ベートーヴェン(交響曲第4番~6番)

2010年10月15日 (金)

ベートーヴェン 交響曲第6番へ長調「田園」op.68 名盤(ステレオ録音編)

Photo高校生の時にこの曲をすっかり好きになったころ、アンドレ・ジッドが書いた「田園交響楽」という本を読んでみました。主人公が盲目の娘ジェルトリュードを音楽会に連れて行き、この曲を聴かせると、彼女は「あなたがたの見ていらっしゃる世界は、本当にあんなに美しいのですか?」と言います。それは第2楽章の”小川のほとりの情景”のことでした。そして彼女は更に「目の見えない私は、耳で聞く幸福を知っていますわ。」と語ります。

けれどもベートーヴェン自身はこの曲を作曲したころには、難聴の病気がかなり悪化していましたので、この美しい音を自分の耳で聞くことは出来なかったはずです。きっと頭と心の中で音楽を美しく響かせていたのでしょう。

僕らがこの曲を聴くときには、出来ればステレオ録音で聴きたいと思います。必ずしも絶対条件では有りませんが、この曲の持つ刻々と変わりゆく音の色彩と光の変化を感じ取るには録音が良いに越したことは無いからです。それではステレオ録音の愛聴盤を聴いてゆくことにします。

41ldzhd1sdl__sl500_aa300_ ピエール・モントゥー指揮ウイーン・フィル(1958録 音/DECCA盤) 1950年代のウイーン・フィルの演奏がDECCAの優秀なステレオ録音で残されているのは幸せなことです。さしものウイーン・フィルといえども戦前の音の甘さと柔らかさが時とともに確実に薄れてしまっているからです。ですが、ここにはまだ都会的でない鄙びたウイーンの雰囲気が一杯に漂っています。モントゥーはメカニカルな統率をしない昔風の指揮者ですので、この時代のこのオケとこの曲にはベスト・マッチといえます。何の作為もなくウイーン・フィルに自然に歌わせた演奏だからこそ素晴らしいのです。変に神経質なところが無く、とても温かみを感じます。もしもワルター/ウイーン・フィルの戦前の演奏を良い音で聴きたければ、このCDを聴かれることをお勧めします。

41zm61pqq4l__sl500_aa300_ ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1958年録音/CBS盤) 言わずと知れた天下の名盤です。他の指揮者ではアメリカのオーケストラにこれほど柔らかい演奏をさせるのはまず不可能でしょう。歌いまわしや音のタメ、間の取り方などが、ワルターの意思の通りに表現し尽されています。それが、オケに教え込んだ跡がまるで感じられないのです。ワルターならではの至芸だと思います。但し管楽器のソロはウイーン・フィルと比べると聴き劣りするのは仕方が有りません。ともかく、これは大好きな演奏です。

Cci00055 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められている演奏です。ウイーンの流麗なスタイルと比べると、明らかに異なる一音一音マルカートで明確に弾かれるドイツ流の音です。他の曲ではそこが断然魅力となるのですが、この曲の場合にはコンヴィチュニーの指揮も含めて、いささか堅苦しさを感じてしまいます。現代の国籍不明の都会的な音よりはずっと好きですが、やはりこの曲を聴くときには、ゆったりと浸れるような気分になりたいです。但し3楽章以降は、厚みのある音に聴き応えを感じられて中々に素晴らしいです。

Beethoven56_hshumitjpegハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮ウイーン・フィル(1967年録音/DECCA盤) 同じウイーン・フィルとの「運命」の演奏は、中々に素晴らしい演奏だと思いましたが、この曲は幾らか不満が有ります。まず1楽章冒頭の主題のフレージングが作り物めいていて自然さに欠けます。クレッシェンドが大げさなんですね。それに2楽章の伴奏音型が硬くて流れません。主旋律の歌わせ方はとても綺麗なのにもったいないです。但し、それを除いては非常に良い演奏です。モントゥーとの演奏よりは甘さが減ったとはいえ、ウイーン・フィルの音を聴くだけでもこの曲の場合には大いに楽しめます。

3201081432 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1971年録音/グラモフォン盤) 1970年代に入ってコンサートマスターがウイーン生まれではないヘッツェルに交代してからは、ウイーン・フィルの音の甘さが少しづつ減少していきます。但し最晩年のベームにとってはオケを引き締めて統率するヘッツェルとはベストの組み合わせだったと思います。この演奏は、2楽章ではもう少し柔らかさが欲しいかなという印象ですが、3楽章以降では音が実に立派になり大変に感銘を受けます。甘さの少ない硬派の「田園」としてベストを争うと思います。

670 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1977年録音/Altus盤) 日本公演のNHKホールでのライブ録音です。当日の後半プログラムの「運命」と一緒にCDに収められています。ベームの「田園」はFM放送で聴いたザルツブルクでのライブがベストだったと思いますが、これはそれに迫る演奏だと思います。グラモフォン盤とは一長一短ですが、僕は1、3楽章はグラモフォン盤を、2、5楽章はライブ盤のほうを好みます。なお1楽章の提示部の反復はライブでは行いません。この時のテレビではヘッツェルがオケを強力にリードしている姿が非常に印象的でした。老ベームはこの4年後に亡くなりますが、まさかその後を追ったわけでも無いでしょうに、ヘッツェルも50代の若さでアルプス登山中に転落して亡くなってしまいます。そんなことを思い出しながら聴いていると感慨深いです。

