ブラームス(交響曲全集)

2021年12月16日 (木)

ブラームス 交響曲全集 クリストフ・エッシェンバッハ指揮ベルリン・コンツェルトハウス管

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クリストフ・エッシェンバッハ指揮ベルリン・コンツェルトハウス管(2019-20年録音/BERLIN CLASSICS盤)

現役の指揮者で一番好きな人はと言えば、実はティーレマンでもゲルギエフでもラトルでもヤルヴィでも無く、誰あろうクリストフ・エッシェンバッハなのです。

そのきっかけになったのは、2005年にサントリーホールでシュレスヴィヒ・ホルシュタイン祝祭管を指揮したブラームスの交響曲第4番の奇跡的な演奏会に接したことからです。それは、あのフルトヴェングラーがドラマティックさの限りを尽くした壮絶なまでの演奏スタイルで古典的造形性を完全に失っていたのに対して、エッシェンバッハは同様なスタイルで有りながらも造形性をギリギリのところで保つという正に離れ業を成し遂げていたからです。(この時のライブは独ヘンスラーからCDリリースされています)

ところがエッシェンバッハは録音に恵まれているとは言えず、ブラームスのシンフォニーもアメリカのヒューストン交響楽団との全集録音が有るだけです。しかしこの演奏はアメリカの楽団が録音したブラームスシンフォニー全集としては第一級のものだと思います。
ですので、マエストロがドイツの楽団を指揮して再録音を果たしてくれる日を待ち遠しく思っていました。ようやく、それが実現したのです。

ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団は、かつてベルリン交響楽団という団体名でした。西ドイツにも同名の団体が有りますが、こちらは東ドイツの団体で、設立は1952年と新しいです。当時の東ベルリンで設立されて、歴代の指揮者にはクルト・ザンデルリングも名を連ねます。ブラームス指揮者の神様であるザンデルリンクの二度目のシンフォニー全集もこの楽団との録音でした。そして前任者のイヴァン・フィッシャーの後継として2019年にエッシェンバッハが首席指揮者の座に就きました。

さて、それでは曲ごとの感想です。

第1番は、基本のテンポはだいぶ遅めです。2000年にハンブルクで北ドイツ放送響を指揮したライブが海賊レーベルEn Larmesから出ていて、それも遅めでしたが、今回は更にゆったりとした印象です。エッシェンバッハの指揮は正に王道そのもので、厳格なイン・テンポを守るわけでは有りませんが、不自然にテンポを変えて姑息な印象を与える様な真似は一切有りません。実に堂々たるブラームス演奏です。金管も中々に鳴らせていますが、常にベースとなる弦楽の上に音を載せて、全体を美しく溶け合わせているので、とても心地好いです。その響きは北ドイツ風の暗く厚い音では無く、もう少し中部ドイツ的な透明感が有るように思います。第2楽章も同様に大変美しく静かに流れゆきます。ヴァイオリン独奏はコン・ミスのス―ヨン・キムが弾いていますがまずます及第点といったところです。第3楽章もゆったりと美しく、その落ち着いた雰囲気で終楽章に入って行きます。導入部にはさほど劇的な効果は求めず、それを期待すると肩透かしをくらうかもしれません。むしろ牧歌的なほどです。あの主題も落ち着いて歌われます。展開部に入ってからも中々アクセルを踏むことなく、高齢者ドライバーの暴走とは無縁です。安全運転ですが、美しい景色を眺めて楽しみながら走っているような安心感が有ります。それでも少しづつ、少しづつ盛り上げて行くパースペクティブの良さは流石です。終結部でも下手にテンポを煽ったり、金管を無理やり強奏させたりせずに全く持って大人の貫禄です。

第2番も基本テンポは遅めで、ゆったりとした構えは堂々たるものです。透明感ある響きが美しく牧歌的な幸福感を感じさせます。4曲の中で、美しい響きを造り出すのが最も難しいこの曲ですが、流石はドイツのオケとマエストロの手腕です。第2、第3楽章も同様に美しいです。終楽章ではいたずらに煽るような真似はしない非常にスケールの大きい指揮が本領を発揮して、単なる姑息な爆演とは次元の異なる気宇の大きい演奏で大変な充実感を与えてくれます。

第3番は、1楽章から相当遅いテンポで恰幅の良さが際立ちます。ザンデルリンクの旧盤のような立派さです。もっともオーケストラの音の厚みと質は流石にSKドレスデンには及びません。ですので、あれほどの充実感を感じられるわけではありません。2楽章、3楽章はやはり遅いテンポでゆったりと非常に味わい深く歌わせています。特に3楽章からこれほどまでに寂寥感を感じさせてくれる演奏は稀かもしれません。終楽章もスケールの壮大さが圧倒的です。それが異形さを感じさせることも無く、ブラームスの音楽の範囲内に収まっています。

第4番も基本テンポは遅めでじっくりと進みます。歌わせ方には非常に神経が行き届いています。僅かに教え込んだ跡が感じられなくも無いですが気になるほどではありません。1、2楽章はとても美しいです。3楽章はやたらと煽るのではなく地に足を付けた恰幅の良い演奏です。終楽章では変奏が進むに連れてじわりじわりと高揚してゆく様が聴き応えあります。それでも、2005年東京ライブではフルトヴェングラーを想わせる激しさが有ったのに対して、こちらはずっと落ち着いた円熟の演奏となっています。

全曲を聴き終えてみますと、やはり素晴らしい全集です。どっしりと雄渾な演奏ですが、決して枯れているわけでは無く、秘めたる情熱を感じます。エッシェンバッハの指揮には、とって付けたような演出や姑息さを感じさせることは全くありません。本物の巨匠だと思います。
惜しまれるのは繰り返しますが楽団の響きです。ドイツ的な素晴らしい音ですが、SKドレスデンやゲヴァントハウス管など最上級の団体にはあと一歩及ばない印象です。しかし、少なくともベルリン・フィルのような近代的で輝かしい音色よりもずっとブラームスに適しています。

録音に関しては、同じオーケストラで録音したザンデルリンクの再録音盤は余りにもホールトーン的な音造りでしたので、個人的には今回のエッシェンバッハ盤の音造りを好みます。ちなみに1番と3番がライブ録音。2番と4番はコロナ禍における無観客ライブ録音とのことです。

ということで、数多あるブラームスの交響曲全集の中でも座右に置きたいセットの一つとなりました。近年の中ではティーレマン/SKドレスデン盤、バレンボイム/SKベルリン盤と比べて、オーケストラの響きの点では後塵を拝しますが、演奏としてより好むのはこのエッシェンバッハの新盤です。

最後に一言だけ。あのどうしようのないジャケット・デザインは何とかならなかったものでしょうか。。。

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ブラームス 交響曲全集 名盤 ~古典派の肉体にロマン派の魂~

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2021年12月 6日 (月)

ブラームス 交響曲全集 ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン

Bra-51xu8x6nwnl_ac_ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン(2017年録音/グラモフォン盤)

バレンボイムのこの全集盤は実は2年前に購入したものの、ずっと聴くのを後回しにしていました(汗)。実は最近リリースされたエッシェンバッハの全集盤を購入したので、こちらを先に聴かなければ、と思いたった次第です。。(再び汗) 

バレンボイムは1993年にシカゴ響と全集録音を行っているので、これは二度目の全集です(旧盤は未聴です)。およそ四半世紀を経ての再録音ですが、今回の売りは何と言っても30年も音楽監督を務めた手兵シュターツカペレ・ベルリンとの録音だということです。この旧東独の伝統歌劇場の楽団の音はいかにもドイツらしい暗く重厚なもので、かつて名指揮者オトマール・スイトナーも素晴らしいブラームスの交響曲全集録音を残しています。指揮者としてのバレンボイムはリヒャルト・ワーグナーあたりのオペラが一番良いように思いますが、この伝統的なドイツの響きを30年間守り続けたのは最大の偉業だと思います。

