モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第01~9番)

2011年6月13日 (月)

モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノーム」変ホ長調K.271 名盤

モーツァルトのピアノ協奏曲第8番「リュッツォウ」は、このジャンルで飛躍的な進歩を遂げた最初の傑作だと思いますが、続く第9番「ジュノーム」はそれ以上の傑作です。第10番までが生まれ故郷ザルツブルク時代の作品なのですが、その中で最も充実した作品と言えば、やはりこの第9番であるのは間違いありません。この協奏曲は、フランスの女流ピアニスト、ジュノーム嬢がザルツブルクを訪れた際にモーツァルトが彼女に献呈したと言われてはいましたが、具体的にそれがどこの誰なのかは、長い間、判らなかったらしいです。それが判明したのは何と2004年になってのことで、ジュノームというのはモーツァルトの友人でフランス人舞踏家ジャン・ジョルジュ・ノヴェルの娘のヴィクトワール・ジュナミのことだそうです。彼女が相当なレベルの腕前だったのは、この曲に要求される技巧でも明らかです。この曲は音楽的な内容も凄く大胆で新鮮に感じます。後期の20番台の曲を含めても、コンサートでの演奏回数の非常に多い曲です。

第1楽章アレグロは、オーケストラの第1主題に応えてピアノがさっそうと登場するイントロが非常に印象的です。続く部分も勇壮でありながら優美な趣を持つ素晴らしい楽章です。

第2楽章アンダーティーノはハ短調で、弦楽器が寂寥感に満ちた旋律を奏でます。続いてピアノが淡々とモノローグのように歌います。まるで後期のような深さがあります。

第3楽章ロンド・プレストは若さが爆発するような情熱を感じます。それでいて貴族に献呈した曲であるかのような気品の高さを失いません。

この曲にはモーツァルト自身が書いたカデンツァが何種類も残されているそうです。それはモーツァルトがこの曲を好んで何度も演奏したことを示す証拠なのでしょうね。

それでは僕の愛聴盤です。

1197111202 クララ・ハスキル独奏、ザッヒャー指揮ウイーン響(1954年録音/フィリップス盤) 昔は「モーツァルトといえばハスキル」という評判があって、色々と聴いてみました。結果、確かに気に入った演奏も有りましたが、全般的にピアノの音がどうも冴えない気がしたのです。それはCDで聴いても感じます。何故かオフマイクのまるで風呂場で録音したような風なのです。でも今ではハスキルの音が本当は美しい(はずである)ことはよく判ります。現代の電子楽器のような無機的な音とは全く異なる、木箱であるピアノ本来の自然な響きの音なのです。それが一部の録音を除いて中々聴けないのが残念です。この録音もしかりですが、人間の肌のぬくもりを感じさせる演奏が心をとても和ませてくれます。

671 ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1968年録音/グラモフォン盤) 全集盤からの演奏です。アンダの演奏は速過ぎも遅過ぎもしないテンポで本当に凛としていて、まるで小さな耳を真っ直ぐに立てた柴犬のようです。飼い主に媚びないけれども、どこまでも忠実で誠実なそれです。技術が確かなので余裕をもって一音一音を実になめらかに弾き切れます。それも常に音楽に誠実な心の裏付けがあります。2楽章などは心のこもっている点で非常に感動的です。また、ピアノの音が余り現代的で無いのにも好感が持てます。オーケストラも表情が豊かで、アンダの指揮のセンスの良さには舌を巻きます。

262 フリードリッヒ・グルダ独奏、ベーム指揮バイエルン放送響(1969年録音/オルフェオ盤) ミュンヘンでの両者の共演ライブです。グルダのピアノはスタッカートで短めに切る音が多いです。個人的には少々スッキリし過ぎのように感じてしまいます。ベームの音も同様に引き締まった低脂肪の演奏なのですが、味わいが損なわれないのはさすがだと思います。できればウイーン・フィルを指揮したベームの伴奏で聴いてみたかったです。

2edebf2ef962870ed7a190d588ced904 ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1973年録音/EMI盤) EMIの全集盤に含まれています。1楽章は幾らかテンポを遅めに取って、じっくりとこの曲の典雅さや優美さを表現しています。ですので聴き手によっては、もたれると感じる人も居るかもしれません。2楽章のモノローグも淡々と味わい深いです。3楽章は一転して速く活力に溢れます。それにしてもイギリス室内管は優秀で、バレンボイムの指揮も繊細で美しいです。

