ブルッフ

2019年8月 4日 (日)

ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調Op.26 名盤

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マックス・ブルッフはケルン生まれのドイツの作曲家で、ブラームスより5歳年下です。早くから才能を示して、ヴァイオリン協奏曲第1番は特に人気が有り頻繁に演奏されました。もっとも、この作品はブルッフが28歳の年に初演されて好評でしたが、それでも満足出来ずにヨーゼフ・ヨアヒムに助言を求めて二年後に改定版を発表しました。そのかいあってヨアヒムが独奏した演奏会は大成功に終わりました。

ブルッフの曲は魅力的な旋律を持つことが特徴で、作品をとても親しみやすいものにしています。「旋律は音楽の魂である」「旋律を歌うのに不向きなピアノにはさほど興味を持てない」という発言もしていたそうです。彼はロマン派の中でも古典的な志向が強かったので、メンデルスゾーンやシューマン、ブラームスには非常に敬意を払い、反対にリストやワーグナーには敵対心を持ちました。
ひところはかなりの人気を博していましたが、ブラームスが交響曲第一番でセンセーショナルな成功を収めてからは、その陰に隠れてしまい、後年はごく少数の作品を除いてすっかり忘れ去られました。いつまでもヴァイオリン協奏曲第一番が最も知られていることにも不満を感じていたようです。

さて、そのヴァイオリン協奏曲第一番は現在でもよく取り上げられますし、人によっては古今のヴァイオリン協奏曲の五指に数えるかもしれません。僕も大好きですが、ブラームス、ベートーヴェン、シベリウス、チャイコフスキー、メンデルスゾーン・・・と自分の五指からは残念ながら漏れてしまいそうです。しかしブルッフの特徴である美しい旋律を凄く楽しめますし、その一方で胸が高まるような高揚感も持っています。第二楽章は単に美しいだけでなく、自然や神への祈りが深く感じられて感動的ですし、第三楽章はブラームスのヴァイオリン協奏曲の終楽章にも匹敵する躍動感が最高です。確かに時代の波にも消し去られなかっただけある名曲です。

なお、ブルッフには現在ではほとんど演奏されないヴァイオリン協奏曲第二番と第三番がありますが、幻想曲風な第二番、管弦楽がシンフォニックな第三番とも一聴に値するものの、第一番を超えたとはお世辞にも言えません。むしろヴァイオリン協奏曲スタイルの「スコットランド幻想曲」の方がずっと美しい名曲です。

それではCD愛聴盤をご紹介します。

51hffygjmrl_1_20190728222201 クリスティアン・フェラス独奏、ワルター・ジェスキント指揮フィルハーモニア管(1958年録音/EMI盤) フェラスが意外に表現意欲旺盛に、かつロマンティックに弾いているのに驚きます。気迫もかなり感じられます。ところがEMIの録音がステレオながら古く感じられてがっかりです。フォルテ部分もリミッターをかけたかのように盛り上がらず、拍子抜けをしてしまいます。

81uf1ctim3l__sl1500_ ヤッシャ・ハイフェッツ独奏、サー・マルコム・サージェント指揮新ロンドン響(1962年録音/RCA盤) ハイフェッツとしては最後期の録音で、かつての魔人的な凄みこそ失われたものの、テクニックと音色の冴えはまだまだ衰えません。それどころかどんなに速い部分でも音符の一つ一つに意味が有ります。第二楽章も颯爽としている割に味が有ります。しかし白眉はやはり第3楽章で、疾風のごとく駆け抜ける演奏の切れ味は凡百の演奏家の追随を許しません。この曲の演奏として必ずしも一番好きということでも無いのですが、絶対に外せない名演というところです。

03_1103_01 ユーディ・メニューイン独奏、サー・エードリアン・ボールト指揮ロンドン響(1971年録音/EMI盤) メニューインはこの曲を最低3回は録音していて最後の録音となります。第1楽章など良く歌わせますが、技術の衰えが酷く耳を覆います。ところが第2楽章に入ると味わいが深まって思わず聴き惚れます。続く第3楽章も技術の衰え何のそのと堂々と弾かれるのですっかりこの人のペースにハマってしまいます。ボールトの指揮もメニューインを引き立てていて素晴らしいです。

