リヒャルト・シュトラウス(管弦楽曲)

2021年8月 4日 (水)

リヒャルト・シュトラウス 交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」Op.30 名盤


Space1200px

交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」(または「ツァラトゥストラはこう語った」: 独語: Also sprach Zarathustra) は、リヒャルト・シュトラウスが作曲した有名な交響詩です。 

でも、ツァラトゥストラって誰、何?
古代インドの性愛書、バラモンの学者の作で、性愛に関する事柄を記し、文学的価値も高い。。。? あ、これは“カーマスートラ”でした。(汗) 

ツァラトゥストラはドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの著作「ツァラトゥストラはかく語りき」に登場する主人公で、古代ペルシアのゾロアスター教の予言者だそうです。 

シュトラウスは、このニーチェの著作の幾つかの部分を選び出して、それらを4管編成の大管弦楽で描写的に表現しました。初演は1896年にフランクフルトでシュトラウス自身の指揮により行われました。 

曲全体は下記の9つの部分から成ります。 

1.導入部(Einleitung)または、日の出(Sonnenaufgang
2.後の世界の人々について(Von den Hinterweltlern
3.大いなる憧れについて(Von der großen Sehnsucht
4.喜びと情熱について(Von den Freuden und Leidenschaften
5.墓場の歌(Das Grablied
6.科学について(Von der Wissenschaft
7.病より癒え行く者(Der Genesende
8.舞踏の歌(Das Tanzlied
9.夜のさすらい人の歌(Nachtwandlerlied 

9つの部分は切れ目無しに続けて演奏され、トータルの演奏時間は30分を越えますが、主題の展開、再現などが変化に富んでいるので、とても面白く聴かせます。

しかし、この曲が有名な理由は、ひとえに1968年に公開されたスタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」の冒頭に第1曲が使われていることに他なりません。

そういえばこの映画には、最高の人工知能HAL(ハル)が重要な役割を果たしていましたね。(笑)

この第1曲は、正に宇宙の暗闇に太陽の光が差してくる一瞬を印象付けるような傑作です。“ファンファーレ”としておよそ古今の作品の中でこれほど見事な曲は他に決して有りません。

ちなみに映画で使用されたのはカラヤン/ウィーン・フィルの録音です。ところがキューブリック監督からの使用申し出に対して何故かデッカ社が指揮者/楽団名を表記しない事を条件にしたために公に知られず、逆に映画の大ヒットから一早く発売されたサウンドトラック盤にベーム/ベルリン・フィルの録音が収録されたことから、映画で用いられているのはベームの演奏だと思った音楽ファンは多かったようですし、かくいう私もその一人でした。 

なにしろこの曲は、エルヴィス・プレスリーの公演のオープニングに使用されたり、クロスオーバーのデオダートやパーシー・フェイスなど多くのミュージシャンによりアレンジされて演奏されました。あげくにプロレスの人気選手のテーマ曲としても使われました。 

もうひとつ、印象的な部分としては8曲の「舞踏の歌」が上げられます。ワルツのリズムで独奏ヴァイオリンが奏でる美しい調べにはとても魅了されます。そこから終曲の「夜のさすらい人の歌」へと続き、クライマックスを迎えた後に音楽が落ち着き、「大いなる憧れについて」や「科学について」の旋律がゆっくりと再現されます。 

リヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲では、「英雄の生涯」と並び称される傑作だと思います。 

それでは愛聴するCDをご紹介します。 

Rsimg_1168 クレメンス・クラウス指揮ウィーン・フィル(1950年録音/DECCA盤) 古いモノラル録音で、いかに優秀なことで知られるデッカの録音でもこの曲には物足りなさを感じます。しかし、それでも当時のウィーン・フィルの甘く柔らかい音には魅了されますし、Wボスコフスキーのヴァイオリンソロも美しく、香りがこぼれるようです。クラウスの指揮は全般的にあっさりと、ことさら劇的に盛り上げるようなことはしません。しかし「喜びと情熱について」などは気迫に溢れますし、思わず聴き入ってしまいます。 