Fi2546314_0e アンネローゼ・ シュミット独奏、マズア指揮ドレスデン・フィル(1978年録音/独edel盤) どの曲にも共通しているのですが、シュミット女史とマズアの演奏は勝手にルバートをしたりしない、堅実でオーソドックスなものです。極めて古典的と言えるのかもしれません。終楽章などはテンポ速めですが、浮ついた印象は有りません。全体的にハッとするような面白さは無いですが、退屈な演奏かというと、そんなことは無く、非常に安心して聴いていられます。曲の良さも充分に伝わってきます。むしろ最初に聴くには一番良い演奏なのかもしれません。

Mozart_serkin ルドルフ・ゼルキン独奏、アバド指揮ロンドン響(1981年録音/グラモフォン盤) BOX選集に含まれています。第1楽章はハスキル以上に遅いテンポで非常にゆったりしています。所々でルバートを効かせるので尚更です。けれども深い呼吸が自分のものになっていているので、違和感は感じません。但しアバドの方は、この遅さに幾らか窮屈そうです。第2楽章は深い悲しみの表情が秀逸で非常に心を打たれます。第3楽章も遅いですが、生命力を失うことなく堂々と風格を感じる演奏です。

Felista_00000448546 ジャン=マルク・ルイサダ独奏、メイエ指揮オルケストラ・ディ・パドヴァ・エ・デル・ヴェネート(2001年録音/RCA盤) この曲を贈られたフランスのピアニストの演奏です。いかにもルイサダらしい、とても繊細でニュアンスに溢れたピアノです。ピアノの音は現代的なのですが、テンポに充分落ち着きが有って表情が豊かなので少しも無機的に感じません。しかもそれが少しも演出臭く無いのです。この人はやはり本当の音楽家だと思います。ショパン演奏はもちろん素晴らしいですが、モーツァルトも実に素晴らしいと思います。メイエの指揮は手堅いものです。

というわけで、僕はこの曲に関してはアンダを一番好んでいますが、バレンボイムやゼルキンやルイサダもとても好きです。フランス人の演奏として聴きたかったのは若いころのエリック・ハイドシェックなのですが、残念ながら録音は有りません。

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2011年6月 8日 (水)

モーツァルト ピアノ協奏曲第8番「リュッツォウ」ハ長調K.246

モーツァルトは第7番「3台のピアノのための協奏曲」K.242に続いてすぐにピアノ協奏曲第8番K.246を作曲しました。この曲もまた、ザルツブルクの貴族からの依頼で作曲しました。依頼主はリュッツォウ伯爵夫人ですので、この曲は「リュッツォウ・コンチェルト」と呼ばれています。そのリュッツォウ伯爵夫人はザルツブルクのコロレド大司教の姪にあたる人なのですが、ピアノをモツパパのレオポルトに習い、音楽に中々の才能を示したようです。

伯爵夫人のために書かれた曲なので、ピアノのパートは比較的易しく書かれています。けれども曲想は非常に魅力的です。5番、6番も素晴らしかったですが、モーツァルトの才能が飛躍的に進化して花開いた作品はこの第8番です。一般的には、よく第9番「ジュノーム」がピアノ協奏曲の最初の傑作というように述べられますが、僕はこの8番こそが最初の傑作だと思います。

曲の内容については以下の通りです。

第1楽章 アレグロ・アペルト この曲で最も魅力的な楽章です。天空に舞い上がるかのような生命力が素晴らしいです。ピアノとオーケストラの掛け合いに迫力を感じます。

第2楽章アンダンテ この楽章は非常に美しく、心に迫りくる何かが有ります。

第3楽章ロンド、テンポ・デ・メヌエット ピアノのソロで開始する非常に優美で美しい音楽ですが、終楽章としては幾らか物足りない気もします。但し、それは初期のモーツァルトの曲に案外多く見られるパターンです。

それでは、僕の愛聴盤です。

41h5p5kghfl__sl500_aa300_ ウイルヘルム・ケンプ独奏/ライトナー指揮、ベルリン・フィル(1962年録音/グラモフォン盤) 第1楽章は、ゆったりとしたテンポで進みます。ケンプはおよそ「切れの良さ」を感じない大時代的なピアノですが、逆に現代では決して聴くことが出来ない「ゆとり」を感じます。これは非常に得難いです。第2楽章は意外にあっさりと流していますが、味わいは深く、正に至芸と言えます。そして第3楽章の優美なことはこの上ありません。日本のオールドファンにはおなじみのライトナーが指揮する当時のベルリン・フィルも落ち着いた音色が美しいです。

