エルガー

2024年3月28日 (木)

エルガー ヴァイオリン協奏曲 ロ短調Op.61 名盤

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ユーディ・メニューインとエルガー

エルガーの作品の中では「威風堂々」「愛の挨拶」は別として、チェロ協奏曲がジャクリーヌ・デュ・プレの凄演のおかげで広く知られています。確かに曲自体とても親しみ易さを持つ作品ですね。それに比べると、ヴァイオリン協奏曲の方は一般的には地味な存在です。演奏時間が50分近くかかるのも影響しているかもしれません。しかし、作品のどの部分を聴いてもエルガーそのもので、シンフォニーを聴くような壮大さが有ります。その点はむしろチェロ協奏曲以上で、エルガー好きには応えられない傑作です。 

この作品は、当時のヨーロッパで最も人気の高かったヴァイオリニストのフリッツ・クライスラーからの依頼で委嘱されました。曲は1910年に完成してクライスラーの独奏、エルガーの指揮で初演が行われて大成功となりました。

後に初演者によるレコーディングが企画されましたが、なぜかクライスラーは中々録音しようとしませんでした。そこで代わりに抜擢されたのが、当時若干16歳のユーディ・メニューインで、1932年にエルガー自身の指揮で録音が行われました。 

曲は3楽章構成です。 

第1楽章アレグロ ロ短調  冒頭、管弦楽により主題が長々と提示されますが、正にエルガーらしい品格のあふれる美しさです。ついに満を持してヴァイオリンソロが登場すると、主役は完全に移りますが、充実した管弦楽が常にそれを支えています。  

第2楽章変アンダンテ 変ロ長調 まるで英国の美しい田園風景を目の当たりにするような詩情に包まれながら、ヴァイオリンがいつまでも美しく歌い続けます。  

第3楽章アレグロ・モルト ロ短調~ロ長調 終楽章はヴァイオリンに様々な超絶技巧が要求されていて、名ヴァイオリニストと言えども大いに苦労します。それでも技巧だけの曲に陥らないところがさすがはエルガーです。 

それでは、愛聴するCDのご紹介です。  

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ユーディ・メニューイン独奏、エドワード・エルガー指揮ロンドン響(1932年録音/EMI盤) エルガーの指揮で初演者のクライスラーに代わって独奏をした当時16歳の神童メニューインの録音です。エルガーは「この曲での君の演奏ほど私に芸術的な喜びを体験させてくれたものは無かった」と後にメニューインに手紙を送っています。それが本心に違いないことはこの演奏を聴けば容易に理解できます。高度の技術、深い表現力に驚嘆します。そしてエルガーの指揮も他のどの指揮者よりも生気に溢れていて感動的です。当然SP録音で音質は良くないですが聴き易く、一度聴き始めた途端に全く気に成らなくなります。歴史的であると同時に最高の演奏です。 

Elgar-v-41dtfdzmmzl_ac_ ユーディ・メニューイン独奏、サー・エイドリアン・ボールト指揮ロンドン・フィル(1965年録音/EMI盤) 16歳でこの曲の録音を行ったメニューインですが、これは33年後にロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで演奏したライヴ録音です。この翌年には後述の二度目のセッション録音が行われますが、基本解釈に大きな違いは有りません。年齢を経てからの実演ゆえに時々ヴァイオリンの弓が揺れたり音が汚れたりはしますが、逆に気迫と即興性が感じられるのは楽しいです。録音もステレオで意外と優れています。 

Elgar-v-2tcdjil_ac_ ユーディ・メニューイン独奏、サー・エイドリアン・ボールト指揮ニュー・フィルハーモニア管(1966年録音/EMI盤)メニューインにとって2度目となる録音ですが、英国の名匠ボールトを指揮者に迎えての万全の体制で行われました。妙な力みが無く自然体でありながらも、エルガー直伝による作品理解と演奏にかける意気込みとで、これもまた素晴らしい演奏です。もちろん最新録音では有りませんが、当時のEMIとしてもベストの音録りに成功しています。前年のライヴと比べれば当然完成度は勝ります。 

Elgar-v-51rynss0odl_ac_ ヒュー・ビーン独奏、サー・チャールズ・グローヴス指揮ロイヤル・リヴァプール・フィル(1973年録音/EMI盤) ミスター・ビーンこと(んなわけないだろ)ヒュー・ビーンはカラヤンやクレンペラー時代のフィルハーモニア管のコンサートマスターで、英国内で非常に尊敬されていました。この録音はその実力の何よりの証明です。切れ味や凄味は乏しいですが、美しい音でソリスト然とせずに音楽に奉仕する芸風はエルガーの音楽にぴったりですし、何よりも緩徐部分での心のこもり方が並みでありません。グローヴスとオーケストラも素晴らしいです。 

Elgar-v-41wfcpbgnal_ac_ チョン・キョンファ独奏、ゲオルク・ショルティ指揮ロンドン・フィル(1977年録音/DECCA盤)  デビュー当時もベテランになっても、その孤高の芸風が変わることの無いキョンファですが、このエルガーもまた禁欲的なまでに余計なものを削ぎ落した演奏です。ですので、聴き手によっては余り面白くないと思うかもしれませんが、それこそがこの人の特徴です。奥に秘められた音楽への深い愛情を是非とも感じ取られてください。ショルティの指揮は幾らかカッチリし過ぎの感は有りますが、エルガーを知り尽くすロンドン・フィルの力も借りて決して悪く有りません。