Rs516hsghiipl_ac_ フリッツ・ライナー指揮シカゴ響(1954年録音/RCA盤) ライナーがシカゴ響の音楽監督に就いた翌年に行った録音です。当時はまだアメリカの楽団にはヨーロッパから戦禍を逃れて渡ってきた演奏家が多かったと思いますが、完璧にアメリカの音になっています。管のピッチの正確さなど、技巧面では優れるのですが、この明るい響きは個人的には余り好みません。ライナーのハードボイルドな指揮ぶりは潔いほどで、ヨーロッパ的な穏健さはどこにも有りません。「舞踏の歌」もどことなくミュージカル映画のように感じられなくもないです。その点で、この演奏は聴き手の好みがはっきりと分かれることでしょう。ステレオ最初期の録音ですが、音の明瞭さは驚くほどです。

Rs51kltu2tuul_ac_ カール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1958年録音/グラモフォン盤) 前述の通り、ビジネスにはスピード感が大切なことを証明したレコードでした。しかしベームと当時のベルリン・フィルの演奏は今聴くと非常にオーソドックスで、こけおどしのスペクタクル的な表現は無く、純粋にドイツ音楽を感じさせます。豊饒な音を求めると期待外れとなりますが、その分、緊迫度は強く、充実した厳しく立派な音楽を聴いた気になります。ソロ・ヴァイオリンも上手いですがウィーン風の甘さは味わえません。ステレオ録音ですが、さすがに古さは感じます。 

Rs613vfwul_ac_ ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィル(1959年録音/DECCA盤) 本来であれば真っ先に大ベストセラーとなったはずのレコードなので、カラヤンは商業的損失を訴えたという話ですが、いかにもカラヤンらしいです。しかし演奏は素晴らしく、当時のウィーン・フィルの爛熟した美音を壮年期のカラヤンがキリリと引き締めていて聴き応えが有ります。Wボスコフスキーのソロがまた何と味わい深いことでしょう。これぞ古き良きウィーンの香りです。DECCAの録音も明瞭で、最新録音には敵いませんが、当時としては破格の優秀さです。 

Rs71yqlsiqerl_ac_sl1400_ ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1971年録音/EMI盤) 旧東独エテルナとEMIによる共同制作による名高いケンペのRシュトラウス管弦楽曲全集に含まれます。古雅な響きのオーケストラの音は、ウィーンPOのそれを絹ごし豆腐だとすれば、こちらはさしずめ木綿豆腐です。どちらにも深い味わいが有ります。ケンペは奇をてらわない堅牢な音楽造りで、導入部もスペクタクルさなどとは無縁とばかりに控え目な表現です。しかし、2曲目からは底光りするような充実感を与えてくれます。単売もされましたが、9枚組のセットが破格の安さですので、絶対にお勧めです。この曲に関しては最初のEMI盤よりも、その後にワーナーからリリースされたリマスター盤の方が音は明晰です。 

Rs71jqfeskl_ac_sl1500_

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1973年録音/グラモフォン盤) カラヤン二度目の録音で、手兵のベルリン・フィルを率いて全盛期のカラヤンの演奏美学を徹底的に追求した印象を受けます。ディナーミクの巾がとにかく広く、ドラマティックさの限りを尽くしているので、この曲にスペクタクルさを求める場合にはベストかもしれません。冒頭のティンパニーの迫力も凄いです。反面「舞踏の歌」などは洒落っ気においてウィーン・フィルとの旧盤には及びませんし、シュヴァルベのソロもいま一つです。当時としては録音も優れていて、オーディオ的に鑑賞するとしても新盤に比べてそれほど遜色を感じません。

Rs4988005831668 ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1973年録音/DECCA盤) 主に70年代に録音されたRシュトラウスの管弦楽曲集に収められています。DECCAのリマスターの為にフィリップス原盤の特徴である音の柔らかさが失われている印象ですが、この曲にはむしろ適しているのかもしれません。この楽団の美しい響きはウィーン・フィルと比べても遜色なく、音には底力を感じます。ハイティンクの指揮はスケール大きいものの、スペクタクルな派手さとは無縁で、この曲をじっくりと味合わせてくれます。ヘルマン・クレバースのソロはやや地味ですが美しいです。 

