リヒャルト・シュトラウス(歌曲)

2021年6月 3日 (木)

リヒャルト・シュトラウス 歌曲集「四つの最後の歌」 名盤

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自分はリヒャルト・シュトラウスの熱心な聴き手とは言えませんし、管弦楽曲などは一部を除き余り聴きません。強いて上げれば歌曲やオペラの方に魅力を感じます。その歌曲で特別な曲集と言えば、それはもう「4つの最後の歌」ですね。

4つの最後の歌」(独: Vier letzte Lieder)は、リヒャルト・シュトラウスが84歳となる、最晩年の1948年に作曲されたソプラノの為の管弦楽伴奏歌曲集です。シュトラウスの死後の1950年にロンドンでフルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管とキルステン・フラグスタートによって初演が行われました。 

初演時には「眠りにつくとき」「九月」「春」「夕映えの中で」の順番でしたが、同年の出版譜では出版商のエルンスト・ロートによって「4つの最後の歌」というタイトルが付けられ、現在通例となった「春」、「九月」、「眠りにつくときに」、「夕映えの中で」の順番に並べられました。もっともシュトラウスが初めからこの4曲を歌曲集として構想したということでは無く、最初に作曲されたのは、アイヒェンドルフの詩による「夕映えの中で」で、その後にヘルマン・ヘッセの詩による「春」、「眠りにつくときに」、「九月」の3曲が作曲されました。 

第1曲「春」(Frühling) 
ほの暗い洞窟のような冬の中で「お前」と呼びかける「春」を夢見ている。詩人はその、まばゆいばかりの美しさと生命に「春へのあこがれ」を感じて歓喜に高まる。 

第2曲「九月」(September) 
夏が終わり、秋の冷たい雨が花を濡らす庭で、詩人はアカシアの葉が落ちていくのを目にしている。過ぎゆく生命力溢れる夏を想いながらも、自然における命の終焉を感じている。 

第3曲「眠りにつくときに」(Beim Schlafengehen) 
一日の営みに疲れた芸術家が、夜の「眠り」のなかで疲れから解き放たれ、魂が再び自由に飛翔することを思い描いている。中間部では「まどろみの中に沈み」という言葉とともに、甘美な憧れのようなヴァイオリン・ソロが極めて印象的に奏される。 

第4曲「夕映えの中で」(Im Abendrot) 
長い旅をしてきた二人が夕映えのなか、小高い丘から田園を見渡している。二羽のひばりが空に昇っていく。広々とした静かな平和を感じながらも、二人は「死」を予感している。終結部では交響詩「死と変容」が引用されている。 

「4つの最後の歌」には、シュトラウスが徐々に自分に近づいて来る「死期」を予感するような翳りが感じられます。一方で「春」や「九月」で歌われるような命の輝きへの喜びは、作曲家として過ごしてきた長い人生の末にたどり着いた、満ち足りた幸福感を感じさせます。これこそ「彼岸」の境地だと言えるでしょう。 

さて、愛聴盤をご紹介します。 

71anof0xqjl_ac_sl1200_ リーザ・デラ・カーザ(S)、カール・ベーム指揮ウィーン・フィル(1958年録音/オルフェオ盤) これはザルツブルグ音楽祭でのライブ録音ですが、同じ年の音楽祭のカイルベルト指揮の「アラベラ」全曲の余白に収められています。カーザはベーム/ウィーン・フィルと‘53年にセッション録音をDECCAに残していますが、5年後のライブではより表現が深まった感が有ります。非常に人間的な歌唱ですが、後述のシュワルツコップにもひけを取らない気品と艶やかさが有ります。当時のウィーン・フィルの柔らかな音も魅力です。曲順は「眠りにつくときに」が1曲目に置かれています。ボスコフスキーであろう甘いヴァイオリンが絶美です。モノラル録音ですが、音質、バランスとも鑑賞には差し支えません。 

51jnfv19fxl_ac_ エリザベート・シュワルツコップ(S)、ジョージ・セル指揮ベルリン放送響(1965年録音/EMI盤) 声が全盛期を過ぎたとはいえ、シュワルツコップの彫りの深く情感豊かな歌唱はやはり素晴らしいです。実に人間的な温もりの有る歌を聴かせてくれます。セルの指揮するオーケストラも抜群で、「夕映えの中で」の生との惜別の表現などは、歌との間に寸分の隙間も無く一体となり深い感動を誘います。EMIによる録音は音像が遠く、せっかくのドイツの楽団の音色を再現していないのが残念ですが、音楽の素晴らしさは充分に伝えられています。ちなみにこのCDにはRシュトラウスの管弦楽伴奏歌曲がこの他に12曲収められていて、そのどれもが絶品です。 