それでは第1番から順に聴いてゆきます。

第1番は遅めのテンポで重さが有りますが、自分の感覚ではそれがもたれるようには感じません。オーケストラの響きは昔と少しも変わりません。ほの暗いドイツ的な響きが実に嬉しいです。録音もそれを忠実に捉えています。但し、スイトナー盤の録音も同傾向で優れていたので、特に優位性は感じられません。第3楽章ではほぼインテンポですが、終楽章に入ると少しづつですが、アクセルを踏んでゆく感じです。決め所でのティンパニの強打も効果的です。終結部はスケール大きく高揚して聴き応えが有ります。まずは伝統的、正統的なブラームスであり、かなり満足出来ます。 

第2番は、実はドイツ的な響きを造るのが一番難しい曲です。下手なオケが演奏すると金管の音が浮き上がってしまい、美しいハーモニーが生まれません。その点、この演奏は全体の音が柔らかく溶け合って非常に美しいです。それもウィーン・フィルの透明感の有る音とは異なり、あくまでもドイツ的な厚みの有る音です。弦楽、木管、金管いずれも上手く、美しく魅了されます。ある時は大きく、ある時はいじらしく歌わせるバレンボイムの手腕も素晴らしいです。テンポもゆったりと気宇の大きさを感じさせて理想的ですが、フィナーレはスケール大きく盛り上がります。 

第3番は、やや問題ありです。というのも1楽章でディナーミクに工夫をする余り、何となく音楽が造り物めいて、そこに姑息さが感じられてしまうからです。力演の割に感銘を受けません。2楽章、3楽章では、無理に表情を付けようとしている跡がやや気になります。終楽章はスケール大きく盛り上がりますが、金管がやや浮きあがり気味なのが気になります。ザンデルリンクの気宇の大きさはもちろん、スイトナーにも及ばない気がします。 

第4番は、冒頭Hの音をフルトヴェングラーのように弱音で伸ばし気味に弾かせます。その後は控え目に進みますが、この曲でも決して自然体では無く、細かいところで表現意欲が感じられます。気にならない人には問題無いでしょうが。。2楽章は彫りが深く立派で聴き応えがあります。3楽章はややおっとり刀で、集中力と迫力がいま一つのように感じます。終楽章も変奏によりムラが感じられます。オケの響きは素晴らしいし、決して悪い演奏では無いのに残念です。 

ということで、第1番、第2番が素晴らしいものの、第3番、第4番には満足し切れません。全集としてはいま一つ充実感に不足します。同じシュターツカペレ・ベルリンによる全集であれば、かつてのスイトナーの方が上だと思います。

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2017年12月22日 (金)

ブラームス 交響曲全集 カラヤンとセルを聴く ~古い奴だとお思いでしょうが~

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すっかり冬になりましたが、季節を秋に遡ってみたいと思います。

毎年深まる秋を感じると無性にブラームスの音楽が聴きたくなりますが、そういう方は多いと思います。哀愁漂う美しい旋律が心の奥底まで染み入ってくるからですね。

ブラームスはロマン派音楽全盛の時代に古典的様式を用いて作曲をしたので、先進的な音楽家からは『古い奴だ』と思われていました。けれども様式は古典的でも、音楽の内側はロマンチシズムが一杯に溢れていて、それがブラームスファンの心をぎゅっと掴むのですね。

今年の秋は中々ゆっくりとブラームスの音楽を聴くことが出来ませんでしたが、晩秋も過ぎたころから二つの交響曲全集をよく聴きいていました。それも以前なら、あまり聴く気が起きなかったカラヤンとセルによる全集です。どうも齢を重ねて嗜好の幅が広がったように思います。それは指揮者に限らず、作曲家、カテゴリーなど何についても言えてはいます。

実は生まれて初めて購入したブラームスの交響曲全集はカラヤンのLP盤のセットでした。高校生の時です。初めは大いに気に入り何度も聴きました。が、しだいに当時傾倒していったフルトヴェングラーのセットが欲しくなり、それを持っていた友達と交換したのです。録音は悪いものの大満足でした。

ところが、ある日クルト・ザンデルリンク/シュターツカペレ・ドレスデンの全集を聴いたところ、何か感覚的にストーンと落ちて『これこそがブラームスだ!』と思えたのです。それから45年という月日が流れましたが、幾ら新しい演奏を耳にしても、それ以上に感じられる演奏は決して有りません。

それでもブラームジアーナーとして幅広く聴きたい気持ちは起きてきます。ということで今年の秋はカラヤンとセルでした。

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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー(1977-78年録音/グラモフォン盤)
   
前述したとおり初めて購入した全集というのはカラヤンがベルリン・フィルと1960年代にグラモフォンに録音したものです。当時のアナログ(LP)盤で聴くと柔らかく目の詰まった響きがブラームスにふさわしく、とても良い音だと思っていました。ところがそれをCDで聴いたところ分離が悪く、薄っぺらい音にがっかりしました。恐らくはマスタリングの悪さでししょうが、これでは演奏以前の問題です。そこで次に購入したのが、この1970年代の全集盤です。こちらは中々に良い音に仕上がっています。

演奏はどの曲も速過ぎず遅過ぎず中庸のテンポで進みますが、ベルリン・フィルの音の厚みが演奏全体に重みと迫力を感じさせます。ただ、弦楽器などは余りに流麗に過ぎて聞こえますし、レガートを強く意識した演奏は耽美的と言えば聞こえはいいのですが、艶やかさが逆に厚化粧に感じられます。

多くの人が指摘するようにカラヤンの演奏に共通しているのは、外面的な美を追求するあまり、音楽の内面的な真実性が希薄になります。徹底的に磨き上げられた美音で演奏されるとベートーヴェンもチャイコフスキーも、このブラームスも何の曲を聴いても同じ印象を受けます。ベルリン・フィルは非常に上手いのですが、あの演奏から寂寥感や悲しみが感じられることはほとんど有りません。BGM的とも呼べるかもしれません。
更に気になるのがフォルテで管楽器を強奏させることで、明るい音で派手に鳴らすのが常套手段と化しています。第1番の終楽章、第2番の終楽章、4番の終楽章とことごとくこれみよがしな派手なフォルテシモが鳴り渡りますので、せっかくそれまでに厚い音で楽しませてくれていた心地良さもどこかに吹き飛んでしまいます。

音楽にブラームスを感じ取ることはありませんし、繰り返して聴くごとに段々と心は離れてしまい飽きが来やすくなる結果となりそうです。 

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ジョージ・セル指揮クリーブランド管(1964-67年録音/SONY盤) 

セル/クリーヴランドが全盛期の1960年代にCBSにより録音された全集です。セルのブラームスは基本のテンポを第1番から第4番までいずれもイン・テンポを保っていて、古典的な造形性をきっちりと守っているのが素晴らしいです。それでいて節目には”念押し”とまでは呼べなくとも、しっかりと重みを感じさせてくれ、いかにもブラームスらしいです。

テンポ設定も全般的に速過ぎることもなく、第4番あたりにはむしろゆったりとしてた情緒的な味わい深さが有ります。

音の切れの良さはいつもながらで、スパッとしたフレージングが日本刀か何かを思わせます。初めのうちはブラームスにしてはスッキリし過ぎているように感じられましたが、繰り返して聴くうちにそれが段々と快感を覚えるようになります。但しフレージングが余りに厳格なので、文字に例えれば”楷書体”あるいは”ワープロ文字”のように聞こえます。それはセルのCBS時代の大半のセッション録音に共通して言えることなのですが。