0184442bc ヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1977年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収録されています。いかにもドイツ的なきっちりした明確な演奏ですが、オケの音はゲヴァントハウスと比べるとずっと明るく柔らかいです。1楽章はブロムシュテットの指揮にやや譜読みの甘さを感じますが、2楽章以降はオケの素朴な音色を生かしていて美しいです。特に終楽章は流れが良く素晴らしいと思います。これはオーストリアではなくドイツの片田舎の美しさを感じさせる演奏です。

Abbdo_beethven6_8 クラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル(1986年録音/グラモフォン盤) 昔の音の柔らかさと甘さを失いつつあるウイーン・フィルをアバドが目いっぱい歌わせた演奏です。美しいことは無類ですが、極端なレガートが音楽の彫の深さを失わせて、どうもBGM的に聞こえる感も有ります。特に1、5楽章にその欠点が出ています。逆に2楽章はビブラートの美しさが際立っていて、このうえない陶酔感を与えてくれます。全体的に演奏の格調の高さはベームには遠く及びませんが、まろやかなアバドもやはり魅力的です。

以上のCDの中で特に好きなのは、いにしえのウイーン・フィルの音に魅了されるモントゥー盤、歌わせ方と間の取り方が絶妙なワルター盤、格調が高く立派でしかも美しいベームのグラモフォン盤とNHKライブの両盤、というところです。それにしてもウイーン・フィルの演奏するこの曲はやはり特別です。

次回は「ベト7」です。まずはモノラル盤から聴いてみます。

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2010年10月 8日 (金)

ベートーヴェン 交響曲第6番へ長調「田園」op.68 名盤(モノラル録音編)

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ベートーヴェンの「田園交響曲」を初めて聴いたのは中学校の音楽鑑賞の授業でした。その頃は(自分はハードロック小僧でしたので)クラシック音楽には全くと言ってよいほど興味を持っていなかったのですが、第1楽章の明るい旋律と、第4楽章の嵐の情景だけはとても印象に残った記憶があります。この曲は作曲当時では珍しい標題音楽であることと、5楽章形式であったことから非常に革新的な作品でした。ベートーヴェンは既に古典形式の枠に捉われず、ロマン派的な作風に進みつつあったのです。この交響曲第6番は第5番「運命」と並行して作曲されましたが、曲想はまるで正反対で、ドイツ・オーストリアの自然や田園風景の美しさを一杯に湛えていて、あたかも目の前にその情景が浮かんでくるようです。

曲の標題内容については皆さんはとっくにご存じのことでしょうが、一応書きしるしておきます。

第1楽章 田舎に着いて喜びの気分がよみがえる

第2楽章 小川のほとりの情景

第3楽章 農民たちの楽しい集い

第4楽章 雷雨~嵐

第5楽章 牧人の歌、嵐のあとの喜びと感謝

ベートーヴェンらしいドラマティックな作風の「英雄」「運命」「第7」「第9」は大傑作ですが、この「田園」も実に美しく素晴らしい曲であり、僕は非常に好きです。特に好むのは、身も心もゆったりと水面の流れに漂っているような第2楽章と、祈りの気分に溢れた第5楽章です。いつまでも時間の過ぎるのを忘れて浸っていたくなります。この曲の初演はアン・デア・ウイーン劇場で第5番と同じ日に演奏されました。但しその演奏会では、どういうわけか「田園」が第5番、「運命」が第6番とされていました。

それでは、今回はフルトヴェングラーを中心にモノラル録音の愛聴盤を聴いてみます。

Walter_betho6_wien ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1936年録音/EMI盤) 古いSP盤への録音です。後にワルターはステレオ録音で、あの有名な名盤を残しますが、その原点と言える演奏です。そもそもこの曲でのウイーン・フィルの演奏は特別なものですが、ここでは昔のウイーン・フィルの夢見るように甘く柔らかい音を味わうことが出来ます。SP盤からの復刻ですので、途中でディスクの切り替え部分があったり、針音が入っていますが、聴いているうちに不思議と気にならなくなります。

Cci00054 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1944年録音/ターラ盤) 第二次大戦中のライブ録音ですが、これも僕はターラのボックスで持っています。フルトヴェングラーは「田園」においてもスタイルを変えません。遅い部分は遅く、クレッシェンドに合わせてどんどんクレッシェンドしてゆくいつものドラマティックな表現です。「嵐」の部分のティンパニーの強打など余りに壮絶過ぎるのに驚かされます。ですのでフルトヴェングラーの第3番、5番、7番、9番の時のような絶対的な素晴らしさは感じていません。同じ古い録音を聴くならば、僕はワルター/ウイーン盤のほうがずっと好きです。

41uvmjpcql__sl500_aa300_ ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1947年録音/audite盤) 第二次大戦後のベルリン・フィルへの復帰演奏会初日の5月25日ティタニア・パラストでの録音です。RIASボックスに収められています。フルトヴェングラーが戦後の裁判によってしばらく指揮台から離れていたせいか、どことなく音楽の流れの悪さが感じられます。終楽章のアッチェレランドも性急に過ぎて落ち着きません。ベルリン・フィルも緊張感からか全般的にアンサンブルが今ひとつです。録音は1944年盤に比べれば随分良いのですが、auditeのリマスターが高音域を強調しているのが気になります。

