ワーグナー 歌劇「ローエングリン」全曲 名盤 ~白鳥の騎士~
歌劇「ローエングリン」(独: Lohengrin)は、ワーグナーの6番目のオペラです。これ以降の作品は「楽劇」となりますので、「歌劇」とした最後の作品です。
台本はワーグナー自身の作ですが、ローエングリンの伝説に基づき、中世のアントウェルペン(アントワープ、ベルギー)が舞台です。ローエングリンはアーサー王伝説に登場する騎士で、円卓の騎士であるパルジファルの息子であり「白鳥の騎士」と呼ばれます。
上の写真は、ドイツ・ロマンティック街道で有名なノイシュバンシュタイン城ですが、この城を立てたバイエルン王のルードヴィヒ2世は、宮廷楽士にオペラのさわりを演奏させ、自分はローエングリンに扮装して船遊びをしたほどのワーグナー音楽の心酔者でした。このお城を「タンホイザー」や「ローエングリン」に登場する王や騎士たちが活躍した古き良き時代を懐古してデザインさせ、膨大な費用を投じて建てました。このお城は、その美しさから「白鳥城」とも呼ばれます。
ワーグナーの自伝「わが生涯」によれば、ワーグナーはパリ滞在時代に、ヴィルヘルム・ヴォルフが編纂した「オランダ伝説集」の中に含まれるコンラート・フォン・ヴュルツブルクによる「白鳥の騎士」を読んで興味を持ち、その後にオペラの構想を固めたとのことです。
「タンホイザー」のドレスデン初演直後の1845年に台本が完成。翌1846年の春から作曲を開始して、秋にはオーケストレーションに取り掛かります。1847年夏にはオーケストラの下書きも完成し、1848年にスコアを書き上げます。ところが1849年にドレスデンの5月革命運動に参加して失敗したことから指名手配されてしまい、やむなくリストの助けでスイスのチューリヒに亡命します。
1850年にリストの指揮によって、ヴァイマル宮廷歌劇場で初演されますが、ワーグナーはドイツへ入ることが出来ずに初演への立ち合いを諦めます。結局、舞台を見られたのは1861年のウィーン宮廷歌劇場公演となります。
上述した通り、この作品はワーグナーの最後の「歌劇」ですが、既に「楽劇」の要素が垣間見えています。それまでのオペラでは歌が1曲づつ独立して並んでいたのに対して、音の動きにそれぞれが性格を持つ「動機」が音楽を織り成してゆくスタイルが既に垣間見られます。
また、前作の「タンホイザー」までは劇が始まる前に序曲(オーバーチュア)が置かれていましたが、「ローエングリン」以降は前奏曲(プレリュード)が置かれるようになります。幕が上がる前に長々と、劇の始まりとは無関係の序曲が演奏される従来型のオペラに対して、もっと簡潔に劇の始まりと一体化した序奏としての音楽が用いられるようになりました。
管弦楽も最初に書かれた完全な三管編成で、これにより奥深い音色の和音が可能となりました。
このオペラの中では、何といっても「婚礼の合唱」が有名ですが、第1幕や第3幕への前奏曲もコンサートで単独に演奏される機会がとても多いです。
<登場人物>
ローエングリン(テノール)聖杯王パルジファルの息子で聖杯騎士。
エルザ(ソプラノ)ブラバント公国の公女。
フリードリヒ・フォン・テルラムント(バリトン)ブラバント公国の貴族で後見人。実権を狙う。
オルトルート(メゾソプラノ)フリードリヒの妻で魔法使い。
ハインリヒ(バス)ドイツ国王ハインリヒ1世。
ゴットフリート(歌なし)エルザの弟。公国の世継ぎ。
<あらすじ>
第1幕 中世のアントウェルペンのスヘルデ河畔
ドイツ国王ハインリヒが、ハンガリー討伐の兵を募るためにアントウェルペンにやってくる。この地を治めるブラバント公国では世継ぎのゴットフリートが行方不明になっているが、後見人のテルラムントは、姉のエルザが弟を殺したとして国王に訴える。
エルザは神明裁判(フリードリヒとの決闘により審判が下される)にかけられることになるが、その決闘には、自分が夢で見た高貴な騎士が無実を証明するために戦ってくれると語る。