オブリガートが非常に明確で、スコアを見ながら勉強するには最適です。金管パートがそれぞれ非常に明確なのも特徴です。時にそれにわざとらしさを感じてしまうというのも正直なところです。

金管の響きはブラームスにしては明る過ぎます。他のアメリカの楽団のように、いかにもアメリカ的な底抜けの明るさでは無いですが、ドイツの楽団であれば全体のハーモニーから浮き上がらないような音型が浮き上がり過ぎてしまいます。むろんこれは好みの問題でしょうが、自分にはやはりドイツ流の全ての楽器が柔らかく溶け合った響きが好ましいです。

ということでこの秋は二つの全集を何度も聴きかえしましたが、決定的に異なる点は、繰り返して聴くたびに徐々に魅力が増してゆくセル盤と、それとは逆のカラヤン盤でした。あくまでも”私の場合は”ということですのでご了承願います。

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2015年12月30日 (水)

ブラームス 交響曲全集 名盤 クルト・マズア指揮ライプチッヒ・ゲヴァントハウス管

Brahms_masur253クルト・マズア指揮ライプチッヒ・ゲヴァントハウス管(1977年録音/フィリップス盤)

クルト・マズアが年末に亡くなりましたね。何も亡くなった人を悪く言うこともないのですが、この人は最後まで滅多に感心することの無いマエストロでした。そういう点ではハイティンクと良く似ていて、少なくとも最近では二人ともすっかり巨匠扱い。でも昔から余り感心することが無い。要するに自分の好みとは隔たりの有る指揮者でした。

マズアに関しては、まづぁ、出会いの印象が余り良く無かったのです。大学生の時に期待していったゲヴァントハウス管の来日演奏会。曲目はベートーヴェンの第九。そして指揮者がマズアでした。

古色蒼然としたオーケストラの音色にすっかり魅了されました。ところが、指揮が何とも面白くありませんでした。オーソドックスと言えば聞こえは良いですが、クソ真面目で全然面白くない、四角四面でそこからはベートーヴェンの苦悩も歓喜も聞こえてこない演奏でした。

なので、すっかりマズアという指揮者が嫌いになり、その後何を聴いても(と言っても嫌いに成ったので余り聴いてはいませんでしたが)同じような面白みの感じられない演奏でした。

ということで、このブラームスの交響曲全集にこれまで食指を動かされなかったのも、指揮者がマズアだからという理由だけです。それをどうして今頃になって興味を持ったのかと問われれば、それは「ゲヴァントハウス管の演奏だから」というのがその答え。

ブラームスの交響曲の演奏をして最高なのはシュターツカペレ・ドレスデン、ハンブルク北ドイツ放送響、それにライプチッヒ・ゲヴァントハウス管、この3つの楽団だと思っています。ウイーン・フィルも良いには良いのですが、ブラームスの密度の濃い重厚な響きを聴こうとすると、ちょっと音が澄み過ぎて薄い感じがしてしまうのです。

さて、そうしてこの交響曲全集の演奏を聴いてみました。うーん、やはりゲヴァントハウスの音は素晴らしいです。コンヴィチュニー時代の質剛健な響きは後退しているものの、そんじょそこらのドイツのオケでは出せない重厚な音をやはり聞かせています。良かったのはマズアが期待以上に健闘していることです。クルト・ザンデルリンクの貫禄には程遠いものの、非常に安心して聴いていられるオーソドックスなブラームスです。ドイツ人の割には重厚さがいま一つですが、時にフラフラするところの有る、ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送響の全集よりはずっと良いと思いました。第1番、第2番、第3番とブラームスの音楽をすっかり満喫しました。第4番も良いのですが第3楽章あたりがいかにも覇気の無いマズアまる出しなのでがっかりです。あの重厚なザンデルリンクでもこの楽章ではラプソディックな熱気を充分に感じさせてくれるのと対照的です。

そうは言っても、全体的に中庸か、いくらかゆったりとしたテンポですが、全てにおいてイン・テンポを守っているのでスケール感もそれなりに感じられますし決して悪くありません。何よりもゲヴァントハウスの響きが聞けるのが最大の魅力なので、やはり素晴らしい全集の一つとして数えられます。

クルト・ザンデルリンク/シュターツカペレ・ドレスデン、オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリンに加えてドイツオケによるブラームスのシンフォニー全集のベスト3に入るかもしれません。少なくともカラヤン/ベルリン・フィルやクーベリック/バイエルン放送響よりはずっと気に入りました。もっともエッシェンバッハが北ドイツ放送響と新録音を行なってくれたら恐らくそれを越える可能性が有ります。

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2014年12月 4日 (木)

ブラームス 交響曲全集 名盤 ~古典派の肉体にロマン派の魂~

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ブラームスはロマン主義音楽の時代にあって”新古典主義者”とも呼ばれていますね。それは古典派の様式を踏襲していたからです。けれどもブラームスの音楽は非常にロマンティックでセンチメンタルです。要するにブラームスは『古典派の衣を着たロマン派』あるいは『古典派の肉体にロマン派の魂を持つ』と言い表せるのではないでしょうか。ですので特に交響曲の演奏について、自分はそのバランスを重要視しています。たとえばフルトヴェングラーのブラームスは肉体も魂も完全にロマン派ですので、どんなに凄い演奏であっても好みません。その逆に、いくら造形がしっかりしていてもロマンの魂が抜けたような演奏もまた駄目です。というのが自分のブラームス演奏についての基本的な考え方なのです。

ブラームスの交響曲は僅か4曲ですが、どれも充実仕切った傑作なので、どんなに聴いても飽きることが有りません。最近は第4番を最も好んでいますが、昔から大好きな第3番にもやはり惹かれます。
第1番はとても理屈っぽく書かれているので、「いいかね、この音楽はここが聴きどころで、こういう風に聴かなければ駄目なんだよ。」と説教されてるかのような印象を受けます。ところが、そこにまた惹かれてしまうのですね。結局のところブラームスの愛好家”ブラームジアーナー”には理屈っぽい人が多いのかもしれません。同じアナのムジーナーなのです。
第2番は終楽章の”イケイケどんどん”的なノリが余り好みではありませんが、3楽章までが非常に美しく、やはり魅力の尽きない曲です。

演奏に於いて、これら4曲を全て満足させてくれるのは至難の業なのですが、その神業を見せる演奏家も稀に存在します。ということで、所有盤を順にご紹介します。

Bra-71m56wpho1l_ac_sl1425_ ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル/べルリン・フィル(1948-52年録音/EMI盤) フルトヴェングラーの唯一のブラームス全集です。第1番VPO(1952年)、第2番BPO(1952年)、第3番BPO(1949年)、第4番BPO(1948年)といった戦後のライブ録音集なので音質は貧しいです。フルトヴェングラーのブラームスはオールドファンには人気が高いですが、テンポを劇的に変化させ、煽りに煽るタイプの演奏であり、古典的な造形性は完全に犠牲となっています。ですので個人的には好みません。中ではウィーンPOの美音が感じられる第1番が楽しめます。第3番、第4番の演奏の凄まじさはブラームスからはほど遠いのですが、それでも聴いているうちに否応なしに引き込まれてしまうのはマエストロの魔力です。このBOXセットは協奏曲やドイツレクイエムも含み、廉価ですので所有されていても悪くはないと思います。

Brahms-81jafhwfzyl_ac_sl1400_ オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル(1951-56年録音/グラモフォン盤) ヨッフムにはロンドン・フィルとステレオ録音した全集盤も有りますが、これは50年代のモノラル録音による全集です。何と言ってもフルトヴェングラー時代のベルリン・フィルの音がそのままに聴けるのが魅力です。音色は暗く重厚で、古き良きドイツを感じることが出来ます。その後カラヤン時代に入って音色が急速に変わってしまったのはつくづく惜しまれます。ヨッフムは堂々たる指揮ぶりですが、テンポを変化させながら表情豊かにロマンティシズムを表出します。フルトヴェングラーほど古典的造形性が失われていないのは好ましく、特に第3番、第4番が優れています。セッション録音なので音質は良好です。

