シベリウス 交響曲全集 オッコ・カム/ラハティ交響楽団 ~今年聴いたCDから~
今年聴いたCD第二弾はシベリウスの交響曲全集ですが、これはオッコ・カム/ラハティ交響楽団の昨年秋の日本ツアーに合わせてBISレーベルからリリースされたものです。ちなみにSACDハイブリッド仕様です。
初台のオペラシティで開かれた交響曲チクルスには後期の第5、第6、第7のアーベントを聴きに行きました。その感動の内容についてはこちらのブログ記事をご参照ください。
カムのシベリウスといえばデビュー時にグラモフォンに録音した第1から第3番の名演奏が有りますし、1982年のヘルシンキ・フィルの日本ツアーで渡辺暁雄とシェアしたチクルスの素晴らしい演奏がTDKによって記録されてCD化されています。
その後の檜舞台から少々離たカムの活動には欲求不満に陥っていましたが、それが一気に晴らされたのがラハティ響との日本ツアーであり、この交響曲全集でした。
コンサートの記事で書いたエピソードのように、カムは演奏直前にカメラ片手にホールの周辺をフラフラと歩き回るほどおおらかな人なので、それは音楽にも表れているように思えてなりません。人によってはオスモ・ヴァンスカが厳しく鍛え上げたラハティ響を”ユルめた”と批評する意見も見受けられますが、自分のように逆にヴァンスカ時代の演奏は幾らか”過剰”と感じられる者にとっては、カムのおおらかさが、とても心地良く感じられるのです。
来日時のラハティ響の編成は大編成では無く、幾らか小規模の編成でした。このCDの録音でもそれは感じられます。ですので通常大編成の音に慣れている第1、第2、第5ではやや音の薄さが感じられなくもありません。それはベルグルンドの三度目の全集に使っていたヨーロッパ室内管ほどではありませんが、共通した要素となっています。しかしこれはベルグルンドが目指した、シベリウス時代に実際に用いられていた小編成の管弦楽による演奏の再現に通じるものが有ると思います。
また重要なポイントとして、ロシア風のダイナミックな曲想を持ち合わせ、ともすると管楽器が咆哮しかねない第1、第2の二曲に対して非常に抑制を効かせていることです。あくまでも主役が弦楽器の印象を受けますし、そのソノリティの高さにはとても感心します。
第2では第3以降の深いシベリウスの世界にだいぶ近く感じられるのです。かといって終楽章など高揚感が不足するわけでは決してありません。それは外面的ではなく内面的な感動で勝負をしているからです。うごめくように始まりフィナーレに向かい延々と続く伴奏音型の上に奏でられる旋律は心に深く深く迫ります。
第5に関しても、近代管弦楽とばかりに金管を輝かしく鳴らすのではなく、やはり弦楽がサウンドの主体となります。第2楽章のように民謡的な旋律のいじらしい歌い方は独壇場で、こういう部分はカムは昔から本当に上手いです。終楽章はさすがに立派に金管を鳴らしていますが、それが過剰に感じられることは一切ありません。
ですので第3、第4、第6、第7のような室内楽的な要素に強く支配される曲ともなると、小規模ゆえの長所が増々生かされてきます。本来『寡黙な』シベリウスの音楽に何と合うことでしょうか。特有の”神秘感”も非常に良く感じられて素晴らしいです。
若いころのカムがそうであったように、ロマンティシズムを感じさせる特徴は少しも変わりません。それでいてシベリウスの音楽の本質を他の誰と比べても劣らないほどに掴んでいます。
その音造りの方法論として、オーケストラを厳しく締め付けるのではなく、自発性を尊重していることは、カム自身の口からも楽団員のコメントからも確かに伺えます。
シベリウスを得意とする指揮者の中でも、激しさを持つヴァンスカやセーゲルスタムとは遠く異なり、またストイックなまでに透徹したパーヴォ・ベルグルンドとも異なり、おおらかな自然体の印象を与えるネーメ・ヤルヴィや渡邉暁雄に近いスタイルです。
もちろん彼らのシベリウスはどれもみな素晴らしいので、全集盤に優劣など付けるのは無意味です。しかしあえて自分の好みを言えば、ベルグルンド(二度目のヘルシンキ・フィルとのEMI盤)と並んで、このカムの新盤が目下ツートップの存在です。
あとはネーメ・ヤルヴィの新盤(グラモフォン)にも強く惹かれますが、むしろセーゲルスタム(二度目のヘルシンキ・フィルとのONDINE盤)のセットには、ペッカ・クーシストが独奏するヴァイオリン協奏曲とフィンランドの男性合唱団が感動的な歌を聞かせる「フィンランディア」という二つの最高の演奏が含まれているので、他人にはむしろこちらを勧めたいところです。
いずれにしても、オッコ・カムのシベリウスは自分には最も肌に合う演奏なのは間違いありません。オペラシティでバッタリ出会って会話ができたのも偶然とは思えない余りに得難い体験でした。
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