671 ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1968年録音/グラモフォン盤) 全集盤からの演奏です。相変わらず、硬質で素朴なピアノの音は個性的ですが僕は好きです。第1楽章では突き進む推進力が非常に素晴らしいです。かと言って決して速過ぎるようには感じません。テンポ設定が抜群だと思います。2楽章と3楽章は逆に遅めのテンポで一音一音を慈しむような弾き方です。典雅な表情付けとニュアンスの変化が実に見事です。

2edebf2ef962870ed7a190d588ced904 ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1973年録音/EMI盤) EMIの全集盤に含まれています。バレンボイムはこの曲でも全体にテンポを遅く取って、典雅さや優美さを醸し出しています。その為に、第1楽章などは天馬空をゆく勢いが薄れてしまいました。2、3楽章では魅力を発揮しますが、聞かせどころの1楽章でマイナスポイントは痛手です。この曲でもピアノのフィンガリングには幾らか凸凹を感じさせます。

Fi2546314_0e アンネローゼ・ シュミット独奏、マズア指揮ドレスデン・フィル(1977年録音/独edel盤) 全体的にテンポが速めです。ピアノもオーケストラも歯切れの良さと爽快感は見事なのですが、ちょっと速過ぎのような気がします。2、3楽章もずっと速めで通すので、典雅さや優美さの味わいが欠けてしまいました。実に端正でスッキリしているので、ロココ調というよりはバロック調、と言い方も出来るのかもしれません。

Mozart_serkin ルドルフ・ゼルキン独奏、アバド指揮ロンドン響(1982年録音/グラモフォン盤) ゼルキンが晩年にアバドと録音した演奏のBOX選集に含まれます。第1楽章はケンプ以上に遅いテンポでゆっくりです。これは幾らなんでも遅過ぎかなぁと思いますし、この曲の持つ「天馬空を行く」雰囲気は全くありません。ピアノの切れもケンプ以上に有りません。けれども第2楽章や第3楽章の中間部で聞かせる沈み込む雰囲気は、老境のゼルキンならではでユニークです。個性的な演奏として価値が有ると思います。

というわけで、僕はこの曲に関してはケンプとアンダを好んでいます。

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2011年6月 2日 (木)

モーツァルト ピアノ協奏曲第7番「3台のピアノのための協奏曲」ヘ長調K.242

ピアノ協奏曲第6番に続いて作曲されたのは、「3台のピアノのための協奏曲」です。この曲は、ザルツブルクの名門貴族ロードゥロン伯爵の夫人アントニーナと2人の令嬢のために書かれました。最初の版の献辞には、「貴婦人であるロードゥロン伯爵夫人と、その令嬢たち、アロイジアとジュゼッピーナに。彼女たちの最も献身的な召使いヴォルフガング・モーツァルト。」と記述されていたそうです。

各ピアノ・パートは3人の技量に合わせて書かれているので、第1と第2ピアノはある程度難しく、第3ピアノはかなり易しく書かれています。そのわけは第3ピアノは未熟なジュゼッピーナ用だったからです。

さて、3台のピアノ協奏曲と言うと随分華やかな音をイメージしますが、実際は、曲が伯爵親子の為に書かれた社交的な内容なので、そこには3台のピアノで演奏しなければならない音楽的な必然性は全く無いと思われます。それにモーツァルトにしては、この曲は特別な傑作とも言えません。ただ、だからといって駄作というわけでもありません。聴いていて楽しく美しく、とても心地の良い音楽です。モーツァルトのピアノ協奏曲に駄作は1曲たりとも存在しないのです。彼自身も、この曲は何度か演奏したそうです。

それにしても、第1番から4番までの習作と、この「3台のピアノのための協奏曲」や、第10番「2台のピアノのための協奏曲」を、どうして全集に含めないのかなぁ、と思うのですが。

第1楽章アレグロは、本当に楽しいです。パトロンと一緒に楽しくピアノを奏でるウォルフィの姿が目に浮かぶようです。

第2楽章アダージョは、非常に美しい音楽です。この楽章だけ取り出して聴いても、うっとりとさせられます。

第3楽章テンポ・ディ・メヌエットでロンド形式ですが、通常のフィナーレのような躍動感は無く、実に優雅です。いかにも伯爵令嬢たちのために作られたという印象です。

この曲は全集盤にはほとんど入っていないので、僕の所有するCDは一つだけです。

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ダニエル・バレンボイム、ウラジーミル・アシュケナージ、フー・ツォン独奏/バレンボイム指揮イギリス室内管(1972年録音/DECCA盤)

