松の内には何となく暗~い曲を聴くのは避けてしまいます。やはり厳かで尚かつ楽しい曲が聴きたくなります。そんな気分にズバリ適しているのがブランデンブルグ協奏曲なのです。何もお正月限定ということでないですが、お正月には特に聴きたくなります。それにバッハの峻厳さはお正月に向いていますよね。
最近は器楽曲よりも声楽曲に惹かれますが、この曲の楽しさは格別です。バッハを私よりも多く聴かれている方はとても多いでしょうし、こんなに有名な曲を今更でもないのですが、傑作中の傑作だと思います。全6曲はそれぞれ楽器編成も曲想も実にバラエティに富んでいておよそ飽きることがありません。6曲全てが名作なので、どの曲が好きかと聞かれても困りますが、それでも強いて挙げれば1番と6番あたりでしょうか。
CDはそれこそ世に数多く出ているので私はそのごく一部しか聞いていません。その中から魅力的な演奏を幾つかご紹介させて頂きます。
カール・リヒター指揮ミュンヘンバッハ合奏団(1967年録音/アルヒーフ盤) 余りに有名な演奏です。当時は大編成のロマン的な演奏のアンチテーゼとなる新しいバッハでした。しかしその演奏も今では古楽器派の台頭によりすっかり古臭い演奏という烙印を押されてしまったかのようです。ですが、とんでもない話です。早いテンポで生き生きとしたリズムと生命感が有り、何より聴いていて楽しいです。現代楽器であろうが何だろうが、シュネーベルガーのヴァイオリンもニコレのフルートも一級品で素晴らしいのです。僕は今でもこの演奏は大好きです。
ルドルフ・パウムガルトナー指揮ルツェルン音楽祭合奏団(1978年録音/オイロディスク盤) 名奏者の参加した有名な演奏です。テンポはゆっくりですが、楽しさにかけてはリヒター盤にも劣りません。スークのヴァイオリンやニコレのフルートソロが実に素晴らしいです。1番などは今では遅過ぎのようにも感じますが、逆に3番は現代楽器ならではの豊かな美しさに魅了されます。6番もスークのヴィオラが美しいです。録音年代を考えると全体的にとても新鮮な雰囲気を持っていると思います。
ゲルハルト・ボッセ指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス・バッハ合奏団(1981年録音/シャルプラッテン盤) ゲヴァントハウス管のコンサートマスターにしてゲヴァントハウスSQの第1Vnであったボッセ教授が指揮をしてヴァイオリンも弾いている演奏です。ゲヴァントハウス管はいわばバッハゆかりの聖トーマス教会合唱団の専属楽団。バッハ演奏は筋金入りです。雨後の竹の子のように出てきた古楽器学究派の及ばない生きた歴史を持っていると思います。非常に地味で目新しさは無いですが、ドイツの頑固親父のようなどっしりとした貫禄が有ります。やはり本家ライプチッヒのバッハはこれです。僕は教授のヴァイオリンともども大好きです。僕の好きな6番の演奏も実に魅力的です。
ヘルムート・ヴィンシャーマン指揮ドイツバッハゾリスデン(1993年録音/日本コロムビア盤) 1970年代の旧盤ではなく新盤のほうです。ヴィンシャーマンはこの時でもまだまだ現代楽器で頑張っていました。かつてのヴィンシャーマンの吹くオーボエは骨太の音とおおらかさがとても好きでした。古楽器派の台頭を意識してか旧盤よりもテンポが全般に早めになった気がしますが、おおらかさに変わりは有りません。ドイツの演奏家でこれほど肌の温もりを感じさせる演奏家も少ないのでは無いでしょうか。この温和さが良くも悪くもこの人の魅力だと思います。5番もなんとものんびりしています。
グスタフ・レオンハルト指揮クイケン兄弟、ブリュッヘン、ビルスマ他(1976年録音/SEON盤) 当時の古楽器派の若手の名手達がレオンハルトの元に一同に集まった記念碑的演奏です。最近の古楽器と比べると随分遅めのテンポでゆったりしています。古楽器演奏の古典的な?録音というところでしょうか。ですが実は私はこの演奏は聴いていて余り楽しく感じないのです。楽器の音が乾いていて色気が余りに乏しいからです。3楽章などもパウムガルトナーに比べて何とも貧相な音で寂しいです。こんなことを言うと、「それがバロックだ。」とおっしゃられるでしょうか?
ラインハルト・ゲーベル指揮ムジカ・アンティク・ケルン(1986-87年録音/アルヒーフ盤) リヒター盤から20年。時は流れて先鋭な古楽アンサンブルMAKの名演です。どうせ古楽器の痩せて貧相な音ならばこれぐらいやってくれた方が良いですね。1楽章から生き生きしたリズム、過激なホルン、ゲーベル自身のヴァイオリンが実に楽しいです。以後どの曲も快速テンポで息つく間を与えません。それに緩徐楽章にも不思議な味わいが有るのは凄いです。但し6番の猛スピードだけは少々やり過ぎな気がします。余談ですが僕はMAKの管弦楽曲全集も同様にとても好きで愛聴しています。
さて、音色だけで比べれば古楽器の干物のような音が好きか、現代楽器の脂の乗りきった養殖ハマチのような音が好きか、これはなかなか難しい問題でしょう。あえて言えば現代楽器を最も端正に弾いているゲヴァントハウスの音が僕は一番好きでしょうか。しかし実際には楽器だけでは演奏の良し悪しは決まらないので、気に入った演奏をその時の気分で聞き分けています。
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