ベートーヴェン(交響曲第7番~9番)

2014年12月29日 (月)

ベートーヴェン 交響曲第9番 クルト・ザンデルリンク/ベルリン・ドイツ響のライブ盤

今年もいよいよ終わりに近づきましたね。昨日はシェア奥沢での今年最後のクラシック鑑賞会でしたが、歌劇「フィガロの結婚」の全幕をベーム/ウイーン国立歌劇場の日本公演DVDで鑑賞しました。つくづく凄いキャストと演奏だったと今更ながら驚かされます。年の瀬の慌ただしい中をいらして頂いた皆さんも、この演奏には一様に圧倒されていたようです。

さて、今年最後に取り上げるCDは、やはり”この曲”しかありませんね。もちろんベートーヴェンの第九です。何だかんだ言いながら、結局聴き納めには今年も第九を聴いています。

51facl7ssjl__sy300_クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団、
ベルリン放送合唱団、ベルリン国立歌劇場合唱団、ベルリン・コミッシェ・オパー合唱団
エヴァ・マリア・ブントシュー(S)、ウタ・プリエフ(Ms)、ペーター・シュライアー(T)、テオ・アダム(Bs)(1987年録音/Weiblick盤)

今年購入した第九のCDは、クルト・ザンデルリンクが1987年にベルリン・ドイツ響を指揮したライブ録音です。これはベルリン市制750周年を記念した祝賀演奏会の記録です。ですので合唱はベルリン放送合唱団、ベルリン国立歌劇場合唱団、ベルリン・コミッシェオパーの3つの団体からの混成です。独唱歌手も当時の東ドイツの歌手が揃いました。

ザンデルリンクというとブラームスの演奏の印象がとても強く、イン・テンポで堂々とした巨大な造形を構築するように感じています。ですので余りに人間的でドラマティックなベートーヴェンの音楽には今一つ合わない様なイメージを持っていました。ところが、この第九では堂々として立派には違いないのですが、フォルテの音は激しく、アクセントもかなり強調されていますし、テンポに揺れも感じられます。通常のザンデルリンクからは想像が出来ないほど極めてドラマティックな演奏なのです。

第1楽章からエンジンは全開。精神は激しく高揚しています。ティンパニの強打にも驚かされます。その激しさは「フルトヴェングラーのようだ」と言えば少々オーバーになりますが、中々に胸に迫るものが有ります。第2楽章も叩きつけるように激しいアクセントが興奮を呼んでいます。第3楽章では一転して静寂の雰囲気を一杯に漂わせていて非常に美しいです。第4楽章も導入部は冒頭から気合のこもった激しい音で表情豊かに迫ります。主部に入ると主題の歌わせ方の大きさに圧倒される思いです。独唱はバスをテオ・アダムが歌いますが、ここまでのオーケストラに比べると威厳と深さにやや物足りなさを感じます。その点、テノールを歌うペーター・シュライヤーは声、力強さともに十二分です。女性歌手の二人は平均的ですが歌のアンサンブルに不満は有りません。展開部でのオーケストラと合唱の白熱ぶりは非常に素晴らしいです。大きなスケール感と精神の高揚ぶりが見事に両立していて聴き応え充分です。コーダの迫力も中々のものです。
ライブですのでオーケストラの演奏には小さなキズが何か所も見られます。恐らくそれを気にする聴き手も多いかもしれませんが、個人的には問題とするほどでは無いと思っています。

CDの音質としては、残響が多い割には音に芯が有るので生々しさが感じられて良いです。初めはイコライジングが過剰に感じられますが、聴いているうちに気にならなくなります。問題はアナログで録音されているために、数か所で微妙な音揺れが感じられます。これはマスターテープに起因するのものだと思います。第1楽章で1箇所ホルンが引っくり返ったように聞こえるのは問題ですが、それ以外は個人的にはギリギリ無視できるレベルです。

ということから、確かにキズは幾つも有るものの、ザンデルリンクがこの3年後に同じベルリン響と録音したブラームス交響曲全集での悠揚迫らざる演奏と比べて、とても同じ指揮者とは思えないほどドラマティックな演奏であるのが驚きであり、非常に楽しめます。そういう点で、ザンデルリンクのファンにとって、とても価値の高い録音だと思います。

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2013年12月29日 (日)

ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」 テンシュテット/ロンドン・フィルの1992年ライブ ~年末ご挨拶~

昨日は有楽町の劇場まで歌舞伎シネマの「野田版・鼠小僧」を観に行きました。この作品を観るのは二度目です。野田秀樹の脚本と演出が最高に面白くて、最後には泣かされます。けれども、それを生かせるのも今は亡き中村勘三郎さんの類まれな演技が有ればこそです。もう二度とこのコンビの芝居が観られないのかと思うと本当に残念です。

それにしても、今年も残すところあと三日。一年は早いものですね。今年のブログのマニュフェスト(死語か?)には、欲張って八つの目標を掲げましたが、達成できたのは、結局ベートーヴェンの弦楽四重奏曲だけです。これは酷い!民主党のことを悪くは言えませんね。(苦笑)

でも、皆様には本当にお世話になりました。コメントの書き込みを頂いてる方も、そうでない方も、このようなブログにいつもお越し頂いて心から感謝しています。来年も可能な限り色々と記事をアップしてゆきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。

ということで、いよいよ今年のフィナーレです。最後を飾るのは、もちろんこの曲です!ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」!それでは、クラウス・テンシュテットさんに演奏して貰いましょう!(って何だか紅白みたい??)

511zvlveddlクラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィルハーモニー/合唱団
ルチア・ポップ(ソプラノ)
アン・マレイ(メゾ・ソプラノ)
アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)
ルネ・パーペ(バス)
(1992年録音/LPO盤)

これは、テンシュテットの最後の活動時期となる1992年10月8日、ロイヤル・アルバート・ホールでのライブです。この年にはテンシュテットがせっかく来日したのですが、急病で指揮が出来なかったということが有りました。

けれども、この第九の演奏は凄いです。病魔に侵されて、死を目の前にしていたにもかかわらず、これほどの演奏が出来るとは本当に驚きです。島倉千代子も凄かったが、テンシュテットもやはり凄い。

第1楽章冒頭から凄まじい迫力と集中力を感じます。最初からこれで最後まで体力が持つのかと心配になるほどです。テンポを崩すことはしませんが、ひとつひとつの音に何と命がこもっていることでしょう。強いて言えばティンパニの音が幾らか安っぽい(録音のせいか?)わりに、強打をし過ぎる為に、うるさく感じます。常に叩き続けていては気迫が逆効果になってしまいます。このあたりの加減は、やはりフルトヴェングラーには敵いませんね。フォルテで金管が長く吹き続け過ぎるのも、ベートーヴェンというよりはワーグナーの音を想わせます。それが良いと言うファンもおられることとは思いますが。

第2楽章も鋭いリズムで気迫にあふれます。この楽章では音楽の性質から、ティンパニが過剰に感じることもありません。

第3楽章は元々厳かな音楽なので、普通に演奏されても感動します。しかし、この演奏は、極めてゆっくりと、まるで時が止まっているような印象を受けます。テンシュテット自身も、そしてオーケストラのメンバーたちも、一緒に音楽が出来る時間はもう余り残されていないことを理解していたのでしょう。そんな特別な思いが、録音を通してでも痛いほど伝わって来ます。

終楽章も凄まじい気迫の音で始まります。第1楽章でも感じたことですが、いきなりストレートの150Kmの速球を投げ込まれると、最初は驚きますが、だんだん速い球に慣れてしまいます。決め球は「ここぞ」というところで使うので効果が出るのです。3分程度の「リュスランとリュドミラ」序曲のような短い曲ならば、リリーフ・ピッチャーのように全て速球勝負でも構いませんが、長い曲の場合には、やはり緩急を使った完投型の投球が理想です。ヘンな例えでしたが、しかしここでのテンシュテットは最後まで剛速球を投げ切ってしまいます。人間死ぬ気になると信じられないような力が出るものです。
ちなみに、歌手陣と合唱は非常に優れています。オーケストラと合唱との録音バランスも良いと思います。

全体的に鬼気迫る熱演なのは確かですが、ティンパニや金管が部分的に騒々しく感じますし、ロンドン・フィルがオーケストラそのものの音の魅力で勝負できる水準だとは言い難いのが少々心残りです。

第九というと、何人(なにびと)も越えられないフルトヴェングラーの壁が有ります。フルトヴェングラーの凄さというのは、山あり谷ありの一大スペクタクルでありながらも、全体があたかもアルプス山脈のような有機的な連なりを感じさせる点です。こんな矛盾したことを両立できるのは後にも先にもフルトヴェングラーただ一人です。ですので、いかにテンシュテットが死んだ気になっても越えられないものは越えられません。けれども、その神の領域に限りなく近づいた凄い演奏であることは確かです。それが、どれだけ凄いことかは、フルトヴェングラーの偉大さを知っている人こそ良く理解できるものだという気がします。

くどくどと書きましたが、この演奏はフルトヴェングラーを別格とすれば、シュミット=イッセルシュテット/北ドイツ放送響の1970年ライブ(ターラ盤)やクーベリック/バイエルン放送響の1982年ライブ(オルフェオ盤)に次ぐ愛聴盤のひとつに加わりそうです。

それでは皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。

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2010年12月26日 (日)

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調 「合唱」 ~懐かしの指揮者で~

クリスマスも終わって今年もいよいよカウントダウンに入りました。3年目に入った自分のブログでしたが、今年はブルックナーとマーラー、それにベートーヴェンのシンフォニー特集を達成できたことはとても満足です。来年も書きたいことは色々と有りますが、とてもそれを全部出来るわけではありませんので、新年の抱負として幾つか絞ろうかなぁと思っています。それよりも厳しくなる経済情勢がいつまで自分にブログを書く余裕を与えてくれるか時々心配になることもあります。もしも日々の生活に追われたらそれどころでは有りませんからね。でも、仮に環境が変わっていったとしても、きっと断念することは無いと思います。こんなに楽しい趣味のふれあいの場ををやめてしまうのは余りにもったいないからです。

ところで秋に特集したベートーヴェンの交響曲の中で第九が残っていました。というのは既に一度旧記事「交響曲第9番”合唱”名盤」を書いてしまったこともあり、その中で触れていない演奏を年末に書こうと思ったからです。そこで我が国にとても馴染み深く、自分にとっても非常に懐かしい指揮者の演奏を挙げてみます。

Beetho9_2 オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1982年録音/エテルナ盤)
スウィトナーさんはかつてNHK交響楽団を度々指揮したので良く知られていますね。僕は手兵SKベルリンとの来日公演でモーツァルトのシンフォニーを聴きましたが、最高の演奏でした。第九は年末にN響を何回か指揮しましたが、たぶん生では聴いていなかったと思います。この演奏はシンフォニー全集の中の録音ですが、この人らしいドイツの伝統に沿ってはいても、新鮮さを失わない演奏です。SKベルリンの響きもドイツ的に溶け合っていて非常に美しいです。1楽章のテンポは速めでとても推進力があります。けれどもせかついた感じはしません。重量級ではないのですが聴きごたえがあります。2楽章も同様に速めで切れの良い演奏です。3楽章は非常に美しく、心が洗われるようです。終楽章もことさら劇的に構えることなく誠実に熱演しています。但しこの楽章は破格の音楽ということもるので、一抹の物足りなさを感じる感無きにしもあらずです。僕のCDは独エテルナの旧盤ですが、DENONから最新リマスター盤も出ています。

Beethoven9ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1976年録音/DENON盤)
ノイマンは手兵チェコ・フィルとも、単独でも何度も来日しました。僕が忘れられないのは上野の東京文化会館で聴いた全盛期’70年代のチェコ・フィルとの「ドン・ファン」とドヴォルザークの第8番です。よほど調子が良かったのか、チェコ・フィルは驚くほどに美しい音がしていました。この第九は同じ東京文化会館でのライブ演奏で、日本コロムビアによる録音です。ノイマンはドヴォルザークとマーラーはほぼ2度のシンフォニー全集を残しましたが、ベートーヴェンの録音は意外に少ないです。恐らく商業ベースでスプラフォンが避けたのではないかと想像します。この第九を当時生では聴いていませんが、引き締まったテンポでストレートな良い演奏だと思います。元々チェコ・フィルの音は透明感が有りますが、金管特にトランペットを強く奏するので、ドイツの楽団の管と弦が溶け合う響きとはだいぶ違って聞こえます。中々に新鮮に感じます。僕はちょうど同じ頃にマズアとゲヴァントハウス管の第九を聴きましたが、四角四面で面白くない演奏だったのを記憶しています。こちらの方を聴きに行けば良かったです。

