ベートーヴェン(交響曲第7番~9番)

2021年12月25日 (土)

ベートーヴェン 交響曲第9番 マタチッチ/チェコ・フィル盤 ~チェコ語による第九~

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毎年12月になると各地で第九が演奏されます。クラシックのコアなファンの中からは「年末の第九なんてのは日本だけの話だ。やめた方が良い。」などと批判的な声も聞かれます。けれども「のだめカンタービレ」「ピアノの森」を観た、それまでクラシックにそれほど興味の無かった人がクラシックファンに成るように、「年末の第九を一度は聴いてみようかな」と考えた人が、そのうち何人かでもクラシックのファンに成れば、それは素晴らしいことです。大いに結構ではありませんか。

さて、昨年の12月にはカール・ベームの第九のバイロイト・ライブを取り上げましたが、今年はとても珍しいチェコ語で歌われた第九の演奏です。これは、かつて日本でもNHK交響楽団に客演して数々の伝説の演奏を残した名指揮者ロブロ・フォン・マタチッチが1980年にチェコの「プラハの春音楽祭」のフィナーレで行った演奏会のライブです。

マタチッチ/N響の実演は残念なことに、ワーグナーの楽劇からの抜粋コンサートを一度聴いただけですが、幸いにNHKホールでも1階の真ん中で聴けたことから、それは素晴らしい響きが鳴っていました。あのホールのN響の演奏で、あれ以上凄い音は聴いたことが有りません。

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このプラハでの第九はチェコ・フィルハーモニー管弦楽団、プラハ・フィルハーモニー合唱団、ベニャチコヴァー(S)、ソウクポヴァー(Al)、プシビル(T)、プルーシャ(Br)という、オール・チェコの演奏家により演奏されています。CDはフランスのハルモニア・ムンディからリリースされていますが、制作はチェコのPRAGAのようです。

第1楽章は割と速めのテンポで進みます。マタチッチはあの顔の割には(笑)概してテンポは遅くありません。たとえ得意のブルックナーでもです。しかし何の曲を指揮しても、演奏の男っぽさ、豪快さは、あの顔通りです(再笑)。思わせぶりなルバートや音のタメ、パウゼなどはほとんど無く颯爽と進みますが、その音楽から噴き出してくる生命力、熱量の大きさは尋常ではありません。

第2楽章は比較的速いテンポですが、リズムにはキレの良さが有りますが、随所にマタチッチらしい豪快さも感じられます。

第3楽章も、この楽章にしては速いですが、神々しい雰囲気が堪りません。何という深い味わいなのでしょう。

第4楽章は冒頭から気迫に溢れますが、歓喜の歌をトランペットが高らかに吹くところは華やかですが、やや耳障りです。そして、この演奏の最大の聴きものは、チェコ語で歌われる歓喜の歌ですが、初めて聴くとやはり違和感が有ります。ところが、二度、三度と聴いてみると不思議と慣れてしまいます。何しろマタチッチとチェコ・フィルという名コンビの第九が聴けるのですし、これはこれで良しとしましょう。

録音に関しては、原音は分かりませんが、チェコのデジタルリマスターはスプラフォンにも共通していますが、高音域が強調される傾向が有ります。このCDも例外では有りません。本物のチェコ・フィルの音はこんなにキンキンと明るくはありません。全体は明瞭で優れた音ですが、それだけがマイナスです。

ということで、今年を締めくくりたいと思います。皆様、この一年大変お世話になりました。
どうか良いお年をお迎えください!

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2020年12月15日 (火)

もう一つの「バイロイトの第九」 カール・ベーム 1963年ライブ

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ドイツの有名なバイロイト音楽祭は、リヒャルト・ワーグナーが自分の作品のみを上演する目的で建てた祝祭劇場で毎年夏に開催される音楽祭です。けれどもベートーヴェンの第九だけは、開幕記念演奏会のときにワーグナーが自分で指揮をして演奏されたことから例外的に節目節目に演奏をされて来ました。

オールド・クラシック愛好家にとっては「バイロイトの第九」と言えばまず、第二次大戦で中断したバイロイト音楽祭が戦後に再開した1951年の開幕で行われたフルトヴェングラーの演奏が思い浮かぶことでしょう。フルトヴェングラーは1954年にもバイロイトで演奏をしていますが、メジャーレコード会社のEMIが1951年の録音をレコード化したことから、こちらが圧倒的に良く知られています。その神がかった演奏はどれほどの時を経ても第九の一つのスタンダードと成り得ています。(この録音も含めて第九の様々な演奏家のCDについてはこちらから)

しかし今回取り上げるのは、もう一つのバイロイトの第九で、ワーグナーの生誕150年、没後80年記念となった1963年にカール・ベームが指揮した演奏です。この演奏は過去に幾つか海賊レーベルから出ていましたが、近年になりバイエルン放送局所蔵の音源をオルフェオがCD化しました。モノラル録音ですが広がりや臨場感が有るので聴き易く、年代的にはかなり良好の音質です。リマスタリングされた音が幾らかイコライジング気味な音なのが残念ですが、この手の復刻ではむしろ控え目の方ですし、何より高音域が過度に強調されることもなく、中音域から低音域のしっかりした音に支えられているのが嬉しいです。その為に木管楽器やチェロ、コントラバスの低弦、ティンパニなどの音が非常に明瞭で力強く響きます。

ベームの指揮はもちろんフルトヴェングラーの山あり谷あり波乱万丈型とは違い、基本的にインテンポを守り造形感を強く感じさせます。しかし実演で燃えて鬼神となるベームの本領をかなり発揮していて、そのエネルギー感が半端有りません。後年のグラモフォンの録音では遅いテンポで巨大な広がりの有るスケールを感じさせましたが、それよりも全楽章ともテンポは速めで直線的な迫力を強く感じさせます。爆発する推進力と重厚感がここでは見事に両立しています。

フルトヴェングラーのバイロイト盤と並べても決して遜色のない素晴らしい演奏であり録音であると思います。

グンドゥラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)
グレース・バンブリー(メゾ・ソプラノ)
ジェス・トーマス(テノール)
ジョージ・ロンドン(バス)
カール・ベーム(指揮)
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
録音:1963723
場所:バイロイト祝祭劇場
録音:モノラル(ライヴ)

発売:独オルフェオ

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2017年12月28日 (木)

クリストフ・エッシェンバッハ指揮NHK交響楽団の「第九」演奏会

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今年もいよいよ暮れとなりましたが、そんな昨日27日のこと。今年最後のコンサート鑑賞です。

クリストフ・エッシェンバッハ指揮NHK交響楽団の「第九」をサントリーホールで聴きました。もう10年以上も前に、同じこのサントリーでエッシェンバッハがドイツのシュレスヴィヒ・ホルシュタイン祝祭管弦楽団を指揮したブラームス第4番を聴いてから、”指揮者”としてのこの人が大好きになったのですが、それ以来の実演でした。 

それにしても昨日の「第九」は凄い演奏でした!最近流行の速いテンポによるスマートな演奏とはまるで異なり、要所要所で大胆なアクセントを効かせたり、テンポに一瞬の間を置きながら音を溜めてはガツーンといく非常に聴きごたえのある演奏でした。けれども、そこにはわざとらしさや違和感は皆無。それは恐らくはマエストロの虚飾の無い音楽性から生まれて来る表現意欲に基づいているからではないでしょうか。どことなく昔の大巨匠フルトヴェングラーを連想してしまいます。
第三楽章全体や終楽章の「歓喜の歌」が登場してからしばらくの部分などはテンポも非常にゆったりとしていて、心から慈しむように奏でる弦楽がそれは美しく感動的でした。 
マエストロに率いられたN響は非常な熱演でしたが、東京オペラシンガーズ約100名による合唱がまた美しくかつパワフルで圧巻でした。
N響の第九の実演は東日本大震災の年のチャリティーコンサートをズービン・メータの指揮で聴いて以来ですが、これまで何度も聴いてきた第九の中でも特に強い感銘を受けました。

こういう第九が毎年聴けたら良いのですが、中々そうは参りません。優れた指揮者とオーケストラ、合唱団、音響の良いホールで条件の良い座席、それらが上手く組み合わさらないとお目にはかかれません。そういう意味でも正に今年を締めくくるに相応しい曲と演奏のコンサートでした。

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2014年12月29日 (月)

ベートーヴェン 交響曲第9番 クルト・ザンデルリンク/ベルリン・ドイツ響のライブ盤

今年もいよいよ終わりに近づきましたね。昨日はシェア奥沢での今年最後のクラシック鑑賞会でしたが、歌劇「フィガロの結婚」の全幕をベーム/ウイーン国立歌劇場の日本公演DVDで鑑賞しました。つくづく凄いキャストと演奏だったと今更ながら驚かされます。年の瀬の慌ただしい中をいらして頂いた皆さんも、この演奏には一様に圧倒されていたようです。

さて、今年最後に取り上げるCDは、やはり”この曲”しかありませんね。もちろんベートーヴェンの第九です。何だかんだ言いながら、結局聴き納めには今年も第九を聴いています。

51facl7ssjl__sy300_クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団、
ベルリン放送合唱団、ベルリン国立歌劇場合唱団、ベルリン・コミッシェ・オパー合唱団
エヴァ・マリア・ブントシュー(S)、ウタ・プリエフ(Ms)、ペーター・シュライアー(T)、テオ・アダム(Bs)(1987年録音/Weiblick盤)

今年購入した第九のCDは、クルト・ザンデルリンクが1987年にベルリン・ドイツ響を指揮したライブ録音です。これはベルリン市制750周年を記念した祝賀演奏会の記録です。ですので合唱はベルリン放送合唱団、ベルリン国立歌劇場合唱団、ベルリン・コミッシェオパーの3つの団体からの混成です。独唱歌手も当時の東ドイツの歌手が揃いました。

ザンデルリンクというとブラームスの演奏の印象がとても強く、イン・テンポで堂々とした巨大な造形を構築するように感じています。ですので余りに人間的でドラマティックなベートーヴェンの音楽には今一つ合わない様なイメージを持っていました。ところが、この第九では堂々として立派には違いないのですが、フォルテの音は激しく、アクセントもかなり強調されていますし、テンポに揺れも感じられます。通常のザンデルリンクからは想像が出来ないほど極めてドラマティックな演奏なのです。

第1楽章からエンジンは全開。精神は激しく高揚しています。ティンパニの強打にも驚かされます。その激しさは「フルトヴェングラーのようだ」と言えば少々オーバーになりますが、中々に胸に迫るものが有ります。第2楽章も叩きつけるように激しいアクセントが興奮を呼んでいます。第3楽章では一転して静寂の雰囲気を一杯に漂わせていて非常に美しいです。第4楽章も導入部は冒頭から気合のこもった激しい音で表情豊かに迫ります。主部に入ると主題の歌わせ方の大きさに圧倒される思いです。独唱はバスをテオ・アダムが歌いますが、ここまでのオーケストラに比べると威厳と深さにやや物足りなさを感じます。その点、テノールを歌うペーター・シュライヤーは声、力強さともに十二分です。女性歌手の二人は平均的ですが歌のアンサンブルに不満は有りません。展開部でのオーケストラと合唱の白熱ぶりは非常に素晴らしいです。大きなスケール感と精神の高揚ぶりが見事に両立していて聴き応え充分です。コーダの迫力も中々のものです。
ライブですのでオーケストラの演奏には小さなキズが何か所も見られます。恐らくそれを気にする聴き手も多いかもしれませんが、個人的には問題とするほどでは無いと思っています。

CDの音質としては、残響が多い割には音に芯が有るので生々しさが感じられて良いです。初めはイコライジングが過剰に感じられますが、聴いているうちに気にならなくなります。問題はアナログで録音されているために、数か所で微妙な音揺れが感じられます。これはマスターテープに起因するのものだと思います。第1楽章で1箇所ホルンが引っくり返ったように聞こえるのは問題ですが、それ以外は個人的にはギリギリ無視できるレベルです。

ということから、確かにキズは幾つも有るものの、ザンデルリンクがこの3年後に同じベルリン響と録音したブラームス交響曲全集での悠揚迫らざる演奏と比べて、とても同じ指揮者とは思えないほどドラマティックな演奏であるのが驚きであり、非常に楽しめます。そういう点で、ザンデルリンクのファンにとって、とても価値の高い録音だと思います。

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2013年12月29日 (日)

ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」 テンシュテット/ロンドン・フィルの1992年ライブ ~年末ご挨拶~

昨日は有楽町の劇場まで歌舞伎シネマの「野田版・鼠小僧」を観に行きました。この作品を観るのは二度目です。野田秀樹の脚本と演出が最高に面白くて、最後には泣かされます。けれども、それを生かせるのも今は亡き中村勘三郎さんの類まれな演技が有ればこそです。もう二度とこのコンビの芝居が観られないのかと思うと本当に残念です。

それにしても、今年も残すところあと三日。一年は早いものですね。今年のブログのマニュフェスト(死語か?)には、欲張って八つの目標を掲げましたが、達成できたのは、結局ベートーヴェンの弦楽四重奏曲だけです。これは酷い!民主党のことを悪くは言えませんね。(苦笑)

でも、皆様には本当にお世話になりました。コメントの書き込みを頂いてる方も、そうでない方も、このようなブログにいつもお越し頂いて心から感謝しています。来年も可能な限り色々と記事をアップしてゆきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。

ということで、いよいよ今年のフィナーレです。最後を飾るのは、もちろんこの曲です!ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」!それでは、クラウス・テンシュテットさんに演奏して貰いましょう!(って何だか紅白みたい??)

511zvlveddlクラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィルハーモニー/合唱団
ルチア・ポップ(ソプラノ)
アン・マレイ(メゾ・ソプラノ)
アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)
ルネ・パーペ(バス)
(1992年録音/LPO盤)

これは、テンシュテットの最後の活動時期となる1992年10月8日、ロイヤル・アルバート・ホールでのライブです。この年にはテンシュテットがせっかく来日したのですが、急病で指揮が出来なかったということが有りました。

けれども、この第九の演奏は凄いです。病魔に侵されて、死を目の前にしていたにもかかわらず、これほどの演奏が出来るとは本当に驚きです。島倉千代子も凄かったが、テンシュテットもやはり凄い。

第1楽章冒頭から凄まじい迫力と集中力を感じます。最初からこれで最後まで体力が持つのかと心配になるほどです。テンポを崩すことはしませんが、ひとつひとつの音に何と命がこもっていることでしょう。強いて言えばティンパニの音が幾らか安っぽい(録音のせいか?)わりに、強打をし過ぎる為に、うるさく感じます。常に叩き続けていては気迫が逆効果になってしまいます。このあたりの加減は、やはりフルトヴェングラーには敵いませんね。フォルテで金管が長く吹き続け過ぎるのも、ベートーヴェンというよりはワーグナーの音を想わせます。それが良いと言うファンもおられることとは思いますが。

第2楽章も鋭いリズムで気迫にあふれます。この楽章では音楽の性質から、ティンパニが過剰に感じることもありません。

第3楽章は元々厳かな音楽なので、普通に演奏されても感動します。しかし、この演奏は、極めてゆっくりと、まるで時が止まっているような印象を受けます。テンシュテット自身も、そしてオーケストラのメンバーたちも、一緒に音楽が出来る時間はもう余り残されていないことを理解していたのでしょう。そんな特別な思いが、録音を通してでも痛いほど伝わって来ます。

終楽章も凄まじい気迫の音で始まります。第1楽章でも感じたことですが、いきなりストレートの150Kmの速球を投げ込まれると、最初は驚きますが、だんだん速い球に慣れてしまいます。決め球は「ここぞ」というところで使うので効果が出るのです。3分程度の「リュスランとリュドミラ」序曲のような短い曲ならば、リリーフ・ピッチャーのように全て速球勝負でも構いませんが、長い曲の場合には、やはり緩急を使った完投型の投球が理想です。ヘンな例えでしたが、しかしここでのテンシュテットは最後まで剛速球を投げ切ってしまいます。人間死ぬ気になると信じられないような力が出るものです。
ちなみに、歌手陣と合唱は非常に優れています。オーケストラと合唱との録音バランスも良いと思います。

全体的に鬼気迫る熱演なのは確かですが、ティンパニや金管が部分的に騒々しく感じますし、ロンドン・フィルがオーケストラそのものの音の魅力で勝負できる水準だとは言い難いのが少々心残りです。

第九というと、何人(なにびと)も越えられないフルトヴェングラーの壁が有ります。フルトヴェングラーの凄さというのは、山あり谷ありの一大スペクタクルでありながらも、全体があたかもアルプス山脈のような有機的な連なりを感じさせる点です。こんな矛盾したことを両立できるのは後にも先にもフルトヴェングラーただ一人です。ですので、いかにテンシュテットが死んだ気になっても越えられないものは越えられません。けれども、その神の領域に限りなく近づいた凄い演奏であることは確かです。それが、どれだけ凄いことかは、フルトヴェングラーの偉大さを知っている人こそ良く理解できるものだという気がします。

くどくどと書きましたが、この演奏はフルトヴェングラーを別格とすれば、シュミット=イッセルシュテット/北ドイツ放送響の1970年ライブ(ターラ盤)やクーベリック/バイエルン放送響の1982年ライブ(オルフェオ盤)に次ぐ愛聴盤のひとつに加わりそうです。

それでは皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。

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2010年12月26日 (日)

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調 「合唱」 ~懐かしの指揮者で~

クリスマスも終わって今年もいよいよカウントダウンに入りました。3年目に入った自分のブログでしたが、今年はブルックナーとマーラー、それにベートーヴェンのシンフォニー特集を達成できたことはとても満足です。来年も書きたいことは色々と有りますが、とてもそれを全部出来るわけではありませんので、新年の抱負として幾つか絞ろうかなぁと思っています。それよりも厳しくなる経済情勢がいつまで自分にブログを書く余裕を与えてくれるか時々心配になることもあります。もしも日々の生活に追われたらそれどころでは有りませんからね。でも、仮に環境が変わっていったとしても、きっと断念することは無いと思います。こんなに楽しい趣味のふれあいの場ををやめてしまうのは余りにもったいないからです。

ところで秋に特集したベートーヴェンの交響曲の中で第九が残っていました。というのは既に一度旧記事「交響曲第9番”合唱”名盤」を書いてしまったこともあり、その中で触れていない演奏を年末に書こうと思ったからです。そこで我が国にとても馴染み深く、自分にとっても非常に懐かしい指揮者の演奏を挙げてみます。

200x200_p2_s5030469w オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1982年録音/DENON盤)
スウィトナーさんはかつてNHK交響楽団を度々指揮したので良く知られていますね。僕は手兵SKベルリンとの来日公演でモーツァルトのシンフォニーを聴きましたが、最高の演奏でした。第九は年末にN響を何回か指揮しましたが、たぶん生では聴いていなかったと思います。この演奏はシンフォニー全集の中の録音ですが、この人らしいドイツの伝統に沿ってはいても、新鮮さを失わない演奏です。SKベルリンの響きもドイツ的に溶け合っていて非常に美しいです。1楽章のテンポは速めでとても推進力があります。けれどもせかついた感じはしません。重量級ではないのですが聴きごたえがあります。2楽章も同様に速めで切れの良い演奏です。3楽章は非常に美しく、心が洗われるようです。終楽章もことさら劇的に構えることなく誠実に熱演しています。但しこの楽章は破格の音楽ということもるので、一抹の物足りなさを感じる感無きにしもあらずです。

Beethoven9ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1976年録音/DENON盤)
ノイマンは手兵チェコ・フィルとも、単独でも何度も来日しました。僕が忘れられないのは上野の東京文化会館で聴いた全盛期’70年代のチェコ・フィルとの「ドン・ファン」とドヴォルザークの第8番です。よほど調子が良かったのか、チェコ・フィルは驚くほどに美しい音がしていました。この第九は同じ東京文化会館でのライブ演奏で、日本コロムビアによる録音です。ノイマンはドヴォルザークとマーラーはほぼ2度のシンフォニー全集を残しましたが、ベートーヴェンの録音は意外に少ないです。恐らく商業ベースでスプラフォンが避けたのではないかと想像します。この第九を当時生では聴いていませんが、引き締まったテンポでストレートな良い演奏だと思います。元々チェコ・フィルの音は透明感が有りますが、金管特にトランペットを強く奏するので、ドイツの楽団の管と弦が溶け合う響きとはだいぶ違って聞こえます。中々に新鮮に感じます。僕はちょうど同じ頃にマズアとゲヴァントハウス管の第九を聴きましたが、四角四面で面白くない演奏だったのを記憶しています。こちらの方を聴きに行けば良かったです。

Beetho9_neu ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1989年録音/スプラフォン盤)
ノイマンには本国での演奏も有ります。チェコのビロード革命による民主化実現の年にプラハで記念コンサートが開かれました。会場はスメタナホールです。当日は民主化を推進したハヴェル大統領も訪れて歴史的なコンサートとなりました。この時にはノイマンがチェコ・フィルを指揮しましたが、演奏されたのは人類の平和と友愛を歌う第九で、これはそのライブ録音です。演奏には大きな期待をするところですが、東京ライブから10数年の歳月はノイマンを指揮者として更に進化、いえ深化させたのでしょう。テンポがかなり遅めになり、見得を切るような音のタメと間の取り方が「フルトヴェングラー的」に変わりました。音の持つ含蓄や意味の深さはこちらのほうが明らかに優っています。チェコ・フィルはやはり澄んだ響きなのですが、東京ライブほどには金管が浮き上がらないので、ドイツ的な厚い響きに近づいています。独唱陣と合唱も非常に感動的です。勝利と平和の祈りに満ち溢れているように感じます。このような素晴らしい演奏を聴いてしまうと、晩年のノイマンがベートーヴェンのシンフォニー全集を残していてくれたらなぁと思わずには居られません。

今年もこうして第九をゆっくりと聴きながら無事に年末を迎えることができました。本当に感謝すべきことです。皆様も去りゆく年の終わりと新たなる良い年を迎えられることを心からお祈り申し上げます。この一年どうもありがとうございました。

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2010年11月 1日 (月)

ベートーヴェン 交響曲第8番へ長調op.93 名盤

Img_beethoven_1_2 第7交響曲を書きあげた後の僅か数か月で、第8交響曲は完成されました。この曲はベートーヴェン自身が「小交響曲」と呼んだように、規模の小さなロココ調の優美さを持った作品です。けれども、それまでに幾つもの大交響曲を作り上げてきたベートーヴェンですから、小さな規模の中に力強さや情熱がはみ出るほどにたっぷり盛り込まれています。全4楽章ともおよそ無駄に思われる部分が無く、一度聴き始めると一気に聴き通してしまいます。「苦悩を突き抜けた歓喜(勝利)」を想わせる第3、第5、第9とは異なって、極めて明るい雰囲気に包まれた名作として個人的にはとても好きな曲です。

051101_210 ところで、この曲は随分前に演奏したことが有ります。学生時代に都内の某大学オケにヴィオラのエキストラ参加したときです。指揮者は炎のコバケン(小林研一郎氏)でした。と言っても、コバケンの棒で弾いたのはゲネプロの一度だけです。結局本番の出演を取り止めてしまい、代わりに弟子のT氏が指揮したからです。これには非常にがっかりしました。とはいえゲネプロの時のコバケンには心底圧倒されました。あの人が指揮台に登っただけで頭の上にオーラ(炎?)が見えるんですね。お世辞にも上手いとは言えないアマチュア・オーケストラが、まるで魔法にかけられたように緊張感のある良い音を出してしまうのです。カリスマ性とは、ああいうものかなぁってつくづく思い知らされました。今では懐かしい青春時代の良い想い出です。

それでは僕の愛聴盤ですが、この曲に関してはフルトヴェングラーの特別扱いは止めます。まずはモノラル録音からです。

Beet-3-img_1692 フェリックス・ワインガルトナー指揮ウィーン・フィル(1936年録音/新星堂:EMI原盤) 往年の大巨匠として知られるワインガルトナーはマーラーの後任としてウィーン宮廷歌劇場の監督に就いたのが1908年ですので、いかに歴史上の人物かを知らされます。この人のベートーヴェンはかつての定番でしたが、中でも第8番の録音は代表的存在でした。演奏は驚くほど古典的でスタイリッシュですが、戦前のウィーン・フィルの持つ甘い音と演奏の柔らかさがこぼれるような魅力を感じさせます。このCDはSPからの復刻で新星堂から企画リリースされたものですが、サーフェイスノイズこそ有るものの音像は明瞭なので充分に鑑賞に耐えます。

Beethoven-19-lngal_ac_ ウィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1940年録音/フィリップス盤) アムステルダムで行われたライブの全集盤に収められます。当時とすれば中庸のテンポでしょうが、現代の感覚では遅めに感じます。その中でメンゲルベルクらしいテンポ変化やルバートを多用した濃厚な表情の演奏を繰り広げます。随所での金管とティンパニの強奏、強打も凄まじい迫力です。この曲を”小さな交響曲”ではなく”大きな交響曲”として位置付けています。録音は古いですしチリチリとノイズが入りますが、これは止む無しでしょう。

Furt_beetho_6_wien ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ストックホルム・フィル(1948年録音/EMI盤) EMIには交響曲全集が一応は存在するものの、2番と8番の音質が悪いのが痛恨の極みです。この8番はストックホルムでのライブ音源の復刻で、アナログ盤からの復刻のようなサーフェイスノイズが非常に多いです。それでも演奏そのものは振幅の大きな劇的な演奏で、聴いているうちに引き込まれるのは流石です。フルトヴェングラーの8番であれば後述の’53年、もしくは’54年盤をお勧めします。 

Toscanini_beethoven_3_4 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1952年録音/RCA盤) カーネギーホールでの録音です。トスカニーニの筋肉質の男性的な演奏は「英雄」や「運命」では非常な魅力なのですが、この曲の場合は典雅さや優美さの不足がかなり不満に感じます。残響の少ない録音もデメリットです。ところが、それでも結局のところは、速いテンポの明快で生命力溢れる演奏に無理やり引きずり込まれてしまうのが、この人の凄さです。小さい交響曲の凄まじい演奏として忘れることはできません。

1161001303 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) ベルリンでのライブ演奏です。同じ日の7番と同様に録音の鮮度は今一つです。演奏はトスカニーニとはまた違う意味で優美さから遠く、1楽章の短調に転調して展開する部分などは壮絶極まりなく、重い運命を背負っているかのようです。2、3楽章のテンポは遅く、聴きごたえが有ります。終楽章もやはり遅めで重量感を感じます。フルトヴェングラーが指揮をすると、この曲は全くスケールの小ささを感じさせません。

857 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1954年録音/オルフェオ盤) 7番と同じ日のザルツブルクでのライブ演奏です。当然前年のベルリン盤との比較になりますが、録音の鮮度はこちらが幾らか上に思います。1楽章は更にテンポが遅く、壮絶さは後退しています。またウイーン・フィルなので音そのものに典雅さを感じます。2、3楽章ではその魅力が更に強く感じられます。全体を通してベルリン盤ほどの迫力は感じませんが、逆にこの曲の本来の姿に近い演奏であるような気がします。

Schu_bet_758カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。全体に速めのテンポできりりと引き締まった演奏です。細部の音へのこだわりは相変わらずシューリヒトです。よく歌いますが、ウイーン風の柔らかな甘さは感じません。スタイルはドイツ風なのですが、パリ音楽院管の明るい音が中和させます。特に耳を奪われるのが終楽章で、弦やティンパニの切れが有り激しい音のアタックは壮絶ですらあります。

Beethoven-4-8 ヨゼフ・カイルベルト指揮ハンブルク国立フィル(1958年録音/TELDEC盤) 真のドイツのカぺルマイスター、カイルベルトがベートーヴェンの交響曲全集を完成しないうちに他界したのは残念ですが、その古き良きドイツを味わえる演奏はお宝です。後述する’67年のバイエルン放送響盤と比べても、古武士のような厳めしい響きや豪快さ、これでもかという位に念押しする頑固なリズムが際立ちます。モノラル録音で一部に音の揺れも感じられますが、真正ドイツ風の演奏がお好きな方には応えられないでしょう。

ここからはステレオ録音になります。

Beethoven-5-8 オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管(1957年録音/EMI盤) EMIへのセッション録音による全集に含まれます。1楽章のテンポは意外と速めですが、イン・テンポの典型的なクレンペラーの演奏スタイルで恰幅の良さに何となくドイツ風さを感じます。2、3楽章は洒落っ気には欠けますが、それが頑固親爺の洒落を聞くようで微笑みます。4楽章は慌てず騒がず遅いテンポで進むのがいかにもです。EMI 録音に管弦楽の色彩感が不足するのは止む無しですが、低弦の厚い動きが良く録れているのがプラスです。