この曲には、ピアノ演奏にカラヤンやショルティが参加したものや、元ドイツ首相のシュミット氏が参加したものなどと、楽しいものが様々です。けれども、この3人の名手の演奏の美しさは格別です。元々曲が、独奏者が張り合うようには書かれていないので、音だけで聴いていると、僕にはどれが誰のピアノなのだかは分かりません。どの音も綺麗でうっとりだからです。3人が心から楽しんで弾いている雰囲気でいっぱいです。指揮をしているのはバレンボイムなのですが、ピアノも含めて余りバレンボイムらしい粘り気は感じません。とてもサラリとしているので、これはアシュケナージの音のイメージです。たぶんバレンボイムがアシュケナージに合わせたのでしょうね。それにしても、この美しい演奏で聴いていると、本当はこの作品は傑作だったのではないかと思えてくるから不思議です。

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2011年5月26日 (木)

モーツァルト ピアノ協奏曲第6番 変ロ長調K.238 

モーツァルトは17歳の1773年に、初自作のピアノ協奏曲第5番を作曲しましたが、それからまた3年間はピアノ協奏曲を作曲しませんでした。けれども、20歳となる1776年から翌1977年にかけて、第6番から第10番までの5曲を立て続けに書き上げました。ここまでが、生まれ故郷ザルツブルク時代の作曲です。

その5曲のうち、第7番は「3台のピアノのための協奏曲」、第10番は「2台のピアノのための協奏曲」と変則です。ですので、独奏ピアノの協奏曲としては、6番、8番、9番となります。その中で第6番はかなり目立たない存在です。けれども、よく耳を傾けてみると、何ともチャーミングな曲なのです。女性的と言えないこともありませんが、それぐらい優雅で美しい曲だと思います。

第1楽章アレグロは力強さよりも、優雅さを感じさせます。とても魅力的です。

第2楽章アンダンテ・ウン・ポコ・アダージョは、全体を幸福感が覆っていますが、モーツァルトとしては、特別に優れているとは感じません。平均的な出来栄えでしょうか。

第3楽章ロンド・アレグロは、愉悦感に溢れた本当にチャーミングな名作です。モーツァルト自身が「もう楽しくて仕方がない!」と感じているようです。この楽章は僕はとっても好きです。

それでは、僕の愛聴盤のご紹介です。第5番と演奏家は同じなのですが、お気に入りの演奏が異なるのは面白いです。

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ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1962年録音/グラモフォン盤) やはり全集盤に含まれています。この曲でも、素朴なピアノの音がとても好みです。硬質なのですが、現代の楽器の響きのように無機的な冷たさを感じることがありません。表情のニュアンスの変化は相変わらず魅力的なのですが、この演奏では特にテンポの良さが際立っています。決して速すぎることなく、曲の典雅な雰囲気がとてもよく生かされています。僕にとっては、ほぼ理想的な演奏に思えます。

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ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1973年録音/EMI盤) やはりEMIの全集盤に含まれています。バレンボイムは曲によってはテンポが遅過ぎて引き摺り気味なのが気になることがありますが、この曲ではそれが逆にプラスに働いています。それぞれのフレーズを心から慈しむかのようにゆっくり進めるので、この曲の持つ優雅さや愉悦感を倍増させる結果をもたらしています。ピアノのフィンガリングには幾らか凸凹を感じさせますが、独特の表現が何とも魅力的です。

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アンネローゼ・ シュミット独奏、マズア指揮ドレスデン・フィル(1977年録音/独edel盤) 全体的にテンポがかなり速めです。ピアノもオーケストラも歯切れの良さと爽快感は見事なのですが、この典雅な曲にしては、ちょっと速過ぎのような気がします。特に第2楽章などは味気なさを感じてしまいます。この曲に関しては、もたつくぐらいにゆったりとしたバレンボイムのほうがずっと好きです。

というわけで僕の好みでは、アンダ盤とバレンボイム盤を取りたいと思います。

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2011年5月21日 (土)