Rs91nsckuuzpl_ac_sl1500_ ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ響(1975年録音/DECCA盤) ショルティは主なRシュトラウスの管弦楽曲を録音していますが、必ずしも主兵のシカゴ響とは限らず、ウィーンPOやバイエルンRSOと残しています。この曲では主兵を使いました。さすがに金管セクションは唖然とするほど優秀で、速いテンポで颯爽と進み行きますが完璧な音のタペストリーを織り成します。迫力においても本領発揮していますが、騒々しさは皆無です。もっとも、ヨーロッパの古い楽団のように響きそのものに香りを感じるかと言えば難しい所です。DECCAの録音は素晴らしく、サミュエル・マガドのソロも美しいです。 

Rs51altuvq30l_ac_ ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1983年録音/グラモフォン盤) カラヤンはこの曲を‘59年のウィーン・フィル盤の後に、手兵のベルリン・フィルと‘70年代にも録音しているので、これは三回目の録音となります。演奏は正にスペクタクルの極致、ディナーミクの広さは半端なく、それをレンジの広い優秀な録音が忠実に捉えています。カラヤンの過剰に作品を肥大化させる指揮と、ベルリン・フィルの豊穣を極めた輝かしい響きは往々にして好みませんが、この曲に関してはうってつけです。金管の強奏も圧倒的ですが騒々しいとは感じません。「舞踏の歌」では爛熟し切った濃厚なロマンの香りを漂わせていて魅了されます。ソロはトーマス・ブランディスが担当していますが、カラヤンの音楽に完璧に溶け込んでいて素晴らしく雰囲気豊かです。 

Rs51mcss1msgl_ac_ アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィル(1987年録音/TELARC盤) プレヴィンはRシュトラウスの管弦楽作品をウィーン・フィルと幾つも録音していて、どれも相性の良さを感じられる名演です。この曲も、カラヤンの演奏を聴いた後だと何となくこじんまりと感じられますが、どうしてどうして迫力にも不足すること無く、聴き応えの有る充実した演奏です。TELARCによるセッション録音ですので、音の明瞭さ、広がり、柔らかさなどバランスは極上で、ウィーン・フィルの美音を余すことなく味わえます。ソロはゲルハルト・ヘッツェルが弾いています。 

Rsimg_0172_2932 クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィル(1989年録音/EMI盤) およそ話題には上りませんが、とても良い演奏です。テンシュテット特有の全体を非常にスケール大きく構えていて、遅い部分が滅法遅いのですが決してもたれることは無く、どことなくワーグナーの楽劇を聴いているような深々とした雰囲気になるのがユニークです。ロンドン・フィルはヴィルティオーゾ・オケではありませんが、この演奏は聴き劣りすることは有りません。これみよがしに過剰な力を誇示することが無いので、むしろ哲学的な主張が届いて来るような気がします。録音にも不満はありません。

Rs41mqane324l_ac_ ピエール・ブーレーズ指揮シカゴ響(1996年録音/グラモフォン盤) さすがはブーレーズというか、派手派手しいスペクタクルな曲とは全く印象が異なる演奏に仕上げています。冒頭はクール、「後の世界の人々について」もベタベタ歌わずに静寂を保ちます。それがかえって哲学的な深さを感じさせます。シカゴ響はもちろん優秀ですし、音は美しいですが、常に節度を持ち、奥ゆかしい響きがまるでヨーロッパの楽団のように聞こえます。テンシュテットに似た「派手さ」を排した解釈が、曲の格調を上げているように思います。

さて、この曲に関しては自分としては例外中の例外ですが、カラヤン/ベルリン・フィルの1983年盤を取りたいと思います。しかし、この分厚いステーキのような演奏を何度も食するのは胃に応えそうなので、もう少し薄味のカラヤン/ウィーン・フィルの1959年盤も良いですね。
あるいは、いっそ口直しにプレヴィン/ウィーン・フィル盤が良いかもしれません。ユニークなテンシュテット/ロンドン・フィル盤にも捨て難い魅力を感じます。

<補足>
ライナー/シカゴ響盤、カラヤン/ベルリン・フィルの1973年盤、ブーレーズ/シカゴ響盤を追記しました。

| | コメント (17)

2021年7月14日 (水)