Beetho9_neu ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1989年録音/スプラフォン盤)
ノイマンには本国での演奏も有ります。チェコのビロード革命による民主化実現の年にプラハで記念コンサートが開かれました。会場はスメタナホールです。当日は民主化を推進したハヴェル大統領も訪れて歴史的なコンサートとなりました。この時にはノイマンがチェコ・フィルを指揮しましたが、演奏されたのは人類の平和と友愛を歌う第九で、これはそのライブ録音です。演奏には大きな期待をするところですが、東京ライブから10数年の歳月はノイマンを指揮者として更に進化、いえ深化させたのでしょう。テンポがかなり遅めになり、見得を切るような音のタメと間の取り方が「フルトヴェングラー的」に変わりました。音の持つ含蓄や意味の深さはこちらのほうが明らかに優っています。チェコ・フィルはやはり澄んだ響きなのですが、東京ライブほどには金管が浮き上がらないので、ドイツ的な厚い響きに近づいています。独唱陣と合唱も非常に感動的です。勝利と平和の祈りに満ち溢れているように感じます。このような素晴らしい演奏を聴いてしまうと、晩年のノイマンがベートーヴェンのシンフォニー全集を残していてくれたらなぁと思わずには居られません。

今年もこうして第九をゆっくりと聴きながら無事に年末を迎えることができました。本当に感謝すべきことです。皆様も去りゆく年の終わりと新たなる良い年を迎えられることを心からお祈り申し上げます。この一年どうもありがとうございました。

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2010年11月 1日 (月)

ベートーヴェン 交響曲第8番へ長調op.93 名盤

Img_beethoven_1_2 第7交響曲を書きあげた後の僅か数か月で、第8交響曲は完成されました。この曲はベートーヴェン自身が「小交響曲」と呼んだように、規模の小さなロココ調の優美さを持った作品です。けれども、それまでに幾つもの大交響曲を作り上げてきたベートーヴェンですから、小さな規模の中に力強さや情熱がはみ出るほどにたっぷり盛り込まれています。全4楽章ともおよそ無駄に思われる部分が無く、一度聴き始めると一気に聴き通してしまいます。「苦悩を突き抜けた歓喜(勝利)」を想わせる第3、第5、第9とは異なって、極めて明るい雰囲気に包まれた名作として個人的にはとても好きな曲です。

051101_210 ところで、この曲は随分前に演奏したことが有ります。学生時代に都内の某大学オケにヴィオラのエキストラ参加したときです。指揮者は炎のコバケン(小林研一郎氏)でした。と言っても、コバケンの棒で弾いたのはゲネプロの一度だけです。結局本番の出演を取り止めてしまい、代わりに弟子のT氏が指揮したからです。これには非常にがっかりしました。とはいえゲネプロの時のコバケンには心底圧倒されました。あの人が指揮台に登っただけで頭の上にオーラ(炎?)が見えるんですね。お世辞にも上手いとは言えないアマチュア・オーケストラが、まるで魔法にかけられたように緊張感のある良い音を出してしまうのです。カリスマ性とは、ああいうものかなぁってつくづく思い知らされました。今では懐かしい青春時代の良い想い出です。

それでは僕の愛聴盤ですが、この曲に関してはフルトヴェングラーの特別扱いは止めます。まずはモノラル録音からです。

Toscanini_beethoven_3_4 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1952年録音/RCA盤) カーネギーホールでの録音です。トスカニーニの筋肉質の男性的な演奏は「英雄」や「運命」では非常な魅力なのですが、この曲の場合は典雅さや優美さの不足がかなり不満に感じます。残響の少ない録音もデメリットです。ところがそれでも結局のところは、速いテンポの明快で生命力溢れる演奏に無理やり引きずり込まれてしまうのが、この人の凄さです。小さい交響曲の凄まじい演奏として忘れることはできません。

1161001303 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) ベルリンでのライブ演奏です。同じ日の7番と同様に録音の鮮度は今一つです。演奏はトスカニーニとはまた違う意味で優美さから遠く、1楽章の短調に転調して展開する部分などは壮絶極まりなく、重い運命を背負っているかのようです。2、3楽章のテンポは遅く、聴きごたえが有ります。終楽章もやはり遅めで重量感を感じます。フルトヴェングラーが指揮をすると、この曲は全くスケールの小ささを感じさせません。

857 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1954年録音/オルフェオ盤) 7番と同じ日のザルツブルクでのライブ演奏です。当然前年のベルリン盤との比較になりますが、録音の鮮度はこちらが幾らか上に思います。1楽章は更にテンポが遅く、壮絶さは後退しています。またウイーン・フィルなので音そのものに典雅さを感じます。2、3楽章ではその魅力が更に強く感じられます。全体を通してベルリン盤よりも迫力は感じませんが、逆にこの曲の本来の姿に近い演奏であるような気がします。

Schu_bet_758カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。全体に速めのテンポできりりと引き締まった演奏です。細部の音へのこだわりは相変わらずシューリヒトです。よく歌いますが、ウイーン風の柔らかな甘さは感じません。スタイルはドイツ風なのですが、パリ音楽院管の明るい音が中和させます。特に耳を奪われるのが終楽章で、弦やティンパニの切れが有り激しい音のアタックは壮絶ですらあります。

ここからはステレオ録音になります。

123039253647216211547 ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響(1958年録音/CBS盤) 1楽章は案外速めです。但しオケの性能のせいか、練習が足りないのか、音の結晶度不足を感じます。2楽章はテンポは中庸ですが、この曲のこぼれるような美感に欠ける気がします。3楽章はかなり遅いテンポでよく歌います。けれども、どうもオケの質感に満足できません。終楽章は遅いテンポで重さを感じます。この楽章にしては少々重すぎて、もたれるんじゃないかと思ってしまいます。

Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められている演奏です。これこそは「ドイツ風」としか言いようのない演奏です。1楽章は幾らか遅めのテンポで堂々としています。2楽章と3楽章は意外に速めですが、非常にかっちりとしていて聴きごたえが有ります。終楽章はじっくりとしたテンポで「熱狂」からは遠いのですが、じわりじわりと高揚してゆくのですが、面白みに欠ける気もします。何度も言い尽くしましたが、ゲヴァントハウス管の厚い響きはやはり素晴らしいです。