51oltnnhi5l チョン・キョンファ独奏、ルドルフ・ケンペ指揮ロイヤル・フィル(1972年録音/DECCA盤) 若きキョンファのシベリウスと並ぶ名ディスクは長く自分のリファレンスとして君臨しています。余計な甘さ、脂肪分が無く引締まった音の美しさ、切れの良い技巧とリズムが最高です。第二楽章のしみじみとした味わいと祈りの気分も素晴らしいです。ロイヤル・フィルは往々にして音の薄さを感じさせますが、この演奏では全くそんなことが無く、非常に立派で厚みが有る音を聴かせています。これはケンペの実力でしょう。

51s5mzw9dql アルテュール・グリュミオー独奏、ハインツ・ワルベルク指揮ニュー・フィルハーモニア管(1973年録音/フィリップス盤) グリュミオーは美音でロマンティックに歌わせますが、決して粘着質にベタベタとなったりはしません。あくまでさらりと爽やかな印象を与えるのが、この曲には向いています。この人はライブ録音では意外と音程などに怪しい部分が見受けられますが、このセッション録音では完璧です。ワルベルクの指揮も素晴らしく充実して聴きごたえがあります。

91ca63d7s3l__sx522_ レオニード・コーガン独奏、ロリン・マゼール指揮ベルリン放送響(1974年録音/DENON盤) 1960年頃までのコーガンは凄まじいまでの切れ味が凄かったですが、70年代ともなると凄みがだいぶ失われました。しかしこの人はロマンティックに走るわけではなくヴィルトゥオーゾのスタイルを変えなかった為に、その魅力も失われて来たのはやむを得ません。この録音でも第二楽章の祈りが弱く感じられるなどのマイナスが有りながら、それを終楽章で挽回できないというのが残念です。

41zvv7wej4l サルヴァトーレ・アッカルド独奏、クルト・マズア指揮ゲヴァントハウス管(1977年録音/フィリップス盤) パガニーニの印象の強いアッカルドですが、案外とドイツ物を録音しています。速いパッセージではいかにもヴィルトゥオーゾ的に技巧をひけらかしますが、緩徐部分ではロマンティックに歌い上げます。独奏の音色は明るく、ほの暗い情緒感はさほど望めないところをオーケストラのいぶし銀の音がしっとりとバランス良くカヴァーしています。また、このディスクの大きなメリットは第2番、第3番、スコットランド幻想曲が全て収められていることです。

51swsllgv2l アンネ=ゾフィー・ムター独奏、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1979年録音/グラモフォン盤) ムターのデビュー時の録音です。僅か16歳でこれほど高度な演奏をするのには驚嘆します。ただし常に大きなヴィヴラートを利かせたグラマラスな弾き方がこの曲として相応しいかどうかは聴き手の好み次第です。カラヤンとベルリン・フィルのグラマラスな演奏も同様です。どんなにシンフォニックで立派でもこういうヘビー級で爽やかさに欠けるこの曲の演奏というのは自分の好みからは全く外れてしまいます。

41f2mc3gbel チョン・キョンファ独奏、クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィル(1990年録音/EMI盤) キョンファ円熟期の再録音です。技巧的にさほど衰えは感じられませんが、若いころの鋭い切れ味は減少しました。その分ロマンティックさが増しました。テンシュテットの指揮も同様でスケールも大きいですが、終楽章ではややもたつきにも感じられます。EMIの録音の影響もあり、ロンドン・フィルの音がモノトーンっぽいのは残念です。個人的にはキョンファであればケンペとの旧録音がずっと好きです。

81pczsd46sl__sl1410_ マキシム・ヴェンゲーロフ独奏、クルト・マズア指揮ゲヴァントハウス管(1993年録音/TELDEC盤) 若きヴェンゲーロフの録音ですが、当時の実力のほどが充分に伺えます。美しい音と高いテクニックで余裕をもって弾き切っています。ロマンティシズムも兼ね備えていますが、くどくならない程度に上手く歌っています。半面、終楽章での切れの良さも素晴らしいです。マズアとゲヴァントハウスはここでも厚みのある音で独奏を堂々と支えていて、アッカルド盤での演奏に負けません。