王の伝令が騎士を呼び出すと、河上から一羽の白鳥が引く小舟に乗った騎士が現れる。
騎士はエルザに、自分を戦士と認めるか、そして夫とするのなら、決して自分の名と素性を尋ねてはならない、と言い渡す。エルザは騎士に全てを委ねると誓う。決闘となり騎士はテルラムントを討ち果たすが、命だけは助ける。
第2幕
夜のアントウェルペン城
城庭で、テルラムントと妻オルトルートが座る。オルトルートの正体は魔女であった。オルトルートは、決闘に負けたのは騎士が魔法を使ったためで、騎士は名前と素性を言えと迫られるか、あるいは体の一部でも切り取れば魔法が解けると言う。
やがてバルコニーにエルザが現れると、オルトルートは彼女に騎士への疑念を吹き込む。
夜が明けると王の伝令が、テルラムントを追放し、騎士がエルザと結婚してブラバントの守護者となることを告げる。婚礼のためにエルザは礼拝堂へ向かい歩くが、突然オルトルートが行列に分け入り、エルザに詰め寄って騎士を非難する。エルザは動揺するが、騎士はテルラムントをエルザから引き離して、「自分に答えを要求できるのはエルザただ一人だ」と答える。エルザは騎士の戒めを守る事を宣言し、2人は礼拝堂へ入場する。
第3幕
新婚の部屋
前奏曲に続いて「婚礼の合唱」が歌われ、エルザと騎士は幸せに浸るが、夫の素性がどうしても気になるエルザは、誓いを破ってその正体を尋ねてしまう。その時、テルラムントが臣下と共に騎士に襲いかかる。騎士は剣で彼らを斬り倒すが、エルザに「もはや我らの幸せは終わった」と告げる。
スヘルデ河畔
騎士が自らの正体を明かす。自分は聖杯王パルジファルの息子で、聖杯騎士「ローエングリン」で、エルザを冤罪から救う使命を果たしたが、自らの聖なる秘密が破られた為に聖杯城へ帰らなければならないと語る。
やがて白鳥が小舟を曳いて迎えに来る。そこへ白い鳩が小舟の上へ飛んで来るのを見たローエングリンは、白鳥をつないでいる鎖を解き、静かに祈りを捧げる。すると、白鳥は人間に姿を変えるが、その白鳥こそが、オルトルートの魔法によって行方不明にされていたゴットフリートだった。オルトルートは叫び声を上げて倒れる。
ローエングリンは悲しみを湛えながら、白い鳩が曳く小舟に乗って去って行く。悲しみにくれたエルザはゴットフリートの腕の中で息絶える。
こうして幕が閉じられますが、若い女性が名前も素性も分からない男性に窮地を助けて貰う代償に結婚を求められたら、そりゃ相手が誰だか知りたくなりますよね。それを聞いただけで夫に捨てられて死んでしまうなんて、あんまりなお話じゃありませんか?(苦笑)
それはともかく、所有するCDをご紹介してみます。
ヨーゼフ・カイルベルト(指揮)バイロイト祝祭管/合唱団(1953年録音/テルデック盤)
バイロイト音楽祭のライブですが放送録音では無く、デッカによる録音です。ゲネプロの録音からも多く用いられて編集されたようなので、ライブ特有の傷は確かに少なく一般的には好まれるかもしれません。モノラル録音ですが同時期の放送用録音よりは音質も明瞭です。と言っても55年のステレオ録音の「リング」と比べれば、ずっと籠った印象です。演奏に関しては、古き良きドイツのカぺルマイスター、カイルベルトの指揮ががっちりとした骨太さに適度のロマンティシズムを滲ませていて魅力的です。声楽陣も若きヴィントガッセンのローエングリン、ヴァルナイのオルトルートが秀逸ですし、他にもウーデのハインリヒを始め、名歌手達が揃っていて隙が有りません。ヴィルヘルム・ピッツの合唱も素晴らしいのですが、録音がスケール感をやや損ねているのは惜しまれます。第3幕への前奏曲などの管弦楽もどことなくセッション録音っぽく響きます。
アンドレ・クリュイタンス指揮バイロイト祝祭管/合唱団(1958年録音/WALHALL盤)
