チャイコフスキー(室内楽)

2013年1月27日 (日)

コーガン、ロストロポーヴィチ&ギレリスの「偉大な芸術家の想い出」

「偉大な芸術家の想い出」のクレーメルの新盤の記事を書いたところ、むしろ以前ご紹介した現在廃盤のコーガン、ロストロポーヴィチ&ギレリスによる歴史的演奏を聴いてみたいという声が多かったので、YouTubeで探してみました。
良質な音源を見つけましたので御紹介します。どうやらカナダのDremiレーベルを使用しているようです。もちろん1950年代のロシア録音ですので、ハイファイというわけにはゆきませんが、当時まだ30代だった3人の若き侍が真剣で切り合うような壮絶な演奏を聴くことが出来ます。

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2013年1月26日 (土)

チャイコフスキー ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出」 クレーメル新盤

ロシアと言えば、やはりチャイコフスキーでしょう。この人は、管弦楽曲や協奏曲のイメージが強いですが、室内楽にも弦楽四重奏曲「アンダンテ・カンタービレつき」や、ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出」という傑作が有ります。特に後者は、ピアノ・トリオのジャンルでは、ブラームスの第3番と並んで最も好きな曲です。ビル・エヴァンスのピアノ・トリオも好きですが、これはちょっと違いますね。(苦笑)

この曲については、随分前になりますが、「偉大な芸術家の想い出 名盤」、それに「偉大な芸術家の想い出 もうひとつの名盤」 と二度記事にしました。その中で、マイ・フェイヴァリット盤として、コーガン、ロストロポーヴィチ&ギレリス盤と、オイストラフ、クヌシェヴィツキ―&オボーリン盤の2つを双璧としてご紹介しています。もちろん、それは現在も変わることはありませんが、一昨年リリースされたクレーメルの新しいディスクを聴いてみたところ、非常に素晴らしかったです。実は、このブログのお友達のNYさんが昨年11月に同じメンバーの生演奏をお聴きになられて、それがとても素晴らしかったと教えて頂いたので、せめてCDで聴いてみたいと思いました。

712csnkgxbl__aa1500__2チャイコフスキー「偉大な芸術家の想い出」(2011年録音/ECM盤)

演奏メンバーは、ヴァイオリンがギドン・クレーメル、チェロがギードレ・ディルヴァナウスカイテ、ピアノがカティア・ブニアティシヴィリ、という3人です。

クレーメルについては今更何をいわんやですが、この曲の演奏を10年以上前にアルゲリッチ、マイスキーと組んだ日本公演で聴いたことが有ります。豪華なメンバーでしたが、アルゲリッチの自由奔放さが過度に感じられて、今一つ好きになれなかったのは旧記事に書いた通りです。

今回の新盤のメンバーでは、ピアノのブニアティシヴィリは最近話題のピアニストです。目がくらむほどの美人ですが、彼女のショパン・アルバムは肝心の演奏のほうも非常に才能を感じさせます。そちらについては別の機会に記事にする予定です。

チェロのディルヴァナウスカイテのことは良く知りませんが、やはり実力者なのでしょう。クレーメルとは、しばしば共演しているようです。

ということで、演奏を聴いてみました。

冒頭、ピアノ伴奏が静かに入ってきます。それに続くチェロの旋律は最高に美しい一つですが、とても静かに奏されます。おや、と思うと、ヴァイオリンもやはり同じように静かに歌います。3人が絡み合うようになっても相変わらず同じように演奏されます。ああ、これは心の奥底に沈みこむような表現だな、と思いました。通常は、ずっと表情豊かに歌われることが多いからです。けれども、この控え目の表現が逆に哀しみを誘います。

3人ではブニアティシヴィリのちょっとした表情の変化が一番目につきます。それでもアルゲリッチのようなやり過ぎ感は無いので、抵抗は有りません。むしろセンスの豊かさに惹かれます(美貌にだけでは無いぞ)。クレーメルのヴァイオリンの音は美しく、表現も旧盤でのアルゲリッチに無理に対抗するような力みは感じられません。クレーメルが自然体で気持ちよく弾いている(あのビミューな)顔つきが目に浮かびます。ディルヴァナウスカイテのチェロも実に上手いです。派手さは無いですが、美しい音で全く過不足無く弾いています。

3人のテクニックは優秀で、アンサンブルも素晴らしいですが、音のからみ合いに何とも言えぬしっとり感を感じます。調和のとれた演奏ですが、かといって物足りなさを感じることは有りませんし、内面的な聴きごたえを充分に感じます。