Beethoven_cluytensアンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィル(1957年録音/EMI盤) 全集盤に収められている演奏です。この演奏は、一時フルトヴェングラーの演奏として出たことが有ります。確かに1、4楽章の白熱部分などはそう思い込んで聴かされたら分からないかもしれません。しかしフルトヴェングラーのライブにしてはやはり整い過ぎています。まぁ、それはそれとしてそれぐらい素晴らしい演奏だということです。EMI録音による柔らかい音造りの為に、当時のベルリン・フィルのドイツ的な響きを再生できないのが心残りでは有りますが。

123039253647216211547 ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響(1958年録音/CBS盤) 1楽章は案外速めです。但しオケの性能のせいか、練習が足りないのか、音の結晶度不足を感じます。2楽章はテンポは中庸ですが、この曲のこぼれるような美感に欠ける気がします。3楽章はかなり遅いテンポでよく歌います。けれども、どうもオケの質感に満足できません。終楽章は遅いテンポで重さを感じます。この楽章にしては少々重すぎて、もたれるんじゃないかと思ってしまいます。

Beethoven-19-688_20230520105901 オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル(1958年録音/グラモフォン盤) これはベートーヴェンの交響曲全集を3回録音したヨッフムのモノラル、ステレオ録音が混在した為に不遇の扱いを受けた最初の全集に含まれます。8番はステレオです。まだフルトヴェングラー時代のベルリン・フィルのドイツ的な音の名残を感じます。全体は落ち着いたテンポで重みの有る堂々たる演奏で、念押しするリズムがいかにもドイツです。その分、2、3楽章ではもう少し洒落っ気が有っても良いかなとは思います。

Monteux_eroicaピエール・モントゥー指揮ウイーン・フィル(1959年録音/DECCA盤) 古くはワインガルトナーからSイッセルシュテットなど、この曲にはウイーン・フィルの魅力溢れる名盤が有りますが、このモントゥー盤もまた古き良きウイーンの味わいを聴くことが出来ます。何と言っても、当時のウイーン・フィルの室内楽的な演奏が魅力です。あたかもコンツェルトハウス四重奏団がシンフォニーを演奏してくれているようです。弦も木管も柔かく鄙びた音色が本当に素敵です。誰かがモントゥーはウイーン・フィルとは相性が悪かったようなことを書いていましたが、とんでもない話です。

Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められている演奏です。これこそは「ドイツ風」としか言いようのない演奏です。1楽章は幾らか遅めのテンポで堂々としています。2楽章と3楽章は意外に速めですが、非常にかっちりとしていて聴きごたえが有ります。終楽章はじっくりとしたテンポで「熱狂」からは遠いのですが、じわりじわりと高揚してゆくのですが、面白みに欠ける気もします。何度も言い尽くしましたが、ゲヴァントハウス管の厚い響きはやはり素晴らしいです。

Beethoven-19-karajan ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1962年録音/グラモフォン盤) カラヤンが1960年代に録音した交響曲全集に含まれます。楽章は中庸のテンポですが、レガートで歌う割にはリズムがかっちりとしたドイツ風なので重厚さが感じられます。2、3楽章も同様の印象ですが、3楽章は重過ぎに思えます。終楽章は比較的速めですが、アンサンブルが素晴らしく、管弦楽の厚み有る響きは流石にベルリン・フィルです。録音も中々に優れます。

4107090040 パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1963年録音/CBS盤) これもマールボロ音楽祭でのライブ演奏です。7番よりも6年前ですので録音は劣ります。それにしても86歳のカザルスの指揮と言ったらどうでしょう。1楽章から誰よりも速いテンポで情熱が爆発しています。この人の魂は少しも老いたりしないのですね。2、3楽章も速めのテンポですが、表情が実に豊かで生き生きしています。終楽章は速さは普通ですが、音の激しさに圧倒されます。臨時編成オケの音は少しも洗練されていませんが、これこそは魂の音楽家カザルスの真骨頂です。

905 ヨゼフ・カイルベルト指揮バイエルン放送響(1967年録音/オルフェオ盤) カイルベルトの第7番と同じ日のミュンヘンライブです。例によって純ドイツスタイルでイン・テンポで武骨に進めます。構えが実に堂々としています。2楽章はオーソドックス、3楽章は風格を感じます。終楽章もテンポは落ち着いていますが、じわりじわりと迫力を増してゆくのが素晴らしいです。バイエルン放送響の音は硬過ぎず明る過ぎず、しっとりと大変心地よいものですが、更に強烈な武骨さを求めるならTELDEC盤をお勧めします。

Beethoven5_hshumit ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮ウイーン・フィル(1968年録音/DECCA盤) Sイッセルシュテットのウイーン・フィルとの全集のなかの白眉であり、昔から定評のある演奏です。何しろ1960年代当時のウイーン・フィルの柔らかい弦と潤いのある木管の音に魅了されます。イッセルシュテットのテンポは速過ぎも遅過ぎもせず極めて自然で、音楽の流れがとても良いです。この曲の典雅さと生命力とを実にバランス良く両立させているのが何とも素晴らしいです。DECCAの録音も優秀ですし、何度でも繰り返して聴きたくなる演奏です。

Beethoveb-19-075_20230522164801 オイゲン・ヨッフム指揮コンセルトヘボウ管(1969年録音/フィリップス盤) ヨッフムが残した三つの全集盤のうち二度目の全集に含まれます。1楽章は比較的速めのテンポで生き生きとしていて中間部の高揚ぶりも印象的です。2、3楽章はカッチリしていて柔らかさはそれほど有りません。終楽章は非常にまとまりが良いですが、いかにもセッション録音風で、白熱感には欠けます。名門コンセルトヘボウの美しい響きは味わえますが、ヨッフムの温厚な面が少々出過ぎたような演奏です。

51pbpkptral__ss500_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) グラモフォンへの全集盤の中に収められています。イッセルシュテット盤との比較では、ベームのほうが一言で「立派」な印象が強いです。1楽章は提示部はゆったりとしていますが、展開部へ入ると徐々に感興が高まってゆき響きも厚くなります。2楽章では真面目過ぎてやや面白みに欠ける気がします。終楽章では1楽章と同様に少しも慌てないのにイッセルシュテット以上に感興の高まりを感じます。ベームとウイーン・フィルの底力でしょう。

Beethoven-19-emypxegpl_20230523172501 レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル(1978年録音/グラモフォン盤) 1978年から1979年にかけてウィーンで行われたライブによる全集に含まれます。1楽章は中庸のテンポによる構えが立派で、中間部には気迫が感じられます。2、3楽章はウィーン・フィルのチャーミングで美しい音に魅了されます。終楽章は速めのテンポでレニーらしいエネルギー溢れる熱演で、豪快さや豊かな歌が随所に次々と顔を変えて現れるのに惹き付けられます。ライブですが録音も優れています。

0184442bcヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1978年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収められています。毎回同じことを繰り返して気が引けますが、SKドレスデンのいぶし銀の響きが最高です。ルカ教会での録音は残響が多く柔らかいのですが、皮張りのティンパニの音などはパリッとしていて快感です。ブロムシュテットのテンポは中庸で落ち着いていますが、活力を失うことが無いので中々に良いと思います。

Beethoven-19-pzbz147zl_ac__20230524101601 オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1983年録音/DENON盤) 独シャルプラッテンとの共同制作の全集盤に含まれます。以前、スウィトナーとこの楽団とのモーツァルトのシンフォニーの実演を東京で聴きましたが、それは素晴らしい演奏でした。これはそれを彷彿とさせるようなベートーヴェンです。速めのテンポで軽快さが有りますが、軽過ぎない手応え、聴き応えが魅力的です。虚飾の無いドイツ古典派そのものの演奏ですが、同時に古雅な美しさをも持ち合わせます。編成を余り大きく感じさせない録音も好ましいです。

Abbdo_beethven6_8 クラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル(1986年録音/グラモフォン盤) 記憶ではアバドのデビュー盤はDECCAへのウイーン・フィルとのベト7、8でした。ですのでこれは再録音ということになります。ウイーン・フィルの音はもちろん美しいですし、テンポも適性なので悪いはずは有りません。にもかかわらず、何か面白く感じないのです。悪戯もしない、冗談も言わない優等生みたいです。それが終楽章では突然速いテンポで活力を漲らせますが、なんだかとってつけたようで入り込めません。

91wmcdauwbl_ac_sl1500__20230524112601 ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管(1987年録音/フィリップス盤) ハイティンクとしては二回目の全集盤に収められています。ヨーロッパの音楽文化に根付いた豊穣の響きそのものというべきコンセルトヘボウ管の音に惹かれます。ハイティンクの指揮はオーソドックスですが、1楽章や終楽章は中々の白熱ぶりです。この人にしては積極性の有る指揮ぶりですが、決して夢中に成り過ぎずに適度なところで踏みとどまるのにも好感が持てます。フィリップスによる録音はもちろん優秀です。

Beethoven-19-apmt2mpcl_20230525114201 サー・コリン・デイヴィス指揮ドレスデン国立歌劇場管(1993年録音/フィリップス盤) 交響曲全集に含まれます。1楽章は幾らか遅めのテンポで恰幅の良い演奏です。リズムを厳格に刻み、弦楽をマルカートで弾くのはこの楽団の伝統ですが、それでこそドイツ音楽の味わいが深まります。続く2、3楽章も遅めで、洒落っ気よりはがっちりとした歩みが印象的です。終楽章も遅めと言えます。全楽章を通じて、堅牢で勇壮な立派な演奏なのですが、少々重ったるく感じられます。同じ重量級タイプなら、むしろクレンペラーの方が面白さを感じます。

Beethoven-19-kr7idozvl_20230525164501 ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管(1999年録音/テルデック盤) 交響曲全集に含まれます。1楽章開始から凄い迫力の音で、ティンパニの強打が目立ちます。かなりの大編成で威圧的に聞こえるのは、何だかベルリン・フィルみたいです。演奏の高揚は良いとしても、余りにシンフォニック過ぎる音には好き嫌いが現われるのではないでしょうか。残念ながら、個人的には聴いていて楽しさよりも騒々しさを感じてしまいます。

Beethoven-19-_ac_ サイモン・ラトル指揮ウィーン・フィル(2002年録音/EMI盤) ウィーンのムジークフェラインで行われた連続演奏会のライヴ録音です。楽譜はベーレンライター版を使用しています。1楽章のテンポはやや速めで、キレの良さを感じます。一方でディナーミクの変化が過剰過ぎて少々煩わしいです。弦楽をノン・ヴィヴラートで古楽器風に弾かせるのは他の曲と同様です。2、3楽章は速めで軽快に進みチャーミングです。終楽章は速めでキレの良さが有りますが、音の押し出しの強さと立派さを併せ持ちます。録音は優秀です。

Beethoven-19-l1500 リッカルド・シャイー指揮ゲヴァントハウス管(2009年録音/DECCA盤) 全集盤に含まれます。どの曲も速いですが、この曲もまた1楽章から超快速でエネルギーが迸っています。オーケストラの優秀さと音の押し出しの強さも凄いです。ただ、この曲はそういった要素の一方で優雅さも欲しいです。2楽章もサクサク進みますが、その中で色々と表情の変化を付けるのは上手いです。3楽章も快速ですが、白眉は終楽章で、正にリニア新幹線並みと言えます。超快感ですが、反面「それだけ」という気もします。録音は素晴らしいです。

Beethoven-19-dk-yajwl_20230527135701 クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル(2009年録音/SONY盤) ウィーン楽友協会大ホールで行われたベートーヴェン・チクルスのライブ収録による全集に含まれます。古いブライトコプフ版を使用していて、1楽章は遅めのテンポで悠然としています。最近のラトルやシャイーとはまるで異なり、何だかホッとします。2、3楽章でもゆったりとした歩みで落ちつきます。終楽章も遅めのテンポで重厚な伝統的ドイツ風の演奏です。むやみに新鮮さを追わないのが新鮮?です。録音はウィーン・フィルの美しい音色を捉えて、実際に黄金のホールで聴いているようです。

最後に古楽器オーケストラのCDも上げておきます。

Beethoven-19-aidmmnl_ac_ フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ(1989年録音/フィリップス盤) 全集盤に含まれます。何度も書きましたが、ピリオド楽器の音は乾いた干物みたいで、昔はまるで好みませんでした。しかし古楽器オケの好きな人はその音に魅力を感じるのでしょうから、ケチ付けることはありません。最近は自分もそれはそれで楽しめるように成りました。ブリュッヘンはことさらに快速テンポを取ることは無く、落ち着いて古雅な趣を味合うことが出来るのが良いです。それでも終楽章では中々の高揚ぶりです。小さい編成に聞こえる録音も、この「小交響曲」に相応しいように思います。

Beethoven-19-ga08hkoll_ac_ ジョン・エリオット・ガーディナー指揮オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク(1992年録音/アルヒーフ盤) 全集盤に含まれます。1楽章のテンポは速く、シャイー並みですが、アクセントやダイナミクスを鋭く駆使した解釈も似ています。しかしガーディナーは不思議と上滑りを感じません。むしろ自然と楽しさに引き込まれます。それに確かに古楽器オケの音なのですが、演奏のせいか録音技術のせいか、決して痩せた音に感じさせません。、3楽章も速いですが、フレージングの良さと楽器のバランスが絶妙で魅了されます。しかし終楽章の速さときたら、リニア新幹線のようなシャイー以上なのには唖然とします!