Brahms-010 ルドルフ・ケンぺ指揮ベルリン・フィル(1955-60年録音/英テスタメント盤:EMI原盤) ケンペがEMIに個々に録音したものを英テスタメントが全集としてリリースしました。前述のヨッフム盤と同じ様に、フルトヴェングラーが亡くなって間もない時期の録音なので、ベルリン・フィルの響きが暗く厚く、古のドイツ的な音を味わえるのが魅力です。ケンペの指揮は比較的早めのテンポで古典的な造形性を保ち、芝居がからないように自然に盛り上げてゆくのが素晴らしいです。特に第1番と第2番が優れています。第1番と第3番がモノラル録音、第2番と第4番がステレオ録音と異なりますが、音質の傾向は同じで、聴いていて抵抗は有りません。ケンペ晩年のミュンヘン・フィルとの全集録音とはオーケストラの音色も指揮ぶりもだいぶ趣が異なります。

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ラファエル・クーベリック指揮ウィーン・フィル(1956-57年録音/DECCA盤) クーベリック40代初めの録音からです。マエストロと相性の良いウィーン・フィルとの共演が嬉しいです。クーベリックの指揮はどの曲でも速めのテンポで颯爽と進みますが、彫りが深く切れ味が有ります。またそこはかとなく深い情緒が感じられます。特に第4番の演奏が優れているように思います。初期のステレオ録音ですが、響きの薄さも余りマイナスには感じませんし、当時のウィーンPOの持つ柔らかく甘い音色が味わえます。 個人的な好みで言えば、後述するバイエルン放送響盤よりも魅力を感じます。

Srcr000001725__180_180_102400_jpgブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959-60年録音/SONY盤) CBSの録音のせいもあるのでしょうが、オーケストラの響きが薄いのがブラームスにはマイナスです。けれども、それをカバーしているのがワルターの豊かな歌い回しで、まるでヨーロッパの楽団の様な演奏を引き出していることです。曲毎では、最も出来の良いのがノスタルジックな表現に惹かれる4番で、次いでは1番を取ります。それに比べると2番、3番は幾らか聴き劣りします。しかし全集として聴く価値は有ると思います。ワルターが1950年代にニューヨーク・フィルと録音したモノラル盤を高く評価される方も見受けられますが、アメリカ的でマッチョな演奏には少しも魅力を感じません。

41cvyjjxcdl ジョージ・セル指揮クリーブランド管(1964-67年録音/SONY盤) セルのブラームスは常にイン・テンポを保っていて、古典的な造形性をきっちりと守っているのが素晴らしいです。それでいて節目には、しっかりと重みを感じさせてくれます。テンポ設定も速過ぎることなく、第4番あたりはゆったりと情緒を感じさせます。もっとも、余りの音の切れの良さがブラームスにしてはスッキリし過ぎに感じられ、金管の響きもブラームスにしては明る過ぎるので、ハーモニーから音型が浮き上がり過ぎます。自分にはやはりドイツ流の全ての楽器が柔らかく溶け合った響きが好ましいです。

81i0gbsaul_ac_sl1500_ サー・ジョン・バルビローリ指揮ウイーン・フィル(1967年録音/EMI盤) バルビローリの演奏を改めて聴いてみると、つくづくどの曲も深い情感に覆われた演奏だと思います。この人のマーラー演奏のようにテンポは遅く、一歩一歩を踏みしめながら歩みますが、演奏スタイルと同期しているせいか不思議と不自然さやもたれる印象は受けません。ブラームスの古典的造形は希薄でも、内面のロマンティシズムのほとばしりによって、他には例が無いぐらい強い説得力を持ちます。恐らくこれはバルビローリにしか演奏が出来ない非常に個性的なブラームスです。

Brahms_14ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1967-73年録音/EMI盤) ブラームスの生まれ故郷ハンブルクの北ドイツ放送響(NDR)のライブ録音による全集です。NDRの暗くくすんだ音色が、いかにもブラームスの曲に良く似合います。どっしりと構えたテンポも、いかにもドイツ的ですが、このリズムを念押しする感覚が無いとどうしてもブラームスには聞こえません。その点、この演奏は安心して聴くことができます。ちょうどザンデルリンクのスケールを一回り小さくしたような印象ですので、もちろん良い演奏なのですが逆に損をしているようにも思います。全体的に高音強調型のリマスターにも不満が残りますし、第1番がモノラル録音なのもマイナスです。

Bra-71hhhwzz9tl_ac_sl1244_ クラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル他(1970-72年録音/グラモフォン盤) アバド最初のブラームスシンフォニー全集は4つの異なる楽団が演奏しました。1番がウイーン・フィル、2番がベルリン・フィル、3番がSKドレスデン、4番がロンドン響です。同じ頃のクーベリックのベートーヴェン全集が同じ様に全曲異なる楽団でしたので、グラモフォン社のアイディア企画だったのでしょう。個人的にはこういう全集は嫌いです。このアバドの全集で最も良いと思うのは3番です。やはりSKドレスデンという楽団の持つ音色のブラームスへの曲への適正が全てです。次いでは1番で、ウイーン・フィルにしてはいま一つながらも悪いことは有りません。残る2番、4番の演奏には余り魅力は感じません。

Brahms-410tvmv2kxl_ac_ ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1970-73年録音/フィリップス盤) この録音当時のコンセルトへボウの響きはSKドレスデンと双璧とも言える素晴らしさです。ドレスデンの東独的な堅牢な響きとは異なりますが、美しく熟成され切った豊穣の響きは正にヨーロッパの最高の遺産です。ハイティンクの指揮はどの曲においても腰の据わった落ち着いたイン・テンポで、堂々とした見事な造形性を生み出しています。それもまた最上のブラームスの条件です。力んだ煽り方は一切しませんが、じわりじわりと感興を高めてゆく懐の深さを感じます。フィリップスの柔らかいアナログ録音もコンセルトへボウの美しい音を忠実に捉えていて実に素晴らしいです。

Boult_1678 サー・エードリアン・ボールト指揮ロンドン・フィル(3番のみロンドン響)(1970-73年録音/EMI盤) 「バッハからワーグナーまで」というCD11枚BOXに含まれます。どの曲でもロマンティシズムに溺れ過ぎない節度を保っていて、テンポは速からず遅からずの中庸で、ほぼインテンポを守り、表情の大袈裟な変化は見せません。正に英国紳士の気品ある姿を想わせる雰囲気です。オーケストラの響きも地味で、くすんだ音色を持ちますのでブラームスに似合います。どの曲においても良質のブラームスに仕上がっていますし、これらは噛み続けるほどに味わいの増すスルメのような演奏だと言えるかもしれません。第1番ではユーディ・メニューインが自ら志願してコンサートマスターに就いたといういわくつきです。

51l4kphdz6l__ac_ クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1972年録音/TOWER RECORD盤) これまでDENONから全集盤や単独盤でリリースされて来ましたが、タワーから出たハイブリッド盤が最もアナログ原盤の音に近くお薦めです(もちろんDENON単独盤でも何ら問題は有りません)。シュターツカペレ・ドレスデンのことを「幾ら引っ張ろうとしても動かない牛車のようだ」と称したのは、指揮者フリッツ・ブッシュ(アドルフ・ブッシュの兄)でしたが、同じドイツのザンデルリンクが指揮をすると、遅めで微動だにしないイン・テンポを守り、その特徴が最高に生きてきます。どの曲でも念押しするリズムがスケール感を生み出し、厳格なマルカート奏法には凄みすら感じられます。柔らかく目のつんだ典雅で厚みのある響きには心底魅了されますが、管楽器奏者たちの音楽的な上手さにも惚れ惚れさせられます。ティンパニーのゾンダーマンの妙技も最高ですし、正に全盛期のこの楽団とザンデルリンクが組んだ一期一会の全集です。曲毎でも第2番以外はいずれもベスト盤に位置します。