Furt_beetho_6_wien ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1952年録音/EMI盤) フルトヴェングラーのウイーン・フィルとの「田園」は大戦中の古いスタジオ録音も有りますが、そちらは聴いていません。この曲に関してはやはりウイーン・フィルとの演奏が最高だと思います。1楽章は相当に遅いテンポで通しますが、弦や木管の音の柔らかさやデリカシー溢れる美しさは例えようもありません。2楽章も同様ですが、ベルリン・フィルのような暗さを感じません。大げさ過ぎない音楽的な「嵐」が過ぎ去った後の終楽章の祈りが感動的なことも比類がありません。途中のアッチェレランドもそれほど極端では無く自然さが有ります。海外Referencesシリーズの旧盤は厚い中低域の上に自然な高域がバランス良く乗った音なのでとても好きです。

Furt_beetho_6 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1954年録音/ERMITAGE盤) 演奏旅行中にスイスのルガーノで行ったライブ録音です。2年前のEMI盤の演奏に近く、全体的に遅くゆったりとしています。けれどもこの曲に限っては、ウイーン・フィルの柔らかく魅力的な音と比べると、どうしてもベルリン・フィルでは聴き劣りします。とはいえ2楽章の暗く小川の底に沈んでゆくような雰囲気はユニークですし、3楽章の農民たちの踊りも大男達が踊っているようで楽しめます。「嵐」での壮絶さはだいぶ影を潜めましたが、終楽章のアッチェレランドは相変わらず極端でやはり抵抗があります。スイス・イタリア放送による録音は水準以上でバランスの良いものです。

41uvmjpcql__sl500_aa300_ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1954年録音/audite盤) 最後の長い演奏旅行を終えてベルリンへ戻って行われたライブ録音です。演奏の特徴はルガーノのライブとほとんど同じで、終楽章のアッチェレランドも相変わらず極端です。けれども地元に帰って来たせいか、演奏全体に落ち着きや安定感をとても感じます。ルガーノ盤よりもずっと美しく感じられるのは、RIASによる録音がスタジオ録音並みに優秀なせいかもしれません。但し、auditeのリマスターは相変わらず高音上がりです。僕はフルトヴェングラーがベルリン・フィルを振った「田園」の中ではこの演奏を一番好んでいます。

31hy76477kl__sl500_aa300_ アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1952年録音/RCA盤) トスカニーニは昔は「即物的だ」などと良く評されましたが、それは大きな誤りです。この演奏もテンポは幾分速めですが、機械的にさっさと味気なく進むわけではなく、絶妙なカンタービレとニュアンスが一杯に織り込まれています。「嵐」ではストレートな音の迫力を聴かせてくれます。全体は一貫して明るく明瞭な演奏なので、のどかな田園風景というよりもゴッホが描いた輝かしい陽光の中の風景を想わせます。

Erich_betho5 エーリッヒ・クライバー指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1953年録音/DECCA盤) 当時のコンセルトへボウは非常に上手く、音色もウイーン・フィルの柔らかい音とはまた違う艶があって魅力的です。1楽章では軽快に過ぎて、少々せわしなさを感じますが、2楽章になるとしっとりと良い流れで曲に酔わせてくれます。3、4楽章は颯爽としてリズムの切れが良くとても楽しめます。終楽章はテンポは速めですが、祈りと感謝の気持ちがとても良くでていて大いに惹かれます。

Schu_bet_758 カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) 全集盤の中でも特に印象に残る演奏です。1楽章の主題が弦ででてくると目いっぱいのレガートで弾かれていささか驚かされますが、その後は速めのテンポで流れ良く進みます。パリ音楽院管の明るい音の管楽器も印象的です。2楽章も速めですが非常に瑞々しい美しさに溢れています。3、4楽章は一転して躍動感と生命力で一杯です。終楽章は祈りというよりも歓喜の気分に溢れるというイメージです。録音はモノラルですが明快です。

というわけで、フルトヴェングラーの演奏ではウイーン・フィルのEMI盤が断然好きです。それ以外ではワルター/ウイーン・フィル盤も良いのですが録音が相当古いので、それよりもずっと新しい親父クライバー/コンセルトへボウ盤とシューリヒト/パリ音楽院盤とに惹かれます。

次回は、ステレオ録音盤を聴いてみることにします。

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2010年10月 2日 (土)

ベートーヴェン 交響曲第5番ハ短調op.67 名盤(ステレオ録音編)

さて「運命交響曲」の、前回のモノラル録音編に続いて今回はステレオ録音編です。

031 ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1958年録音/CBS盤) ワルターのベートーヴェンは偶数番号の曲が良いと言われていて、それは事実なのですが、僕は奇数番号も良いと思っています。1楽章のテンポは意外に速めですし緊張感も有ります。ワルターらしい音の流れを損なわない微妙な間やタメも随所に見られます。2楽章の気品も実に素晴らしく、曲の美しさに酔わせてくれます。但し3楽章以降が、やや迫力不足と言う印象が残ります。ワルターの晩年のスタジオ録音は体調を考慮して、時間を短く区切りながら収録したそうなので、これはやむを得ないでしょう。ステレオ録音で聴けるだけでも有り難いです。