Elgar-vn-192 イダ・ヘンデル独奏、サー・エイドリアン・ボールト指揮ロンドン・フィル(1977-78年録音/TESTAMENT盤:EMI原盤) 10ヵ月の間に三回に分けて入念に行われたセッション録音です。1楽章のボールトのテンポは前述のメニューイン盤よりもかなり遅く、雄大なスケールで立派なことこの上有りません。2楽章も遅く、深々とした詩情がまるでデーリアスのようです。問題は3楽章で、遅いテンポが緊張感を欠いて音楽がもたれがちです。ヘンデルに関しては遅いテンポでの大きなヴィブラートがやや過剰気味のように思えます。技術的には大健闘していますが、所々で僅かに疵が気に成ります。

Elgar-v-71bt2fg4xcl_ac_sl1050_ イダ・ヘンデル独奏、サイモン・ラトル指揮バーミンガム市響(1984年録音/TESTAMENT盤) ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールにおけるライヴですが、これは素晴らしい演奏です。ヘンデルは愛情一杯に歌わせていながらも決して饒舌にはなりません。特に2楽章が秀逸です。ヴィブラートも過剰には感じません。1、3楽章は技術的に6年前の録音よりも上出来で、この人はこんなに技巧的にも弾けたかと認識を新たにするほどです。ラトルとバーミンガムについてもライブならではの生気に溢れ、しかも奇をてらった印象は全く受けず、このようなオーソドックスな演奏も出来るのだと感心しました。録音も非常に良く、オーケストラの音が柔らかく美しく捉えられています。 

Elgar-v-512lmimsyl_ac_ ナイジェル・ケネディ独奏、ヴァーノン・ハンドリー指揮ロンドン・フィル(1984年録音/EMI盤) 英国生まれのケネディはジュリアード音楽院でドロシー・ディレイに師事しますが、アカデミックな教育と肌が合わなかった事を公言したり、プロデビューの日に衣装を忘れて古着姿で演奏し、その後もパンク・ファッションを衣装としたり、あるいはポップ・ミュージシャンとの共演、ジャズやロック曲の演奏などと自由奔放な行動で知られました。しかし、本国での実力評価は高く、このCDもグラモフォン誌のレコード・オブ・ザ・イヤーに選出されました。名匠ハンドリー指揮の素晴らしいオーケストラをバックに、歌い崩しやハッタリの無い極めて正統的なエルガーを聴かせます。 

Elgar-v-51xucvpt1al_ac_ ナイジェル・ケネディ独奏、サイモン・ラトル/バーミンガム市響(1997年録音/EMI盤) 旧盤から13年後の二度目の録音です。様々な経験を経た為か旧盤とくらべて、大きな歌わせ方と表現意欲が感じられます。ラトルの指揮も同様に現代的にメリハリを効かせた演奏を聴かせます。従って、その点でベストマッチと言えますが、決して音楽を逸脱しているわけではありません。一般的には新盤が好まれるでしょうが、より英国紳士的なエルガーを味わいたいとすれば旧盤かもしれません。どうかご自分の耳と感覚で両者を聴き比べて頂けたらと思います。 

Elgar-v-61rjhbzelkl_ac_sl1000_ ヒラリー・ハーン独奏、サー・コリン・デイヴィス指揮ロンドン響(2003年録音/グラモフォン盤) ハーンが24歳の時の録音ですが、メニューインのように10代から盛んに演奏活動をしていたので、既に風格を感じます。もちろん技巧的にも完璧です。歌わせかたがクールで感情を前面に出さないアイス・ドールなのは相変らずなのですが、この曲の場合には余りマイナスにはなりません。ただし、温かい歌が好きな方には物足りないかもしれません。Cデイヴィスの指揮は貫禄で立派この上ない管弦楽を聞かせてくれます。 

どれもこの名作を楽しむのに不足は無いのですが、演奏だけで考えればメニューインとエルガーの共演盤が最高です。あとはマイ・フェイヴァリットとして、ヘンデル/ラトル盤とメニューイン/ボールトのライヴ盤ですが、ビーン/グローヴス盤、それにケネディの二種類にも大いに惹かれます。

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2021年9月 4日 (土)

エルガー 交響曲第2番 変ホ長調 Op.63 名盤 ~エドワード7世に捧げる~ 

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交響曲第1番で大成功を収めたエルガーは3年後に、続く交響曲第2番を書き上げます。

もっとも、この第2番は、第1番よりも前に着手していた交響曲(スーダンで戦死したゴードン将軍の伝記を基にした「ゴードン交響曲」)からの転用でした。この作品は未発表だったので、それを転用して交響曲第2番としたのです。 

おりしも第2番が完成する前に国王エドワード7世が崩御したために、追悼に捧げられることになります。しかし作品自体は追悼のための哀歌ではなく、9年間という短い在位の間に昔からの敵国フランスやロシア、またアジアの新興国日本と関係を創り、「ピースメーカー」と呼ばれたエドワード7世の平和で繁栄した時代の回顧といった性格の曲となっています。ベートーヴェンの「エロイカ」と同じ変ホ長調で、第2楽章が葬送行進曲であることから、この曲はエルガーの「英雄交響曲」とも呼ばれます。 

初演は1911年にロンドン音楽祭においてエルガーの指揮、クィーンズホール管弦楽団により行われました。エルガーは終演後に何度か舞台へと呼び出されたものの、交響曲第1番の時のような聴衆からの大喝采は有りませんでした。エルガーはそれにがっかりしたようですが、おそらく聴衆はこの作品を一度聴いただけでは理解できなかったのですね。 