リヒャルト・シュトラウス 交響詩「英雄の生涯」Op.40 名盤

Richardstrauss

リヒャルト・シュトラウスは、「交響詩」と呼ばれるジャンルの管弦楽曲を多く書きましたが、オーケストラ技法を駆使した派手な内容のものが多く、個人的にはそれほどは魅力を感じません。もちろん幾つかの楽しめる作品も有りますが、一番好きなのは、やはり「英雄の生涯」でしょうか。

交響詩「英雄の生涯」(独Ein Heldenleben)作品40は、シュトラウスが作曲した交響詩の最後の作品です。副題に “大管弦楽のための交響詩“とあるように、演奏には100名以上の大編成のオーケストラが必要となります。

この曲を実演で聴いたのは一度だけですが、シュターツカペレ・ドレスデンが2009年に来日した際にサントリーホールで、当時の音楽監督のファビオ・ルイージの指揮した演奏でした。それこそ“目眩く音の錦絵”という印象の色彩鮮やかな響きでしたが、力づくで圧倒するという感じは無く、本当に素晴らしい演奏でした。

タイトルに有る「英雄」とはシュトラウス自身を指すとも言われますが、本人は特にそのようには言っていなかったようです。

曲は6つの部分から成り、切れ目なく演奏されます。ただしスコア上には副題は記されていません。ベートーヴェンの交響曲「英雄」と同じ変ホ長調を主調としていて、シュトラウスは、当初この曲を "Eroica" と呼んでいたようです。事実、ベートーヴェンの「英雄」の音型が一部に引用されています。

英雄(Der Held)
英雄の敵(Des Helden Widersacher)
英雄の伴侶(Des Helden Gefährtin)
英雄の戦場(Des Helden Walstatt)
英雄の業績(Des Helden Friedenswerke)
英雄の隠遁と完成(Des Helden Weltflucht und Vollendung der Wissenschaft)

作品は往年の大指揮者ウィレム・メンゲルベルクとアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団に献呈されましたが、初演は1899年にシュトラウスの指揮でフランクフルト・ムゼウム管弦楽団により行われています。

それにしてもタイトルのEin Heldenleben、英雄の生涯とは、何ともかっこいいですよね。ただし英語にするとThe life of the heroです。いまひとつですね(苦笑)。
男性のヒーロー・ナルシズムそのもののようなこの作品は、往々にして“戦いごっこ”を好む男の子には大変好まれると思いますが、果たして女性にも好まれるものでしょうか?そこのところはよく分かりません。

ともかく愛聴するCDをご紹介しようと思います。

Rsimg_1168 クレメンス・クラウス指揮ウィーン・フィル(1952年録音/DECCA盤) 古いモノラル録音ですが、デッカの録音は明瞭で鑑賞に支障ありません。それにしても当時のウィーン・フィルの音の何と甘く柔らかいこと!Wボスコフスキーのヴァイオリンソロも最高です。爛熟した浪漫の香りがこぼれるようです。「英雄の戦場」では確かに迫力上は物足りません。“戦闘”さえもが過ぎ去った夢の様だからです。クラウスの指揮は全般的に速めで、ことさら劇的に盛り上げるようなことはしません。ところがそれでいて思わず聴き入ってしまう音楽の味わいに溢れているのは、作曲者とも親交が有っただけに流石です。

Rs516hsghiipl_ac_ フリッツ・ライナー指揮シカゴ響(1954年録音/RCA盤) ライナーがシカゴ響の音楽監督に就いた翌年に行った録音の一つです。当時からアメリカの楽団は、管のピッチの正確さなど、技巧面では大変に優れるのですが、ヨーロッパの楽団の音とは異なる底抜けに明るい響きが余り好みではありません。ライナーの指揮は、およそもったいぶる様なところが無く、速いテンポで颯爽と進みます。スケールの大きさは余り有りませんが、このスピード感が好きだという方はおられるかもしれません。ジョン・ウェイチャーのソロは上手いものです。ステレオ最初期の録音ですが、音の明瞭さは驚くほどです。

Rs51nwxxmrvnl_ac_ ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1959年録音/グラモフォン盤) 録音年代が古い割には非常に録音が明瞭で、当時のベルリン・フィルのドイツ的で重厚、堅牢な響きを堪能出来ます。もちろんシュトラウスですから流麗で艶やかな音色はたっぷりです。過度に輝き過ぎない音色バランスは素晴らしいです。金管の強奏がわずかにリミット越えを感じないわけでは無いのですが、カラヤンの指揮には気迫がみなぎっていて、凝縮された音の迫力と明瞭で力強いフレージングに圧倒されます。英雄が生涯を回顧しているのではなく、正に戦いの真っただ中にいる現役の英雄、そんな印象です。シュヴァルベのソロも上手いものです。