というわけで、今回はモノラルからステレオまでまとめて聴きましたが、僕が特に好きなのはやはりSイッセルシュテット/ウイーン・フィル盤と、同じウイーン・フィルのモントゥー盤ですが、カイルベルト/バイエルン放送盤や、ベーム/ウイーン・フィル盤、スウィトナー/SKベルリン盤なども好きです。破格の演奏としては、カザルス/マールボロ盤が忘れられませんし、シューリヒト/パリ音楽院盤も同様です。それと、もう一つ特筆すべきは古楽器オケのガーディナー盤です。

次回ですが、第9については既に2年続けて年末に記事にしていますので、今年もまた年末に未記事のディスクについて触れようかと思っています。そこで第2交響曲に戻ろうかと思います。

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2010年10月28日 (木)

ベートーヴェン 交響曲第7番イ長調op.92 名盤(ステレオ録音編)

それでは、ベト7のモノラル録音編に続いてステレオ録音の愛聴盤を聴いてゆくことにします。

Beethoven-7-r6bw6cmvl_ac_sl1500_ オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管(1955年録音/EMI盤) EMIへのセッション録音による全集の最初の録音です。テンポは遅く、イン・テンポを守る典型的なクレンペラーの重厚な演奏スタイルで、念押しするリズムがそれに更に拍車を掛けます。第2楽章でさえも安っぽい情緒に流されず、終楽章の堂々たる歩みは正にアポロ的な演奏です。EMI録音にオーケストラの音の色彩感が足らない点は、この曲においては特に不利とは思いませんが、ステレオ最初期の録音で明瞭さに欠けるのは残念です。

Cantelli-_1039 グィド・カンテルリ指揮フィルハーモニア管(1956年録音/EMI盤) 若くして他界した天才指揮者(と評判だった)カンテルリの数少ないステレオ録音盤ですが、写真のBOXセットに収められています。1楽章は比較的速めのテンポでドイツ的なリズムの念押しも一切無く、軽快に進みます。2楽章も速めで、もって回ったところが無く淡々と進みます。3楽章は特に煽るわけでは無く整然としています。終楽章は一転して速いテンポで活力に富みます。録音には古めかしさを感じます。

Beethoven_cluytensアンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィル(1957年録音/EMI盤) 全集盤に収められている演奏です。ドイツものを得意とするクリュイタンスですが、この7番の演奏は余り感心しません。テンポが遅めなのは良いとしても、フォルテに音の芯が無い印象ですし、緊張感にも欠けています。音色感に乏しいEMIの録音(マスタリング)も更に印象を悪くしています。まだベルリン・フィルがドイツ的な音を持っていた時代の録音なのに、これでは失望させられます。

3198080736ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響(1958年録音/CBS盤) ワルター晩年のユニークなベト7です。第1楽章はゆったりと落ち着いています。独自の味わいが有ります。第2楽章も非常に遅いのですが、悲壮感を全く感じさせません。こんな表現が出来るのはワルターのみです。第3楽章は迫力は不足していますが、逆に優雅さを感じるほどです。第4楽章は晩年のワルターにしては随分と躍動感を感じます。後半の追い込む迫力も中々です。オケの音に厚みは有りませんが、優雅で美しい演奏として他の指揮者とは全く異なる個性で存在感を感じます。

Beethoven-7-cmre0xwl_ac_-1 ヨーゼフ・カイルベルト指揮ベルリン・フィル(1959年録音/テルデック盤) カイルベルトは、古き良きドイツ的な演奏を愛する人には今も根強い人気が有ります。ベートーヴェンの交響曲をテルデックに全曲録音出来なかったのは残念ですが、この第7番の演奏は見事です。1楽章の遅いテンポと厳格なリズムによる腹の底から湧き上がる充実感、2楽章の孤高の悲壮感、3楽章の荘厳さに聴き惚れます。終楽章はセッション録音らしく前半が幾らか冷静に過ぎた感じですが、金管楽器の雄弁さと迫力は聴きものです。1950年代のベルリン・フィルの暗く重い響きは最高で、テルデックの録音もそれを忠実に捉えています。 

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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウイーン・フィル(1959年録音/DECCA盤) カラヤンは3年後にもベルリン・フィルと録音を行いますが、レガートが過剰でリズムも粘りがちなのに違和感が感じられて余り好みませんでした。その点、このウイーン・フィルとの演奏はオーソドックスで素晴らしいです。テンポは速過ぎず遅過ぎず堂々としていますし、後年に感じられるカラヤン一流の演出臭さがまだ見られません。同じウイーン・フィルでも後述のCクライバー盤よりもずっと良いと思います。

Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められている演奏ですが、ゲヴァントハウス管の古色蒼然とした音が本当に魅力的です。第1楽章は幾らか遅めのテンポで実に堂々としています。重量級ですがもたれることは有りません。但し提示部を繰り返すのは余分です。2楽章はすっきりとしていてことさらに悲劇性を強調しません。3楽章と数楽章は立派です。終楽章など意外にテンポは速いのですが、安定感が有ります。その反面、余り熱狂的にはなりません。

Furicsay938 フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン・フィル(1960年録音/グラモフォン盤) 特筆すべきは当時のベルリン・フィルの暗く分厚い響きで、この演奏が素晴らしいのはこの響きが有ればこそです。1楽章は遅いテンポでスケールが大きく、念を押すようなタメが効果的です。2楽章もやはり遅めで悲哀の大きさはフルトヴェングラーのようです。3楽章も遅く重量感です。中間部のホルンの立派さには惚れ惚れします。終楽章は幾らかテンポが速まりますが、堂々として豪快に鳴り切るベルリン・フィルの重い響きが最高です。

Beethoven-47-418w47e3yrl_ac_ ピエール・モントゥー指揮ロンドン響(1961年録音/DECCA盤) 録音当時は既に80代後半だったモントゥーですが、それが信じられないほどの生命力と躍動感に満ち溢れています。3楽章までテンポは中庸ですが推進力が有り、2楽章でも深い情緒が感じられます。白眉は終楽章でテンポが俄然速くなり、まるでライブのような熱を帯びて興奮させられます。デッカの録音は悪くないのですが、ロンドン響の暗い音色が明るくスッキリと聞こえてしまい余り感心しません。

Beethoven-19-karajan ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1962年録音/グラモフォン盤) カラヤンが1960年代に録音した交響曲全集に含まれます。昔は速めのテンポで味もそっけもない演奏のような印象を受けましたが、今聴くと1楽章など重さと躍動感のバランスが良く、ベルリン・フィルの音も重厚で金管、打楽器など素晴らしいです。しかし2楽章は妙にあっさりして表面的な美しさは有るものの心に響きません。3楽章も中間部の鳴りの良さは流石です。終楽章は一糸乱れぬアンサンブルで一直線に邁進します。前半は安定し過ぎますが、後半の盛り上がりは大したものです。録音は優秀です。

905 ヨゼフ・カイルベルト指揮バイエルン放送響(1967年録音/オルフェオ盤) 「ミスター・ドイツ」と呼べそうなこの人はオペラは別として、ドイツもの以外のレパートリーをほとんど聴いたことがありません。「ベト7」は前述のベルリン・フィル盤が素晴らしかったですが、こちらはミュンヘンでのライブ演奏です。演奏は同じように極めてドイツ的。幾らか遅めのテンポで非常に重厚、堂々としています。しかし終楽章では実演ならではの高揚感と迫力が素晴らしいです。バイエルン放送響の厚く美しい響きを捉えた録音も中々に優れています。

Hans_schumit_beeth7 ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1960代後半/GreenHill盤) イッセルシュテットはウイーン・フィルともDECCAに正規録音を残していますが、これは海賊盤です。とはいえ優れたステレオ録音ですので鑑賞に何の支障も有りません。それどころか北ドイツ放送の暗く厚い音がこの曲にとても適しています。腰の据わったテンポで重量感のある指揮も素晴らしいです。そのくせ完全なイン・テンポではなく1楽章の終結部でぐっと重みを増すところなど実に惹かれます。2楽章も非常に美しいですし、3楽章以降の充実度も素晴らしいです。

Beethoveb-19-075_20230522164801 オイゲン・ヨッフム指揮コンセルトヘボウ管(1967年録音/フィリップス盤) ヨッフムが残した三つの全集盤のうち二度目の全集に含まれます。1楽章は遅いテンポで進みますが、まったりして緊張感に欠けます。重量感は良いですがこれでは退屈です。それが2楽章では遅いテンポでも味わい深く感じられます。3楽章の重さは良しなのですが、終楽章がまたしても問題で、まったりとし過ぎてリズムにも切れが無く迫力不足です。名門コンセルトヘボウの美しい響きは聴けますが、ヨッフムに時として指摘される弱さが出てしまったようです。フィナーレではかなり追い込みますが時すでに遅しです。

4107090040 パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1969年録音/CBS盤) マールボロ音楽祭管というのはアメリカの音楽祭の為の臨時編成ですが、この時のメンバーにはヴァイオリンには後にイムジチのコンマスになるピーナ・カルミレッリや潮田益子、チェロには元ブッシュSQのヘルマン・ブッシュなどの凄いメンバーが参加しています。カザルスはこの時既に92歳ですが、魂の演奏家だけあって非常に力強く感動的な演奏をしています。およそ「洗練」というには程遠いサウンドなのですが、最近の機能的なオケの音に慣れ親しんだ方にこそ是非聴いて貰いたい演奏であり音楽です。

51pbpkptral__ss500_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) グラモフォンへの全集盤のスタジオ録音です。何といっても音楽そのものを心から味あわせてくれますし、演奏の安定感が抜群です。ドイツ音楽をこれほど品格を感じさせて安心して聴かせる指揮者は居ないと思います。つくづく偉大な指揮者だったと思います。但しベームが真に燃え上がるのは実演で、スタジオ録音も決して悪くありませんが、後半の3、4楽章では少々迫力不足を感じます。ウィーン・フィルとのベト7であれば後述する最晩年のライブ盤をお勧めします。

649 カール・ベーム指揮バイエルン放送響(1973年録音/audite盤) グラモフォン盤の翌年にミュンヘンで行われたライブ演奏です。1楽章導入部は慎重に始まりますが、提示部に入ってから徐々に感興が高まって行きます。60年代の実演のような”鬼神”とまではいきませんが、前述のスタジオ録音と比べるとやはり燃え方が違います。特にグラモフォン盤で弱いと感じた3、4楽章が別人のように躍動感と迫力を増しています。録音もバランスが良く優れています。

Beethoven-2-7-e8domu4l_ac_ ラファエル・クーベリック指揮ウィーン・フィル(1974年録音/グラモフォン盤) グラモフォンが制作したクーベリックのベートーヴェン交響曲全集は全ての曲を異なるオーケストラが演奏することで当時話題となりましたが、正直自分の趣味では有りませんでした。手兵のバイエルン放送響、あるいはウィーン・フィルで統一してくれたらどれだけ良かったかと思います。それはそれとして7番はウィーン・フィルなので嬉しいです。1楽章は遅いテンポで重量感が有り非常に勇壮です。2楽章も遅く、静寂感が美しいです。3楽章はやや平凡で、終楽章も立派ながらも冷静過ぎる感が有りますが、フィナーレは流石に高揚します。録音は優れます。 

0184442bcヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1975年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収められています。この全集の最大の魅力は、SKドレスデンのいぶし銀の響きを聴けるということですが、もちろん曲による凸凹が無いわけではありません。この7番は特に出来の良い演奏だと思います。1~3楽章は遅めのテンポで落ち着いていますが、もたれることはありません。終楽章では幾らかテンポが速まりますが、少しも前にのめらないで全ての音符を完全に弾き切っているのが圧巻です。ホルンやティンパニの音には本当に惚れ惚れとします。

51chtd6fxsl__sl500_aa300_ カルロス・クライバー指揮ウイーン・フィル(1976年録音/グラモフォン盤) その名を世界に轟かした第5の演奏の翌年の録音です。「舞踏の聖化」とも言われるこの曲のリズムを強調した、正に踊っているような演奏です。指揮者が腰を振り振りしているような姿が目に浮かんできます。良く言えばリズミカル、悪く言えば腰が軽いということですが、こうなると聴き手の好み次第でしょうね。僕自身は第5ほどには魅力を感じないので余り好みません。特に2楽章のあっさりとした演奏には拍子抜けします。

Beethoven-19-emypxegpl_20230523172501 レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル(1978年録音/グラモフォン盤) 1978年から1979年にかけてウィーンで行われたライブによる全集に含まれます。1楽章は幾らか遅めのテンポですが、ライブだけあり気迫が感じられます。2楽章は中庸の速さですが、ウィーン・フィルの美しい音には魅了されます。3楽章は速めのテンポで生き生きとしたリズムが弾けています。終楽章は速めのテンポで開始しますがレニーらしいエネルギーに満ち溢れた非常に熱い演奏です。曲が進むにつれてどんどんと白熱してゆき最後は怒涛のフィナーレとなります。やはりこの曲はこうでなければいけません。ライブながら録音も優れています。

Beethoven-2-7-adbfikqul_ac_sl1500_ カール・ベーム指揮ウィーン・フィル(1980年録音/オルフェオ盤) ザルツブルク音楽祭におけるライブで、ベームがこの1年後に亡くなるとは一体誰が予想したと思えるような力に溢れた演奏です。確かに1楽章からかなり遅いテンポで悠然と進みます。ところがダレた印象は一切無く、巨大な神殿が天に向けて聳え立つかのようなスケールを感じます。2楽章も極めて遅いです。この世の“時間“の概念が消え去って、悠久の時を刻むとでも言えそうな感覚です。3楽章も遅めながら中間部の壮大さは見事。終楽章も一般の感覚から言えば随分と遅いです。しかしフィナーレに向かっての熱演には感動した聴衆が大きな拍手を送っています。録音は明瞭で優れます。

Ten_betho7 クラウス・テンシュテット指揮北ドイツ放送響(1980年録音/EMI盤) ハンブルグでのライブ録音です。テンシュテット/北ドイツ放送というとどうしても驚異的な「復活」の名演を思い出しますが、この「ベト7」も遅いテンポでスケールが巨大です。フリッチャイに似ていると言えるでしょうが、テンポが必ずしも厳格では無く浮遊感が有るのと、部分部分でホルンやティンパニが強奏されたりするのは、むしろクナッパーツブッシュのスタイルに似ています。但し終楽章はテンポが随分と速く他の楽章とアンバランスに感じます。

Beethoven-19-pzbz147zl_ac__20230524101601 オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1981年録音/DENON盤) 独シャルプラッテンとの共同制作の全集盤に含まれます。この人のモーツァルトを知っている人は、もっと速い演奏を想像するかもしれません。予想以上に落ちついたテンポで、やたら豪快で無く、むしろ優雅なほどのベートーヴェンです。けれども決して聴き応えが無いわけでは無く、虚飾の無いドイツの良心のような演奏ぶりです。それでも終楽章などは徐々に高揚してゆく演奏に自然に惹き込まれてしまいます。SKベルリンの響きはドイツ的ですが古雅な美しさが大変魅力的で、それを忠実に捉えた録音も素晴らしいです。