1161000709_2ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1970年代/グラモフォン盤)演奏はどの曲も中庸のテンポで進みますが、ベルリン・フィルの音の厚みが演奏全体に重みと迫力を感じさせます。ただ、弦楽器などは余りに流麗に過ぎて聞こえますし、レガートを強く意識した演奏は耽美的と言えば聞こえはいいのですが、艶やかさが逆に厚化粧に感じられます。カラヤンの演奏に共通するのは、外面的な美を追求するあまり、音楽の内面的な真実性が希薄になる点です。演奏から寂寥感や悲しみが感じられることはほとんど有りません。フォルテで管楽器を派手に鳴らすのも常套手段で、第1番、第2番、4番の終楽章などこれみよがしに鳴り渡りますので、それまで厚い音で楽しませてくれていた心地良さがどこかに吹き飛んでしまいます。

Brahms_bohem_14 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) ウイーン録音の全集盤です。ウイーン・フィルの透明感のある響きは必ずしもブラームスの音には合わないと思っています。一方、堅牢なドイツの音に対してしなやかなウイーンの音にも良さは有ります。ベームの演奏は落ち着き過ぎの傾向は有りますが、極めてオーソドックスなので安心して聴くことが出来ます。曲毎では第2番の演奏がベスト、続いては第4番の出来が良く、逆に第3番は落ちます。曲により出来栄えに差は有りますが、スタイルが一貫しているので好きな全集です。

Brahms_masur253クルト・マズア指揮ライプチッヒ・ゲヴァントハウス管(1977年録音/フィリップス盤) ゲヴァントハウスの音が素晴らしく、コンヴィチュニー時代の質実剛健な響きは後退しているものの、そんじょそこらのドイツのオケでは出せない重厚な音を聞かせています。マズアも期待以上に健闘しています。ザンデルリンクの貫禄には程遠いものの、非常に安心して聴いていられるオーソドックスなブラームスです。全体的に中庸か、いくらかゆったりとしたテンポですが、全てにおいてイン・テンポを守っているのでスケール感もそれなりに感じられます。所々で覇気の無さが散見されるのは玉に傷ですが、何よりもゲヴァントハウスの響きが最大の魅力で、やはり素晴らしい全集の一つとして数えられます。

Brahms_963レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1981‐82年録音/グラモフォン盤) バーンスタインは古典派形式の曲だと、確かにロマンの味わいは強いのですが、しっかりとイン・テンポを守り、様式感をとても大切にします。ですのでブラームスのシンフォニーも安心して聴くことが出来ます。どの曲の演奏でも奇をてらった演出は一切行わずに造形性を重視しています。ゆったりとしたテンポでスケール大きく聴き応えは充分です。緩徐楽章などでは幾らか耽美的に過ぎるような印象を受けないでもありませんが、その分ロマン的な情緒表出がとても豊かです。ウイーン・フィルの音は幾らか明るめに響いていますが、しっとりとした歌や楽器の音色の美しさは絶品です。

515r2b7qvll__ss500_ ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1983年録音/オルフェオ盤) ミュンヘンでのライブ録音の全集です。どの曲にも共通して感じられるのは、クーベリックのリズムに念押しが不足することです。結果としてどの部分でも呼吸の浅さを感じてしまいます。ブラームスにそれほど重厚さを求めない聴き手には構わないことなのでしょうが、自分の場合には不満がどうしても残ります。録音も優れていますし、一般的には決して悪い演奏では無いとは思うのですが余りお勧めはしません。むしろ前述したDECCAのウィーンPOとの全集をお勧めしたいです。

Brahms_0013502bcオトマール・スイトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1985年録音/シャルプラッテン盤) 写真はドイツ盤ですが、単独盤でも、ボックス盤でも出ています。テンポは決して遅く有りませんが、呼吸の深さが有るので腰が据わった印象です。第1番や第2番の終楽章などでは幾らかテンポを煽りますが、全体には古典的、ドイツ的な造形性をしっかりと感じます。それに加えてロマン的な味わいを持っているのも素晴らしいです。どの曲でも弦と管が柔らかく溶け合った響きが美しく、強奏部分でも少しもうるささを感じさせません。これは録音の柔らかさも寄与していると思います。特に3番と4番の演奏が優れますが、4曲とも欠点の無いのが大きなポイントで、その点ではザンデルリンクに匹敵します。これは全集としてもっともっと注目されて良い名盤です。

Brahms235 サー・コリン・デイヴィス指揮バイエルン放送響(1988-89年録音/RCA盤) バイエルン放送響との全集ですが、どの曲の演奏にも共通しているのは、速くもなく遅くもない中庸のテンポで、穏健な表現かつ品の良い英国紳士的なものです。確かに同郷の先輩ボールトのブラームスにも同じ特徴が有りました。オーケストラは優秀で音も美しいのですが、曲によってブラームスの音楽の持つ翳りの濃さに不足するのが欠点です。4曲の中では4番が最も優れ、次いで2番、3番でしょうか。1番は曲想にしては高揚感が乏しいのが気に入りません。廉価全集ですが、交響曲の他に3曲の管弦楽曲、オピッツ独奏の2曲のピアノ協奏曲、竹澤恭子独奏のヴァイオリン協奏曲が含まれる超お買い得盤ではあります。

41mqvx5jevl__sl500_aa300_ カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウイーン・フィル(1989-91年録音/グラモフォン盤) ジュリーニは、どの曲でも遅いテンポでイン・テンポを守り、ゆったりとスケールの大きさを感じさせます。その点が、ブラームスの音楽と大きく合致しています。その上、少しも力みが無いのに緊張感を失うことがありません。全体を通してカンタービレがよく効いていて美しいですが、部分的には幾らか過剰に感じる箇所も有ります。ウイーン・フィルの響きはシュターツカペレ・ドレスデンのいぶし銀の音とは異なりますが、流麗で非常に美しいです。これはウイーン・フィルのブラームス全集の中でもベスト盤の一角を争うと思います。

Vcm_s_kf_repr_500x500 クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン響(1990年録音/カプリッチオ盤) ベルリン響との新盤ですが、オーケストラの実力において旧盤のシュターツカペレ・ドレスデンには到底敵いません。全体的にかなり遅いテンポが沈滞したロマンを感じさせはしますが、少々重過ぎてもたれた印象を受けてしまいます。確かにスケールは大きいのですが、リズムに切れの良さが有りませんし、音楽に推進力が感じられません。第4番の終楽章の凄さなどは正に圧巻ですが、全集としてザンデルリンクのブラームスを聴くならばやはり旧盤に限ります。

51tpouw3ykl__ss400_クリストフ・エッシェンバッハ指揮ヒューストン響(1991-93年録音/EMI Virgin盤) 現代の指揮者の中で数少ない強い個性を持つ点で注目するのが、クリストフ・エッシェンバッハです。流行のスタイルには目もくれずに、かつてのドイツの巨匠時代の重厚でロマンティックな路線を再現しているように感じるからです。この全集は、オーケストラがアメリカのヒューストン交響楽団だったので敬遠をしていましたが、実際に聴いてみて驚くのは演奏表現の統一感です。ゆったりとしたテンポが生み出すスケールの大きさとともにアゴーギグとテンポの流動性を巧みに生かしていて、ロマンティックなスタイルでありながらも正統的なブラームスを感じさせます。ヒューストン響の優秀さも印象的ですが、弦の上に管を柔らかくブレンドされたヨーロッパ風の美しい響きをアメリカのオーケストラからこれほど見事に醸し出すというのは、エッシェンバッハの実力なのでしょう。

