ドヴォルザーク 交響曲全集 イルジー・ビエロフラーヴェク/チェコ・フィル ~今年聴いたCDから~
今年もあと二週間となりました。そこで今年聴いたCDでご紹介していないものの中から、これはというものを拾い出してみます。まずはイルジー・ビエロフラーヴェク/チェコ・フィルのドヴォルザークの「交響曲全集」です。
この全集は一昨年2014年のリリースですが、購入したのは今年です。というのもリリースの前年にこのコンビの来日公演で素晴らしいドヴォルザークを聴きましたが、正直交響曲全集はヴァーツラフ・ノイマンの新旧二種があれば充分かなと思っていました。特に二度目のノイマンのスプラフォンへの全集録音は決定盤だと思っていたからです。
ビエロフラーヴェクは、かつて在京オケへ何度も客演しましたが、特別な閃きを持つ指揮者ではないと感じていました。数年前のチェコ・フィル公演でもその印象は変わらず、オーソドックスですが新鮮味には乏しい指揮者という感じを受けました。もっともチェコ・フィルのような伝統的な音を持つオケにとってはその方が有難いのです。下手に音をいじられる方がよほどまずいからです。
というのがこの全集を買い遅れた理由でしたが、聴いてみて考えがすっかり改められました。これは全く持って素晴らしい全集です。それに意外だったのはこの全集がスプラフォンではなく、DECCAによる録音だったことです。
まず、最大のポイントは音が非常に良いということです。ノイマンの二度目のデジタル録音も当時非常に優秀でしたが、この最新のDECCAでによる録音を聴いてみるとやはり機材の進化を感じます。音に歪み成分が少なくふわりと柔らかく広がっています。聴いていて本当に心地が良いです。特に中低域にアナログ的な厚みがあるので非常に重みが感じられて安定感が有ります。
但しノイマン盤とは明らかに金管の音の録り方が異なります。ノイマン盤では金管がかなり浮き上がっているので直接的な迫力が有りました。当時デジタル録音に移行したといえども伝統的なスプラフォンの音のバランスを保っていたようです。それに比べるとこのビエロフラーヴェク盤では金管が弦楽器と良くブレンドされているので、響きが美しい反面、聴きようによってはやや迫力不足に感じられるかもしれません。そもそもチェコ・フィルの金管群に関してはノイマン時代のほうが優れていたのも事実です。しかし現在でも優れていることに変わりは有りません。
演奏全体に関しては互角と言って構いません。少なくともドヴォルザークに関しては、ビエロフラーヴェクはついにノイマンの域に達したと思います。特に気に入ったのが「新世界より」で、インテンポを守るノイマンに対して、ビエロフラーべクはアゴーギクを微妙に加えていて曲想の変化をより感じさせることに成功しています。と言ってチェコ以外の国の指揮者が良く行うようなドラマティックでわざとらしい変化は少しも見せません。あくまでも自然な範囲です。
他の曲もすべて、全9曲とも出来不出来が一切無いこともノイマンの新盤に匹敵します。ということから現時点で全集として比較した場合にはビエロフラーヴェク盤に軍配を上げたいと思います。
またこの全集には、3曲の協奏曲が収録されているのも魅力です。特にアリサ・ワイラーシュタイン独奏のチェロ協奏曲はこの曲のベスト盤のひとつに上げられます。
ヴァイオリン協奏曲を独奏するフランツ・ペーター・ツィマーマンは単売のノイマン盤でのヨゼフ・スークには及びません。またピアノ協奏曲を独奏するのは懐かしいギャリック・オールソンで美しい演奏を聞かせていますが、こちらもビエロフラーヴェクの旧録音で独奏したチェコの巨匠イワン・モラヴィッツと比べると明らかな格の差を感じてしまいます。しかし、どちらもそれほどポピュラーな曲では有りませんし、交響曲全集に含まれているのは大変にお買い得です。
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