モーツァルト ピアノ協奏曲第5番 ニ長調K.175 ~記念すべき協奏曲~

ピアノ協奏曲の第1番から4番までの4曲は他人の曲を編曲した習作でしたが、それから6年後の17歳になって、ついにモーツァルト自身の作によるピアノ協奏曲を完成させました。それが、ピアノ協奏曲第5番 ニ長調 K.175です。従って、これは記念すべき作品なのです。一般には「まだヨハン・クリスティアン・バッハの影響を留めている」と評価される一方で、オリヴィエ・メシアンは「試作というには、あまりに見事な腕前」と評価しましたし、モーツァルト愛好家のアインシュタインも「独奏楽器とオーケストラの釣合、ならびに規模の点で、既にヨハン・クリスティアンをはるかに越えている」と絶賛するなど、多くの人に高く評価されています。使用楽器はトランペットとティンパニを加えるなど、非常に華々しく色彩的な響きになっています。

第1楽章アレグロは、天馬空を行くような曲で、若きモーツァルトがオーケストラを従えて、堂々とピアノを弾く姿が思い浮かびます。間違いなく初期の傑作だと思います。

第2楽章アンダンテ・マ・ウン・ポコ・アダージョは、音楽にそれほどの深みこそは有りませんが、翳りの無い幸福なモーツァルトそのものです。

第3楽章アレグロは、曲の素材自体には特別な閃きこそ感じませんが、天才的な編曲の上手さを感じます。音楽は誰も止められないような生命力に満ち溢れています。なお、有名な「ロンド」K.382は、ウイーンでの演奏の際に、新しい終楽章として書かれたそうですが、やはり原曲のほうがずっと良いように思えます。

モーツァルトはこの記念すべき協奏曲に相当に愛着を持っていたらしく、各地で繰り返し演奏しましたし、最晩年まで弾き続けていたそうです。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

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ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1968年録音/グラモフォン盤) 全集盤に含まれています。初期の曲の演奏で感じた左手の和音の荒さが気になりません。恐らくモーツァルトの書いた管弦楽の響きが充実したために、バランスが適度になったからなのかもしれません。やはり素朴なピアノの音が好ましいです。表情のニュアンスの変化も過度では無く、適量に感じます。オーケストラが音符ごとにきめ細かくスタッカートとレガートを弾き分けているのは、明らかにアンダの指揮のせいで、本職顔負けのセンスの良さを感じます。全体的に立派な演奏で、クリスティアン・バッハの影響から抜け出して、モーツァルト自身の堂々とした音楽になっている印象です。

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ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1969年録音/EMI盤) EMIの全集盤の中に含まれています。幾らか遅めのテンポで堂々と演奏される1楽章のオーケストラは、クリスティアン・バッハの影響ではなく、後期のモーツァルトかベートーヴェンをも感じさせます。但し、ピアノに関しては音の粒に重さを感じます。もう少し、音に羽の生えたような軽味が有る方が好みです。フィンガリングにも大雑把さを感じます。ところが2楽章では、逆に遅いテンポが生きています。何とロマンティックで音楽に深みを感じることでしょう。他の奏者とは別の曲を聴く趣が有ります。この楽章の演奏がある限り、このCDは外すことが出来ません。

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アンネローゼ・ シュミット独奏、マズア指揮ドレスデン・フィル(1977年録音/独edel盤) シュミットの全集には初期の4曲は無く、5番から収められています。録音当時はシュミットは堅実でも面白みのないピアニスト程度にしか思っていなくて、余り聴きませんでした。現在聴いても、堅実なのは間違いが有りません。一音一音を弾き飛ばすことなく、ドイツ的に確実に演奏しています。まるで譜面を見ながら聴いているような印象を受けます。けれども、これが無味乾燥でつまらないということでは決して無く、あくまでもスタイルの問題です。速めテンポの1楽章や3楽章の切れの良さと爽快感は見事ですし、マズアの指揮も含めて古典的に引き締まっていて、クリスティアン・バッハの影響を感じさせます。

とういうことで、この3つの演奏は、どれも捨てがたい魅力があります。

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2011年5月15日 (日)

モーツァルト ピアノ協奏曲協奏曲第1番~第4番(K.37、39、40、41)