717raqsetgl_ac_sl1500_ グンドゥラ・ヤノヴィッツ(S)、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1973年録音/グラモフォン盤) 故宇野功芳先生イチ押しの演奏で、曰く「ヤノヴィッツは人の声では無く器楽の様」とのこと。確かに大聖堂に響くグレゴリア聖歌の様な、どことなく宗教的に聞こえるところも有ります。カラヤンにしてはオーケストラを前面に押し出して歌を埋もれさせてしまうようなこともありません。録音こそ鮮度が幾らか落ちている感は有りますが、バランスも良いですし、鑑賞には問題ありません。ベストかどうかは別にしても、やはり名盤の一つに数えないわけにはいかないでしょう。 

51a15jpbadl_ac_ ルチア・ポップ(S)、クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィル(1982年録音/EMI盤) ポップもテンシュテットも癌で亡くなるのは因縁ですが、そんなこの世との別れを惜しんでいるかのような情感深い演奏です。ポップの声は元々美しいですし、歌唱が優しく、大げさにならないのが非常に良いです。テンシュテットのたっぷりとした指揮がこの曲の深さを余すところなく醸し出しています。マーラーでは時に響きが物足りないロンドン・フィルもこの曲では聴き劣りしないどころか、「眠りにつくときに」のヴァイオリン独奏など大そう感動的です。 

41yprwntiyl_ac_ ジェシー・ノーマン(S)、クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管(1982年録音/フィリップス盤) ノーマンの歌唱が何しろスケールが大きく、聴き応えが有るのですが、歌曲というよりもワーグナーの楽劇を思わせます。声質そのものの好き嫌いはともかくも、グラマラスでカロリーが高い為に、この惜別の歌にはもっと澄んだ声質が適するように感じられます。マズアの指揮は逆に地味ですが、この「惜別の歌」には余り派手過ぎるよりは良く、及第点としたいです。ゲヴァントハウスの音色も派手さが無く、しっとりと落ち着いていてこれはこれで良いです。 

51ckmxkpwal_ac_ アンナ・トモワ=シントウ(S)、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1985年録音/グラモフォン盤) カラヤン2回目の録音は、当時お気に入りのトモワ=シントウが歌いました。’70年代よりも更にゴージャスな響きになったベルリン・フィルをバックに見事な歌唱です。ややオペラティックなものの細部まで神経の張りつめた精妙な歌いまわしはカラヤンもさぞや満足したことでしょう。禁欲的な歌のヤノヴィッツの旧盤とどちらを取るかは聴き手の好み次第だと思います。

71ockrpyctl_ac_sl1091_ アーリーン・オジェー(S)、アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィル(1988年録音/TELARC盤) オジェーの美声とウィーン・フィルの美音が溶け合った、何とも美しい演奏です。それには歌と管弦楽のバランスが絶妙なテラークによる優秀な録音も大いに貢献しています。余りに美しく、惜別の哀しさというよりも、既に幸福な天上の音楽となっているようです。オジェーの歌唱はおよそ押し付けがましさが無いのでこの曲にぴったりです。プレヴィンも音楽をどこまでも自然に表現する手腕がここでは大いに生きています。「眠りにつくときに」のライナー・キュッヒルによる独奏ヴァイオリンも美しさの限りです。 

71qcjgoi3l_ac_sl1200_ ソイレ・イソコスキ(S)、マルク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送響(2002年録音/ONDINE盤) 知り合いに紹介されて気に入り購入したのが、フィンランド出身のソプラノ、イソコスキのこの比較的新しめの録音です。R.シュトラウスのスペシャリストらしく、「四つの最後の歌」以外にも11曲の管弦楽伴奏歌曲が収録されていて、どれも素晴らしいです。北欧の澄んだ湖水のような声質による端正な歌唱がこの曲にピッタリで、禁欲的な割に肌の温かみを感じさせます。大穴盤としてお薦めしたいと思います。ヤノフスキ指揮の管弦楽も美しいです。

この中で、特に愛聴盤を上げれば、やはりシュワルツコップ/セル盤ということになります。とはいえ、カーザ/ベーム盤、ヤノヴィッツ/カラヤン盤、ポップ/テンシュテット盤、オジェー/プレヴィン盤も捨てがたく(なんだ、ほとんど全部ではないか!)、どれもこの深い名曲を心から味合わせてくれます。 また、最近ではイソコスキ/ヤノフスキ盤を愛聴しています。

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