Beethoven_cluytensアンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィル(1958年録音/EMI盤) 全集盤に収められている演奏です。クリュイタンスのベートーヴェンは良いと思うのですが、オーケストラの響きにドイツらしさが感じられないのが不満です。せっかくベルリン・フィルがそういう重厚な音を残していた時代の録音なのにです。クリュイタンスの音造りも有るのでしょうが、それよりもEMIの録音(リマスタリング)だとパリ管もベルリン・フィルも音色が同じに聞こえてしまうのが問題です。グラモフォンではそのようなことは無いのすが、カラヤンは演奏に魅力が感じられませんし、フリッチャイは全集を完成させられませんでした。中々上手くいかないものです。

Cci00055 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められている演奏です。全曲に共通していますが、ゲヴァントハウス管の古き良き時代のドイツの響きが実に魅力的です。一音一音マルカートではっきり弾かれる音は、子音を明確に発音するドイツ語と同じです。現在のベルリン・フィルのように団員が国際化したオケではこういう音は出ません。但し、破格の曲の演奏にしてはコンヴィチュニー親父の指揮が真面目すぎて幾らか面白みに欠ける感は有ります。

Furicsay938 フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン・フィル(1961年録音/グラモフォン盤) 昔、ブーレーズ盤が出た時に1楽章の遅さが話題になりましたが、一番遅かったのは実はこのフリッチャイ盤でした。その後、陽の目を見たクナッパーツブッシュの演奏は更に遅いうえにテンポの浮遊性が有るので古典的な造形を損なっていますが、フリッチャイは造形をしっかり保っています。続く第2、第3楽章も遅く、沈み込んでゆく雰囲気がユニークです。但し終楽章はそれほど遅くは有りません。勝利の歌を高らかに歌い上げます。特筆すべきは当時のベルリン・フィルの暗く分厚い響きで、この演奏が素晴らしいのはこの響きが有ればこそです。

Beethoven5_hshumit ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮ウイーン・フィル(1968年録音/DECCA盤) この人は地味な存在ですが、北ドイツ放送やバイエルン放送を振ったライブでは非常に素晴らしい演奏を聴くことが出来ます。「運命」の演奏は、このウイーン・フィルとのDECCA盤しか聴いたことは有りませんが、これは中々に素晴らしい演奏です。テンポは中庸ですが生命力が有り、何も変わったことはしていませんが、ウイーン・フィルの柔らかくも張りの有る音を上手に生かしています。この演奏はもっと評価されて良いと思います。DECCAの録音も優秀です。

41f6bd5nchl__sl500_aa300_ オットー・クレンペラー指揮ウイーン・フィル(1968年録音/テスタメント盤) 1968年のウイーンでのライブです。晩年のクレンペラー・スタイルの遅めのテンポでスケールの大きい演奏です。この人も人間的なドラマティックな表現とは無縁です。クナッパーツブッシュの場合は更にスケールが大きく、かつテンポに浮遊性が有るので聴いていて飽きないのですが、クレンペラーは一貫してイン・テンポで通すの少々退屈します。しいて言えば終楽章は名演です。それにしても僕はどうもこの人とは余り相性が良くない気がします。もちろん好きな演奏も無いわけではないのですけれども。

Beethoven5_bohm カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1970年録音/グラモフォン盤) これはグラモフォンへの全集の中の録音です。前々年のイッセルシュテット盤とのウイーン・フィル競演になりました。ベームのほうが重量感が有りますが、ウイーン・フィルの美感と切れの良さではイッセルシュテットが勝っている印象です。また、1楽章前半と3楽章で幾らか緊張感に欠けるのが気になります。さすがに終楽章は中々の力演になっていますが。この第5の演奏は、あくまで全集盤のためのものと割りきった方が良いかもしれません。

522 エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1972年録音/Scribendum盤) モスクワでの演奏会録音です。’73の別録音も有り、そちらはモノラルですが、これはステレオです。但し録音の明瞭度にはやや欠けています。演奏は余分な脂肪分の無い筋肉質のものですので、もう少し潤いが欲しくなります。ティンパニーの強打などは凄まじいのですが、フルトヴェングラーのように流れの中で叩かれるのでは無く、そこだけが突出して聞こえてしまうのです。意外に繊細さを欠いた音も多々有りますし、僕は4番の演奏ほどは好みません。

51chtd6fxsl__sl500_aa300_ カルロス・クライバー指揮ウイーン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) エーリッヒの息子カルロスの名を世界に轟かしたセンセーショナルな演奏です。最初に聴いた時には、一気苛性な勢いにすっかり魅了されました。但しもう長いこと聴いていなかったので、今回聴き直してどう感じるかが楽しみでした。この躍動感と生命力はやはり凄いです。但し「苦悩や葛藤」という陰りは有りません。極めて健康的なのです。聴いたイメージはトスカニーニに近いです。やはりこれは「運命」の演奏を語るに外せない演奏だと思いますが、好きか嫌いかは全くの聴き手しだいです。