その9年後の1920年にエードリアン・ボールトの指揮によって演奏されると大成功を収め、この作品の真価が認められました。 

ところが、その演奏会の数週間後に愛妻アリスが亡くなります。エルガーは哀しみで創作意欲を失ってしまい、その後は目立った作品を残していません。 

1932年にはBBCがエルガーに交響曲第3番の作曲を委嘱しますが、体調が悪く創作は進みませんでした。翌年入院をしますが、大腸癌が既に手遅れの状態だった為に、第3番が未完成のまま、エルガーは生涯を閉じます。 

交響曲第2番は第1番と同じ4楽章形式です。 

第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ、上品に、気高く
開始から正にエドワード7世時代の栄華が感じられるような明るく輝かしい曲想となっています。但し、明確な主題を持たないことが、初演で受け入れられなかった理由でしょう。第1番と比較すれば、取っ付き難さはどうしても否めず、第1番に比べて2番の人気が劣る原因はこの楽章に有ると思います。 

第2楽章 ラルゲット
葬送行進曲風の緩徐楽章で、エドワード7世の崩御が影響したかどうかは定かでありませんが、現世に別れを告げて永遠の彼方を想うような、厳かで感動的な音楽です。ちょっとブルックナーの緩徐楽章に通じるものが有る様な気もします。もしも第2番が親しみにくいと感じられる方には、まずこの楽章を集中して聴かれるのが良いのではと思います。 

第3楽章 ロンド-プレスト
スケルツォ楽章に当たり、歯切れの良さと重々しさの交錯が楽しい傑作です。 

第4楽章 モデラート、荘厳に
荘厳な主題で始まりますが、やがて輝かしく盛り上がり、正に栄華の時代を象徴するかのようです。付点音符が多用されて、リズミカルでありながらもエルガーらしい堂々とした楽想となっています。コーダはエレジー風で、第1楽章の冒頭主題と第4楽章の冒頭主題を回想して、次第に静かに終わりを迎えます。 

一般的には第1番の方が人気は高いですが、第2番は通好みの良さが有り、じっくり聴けば魅力の点で全く劣りませんし、むしろ第1番以上の傑作だと言えます。 

それでは、愛聴盤のご紹介です。 

Elg51nuu6e8yll_ac_ サー・ジョン・バルビローリ指揮ハレ管(1964年録音/EMI盤) EMIへの録音は第1番がフィルハーモニア管でしたが、第2番はハレ管になりました。その為に、第1楽章は響きがやや粗く感じられてしまい、曲の良さが感じられ難くなっています。その代わり、第2楽章では歌わせ方も表情も豊かで情感に溢れていて、とにかく感動的です。第3楽章は切れの良さよりも重量感を感じます。フィナーレも感動的なのですが、このような壮麗な曲想となると管楽器の力量がやや物足りないのはやむを得ない所です。録音の鮮度は落ちていますが、鑑賞に差し支えるほどではありません。写真は第2番との2枚組です。 

Elg81mofpnsl7l_ac_sl1200_ サー・エードリアン・ボールト指揮ロンドン・フィル(1975-6年録音/EMI盤) エルガー協会の初代会長ボールトの演奏はさすがに完成度が高いです。オーケストラの統率力が素晴らしく、管楽器のバランス、彫りの深さは見事です。ただ、第1番の時にも書きましたが、理路整然とし過ぎているのはマエストロの長短相半ばする特徴です。それでも第2楽章などは基本テンポが速い割に、壮大で充実感に溢れていてすこぶる感動的です。第3楽章も聴き応えが有りますが、クライマックスはやはり終楽章です。英国らしい格調の高さと壮麗さが実に素晴らしいです。録音はEMIの長所が出ていて、明瞭さと柔らかな音色を上手く捉えています。写真は第2番との2枚組ですが、単売でも出ています。 

Elg81dyllhhknl_ac_sl1417_ サー・エードリアン・ボールト指揮BBC響(1977年録音/ica盤) これはプロムス・コンサートにおけるライヴです。とかく「立派だが退屈だ」とケチを付けられるボールトですが、この曲のEMI盤は決して退屈では有りませんでした。ところが翌年のライブ、しかもプロムスとあってはやはり演奏の高揚度、彫りの深さにおいてEMI盤を凌ぎます。全般的に速めのテンポですが、音には魂が籠り、退屈する間など少しも無く、演奏に常に引き付けられっぱなしです。BBCの録音は良好で、もちろん最新の音とは行きませんが、この素晴らしい演奏を問題なく鑑賞出来ます。 

Elg-no2-wdsyi3vl_ac_ ヴァーノン・ハンドリー指揮ロンドン・フィル(1980年録音/EMI盤) 英国の指揮者ハンドリーはボールトに師事しました。日本では知名度は低いですが、本国では有名です。全体的に神経質なところの無いおおらかさとスケールの大きさを感じます。特に弦楽のフレージングが魅力的です。音楽の恰幅の良さにおいては師ボールトを凌駕しています。どの楽章にも惹きつけられますが、第2楽章の深い感動、第3楽章のワクワクする楽しさ、終楽章のゆったりとしたテンポによる深い味わいと、どれもが素晴らしいです。録音はEMIトーンですが優れています。

Elg-thomson-2 ブライデン・トムソン指揮ロンドン・フィル(1985年録音/Chandos盤) トムソンも英国の指揮者で、イギリス音楽のファン以外には知られていないでしょう。しかしハンドリーといいトムソンといい、英国には自国音楽のスペシャリストが大勢いて、他の国の音楽家の及ぶところでは有りません。トムソンは1楽章から通常よりもかなり遅いテンポですが、だれるどころか巨大なスケールで大変に聴き応えが有ります。2楽章も崇高なまでの足取りが圧巻です。後半の3、4楽章も仰ぎ見る様な壮大さはおよそ類を見ません。まるでブルックナーの後期作品を聴くようです。