Rs81xgtzmuffl_ac_sl1500_ ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1966年録音/キング・インターナショナル盤) ‘57年に続いて9年ぶり二度目となったベルリン・フィルの日本ツアーにおけるライブ録音です。東京文化会館でのNHKによるステレオ録音は、今聴けば色彩感が薄くは感じられますが、当時としては優秀な音質です。演奏は’59年のグラモフォン盤に近く、引き締まった堅牢なフォルムが素晴らしく、ライブ演奏特有の音楽の自然な流れが心地好いです。「英雄の戦場」での鬼気迫る迫力には‘59年盤以上に興奮させられます。シュヴァルベのソロも素晴らしいですし、この手の歴史的ライブ音源を好む方には絶対のお勧めです。

Rs4988005831668 ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1970年録音/DECCA盤) 主に‘70年代に録音されたRシュトラウスの管弦楽曲集に収められています。録音は優秀ですが、DECCAのリマスターの為にフィリップスの原盤の音の柔らかさが失われている印象です。それでもこの楽団の厚みの有る充実し切った美しい響きはSKドレスデン、ウィーンPOと並び、ハイティンクの指揮もスケール大きくこの曲を楽しませてくれます。後半の迫力もかなりのものです。ソロはもちろんヘルマン・クレバースですので悪いはずが有りません。代表的な管弦楽曲集としてもお薦め出来ます。

Rs689 ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1972年録音/EMI盤) 名高いケンペのRシュトラウス管弦楽曲全集に含まれます。旧東独エテルナとEMIによる共同制作なので古雅な響きのオーケストラの音を良く捉えています。演奏の質においては何しろこの楽団の最高の時代の記録ですので文句無しです。ケンペは奇をてらわない堅牢な音楽造りですが、物足りなさは一切なく、底光りするような充実感を与えてくれます。単売もされましたが、この9枚組のセットは破格の安さですので、絶対に全集を購入するべきです。音は最初のEMI盤でも悪くありません。その後ワーナーからリマスター盤が出て評判は良いですが、音は明晰で分離が良いものの、高音域が強調されていてデジタル臭さが増しました。 

Rs519yhptf0fl_ac_ クルト・ザンデルリンク指揮ライプチヒ放送響(1972年録音/WEITBLICK盤) ライプチヒにおけるライブのステレオ録音です。セッション録音の分離の良さは望めないにしても音質は自然で悪くありません。演奏はマエストロらしい、キレの良さよりは気宇の大きさを感じるもので貫禄十分です。ゆったりとした部分の味わいに特に惹かれます。オーケストラもライブにしては優れていますが、他の超一流楽団のセッション録音と比べてはどうでしょう。やや落ちると感じるリスナーも居るかもしれませんが、あくまで貴重なライブとして楽しむべきでしょう。ソロはジェルジ・ガライです。

Rs61fuerxjvl_ac_sl1200_ カール・ベーム指揮バイエルン放送響(1973年録音/オルフェオ盤) この時ベームは既に79歳でしたが、ライブとなるとセッション録音の落ち着きぶりとはうって変わって、その演奏の力強さと迫力に圧倒されます。バイエルン響とは相性も良く、幾つもの名盤を残していますが、これもその代表盤の一つだと言えます。スケールの大きさと彫りの深い音の威力に耳を奪われがちですが、緩急テンポの切り替えや語り口の上手さは、やはり流石だなぁと感心させられます。ルドルフ・ケッケルトのソロも文句有りません。録音も優れていて、‘66年のカラヤン盤と比べても色彩感が優るので楽しめます。