Monteux_eroicaピエール・モントゥー指揮ウイーン・フィル(1960年録音/DECCA盤) 昔から定評のあるSイッセルシュテット盤はウイーン・フィルの魅力溢れる名盤ですが、モントゥー盤では更に古き良きウイーンの味わいを聴くことが出来ます。何と言っても、当時のウイーン・フィルの室内楽的な演奏が魅力です。あたかもコンツェルトハウス四重奏団がシンフォニーを演奏してくれているようです。弦も木管も柔かく鄙びた音色が本当に素敵です。誰かがモントゥーはウイーン・フィルとは相性が悪かったようなことを書いていましたが、とんでもない話です。

4107090040 パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1963年録音/CBS盤) これもマールボロ音楽祭でのライブ演奏です。7番よりも6年前ですので録音は劣ります。それにしても86歳のカザルスの指揮と言ったらどうでしょう。1楽章から誰よりも速いテンポで情熱が爆発しています。この人の魂は少しも老いたりしないのですね。2、3楽章も速めのテンポですが、表情が実に豊かで生き生きしています。終楽章は速さは普通ですが、音の激しさに圧倒されます。臨時編成オケの音は少しも洗練されていませんが、これこそは魂の音楽家カザルスの真骨頂です。

905 ヨゼフ・カイルベルト指揮バイエルン放送響(1967年録音/オルフェオ盤) カぺル・マイスター、カイルベルトの7番と同じ日のミュンヘンライブです。例によって純ドイツスタイルでイン・テンポで武骨に進めます。構えが実に堂々としています。2楽章はオーソドックス、3楽章は風格を感じます。終楽章もテンポは落ち着いていますが、じわりじわりと迫力を増してゆくのが素晴らしいです。バイエルン放送の音は硬過ぎず明る過ぎず、しっとりと大変心地よいものです。

Beethoven5_hshumit ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮ウイーン・フィル(1968年録音/DECCA盤) Sイッセルシュテットのウイーン・フィルとの全集のなかの白眉であり、昔から定評のある演奏です。何しろ1960年代当時のウイーン・フィルの柔らかい弦と潤いのある木管の音に魅了されます。イッセルシュテットのテンポは速過ぎも遅過ぎもせず極めて自然で、音楽の流れがとても良いです。この曲の典雅さと生命力とを実にバランス良く両立させているのが何とも素晴らしいです。DECCAの録音も優秀ですし、何度でも繰り返して聴きたくなる演奏です。

51pbpkptral__ss500_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) グラモフォンへの全集盤の中に収められています。イッセルシュテット盤との比較では、ベームのほうが一言で「立派」な印象が強いです。1楽章は提示部はゆったりとしていますが、展開部へ入ると徐々に感興が高まってゆき響きも厚くなります。2楽章では真面目過ぎてやや面白みに欠ける気がします。終楽章では1楽章と同様に少しも慌てないのにイッセルシュテット以上に感興の高まりを感じます。ベームとウイーン・フィルの底力でしょう。

0184442bcヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1978年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収められています。毎回同じことを繰り返して気が引けますが、SKドレスデンのいぶし銀の響きが最高です。ルカ教会での録音は残響が多く柔らかいのですが、皮張りのティンパニの音などはパリッとしていて快感です。ブロムシュテットのテンポは中庸で落ち着いていますが、活力を失うことが無いので中々に良いと思います。

Abbdo_beethven6_8 クラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル(1986年録音/グラモフォン盤) 記憶ではアバドのデビュー盤はDECCAへのウイーン・フィルとのベト7、8でした。ですのでこれは再録音ということになります。ウイーン・フィルの音はもちろん美しいですし、テンポも適性なので悪いはずは有りません。にもかかわらず、何か面白く感じないのです。悪戯もしない、冗談も言わない優等生みたいです。それが終楽章では突然速いテンポで活力を漲らせますが、なんだかとってつけたようで入り込めません。

というわけで、今回はモノラルからステレオまでまとめて聴きましたが、僕が特に好きなのはやはりSイッセルシュテット/ウイーン・フィル盤です。同じウイーン・フィルのモントゥー盤とベーム盤や、カイルベルト/バイエルン放送盤もとても好きです。破格の演奏としては、カザルス/マールボロ盤が忘れられませんし、シューリヒト/パリ音楽院盤も同様です。

次回ですが、第9については既に2年続けて年末に記事にしていますので、今年もまた年末に未記事のディスクについて触れようかと思っています。そこで第2交響曲に戻ろうかと思います。

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2010年10月28日 (木)

ベートーヴェン 交響曲第7番イ長調op.92 名盤(ステレオ録音編)

それでは、ベト7のモノラル録音編に続いてステレオ録音の愛聴盤を聴いてゆくことにします。

Beethoven_cluytensアンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィル(1957年録音/EMI盤) 全集盤に収められている演奏です。ドイツものを得意とするクリュイタンスですが、この7番の演奏は余り感心しません。テンポが遅めなのは良いとしても、フォルテに音の芯が無い印象ですし、緊張感にも欠けています。音色感に乏しいEMIの録音(マスタリング)も更に印象を悪くしています。まだベルリン・フィルがドイツ的な音を持っていた時代の録音なのに、これでは失望させられます。

3198080736ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響(1958年録音/CBS盤) ワルター晩年のユニークなベト7です。第1楽章はゆったりと落ち着いています。独自の味わいが有ります。第2楽章も非常に遅いのですが、悲壮感を全く感じさせません。こんな表現が出来るのはワルターのみです。第3楽章は迫力は不足していますが、逆に優雅さを感じるほどです。第4楽章は晩年のワルターにしては随分と躍動感を感じます。後半の追い込む迫力も中々です。オケの音に厚みは有りませんが、優雅で美しい演奏として他の指揮者とは全く異なる個性で存在感を感じます。

41gh0rfq9cl ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウイーン・フィル(1959年録音/DECCA盤) カラヤンは3年後にもベルリン・フィルと録音を行いますが、それは過剰なレガートと粘るリズムに違和感が感じられて好みませんでした。その点、このウイーン・フィルとの演奏は遥かにオーソドックスで素晴らしいです。テンポは速過ぎず遅過ぎず堂々としていますし、後年に感じられるカラヤン一流の演出臭さがまだ見られません。同じウイーン・フィルでも後述のCクライバー盤よりもずっと良いと思います。

Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められている演奏ですが、ゲヴァントハウス管の古色蒼然とした音が本当に魅力的です。第1楽章は幾らか遅めのテンポで実に堂々としています。重量級ですがもたれることは有りません。但し提示部を繰り返すのは余分です。2楽章はすっきりとしていてことさらに悲劇性を強調しません。3楽章と数楽章は立派です。終楽章など意外にテンポは速いのですが、安定感が有ります。その反面、余り熱狂的にはなりません。

Furicsay938 フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン・フィル(1960年録音/グラモフォン盤) 特筆すべきは当時のベルリン・フィルの暗く分厚い響きで、この演奏が素晴らしいのはこの響きが有ればこそです。1楽章は遅いテンポでスケールが大きく、念を押すようなタメが効果的です。2楽章もやはり遅めで悲哀の大きさはフルトヴェングラーのようです。3楽章も遅く重量感です。中間部のホルンの立派さには惚れ惚れします。終楽章は幾らかテンポが速まりますが、堂々として豪快に鳴り切るベルリン・フィルの重い音が最高です。

905 ヨゼフ・カイルベルト指揮バイエルン放送響(1967年録音/オルフェオ盤) 「ミスター・ドイツ」と呼べそうなこの人はオペラは別として、ドイツもの以外の曲をおよそ聴いたことがありません。「ベト7」にはベルリン・フィルとのスタジオ盤もありましたが、これはミュンヘンでのライブ演奏です。演奏はいかにもドイツ的。イン・テンポで武骨に進めます。テンポが特別に遅いことはありませんが、実に堂々としています。終楽章では実演ならではの高揚を感じます。バイエルン放送響の渋過ぎない音色も中々悪くありません。

Hans_schumit_beeth7 ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1960代後半/GreenHill盤) イッセルシュテットはウイーン・フィルともDECCAに正規録音を残していますが、これは海賊盤です。とはいえ優れたステレオ録音ですので鑑賞に何の支障も有りません。それどころか北ドイツ放送の暗く厚い音がこの曲にとても適しています。腰の据わったテンポで重量感のある指揮も素晴らしいです。そのくせ完全なイン・テンポではなく1楽章の終結部でぐっと重みを増すところなど実に惹かれます。2楽章も非常に美しいですし、3楽章以降の充実度も素晴らしいです。

4107090040 パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1969年録音/CBS盤) マールボロ音楽祭管というのはアメリカの音楽祭の為の臨時編成ですが、この時のメンバーにはヴァイオリンには後にイムジチのコンマスになるピーナ・カルミレッリや潮田益子、チェロには元ブッシュSQのヘルマン・ブッシュなどの凄いメンバーが参加しています。カザルスはこの時既に92歳ですが、魂の演奏家だけあって非常に力強く感動的な演奏をしています。およそ「洗練」というには程遠いサウンドなのですが、最近の機能的なオケの音に慣れ親しんだ方にこそ是非聴いて貰いたい演奏であり音楽です。

51pbpkptral__ss500_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) グラモフォンへの全集盤のスタジオ録音です。何といっても音楽そのものを心から味あわせてくれますし、演奏の安定感が抜群です。ドイツ音楽をこれほど品格を感じさせて安心して聴かせる指揮者は居ないと思います。つくづく偉大な指揮者だったと思います。但しベームが真に燃え上がるのは実演で、スタジオ録音も決して悪くありませんが、後半の3、4楽章では少々迫力不足を感じます。

649 カール・ベーム指揮バイエルン放送響(1973年録音/audite盤) グラモフォン盤の翌年にミュンヘンで行われたライブ演奏です。1楽章導入部は慎重に始まりますが、提示部に入ってから徐々に感興が高まって行きます。60年代の実演のような鬼神とまではいきませんが、スタジオ録音と比べるとやはり燃え方が違います。特にグラモフォン盤で弱いと感じた3、4楽章が別人のように躍動感と迫力を増しています。録音もバランスが良く優れています。

0184442bcヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1975年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収められています。この全集の最大の魅力は、SKドレスデンのいぶし銀の響きを聴けるということですが、もちろん曲による凸凹が無いわけではありません。この7番は特に出来の良い演奏だと思います。1~3楽章は遅めのテンポで落ち着いていますが、もたれることはありません。終楽章では幾らかテンポが速まりますが、少しも前にのめらないで全ての音符を完全に弾き切っているのが圧巻です。ホルンやティンパニの音には本当に惚れ惚れとします。

51chtd6fxsl__sl500_aa300_ カルロス・クライバー指揮ウイーン・フィル(1976年録音/グラモフォン盤) その名を世界に轟かした第5の演奏の翌年の録音です。「舞踏の聖化」とも言われるこの曲のリズムを強調した、正に踊っているような演奏です。指揮者が腰を振り振りしているような姿が目に浮かんできます。良く言えばリズミカル、悪く言えば腰が軽いということですが、こうなると聴き手の好み次第でしょうね。僕自身は第5ほどには魅力を感じないので余り好みません。特に2楽章のあっさりとした演奏には拍子抜けします。

Ten_betho7 クラウス・テンシュテット指揮北ドイツ放送響(1980年録音/EMI盤) ハンブルグでのライブ録音です。テンシュテット/北ドイツ放送というとどうしても驚異的な「復活」の名演を思い出しますが、この「ベト7」も遅いテンポでスケールが巨大です。フリッチャイに似ていると言えるでしょうが、テンポが必ずしも厳格では無く浮遊感が有るのと、部分部分でホルンやティンパニが強奏されたりするのは、むしろクナッパーツブッシュのスタイルに似ています。但し終楽章はテンポが随分と速く他の楽章とアンバランスに感じます。

以上のステレオ録音盤の中で僕が特に好きなのは、フリッチャイ/ベルリン・フィル盤ですが、他にも外せないのは、カラヤン/ウイーン・フィル盤、カザルス/マールボロ音楽祭管盤、ブロムシュテット/シュターツカペレ・ドレスデン盤、それに海賊盤ながらイッセルシュテット/北ドイツ放送響盤です。

次回は第8番、通称「ベト8」です。モノラル/ステレオ盤をまとめて聴こうと思っています。

<補足>
カラヤン/ウイーン・フィル盤、クリュイタンス/ベルリン・フィル盤を追記しました。

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2010年10月21日 (木)

ベートーヴェン 交響曲第7番イ長調op.92 名盤(モノラル録音編)