91wmcdauwbl_ac_sl1500__20230524112601 ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管(1985年録音/フィリップス盤) ハイティンクとしては二回目の全集盤に収められていますが、その最初の録音でした。同じことを何度も繰り返してしまいますが、演奏よりも何よりもコンセルトヘボウの響きの圧倒的な素晴らしさにまず魅了されます。この深い音色は出来ればアナログ盤で、CDならフィリップス盤で聴きたいです。ヨーロッパの音楽文化に根付いた豊穣の響きそのものです。演奏は中庸の速さで“平凡さ“と”オーソドックス“の境目の際どいところですが、それは良くも悪くもハイティンクの特徴です。いやケチを付けるのは野暮というものです。これだけ素晴らしい演奏ですから。

Beethoven-19-apmt2mpcl_20230525114201 サー・コリン・デイヴィス指揮ドレスデン国立歌劇場管(1992年録音/フィリップス盤) 交響曲全集に含まれます。遅めのテンポで重量感の有る勇壮な演奏です。リズムは厳格に刻まれ、弦楽はマルカートに弾かれ、内声部は厚く、と典型的なドイツ風の演奏です。音色においては近年ドイツでも国際的な明るい響きの楽団が増えましたが、この楽団の伝統である古雅で美しい響きを守っているのが嬉しいです。2楽章もことさら感傷的にはなりませんが、深い味わいが有ります。終楽章では幾らかテンポを速めていますが、唐突な印象は受けず自然な流れです。底光りするような充実感が聴後の心に残ります。

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ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管(1999年録音/テルデック盤) 交響曲全集に含まれます。1楽章導入部はかなり遅いですが、主部は遅め程度です。オーソドックスで、オーケストラの響きもまたドイツ的です。2楽章はゆっくりと美しく歌わせています。3楽章は速めのテンポで躍動感があります。終楽章はかなり煽って行きますし夢中になるほどで、この曲の解釈としてはアリですが、やや唐突さを感じないわけでもありません。ティンパニが目立つのも特徴ですが、やや煩わしくもあります。また全体を通して聴くと何となく一貫性の無さを感じます。バレンボイムを嫌う人は、この辺りが理由なのかもしれません。

Beethoven-19-_ac_ サイモン・ラトル指揮ウィーン・フィル(2002年録音/EMI盤) ウィーンのムジークフェラインで行われた連続演奏会のライヴ録音です。ベーレンライター版を使用していますが、テンポは速めですが極端では無く、むしろリズムのキレの良さが印象的です。弦楽をノン・ヴィヴラート的に弾かせるのはこの曲でも同様です。2楽章は速めで情緒に溺れずスッキリとしています。弦楽の掛合いなどバロック的な処が有ります。3楽章もキレ良く快活です。終楽章は特別に速いことは無いですが、やはりキレの良さが印象的です。楽器のバランスやフレージングをいじるのはいつものラトルですが、それほど抵抗はありません。ただ“感動”より“面白さ”が感じられる演奏では有ります。録音は素晴らしいです。

Beethoven-19-l1500 リッカルド・シャイー指揮ゲヴァントハウス管(2009年録音/DECCA盤) 全集盤に含まれます。どの曲も速いですが、1楽章導入部から快速です。主部にはそのまま移るので逆にそれ以上速くは感じません。リズムはドイツ風とは違いますが、跳ねるような躍動感が魅力です。オーケストラの優秀さと音の押し出しの強さも凄いです。2楽章はかなり速くスッキリです。3楽章も同様で曲のイメージが変わるほどです。終楽章はもう予想通りの快速で突き進みます。シーサイドをスポーツカーでぶっ飛ばしているようで爽快感の極みです。ラトルのように表現に姑息さが無いのは潔くて良いです。録音は分離バランスともに素晴らしいです。

Beethoven-19-dk-yajwl_20230527135701 クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル(2009年録音/SONY盤) ウィーン楽友協会大ホールで行われたベートーヴェン・チクルスのライブ収録による全集に含まれます。古いブライトコプフ版を使用していて、1楽章は遅めで、往年の巨匠たちのような重厚感があります。2楽章もゆったりと葬送行進曲のような趣が有り感動的です。3楽章は速くキレが有ります。終楽章は中庸のテンポですが、リズムの念押しがあり聴き応え充分、フィナーレに向けての高揚ぶりが見事です。それにしても同じウィーン・フィルでもラトルと比べるとまるで異なります。現代の演奏の風潮に流されず我が道を行くティーレマンは好きです。録音はウィーン・フィルの美しい音色を十全に捉えていて、黄金のホールで聴いているような気分に成れます。

最後に数少ない古楽器オーケストラの演奏も上げておきます。

Beethoven-19-aidmmnl_ac_ フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ(1990年録音/フィリップス盤) 全集盤に含まれます。1楽章は意外にも速くは無く、落ち着いています。しかしノン・ビブラートの弦楽がカサカサで、本当に干物のような痩せた音です。2楽章以降も同様で、終楽章ですらかなり速いテンポで煽りますが、奏者の技術的な問題も有るのかもしれませんが、音が全て上滑りしているようで迫力が少しも感じられません。ピリオド楽器の音が好きな方はこれでも魅力を感じられるのでしょうか?これを“古雅な音”と崇めて鑑賞することは自分にはとても出来ません。

Beethoven-19-ga08hkoll_ac_ ジョン・エリオット・ガーディナー指揮オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク(1992年録音/アルヒーフ盤) 全集盤に含まれます。確かにいかにも古楽器らしい音はブリュッヘン盤の方だと思いますが、こちらは音の薄さが気に成りません。1楽章では速いテンポでアクセントやダイナミクスを鋭く駆使した演奏にワクワクします。2楽章も速いですが、フレージングの良さと楽器のバランスが絶妙で味が有ります。3楽章は快速な反面、終楽章は速過ぎずと設定が巧妙です。楽団の技量は18世紀オーケストラを凌ぎますし、上滑りさせないガーディナーの指揮も素晴らしいです。アルヒーフ録音がまた響きの良さを十全に捉えています。

以上のステレオ録音盤の中で僕が特に好きなのは、フリッチャイ/ベルリン・フィル盤ですが、他にも外せないのは、カイルベルト/バイエルン放送響盤、カラヤン/ウイーン・フィル盤、カザルス/マールボロ音楽祭管盤、ブロムシュテット/シュターツカペレ・ドレスデン盤、バーンスタイン/ウイーン・フィル盤、ティーレマン/ウイーン・フィル盤、それに海賊盤ながらイッセルシュテット/北ドイツ放送響盤と色々と有ります。また、ピリオド・オーケストラながらもガーディナー盤はモダン・オーケストラを上回る魅力と楽しさが有ります。

次回は第8番、通称「ベト8」です。モノラル/ステレオ盤をまとめて聴こうと思っています。

<補足>
クレンペラー/フィルハーモニア盤、クリュイタンス/ベルリン・フィル盤、カイルベルト/ベルリン・フィル盤、モントゥー/ロンドン響盤、カラヤンのウイーン・フィルおよびベルリン・フィル盤、ヨッフム/コンセルトヘボウ盤、クーベリック/ウイーン・フィル盤、バーンスタイン/ウイーン・フィル盤、ベーム/ウィーン・フィルのライブ盤、ハイティンク/コンセルトヘボウ盤、バレンボイム/ベルリン歌劇場管盤、ラトル/ウイーン・フィル盤、シャイー/ゲヴァントハウス盤、ティーレマン/ウイーン・フィル盤、ブリュッヘン盤、ガーディナー盤を追記しました。

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2010年10月21日 (木)

ベートーヴェン 交響曲第7番イ長調op.92 名盤(モノラル録音編)

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ベートーヴェンの交響曲作品の中で、昔から一般に広く知られているのは、やはり副題の付いた「英雄」「運命」「田園」「合唱」です。けれどもクラシックファンの間では副題無しの第7番も、昔からとても人気が有りました。それはひとえに曲そのものの魅力からです。また、アマチュア・オーケストラに在籍する者にとっては、この曲は「ベト7」として必ず一度は演奏をしたくなる人気曲です。そんなこの曲が、一般にも広く知られてブームを巻き起こしたのは、言わずと知れた「のだめカンタービレ」の主題曲に使用されてからです。このTV番組と映画がきっかけでクラシックファンそのものの裾野が広がったことも事実ですし、これは大いに歓迎すべきです。

この曲を高く評価したのはリヒャルト・ワグナーで、曲全体が非常にリズムが強調されているので「舞踏の聖化」と呼びました。また、この曲は「バッカスの饗宴」と呼ばれることもあります。バッカスというのはローマ神話の酒の神様ですが(上の絵で金色の車に乗っている人です)、要するにこの曲が酒宴での乱地気騒ぎに例えられたのです。どうですか、あなたの大学や職場にもミスター・バッカスが一人や二人はいるんじゃないですか?

この曲の初演の際にはベートーヴェン自身の指揮で第1ヴァイオリン18人の大編成で演奏されたので、さぞかし迫力があったことでしょう。ですので同業者からは「ベートーヴェンは頭が狂った」などと言われたりもしたそうです。実際に、この曲の第1、3、4楽章は激しくリズムが刻まれていて実に興奮させられます。第2楽章のみが緩やかなアレグレットで悲哀の旋律が美しく奏されて、見事な対比となっています。

それでは、モノラル盤の愛聴盤を聴いてゆきますが、まずはフルトヴェングラーから。

803 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1943年録音/オーパス蔵盤) 第二次大戦中のベルリンでのライブ演奏ですので、当然音は良くありません。けれども元々ドラマティックなフルトヴェングラーの中でも特に壮絶な演奏です。1楽章の鬼気迫るような雰囲気、2楽章の重い運命を背負ったような悲劇性も素晴らしいですが、終楽章の鳥肌が立つような切迫感には怖れさえ感じさせられます。ここには「健康的な」興奮とは全く異なる世界が存在しています。現代との時代の違いは無視出来ないでしょうが、どうか違いを比べてみて下さい。元々古い録音で一部音の揺れはありますが、オーパス蔵のメロディアLPからの復刻盤は中々しっかりした音です。他ではメロディア盤のCDが手堅いと思います。

Betho5_furemi ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1950年録音/EMI盤) 晩年のEMIへのスタジオ録音は皆音質は良好なのですが、この’50年の7番だけは録音が余り良くありません。海外References旧盤は高音が比較的刺激的で無く低域が厚いので聴きやすいですが、それでも他のEMI録音よりも大分劣ります。演奏はスタジオ録音なので、それほど熱狂的では有りませんが、それでも終楽章などはまるでライブのような迫力をも感じさせます。僕自身はウイーン・フィルの持つしなやかさは好きで、2楽章の演奏はこれが一番好きかもしれません。

1161001303 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) ベルリンでのライブ演奏です。録音は分離も鮮度も今一つですが’50EMI盤より幾らか良く感じます。演奏は1、3楽章はベルリン・フィルの重圧な音と迫力が素晴らしく、EMI盤以上に惹かれます。2楽章は逆にウイーン・フィルのしなやかな美しさを取りたいと思います。終楽章は即興的な感が有り、音の間を幾らか大きくとっています。テンポも前半ではじっくりと進みますが、後半から徐々に加速してゆき、フィナーレには荒々しく突入します。

857 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1954年録音/オルフェオ盤) 最晩年夏のザルツブルクでのライブ演奏です。1楽章は遅めで大きさと広がりがある分、かつての切迫感は薄れました。2楽章は逆に幾らか速めですが、ウイーン・フィルのしなやかさはやはり魅力です。弦も非常に美しいです。終楽章は遅めで躍動感には欠けますが、それでも後半の気力などは、とても3か月後にこの世を去る人の演奏とは思えません。録音は’50年、’53年盤よりは各楽器の分離の良さと音の鮮度を感じます。

ここからは他の指揮者達です。

Beethoven-19-lngal_ac_ ウィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1940年録音/フィリップス盤) アムステルダムで行われたライブの全集盤に収められます。現在の感覚から言えば、全体的に遅めのテンポで重さを感じます。メンゲルベルクにしては普通の演奏で、極端なテンポの変化や甘いポルタメントはほとんど有りません。所々で金管とティンパニの強奏、強打は有りますが驚くほどでは無いです。熱演だとは思いますが、この曲はそれが当たり前ですし、特別な感銘は受けません。録音は古いですしチリチリとノイズが入りますが、気に成るほどではありません。 

Toscanini_beethoven_3_4 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1951年録音/RCA盤) カーネギーホールでの放送用録音です。トスカニーニの演奏はとにかく力強く明快です。1楽章アレグロ部の躍動感は正に「舞踏の聖化」というイメージです。一つ一つの音の持つエネルギーが半端でありません。2楽章も沈滞することなく力強くリズムを刻みます。3楽章も当然ながら同様で、中間部も実に明るく強靭です。終楽章も情熱的で明るいです。この演奏に「フルトヴェングラーのような陰りの部分が欲しい」などと言うのは野暮というものです。

Beethoven-19-688_20230520105901 オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル(1952年録音/グラモフォン盤) ベートーヴェンの交響曲全集を3回録音したヨッフムの最初の全集に含まれますが、この全集はモノラル、ステレオ録音が混在した為に不遇の扱いを受けました。7番はモノラルですが明瞭で、初期のステレオ録音よりも優れるほどです。フルトヴェングラー時代のベルリン・フィルのほの暗いドイツ風の音に感激します。1楽章は重みが有り恰幅の良さが素晴らしいです。2楽章は味わい深いです。3、4楽章もオーソドックスながら、念押しするリズムがいかにもドイツ的で重みが有り聴き応えが有ります。4楽章の自然な高揚感も素晴らしいです。

Beethoven-37l_ac_sl1429_ ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィル(1954年録音/オルフェオ盤) ウィーンにおけるライブですが、クナのベト7の録音は少ないので貴重です。1楽章導入部は普通に遅め程度ですが、主部に入ると非常に遅いテンポで悠然と進み、徐々に翳りが濃くなり、やがて巨大な演奏となります。ここまで巨大な演奏は故宇野芳芳指揮の実演を聴いたぐらいです。2楽章も極端に遅いですが、悲劇的な味わいはフルトヴェングラーの方が上です。3楽章も遅くスケール大ですが、白眉はやはり終楽章です。これ以上遅い演奏は聴いたことが有りません。重量感がとてつもなく、ウィーン・フィルが真剣に弾き切っているので否応なく惹きつけられます。「軽薄短速」の演奏が好きだと思っている方は必聴です。オーストリア放送協会の録音ですが非常に聴き易いです。

