスベルガー指揮聖トーマス教会合唱団/ゲヴァントハウス管(1966年録音/アルヒーフ盤) クルト・トーマスの後任のトーマス・カントル(洒落では無い)は、マウエルスベルガー兄弟の弟のエアハルトです。トーマスと比べると幾らか速めのテンポですが、伝統的なスタイルを守っています。独唱陣はギーベル、シュライヤー、アダムと名歌手が揃っていますし、ゲヴァントハウス管ももちろん素晴らしいです。ところが問題は、第4曲をテノール独唱にしていることです。これは、どんなにシュライヤーの歌唱が素晴らしくても、合唱の感動には及びません。非常に悔やまれます。この演奏は組み物のCDには含まれているようですが、単独では出ていないません。ですので僕は昔のアルヒーフのアナログ盤で聴いています。

909ハンス・ヨアヒム・ロッチェ指揮聖トーマス教会合唱団/新バッハ・コレギウム・ムジクム(1983年録音/Berlin Classics盤) 弟マウエルスベルガーの後任としてトーマス・カントルに就任したのはロッチェでした。この人は、クルト・トーマス盤で素晴らしいテノールの歌を聴かせていました。この演奏ではオーケストラがゲヴァントハウス管のメンバーからなる小編成の合奏団になっています。そのためか、演奏のスタイルはテンポが速めでリズムを強調した、ピリオド奏法に近づいています。第4曲を合唱が歌うのは我が意を得たりで良いのですが、ソプラノがやや落ちるために、二重唱の感動がいま一つです。聖トーマス教会合唱団は相変わらず真摯な歌声が素晴らしいです。

Imagescak42olwカール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合唱団/管弦樂団(1978年録音/アルヒーフ盤) リヒターが音楽家になるきっかけになったのは、この曲に心を打たれたからだという話を記憶しています。その為に、非常に思い入れの有る演奏をしていて一般の評判も良いのですが、僕には遅いテンポでリズムが重く、引き擦るように感じられます。思い入れが余りに強過ぎてしまったように思うのです。リヒターも第4曲のコラールをテノール独唱としているので、それも僕には大きなマイナスポイントです。

51zb5vcyvll__sl500_aa300_ヘルムート・リリング指揮ゲヒンゲン聖歌隊/シュトゥットガルト・バッハ合奏団(1983‐4年録音/ヘンスラー盤) これは全集盤からの演奏です。古楽器風の速いテンポによる躍動感のある演奏ですが、反面、この曲の持つ威厳は損なわれているように感じます。第4曲のコラールを合唱にしているのは良いのですが、リズムの過度の強調が、あの美しい旋律を少々損ねているようにも感じます。あくまでも全集の中の1曲ということで価値が有るのだと思っています。

ということで、この曲の素晴らしさを最高に感じさせてくれるのは、やはりクルト・トーマス/聖トーマス教会合唱団盤です。

この曲は、福音書の内容や歌詞が全く分らずとも、音楽的な素晴らしさに感動することが充分に可能です。ですのでご心配なくこの名曲を気軽に味わってください。そして、どうかバッハの素晴らしさに目覚められんことを!

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2008年12月24日 (水)

J.S.バッハ「クリスマス・オラトリオ」 クルト・トーマス/聖トーマス教会合唱団盤

頑張ってブラームス室内楽の最終章かとも思いましたが、X’masイヴになにも「寂寥感溢れるブラームス~」も無いかなぁと思って急遽予定を変更です。

ヘンデル「メサイア」とバッハ「クリスマス・オラトリオ」のどちらかと迷ったのですが、普段はまず聴かない「クリスマス・オラトリオ」に決定です。

この曲はCDにしても普通3枚の大曲ですが、元々はカンタータの寄せ集め。(でしたよね?バッハについてはまだまだ初心者の僕はうっかりするといい加減なことを言いそうなので要注意・・・)(苦笑) クリスマス気分に溢れた良い曲ばかりで、聴いていて心がなんとも「和む」というか、とても幸せな気分にさせてくれます。

僕は以前からバッハ本家の聖トーマス教会合唱団のいかにも教会合唱という雰囲気が大好きなのですが、特にこういう曲は大人だけの合唱よりも少年合唱が混じった純真素朴な歌声の方が断然好きなのです。

Cci00053 クルト・トーマス指揮ゲヴァントハウス管弦楽団、聖トーマス教会合唱団(1958年録音/edel盤) 少々古いですが僕の好きなクルト・トーマス(名前が良いよねー)がギュンター・ラミンの後を継いでカントールになった時代の録音です。合唱の素晴らしさはもちろんの事ですが、ここではゲルハルト・ボッセ教授のヴァイオリンソロを聴けるのが嬉しいです。弟子のカール・ズスケに比べると遥かに端麗辛口の音色がいかにもバッハにぴったりです。学生時代に東京文化会館で聴けた彼らの「マタイ受難曲」でのボッセ教授のヴァイオリンの美しさがいまだに脳裏に焼きついて離れないでいます。

オラトリオを聖トーマス教会の座席に座って聞いている気分になってメリークリスマス!

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