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ベートーヴェンの交響曲作品の中で、昔から一般に広く知られているのは、やはり副題の付いた「英雄」「運命」「田園」「合唱」です。けれどもクラシックファンの間では副題無しの第7番も、昔からとても人気が有りました。それはひとえに曲そのものの魅力からです。また、アマチュア・オーケストラに在籍する者にとっては、この曲は「ベト7」として必ず一度は演奏をしたくなる人気曲です。そんなこの曲が、一般にも広く知られてブームを巻き起こしたのは、言わずと知れた「のだめカンタービレ」の主題曲に使用されてからです。このTV番組と映画がきっかけでクラシックファンそのものの裾野が広がったことも事実ですし、これは大いに歓迎すべきです。

この曲を高く評価したのはリヒャルト・ワグナーで、曲全体が非常にリズムが強調されているので「舞踏の聖化」と呼びました。また、この曲は「バッカスの饗宴」と呼ばれることもあります。バッカスというのはローマ神話の酒の神様ですが(上の絵で金色の車に乗っている人です)、要するにこの曲が酒宴での乱地気騒ぎに例えられたのです。どうですか、あなたの大学や職場にもミスター・バッカスが一人や二人はいるんじゃないですか?

この曲の初演の際にはベートーヴェン自身の指揮で第1ヴァイオリン18人の大編成で演奏されたので、さぞかし迫力があったことでしょう。ですので同業者からは「ベートーヴェンは頭が狂った」などと言われたりもしたそうです。実際に、この曲の第1、3、4楽章は激しくリズムが刻まれていて実に興奮させられます。第2楽章のみが緩やかなアレグレットで悲哀の旋律が美しく奏されて、見事な対比となっています。

それでは、モノラル盤の愛聴盤を聴いてゆきますが、もちろんフルトヴェングラーが中心です。

803 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1943年録音/オーパス蔵盤) 第二次大戦中のベルリンでのライブ演奏ですので、当然音は良くありません。けれども元々ドラマティックなフルトヴェングラーの中でも特に壮絶な演奏です。1楽章の鬼気迫るような雰囲気、2楽章の重い運命を背負ったような悲劇性も素晴らしいですが、終楽章の鳥肌が立つような切迫感には怖れさえ感じさせられます。ここには「健康的な」興奮とは全く異なる世界が存在しています。現代との時代の違いは無視出来ないでしょうが、どうか違いを比べてみて下さい。元々古い録音で一部音の揺れはありますが、オーパス蔵のメロディアLPからの復刻盤は中々しっかりした音です。他ではメロディア盤のCDが手堅いと思います。

Betho5_furemi ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1950年録音/EMI盤) 晩年のEMIへのスタジオ録音は皆音質は良好なのですが、この’50年の7番だけは録音が余り良くありません。海外References旧盤は高音が比較的刺激的で無く低域が厚いので聴きやすいですが、それでも他のEMI録音よりも大分劣ります。演奏はスタジオ録音なので、それほど熱狂的では有りませんが、それでも終楽章などはまるでライブのような迫力をも感じさせます。僕自身はウイーン・フィルの持つしなやかさは好きで、2楽章の演奏はこれが一番好きかもしれません。

1161001303 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) ベルリンでのライブ演奏です。録音は分離も鮮度も今一つですが’50EMI盤より幾らか良く感じます。演奏は1、3楽章はベルリン・フィルの重圧な音と迫力が素晴らしく、EMI盤以上に惹かれます。2楽章は逆にウイーン・フィルのしなやかな美しさを取りたいと思います。終楽章は即興的な感が有り、音の間を幾らか大きくとっています。テンポも前半ではじっくりと進みますが、後半から徐々に加速してゆき、フィナーレには荒々しく突入します。

857 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1954年録音/オルフェオ盤) 最晩年夏のザルツブルクでのライブ演奏です。1楽章は遅めで大きさと広がりがある分、かつての切迫感は薄れました。2楽章は逆に幾らか速めですが、ウイーン・フィルのしなやかさはやはり魅力です。弦も非常に美しいです。終楽章は遅めで躍動感には欠けますが、それでも後半の気力などは、とても3か月後にこの世を去る人の演奏とは思えません。録音は’50年、’53年盤よりは各楽器の分離の良さと音の鮮度を感じます。

Toscanini_beethoven_3_4 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1951年録音/RCA盤) カーネギーホールでの放送用録音です。トスカニーニの演奏はとにかく力強く明快です。1楽章アレグロ部の躍動感は正に「舞踏の聖化」というイメージです。一つ一つの音の持つエネルギーが半端でありません。2楽章も沈滞することなく力強くリズムを刻みます。3楽章も当然ながら同様で、中間部も実に明るく強靭です。終楽章も情熱的で明るいです。この演奏に「フルトヴェングラーのような陰りの部分が欲しい」などと言うのは野暮というものです。

Mahcci00006 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/Tresor盤) ウイーン・フィルがアメリカに演奏旅行したときに国連会議場で行った記念コンサートです。会場の残響は少ないですし、音質には不満を感じます。我々にとってはシューリヒトとウイーン・フィルのライブを聴けるだけでも嬉しいのですが、演奏は手堅いものの特別な凄みは有りません。終楽章などはかなりの熱演なのですが、会場の音響がマイナスしているのかもしれません。僕は現在はTresor盤で持っていますが、初出のarchiphon盤と音質に差は有りません。

Schu_bet_758 カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。当然、ウイーン・フィル盤よりも録音条件は格段に良いです。モノラル録音なのに立体感を感じるほどです。案外じっくりとしたイン・テンポで進みますが、良く聴くと楽譜の読みが非常に細かく徹底していることに気づきます。例えば終楽章終結部で各弦楽パートが掛け合う部分などは、スラーを外して弾かせているので驚くほど歯切れの良さが出ています。シューリヒトの個性的なこだわりを表現するには、むしろドイツ音楽に伝統を持たないオケのほうが良いのかもしれません。録音、演奏ともにウイーン・フィル盤よりもずっと好みます。

以上から、7番に関してはフルトヴェングラーのフェイヴァリット盤がどうしても絞れません。’43年盤は迫力が有るが音質が悪い。’50年盤は演奏のバランスは良いですが音質が今一つ。’53年盤は音の厚みは良いですが2楽章がベストではない。’54年盤は音質は良いですが迫力不足。ということで4種類を聴き分けるよりありません。フルトヴェングラー以外では、シューリヒト/パリ音楽院盤に惹かれます。他にはエーリッヒ・クライバーがウイーン・フィルを振った演奏をLP盤時代に愛聴しましたが、現在CDは持っていません。