Rs791 ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1974年録音/Profil盤) 昔、ケンペのこの曲のライブ映像をテレビで観たときに、EMI盤を凌ぐ凄い演奏に驚きました。それがこのライブ盤と同じかどうかは調べていませんが、どう聴き直してみても、これはやはりEMI盤よりも上だと思います。EMI盤が一気呵成の印象とすれば、こちらは一音一句をじっくりと奏している印象を受けます。なので細部の聴き応えが増して感じられます。曲全体のスケール感が一回りも二回りも大きくなったようです。しかし後半の音の濁流のような迫力は最高で、相当にオケの鳴りが良いのですが、少しも騒々しさを感じません。この楽団はライブでも優秀ですし、録音も明瞭で優れており非の打ちどころが有りません。ソロはEMI盤もどちらもペーター・ミリングが担当しています。

Rs51dkcnnxaal_ac_ カール・ベーム指揮ウィーン・フィル(1976年録音/グラモフォン盤) これはLP盤の発売当時から愛聴した演奏で、今でもとても気に入っています。迫力と凝集力の点ではこの3年前のバイエルン放送盤には及びませんが、その代わりにウィーン・フィルと言うかけがえのない名器の持つ音の魅力は絶大です。ベームは既に80歳を越えているのに少しも枯れたりしていません。むしろ人生を乗り越えた余裕や貫禄が大いに感じられて、パワーと勢いで押し切る様な演奏とは一線を画します。終曲など「最後の四つの歌」のような“人生の黄昏“の雰囲気が滲み出ていて感動的です。ソロはゲルハルト・ヘッツェルです。録音も優秀でCDで聴いても不満は有りません。

Rs91nsckuuzpl_ac_sl1500_ ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィル(1977-78年録音/DECCA盤) ショルティは主なRシュトラウスの管弦楽曲を録音していますが、多くはシカゴ響で、ウィーンPOとは珍しいのですが、この曲を録音してくれたのは嬉しいです。開始から速めのテンポで颯爽と進む辺りはこの人らしいですが、ゆったりとした部分でも引き締まった印象です。ただし硬直した感じでは有りません。英雄の戦場の迫力は正に本領発揮ですが、統制が取れていて騒々しくはありません。DECCAの録音は明瞭で輝かしく、ショルティ/ウィーンPOの演奏との相性の良さを感じます。ライナー・キュッヘルのソロも非常に美しいです。

Rs81b4oni69ll_ac_sl1500_ ヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1984年録音/DENON盤) 初期のデジタル録音ですが、独シャルプラッテンとの共同制作のためか、このオーケストラの古雅な美音を生かしたアナログ的な柔らかさを持った音造りで、EMIのケンペ盤よりもずっと良い音です。ブロムシュテットの指揮は特に前半では穏健さを感じさせますが、英雄の戦場では中々に気分を高揚させて迫力ある演奏を聴かせます。オーケストラも底力を発揮しています。それでいて少しも騒々しくならないのはマエストロの美徳でしょうか。この録音でもソロはミリングが弾いています。

Rs51tm1f79zll_ac_ ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1985年録音/グラモフォン盤) カラヤンの最後のセッション録音です。かつてのようにオーケストラを自らの手綱で完璧にコントロールしているというのでは無く、やや緩くなった印象を受けます。それでも演奏そのものは豊穣を極めていて、音色も非常に輝かしいです。ただ、この輝き方は聴き手の好き嫌いが出るのでは無いでしょうか。金管の強奏も部分的にかなり耳をつんざくような騒々しさを感じてしまいますし、個人的には‘59年盤の引き締まった演奏を好みます。ソロはシュピーラーが担当しています。

Rs71ockrpyctl_ac_sl1091_-1 アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィル(1988年録音/TELARC盤) プレヴィンはRシュトラウスの管弦楽作品をウィーンPOと幾つも録音していて、どれも相性の良さを感じられる名演です。この曲でも、いかにも強面の英雄というよりも、心優しい英雄という印象を受けます。と言って迫力不足とかいうことでは無く、必要充分なそれを持っています。TELARCにより入念に行われたセッション録音ですので、音の明瞭さ、広がり、柔らかさとバランスは極上で、ウィーンPOの美音が最高に生きています。ソロはキュッヘルが弾いていますが、ショルティ盤よりも何となく優しい感じがするのは気のせいでしょうか。

