
シェヘラザードという女性は、伝説上のイランの王妃ですが、「千夜一夜物語(アラビアンナイト)」の語り手として知られています。どうして毎晩物語を語り続けなければならなかったのか、おさらいをしてみますと、昔々シャリアール王という王様が居ました。王様にはお妃様が居ましたが、このお妃様には大変な浮気癖があり、宮殿で堂々と浮気をしていたのだそうです。しかも奴隷とまで浮気をしていました。(よほど魅力的な肉体の奴隷だったのでしょうかね?)
ところが、王妃の浮気を密告されたシャリアール王は、ことの真相を確かめるために、ある日狩りに行くと見せかけて、途中で宮殿に引き返してきます。
すると、王妃は後宮で例の奴隷と浮気の真っ最中でした。
王様は怒り狂って、お妃も奴隷も下女たちも、全員処刑してしまいました。(おお怖ろしや~)
そして、王様はこのことが原因で女性を信じられなくなり、それからは処女と結婚して一夜だけ過ごしては、翌朝に処刑してしまう、という日々を過ごすようになります。
処刑した処女の数は3000人にも及んだそうです。うーん羨ましい・・・、おっと違った、なんてヒドイ奴だ!
そこで、時の大臣の娘であるシェへラザードが、父の反対を押し切って、自ら王様と結婚して一夜を過ごすことを志願しました。
さて、いよいよ王様の寝室に入ったシェへラザードは、面白い物語を王様に語ります。王様は彼女の最初の物語に聞き入り、次の話をするように命じますが、彼女は夜が明けたのを理由に話を終わりにします。そして、「明日お話しする物語は、今宵のものより、もっと心躍るでしょう」と言いました。王様は新しい話を聞きたさに、シェへラザードを処刑せずに生かしておきます。(見事な話術ですねぇ。どこかの結婚詐欺女みたいだ?)
こうして、毎日面白い物語を話したシェヘラザードと王様との間には、やがて3人の子供ができました。(ということは、やっぱり話だけでは無かったのネ。)
シェヘラザード王妃によって、王様は人徳と寛容を身に付けました。
その千と一夜の物語が、「アラビアンナイト」というわけです。
めでたし、めでたし・・・と言いたいところですが、それじゃ3000人の女性の命を奪った落とし前はどうつけてくれるんや!(ハルくん怒る)
リムスキー=コルサコフはロシア五人組の一人ですが、ロシア海軍に入隊して、世界の海を航海した変わり種です。ですので、この「シェエラザード」でも、大海原の描写に非常に優れています。民族的で情緒にあふれる音楽は、他のロシアの作曲家と共通していますが、とりわけ美しい旋律を書いているように思います。
交響組曲「シェエラザード」は、4曲で構成されていて、明かに「交響曲」を意識した構成です。独奏ヴァイオリンがシェへラザードの象徴として至る所で奏されますが、艶っぽい美女を想像させて、とても魅了されます。
一応、4曲のタイトルを記しておきます。
第1楽章「海とシンドバッドの船」
第2楽章「カランダール王子の物語」
第3楽章「若い王子と王女」
第4楽章「バグダットの祭り。海。船は青銅の騎士の有る岩で難破。終曲」
第1楽章での、荒れ狂う大海原と静かで平和な航海との対比は最高です。さすがに本物の船乗りですね。僕が好むのは第2楽章の民族的な雰囲気で、漂う哀愁がこたえられません。第3楽章のロマンティックな美しさも素敵です。第4楽章はフィナーレに向かって極めてドラマティックに盛り上がります。再び海にたどり着いて最後は船が難破して幕を閉じます。
リムスキー=コルサコフはロシアといっても、中央アジア的で、いわゆる荒涼としたシベリア大地の雰囲気は感じさせません。特にこの曲はアラビアを題材としていますし、明るく演奏されることも多いように思います。でも、第2楽章に登場するオリエンタルな哀愁に溢れた旋律などにも、やはりロシア風の味わいが込められているように感じます。
それでは僕の愛聴盤です。
エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立響(1969年録音/ワーナー盤:メロディア音源) 所有しているリムスキーーコルサコフのボックスセットに収められていますが、単独で出ていないのが残念です。ソヴィエト連邦崩壊前のオーケストラの凄まじいパワーが圧巻です。いくら西側諸国の団体が頑張ってもこういう荒々しい音は出ません。また情緒的な部分での哀愁あるロシア的な風情も中々のものです。スヴェトラ―ノフがまだ大家風では無く、雄弁な語り口には幾らかの物足りなさも感じられますが、爆発的なエネルギーがそれを補っています。終曲では正に”破滅”に向かって突き進みます。やや古い録音ですが音質も許容出来ます。
キリル・コンドラシン指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1979年録音/フィリップス盤) やはりロシアの名匠コンドラシンがしっとりした音色のコンセルトへボウを指揮したオーソドックスな名演です。良くも悪くもゲルギエフやチェリビダッケのようなアクの強さが無いので、安心して抵抗感なく聴いていられる点で良いと思います。美しい管弦楽の響きに溶け込んだ名コンマスのヘルマン・クレヴァースの独奏も美しいです。純ロシア的な演奏を好む自分にはやや物足り無さを感じますが、案外と根強いファンを持つ演奏です。
セルジュ・チェリビダッケ指揮シュトゥットガルト放送響(1980年録音/AUDIOR盤) 同オケとのライブ録音はグラモフォンから1982年録音のものも出ていますが、それとは別の演奏です。海賊盤ですが、音いじりをしない音造りは正規盤以上に優れています。演奏は極めて遅いテンポでスケールの巨大な典型的なチェリビダッケのスタイルです。特に1楽章や終楽章の破滅的なカタルシスが凄いです。反面、2楽章は遅過ぎてもたれます。3楽章も更に美しく出来そうです。独奏ヴァオリンは表情が大胆で艶やかさに溢れていて、シェラザードの語りを聞くようなのが魅力的です。
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1984年録音/EMI盤) この人のこの曲の録音は、近い時期に集まっていますが、ミュンヘンでのライブは最もテンポが遅くチェリビダッケの本領発揮です。但し、終楽章などではシュトゥットガルトRSO盤に比べても緊張感が失われています。結局、この人にとってはブルックナーもRコルサコフも同じ方法論での演奏になってしまうのですが、共通しているのは聴き手の息が詰まらせられることです。こんな演奏を忠実に行なえるオケの力量、管楽メンバーの肺活量?は大したものです。聴き手を「凄い」と感じさせる大巨匠の技ではありますが、これが決して王道だとは思いません。
ワレリー・ゲルギエフ指揮キーロフ歌劇場管(2001年録音/フィリップス盤) ゲルギエフの録音の中でもベストの一つです。スケールが非常に大きく、歌いまわしや表情が何とも魅力的です。オケの音には厚みと潤いが有りますし、ヴァイオリン独奏も技術、表情づけともに満足できます。全体にロシア風の味わいを強く感じられて、改めてこの曲がロシア音楽だと認識させられます。3楽章の美しさは絶品ですし、終楽章の手に汗握る展開もこれまで耳にしたことが無いほどです。正に王道の演奏であり、これにくらべればチェリダッケと言えども、からめての演奏という気がしてしまいます。
これ以外のディスクは手放してしまいましたが、オリエンタルな雰囲気が漂うカラヤン/ベルリン・フィル盤は案外悪く無かった記憶があります。ロストロポーヴィチ/パリ管盤はスケールは大きいものの、オケの音色が余りにも華やかに過ぎて好みではありません。
結局、この曲はゲルギエフ盤一枚あれば事足りますが、スヴェトラーノフ盤と、何だかんだ言ってもチェリビダッケのAUDIOR盤は魅力的です。
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