バイロイトにおけるライブです。全体にオーケストラもコーラスも引き締まったアンサンブルで完成度が高く、バイロイトで頻繁に指揮していたクリュイタンスの実力のほどが分ります。タイトルロールのシャーンドル・コーンヤは戦後のバイロイトで「最高のローエングリン」と称されたベルカント・タイプのテナーでしたが、録音が少ないのでこれは貴重です。ヴァルナイのオルトルート、エルネスト・ブランクのテルラムントは素晴らしいですが、リザネクのエルザは上手いものの声と歌が強過ぎてエルザのイメージとは異なります。これはバイエルン放送協会のマスターテープを使用したらしいですが、55年のタンホイザーのオルフェオ盤と比較しても高音を過度に強調せずに中低音域に厚みを感じる非常にバランスの良い音質です。フォルテでも音割れは皆無です。
ロブロ・フォン・マタチッチ指揮バイロイト祝祭管(1959年録音/オルフェオ盤)
マタチッチはその昔、NHK交響楽団とのワーグナー管弦楽曲プログラムを聴いて、とても会場がNHKホールとは思えない凄い音だったのが印象的でした。オペラを得意としていたにもかかわらず、ワーグナーの全曲録音はごく僅かです。マタチッチがバイロイトの指揮台に立ったのも、この「ローエングリン」が唯一でした。いかにもマタチッチらしく、細かいところは気にせずに、豪快なまでにザックリとした切り口の演奏で大いに楽しめます。歌手陣は、タイトルロールには前の年のクリュイタンス盤と同じシャーンドル・コーンヤ、エルザにはエリーザベト・グリュンマー、その他にも当時の実力派が揃います。録音はバイエルン放送協会の正規音源とのことですが、モノラルで年代並みというところです。マスタリングで無理に高音域を強調していないので聴き易いです。なお、先にゴールデンメロドラム盤でも聴きましたが、オルフェオ盤よりも音が明らかに落ちます。
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイロイト祝祭管/合唱団(1962年録音/フィリップス盤)
当時まだ30代の若きサヴァリッシュはバイロイトで輝かしい活躍をしましたが、これもまた傑出した演奏です。全体的に速めのテンポで颯爽と進みますが、拙速な印象を受けることなくワーグナーの劇性を堪能させてくれます。分厚い響きの管弦楽も非常に魅力的ですが、声楽陣がまた素晴らしく、ジェス・トーマスのローエングリン、アニヤ・シリアのエルザ、ヴァルナイのオルトルート、ヴィナイのテルラムント、フランツ・クラスのハインリヒ、というキャストのどれをとっても声の質が役柄の性格にぴったりで、上手さも最高レベルです。ヴィルヘルム・ピッツによる合唱団のスケールの大きさも特質ものです。もう50年以上も前の録音にもかかわらず、フィリップスによる正規ステレオ録音は音の明瞭さ、広がり、バランスが極上で、その自然な響きは古さを全く感じさせません。時々聞こえる舞台や客席の音すら劇場の臨場感を伝えていて嬉しく感じられます。
ルドルフ・ケンペ指揮ウィーン・フィル/ウィーン国立歌劇場合唱団(1962-63年録音/EMI盤)
EMIにより制作されたセッション録音で、アン・デア・ウィーン劇場が使われました。ドイツの名匠ケンペがウィーン・フィルを指揮し、その弦楽と管楽の美しくデリカシーに溢れる音を生かし、戦後の名歌手達を配した完成度抜群のディスクです。合唱も素晴らしいです。半世紀前の収録といっても、同時代の放送用のライブ録音と比べれば、録音の良さは一段も二段も上なので不満なく楽しめます。歌手陣は何と言ってもジェス・トーマスのローエングリンが貴高さを湛えて万全です。エリーザベト・グリュンマーのエルザも凛々しい声質と歌唱で最高のエルザです。更にはルートヴィヒのオルトルート、フリックのハインリヒといずれも最高です。唯一気になるのがフィッシャー=ディースカウのテルラムントで、余りに賢そうな歌いぶりが、役のイメージとギャップを感じてしまいます。元々この人には役により向き不向きが生じると思っていますが、この役は余りいただけません。しかし、それさえ気にしなければこのオペラの代表盤の一つであるのは確かです。
カール・ベーム指揮ウィーン国立歌劇場管/合唱団(1965年録音/オルフェオ盤)