それでは、次回はステレオ録音盤を聴くことにします。

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2008年12月30日 (火)

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調op.125 「合唱」 名盤

Beethovenベートーヴェンの『第九』が古今のクラシック作品の中でも、最も偉大な作品の一つであることは疑いのない事実ですので、今更この曲について細かいことを述べるつもりは有りません。

しかし、年末に第九を聴こうという習慣も、聞けば日本だけのことでは無く、ヨーロッパなどでも段々と増えているそうですね。日本から逆輸入の文化として、すっかり定着するのかもしれません。

それにしても、日本では12月になると音楽会は「第九」一色です。とりわけ東京では著しく、在京オーケストラはどこも揃って数回づつコンサートを開きますから、プロ・オケだけでも全部で40回前後。アマ・オケも同じように演奏しますから、第九の演奏会数は50~60回以上になるのではないでしょうか。第九だけはチケットも良く売れますので、おそらく東京エリアだけでも延べ10万人くらいの人が第九を聴きに行く計算です。

確かにこの曲は、荒波にもまれた一年に禊(みそぎ)を行う気分で聴いて、新しい年を迎えるにはとてもふさわしい音楽だと思います。「苦悩を突き抜けて歓喜へ」とは未曾有の景気悪化まっただ中の今年の年末には特にぴったりでしょう。

第九のコンサートを聴きに行くのも良し、自宅でCDを聴いて第九三昧するのもまた良しです。

それでは第九のCDの愛聴盤、お薦め盤をご紹介することにしますが、たとえどんなに録音が古くなろうとも、ドイツの大巨匠ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの演奏を避けて通ることは絶対に出来ません。そこでフルトヴェングラーとそれ以外の演奏で其々まとめてみることにします。

―フルトヴェングラーの演奏―

Cci00054 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1942年録音)(写真はターラのフルヴェン戦時中録音集) ファンには有名な戦時中の演奏です。僕が高校生の頃にカラヤンの次に買ったLP盤がこの演奏でした。その二つの演奏の余りの違いに愕然としました。すっきりスタイリッシュなカラヤンと壮絶極まりないフルトヴェングラー。どちらに感動したかは言うまでもありません。感受性豊かな若い頃にこの演奏に出会ったことが自分がクラシック音楽にのめり込む大きなきっかけになったと思います。さすがに今では滅多に聴くことは無いですが、クラシックファンならば一度は聴いておくべきだと思います。少々大げさに言えば人生観さえ変わるほどの凄さだからです。

Cci00058 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団(1951年録音/EM原盤I:Grand Slam盤) 最も有名な戦後バイロイト再開の年の記念演奏会の録音です。戦時中演奏のあれほどの壮絶さは無いですが、限りなくスケール壮大な演奏です。というよりも、単なる「壮大さ」などとひと言では表現できない正に「宇宙的なまでの広がり」を持った演奏なのです。本家EMIの海外References盤の音も悪くは無かったですが、平林直哉さんのGrand Slamレーベルによる初期LPからの復刻盤が非常に音が良いのでお薦めです。MYTHOSの復刻盤よりも良いような気もします。これまでは団子状態に聞こえていた弦楽の細かい刻みまでが充分に聞き取れますので感動も新たです。これはファンには是非のお薦めです。余談ですが、朝日カルチャー講座の後に一度お話の出来た平林さんはいかにも誠実そうな印象でした。氏の仕事ぶりも全く同じ印象です。

Fb9 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団(1951年録音/オルフェオ盤) 上記の1951年バイロイトと同じ日の放送局正規録音ということで、オルフェオからCDがリリースされましたが、聴いてみるとこれは全く同じ演奏ではありません。ということは、これまでのEMI盤には実は編集部分が有ったのだと推測されます。けれどもオルフェオ盤は残念ながらEMIリファレンス盤と比べても音質は落ちますし、Grand Slam盤と比べればそれ以上に落ちるのでEMI盤以上の存在意義は感じません。あくまでも”記録”として聴いています。

520ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1952年録音/ターラ盤) フルトヴェングラーのウイーン・フィルとの第九の録音は幾つか有りますが、最もドラマティクな演奏としては、この’52年のニコライ記念演奏会が挙げられます。1楽章の遅さと音のタメは驚くほどです。但し、それが逆に音楽の流れを悪くさせているようにも思います。ですので、個人的には流れと勢いのある’53年のほうを好みます。また独唱陣の出来も余り良いとは言えません。録音としても’53年のほうが優れています。

Cci00054bィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1953年録音/独グラモフォン盤) ウイーン・フィルとの第九の録音の中で演奏・録音のバランスが一番取れているのが’53年のニコライ記念演奏会で、これは「ウイーンフィル150周年記念盤」として発売されました。’52年ほどのドラマティックさは有りませんが、非常に流れの良さを感じます。録音も良いので、べルリン・フィル盤でもバイロイト盤でも聴けない、ウイーン・フィルの持つ弦の柔らかな味わい、美しさを味わうことが出来ます。

Lucerne_beethoven_9ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管(1954年年録音/audite盤) 大学生の頃ですが、フルトヴェングラーが亡くなる直前のルツェルン音楽祭の第九がバイロイトよりも凄いという評判を聞いて、どうしても聴きたくなりプライヴェートLP盤を購入しました。学生の身には随分と高価でしたが、実際に聴いてみてその噂通りの素晴らしさに本当に驚きました。但し音はかなり悪かったです。それが時を経て、いまから10年近く前にターラからオリジナルテープからの復刻CDが出た時には、その余りに明瞭な音に驚愕したものです。演奏の真価がようやく明らかになり、その時には本当にバイロイト盤よりも上だと思いました。現在では様々なレーベルから復刻されていますが、無難な選択では放送局のオリジナルマスターテープを使用したaudite盤です。柔らかさと広がりを感じます。OTAKEN盤も硬さが有りますが非常に明瞭です。また聴いてはいませんが最近Grand Slamからオープンリールテープからのマスタリング盤も出ました。このあたりはどれを選んでも失敗は無いと思います。

