サン=サーンス 交響曲第3番 ハ短調 Op.78「オルガン付き」 名盤 ~サン=サーンスはお好き~
エルガーからサン=サーンスと、いきなりドーバー海峡を渡りイギリス音楽からフランス音楽に移ります。
昔、仕事でつき合ったイギリス人が「イギリスの男はフランスの男が嫌いだ。フランスの女は好きだけど」などと言っていたのを憶えています。確かに両方の音楽を聴き比べてみると、不思議と納得した気になります。
それはともかく、今年が没後100年にあたるサン=サーンスは、モーツァルトと並び称される神童で、2歳でピアノを弾き、3歳で作曲をし、10歳で演奏会を開き、13歳でパリ音楽院に入学し、16歳で最初の交響曲を書きあげます。「どーです!すごいでしょー!」(ジャパネットたかた調で)
サン=サーンスは特にオルガンが得意で、22歳でオルガニストの最高峰といわれたマドレーヌ教会のオルガニストに就いて、その後20年間務めます。
作曲家、ピアニスト、オルガニストとして活躍しますが、フランス古典やラテン語を学び、詩、天文学、生物学、数学、絵画など様々な分野に興味を持ち、文筆家、音楽批評家としても活躍しました。詩や戯曲も書き、自作詩による声楽作品も存在します。
いやー、正に天才ですが、音楽ではあらゆる分野に膨大な作品を残しました。もっとも、新時代の音楽には余り積極的に軸足を移そうとはしなかったことから、徐々に古めかしい音楽だと思われるようにはなりました。
交響曲第3番「オルガン付き」は、全盛期の1886年に作曲された交響曲です。番号付きの交響曲としては3番目ですが、他に番号無しの2曲が存在するので、全部で5曲を完成させた交響曲分野の最後の作品です。完成した年にサン=サーンス自身の指揮によりロンドンで初演が行われました。
この交響曲のユニークな特徴は、ピアノとオルガンの素晴らしい使い方です。また、4楽章構成で書かれていながらも、第1と第2、第3と第4楽章がそれぞれ繋がり、2つの楽章としてまとめられています。
サン=サーンスが「この曲には私が注ぎ込める全てを注ぎ込んだ」と述べたほどの自信作でしたが、実際にロンドンでの初演もパリでの初演もどちらも大成功となりました。
第1楽章 (前半)アダージョ-アレグロ・モデラート(後半)ポコ・アダージョ
通常の交響曲であればアレグロ楽章と緩除楽章に相当します。不穏な翳りと緊張感を漂わせる前半、静けさを湛えた美しい後半、どちらも素晴らしいです。
第2楽章 (前半)アレグロ・モデラート-プレスト (後半)マエストーソ-アレグロ
こちらはスケルツォ楽章と終楽章に相当します。前半は弦楽器の緊迫感ある旋律と打楽器の合いの手で開始され、その後も激しさが続きますが、トリオ部分に入ると木管とピアノが軽やかな動きを聞かせ、オルガンの重厚な響きで開始される後半に続きます。テーマがおよそ壮麗極まりなく展開されて、ついには打楽器が打ち鳴らされるフィナーレに雪崩れ込んで終結します。
子豚ちゃんが主役の映画「ベイブ」をご覧になられた方は、映画の最後のシーンに突然、第2楽章のオルガンのテーマが登場するのに驚かれたと思います。しかし、映画に合っていましたし、これにはサン=サーンスも天国で笑っていたのではないでしょうか。
それでは愛聴するCD紹介ですが、大半はフランス人指揮者、フランスの楽団の定番ばかりです。相変わらず嗜好ぶりが変り映えしませんね(苦笑)。
ポール・パレー指揮デトロイト響、マルセル・デュプレ(Org)(1957年録音/マーキュリー盤) パレーは“フランスのトスカニーニ”とでも言うべき名指揮者ですが、主にアメリカのデトロイト響との録音が残るだけなのは残念です。しかしこの演奏は後述のミュンシュ盤をも凌ぐ白熱の凄演であり、この人の「幻想交響曲」と並ぶ代表盤です。全体的にテンポは速く、明瞭で強靭な音が次々と迫りくるので、息つく間さえ与えません。デトロイト響も米国のビッグ5に遜色無い上手さです。しかし第1楽章後半では、フランス指揮者ならではの詩情にも事欠きません。白眉は第2楽章で前半の快速テンポによる切迫感がそのまま後半に怒涛の勢いで雪崩れ込み、痛快なこと比類が有りません。残響の少ない録音も当時としては破格の明瞭さで、生々しい演奏を堪能させてくれます。