Elg71d4osfwbxl_ac_sl1200_ サー・コリン・デイヴィス指揮ロンドン響(2001年録音/LSO盤) デイヴィスがロンドン響の首席指揮者在任中のエルガー連続演奏会のライブ収録による交響曲全集に含まれます。この曲は録音の良い演奏で聴くと、やはり大きなアドヴァンテージとなります。演奏もデイヴィスらしい、ゆったりとしたテンポによる大きな歩みがスケールの巨大さを感じさせます。意外と切れの良さを感じさせる第3楽章に続く肝心の終楽章ですが、堂々とした歩みで徐々に盛り上がりを見せてゆき、とても聴き応えが有ります。録音は優秀で、楽器の自然な音色を美しく聴かせて、実際のホールに居るような臨場感を与えてくれます。このセットのメリットは補稿完成された第3番も聴けることですが、正直余り面白いとは思いません。 

81hjtilpfpl__aa1500__20210904171101 アンドレ・プレヴィン指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管(1992年録音/コンセルトへボウ管弦楽団アンソロジー第6集1990-2000より) さて、個人的には英国の指揮者と楽団の演奏にこだわりますが、例外的に気に入っているのが、ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団による自主制作CDです。このセットにはテンシュテットのマーラー5番や、ザンデルリンクのブルックナー3番など興味をそそられる録音が目白押しですが、これもその一つです。プレヴィンのややあっさりとした指揮に演奏のコクを与えているのは紛れもなくコンセルトヘボウの音色です。英国の団体以外でエルガーをこれほど自然に、充実した響きで聴かせるのは稀のように思います。録音も優秀ですし、隠れ名盤です。 

英国系の指揮者は意外と多いですし、これ以外にも良い演奏は有るでしょうが、愛聴盤の中でも特に気に入っているのは、今はトムソン/ロンドン・フィル盤です。続いては、ボールト/BBC響のプロムス・ライブ盤、ハンドリー/ロンドン・フィル盤、 プレヴィン/コンセルトへボウ盤です。

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2021年8月24日 (火)

エルガー 交響曲第1番 変イ長調 Op.55 名盤 ~大英帝国の衰退と落日~

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エルガーのチェロ協奏曲に比べると、交響曲はいま一つポピュラーとは言えないかもしれませんが、この分野でエルガーは2曲を完成させていて、他に未完成作品(第3番/補稿版有り)が1曲有ります。 

交響曲第1番は1907年から1908年にかけて作曲され、初演指揮者のハンス・リヒターに献呈されました。その初演はマンチェスターでハレ管弦楽団の演奏で行われました。リヒターはこの曲を「当代最高の交響曲」と高く評価しましたが、曲の構成や主題の繰り返しがしつこいと批判的な評も有ったそうです。しかし、初演は大きな反響を呼び、1年間で百回以上も再演されました。 

全体は4楽章から成ります。第1楽章の冒頭に出て来る旋律が循環主題として用いられて、全曲にわたって何度も繰り返し登場します。 

1楽章 アンダンテ、気高く、素朴に-アレグロソナタ形式。
主題がヴィオラと木管楽器で提示され、やがてトゥッティとなり、その後アレグロの主部へ入る。長い展開部の後に金管が力強く強奏してクライマックスを迎える。 

2楽章 アレグロ・モルトスケルツォ楽章にあたる。
激しく動き回る弦楽器に対し、金管による行進曲風の旋律が奏される。中間部を経て次第に落ち着き、切れ目が無く次の楽章に入る。

3楽章 アダージョ、とても感情的に、そして音を長く
叙情的で、美しい緩徐楽章。ゆったりと広がるイギリスの美しい自然を想わせる。ブルックナーの緩徐楽章にも匹敵する素晴らしさである。 

4楽章 レント -アレグロ - 堂々と威厳を持って
不穏な雰囲気で導入され、やがて主題、続いて新しい印象的な楽想が現れる。そして追い立てられるような主題、勇壮な主題が続き、コーダは序奏動機から始まり、主題が再びトゥッティで壮大に奏されて感動的に終結する。 

エルガーの交響曲は第2番も素晴らしいですが、親しみ易さで言えばやはり第1番が上です。いかにもエルガーらしい、堂々としたスケールの大きさを持ち、それがこけおどし的なものでは全く無く、気高さと威厳を持つからです。もし、この曲にタイトルが、例えば「グレート・ブリテン」(笑)とでも付けられていれば、ずっと人気が上がったことでしょう。 

しかし、個人的には、この曲にはどうしても「立派さ」と共に「翳り」の印象を受けてしまいます。それは、かつては七つの海を支配した大英帝国が、第一次世界大戦の終結後に、繁栄から徐々に衰退の道を歩んでゆき、やがて訪れる落日の時を迎えることを暗示しているような気がしてならないのです。
しかし、それでも英国紳士は決して気高さを失いません。心の翳りを他人に悟られまいと覆い隠して堂々と振舞います。そんな曲には感じませんか? 