0184442bc ヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1977年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収録されている演奏です。毎回同じことばかり書いていますが、ルカ教会で録音された、このオケのいぶし銀の響きを味わえる演奏です。但しブロムシュテットの指揮に個性や主張は有りませんので、第3や第5のようなドラマティックな曲には余り向いていません。あくまでもシュターツカペレ・ドレスデンという唯一無二の典雅な響きの楽団で全集を聴けることに価値が有ります。

670 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1977年録音/Altus盤) 日本公演のNHKホールでのライブ録音です。グラモフォン盤から7年後の演奏ですが、力強さはスタジオ録音の比ではありません。テンポもずっと速めですし、緊張感が違います。音の持つ迫力はまるで別人のようです。やはりベームは実演の人ですね。NHKの録音も優秀ですので、この名演奏を心から味わうことができます。当日の前半プログラムは「田園」でしたが、これも非常な名演で同じCDに収められています。

以上のステレオ録音盤の中から、マイ・フェイヴァリットを挙げるとすれば、1にフリッチャイ/ベルリン・フィル、2にベームのNHKライヴ、3にイッセルシュテット/ウイーン・フィルです。他に外せ無いのはワルターと息子クライバーです。

さて連続して「運命」の記事ではみなさんお疲れでしょうから、ここでちょいと息抜きに、とても面白い「運命交響曲」の演奏をご紹介します。ある友人が教えてくれたYouTubeなのですが、大傑作です。名演奏の一角を占めるかもしれませんよ。

気分一新したところで、次回は第6番「田園交響曲」です。

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2010年9月25日 (土)

ベートーヴェン 交響曲第5番ハ短調op.67 名盤(モノラル録音編)

220pxbeethoven_3 「第五じゃない!第一です!」なんて電気屋さんのテレビコマーシャルをご存知の方は、それなりのお年の方ですね。なんて話はどうでもいいとして、ベートーヴェンのいよいよ第5交響曲です。通称「運命」ですが、実はこの呼び名が広く使われているのは日本だけ。本国ドイツでも余り使われません。他の国ではほとんど使われていないのが実情です。「運命はこのように扉をたたく」とベートーヴェンが語ったと弟子のシントラーが書き記したからですが、曲とは必ずしも結びついていないようです。我々日本人にとってはさんざん刷り込まれているせいか、すっかりイメージとして定着していますけれども。

Vcm_s_kf_repr_400x168それにしてもこの曲は傑作です。第1楽章アレグロ・コンブリオの冒頭の8つの音が、何度も何度も繰り返されて曲を構成するあたりは正に天才的としか言いようが無いですね。そして、この音楽の持つパワー、パッションといったらどうでしょう。第2楽章アンダンテの気品が有って尚且つ勇壮な広がりも何とも素晴らしいです。第3楽章アレグロはスケルツォ楽章ですが、運命の動機が高らかに歌われて、あたかも苦悩と勇気が対決しているようです。そして切れ目無しに続く第4楽章の雄渾なことは並ぶものが無いと思います。正に「苦悩を突き抜けた歓喜」です。ですので、この曲をスタイリッシュに整然と流すだけのような演奏だけは決してしてほしくないのです。

それでは、例によってフルトヴェングラーを中心にモノラル録音時代の名盤を聴いていきましょう。

Cci00054 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1943年録音/ターラ盤) 第二次大戦中の放送用録音です。僕はターラのボックスで持っていますが、中低域に量感のある聴きやすい音です。フルトヴェングラーは大戦中はナチスドイツの海外に向けた文化的な象徴でした。どうしても彼を亡命させるわけにはいかなかったのです。ですのでベルリン・フィルに在籍したユダヤ系楽員もナチスの迫害からはかなり例外扱いされました。というよりもフルトヴェングラーが守ったのですが。従ってオーケストラの水準も落ちることなく保たれていました。フルトヴェングラーの手足のように自由自在に動くオケが極限状態の中で、どれだけ白熱した凄い演奏を行っていたかの記録は、ファンならずとも一度は聴いておかなければなりません。

41uvmjpcql__sl500_aa300_ ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1947年録音/audite盤) 第二次大戦が終わってフルトヴェングラーがベルリン・フィルへの復帰した歴史的演奏会です。この時は5月25、26、27日と29日の4日間に同じ曲目で行われました。これは初日25日の録音です。会場のティタニア・パラストは古い映画館なので残響は少ないですが、RIAS放送録音集ではマスターテープからのマスタリングでかなり明快な音で聴くことができます。久々の演奏会なので初めのうちは指揮とオケの間に幾らか様子を見合っている印象を受けますが、逆に記念の演奏会を実感できて興味深いです。

Furt_berlin_5img ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1947年録音/グラモフォン盤) ベルリン・フィルへの復帰演奏会3日目の5月27日の演奏ですが、これは昔からグラモフォンが発売していましたので非常に有名です。会場は長い間ティタニア・パラストとされていましたが、最近ではベルリンに有ったソ連放送局のスタジオに客を入れて演奏されたことが分かっています。さすがに復帰3日目の演奏だけあって、指揮とオケの息がピタリと合っています。かつての手足の関係が完全に戻っています。演奏そのものをとればやはりベストかもしれません。グラモフォン盤は旧盤で持っていますが、米MYTHOSのアナログ盤からの復刻CDがベールを2枚剥いだような次元が異なる良い音ですのでファンには是非のお薦めです。