Mahcci00006 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/Tresor盤) ウイーン・フィルがアメリカに演奏旅行したときに国連会議場で行った記念コンサートです。会場の残響は少ないですし、音質には不満を感じます。我々にとってはシューリヒトとウイーン・フィルのライブを聴けるだけでも嬉しいのですが、演奏は手堅いものの特別な凄みは有りません。終楽章などはかなりの熱演なのですが、会場の音響がマイナスしているのかもしれません。僕は現在はTresor盤で持っていますが、初出のarchiphon盤と音質に差は有りません。

Schu_bet_758 カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。当然、ウイーン・フィル盤よりも録音条件は格段に良いです。モノラル録音なのに立体感を感じるほどです。案外じっくりとしたイン・テンポで進みますが、良く聴くと楽譜の読みが非常に細かく徹底していることに気づきます。例えば終楽章終結部で各弦楽パートが掛け合う部分などは、スラーを外して弾かせているので驚くほど歯切れの良さが出ています。シューリヒトの個性的なこだわりを表現するには、むしろドイツ音楽に伝統を持たないオケのほうが良いのかもしれません。録音、演奏ともにウイーン・フィル盤よりもずっと好みます。

以上から、7番に関してはフルトヴェングラーのフェイヴァリット盤がどうしても絞れません。’43年盤は迫力が有るが音質が悪い。’50年盤は演奏のバランスは良いですが音質が今一つ。’53年盤は音の厚みは良いですが2楽章がベストではない。’54年盤は音質は良いですが迫力不足。ということで4種類を聴き分けるよりありません。フルトヴェングラー以外では、ヨッフム盤にも惹かれますが、やはりクナッパーツブッシュのライブ盤の存在は大きいです。

それでは、次回はステレオ録音盤を聴くことにします。

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2008年12月30日 (火)

ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調op.125 「合唱」 名盤 ~第九CDざんまい~

Beethovenベートーヴェンの『第九』が古今のクラシック作品の中でも、最も偉大な作品の一つであることは疑いのない事実ですので、今更この曲について細かいことを書くつもりは有りません。

しかし、年末に第九を聴こうという習慣も、聞けば日本だけのことでは無く、ヨーロッパなどでも段々と増えているそうですね。日本から逆輸入の文化として、そのうちにすっかり定着するかもしれません。

それにしても、日本では12月になると音楽会は「第九」一色です。とりわけ東京では著しく、在京オーケストラはどこも揃って数回づつコンサートを開きますから、プロ・オケだけでも全部で40回前後。アマ・オケも同じように演奏しますから、第九の演奏会数は50~60回以上になるのではないでしょうか。第九だけはチケットも良く売れますので、おそらく東京都内だけでも延べ10万人くらいの人が第九を聴きに行く計算です。

確かにこの曲は、荒波にもまれた一年に禊(みそぎ)を行う気分で聴いて、新しい年を迎えるにはとてもふさわしい音楽だと思います。「苦悩を突き抜けて歓喜へ」とは未曾有の景気悪化まっただ中の今年の年末には特にぴったりでしょう。

第九のコンサートを聴きに会場に足を運ぶのも良し、自宅でCDを聴いて第九三昧するのもまた良しです。

ということで第九のCDの愛聴盤、お薦め盤などをご紹介することにしますが、1996年にベーレンライター版が出版されてからは、「もはや重厚でスケールの大きい演奏は時代遅れだ」というばかりに、猫も杓子も快速テンポを競うような時代になってしまいました。もちろん原点に遡る楽譜考証は重要ですが、「全員右向け右」みたいな風潮はどうかと思います。

それに、たとえどんなに録音が古くなろうとも、どんなに時代遅れと言われようとも、かのドイツの大巨匠ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの「第九」の演奏を避けて通ることは絶対に出来ません。そこでフルトヴェングラーとそれ以外の演奏で其々まとめてみることにします。

―フルトヴェングラーの演奏―

Cci00054 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1942年録音)(写真はターラのフルヴェン戦時中録音集) ファンには有名な戦時中の演奏です。僕が高校生の頃にカラヤンの次に買ったLP盤がこの演奏でした。その二つの演奏の余りの違いに愕然としました。すっきりスタイリッシュなカラヤンと壮絶極まりないフルトヴェングラー。どちらに感動したかは言うまでもありません。感受性豊かな若い頃にこの演奏に出会ったことが自分がクラシック音楽にのめり込む大きなきっかけになったと思います。さすがに今では滅多に聴くことは無いですが、クラシックファンならば一度は聴いておくべきだと思います。少々大げさに言えば人生観さえ変わるほどの凄さだからです。

81gmwjenojl__sl1410_ ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管(1951年録音/EMI原盤) 最も有名な戦後バイロイト再開の年の記念演奏会の録音です。戦時中演奏のあれほどの壮絶さは無いですが、限りなくスケール壮大な演奏です。というよりも、単なる「壮大さ」などとひと言では表現できない正に「宇宙的なまでの広がり」を持った演奏なのです。本家EMIの海外References盤は古い制作ながら、後年のリマスター盤のような高音域の強調が無く、自然な音造りなので好んでいます。それ以外では、平林直哉さんのGrand Slamレーベルからは初期の英国製LPからの復刻盤や2トラック38センチオープンリールテープからの復刻盤が出ていますが、特に2トラ38オープンリール使用の二度目の復刻盤(GS-2205)が情報量や音の綺麗さで群を抜き、EMIReference盤以上にお薦めです。余談ですが、もう随分前のこと、朝日カルチャー講座の後に一度お話の出来た平林さんはいかにも誠実そうな印象でした。氏の仕事ぶりも全く同じ印象です。

Fb9 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管(1951年録音/オルフェオ盤) 上記の1951年バイロイトと同じ7月29日の放送局正規録音ということで、オルフェオからCDがリリースされましたが、聴いてみるとこれは全く同じ演奏ではありません。ということは、これまでのEMI盤には実はかなり編集された部分が有ったのだと推測されます。けれどもオルフェオ盤は残念ながらEMI盤と比べても音質が落ちます。ホワイトノイズが多いことに加えて高音強調型のマスタリングなのがマイナスです。従って音楽観賞用としてはEMI盤以上の存在意義は感じません。あくまでも編集の入らない”記録”としての位置付けとなるでしょう。

Beethoven-9_20231015151601 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1951年録音/オルフェオ盤) 前述のバイロイトの第九は7月29日でしたが、その一か月後の8月31日にはザルツブルグで第九を指揮しました。これはその放送録音です。1楽章はバイロイトと同様に遅いテンポですが流れが自然で宇宙的な広がりが有ります。指揮の統率力にも強さが感じられます。ウイーン・フィルはさすがに細部のニュアンスが抜群で、その点はバイロイトは敵いません。3楽章の弦楽の美しさももちろんです。終楽章も素晴らしいです。欠点は終楽章で管弦楽、ソリスト、合唱を問わず、強音で音が相当ざらつくことで、かなり気に成ります。高中低音域のバランスは良いだけに残念です。

520ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1952年録音/ターラ盤) フルトヴェングラーのウイーン・フィルとの第九の録音は幾つも有り、どれもドラマティクな演奏ですが、その一つとして、この’52年のニコライ記念演奏会が挙げられます。1楽章の遅さと音のタメは変わりませんが、それが逆に音楽の流れを悪くさせているようにも思います。ですので、個人的には流れが自然で勢いのある’53年のニコライの方を好みます。また独唱陣の出来も余り良いとは言えません。録音に関しては明瞭で楽器の分離も良いので、’53年とは好みが分れるかと思います。

Cci00054bヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1953年録音/独グラモフォン盤) ウイーン・フィルとの第九の録音の中で演奏・録音のバランスが一番取れていると思うのは’53年5月30日のニコライ記念演奏会で、これは「ウイーンフィル150周年記念盤」として発売されました。’52年盤と比べてもドラマティックさにおいては遜色が有りませんし、そこに更に流れの良さも感じます。録音は幾らかの古めかしさは有るものの優れているので、べルリン・フィル盤でもバイロイト盤でも聴けない、ウイーン・フィルの持つ弦の柔らかな味わい、美しさを味わうことが出来ます。

Beethoven-71thgvdifl_ac_sl1500_ ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1953年録音/キング・インターナショナル盤) ’53年のウイーン・フィルとの第九録音には、前述した5月30日のニコライ演奏会の翌日の5月31日にも同じメンバーで行われたウイーン芸術週間演奏会が有ります。これは同じ年の2月に行われた第九の演奏会の演奏途中でフルトヴェングラーが体調不良となった為に止められて、その代替え演奏会として行われたいわくつきのものです。「音が良い」と世評の高い録音で、確かに細かい弦の刻みが弱音でもしっかりと捉えられている非常に明瞭な録音なのですが、高音強調のリマスターなのが残念です。特に1楽章ではトーンコントロールを使いたくなるほどです。演奏も含めて個人的には前日のニコライ演奏会の方を好みますが、このリマスターが気に成らない方にはこちらの演奏が支持される可能性は有ります。

B61vxx9nlknl_ac_sl1200_ ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管(1954年録音/オルフェオ盤) 通常”バイロイトの第九”と言えば1951年盤を指しますが、フルトヴェングラーが亡くなる年も同音楽祭で演奏をしていて、そのライヴ録音が出ています。後述のルツェルンでの演奏の僅か半月前のことです。オルフェオの51年盤が高音強調のマスタリングだったのに比べて、こちらは低音域が厚く、ティンパニがかなり目立ちます。ホワイトノイズが多く、テープ劣化で音が歪む箇所が多いのはやむを得ないとしても最大の致命傷は声楽ソリストの声をマイクが極端に大きく捉えている点です。変な話、歌謡歌手のマイク音量のように聞こえます。管弦楽と合唱団としては51年の演奏に決して劣らない素晴らしさですが、ソリストの録音で全てが台無しです。”記録”としての価値に留まります。

Lucerne_beethoven_9ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管(1954年年録音/audite盤) 大学生の頃ですが、フルトヴェングラーが亡くなる直前のルツェルン音楽祭の第九がバイロイトよりも凄いという評判を聞いて、どうしても聴きたくなりプライヴェートLP盤を購入しました。学生の身には随分と高価でしたが、実際に聴いてみてその噂通りの素晴らしさに本当に驚きました。但し音はかなり悪かったです。それが時を経て、いまから10年近く前にTAHRAレーベルがオリジナルテープからの復刻CDを出した時には、その余りに明瞭な音に驚愕したものです。演奏の真価がようやく明らかになり、その時には本当にバイロイト盤よりも上だと思いました。最晩年の演奏は、それまでの歌舞伎の大見得を切るような表現は影を潜めていて、何か悟りを開いたような澄み切った趣が何とも言えません。現在では様々なレーベルからCDが復刻されていますが、前述のTAHARA盤は音に硬さが感じられるので、無難な選択では放送局のオリジナルマスターテープを使用したaudite盤(写真)、もしくはOTAKEN盤が明瞭な音にも柔らかさが有るのでお勧めです。まだ聴いてはいませんが最近Grand Slamからオープンリールテープからのマスタリング盤も出ました。このあたりはどれを選んでも失敗は無いと思います。

―フルトヴェングラー以外の演奏―

フルトヴェングラーの幾つかの演奏があれば、正直「第九」はもう充分と思わないでもありません。事実、これまで他のどの「第九」の演奏を聴いても、フルトヴェングラーの良くて半分位の感動しか得られなかったからです。決して「感動」だけが鑑賞の尺度では無いとは思いますが、感動の無い第九などは聴きたくも無いですし、録音状態の良し悪し以外でフルトヴェングラーの彫りの深い表現を超えるものには未だに出会ったことがありません。とは言え、これだけの大作品です。フルトヴェングラー以外にも素晴らしい演奏は沢山存在します。実際に聴いてみればどれも面白く、ついつい耳を傾けてしまいます。それらのCDを古いものから順に挙げてみたいと思います。

Beethoven-19-lngal_ac_ ウィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1940年録音/フィリップス盤) アムステルダムで行われたライブの全集盤に収められます。ドラマティックさで言えば、フルトヴェングラーに肩を並べる筆頭格なのですが、フルトヴェングラーの流れの自然さと比較すると、どうしても取って付けたような不自然さと歌舞伎の大見えを切るような印象を受けてしまいます。1楽章や終楽章は非常な熱演ですし、3楽章のロマンティックさも特筆出来ますが、全体的には古めかしさを感じます。録音は案外と明瞭ですが、始終チリチリとノイズが目立つのが気に成ります。 

Beethoven-9-img_1805 ヘルマン・アーベントロート指揮ライプチヒ放送響(1951年録音/シャルプラッテン盤) アーベントロートはその昔、マニア筋では話題となりましたが、現在は忘れかけています。しかし極めてドラマティックな指揮ぶりは、往年の大巨匠の中でも五指に入ると思われます。この第九の第1楽章も劇的さと激しさはフルトヴェングラーに肉薄します。2楽章の気迫も相当なものです。3楽章の深々とした味わいも見事です。終楽章は潔く進みますが、極めて雄弁です。オール東独勢のソリストは女性がやや煩いですが全員力強く、合唱も充実しています。放送局によるモノラル録音で、合唱は僅かに歪み気味ですが管弦楽は明瞭です。

61zev5riucl__sl500_アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1952年録音/RCA盤) 若いころはトスカニーニのドイツ音楽の演奏はドライに感じられて余り好まなかったのですが、改めて聴いてみるとその凄さに圧倒されます。テンポは速めで推進力が有りますが、ここぞという時の音のタメとカンタービレはこのマエストロならではです。それにしても80歳を越えて尚、他のどんな指揮者よりも音楽にエネルギーが充満しているのは驚きです。正にフルトヴェングラーと双璧の大指揮者でした。モノラルですが録音も明快です。

