シベリウス 弦楽四重奏曲全集/シベリウス・アカデミー四重奏団 ~内なる声~
シベリウスの書いた弦楽四重奏曲は全部で4曲有ります。但し、そのうちの3曲は若い時代の作品で、作品番号が付けられたのは2曲しか有りません。
①変ホ長調(1885年作曲)
②イ短調(1889年作曲)
③変ロ長調 作品4(1890年作曲)
④ニ短調 作品56「親愛の声」(1909年作曲)
それぞれの曲について、もう少し詳しく触れてみます。
弦楽四重奏曲変ホ長調(1885年作曲) ヘルシンキ大学時代の記念すべき第1作です。と言ってもシベリウスは最初、法律を学んでいたので、音楽の専門教育を受ける前の作品です。それにしては中々良く出来ていますが、まだウイーン古典派の作風ですし、鑑賞用としては少々物足りません。
弦楽四重奏曲イ短調(1889年作曲) 大学で法律と並行して音楽を学び、卒業した年の作品です。フィンランド国内では「期待の新星が現れた」と大きな反響を呼びました。当時シベリウスは、この曲を弦楽四重奏曲第1番とするつもりだったようです。大きな反響を呼んだだけのことは有るチャーミングな作品だとは思いますが、作品番号が付けられなかったのは、シベリウス本人にとっては幾らか満足出来なかったのではないでしょうか。
弦楽四重奏曲変ロ長調作品4(1890年作曲) 卒業の翌年にはベルリンへ行ってドイツ音楽を学びますが、その時の作品です。この曲は弦楽四重奏曲第2番とするつもりだったようです。作品番号を付けただけのことは有って、前作と比べても音楽の充実感がグンと増しています。既にシベリウス特有の内省的な雰囲気を大いに感じます。4楽章とも魅了的ですが、民謡のような抒情感をたたえた第2楽章アダージョ、第3楽章プレストのスケルツォ、伸び伸びと高揚する第4楽章アレグロのフィナーレと、どれも親しみ易く、それでいて飽きさせません。シベリウスの弦楽四重奏曲の傑作は、決して「親愛の声」だけでは有りません。
弦楽四重奏曲ニ短調作品56「親愛の声」(1909年作曲) 作曲年代から言えば、交響曲第3番と第4番の間に位置する円熟期の作品です。ラテン語のタイトル「Voces Intimate」は、日本語では「親愛の声」や「親愛なる声」あるいは「内なる声」と色々と訳されています。完成度が最も高く、以前の作品に比べて、風格が一段も二段も上になりました。同じ国民楽派のヤナーチェクの作品に共通した雰囲気も有りますが、シベリウス特有の澄んだ空気感に強く惹かれます。この曲は変則の全5楽章構成ですが、単なる室内楽作品の枠を超えて、非常にシンフォニックな印象を受けます。交響曲のモチーフによく似た部分が頻出します。けれども咽喉に腫瘍が出来て、「死」や「自己の内面」を意識した時代の作品ですので、第4交響曲と共通した暗さや内向性を強く感じずにはいられません。ですので、個人的には曲のタイトルは「内なる声」と訳するのが一番ふさわしいのではないかという気がします。
4曲の中では当然、最後の「親愛の声」を何を置いても聴かなければなりませんが、作品4も非常に素晴らしく必聴の曲ですので、やはり全曲盤で揃えておいたほうが良いと思います。そこで僕の愛聴盤をご紹介します。
シベリウス・アカデミー四重奏団(1980、84、88年録音/FINLANDIA盤)
1stヴァイオリンのトゥキアイネン、2ndヴァイオリンのカントラ、ヴィオラのコソネン、チェロのノラスの4人全員がシベリウス・アカデミーの教授達で編成されています。この中では、チェロのアルト・ノラスは独奏者としても知られています。4曲を収めた全集盤というのは決して多くは有りませんが、このメンバーによる演奏には、何かとても安心して身を任せられる雰囲気が有ります。テクニック的に更に優れた団体が主要曲を録音していますが、全ての曲を聴いて心からシベリウスの音楽を聴いたという満足感を得られる点では、やはり最右翼なのではないでしょうか。メンバー全員にとって、シベリウスの音楽は彼らの体の血であり肉であり、日常的に使う言葉だからなのでしょう。
| 固定リンク | コメント (12) | トラックバック (0)
最近のコメント