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今回からは、モーツァルトのピアノ協奏曲の特集です。実は、僕がモーツァルトの素晴らしさに目覚めたのもこのジャンルでした。クラシックを聴き始めた高校生の頃は、モーツァルトの音楽は綺麗だけれども、どうも聴きごたえが無いように思っていました。それが大学に入ってすぐ、たまたま名曲喫茶で耳にしたピアノ協奏曲第27番(K.595)を聴いて、脳天に電気が走ったのです。それ以来、この人のピアノ協奏曲を順番に聴いていきましたが、どの曲をとっても魅力的に感じました。ですので、あの時は正に「目からうろこ」のきっかけだった訳です。それにしても、独奏ピアノがオーケストラを従えて華やかに演奏するピアノ協奏曲というスタイルは、モーツァルトの音楽の粋と魅力が最もストレートに表されているように思います。

神童モーツァルトにとって一番重要な楽器がピアノだっただろうということは、その作品の多さから想像がつきます。協奏曲の分野では全部で27曲有りますが、これはヴァイオリンや管楽器と比べると相当な多さです。けれども、驚かされるのは、およそ全ての曲が魅力的な作品であることです。もちろん第20番以降の素晴らしさは圧倒的ですし、10番台も傑作ばかりです。モーツァルトのシンフォニーは第41番まで有りますが、初期の作品が必ずしも飛び切り魅力的とは言えないのに対して、ピアノ協奏曲の充実ぶりは驚異的です。

1767年に、当時11歳のモーツァルトは生れ故郷のザルツブルクで4月から7月にかけてのわずか3か月そこそこの間に4曲のピアノ(クラヴィーア、あるいはチェンバロ)協奏曲を作曲しました。ピアノ協奏曲第1番から第4番(K.37、39、40、41)です。但しこれらは全て習作で、モーツァルト自身の作曲ではなく、他の人の作品の編曲です。譜面書きも、パパモツのレオポルトの協力が相当あったと考えられています。

4曲の原曲は楽章ごとに作曲家がまちまちですし、作品としてもチェンバロ・ソナタやヴァイオリン・ソナタなどと随分多彩です。ところが実際に聴いてみると、モーツァルトの作品として見事にまとまっていますし、非常に魅力的です。この4曲を全集の中に含めずに、5番以降のみを録音する演奏家も多く存在します。もちろん、それはそれで理解できるのですが、省いてしまうには余りに「もったいない!」作品ばかりなのです。

僕が、特に好んでいるのは、まず第1番K.37の第1楽章です。始まったとたんに、あの天馬空を行くようなモーツァルトのアレグロのとりこになってしまいます。そして、それ以上に愛してやまないのが、第4番K.41の第2楽章です。この緩徐楽章は、あの大傑作K.488の第2楽章を想わせるような哀愁が漂う、大変にロマンティックな音楽です。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

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ゲザ・アンダ独奏/指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム室内管(1968-1969年録音/グラモフォン盤) たしか世界で最初のモーツァルトのピアノ協奏曲全集だったと思います。ですので、オールド・ファンにはとても人気が有ります。御年配の方が、レコード店でこの演奏を絶賛していたのを記憶しています。アンダのタッチは素朴で硬質だと思いますが、音にメカニカルな感じが無く、有機的な肌触りを感じます。とくに、重くならない音での右手のスケールや音の粒立ちはとっても好きです。問題は左手の和音です。録音のせいなのかどうかは分りませんが、どうも荒く聞こえます。乱暴にさえ感じるこの音はどうしてなのでしょう。それ以外は、非常に良い演奏だと思います。モーツァルテウム室内管も、さすがはモーツァルトの生まれ故郷の楽団です。技術的に最上とは思えませんが、モーツァルトに対する愛情をとても感じます。もっとも、それはアンダが自ら指揮しているせいも有るのでしょうけれども。

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ダニエル・バレンボイム独奏/指揮、イギリス室内管弦楽団(1974年録音/EMI盤) EMIの全集盤の中に含まれています。バレンボイムはこの全集の後にベルリン・フィルとも新録音を残しましたが、そちらは、どうも演奏が脂ぎって聞こえます。その点、若い時代の旧録音は、ロマンティックな性格を持ちながらも、さほど脂ぎって聞こえません。むしろ厳格な型にはまらずに、自由に飛翔するようなピアノの印象がモーツァルトの音楽の本質にとても適していると思います。部分的に音の粒に凸凹を感じなくも有りませんが、基本的には軽妙なピアノ・タッチが実に心地よいです。それでいて、僕の好きな第4番K.41の第2楽章などでは、ロマンティシズム全開となっているのが、たまらない魅力です。イギリス室内管も優秀で、このような音楽を演奏させると抜群です。

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