Beethoven-9 エーリッヒ・クライバー指揮ウィーン・フォル(1952年録音/DECCA盤) 昔、学生時代にLP盤で聴いてみたものの、フルトヴェングラーに比べると物足りなく感じました。現在聴いてもそれは変わりませんが、これはこれでやはり素晴らしい演奏です。1楽章などはしなやかさと同時にしっかりとしたドイツ的な拍の強調を感じますし、3楽章は非常に美しいです。終楽章も展開部の突進する迫力こそフルトヴェングラーには及びませんが、スケールの大きさや美しさを持ち聴き応えが有ります。明瞭なモノラル録音ですが、4楽章の歓喜の歌が弦楽で始まった辺りでしばらくテープのよれが聞こえます。写真のこのディスク特有の問題かどうかは分かりませんが少々残念です。

Beethoven-19-688 オイゲン・ヨッフム指揮バイエルン放送響(1952年録音/グラモフォン盤) ヨッフムの1回目のベートーヴェン交響曲全集に含まれます。録音は数年間をかけて行われましたが、その最初の年の録音です。当然モノラルですが、広がりの感じられる大変明瞭な録音です。全集の演奏は大半がベルリン・フィルですが、1,5,9番だけがバイエルン放送響です。しかし大変優秀で、ほの暗く厚みのあるドイツ的な響きはその差が感じられません。ヨッフムもフルトヴェングラーほどの劇的さは無いものの、重厚で聴き応えのある指揮ぶりには大いに魅了されます。モノラル録音とステレオ録音が混在する全集だった為にステレオ時代になって軽んじられたのかもしれませんが、忘れ去られるには惜し過ぎる演奏です。

31jg719pyklカール・ベーム指揮ウイーン交響楽団(1957年録音/フィリップス盤) 後年のグラモフォン盤の2種の録音ではなく、まだまだベームが壮年期で若い時代の演奏です。モノラル末期の録音なので音質も明快です。’70年代のグラモフォン盤と比べると、テンポもずっと早めで、ぐいぐいと畳み掛けるような勢いと生命力があります。円熟したグラモフォン盤よりもこちらのほうが好きだと言われる方も多いと思います。ただし自分自身はグラモフォン盤の余裕とスケールの大きさ、それにウイーン・フィルの音色の美しさを好みます。


Beethoven_cluytensアンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィル(1957年録音/EMI盤) 全集盤に収められている演奏です第1楽章は幾らか遅めのテンポで重量感が有り、しかし推進力を失わないのが良いです。第2楽章ではリズムの切れの良さと推進力を感じますやはり遅めでじっくりと進みますが、途中から感興が高まりテンポも徐々に速まります。ベルリン・フィルと合唱にはドイツらしい堅牢さと音の厚みが有りますが、残念なことに録音の鮮度にやや不足を感じます。しかし同じ年のベーム番がモノラルであることを考えれば嬉しいです。

9 オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管(1957年録音/EMI盤) EMIへのセッション録音による全集からです。同時代に人気の高かったフルトヴェングラー、ワルターのロマンティックな解釈に比べてずっとクールであくまでも造形感を重視した演奏となっています。ですので燃え立つような興奮は得られませんが、聴いているうちにじわりじわりと地面の底から持ち上げられるような感覚を憶えてゆきます。但しフィルハーモニアはこうしたクールな演奏に耐えるような音色を持たない為に、ドイツの名門オケを聴くような充実感に乏しいのがちょっと残念です。

41b2qfe1z7lオットー・クレンペラー指揮ケルン放送響(1958年録音/Medici Masters盤) クレンペラーの第九には前述の1957年録音のEMI盤の他にも57年ロンドンライブ、60年ウイーンライブなどがCD化されています。それらはいずれもフィルハーモニア管との演奏ですが、個人的にはそれほどの魅力を感じませんでした。ところがこのケルンライブには非常に引き付けられます。遅くスケール大きなテンポで、オーケストラのドイツ的で重厚な響きを存分に味わせてくれるからです。バリトンのホッタ―をはじめとするソリストも合唱も素晴らしく、クレンペラーの第九では第一に選びたいと思います。モノラルですがバランスの良い優れた録音なのも嬉しいです。

41mpewtmn9l_ac_ シャルル・ミュンシュ指揮ボストン響(1958年録音/RCA盤) 熱血ミュンシュの本領を発揮した炎のごとく燃え上がる演奏です。当時の演奏としてはテンポが非常に速く、息つく間も無いほどの緊張感を与える点ではフルトヴェングラーに迫ります。ただし管弦楽の音色が明るくフランス音楽のような音なので厳粛な印象は受けません。あくまでラテン的で明晰な興奮を誘う演奏だと思います。RCAのこのマスタリングは高音域が強調されていて余り好みでは有りません。

240ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) ワルターもフルトヴェングラーの第九と比較されて随分と割を食ったと思います。ところが、現在改めて聴き直してみると、これほどまでに指揮者の意図が伝わって形になっている演奏は極めて稀だということが分かります。第3楽章や、終楽章の歓喜の歌が弦楽で静かに歌われる部分の美しさは、ちょっと他には有りません。ワルターのベートーヴェンで素晴らしいのは、何も「田園」だけでは有りません。


Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチッヒ・ゲバントハウス管(1959年録音/edel盤) コンヴィチュニーのベートーヴェンは学生の頃に廉価盤のLPで良く聴きました。安っぽくひどいデザインのジャケットでしたが演奏はどれも一級品でした。曲によっては一番好んだ演奏も有ったほどです。CD化されたこの全集も第一に選びたいほどです。第九も実に素朴な味わいであり、よく言われるようにまるで古武士の如き質実剛健な響きがなんとも魅力的です。合唱団、歌手陣も共にバランスがとても良いです。

51dat3ajd8lピエール・モントゥー指揮ロンドン響(1962年録音/DECCA盤:ウェストミンスター原盤) デッカ録音の全集に含まれますが単独でも出ています。 この全集はウィーン・フィルとロンドン響が半々なのは良いとしても、何故か第九だけがウェストミンスターによる録音でした。それがこうして全集となるのは有り難いです。肝心の演奏はモントゥーらしい生命力と重厚さが適度に混じりあったものですが、音色的には余り魅力のないイギリスのオケから音楽の香りを大いに漂わせているのが素晴らしいです。バス歌手のワードの歌い方がオーバーで古めかしく感じますが、全体としては「中庸の美徳」を感じる優れた演奏だと思います。

Beethoven160 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1962年録音/グラモフォン盤) カラヤンが1960年代に録音した交響曲全集に含まれます。ベルリン・フィルの音がフルトヴェングラー時代の暗い響きから変化してゆく予感は、既に金管の明るい鳴り方に表れています。テンポも速く颯爽としていて、ドイツ的な重厚さとは異なります。しかしラテン系の小股の切れ上がった軽い演奏とも異なり、その後の現代的な演奏スタイルの先駆けだったということです。ヤノヴィッツ、ベリーの独唱も優れますし、管弦楽と合唱と一体になった熱演は見事です。録音は幾らか鮮度は落ちているものの、鑑賞するには充分の音質です。

B71zzvg57upl_ac_sl1432__20211129013101 カール・ベーム指揮バイロイト祝祭管(1963年録音/オルフェオ盤) ワーグナーの生誕150年、没後80年記念演奏のライブです。モノラル録音ですが広がりや臨場感が有るので聴き易く、かなり良好の音質です。木管や低弦、ティンパニなどの音が明瞭で力強く響きます。ベームの指揮はもちろんフルトヴェングラーの山あり谷あり波乱万丈型とは違い、基本的にインテンポで造形感を強く感じさせます。しかし実演で燃えて鬼神となるベームの本領を発揮していて、エネルギー感が半端有りません。全楽章ともテンポは速めで迫力を強く感じさせ、爆発する推進力と重厚感がここでは見事に両立しています。(より詳しくは<関連記事>参照)

426カール・シューリヒト指揮フランス国立放送管(1965年録音/Altus盤) シューリヒトの第九はEMIへの全集に当然含まれていますが、この人らしいカッチリ感は有るものの録音の古さからそれほど感銘は受けていませんでした。その点、このパリのライブはとても最晩年とは思えない躍動感と気迫に満ちていて圧倒されます。優秀なステレオ録音なので管楽器やティンパニの音の威力が半端でありません。終楽章の音楽の流れとアンサンブルが幾らか雑に感じられますが、それもライブ感と思えば許せます。シューリヒトファンには必聴の名演奏です。

Beethoveb-19-075 オイゲン・ヨッフム指揮コンセルトヘボウ管(1969年録音/フィリップス盤) ヨッフムの三つの全集盤のうち二度目の全集に含まれますが、管弦楽がとびきり魅力的です。優秀さもさることながら、ドイツの楽団の堅牢さとはまた異なる豊穣の香りが漂います。全体的にどっしりとしていて風格が半端有りません。第1楽章は幾らか落ち着き過ぎて、更に熱気が欲しい気はします。2楽章は立派ですが退屈させません。しかし3楽章の美しさと崇高さこそは白眉です。終楽章も狂乱とは別の、じわりじわりと徐々に高揚してゆく堂々たる演奏です。合唱は優秀ですが、ソリストは普通に感じます。音質はフィリップス録音なので安心です。

Cci00059 ハンス・シュミット-イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1970年録音/ターラ盤) このCDはステレオ盤の方です(別のモノラル盤も有ります)。多少のざらつき感は有りますが奥行きの有る良好な録音なのが嬉しいです。どうもこの人はスタジオ録音の場合の柔和なイメージが強く、かなり誤解されているようです。ライブでも虚飾の無い実直なスタイルに変わりはないですが、力強さがまるで違うのです。この演奏も3楽章だけはあっさりしていますが、その他の楽章は非常に彫りが深く、剛健な北ドイツ放送響の音を充分に楽しめます。DECCA録音のあの穏やかなウイーン・フィル盤とは次元の異なる貴重なCDです。 

41f7t1kscml__sl500_aa300_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) 30年以上も前になりますが、学生時代に聴いた時には、フルトヴェングラーに比べて生ぬるさを感じてしまい、余り気に入りませんでしたが、現在改めて聴き直してみると、演奏の素晴らしさに深い感銘を受けます。何と言ってもウイーン・フィルの響きが美しいですし、音の緊張感にも決して欠けたりはしていません。テンポは遅いですが大伽藍のようにスケールが大きく、立派なことこの上なく、安心して音楽に身を任せられます。やはりベームは偉大な指揮者でした。合唱もソリストも素晴らしく、ベームの第九としては’63年のバイロイト盤と並ぶ代表盤だと思います。

Beethoven9 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1976年録音/DENON盤) ノイマンは手兵チェコ・フィルとも、単独でも何度も来日しました。この第九は東京文化会館でのライブ演奏です。この第九は引き締まったテンポでストレートな良い演奏だと思います。元々チェコ・フィルの音は透明感が有りますが、金管全般とりわけトランペットを強く奏させるので、ドイツのオーケストラのように管楽器と弦楽器が溶け合う響きとは違って聞こえますが、それが逆に新鮮に感じます。(<関連記事>参照)

Beethoven61ixvmnm5fl_sl1400_ ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1976-77年録音/グラモフォン盤)  カラヤン全盛期の70年代の録音だけあって音のコントロールが凄いです。オケも合唱も、ソリストまでも、それらすべての響き、音をカラヤンが彫琢の限りを尽くした驚くべき演奏です。しかし、果たしてこの音楽に込められたベートーヴェンの魂は、人類愛への祈りはどうかということですが、残念ながら余り感じられません。この曲を一つの「サウンド」として聴く分には大変感心出来ますが、それでは「第九」を聴く意味が有りません。また合唱の録音が、各パートの上手い歌い手を中心にマイクで拾っている印象ですので全体の壮大さを感じません。言葉を明瞭に聴かせるための方策なのでしょうか。テノールのシュライヤーまでもが何となく窮屈な歌唱に感じてしまうのは気のせい?

51emypxegplレナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1979年録音/グラモフォン盤) 写真は海外全集盤ですがもちろん単独でも出ています。昔はフルトヴェングラーに比べて随分スッキリしていると感じましたが、ベーレンライター版の普及した今の時代に聴けば、それなりに重さも有る立派な演奏です。要所で音にタメを作るのも巨匠風ですが、全体には推進力、生命力が溢れていてバランスの良さを感じます。何といってもウイーンフィルの音は大変美しいですし、合唱にも熱がこもっていて聴き応えが有ります。但しソリストについては余り感心しません。

Beethoven_9__sl500_ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ドレスデン国立歌劇場管(1979/80年録音/キング盤) 録音された1970年代はSKドレスデンが多くの名人奏者を抱えていた時代で、ドイツ音楽ではウイーン・フィル以上に魅力的な音を響かせていました。ブロムシュテットは元々強い個性を感じる人ではありませんが、ここでは極上のオーケストラがまるで自然に鳴っている印象です。特別に深刻なドラマは有りませんが堅牢な造形を持つ素晴らしい演奏です。合唱団もソリスト陣も充実していますし、この楽団のいぶし銀の音のファンにとってはかけがえの無い演奏です。(より詳しくは<関連記事>参照)

Beethoven-gvyb6hl_ac_ カール・ベーム指揮ウィーン・フィル(1980年録音/グラモフォン盤) 驚くことにベームは亡くなるか月前に再び第九のセッション録音を行い、最後のレコーディングとなりました。どの楽章も極めて遅いテンポで、スケールが大きいと言えば大きいですが、‘72年盤と比べると緊張感が明らかに減衰しています。しかし終楽章で「歓喜の歌」を弦楽が奏でるところは、ベームと楽団との最後の別れのような一種独特の雰囲気が漂います。ベームの希望でノーマンやドミンゴをソリストに起用したらしいですが、’72年盤のような統一感が無く、少しも良いとは思えません。合唱も録音の影響も有るのか感動が今一つです。 

Beethovenimg_1318_20230503151801 ロブロ・フォン・マタチッチ指揮チェコ・フィル(1980年録音/ハルモニア・ムンディ盤) これは珍しいチェコ語で歌われた演奏です。「プラハの春音楽祭」でのライブで、合唱もソリストも全員チェコの演奏家により歌われています。マタチッチの指揮は全体的に速めのテンポで進み、ルバートや音のタメはほとんど有りませんが、豪快な生命力、熱量の大きさが凄いです。3楽章も速めですが、非常に神々しく深い味わいが有ります。4楽章は気迫に溢れますが、歓喜の歌のトランペットが、やや耳障りです。そして、チェコ語で歌われる歓喜の歌は、初めて聴くと違和感が有りますが、二度、三度と聴くと慣れてしまいます。PRAGAによる録音と思われる明瞭な音ですが、マスタリングが高音域強調型でキンキンするのが残念です。(より詳しくは<関連記事>参照)