41chx8vajel 諏訪内晶子独奏、サー・ネヴィル・マリナー指揮アカデミー・オブ・セントマーティン・イン・ザ・フィールズ(1996年録音/フィリップスン) 諏訪内さんのデビューCDでしたが、高い技術で危なげなく弾き切っています。やや細身に感じられる音色も奇麗です。端正な歌いまわしは清潔感に溢れます。但しここまで真面目に弾かれると人によっては面白みに欠ける印象を受けるかもしれません。しかしそのクールさがこの人の魅力です。オケは元々室内合奏規模ですが、ここではメンバーを増強しているようで、響きもそこそこ厚く鳴っていて、問題ありません。

51kuoh9xyl 五嶋みどり独奏、マリス・ヤンソンス指揮ベルリン・フィル(年録音/SONY盤) これはライブでの録音です。五嶋みどりは流石というか、ライブとは思えないぐらい高次元の完成度です。ただ逆にスリリングさを生み出すほどに追い込んでいる印象は受けません。これは贅沢な不満です。ベルリン・フィルの音は立派この上ないですが、この曲には厚く重すぎて余り向いていないように思います。それにヤンソンスの指揮と独奏に所々隙間を感じるのは自分だけでしょうか?とは言え一般的には高い評価を受けるであろう演奏です。

ということで、マイ・フェイヴァリット盤を上げるとすれば、迷うことなくチョン・キョンファ/ケンペ盤に決まりです。他にハイフェッツ盤は折に触れて聴きたいと思います。

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2011年8月16日 (火)

~サマースペシャル・名曲シリーズ~ ブルッフ 「スコットランド幻想曲」op.46 名盤

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毎日暑い日が続いています。
こんな時には、家で爽やかな気分に浸れる音楽を聴くのが一番です。「グリーンスリーブスによる幻想曲」に続いて、スコットランドにちなんだ曲を聴きましょう。マックス・ブルッフの「スコットランド幻想曲」です。

ブルッフはドイツの作曲家ですが、ベルリンの音楽大学の教授でもあったので、生徒の中には日本の山田耕作なんかも居ました。ブルッフの一番有名な作品は「ヴァイオリン協奏曲第1番」で、僕もとても好きな曲です。けれども、同じヴァイオリン協奏曲のスタイルをとりつつも、もっと自由に書いた名作が「スコットランド民謡の旋律を自由に用いた、管弦楽とハープを伴ったヴァイオリンのための幻想曲」です。これでは余りに長過ぎるので、通常は「スコットランド幻想曲」と呼ばれます。

ブルッフの音楽の基調はドイツ・ロマン派としてのロマンティックな音楽ですが、たとえスコットランド民謡を使わなくてもどことなく爽やかな雰囲気を持っています。「ヴァイオリン協奏曲第1番」も、やはりそうでした。ですので「スコットランド幻想曲」ともなると本当に涼しげな空気感が一杯に広がります。爽やかで懐かしいメロディが幻想的な雰囲気の中に次々に現れてきます。民族楽器のバグパイプを模した和音なんかも登場します。
演奏会で取り上げられる機会が決して多いとは言えませんが、珠玉の一品と呼べる素敵な曲なのです。もしもこの曲を聴かれたことが無い方は、是非ともお聴きになられてほしい名曲です。

元々出ているCDの種類もそれほど多くは有りませんが、僕の愛聴盤をご紹介してみます。

Bruch41jj8jcxo2l ヤッシャ・ハイフェッツ(Vn)、マルコム・サージェント指揮ロンドン新響(1961年録音/RCA盤) 何という艶やかな音色と鮮やかなテクニック!ヴィルトゥオーゾ風な演奏はこの曲には向かないと思って来ましたが、ここまで見事に演奏されると降参です。確かにスコットランドの素朴な風景や自然とは異なるかもしれませんが、飄々とした雰囲気でベタベタ粘着するわけではありません。圧巻は終楽章で、さながらサラサーテの様ですが、余りの凄さに唖然とするばかりです。この曲の代表盤としてはお勧めしませんが、二枚目以降の必聴盤として強く推します。

