G.F.ヘンデル

2019年12月19日 (木)

G.F.ヘンデル オラトリオ「メサイア」 名盤

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毎年12月になると第九と並んで頻繁に演奏されるのが、ヘンデルの「メサイア」ですね。タイトルは「メシア(救世主)」の英語読みですが、チャールズ・ジェネンズという人が受難週の演奏会のために聖書を元にしてイエスの生涯をテーマとした台本(歌詞)を書きました。
その後、ヘンデルがジェネンズの台本を使ったオラトリオをアイルランドの慈善演奏会のために作曲しました。1741年のことです。

作品は三部から構成されます。
第1部: メシア到来の預言と誕生、メシアの宣教
第2部: メシアの受難と復活、メシアの教えの伝播
第3部: メシアのもたらした救い〜永遠のいのち

「メサイア」は翌年1742年4月にダブリンで初演されて聴衆から大喝采を受けました。更にその翌年にはロンドンで初演されますが、この時は宗教的な内容の作品を劇場で演奏するのは神に対する冒涜であるという非難を受けたことから、その後は余り演奏されませんでした。
しかしヘンデルは捨子養育院での慈善演奏会で「メサイア」を毎年演奏したので、次第に評価が高まりました。

「メサイア」の初稿の編成はシンプルなものでソプラノ、アルト、テノール、バスの独唱と合唱、それに弦楽オーケストラで、それ以外には「Glory to God /神に栄光があるように」でトランペットのソロが有るだけでした。その後、ロンドン初演でオーボエとファゴットが追加され、更に何回にも亘って改訂・再演された為に楽譜には何種類もの版が有ります。

19世紀半ばになると500人のオーケストラと2000人の合唱によって上演されたり、やがては4,000人にのぼる合唱団によって上演されました。こうした巨大な編成による演奏は20世紀になっても続けられましたが、ヘンデルの原作から離れ過ぎているという批判も起きました。

第2部最後の「ハレルヤ」(俗に“ハレルヤ・コーラス”)は超有名で、ロンドンで演奏された際に国王ジョージ2世が、「ハレルヤ」の途中で起立したために、聴衆も皆続いて立ち上がったという逸話がありますが、これはどうやら史実ではないようです。

いずれにしても「メサイア」はヘンデルの唯一の宗教オラトリオですが、「ハレルヤ」以外にも美しい曲がずらりと並んでいて、バッハの受難曲やミサ曲と並ぶ、宗教音楽の傑作です。

それでは愛聴盤をご紹介します。LP盤時代にはエードリアン・ボールト指揮ロンドン交響楽団の壮麗な演奏を愛聴しましたが、今はヘンデルのオリジナルに近いピリオド編成の演奏を好みます。

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クリストファー・ホグウッド(指揮)オックスフォード・クライスト・チャーチ聖歌隊、エンシェント室内管弦楽団、ジュディス・ネルソン(ソプラノ)、エマ・カークビー(ソプラノ)、キャロライン・ワトキンソン(コントラルト)、ポール・エリオット(テノール)、デイヴィッド・トーマス(バス)(1979年録音/DECCA盤)
ピリオド楽器による「メサイア」の初期の録音ですが、ホグウッドがこの曲が作曲された時代に実際に上演された版を忠実に再現することを目指した力作だったので、今聴いても新鮮さは全く失われていません。主兵のエンシェント室内管はもちろん優れていますし、合唱のソプラノパートを歌う聖歌隊がまた大変に美しいです。もちろんセッション録音なので選抜した少人数が歌ったのを音編集している可能性は否定できませんが、とにかく少年合唱ならではの清純さが滲み出ていて心を打たれます。これをプロの女性コーラスと比べてどうのこうの言うのは野暮というものです。ソリストも万全と言いたいところですが、ネルソン、カークビー、ワトキンソン、エリオットに比べてバスのトーマスのみがやや平凡です。録音は残響が豊かなので実際に大聖堂で聴いている気分を得られます。これは敬虔さと音楽美が両立した不滅の名盤だと思います。

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スティーヴン・クレオバリー(指揮)ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団、 ブランデンブルク・コンソート、リン・ドーソン(ソプラノ)、ヒラリー・サマーズ(アルト)、 ジョン・マーク・エインズリー(テノール)、アラステア・マイルズ(バス)(1994年録音/Briliant盤)
オックスフォードに対抗するのはやはりケンブリッジ、ということでは有りませんが、ケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱団は、少年と成人男声だけの聖歌隊スタイルで500年以上の歴史を持ちます。これはちょうど先月亡くなった英国宗教音楽の大御所クレオバリーが指揮してオランダの聖ペテロ教会で行った演奏会の録音です。ディスク化するには条件的に難しいライブですが、ここではむしろ生演奏の緊張感がプラスに働いていて、些細な傷など全く問題とならない感動的な演奏となっています。4人のソロイスト版で、皆素晴らしいですが、看板のコーラスの魅力と言ったら言葉になりません。むろんプロのコーラスに比べれば精度やテクニックで劣りはしますが、その敬虔な歌声には抗し難い魅力が有ります。ブランデンブルク・コンソートの演奏も見事で、テクニック、音色、躍動感、すべてが完璧です。録音も優秀ですし、これはかけがえのない名盤だと思います。

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アンドリュー・パロット(指揮)タヴァナー・プレイヤーズ&合唱団、エマ・カークビー(ソプラノ)、エミリー・ヴァン・エヴェラ(ソプラノ)、マーガレット・ケイブル(メゾ・ソプラノ)、ジェイムズ・ボウマン(カウンターテノール)、ジョゼフ・コーンウェル(テノール)、デイヴィッド・トーマス(バス)(1988年録音/EMI盤)  
パロット主兵の古楽器団体、タヴァナー・コンソート&プレイヤーズの演奏ですが、重々しくならない適度なテンポで、各パートをクリアに響かせて、対位法的な動きを非常に面白く聴かせています。彼らのバッハの受難曲やミサ曲の演奏には峻厳さが余り感じられないのが不満でしたが、ヘンデルのこの曲ではその「軽み」がむしろプラスに作用していて、大変に魅力的です。ホグウッド盤と同じくソプラノはソリスト二人が分け合いますが、主にアリアをカークビーが、レチタティーヴォやそれ的なところをエヴェラが受け持っていて、ホグウッド盤よりもカークビーの出番が多いのは嬉しいです。徹底したピリオド奏法の器楽演奏も優秀ですが、とにかく全ての音がクリアに耳に聴こえてくるのはセッション録音の成せる業で、これはライブ収録では到底不可能です。逆に言えば、自分の家で純音楽的に鑑賞するのであれば最上の名盤なのかもしれません。

さて、この三種類のCDはどれも素晴らしく外せないものばかりですが、個人的な好みで言えば、少年合唱の加わったホグウッド盤とクレオバリー盤を聴くときに最も幸せを感じます。

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