Rs717h94osndl_ac_sl1500_ クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル(2002年録音/グラモフォン盤) 
さすがにこの曲のウィーンPOの録音は多いですが、これはライブ録音です。幾らウィーンPOでもこの曲のライブ収録は厳しいかと思いきや、完成度の高さはお見事です。もちろん編集は有るのでしょうけれど。プレヴィン盤よりも更に録音のダイナミックレンジが広く、ティーレマンの力強く英雄的な演奏を一層引き立てています。開始からテンションは高く、それでいてゆったりとした個所ではたっぷり歌わせていて非常に聴き応えが有ります。何かシュトラウスやワーグナーの楽劇を聴くような印象さえ受けます。ソロはライナー・ホーネックですが、非常に表情豊かで、弓を飛ばしまくり荒々しいほどなのが聴いていて楽しいです。打楽器の強打もいかにもライブ感に溢れていて痛快です。

この曲は、どの演奏を聴いても楽しめますし、実際に名演奏が多いです。それをわざわざ絞る必要も無いのですが、個人的な好みで言えば、ケンペ/ドレスデンの‘74年ライブ盤、ティーレマン/ウィーンPO盤の二つを取りたいです。他にはベーム/ウィーンPO盤、プレヴィン/ウィーンPO盤に大いに惹かれます。

| | コメント (11)

2009年4月30日 (木)

ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 日本公演 リヒャルト・シュトラウス

Skd0028

ドレスデン国立歌劇場管弦楽団が日本に来ています。既に関西公演を終えて現在は東京公演中です。そこで今日はサントリー・ホールでのオール・リヒャルト・シュトラウス・プログラムを聴きに行ってきました。指揮はイタリア人の音楽監督ファビオ・ルイジです。

この楽団は言わずと知れた世界最古のオーケストラです。もともとは宮廷楽団として発祥しましたが、以来、古都ドレスデンの歌劇場の専属オーケストラとして今年で461年という実に長い歴史を刻んで来たのです。元々は酒場の楽団であったベルリンフィルが正式にオーケストラとしてスタートしたのが130年ほど前ですから、いかにこのオーケストラが長い歴史と伝統を持つかが分かりますね。とは言いましても音楽は生きた芸術です。美術品ならば適正に保存されていれば良いのですが、構成団員は命に限りが有りますから常にメンバーが交代します。変わらずに歴史を受け継ぐのもそう簡単なことではありません。

彼らは2年前にオペラハウスとして来日して、僕はその時には東京文化会館で「タンホイザー」を聴きに行きました。あれほど質の高いドイツオペラの音を聞かせることが出来るのは他にはウイーン歌劇場とベルリン歌劇場、次いでバイエルン歌劇場ぐらいではないでしょうか。

今日の曲目は「ドン・ファン」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」「英雄の生涯」です。もちろん2年前の文化会館でのワーグナーも素晴らしいものでしたが、今回のオーケストラコンサートの音は圧倒的でした。といってもキンキラ輝くような音とは全く異なる、実に深々と落ち着いた音なのです。管楽器や弦楽器の全てがまろやかに溶け合っていて、昔からよく言われる「いぶし銀の響き」、まさにそれです。アンサンブルも優秀ですが、機械的な冷たさは微塵も有りません。このような伝統的なドレスデン・サウンドが何年経っても変わらずに継続されているのは奇跡でしょう。特に後半の「英雄の生涯」はルイジの指揮とメンバーの気迫が一段と増して圧巻でした。アンコールはウェーバーの歌劇「オベロン」序曲。かっちりと厳しく統制されたマルカート奏法で推進力に満ち溢れた演奏はこの楽団の真骨頂。まさに最高でした。このような純正ドイツの音を出させたら、やっぱり世界一の楽団だと思います。