516u2hymstl__ss500_ チョン・キョンファ(Vn)、ルドルフ・ケンぺ指揮ロイヤル・フィル(1972年録音/DECCA盤) この曲は余りにたっぷりと歌われると甘さが過多になって爽やかさが失われてしまいます。大家が演奏すると往々に陥りやすいです。ドイツの森では無く、北国スコットランドの景色を目の当たりにするような空気感が欲しいのです。その点、若きキョンファのバイオリンは実に端正で余分な脂肪分が無く、凛とした雰囲気がこの曲にうってつけです。懐かしい歌い方といい、リズムの切れの良さと言い、正に最高です。更に名匠ケンぺのオケ伴奏も実に素晴らしく、それほど優秀でもないロイヤル・フィルからうっとりとするような美しい演奏を引き出しています。この演奏は、この曲の不滅の名盤だと思います。

Bruch41srjn2asjl アルトゥール・グリュミオー(Vn)、ハインツ・ワルベルク指揮ニュー・フィルハーモニア管(1973年録音/フィリップス盤) グリュミオーはとても美しく端正な演奏を聴かせます。ビルトゥオーゾ風でないのがこの人の魅力です。旋律を柔らかく美しく歌わせる点でこの曲の良さを際立たせていると思います。ただし終楽章ではテンポが遅すぎて躍動感に欠ける感が無きにしも非ずです。ワルベルクのオケ伴奏は非常に立派で素晴らしいです。

Bruch41zvv7wej4l サルヴァトーレ・アッカルド(Vn)、クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1977年録音/フィリップス盤) パガニーニを得意とするアッカルドですが、意外なほどの名演です。テクニックは完ぺきですが、ハイフェッツほどヴィルトゥオーゾ風には聞こえません。むしろじっくりゆったり音楽の情緒を味合わせてくれます。マズア/ゲヴァントハウスの音の立派さも特筆ものです。基本的にはドイツ風の厚い響きですが、暗い音色が北欧の曇った空と空気を連想させます。

51vg6rqyvl_2五嶋みどり(Vn)、ズービン・メータ指揮イスラエル・フィル(1993年録音) 五嶋みどりの初期の録音です。カップリングのシベリウスでは透徹した曲の魅力が十分に表現できているとは思えませんでしたが、どちらかというとブルッフの方が楽しめます。若さに似合わずどっしりとした恰幅の良さを感じますし、技術的にも安心感が有ります。歌心にも不足しません。ただ、大げさではありませんが軽いポルタメントが頻出するので甘めの口当たりとなり、全体的に北欧のクールな空気をあまり感じさせません。それはメータとオーケストラにも同様なことが言えます。従って個人的には上位に置くのはためらわれる演奏です。

20091209_1551327 諏訪内晶子(Vn)、ネヴィル・マリナ―指揮アカデミー室内管(1996年録音/フィリップス盤) わが愛しの晶子様、24歳の時のCDデビュー録音です。演奏本位で言えば、キョンファ盤以外は何も要らないとさえ言いたいところですが、プレイヤー本位(というかCDジャケット本位?)ということでは、やはり晶子様です。当時のお嬢様も今ではすっかり大人の女性になり、私生活や脱税問題で色々と叩かれて苦労しているようなので気の毒です。しかし、この演奏は彼女のスリムな体形のように脂肪分少なく爽やかです。変に甘ったるくならないのがこの曲にピッタリです。マリナーの指揮が同様の素晴らしさです。オケの音が余りに美しいのでBGMっぽく感じないでも無いですが、それぐらい北欧の空気感を漂わせていて爽やかだということです。

<補足>
五嶋みどり/メータ盤、ハイフェッツ/サージェント盤、アッカルド/マズア盤を追記しました。

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