Brahms4577617016673624660213orig 小林研一郎指揮ハンガリー国立響(1992年録音/キャニオン盤) コバケンが最も相性が良かったのは、かつて指揮者コンクールで優勝したハンガリーの国立交響楽団でした。50代の円熟期にブラームスの交響曲全集をブダペストのフランツ・リスト音楽院大ホールで録音してくれたのは良かったです。どの曲も比較的ゆったり目のテンポでスケールの大きさを感じます。非常にオーソドックスな聴き応えのあるブラームスです。ドイツの団体のようにリズムを厳格には刻みませんが、適度のしなやかさが有り、ジプシー音楽の香りのするブラームスの音楽にぴったりです。4曲の中では第2番と第4番が特に気に入りました。管弦楽の素朴で美しい響きも大きな魅力ですが、それを十全に捉えた優秀な録音が嬉しいです。現在はオクタヴィアレコードから再リリースされています。

Brahms_384ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送響(1996-97年録音/RCA盤) シュターツカペレ・ドレスデンの持つ暖色系の音に対して暗いモノトーンの北ドイツ放送は正にブラームスの生まれ故郷ハンブルグのどんよりした曇り空を想わせます。ヴァントが晩年にライブ録音したこの全集はその暗く渋い響きを生かした演奏です。全体的に引き締まった演奏ですが、時にテンポのギア・チェンジが頻出してスケール感が損なわれてしまいます。彫の深いのは良いとしても少々神経質に聞こえるのがマイナスです。金管が時に張り出して聞こえるのもやはり煩わしさを感じます。

Uccg1674m01dlクリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2013年録音/グラモフォン盤) 最新の録音が非常に素晴らしく、現在のシュターツカペレ・ドレスデンの美音を忠実に捉えた全集だと思います。にもかかわらずティーレマンの演奏は正にジキルとハイドのようで、スケールの大きさを感じさせたかと思えば、しばしばテンポに余計なギア・チェンジをして矮小さを感じさせてしまいます。少なくとも古典派形式の曲に対してはまだまだ青さを感じてしまいます。それはべートーヴェンの全集では見逃せるレベルでしたが、ブラームスではちょっと見逃し切れません。しかし、そうは言っても、このセットには交響曲の他に、ピアノ協奏曲とヴァイオリン協奏曲のライブ映像のDVDが含まれていて、そちらは非常に魅力的です。

ということで、マイ・フェイヴァリット盤はこれまで何度も書きましたが、ザンデルリンク/ドレスデン・シュターツカペレ盤で決まりです。この不動の王座は揺らぎません。次いではハイティンク/コンセルトヘボウ盤とスイトナー/シュターツカペレ・ベルリン盤を上げたいと思います。どちらもザンデルリンクと同じドイツ的なスタイルですが、武骨なザンデルリンクに対して、しなやかさを備えている点で異なる魅力が有ります。
その他、ウイーン・フィルの演奏も選んでおきたいので、バルビローリ、ベーム、ジュリーニ、バーンスタインを上げます。この4種はどれも素晴らしく、甲乙は付け難いです。またコバケン/ハンガリー国立響は日本人指揮者の全集として屈指の出来栄えです。

上記に上げていない全集盤にはトスカニーニ、あるいはベイヌム、ケルテスなど色々と有りますが、全集としてはそれほどの魅力を感じていません。

<関連記事>
ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン ブラームス交響曲全集
クリストフ・エッシェンバッハ指揮ベルリン・コンツェルトハウス管 ブラームス交響曲全集

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2014年11月19日 (水)

ブラームス 今年聴いた交響曲全集のCDから

ティーレマン/シュターツカペレ・ドレスデンの新盤(その記事はこちら)以外に、今年聴いたブラームスの交響曲のCDをご紹介したいと思います。
聴いてるのは大半が新録音ではなく古いものばかりですが、ブラームスの音楽の真髄は”温故知新”ですので、「ダメよ~ダメダメ」なんて言わずに「いいじゃないか~ぁ」(日本ブラキイテル連合??)

馬鹿な事を言っていないで、まずは全集盤からです。

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レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1981‐82年録音/グラモフォン盤)

バーンスタインは後期ロマン派の曲を演奏するとテンポは遅く、しかも大きく揺れに揺れて限りなく濃厚な演奏をします。ところが古典派形式の曲だと、確かにロマンの味わいは強いのですが、しっかりとイン・テンポを守り、様式感をとても大切にします。ですのでモーツァルトやブラームスのシンフォニーも安心して聴くことが出来ます。この全集も、どの曲の演奏でも奇をてらった演出は一切行わずに造形性を重視しています。ですので「踏み外し」が全く有りません。これはブラームスの演奏としては我が意を得たりです。4曲ともゆったりとしたテンポでスケール大きく聴き応え充分です。緩徐楽章などでは幾らか耽美的に過ぎるような印象を受けないでもありませんが、その分ロマン的な情緒表出がとても豊かです。第4番の3楽章では腰の軽さを感じますが、これはこれで解釈として許容できます。ウイーン・フィルの音は幾らか明るめに響いていますが、これはこの楽団の元々の特徴ですし、しっとりとした歌や楽器の音色の美しさは正に絶品で魅了されます。それは4つの交響曲のどの曲についても共通しています。

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ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送響(1996-97年録音/RCA盤)

ブラームスを演奏させてシュターツカペレ・ドレスデンと並ぶのが北ドイツ放送響だと思いますが、ドレスデンの持つ暖色系の音に対して暗いモノトーンの北ドイツ放送は正にブラームスの生まれ故郷ハンブルグのどんよりした曇り空を想わせます。ヴァントが晩年にライブ録音したこの全集はその暗く渋い響きを生かした演奏です。第1番は全体的には引き締まった好演なのですが、問題が有るのは終楽章で、突然のテンポのギア・チェンジが頻出します。それによってスケール感が極端に損なわれてしまい矮小な印象を受けます。ティンパニーの強打も目立ち過ぎて気になります。第2番は他の3曲と比べるとずっと南ドイツ的なおおらかさと美しさを感じる曲なのですが、ヴァントの演奏は極めて北ドイツ的で、彫の深いのは良いとしても少々神経質に聞こえます。始終金管が張り出して聞こえるのも煩わしさを感じます。第3番は速めのテンポでリズムの刻みが浅いためにスケールが小さく感じられてしまいます。もたつかないで良いと感じられる方も居られるでしょうが、自分の好みとは異なります。第4番でも細部のニュアンスへの非常なこだわりが感じられますが、それには抵抗を感じないばかりか愉しめます。これはやはり曲想のせいでしょう。決して重量級ではありませんが、イン・テンポを通していて聴き応えは充分です。

ということで色々と不満を述べてはいますが、ティーレマン盤も含めて、今年新たにコレクションに加えた全集盤はどれも一聴の価値が有りました。
次回は単独曲のディスクです。

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2014年11月11日 (火)

クリスティアン・ティーレマン/シュターツカペレ・ドレスデンのブラームス交響曲全集 新盤

♪更け行く~秋の夜~♪には、別に旅の空を見上げなくてもセンチメンタルになってしまいます。そんな時にピッタリなのが哀愁漂うブラームスの曲ですよね。

毎年恒例の『秋のブラームス祭り』ですが、この1年モーツァルトばかりを聴いていたせいで、余り新しいディスクを聴いていません。”祭り”とは名ばかりの特集となりますが、ご容赦願います。

ということで、まずは今年リリースされたクリスティアン・ティーレマン/シュターツカペレ・ドレスデンの交響曲全集です

Uccg1674m01dlクリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2013年録音/グラモフォン盤)