以上、フルトヴェングラーの6種類の演奏があれば、正直「第九」はもう充分と思わないでもありません。事実、これまで他のどの「第九」の演奏を聴いても、フルトヴェングラーの良くて半分位の感動しか得られなかったからです。決して「感動」だけが鑑賞の尺度では無いとは思いますが、感動の無い第九などは聴きたくも無いですし、録音状態の良し悪し以外でフルトヴェングラーの彫りの深い表現を超えるものには未だに出会ったことがありません。とは言え、他の演奏を何も聴かないのもどうかと思いますので、自分の好みでCDを幾つか挙げてみたいと思います。

―フルトヴェングラー以外の演奏―

Cci00055b カール・ベーム指揮ウイーン交響楽団(1957年録音/フィリップス盤) 後年のグラモフォン盤の2種の録音ではなく、まだまだベームが壮年期で若い時代の演奏です。モノラル末期の録音なので音質も明快です。’70年代のグラモフォン盤と比べると、テンポもずっと早めで、ぐいぐいと畳み掛けるような勢いと生命力があります。円熟したグラモフォン盤よりもこちらのほうが好きだと言われる方も多いと思います。ただし自分自身はグラモフォン盤の余裕とスケールの大きさ、それにウイーン・フィルの音色の美しさを好みます。

240 ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) ワルターもフルトヴェングラーの第九と比較されて随分と割を食ったと思います。ところが、現在改めて聴き直してみると、これほどまでに指揮者の意図が伝わって形になっている演奏は極めて稀だということが分かります。第3楽章や、終楽章の歓喜の歌が弦楽で静かに歌われる部分の美しさは、ちょっと他には有りません。ワルターのベートーヴェンで素晴らしいのは、何も「田園」だけでは有りません。

Cci00055 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチッヒ・ゲバントハウス管(1959年録音/edel盤) コンヴィチュニーのベートーヴェンは学生の頃に廉価盤のLPで良く聴きました。安っぽくひどいデザインのジャケットでしたが演奏はどれも一級品でした。曲によっては一番好んだ演奏も有ったほどです。CD化されたこの全集も第一に選びたいほどです。第九も実に素朴な味わいであり、よく言われるようにまるで古武士の如き質実剛健な響きがなんとも魅力的です。合唱団、歌手陣も共にバランスがとても良いです。

Cci00059 ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1970年録音/ターラ盤) このCDはステレオ盤の方です(別のモノラル盤も有ります)。多少のざらつき感は有りますが奥行きの有る良好な録音なのが嬉しいです。どうもこの人はスタジオ録音の場合の柔和なイメージが強く、かなり誤解されているようです。ライブでも虚飾の無い実直なスタイルに変わりはないですが、力強さがまるで違うのです。この演奏も3楽章だけはあっさりしていますが、その他の楽章は非常に彫りが深く、剛健な北ドイツ放送響の音を充分に楽しめます。DECCA録音のあの穏やかなウイーン・フィル盤とは次元の異なる貴重なCDです。

41f7t1kscml__sl500_aa300_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) 30年以上も前の学生時代に聴いた時には、フルトヴェングラーに比べて随分生ぬるいと感じてしまい余り気に入りませんでしたが、現在改めて聴いてみると、やはり演奏の素晴らしさに感銘を受けます。何と言ってもウイーン・フィルの響きが美しいですし、音の緊張感にも決して欠けたりしません。テンポは幾分ゆったり気味ですが、実に堂々として立派であり、安心して身を任せられます。やはりベームは本当に偉大な指揮者でした。そのベームの第九の代表盤だ思います。

Beethoven_9__sl500_ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ドレスデン国立歌劇場管(1979/80年録音/キング盤) 録音された1970年代はSKドレスデンが多くの名人奏者を抱えていた時代で、ドイツ音楽ではウイーン・フィル以上に魅力的な音を響かせていました。ブロムシュテットは元々強い個性を感じる人ではありませんが、ここでは極上のオーケストラがまるで自然に鳴っている印象です。特別に深刻なドラマは有りませんが堅牢な造形を持つ素晴らしい演奏です。合唱団もソリスト陣も充実していますし、この楽団のいぶし銀の音のファンにとってはかけがえの無い演奏です。

287 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1982年録音/オルフェオ盤) クーベリックも実演になると相当に人の変わる指揮者でした。スタジオ録音でも大抵バランス良くまとめてはいましたが、ライブの激しさを知るファンにとってはどうも物足りなさを感じることが多かったです。「第九」にもベルリンPOとのDG録音が有り、とてもよい演奏でした。ですが、やはり手兵のバイエルン放送とのライブ盤で聴きたいと思います。これは非常に素晴らしい演奏です。第1楽章の気迫、ドラマはフルトヴェングラーに中々迫りますし、第3楽章、第4楽章の弦のしなやかな美しさは非常に魅力的です。録音は優秀ですし、合唱もとても良く録れていて非常にスケールが大きいです。

Cci00057 カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ベルリン・フィル(1989年録音/グラモフォン盤) ジュリーニは不思議な指揮者で昔からイタリア的でもドイツ的でもない。何を振ってもジュリーニ的なのです。ベルリンPOも既にインターナショナルオケ化した後なのでこの演奏は決してドイツ的な音ではありません。第1楽章は遅めのテンポですが暗さは無く、およそ「苦悩」という雰囲気は生まれてきません。第3楽章も流麗で美しいですが神秘的ではありません。終楽章の合唱は力みの無いあっさりしたものです。後半になると少しも熱くならずにスケール大きく包み込むという、いかにもジュリーニ的な演奏です。

こうして並べてみると、ほとんど重量級の演奏が並んでしまいました。僕の好みははっきりしています。ドイツ的で重厚かつ激しい演奏が好きなのです。重厚なだけでも激しいだけでも駄目なのです。そうなると演奏は案外絞られます。フルトヴェングラーの中ではバイロイト盤とルツェルン盤が双璧。ウイーン・フィルとの録音では’53年盤をとります。

フルトヴェングラー以外では、1にイッセルシュテット/北ドイツ放送響、2にクーベリック/バイエルン放送響、それに捨てがたいのが、ベーム/ウイーン・フィルとワルター/コロムビア響というところです。

それでは皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。

<補足>
フルトヴェングラーのルツェルン盤を書き換えました。
後からブロムシュテット盤を追加しました。

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ベートーヴェン 交響曲第9番 ~懐かしの指揮者で(スイトナー、ノイマン)~

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