| | コメント (14) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

A.ヴィヴァルディ G.F.ヘンデル J.S.バッハ(カンタータ、オラトリオ他) J.S.バッハ(ミサ曲、受難曲) J.S.バッハ(協奏曲) J.S.バッハ(器楽曲:弦楽器、管楽器) J.S.バッハ(器楽曲:鍵盤楽器) J.S.バッハ(管弦楽曲) J.S.バッハ(諸々その他) イギリス音楽(ホルスト、ヴォーン・ウイリアムズ、デーリアス他) イタリアのバロック音楽(モンテヴェルディ、ペルゴレージ、コレッリ他) ウェーバー エルガー グラズノフ グリーグ サン=サーンス シベリウス シベリウス(交響曲全集) シベリウス(交響曲) シベリウス(協奏曲) シベリウス(室内楽曲) シベリウス(管弦楽曲) シューベルト(交響曲) シューベルト(器楽曲) シューベルト(声楽曲) シューベルト(室内楽曲) シューベルト(管弦楽曲) シューマン(交響曲) シューマン(協奏曲) シューマン(器楽曲) シューマン(声楽曲) シューマン(室内楽曲) ショスタコーヴィチ(交響曲) ショパン(協奏曲) ショパン(器楽曲) ストラヴィンスキー スペインの音楽(ファリャ、ロドリーゴ他) スメタナ チェコ、ボヘミア音楽 チャイコフスキー(交響曲) チャイコフスキー(協奏曲) チャイコフスキー(室内楽曲) チャイコフスキー(管弦楽曲) ドイツ、オーストリアのバロック音楽(パッヘルベル、ビーバー、シュッツ他) ドイツ・オーストリア音楽 ドビュッシー ドヴォルザーク(交響曲全集) ドヴォルザーク(交響曲) ドヴォルザーク(協奏曲) ドヴォルザーク(室内楽曲) ドヴォルザーク(管弦楽曲) ハイドン(交響曲) ハンガリーの音楽 ビゼー フォーレ(声楽曲) フォーレ(室内楽曲) フランク フランス音楽(ドリーヴ、プーランク、サティ他) ブラームス(交響曲全集) ブラームス(交響曲第1番~4番) ブラームス(協奏曲:ピアノ) ブラームス(協奏曲:ヴァイオリン他) ブラームス(器楽曲) ブラームス(声楽曲) ブラームス(室内楽曲) ブラームス(管弦楽曲) ブルックナー(交響曲全集) ブルックナー(交響曲第0番~3番) ブルックナー(交響曲第4番~6番) ブルックナー(交響曲第7番~9番) ブルッフ プッチーニ プロコフィエフ ベルリオーズ ベートーヴェン ベートーヴェン(交響曲全集) ベートーヴェン(交響曲第1番~3番) ベートーヴェン(交響曲第4番~6番) ベートーヴェン(交響曲第7番~9番) ベートーヴェン(協奏曲) ベートーヴェン(器楽曲) ベートーヴェン(室内楽曲) ベートーヴェン(弦楽四重奏曲全集) ベートーヴェン(弦楽四重奏曲:初期~中期) ベートーヴェン(弦楽四重奏曲:後期) ベートーヴェン(歌劇、声楽曲) マーラー(交響曲第1番~4番) マーラー(交響曲第5番~7番) マーラー(交響曲第8番~10番、大地の歌) マーラー(声楽曲) メンデルスゾーン モーツァルト(交響曲) モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第01~9番) モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第10~19番) モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第20~27番) モーツァルト(協奏曲:ヴァイオリン) モーツァルト(協奏曲:管楽器) モーツァルト(器楽曲) モーツァルト(声楽曲) モーツァルト(室内楽曲) モーツァルト(歌劇) モーツァルト(諸々その他) ヤナーチェク ヨハン・シュトラウス ラフマニノフ(交響曲) ラフマニノフ(協奏曲) ラフマニノフ(室内楽曲) ラヴェル リヒャルト・シュトラウス(楽劇) リヒャルト・シュトラウス(歌曲) リヒャルト・シュトラウス(管弦楽曲) リムスキー=コルサコフ レスピーギ ロシア音楽(ムソルグスキー、ボロディン、カリンニコフ他) ワーグナー(楽劇) ワーグナー(歌劇) ワーグナー(管弦楽曲) ヴェルディ(声楽曲) ヴェルディ(歌劇) 名チェリスト 名ピアニスト 名ヴァイオリニスト 名指揮者 政治・経済問題 文化・芸術 旅行・地域 日本人作品 映画 映画(音楽映画) 歌舞伎 演奏会(オムニバス) 舞踏&バレエ 芸能・スポーツ 読書 趣味 音楽やその他諸事 音楽(やぎりん関連) 音楽(アニメ主題歌) 音楽(シャンソン・タンゴ・ボサノヴァ) 音楽(ジャズ) 音楽(ポップス) 音楽(ロック) 音楽(和楽)