第1番は1楽章の開始早々から重厚なテンポと響きに心を奪われます。イン・テンポを保っているのが良いです。2、3楽章も美しい響きが素晴らしいのですが、その割に味わいに於いては最高レベルからほんの僅かに下がるような気がします。もっとも、問題は終楽章の有名な第一主題です。楽譜の指定はポーコ・フォルテのアレグロ・コン・ブリオなのですが、どう聴いてもメゾ・ピアノ程度に聞こえます。テンポももったいを付けて遅く、到底”生き生きと”という感じではありません。通常聴かれる演奏とは大きく印象が異なります。ティーレマンはベートーヴェン演奏にも見られましたが、全体はとても堂々としているのに部分的に妙にこだわり過ぎて、逆に”姑息”に感じられることが有りますね。これは悪い癖です。真の巨匠となる為にはこのクセから抜け出す必要が有りそうです。

第2番においてもドレスデンの響きは最高です。録音が良いので非常に満足できます。全体的に遅いテンポで美しく歌わせています。強いて問題点を上げるとすれば終楽章のコーダで、効果を狙ってテンポを煽ってしまうがために、結局は凡百の演奏に陥ってしまうのです。これは非常に惜しいことです。

第3番では1楽章から非常に細かく音量の変化とアゴーギクを伴って歌わせるのですが、これが逆に煩わしさを感じさせてしまい、どうも落ち着きません。2、3楽章には抵抗感は無く、特に3楽章では極めて美しい響きと歌を堪能できます。終楽章はスケールが大きく、重戦車のような分厚い響きに圧倒されて、これには大満足です。

第4番は元々の曲の構造からか、ティーレマンの細かいニュアンス付けが裏目に出ることもなく、音楽を自然に楽しむことが出来ます。録音の良さやオーケストラの響きが全て生きて来ます。ゆったり目のテンポも理想的です。ザンデルリンクの旧盤のような武骨さこそ有りませんが、ライブならではの感興の高さと相まって非常に聴き応えが有ります。1楽章の終結部では徐々にテンポを速めていきますがフルトヴェングラーのような極端さは有りません。2楽章の美しさは秀逸ですし、3楽章は速いテンポの燃えた演奏で、幾らか腰の軽さを感じるものの愉しめます。終楽章は各変奏に旺盛な表現意欲を感じます。多少造りものめいた感は有りますが、終結部へ向かって高揚してゆく様は圧巻です。

総合的には録音が非常に素晴らしく、現在のシュターツカペレ・ドレスデンの美音を忠実に捉えた全集だと思います。にもかかわらずティーレマンの演奏は正にジキルとハイドのようで、スケールの大きさを感じさせたかと思えば、しばしばテンポに余計なギア・チェンジをして矮小さを感じさせてしまいます。少なくとも古典派形式の曲に対してはまだまだ青さを感じてしまいます。それは、先のべートーヴェンの交響曲全集では見逃せるレベルでしたが、ブラームスではちょっと見逃し切れません。

このセットには交響曲の他にも、シェア奥沢での鑑賞会の記事でご紹介したピアノ協奏曲とヴァイオリン協奏曲のライブ映像のDVDが含まれていて、そちらは非常に魅力的です。
交響曲の演奏に幾らか不満が有るものの、シュターツカペレ・ドレスデンの素晴らしい響きが味わえる点と、DVD付きというコストパフォーマンスの高さから、購入をされても決して損は無いセットだと思います。

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2012年9月27日 (木)

ブラームス 交響曲全集 エードリアン・ボールト盤 ~熟年男性向け名盤?~

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朝夕がすっかり涼しくなりました。秋の気配を感じると、何となくブラームスを聴きたくなるから不思議です。もう何年もそうしているうちに身体にすっかり染み付いてしまったようです。

エッシェンバッハのブラームス交響曲全集を聴いたところで、ついでにもう一つ最近購入した全集を。と言っても正確には再購入になります。
指揮者はサー・エードリアン・ボールトで、オーケストラはロンドン・フィルハーモニー(3番のみロンドン交響楽団)です。録音されたのは1970~73年です。

以前は、海外のDiskyというレーベルがEMIからのライセンスで出したCDを持っていましたが、現在は所有していません。そこへ最近ボールトの「バッハからワーグナーまで」という11枚組の廉価ボックスがリリースされたので購入した次第です。今回は本家EMIの販売ですし、他にもバッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ワグナーなどのドイツの作曲家の名曲を収録して大変充実していますが、中核となっているのは、やはりブラームスの4曲の交響曲です。

その演奏ですが、どの曲でもロマンティシズムに溺れ過ぎない節度を保っています。テンポは速からず遅からずの中庸で、ほぼインテンポを守り、劇的な表情の変化は見せません。正に英国紳士の気品ある姿を想わせるような雰囲気です。それは決してブラームスの音楽から離れてはいません。

響きの面でも、イギリスのオーケストラは地味で暗く、くすんだ音色を持ちますのでブラームスに似合います。但し、トゥッティで金管が弦よりも一瞬早めに音を出すことが有るのは気になりました。また、微動だにしないインテンポを守るというわけではなく、音楽が高揚する部分では僅かに加速を見せます。それは通常では自然な表現なのですが、ブラームスの場合にはインテンポを頑固なまでに守った方が立派な造形性を感じられるので好ましいとは思います。

それにしても、この演奏はどれもが良質のブラームスです。噛み続けるほどに味わいの増すスルメのような演奏と言えるかもしれません。ザンデルリンクやベーム、ジュリーニの素晴らしい全集以上とは思いませんが、それらとはまた一味違った名盤のように思います。4曲の出来栄えは安定していて出来不出来は有りません。それでも特に印象に残るのは、名ヴァイオリニストのユーディ・メニューインが自ら志願してコンサートマスターに就いたという第1番です。もちろん2楽章のメニューインの独奏も聴きものですが、大きく高揚する終楽章も感動的です。第4番は、素晴らしい人生の黄昏を感じさせるような非常に味わい深い演奏です。と言っても枯れているわけでは無く、終楽章の変奏など案外と情熱的で面白く聴かせてくれます。

うーん、これは正に大人の男(熟年男性とも言う?)の音楽です。まあ、もともとブラームスの曲にはそういうところが有りますが、このCDはR40指定にするべきかもしれませんね。

この新盤の音質をDisky盤と直接聴き比べてはいませんが、かなり良くなった印象ではありました。

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2012年9月21日 (金)

ブラームス 交響曲全集 エッシェンバッハ/ヒューストン響盤 ~こちらヒューストン~

51tpouw3ykl__ss400_クリストフ・エッシェンバッハ指揮ヒューストン交響楽団(1991~93年録音/EMI Virgin盤)

現代の指揮者は、どうしても仕事量が多く忙し過ぎるために、短時間で仕事をまとめあげる器用な能力が求められます。ひと昔前の巨匠時代の指揮者のように、じっくりゆっくりと時間をかけて自分の音楽を徐々に熟成させてゆくようなタイプは生き残れないでしょう。ですので、どの演奏家も金太郎飴のように何となく似たり寄ったりで、特別な個性の感じられない演奏家が多くなりがちです。ホールで生で聴くのならまだしも、CDを購入して家で聴こうとは中々思えなくなるというのが正直な気持です。

そんな現代の指揮者たちの中で、数少ない個性を持つ人という点で僕が興味を駆り立てられるのは、クリスティアン・ティーレマン、パーヴォ・ヤルヴィ、そしてクリストフ・エッシェンバッハの3人です。少し前まではワレリー・ゲルギエフと小林研一朗が好きでしたが、二人とも最近の活動にはそれほど大きな興味は感じられません。