Betho5_furemi ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1954年録音/EMI盤) これは亡くなる年の3月のスタジオ録音です。ここには’43年や’47年のあの白熱したパワーと変幻自在のドラマは見られません。イン・テンポでスケール大きく広がりのある演奏です。それを物足りないといった感想もよく聞きます。けれども戦前戦後を通してドイツ音楽を一人で支えてきた神様の最後の境地として耳を傾けるに充分の価値が有ると思います。優秀な録音でウイーン・フィルの美感を味わえるのも嬉しいです。3楽章から4楽章へのブリッジを非常に遅く巨大なスケールで持ちこたえて、そのあとに気が付かないぐらいに僅かづつ加速してゆく様はこの人にしか出来ない神業です。僕は終楽章だけならこの演奏が一番好きかもしれません。

41uvmjpcql__sl500_aa300__2 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1954年録音/audite盤) これもRIAS放送録音集に収めらえている’54年5月の演奏です。フルトヴェングラーが亡くなる半年前の最後の第5の録音です。音質もスタジオ録音並みに優秀です。テンポ設定ではウイーン・フィルとのEMI録音が一番遅く、それよりも幾らか速めですが、これはやはり実演であったせいでしょう。但し全盛期の白熱とパワーはもはや有りません。フルトヴェングラーが手兵ベルリン・フィルと共にした最後の演奏ということで、やはり大切にしたいと思っています。

31hy76477kl__sl500_aa300_ アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1952年録音/RCA盤) フルトヴェングラーの演奏がロマン的なのに対してトスカニーニはよく即物的だと言われました。確かに表面的なスタイルは正反対ですが、演奏家としての凄さはお互いに認め合っていたそうです。両者に共通していたのは炎と燃え尽きるような情熱と生命力です。フルトヴェングラーには陽の裏側の陰りを強く感じることが多いのに対して、トスカニーニはどこまでも陽側の精神の強靭さを感じます。残響の無い録音が即物的だという評価を助長したのでしょうが、決してそんなことはありません。速くストレートな演奏の中に絶妙なカンタービレとニュアンスが一杯に織り込まれています。

Erich_betho5 エーリッヒ・クライバー指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1953年録音/DECCA盤) カルロスの実父クライバーには根強いファンがいますし、「フィガロ」などの未だ最高の名盤も有ります。基本的に速めのテンポで優雅さとニュアンスを持ち合わせるのはシューリヒトに似ています。但しこの人には驚かせるようなデフォルメは有りません。終楽章に向かって徐々に高揚してゆく良い演奏なのですが、強いて言えば1楽章で音の緊張感に不足する部分が有るのが欠点です。DECCAの優秀な録音はモノラルでもオケの素晴らしい音を捉えていて嬉しいです。

Schu_bet_758 カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。1楽章は速めのテンポですが、シューリヒトにしては案外遅めな気がします。トスカニーニや父クライバーのほうがよほど速いです。けれども強靭な生命力はいつもと変わりなく、決め所の迫力はトスカニーニに負けません。2楽章以降も絶妙なニュアンスの変化を見せながら進みます。4楽章ではトランペットが明るい音色で勝利の歌を高らかに奏するのですが、ビブラートを目いっぱいかけ過ぎるのが少々耳につきます。

Betho5_kuna ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ヘッセン(フランクフルト)放送響(1962年録音/ターラ盤) 「クナッパーツブッシュはベートーヴェンに不向きであるという風評に真っ向反対をする」という評論家の方がおられましたが、僕はやっぱり不向きだと思っています。苦悩、歓喜という人間的なドラマ抜きで部分部分をじっくりと積み重ねてゆくブルックナー・スタイルの演奏はどうも合わないと感じるからです。クナのファンはどんな曲を演奏してもクナであるところが嬉しいのでしょうが、僕の聴き方はやはり先に音楽があっての演奏選択なのです。とはいえこの極めて遅く巨大で圧倒的な「運命」も是非一度は聴かれて欲しいと思います。意外にハマるかもしれませんよ。

以上の「第5」の演奏の中で特に好きなものを挙げれば、やはり人間の苦悩や歓喜を他の誰よりもドラマティックに表現し切っているフルトヴェングラーになります。とりわけ’47年5月27日盤、’54年EMI盤、’54年RIAS盤の3つです。他にはトスカニーニだけはどうしても外せません。

次回はステレオ録音編です。色々と改めて聴き直してみることにします。

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2010年9月20日 (月)

ベートーヴェン 交響曲第4番変ロ長調op.60 名盤(ステレオ録音編)

B0134905_6151917さて、モノラル録音編に続いて、今度は「ギリシアの乙女」のステレオ録音盤を聴いてみます。モノラルとステレオでは、単純に比べればステレオのほうが良いに決まっています。それは映画であれば、モノクロのスクリーンがカラーになるようなもので、登場する人物の肉感がずっとリアルに感じられるのと同じです。ところが、それにもかかわらずモノラル録音時代の名演奏に相変わらず惹かれ続けるというのは、演奏そのものの持つ力がどれだけ凄いかということでしょう。とはいえ、ステレオ録音盤にも素晴らしい名盤が幾つも有ります。それらを順番に聴いていくことにしましょう。
それはともかく、やっぱりギリシアの乙女って素敵ですよね~。うーん、思わず見とれて??しまいます。