シャルル・ミュンシュ指揮ボストン響、ベルイ・ザムコヒアン(Org)(1959年録音/RCA盤) 昔から愛聴した演奏で、自分のひとつのリファレンス的な存在です。録音の古さからざらつき感は感じるものの、明瞭で迫力の有る音なので、鑑賞には支障ありません。何といっても“燃える“ミュンシュの面目躍如といった実に熱い演奏なのが、この曲にぴったりです。強いて言えばボストン響にフランス的なエスプリ感は今一つなので、もしもパリ管と再録音を果たしていれば、それは決定盤になったであろうと確信します。しかし、これは無いものねだりです。
ジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管、モーリス・デュリュフレ(Org)(1964年録音/EMI盤) プレートルも晩年にウィーンのニューイヤーコンサートを振った頃には、すっかり好々爺という風でしたが、若い頃はダイナミックな指揮ぶりが魅力でした。この録音は何と言ってもコンセルヴァトワールのオケなのが嬉しいです。パリ管が出来るまではやはりフランス最高のオーケストラです。その繊細なエスプリ溢れる音とプレートルのスケールの大きい指揮が相まって格別のフランス音楽の演奏となっています。第2楽章後半の壮大さは圧巻です。EMIの録音は例によってホールトーン的な柔らかい音造りで、明瞭さはいま一つですが、元から英国やフランスの楽団の音を考慮した音造りポリシーなのでしょう。悪くはありません。
ジャン・マルティノン指揮、フランス国立放送管、ベルナール・ガボティ(Org)(1975年録音/EMI盤) 第1番から第3番までと番号無しの2曲を加えて5曲の交響曲を収録しています。パレー、ミュンシュの熱狂的で豪快な演奏と比べると、ある種の「軽み」を感じます。それは決して冷めているということではなく、フランス的な「繊細さ」「粋さ」を持つことを意味します。テンポにはゆとりが有り、煽り上げたりしません。もしも物足りなさを感じたりすれば、そこが逆に魅力なのだと言えます。録音はプレートル盤と同じEMIの音造りコンセプトですが、10年の差はそれなりに音質の向上をもたらしています。
シャルル・デュトワ指揮モントリオール響、ピーター・ハーフォード(Org)(1982年録音/DECCA盤) デュトワはスイス生まれですが、ミュンシュにも師事し、フランス音楽を得意とするので、この曲にはぴったりです。パレー、ミュンシュほどの豪快さは有りませんが、主兵のオーケストラから醸し出される粋で繊細な音は、高級シャンパンのように上品な味わいに満ち溢れています。サン=サーンスの音楽も品格が一段上がったようにも感じられます。しかし第2楽章の前半は速いテンポで歯切れが良いですし、後半に入って高揚感が増してゆくのも聴き応えが有ります。DECCAの録音が管弦楽のハーモニーを美しく捉えているのも「チョー気持イイ」です。
チョン・ミュンフン指揮バスティーユ歌劇場管、マイケル・マーサス(Org)(1991年録音/グラモフォン盤) 日本では“パリ・バスティーユ管”と表記されますが、ここではフランス名を訳しました。チョン・ミュンフンが名門オペラ座のオケを立て直して凄く勢いの有った時期の録音なので素晴らしい出来栄えです。演奏スタイルはパレーやミュンシュのような豪快型で熱狂を伴うわけではなく、ゆったりとしたテンポで細部のニュアンスにこだわっています。もちろん楽器の音にはフランスの雰囲気が有りますが、全体的には陽気なパリジャンというよりも、フレージングに幾らかの粘り気を感じさせるアジア風?なのはチョン・ミュンフンの音楽性なのでしょう。しかし新しい発見と聴き応えが有ります。録音はホールトーン的な柔らかさと各楽器の明瞭さを併せ持っていて、デュトワ盤を凌ぐ優秀さです。
さて、どれも素晴らしい演奏ですが、個人的にはパレー盤が聴いていて一番楽しいです。更にはミュンシュ盤、プレートル盤にも大いに惹かれますが、録音も加味するとデュトワ盤、それにチョン・ミュンフン盤が浮上します。
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