それでは、愛聴盤のご紹介ですが、かなり指揮者が偏ります。 

Elg51nuu6e8yll_ac_ サー・ジョン・バルビローリ指揮フィルハーモニア管(1962年録音/EMI盤) エルガーを得意とするバルビローリですが、主題から「これしかない」という良いテンポで気高さを持って進みます。様々な動機の歌わせ方も表情豊かで気品に溢れ、とても魅了されます。アダージョはサー・ジョンの面目躍如ですし、フィナーレも感動的です。とにかく曲の魅力がストレートに心に入り込んできます。もし、この曲を最初に聴くとすれば最適な選択だと思います。録音も当時のEMIにしてはかなり良好で、トゥッティで幾らか音の混濁が有りますが、聴き慣れると気になりません。写真は第2番との2枚組ですが、管弦楽曲をまとめた5枚のBOXも有ります。 

Elg31fkehrbvzl_ac_ サー・ジョン・バルビローリ指揮ハレ管(1970年録音/BBC盤) EMI盤とは8年の間が有りますが、基本解釈やテンポに大きな違いは感じません。オーケストラも異なりますが、こちらはライブである分、楽器の整い方やハーモニーの美しさはEMI盤に僅かに劣るように思います。しかし、ライブならではの感興の高さにおいて上回るのが大きな魅力です。第2楽章は非常に切迫感が有りますし、フィナーレの盛り上がりも凄いです。録音も明瞭さにおいてはEMI盤よりも上回ります。完成度の高さのEMI盤、感興の高さのBBC盤、どちらを好むかは聴き手次第です。 

Elg81mofpnsl7l_ac_sl1200_ サー・エードリアン・ボールト指揮ロンドン・フィル(1976年録音/EMI盤) ボールトはエルガー協会の初代会長ですが、満を持して行った録音はさすがに完成度が高いです。エルガーでは重要となる管楽器の扱いも抜群で、彫りの深さは特筆されます。しかし全体的に理路整然としているところが「お堅い英国紳士」という印象を受けます。「冗談も受けないのではないか」と心配になり、友人になるならやはり情に深いバルビローリかな、というところです。録音は優れます。EMIの音造りが長所となった感が有り、明瞭さと同時にイギリスの団体特有のくすんだ音色を忠実に捉えています。写真は第2番との2枚組です。 

Elg81sawoja5l_ss500_ サー・エードリアン・ボールト指揮BBC響(1976年録音/ica classics盤) これは前述のEMI盤の録音の2か月前に行われたライブ録音です。セッション録音のEMI盤とは印象が大きく異なり、第1楽章からテンポは速めで、気迫が溢れ出るようです。金管やティンパニーも目立ちます。第2楽章では切れの良さとスピード感に興奮させられます。アダージョは悪くありませんが、バルビローリほどの美しさや陶酔感は感じません。フィナーレではたたみ掛けるような迫力が凄く、ボールトがここまで熱くなるかと驚きです。この演奏を聴いてしまうとEMI盤はどうしても退屈に感じられます。録音は明瞭です。

Elg51lfdbqjal_ac_ ヴァーノン・ハンドリー指揮ロンドン・フィル(1979年録音/EMI盤) 英国の指揮者にとってエルガーは避けては通れないのでしょう。ハンドリーはボールトに師事した人で、日本では知名度は低いですが、本国では当然知られているようです。ボールトとは必ずしもタイプが同じようには感じません。オーケストラの統率は少々緩いですが、逆に音楽そのものはボールトよりも大きさを感じさせます。ちょっと若い頃のバーンスタイン・タイプかもしれません。この演奏にも聴き込むうちにぐいぐいと惹き付けられてしまうような力が有ります。録音はまずまずというところです。

Elg-thomson-1 ブライデン・トムソン指揮ロンドン・フィル(1985年録音/Chandos盤) トムソンもまたイギリス人で英国音楽ファン以外にはほとんど知られていないでしょうが、多くの英国作品の録音を行っています。しかもこの悠揚迫らざるテンポでスケールが大きく、音楽がはなはだ立派なことでは、ボールト、ハンドリーをも凌ぎます。加えて優しさや気品、瑞々しい美しさにも事欠かないのが素晴らしいです。このような演奏を知ってしまうと、やはり「英国音楽は英国の演奏に限る」と、嫌でも思えてしまいます。録音も優秀です。

Elg71d4osfwbxl_ac_sl1200_ サー・コリン・デイヴィス指揮ロンドン響(2001年録音/LSO盤) デイヴィスがロンドン響の首席指揮者在任中の演奏会のライブ収録によるエルガーの交響曲全集に含まれます。第1番はデイヴィスとしても3回目の録音と成り、非常に風格のある演奏です。ゆったりと開始されてスケールの大きな歩みが大いに威厳を感じさせます。第2楽章もやたらと急き込むわけでは無く重みが有ります。そして続くアダージョは良く歌わせるバルビローリのスタイルとは全く異なり、かなりの弱音で演奏されて、その静寂の中に立ち込める秘かな美しさが感動的です。そしてフィナーレも悠揚迫らざる堂々とした歩みで徐々に壮大な盛り上がりを見せてゆきます。録音も実際のホールで聴いているような生々しさが有ります。 

他にも良い演奏は有るでしょうが、所有盤の中で今ではブライデン・トムソン盤に最も共感を覚えます。続いてはバルビローリのEMI盤とBBC盤の二種、コリン・デイヴィス/ロンドン響のライブ盤に魅力を感じます。ハンドリー盤も捨て難いです。

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2021年8月13日 (金)

エルガー チェロ協奏曲 ホ短調 Op.85 名盤

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エルガーのチェロ協奏曲ホ短調作品85は、地味な曲でコンサートでは滅多に演奏されませんが、ドヴォルザークのそれに次いで人気が高いのでは無いでしょうか。 