031 ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1958年録音/CBS盤) もちろん激しさや迫力に欠ける訳では有りませんが、シューマンがこの曲を表現した「ギリシアの乙女」のイメージを一番感じる演奏です。何と優雅で優しさを湛えていることでしょう。ワルターはあるときは誰よりも壮絶な演奏をすることもありますが、優しく歌うような演奏にかけてはこの人の独壇場となります。2楽章にも深刻さは無く、幸福感に満たされています。同じ曲を演奏してもフルトヴェングラーとは正反対の印象です。3楽章スケルツォさえ何とも優雅です。シューマンが感じた第4番はこのような音楽だったのでしょうね。

Beethoven_cluytensアンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィル(1959年録音/EMI盤) 全集盤に収められている演奏です。この演奏もまた「ギリシアの乙女」的な演奏です。第1楽章導入部の重々し過ぎない開始から主部に入っても常に余裕が有ります。第2楽章では牧歌的な美しさを味わえます。第3楽章、第4楽章もテンポにゆとりが有り、夢中に成り過ぎない落ち着きが心地良く感じられます。けれども決してもたつくわけではありません。自然な音楽の生命力も持ち合わせています。録音は余り明瞭では無く、リマスターが高域型で音が軽く感じられますが、演奏のスタイルから抵抗感は少ないです。

Cci00055 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められている演奏ですが、相変わらずゲヴァントハウス管の音色が魅力的です。木管といい金管といい古色蒼然としています。いやー何という古風な音なのでしょう。これこそは古き良き時代のドイツの響きですね。コンヴィチュニー親父の強固な統率によって古武士軍団が堂々と進軍するさまには鳥肌がたつほどの迫力を感じます。第1、3、4楽章は圧倒的です。

Wacci00001b オットー・クレンペラー指揮ウイーン・フィル(1968年録音/テスタメント盤) 1968年のウイーンでのライブです。晩年のクレンペラーが指揮をすると北欧の巨人の間のギリシアの神様というイメージです。アレグロに入ってもじっくりと遅いテンポなので、あたかも巨大な神殿を見上げるかのようです。けれどもアダージョまでは良いとしても、スケルツォもフィナーレも一貫して遅いイン・テンポを通すのでだんだんもたれてしまいます。クレンペラーのファン以外には少々厳しいのではないでしょうか。

976 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1969年録音/オルフェオ盤) ザルツブルク音楽祭でのライブです。演奏そのものは’72のグラモフォンの録音に近く、更に力が有って良いような気がするのですが、録音に混濁感が有るのと高音部が強調されているのに抵抗を感じます。これはたぶんオルフェオのマスタリングのせいかもしれません。ですので、ベーム/ウイーン・フィルの4番を楽しみたい場合には、僕はグラモフォン盤を選択します。

Behm815 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) グラモフォンへの全集に収められています。ベームがウイーン・フィルと70年代に残したスタジオ録音は、60年代までのベルリン・フィルとの録音やあるいはライブ演奏の緊張感は有りません。けれども逆にウイーン・フィルの音の持つ優雅さや潤いとが、ほど良いバランスを保っていて僕は好きです。この演奏もクレンペラーほどもたれませんし、音楽を落ち着いてゆったりと楽しめる点で素晴らしいと思います。

Beetho4_mura エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1973年録音/メロディア盤) ムラヴィンスキーはベートーヴェンを何曲も指揮していますが、個人的には4番の演奏が一番好きです。余分な脂肪分を削ぎ落とした実に凛としたスタイルがこの曲に適しているのだと思います。ロシアの若く美しい乙女ナターシャ(誰だそれ?)を見るかのような気がします。これは’73年モスクワでのライブ録音です。モスクワでは他に’72年の録音も有り、どちらも素晴らしいのですが、’73年のほうが録音の響きが柔らかいのでベートーヴェンに向いているのと、演奏自体も更に優れていると思います。

189 エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1973年録音/Altus盤) モスクワでの録音のちょうど一月後に日本にやってきて、東京文化会館で演奏したときの録音です。当時のNHKによる録音は優秀なので、文化会館の響きを忠実に再現して、ステージの上のオーケストラが目に浮かぶような臨場感です。演奏については’73年モスクワ盤とどちらが上かは難しいところです。これから聴かれる方はどちらでも良いですし、興味のある方は両方とも聴かれればベストだと思います。

0184442bc ヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1978年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収録されている演奏です。ドレスデンのルカ教会で録音された、このオケのいぶし銀の響きを堪能できる良い演奏です。弦も管もティンパニーも柔らかく溶け合った実に美しい響きです。造形的にもとても立派な演奏なのですが、ブロムシュテットはここでも自分の個性を全く感じさせません。元々このオーケスラは誰が指揮しても演奏を変えようとしないので、「まるで牛車みたいだ。」と言った名指揮者が昔いたそうです。現在なら「大型ベンツみたいだ」となるのでしょうかね。

786 カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管(1982年録音/オルフェオ盤) シュターツカペレ・ドレスデンがベンツなら、これはさしずめバイエルン・モーター(BMW)です。しかも大変なスピード狂でハイウェイを突っ走ります。まるでディープ・パープルを聴くような快感を感じますが、これが果たしてベートーヴェンかというと??というのが実感です。アレグロでは余りの速さでオケは前のめりにコケまくっていますし、シンコペーションもグチャグチャです。この演奏が非常に人気が有るのは知っていますが、僕は正直好みません。クライバーのオペラ演奏は好きなのですが、管弦楽曲はベートーヴェンもブラームスも余り好みとは言えません。