51pzbz147zl_ac_ オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1982年録音/DENON盤) スウィトナーの交響曲全集に収録されています。この人らしいドイツの伝統に沿ってはいても、新鮮さを失わない演奏です。SKベルリンの響きもドイツ的に溶け合っていて非常に美しいです。1楽章は速めで推進力がありますが、せかついた感じはしません。聴きごたえがあります。2楽章は速めで切れが良く、第3楽章は非常に美しく、心が洗われるようです。終楽章はことさら劇的に構えることなく誠実に熱演しています。(より詳しくは<関連記事>参照)

287 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1982年録音/オルフェオ盤) クーベリックも実演になると相当に人の変わる指揮者でした。スタジオ録音でも大抵バランス良くまとめてはいましたが、ライブの激しさを知るファンにとってはどうも物足りなさを感じることが多かったです。「第九」も同じバイエルン放送響とのセッションによるDG録音が有り、とてもよい演奏でした。ですが、やはりこのマエストロはライブ盤で聴きたいと思います。これは非常に素晴らしい演奏です。第1楽章の気迫、ドラマはフルトヴェングラーに中々迫りますし、第3楽章、第4楽章の弦のしなやかな美しさは非常に魅力的です。録音は優秀ですし、合唱もとても良く録れていて非常にスケールが大きいです。

915cztpneol_ss500_ ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ドレスデン国立歌劇場管(1985年録音/Profile盤) これは第二次大戦のドレスデン爆撃によって崩れ落ちたゼンパーオーパーが再建された際の記念コンサートのライブ録音です。特別な演奏会だからかブロムシュテットとしては、かなりの気迫と熱気を感じます。我を忘れて造形性を崩すようなことは決して有りませんが、音そのものに非常に力が有ります。全体的に比較的速めのテンポで進みますが、このオケの充実した響きが聴かれます。素晴らしいのは終楽章で、特に合唱が入ってからは感動的な盛り上がりを見せて、そのままフィナーレへと雪崩れ込みます。録音も非常に優れています。

61hxjeuu3jlクラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル(1986年録音/グラモフォン盤) これはアバド最初の「第九」録音で、ウイーンでのライブです。全体は幾らか遅めのテンポでスケールの大きさを感じますが、気迫のこもった管楽器や打楽器の音に気分を高揚させられます。3楽章も沈滞することなく静かに祈りを聴かせてくれます。終楽章も秀演なのですが、バリトンのプライの歌唱がオペラ的なのと、テノールのヴィンベルイが最初のマーチ部分を余りにアクセントを強調し過ぎて歌うのが気に入りません。聴きどころなので大きなマイナスです。しかしそれ以外は実に素晴らしい演奏です。

91wmcdauwbl_ac_sl1500_ ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管(1987年録音/フィリップス盤) これは全集盤に収められていますが、単独盤も出ていると思います。オーケストラの響きと上手さが最高で、それを柔らかく捉えた録音が素晴らしいです。テンポは平均的で思わせぶりな音のタメが無くサクサクと進みますが、聴き応えは有ります。特に第三楽章までが素晴らしく、ハイティンクを見直します。終楽章も好演なのですが、セッション録音の欠点で、演奏のまとまりは良いものの少々クール過ぎて魂の高揚が余り感じられません。

51facl7ssjl__sy300_ クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン響(1987年録音/Weiblick盤) これはベルリン市制750周年を記念した祝賀演奏会のライブです。ザンデルリンクというとブラームス演奏でのイン・テンポで巨大な造形を構築する印象が強いですが、この第九では立派には違いないのですが、フォルテは激しく、アクセントも強調され、テンポの揺れも感じられます。極めてドラマティックな演奏です。第1楽章から激しく高揚してティンパニの強打に驚きます。第2楽章も激しさに興奮します。第3楽章は一転して静寂の気分一杯となり美しいです。終楽章も主題の歌わせ方の大きさに圧倒され、オーケストラと合唱の白熱ぶりは非常に素晴らしいです。録音も生々しさが感じられて良いです。(より詳しくは<関連記事>参照)

Cci00057 カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ベルリン・フィル(1989年録音/グラモフォン盤) ジュリーニは不思議な指揮者で昔からイタリア的でもドイツ的でもない。何を振ってもジュリーニ的なのです。ベルリンPOも既にインターナショナルオケ化した後なのでこの演奏は決してドイツ的な音ではありません。第1楽章は遅めのテンポですが暗さは無く、およそ「苦悩」という雰囲気は生まれてきません。第3楽章も流麗で美しいですが神秘的ではありません。終楽章の合唱は力みの無いあっさりしたものです。後半になると少しも熱くならずにスケール大きく包み込むという、いかにもジュリーニ的な演奏です。

Beetho9_neu ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1989年録音/スプラフォン盤) これはビロード革命による民主化実現の年にプラハで開かれた記念コンサートのライブです。民主化を推進したハヴェル大統領も訪れて歴史的なコンサートとなりました。東京ライブに比べてテンポが遅めになり、見得を切る音のタメと間の取り方が「フルトヴェングラー的」です。チェコ・フィルはやはり澄んだ響きですが、東京ライブほどに金管が浮き上がらないので、ドイツ的な厚い響きに近いです。独唱陣と合唱も勝利と平和の祈りに満ち溢れていて感動的です。(<関連記事>参照)

X61evssmagl_ac_ レナード・バーンスタイン指揮バイエルン放送響、シュターツカぺレ・ドレスデン、ニューヨーク・フィル、ロンドン響、キーロフ管、パリ管(1989年録音/グラモフォン盤) 歴史的な“ベルリンの壁の崩壊”の年の12月25日に東ベルリンで行われた特別クリスマス・コンサートの記録です。西独、東独、アメリカ、ソ連、イギリス、フランスという6つの国の代表的なオーケストラの団員が合同で演奏をして、それに英米のソリストと東西ドイツの合唱団が参加しました。正に歴史的な第九ですが、バーンスタインは終楽章の歌詞の“フロイデ(喜び)”の部分を“フライハイト(自由)”に替えて、自由を勝ち取った喜びを示しました。 バーンスタインはこの時すでに肺ガンに冒されていたにもかかわらず、演奏はゆったり目のテンポで極めて立派で、気迫が籠った指揮ぶりに心を打たれます。オーケストラも臨時とは思えないようなアンサンブルで、流石は世界の一流が集まっています。録音は残響が多く、ホール後方席で聴くようですが雰囲気は有ります。バーンスタインは翌年1990年10月14日に亡くなりますが、その数日前の10月3日には東西ドイツが再統一されました。それを見届けて安心して天国に行ったことでしょう。

511zvlveddl クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィル(1992年録音/LPO盤)  テンシュテットの最後の活動時期のライブです。既に病魔に侵されて、死を目の前にしていたにもかかわらず、これほどの演奏が出来るとは驚きです。第1楽章冒頭から凄まじい迫力と集中力を感じます。全ての音に何と命がこもっていることでしょう。第3楽章ではゆっくりと、まるで時が止まっているような印象を受け、テンシュテット自身とオーケストラメンバーたちが一緒に音楽が出来る時間が残り少ないのを惜しんでいるかのようです。終楽章も凄まじいばかりの鬼気迫る熱演です。ティンパニや金管が部分的に騒々しく感じられるのだけはマイナスです。歌手陣と合唱は非常に優れています。(より詳しくは<関連記事>参照)

51apmt2mpclサー・コリン・デイヴィス指揮ドレスデン国立歌劇場管(1993年録音/フィリップス盤) 交響曲全集に含まれますが、このオケのいぶし銀の響きは健在です。ウイーンの流麗な柔らかさとは異なり、ドイツ的なガッチリしたリズムの上でマルカートに奏される音は少しも変わりません。それでいて得も言われぬ情緒感をそこはかとなく感じさせるのがこのオケの素晴らしさです。デイヴィスの指揮も堂々としたテンポ感で大きな造形を構築していて見事です。終楽章の合唱以降がテンポを全く煽らずに物足りなさを感じますが、そのままフィナーレまでじわりじわりと盛り上げてゆき最後は素晴らしい充実感を与えます。落ち着いた大人の為の極上の「第九」、そんな印象を受けます。

51kr7idozvlダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管(1999年録音/テルデック盤) 交響曲全集に含まれますが、この第九はスケールの大きな名演と言って良いと思います。バレンボイムが若いころフルトヴェングラーを尊敬していたのは有名ですが、確かにこの演奏にも影響が見え隠れします。全体的にじっくりとしたテンポでフォルテでグッと気迫を込める1楽章が特に印象的です。3楽章の天国的な感じも良いです。終楽章はスケール感は有るものの白熱度では先人に遠く及びません。合唱も悪くないですが、唯一テノールの独唱にややクセが感じられるのがマイナスです。

2002_recording_emiサイモン・ラトル指揮ウイーン・フィル(2002年録音/EMI盤) ベーレンライター版による第九です。快速テンポで進むかと予想していると意外に中庸な速さです。キメ所では十分に音をタメますし、昔の巨匠好きな自分にも満足を与えてくれます。管楽器や打楽器の端々での強調も非常に効果的です。ウイーン・フィルの弦の甘いヴィヴラートはかなり抑えられていますが、音色の美しさは変わりません。またコーラスにバーミンガム市響合唱団を起用したのは、精密なアンサンブルとハーモニーを狙ってのことだと思いますが、それが見事に当たっています。神々しい演奏だとは思いませんが、何度繰り返し聴いても新鮮で耳を奪われます。

Beethoven-19-vnlx8kwgl_ac_sl1500_ リッカルド・シャイー指揮ゲヴァントハウス管(2008年録音/DECCA盤) 全集盤で所有しますが、分売もされています。楽譜はペータース版を基にした折衷版です。終楽章に児童合唱団を加えているのはユニークな試みです。演奏はベートーヴェン指定のテンポを採用とありますが、ということはかなり快速で全体の演奏時間は63分です。シャイーらしい弾むリズムと明るくスッキリとした響きで、打楽器や金管をいたるところで強調させる現代的なスタイルには、古のゲヴァントハウス管の趣は皆無です。「歓喜の歌」も壮大さよりは生命力が全面に出ています。決してラテン的な軽過ぎる演奏ということは無いので、重々しくない第九を求められる方にはお勧めです。

Beethoven51dk5cyajwl クリスティアン・ティーレマン指揮ウイーン・フィル(2010年録音/SONY盤) 全集盤からの分売なのですが、これが中々に良い演奏です。フルトヴェングラーのような凝縮された音での鬼気迫る域には及びませんが、むしろ解放されて豊かに広がる響きでスケールの大きさを感じます。もちろんドラマティックさも、熱さも充分に有りますが、「激しさ」よりは「大きさ」を強く感じさせます。3楽章の表情豊かな弦楽の美しさは特筆ものです。終楽章の主題が最初に弦で奏されるところも非常に美しいです。合唱も美しく、モノラル録音のフルトヴェングラーは別格としても、ジュリーニや、クーベリック、シュミット-イッセルシュテットなどのステレオ録音の名盤に引けを取らない素晴らしい演奏の一つだと思います。

最後に古楽器オーケストラのCDも上げておきます。

Beethoven-19-aidmmnl_ac_ フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ(1992年録音/フィリップス盤) 全集盤に含まれます。フルトヴェングラーに代表されるロマン派然とした20世紀の巨匠達の演奏とは正反対のスタイルです。テンポは速く、リズムの念押しやルバートも無いのでサクサクと小気味良く進みます。もちろんノン・ヴィブラートの古楽器奏法で、楽器の音は古雅ですが、演奏自体はベートーヴェンらしい気迫が籠っていて充分に聴き応えが有ります。むしろロマン派の手垢が拭い去られた感が有って新鮮です。ユニークなのは声楽で、歓喜の歌のソロも合唱も抑制して厳かに歌い、まるでミサ曲のような趣です。多様性の求められる時代に耳が遅ればせながらも、ようやく面白さを感じています。

Beethoven-19-ga08hkoll_ac_ ジョン・エリオット・ガーディナー指揮オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク(1992年録音/アルヒーフ盤) 全集盤に含まれます。1楽章のテンポは驚くほど速く、まるでリニア新幹線の如し。アクセントやダイナミクスを鋭く駆使しながら爆走するのに潔さすら感じますが、凄まじい迫力です。2楽章は意外と精密でキリリとしています。古楽器に難しいのはやはり3楽章で、どうしても音楽が痩せて感じられてしまいます。しかし終楽章は、肥大化しない古典的な表現が新鮮です。ソリストも合唱もその解釈に忠実で、管弦楽との統一感が素晴らしいです。展開部の突き進むスピード感は爽快で、フィナーレは壮麗です。この全集に共通しますが、録音はバランス、明瞭さが極上です。

こうして並べてみると、重量級の演奏が多く並んでいます。僕の好みははっきりしていてドイツ的で重厚かつ激しい演奏が好きなのです。重厚なだけでも激しいだけでも駄目なのです。そうなると演奏は案外絞られます。フルトヴェングラーの中ではバイロイト盤とルツェルン盤が双璧。ウイーン・フィルとの録音では’53年のニコライ記念盤をとります。 

フルトヴェングラー以外で是非お薦めしたいのは、1にイッセルシュテット/北ドイツ放送響、2にクーベリック/バイエルン放送響ですが、トスカニーニ/NBC響、ベームのバイロイトおよびウイーン・フィルの’72年盤、ワルター/コロムビア響などもお薦めしたいです。歴史的な演奏ではやはりバーンスタインのベルリンの壁崩壊記念ライブにとどめを刺します。

それでは皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。

 <補足>
フルトヴェングラーのルツェルン盤を書き換えました。バイロイト54年盤を追記しました。
また、アーベントロート、クレンペラー、ミュンシュ、モントゥー、ヨッフムの二種、カラヤンの二種、ベームのバイロイト63年盤と80年盤、シューリヒト、バーンスタインの二種、スウイトナー、ブロムシュテットのライブ盤
アバド、ハイティンク、ザンデルリンクのライブ盤、ノイマンのライブ二種、テンシュテットのライブ盤、C デイヴィス、バレンボイム、ラトル、シャイー、ティーレマン盤、ブリュッヘン盤、ガーディナー盤を追加しました。

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