後年になり発掘された音源なので、余り話題に上がることは有りませんが、ベームがウィーン国立歌劇場で指揮した公演のライブ録音です。他にベームのローエングリン録音は残っていないと思うので貴重です。モノラル録音ですが音が明瞭で広がりが感じられるので、一瞬ステレオ録音かと思えるほどです。高中低域のバランスも良いです。ベームのワーグナーは常に巨大さよりは男性的な剛直さを基にしたドラマ性を特徴としていますが、この演奏もやはり例外ではありません。全体をパースペクティブに捉えて、じわりじわりと盛り上げてゆくあたりの手腕は本当に見事なものです。一方、ウィーン・フィルならではの抒情的な美しさにも惹かれます。ジェス・トーマスのローエングリンはやはり素晴らしく、クレア・ワトソンのエルザ、ヴァルター・ベリーのテルラムント、そしてクリスタ・ルートヴィヒのオルトルートと他の歌手陣も有力メンバーが揃っています。
ルドルフ・ケンペ指揮バイロイト祝祭劇場管/合唱団(1967年録音/オルフェオ盤)
バイロイトでは「リング」も指揮したケンペが、お得意の「ローエングリン」を指揮したライブです。しかも明瞭なステレオ録音なのが嬉しいです。EMIのセッション盤はウィーンPOの美感を生かした名盤でしたが、こちらは勇壮なバイロイトのオケを鳴らし切った気迫漲る名演です。第3幕への前奏曲など迫力が凄いです。歌手と管弦楽の音量バランスは実際の舞台を鑑賞するような自然なものです。タイトルロールのローエングリン役は当初シャンドール・コーンヤでしたが、不調で初日のみで降板しました。後の公演は4人のテナーで分担したそうですが、この録音日ではジェイムズ・キングがとても立派に歌っています。ヘザー・ハーパーのエルザは声にもう少し清純さが欲しいですが、まずは無難なところです。グレイス・ホフマンのオルトルート、ドナルド・マッキンタイアのフリードリヒ、カール・リッダーブッシュのハインリヒは役柄にふさわしく歌唱も秀逸です。ヴィルヘルム・ピッツによる合唱団の優秀さも相変らずです。とにかくバイロイトの迫力ある音を味わえる素晴らしいディスクです。
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル/ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団(1975、76、81年録音/EMI盤)
ベルリンのフィルハーモニーにおけるセッション録音ですが、何故か途中に5年間もの空白が有ります。原因は‘76年のザルツブルク・イースター音楽祭で、このオペラの上演においてルネ・コロとカラヤンが激しく対立して、コロが舞台を降りるという事件が有った為です。その後に両者が和解して’81年にようやく録音が完了しました。演奏に関しては、カラヤンがベルリン・フィルを起用したオペラ録音の典型的なものです。主役は管弦楽とばかりに極めてシンフォニックな演奏です。歌い手が熱唱している間も、ひっきりなしに管弦楽が出しゃばるのは自分的にはむしろ邪魔でさえあります。弱音が極端に小さい(つまりダイナミックレンジが広い)のも常套的で好みません。とはいえ、美しいと言えば美しく、その壮麗さには圧倒されもします。カラヤン・ファンであれば大満足というところでしょう。歌手についてはコロのローエングリンは甘さが魅力的、トモワ=シントウのエルザの美しく真摯な歌声にも惹かれます。その他の配役も実力者がそつなく揃えられています。
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィル/ウィーン国立歌劇場合唱団(1985-86年録音/DECCA盤)