というわけで、クライバーを除いてはどれも皆好きな演奏ですが、ワルター、コンヴィチュニー、ムラヴィンスキーの3つは特に好きです。

次回は、もちろん・・・第5です。フルトヴェングラーなどのモノラル録音盤から聴いていきます。

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2010年9月17日 (金)

ベートーヴェン 交響曲第4番変ロ長調op.60 名盤(モノラル録音編)

Image51 第4交響曲は、第3番「英雄」と、第5番「運命」の間の曲なので余り目立たない存在です。そのうえ副題も付いていないので尚更です。けれども、この曲は大変素晴らしく、実に魅力的だと思います。シューマンがこの曲を「二人の北欧神話の巨人(3番と5番)の間にはさまれたギリシアの乙女」と例えたと伝えられています。さすがは音楽評論家でもあったシューマン先生ですね。でもこの曲は「乙女」と呼ぶほどやわな曲でもないと思います。激しさも充分に持ち合わせているからです。それともギリシア美人はもしや案外と激しい気性を秘めているのでしょうか。シューマン先生はもしかしたら、そんなギリシア美人もお気に入りだったのかもしれませんね。

この曲は僕も昔から大好きですが、特に素晴らしいのが第1楽章です。不気味な静けさの導入部からアレグロの主部へ移るときのスリルは何度聴いても興奮します。そして気分を高揚させたまま、表情を刻々と変化させてゆくのは最高の聴きものです。第2楽章アダージョも深いロマンの香りが溢れていて実に美しいです。第3楽章スケルツォも楽しいですが、ベートーヴェンとしては平均的な出来というところでしょうか。第4楽章アレグロでは再び躍動感と楽しさに溢れます。というわけで、この第4交響曲は全体が短めで簡潔なせいもありますが、一度聴き始めるとあっという間に聴き終えて、また初めから聴き直したくなるほどです。

さて、僕の愛聴盤のご紹介ですが、まずはモノラル録音からです。例によってフルトヴェングラーを中心に聴いてみましょう。

Beethoven4jpg ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1943年録音/メロディア盤) 僕が初めて聴いたべト4の演奏はこの演奏でした。第二次大戦中のライブ録音です。廉価LP盤の音は貧弱でしたが、演奏の凄さに感動しました。お化けが出そうに不気味な導入部に続くアレグロの推進力と迫力が凄く、フォルテの音の激しさは尋常ではありません。ティンパニーの強打にも鳥肌が立ちます。第2楽章ではロマンティックな雰囲気が一杯で音楽に陶酔させてくれます。それは極めてロマン的で古い演奏スタイルかもしれませんが、フルトヴェングラーの演奏でこの曲を聴くと、3番と5番にも決して見劣りしない曲に思えてきます。

803 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1943年録音/オーパス蔵盤) これはメロディア盤の演奏会に先立って聴衆無しで放送用に録音された別テイクです。ですので、ここにはライブ演奏の鬼気迫るような雰囲気は有りません。ティンパニーの強打などはかなりのものですが、フォルテの音は常識範囲に留まっています。オーパス蔵の板起こし(アナログ盤からの直接復刻)の音質はメロディア盤よりもずっと良好ですので、この曲のロマン的な面と古典的な面をバランスよく楽しむことが出来ます。

Beethoven4_furjpg ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1952年録音/EMI盤) 戦時中の演奏と比べるとテンポがずっと遅くゆったりとしています。全体的に少々生ぬる過ぎる印象が残りますが、逆にウイーン・フィルの柔らかな音でくつろげる良さが有ります。この曲には、激しい演奏と穏やかな演奏のどちらでも許容できる音楽の懐の深さを感じます。僕はこの演奏もとても好きです。第4楽章のイン・テンポでスケール大きく広がりのあるところなどは特に気に入っています。EMIへのスタジオ録音ですので音質は良好です。僕はこれも海外References盤で聴いています。

Toscanini_beethoven_3_4 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1951年録音/RCA盤) ギリシア彫刻を思わせるような力強く明快な演奏です。これは乙女どころではなく、若くたくましい男性のイメージです。1楽章アレグロ部の躍動感には聴いていて思わず腰が動いてしまいます。2楽章ではロマンに深く沈滞することなく明るく健康的に歌われます。3楽章は速めでリズムが実に生きています。終楽章は速過ぎず遅過ぎず実に良いテンポです。そしてこの強靭な生命力に惚れ惚れしてしまいます。

Schu_bet_758 カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1958年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。この年でモノラル録音なのは残念です。シューリヒトの古典派の演奏は案外トスカニーニと共通点が有ります。速めのテンポで引き締まっていること、基本的にイン・テンポなのに時々デフォルメを見せること、強靭ともいえる生命力があること、楽譜の読みが非常に深いこと、オケを自分の手足のように統率すること、などです。そしてどちらも本当に素晴らしいので、とても甲乙などは付けられません。

次回はステレオ録音編です。モノラル盤に負けず劣らず素晴らしい演奏が色々と有ります。

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