この曲が作曲された1918年にエルガーは病気療養のためにサセックスの山荘に滞在して、そこで第1楽章の主題となる旋律の原形と呼べる部分を書いたとされます。しかし、手術や第一次世界大戦などで精神的に落ち込み、しばらくは作曲に専念出来なかったそうです。そんな背景からか、この曲は悲劇的なチェロのカデンツァで開始されますが、それは曲全体の重要なテーマとなり、様々に展開されてゆきます。 

同じ年の夏には曲が完成し、翌191910月にロンドンでフェリックス・サルモンドの独奏とロンドン交響楽団をエルガー自身が指揮して初演が行われました。ところが、リハーサル時間がほとんど取れなかった為に演奏は上手く行きませんでした。その為、当時26歳の若さながら優れた女流チェリストのビアトリス・ハリスンの独奏で録音を行い、ようやく作品は評価を得ることに成功しました。 

1934年にエルガーが亡くなるとき、病床でこの曲の主題を友人に口ずさんで聞かせて、「自分が死んだ後に、もしモールヴァーン丘陵で誰かが口笛でこの曲を吹いていたら怖がらなくていいよ。それはきっと僕だからね」と語ったそうです。

モールヴァーン丘陵(Malvern Hills)はエルガーの生地ウスターの南に延びる小高い丘陵地帯で、彼は幼少期から晩年までこの近くに暮らして毎日散策し、その眺めをこよなく愛したそうです。(Topの写真) 

曲は4楽章で構成されます。ただし第1と第2の楽章は切れ目なく演奏されます。 

第1楽章は冒頭の独奏チェロによる、重音を使った悲劇的なカデンツァで開始されます。このカデンツァと主題はエルガーが病床にいたことを反映していると想われます。

第2楽章はチェロの速いスピッカートを主体に演奏されます。

第3楽章は歌曲形式を持った美しいアダージョですが、やはり悲愴感を漂わせます。

第4楽章の前半はリズミカルな主題が中心ですが、後半に入ると速度を落とし、幾つかの主題が再現されてから、最後は和音で劇的に終わります。 

それでは僕の愛聴盤をご紹介してみます。

Elgar-v-c-1v48vc8fxl_ac_sl1500_ ベアトリス・ハリソン独奏、エドワード・エルガー指揮ニュー・シンフォニー響(1928年録音/EMI盤) この作品の評価に大きな貢献をしたハリソンをエルガーはこの曲を指揮するときに決まってソリストに指名したそうです。そして二度目の録音を行いました。古いSP録音ですが音は比較的聴き易く、何よりもエルガー自身の指揮の演奏を聴けるのも価値が高いです。ハリソンの演奏は幾らかオールドファッションですが、後年の多くの奏者の演奏と比べてもさほど遜色は有りませんし、むしろデュ・プレなどの演奏の原点を知ることが出来ます。

El617zvpeufwl_ac_ パブロ・カザルス独奏、サー・エードリアン・ボールト指揮BBC響(1945年録音/EMI盤) どの作曲家の作品でも、カザルスの演奏は歴史的な録音には違いありませんが、現在の視点からは必ずしも第一級とは言えないように思います。この演奏はカザルスらしい情緒綿々と歌っていますが、エルガーにはやや粘着的に過ぎます。当時はもてはやされたことでしょうが、同じ系統で完成度の高いデュ・プレの録音が登場してからは陽が当たらなくなったのは容易に想像できます。もちろんモノラル録音ですが音質は年代的にはまずまずです。とにかく実際にご自分の耳で聴かれることをお勧めします。 

El51dpuqrgnl_ac_ ジャクリーヌ・デュ・プレ独奏、ジョン・バルビローリ指揮/ロンドン響(1965年録音/EMI盤) デュ・プレは1961年に16歳でこの曲を弾いてデビューしました。その時の指揮者はバルビローリです。彼女はその後もこの曲を何度も演奏し続けて、作品を世に知らしめた功績は大きいです。この10年後に多発性硬化症という病魔に侵されることをまるで予感していたかのような壮絶な演奏で、こうして録音を聴く我々に否応なく哀しみを感じさせます。バルビローリはエルガー演奏の最高の権威者の一人なので、実に立派で情緒豊かにデュ・プレを支えています。3楽章の詩情の深さもマエストロの独壇場です。EMIの録音は聴き易いものだと思います。ちなみにバルビローリは、この曲の初演の際にオーケストラのチェロ奏者の一人として参加をしていたそうです。 

El51uu4sufvbl_ac_ ジャクリーヌ・デュ・プレ独奏、ジョン・バルビローリ指揮/BBC響(1967年録音/TESTAMENT盤) デュ・プレはこの曲を様々な指揮者と演奏していますが、やはりバルビローリとの共演は特別です。これはEMIのセッション録音から2年後にプラハで行われたライブですが、この演奏で表現する悲壮感、痛切さはEMI盤以上に感じられます。人間の哀しみを全て背負ってしまったかのような圧倒的な演奏です。冒頭のカデンツァからして魂の叫び以外の何物でもありませんし、平凡な奏者が弾けば、何と言うことのない曲にも聞こえてしまう終楽章も激しい切迫感を持って迫り来ます。録音はライブながらデュ・プレのチェロもオーケストラも明瞭で彫りの深さを感じられる生々しい音質なのが嬉しく、正に宝物だと言えるでしょう。