多くのワーグナーオペラを録音したショルティですが、これがワーグナーの最後の録音でした。同時にゾフィエンザールで行われた最後のセッション録音となりました。従ってデッカの優秀録音がとらえたウィーン・フィルの美音を思う存分に味わえます。弦楽や木管の繊細な音はもちろん、金管も壮麗でありながら騒々しさは少しもありません。ショルティにも、かつての演奏と比べると余裕のようなものを感じます。ただ、第1幕前奏曲や婚礼の合唱は、極端な弱音で始まるので途中まで聴き取り難いです。歌手ではローエングリンを歌うプラシド・ドミンゴは、しばしばドイツ語発音に難が有ると評されますが、この作品ではそれほど気になりません。コーンヤ以来のベルカントの美声もいいじゃないですか。ノーマンのエルザは美しい声を駆使して抜群に上手いのですが、清純な乙女と言うにはやや違和感が残ります。エヴァ・ランドヴァーのオルトルート、ジークムント・ニムスゲルンのテルラムント、ハンス・ゾーティンのハインリッヒは無難なところです。DFディースカウが軍令使とは驚かされますが、例によって妙に賢過ぎるように聞こえます。合唱は録音の良さから底力が凄く感じられて魅力的です。
クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィル/ウィーン国立歌劇場合唱団)(1991年録音/グラモフォン盤)
アバドはワーグナーのオペラを「ローエングリン」しかレコーディングしていません。他にも「トリスタン」「パルシファル」を公演で指揮したようですが、この人のレパートリーからすると妥当なところかもしれません。しかしこのウィーンのムジークフェラインでのセッション録音は素晴らしいです。それまでにもミラノやウィーンのオペラハウスで度々指揮しての録音なので、このオペラに対する意気込みが分ります。ドイツ的な剛直さが皆無のアバドの指揮はスタイリッシュですが、その代わりに瑞々しくしなやかな美感のあふれるワーグナーを聴かせます。ウィーン・フィルというオーケストラも最上の組み合わせで、ここぞというところでは壮麗に響き渡りますが決して騒々しくならないのが利点です。合唱の特徴も同様です。歌手についてはジークフリート・イェルザレムのローエングリン、チェリル・ステューダーのエルザとも不満は有りません。さらにヴァルトラウト・マイアーのオルトルート、クルト・モルのハインリヒが秀逸です。録音は明瞭であり、壮大さが充分に感じられる優秀さです。
ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン/ベルリン国立歌劇場合唱団)(1998年録音/テルデック盤)
ピアニストと指揮者という本格的な二刀流の点では大谷翔平にも匹敵するバレンボイムですが、交響曲や管弦楽作品よりもオペラの演奏が数段優れると思います。歴史あるベルリン歌劇場であれだけ長く音楽監督の座に座っていられるのはその証明です。特にワーグナーオペラを中核のレパートリーとしていて、この「ローエングリン」も素晴らしい出来栄えです。長い歴史の有る歌劇場の落ち着いた響きもドイツの深い森の中を連想させます。歌手陣はペーター・ザイフェルトのローエングリン、エミリー・マギーのエルザ、デボラ・ポラスキのオルトルートなど粒よりのメンバーで固められています。合唱も優れます。なお、この演奏は初稿版を用いているので、第3幕の「ローエングリンの名乗り」の後に「グラール語り」が演奏されますが、この部分はのちに削除されたために通常は演奏されません。これは初稿版による唯一の録音です。
優れたディスクが多いのでマイフェヴァリット盤を選ぶのも迷うところですが、個人的には、やはり聖地バイロイトのライブ盤から、サヴァリッシュ盤とケンペ盤(オルフェオ)を上げます。もちろん、ウィーン・フィルによる美しいケンペ盤(EMI)、アバド盤の魅力にも抗し難さを感じます。この4つは座右の名盤です。あとはショルティ盤、バレンボイム盤も中々に捨てがたいです。
<備考>
ショルティ/ウィーン・フィル盤を追記しました。(2022.10.26.)
マタチッチ/バイロイト盤を追記しました。(2023.10.26.)
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