そのうちのティーレマンとエッシェンバッハには共通点を感じます。二人とも現代流行の古楽器派的で速いテンポのスタイルには目もくれずに、かつてのドイツの巨匠時代の重厚長大路線を再現しているように感じるからです。

そして、ワーグナーやブルックナーを得意とするティーレマンにはクナッパーツブッシュを、比較的テンポの変化を自由に行うエッシェンバッハにはフルトヴェングラーを連想させられます。

実は、クリストフ・エッシェンバッハが凄い指揮者だと知ったのは、2005年にサントリーホールでシュレスヴィヒ・ホルシュタイン祝祭管弦楽団を率いて演奏したブラームスの第4交響曲を聴いた時です。アゴーギグを多用した変幻自在なテンポ感を持ち、白熱した演奏が、まるでフルトヴェングラーが現代に蘇ったかのように感じられたのです。それでいてフルトヴェングラーほどには極端で無いので、ロマンティックで充実したブラームスを聴けた喜びで一杯になりました。シュレスヴィヒ・ホルシュタイン祝祭管弦楽団というのは若手演奏家を主体とした臨時編成の団体ですので、技術的には完璧とは言えませんが、エッシェンバッハの音楽を忠実に表現していました。

さて、そのエッシェンバッハが既にブラームスの交響曲全集を1991年から93年にかけてEMIに録音していたのは知っていましたが、オーケストラがアメリカのヒューストン交響楽団だったので、これまで敬遠をしていました。アメリカのオケのブラームスの音には抵抗感が有るからです。ましてやヒューストンというのが興味を損なっていました。「こちらヒューストン」と言えばNASAの通信でお馴染みの言葉ですが、この都市のあるテキサス州には仕事で行ったことがありますが、その土地に似合うのはクラシック音楽ではなく、カントリー&ウエスタンだったからです。

そうは言っても、実演で聴いたブラームスの素晴らしさを知っている者にとっては、やはり聴いてみたいですし、いずれはドイツのオケと再録音する可能性も有るでしょうが、それではいつになるか判らないので、ダメもとで聴いてみました。このCDセットには、4曲のシンフォニーと「ハイドンの主題による変奏曲」「大学祝典序曲」「悲劇的序曲」「アルト・ラプソディ」が収められていて充実しています。

全ての曲を聴いてみて感じるのが、演奏表現の統一性です。基本はゆったりとしたテンポのスケールの大きな表現ですが、微動だにしないイン・テンポで古典的な造形性を強調するという演奏とは異なります。適度なアゴーギグとテンポの流動性を生かしたロマンティックなスタイルです。但し、それは極端な動きでは有りませんので、とても正統的なブラームスを感じさせます。実演で聴いたスタイルとも少々異なる印象です。
1番の第1楽章や終楽章のような速い楽章での充実感も素晴らしいですが、3番の2、3楽章のような緩徐楽章での静けさと美しさも大変なものです。

ヒューストン響で最も印象的なのは弦楽の優秀さです。ヴァイオリンは澄んだ音で良く歌いますし、中低弦の厚みも大したものです。木管群もまずます問題ありません。問題が有るとすれば、やはり予想をしていた金管の音色です。ホルンの音はドイツの渋く深い音とは反対の明るい音色でブラームスには不向きです。但し、管楽の音を浮き立たせるのではなく、あくまでも弦楽の上に柔らかく乗せるというヨーロッパ的にブレンドされた響きです。アメリカのオーケストラから、これほど柔らかい響きを醸し出すというのは、やはりドイツ人であるエッシェンバッハの力でしょう。

それにしてもエッシェンバッハのブラームスは本当に素晴らしい。この人が北ドイツ放送響あたりと再録音を行なってくれたら、何を置いても飛び付きたいと思います。

この4枚組CDは、日本でも再リリースされましたが、旧盤にもかかわらず4000円近くと少々割高です。Virginレーベルの海外盤ならせいぜい元は20ドル程度ですし、自分も中古店で1000円以下で入手しました。東芝は相変わらずこういう、せこい商売を続けているようなのが余り感心できません。

ところで、前述のサントリーホールでの第4番のライブ演奏はヘンスラーからCD化されています(詳しくはブログ記事へ)。CDで聴くと、どうしてもオケの粗さが感じられてしまい、会場での感動には遠く及びませんが、テンポや表情の変化の大きさはヒューストン響との演奏以上で、非常にドラマティックです。興味をお持ちの方はこちらも是非お聴きになられて下さい。

51zthntyphlクリストフ・エッシェンバッハ指揮シュレスヴィヒ・ホルシュタイン祝祭管弦楽団(2005年録音/ヘンスラー盤)

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2011年11月12日 (土)

ブラームス交響曲全集 カルロ・マリア・ジュリーニ/ウイーン・フィル盤

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朝晩がすっかり冷え込んできて、いよいよ秋が深まりましたね。さて、「秋の夜長はブラームス」。ブラームジアーナーのこの合言葉通りに、今月はブラームスの曲を楽しみます。これまでも、交響曲、協奏曲、室内楽などの特集を行ないましたが、それ以降に聴いた演奏がだいぶ溜まりました。その中には、是非ともご紹介したい演奏も少なからず有りますので、今回はそれらをまとめてご紹介するつもりです。

手始めはシンフォニーです。最近は新しいディスクを購入することはすっかり減ってしまいましたが、しばらく前にコメントを頂いた、じゅりさんのお気に入りというジュリー二盤が気になっていたので聴いてみました。ジュリーニはウイーン・フィルと録音した「ドイツ・レクイエム」の演奏では、少々カンタービレが強過ぎてドイツ的な圭角が失われた印象でした。けれども考えてみれば、常に遅いテンポでイン・テンポを保ち、堂々としたスケール感を生み出すというジュリーニの演奏スタイルは、ブラームスの音楽の特徴とも重なります。

オーケストラに関して言えば、自分はブラームスには北ドイツ的な重厚な音を好むので、必ずしもウイーン・フィルの演奏が好きなわけでは有りません。けれども確かに流麗で美しいブラームスにも魅力を感じないことはないので、ジュリーニがどのように指揮しているか、じっくりと聴いてみました。

1989年から1991年にかけてグラモフォンに録音を行なったこの全集ですが、4曲ともに、遅く、重く、念押しするリズムでじわりじわりと音楽を高揚させてゆく表現はいつものジュリーニです。そしてカンタービレが非常に良く効いています。少しも力むことはありませんが、緊張感を失うことが無く、ずしりとした手ごたえが有ります。4曲の中で、特に優れていると感じたのは4番です。耽美的なワルターの演奏に重量感と演奏の立派さを加えた印象です。1番の第1楽章も絶品です。4楽章の有名な旋律ではカンタービレの効かせ過ぎのために幾らか高貴さを失い気味なのが気にはなりますが、やはり良い演奏です。2番もウイーン・フィルの美感を生かしている点では、ベームと並ぶかもしれません。3番はジュリーニにしては意外に速めのテンポに感じますが、自然な流れの良い演奏です。3楽章は何故か濃厚に歌わずに、弱音であっさりと歌うのがユニークです。

ということで、4曲のいずれもが非常に水準の高い演奏です。ブラームスの交響曲のディスクというと、曲ごとには好きな演奏が有っても、こと全集盤となると、これまではファースト・チョイスのザンデルリンク/ドレスデン盤以外にはほとんど思いつかないのが正直なところでした。強いて挙げれば、ザンデルリンク/ベルリン響の新盤か、むしろベーム/ウイーン・フィル盤でしたが、今後はセカンド・チョイスとしては、このジュリーニ盤を上げたい気持ちです。

それぞれの曲についての感想は、過去記事に加筆をしましたので、良ければ目を通してみてください。

交響曲第1番 名盤

交響曲第2番 名盤

交響曲第3番 名盤

交響曲第4番 名盤

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