Elgar-517h9tvgbl_ac_ ジャクリーヌ・デュ・プレ独奏、ダニエル・バレンボイム指揮/フィラデルフィア管(1970年録音/SONY盤) デュ・プレは1967年に室内楽パートナーだったバレンボイムと結婚します。指揮者としても活躍したバレンボイムがフィラデルフィア管に客演した時にデュ・プレを連れてきて、この曲の演奏をしました。録音は地元の放送局によるものなので、必ずしも万全とは言えません。しかし二人の幸福な時代の共演記録として貴重です。デュ・プレのチェロに関しては前述のバルビローリとのライブよりも更に演奏に気迫と壮絶さを増している気がします。大見えを切るようなタメやダイナミクスさは尋常でありません。その代償に美感を損ねることなどいささかも躊躇しないかのようです。

Elsl1600 ポール・トルトゥリエ独奏、サー・エードリアン・ボールト指揮ロンドン・フィル(1972年録音/EMI盤) デュ・プレの演奏は感動的な点ではおよそ比類が無く、何人をもってしても置き換わることは出来ないと思います。しかしエルガーの音楽がそれだけで全てかと言えば、決してそんなことは有りません。「英国紳士があれほど感情あらわに慟哭するものだろうか」という疑問が頭を過ります。であれば、ここはデュ・プレも師事したトルトゥリエは如何でしょう。どこの国の音楽でも素晴らしく弾き切るこの人は、正に知と情のバランスの良い演奏を聴かせてくれます。バルビローリと並ぶエルガー演奏の大御所ボールトの指揮もやはり素晴らしいです。 

Elgar-81lju71bpcl_ac_sl1478_ ジュリアン・ロイド・ウェバー独奏、ユーディ・メニューイン指揮ロイヤル・フィル(1985年録音/フィリップス盤) ロイド・ウェバーと言うと、どうも兄のアンドリューを思い浮かべます。「キャッツ」「オペラ座の怪人」の作曲で余りに有名だからです。しかし弟のジュリアンもフルニエに師事して才能を開かせた名チェリストで、母国イギリスでは人気が高かったです。技巧的な切れ味は無く、芸風がデュ・プレとは正反対の温厚なところが国外では余り受けなかったのでしょうが、このエルガーなどを聴くと、いかにも英国風の穏やかな演奏に安心して耳を傾けられます。メニューインも若い頃からエルガーの曲を弾いていただけあって音楽への敬愛に溢れます。録音の良さも特筆されます。

Elimg_1245 スティーブン・イッサーリス独奏、リチャード・ヒコックス指揮ロンドン響(1988年録音/Virgin盤) 1959年イギリス生まれのイッサーリスが29歳の時の録音です。常にガット弦を使用することで知られるこの人の演奏には大向こうを唸らせるような派手さは有りませんが、センスの良さと品の良い味わいは非常に魅力で、エルガーの音楽には適していると言えるでしょう。ヒコックスの指揮とロンドン響の演奏も地味ですが、そこがいかにも英国音楽でございという格式と雰囲気がイッサーリスにぴったりです。なお、イッサーリスには後述するパーヴォ・ヤルヴィとの新録音が有ります。 

El81mf8sgporl_ac_sl1400_ ロバート・コーエン独奏、サー・チャールズ・マッケラス指揮ロイヤル・フィル(1992年録音/argo盤) イッサーリスと同じ年にイギリスで生まれたコーエンも地味な存在ですが、この演奏は素晴らしいです。チェロの音色は渋く、イッサーリス以上に感情を大げさに吐露することなく、さらりと弾いています。ところが淡々とした表情から生まれる寂寥感が胸の奥底に滲みわたります。ああ、これこそが英国紳士というものではないだろうかと思えます。それでいて2楽章のスピッカートなどは非常に切れが良く見事なものです。マッケラスの指揮も同様に地味ですが、ロイヤル・フィルの音は英国の団体特有のほの暗い響きで美しく、コーエンのチェロにぴったりです。

Elgar-715uw4rbrxl_ac_sl1050_ ナタリー・クライン独奏ヴァーノン・ハンドリー指揮ロイヤル・リヴァプール・フィル(2007年録音/EMI盤) 英国音楽は英国の演奏家に限ると思っているので、贔屓目にならないように気を付けているつもりですが、しかしこの英国出身のクラインもやはり素晴らしいです。当時新人としての録音ですが、技術も高く、何よりも歌わせ方に気品が有ります。地味過ぎ無いバランスの良さが絶妙です。チェロの音の美しさにも魅了されます。デュ・プレの慟哭、叫びとは異なりますが、いかにも英国らしいのはクラインです。同郷の名匠ハンドリーもまた素晴らしいです。両者とも日本での知名度は必ずしも高くは無いですが、この曲の正統的な名演奏の一つで、余白にはエルガーの美しい小品が何曲も収められています。

Elg81pszarjvl_ac_sl1200_ スティーブン・イッサーリス独奏、パーヴォ・ヤルヴィ指揮フィルハーモニア管(2014年録音/Hyperion盤) 55歳になったイッサーリスの26年ぶりの待望の再録音です。ガット弦を使用し続けているので相変わらずチェロの音色自体は地味ですが、旧盤と比べると表情やニュアンスの豊かさをぐっと増しています。ヤルヴィの指揮はさすがに細部にこだわりを見せますが“微に入り細に入り”という感じが、エルガーの音楽には幾らか煩わしさが感じられるかもしれません。それでもイッサ―リスの新旧両盤のどちらかを選ぶとすれば、やはり新盤ということになります。

Elgar-817p7kseil_ac_sl1500_ ソル・ガベッタ独奏、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル(2014年録音/SONY) アルゼンチン出身のガベッタは“現代のデュ・プレ”と言われるほど人気の高いチェリストですが、これは早くもこの曲の2度目の録音でバーデン=バーデンでのライヴです。音色の艶と美しさもさることながら、極めて高い技巧に裏付けられた驚くほどの表現力の豊かさを持ちます。但し、デュ・プレのような“魂の叫び”を感じることは出来ません(というか目指していないのかも)。とはいえラトル、ベルリン・フィルの音に埋もれないだけでも大したもので、終楽章などは、これほどスケールの大きさが有ったのかと再認識させられます。録音も音質・バランス極上です。 

お分かりのように愛聴する大半の演奏がエルガーの母国イギリスの演奏家によるものです。この曲では世界のビッグネームの演奏家のものだからと言って食指が動かされることは全くありません。それはともかく、この曲はどうしてもデュ・プレ抜きには語れません。彼女の残した録音はそのどれもが凄演ですが、特に’67年と’70年のライブ盤は圧倒的です。一方、個人的にはロバート・コーエン盤に何とも抗し難い魅力を感じています。

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2012年7月28日 (土)

エルガー 「威風堂々」第1番 ~2012 ロンドンオリンピック開催~ 

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いよいよロンドン・オリンピックが始まりましたね。無類の(?)スポーツ観戦好きの僕には大変に熱い夏になります。

(日本時間では)今朝の開会式も素晴らしかったですね。さすがはイギリスというか、気品と、慈愛の精神と、ユーモアがとても感じられました。なにしろ映像によって、エリザベス女王がジェームス・ボンドにエスコートされてバッキンガム宮殿からヘリコプターで会場にやって来て、空からパラシュートで降り立つような演出は正にイギリス式ユーモアです。日本の天皇陛下をこんな演出で登場させようとは誰も思わないでしょう。

サイモン・ラトルが指揮してロンドン交響楽団が演奏する「炎のランナー」のテーマ曲も傑作でした。ミスター・ビーンがオーケストラのメンバーとして混じって繰り広げるユーモアのなんと楽しいこと。さすがです。

一方でイギリス国家を耳の聞こえない子供たちの歌声で聞かせるあたりは、慈愛の精神を強く感じました。こういう部分は日本人としても是非とも見習いたいですね。

それにしても若者たちがスポーツで競い合う姿は本当に感動的です。この日のために毎日毎日鍛錬した成果を国の代表として、あるいは一個人として全力で披露するわけですから、心から感動せざるを得ません。

僕は大体どの競技も楽しみますが、特に好きなサッカーは、開会式に先駆けて始まったので既にヒートアップしています。女子がカナダに勝ったのは順当としても(川澄さんのシュートはお見事!)、男子がスペインの無敵艦隊を撃沈するなんて嬉しい番狂わせです。しかも、それは偶然では無く、個人技で優るスペインに一対一の局面でも決して負けていないのが嬉しかったですし、何よりもチームワークの勝利というのが素晴らしかったです。これなら期待できます。

体操にも本当に期待できますね。世界の選手に怖れられる内村くんは凄過ぎ(出来過ぎ??)です。「金メダルの目標は4個」と平気で言い切りますが、少しも気負いが感じられません。本当に取ってしまいそうです。田中三兄弟も爽やかでイイですね。理恵ちゃんにはメダル獲得というよりもあの美しい演技で観客を(男性の目を?)湧かせてもらいたいです。うーん素敵だぁ。熱い!

卓球も凄く楽しみです。世界で実力を上げてきた福原愛ちゃん、石川佳純ちゃん、それに平野さん頑張れ!おじさんは応援しているぞ!
男子の水谷準くんも期待充分です。メダルも夢では無いです。若い丹羽くんにも期待したいです。

水泳では北島康介にもちろん期待ですが、この何年かで日本の選手層はとても厚くなりましたよね。何人も活躍してくれるのではないかな。

その他にも、柔道、レスリング、陸上、マラソン、バレーボール、重量挙げと上げれば楽しみは幾らでもあります。こりゃあ、熱いゼ!野球とソフトボールが無いのは残念ですが、野球場も無く、野球のルールを全く知らないイギリスでは、まぁ仕方がありませんね。

それでは、世界の若者たちが競技を堂々と繰り広げることを願って、イギリスのエドワード・エルガーの「威風堂々」を聴きます。

「威風堂々」はエルガーが完成させた第1番から第5番までの5曲と、スケッチのみに終わった未完成の第6番があります。何といっても人気の高いのは第1番で、普通「威風堂々」と言えば、この曲を指します。その他の曲の中では第4番が好きです。

ということで、今日は第1番のみです。

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サー・アーサー・ブリス指揮ロンドン交響楽団(1958年演奏/DECCA盤) ブリスは19世紀の末にイギリスに生まれた作曲家で、エルガーとも親交が有ったそうです。指揮者もしていたために、1964年のロンドン響の日本ツアーの時にはモントゥーとともに来日して自作曲を指揮したそうです。この演奏は。マーチ集の中に収められていますが、ジャケットがイイでしょう。演奏は本当にあっさりと地味ですが、この控え目のセンスが何とも英国を感じさせるのです。録音は古いですが、その割には明瞭です。

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サー・ジョン・バルビローリ指揮フィルハーモニア管(1962年録音/EMI盤) 録音は古いですが、演奏は最高です。やはり派手派手さは少しも無く、盛り上がっても決して絶叫はしません。中間部の気高い精神を感じさせる落ち着いた雰囲気も正に英国紳士。アメリカのオケでは中々こうは行きません。バルビローリはエルガーのスペシャリストですが、こうした一品にも素晴らしさが滲み出ています。バルビローリは5曲を録音していて、全てまとめたCDも有りますので、御興味あれば是非聴かれてください。

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