第二部の変奏曲では曲が進むにつれて、少しづつ少しづつ気分が高まってゆくのが見事です。ここでも、一気に頂上へ駆け登って、また下り、上がるようなジェットコースター型の演奏とは異なり、本当に見通しの良い、フィナーレまでをじっくりと見据えた演奏だと思います。それに何よりも、ロシアの土地の空気感を感じさせてくれるのが嬉しいです。それが感じられないチャイコフスキーは正直言って苦手ですので。

これは素晴らしい演奏だと思います。優秀録音のCDとしてベストであるばかりではなく、マイ・フェイヴァリット盤に文句なく仲間入りします。
今更ながら、彼らの生演奏を聴けなかったのが残念です。それにブニアティシヴィリの美貌をこの目で確かめたかったなぁ・・・・。

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2011年1月10日 (月)

チャイコフスキー 弦楽四重奏曲第1番ニ長調「アンダンテ・カンタービレ付き」op.11 ~ロシア音楽紀行~

寒い冬が続きますので、「暖炉にあたった気分でロシア音楽を聴きましょうシリーズ」第2回です。今回は本当に暖炉にあたっている気分になりますよ。

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ご紹介するのはチャイコフスキーの弦楽四重奏曲第1番「アンダンテ・カンタービレ付き」です。チャイコフスキーは生涯に弦楽四重奏曲を正式には3曲しか残していません。そのうち悲歌の印象が強い第3番にも惹かれますが、やはり最も魅力を感じる作品は第1番です。また一般に広く知られているのもこの曲です。その大きな理由としては、第2楽章の「アンダンテ・カンタービレ」が有名だからです。チャイコフスキーはかつてウクライナの村に滞在したときに、村のペチカ(ロシア式の暖炉)造り職人が仕事をしながら歌っている民謡を聴いて、この曲の第1主題をつくりあげたそうです。どうりで暖炉にあたっている気分になるわけですよね。

けれどもこの曲は第2楽章以外もとても充実しています。第1楽章モデラート・エ・センプレーチェはゆったりとした、いかにもロシア情緒を湛えた雰囲気です。曲の魅力は第2楽章に少しも負けないと思います。第2楽章アンダンテ・カンタービレはもちろんロシア民謡そのものの悲歌ですが、この曲を演奏会で聴いた文豪トルストイが感動の余りに涙を流したと伝えられています。第3楽章スケルツォも民族舞曲を感じさせる個性的なリズムが魅力的です。第4楽章アレグロ・ジェストもやはりロシアの民族舞曲の性格を持つ胸の高鳴るような素晴らしい楽章です。

曲全体が非常に民族的で、第2楽章にエレジーを持ち、続く3、4楽章が民族舞曲風という構成はドヴォルザークの「アメリカ」によく似ています。どちらの曲も非常に魅力的で、広く愛聴されているのも同じです。

それでは僕が愛聴している演奏をご紹介します。

418bgpvydul__sl500_aa300_ ボロディン弦楽四重奏団(1979年録音/Aulos盤) ロシアの名カルテットの演奏です。彼らは3曲とも3回は録音していますが、僕の所有しているのは2度目のものです。第1バイオリンのミハイル・コぺルマンはシューベルトあたりを弾かせてもウイーン風に柔らかく聞かせる相当な名人だと思いますが、ロシアものを弾くときには正に最高です。全ての旋律の節回しがロシアの味そのものに感じます。他のメンバーも上手いですし、アンサンブルも優秀です。従って決定盤と言えると思います。このCDは韓国のAulosレーベルがメロディアのライセンスで発売したので音質は優れています。但し現在は廃盤のようなのでワーナーミュージックから出ている新盤のほうが入手性は良いと思います。同じコぺルマンが弾いていますので演奏は間違いないですし、どちらも3曲の他に弦楽六重奏曲「フィレンツェの想い出」がカップリングされていて楽しめます。

41zm8h2t6al__sl500_aa300_ スメタナ弦楽四重奏団(1966年録音/EMI盤) 僕の大好きなスメタナQも録音を残しています。全盛期の録音ですのでメンバーの技術が安定しています。但し、非常にしなやかで柔らかく歌っているのですが、どうもロシアものにしては少々しなやかに過ぎる気がします。美しい演奏には違いないのですが、ボロディンQたちに比べると、ロシアの良い意味での荒々しさに欠けるかな、と感じます。このCDにカップリングされたドヴォルザークの「アメリカ」の演奏のほうも若々しく、晩年の円熟した演奏とはまた別の魅力があって素晴らしいです。

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2009年2月11日 (水)

チャイコフスキー ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出」 オイストラフ・トリオ ~もうひとつの名盤~

チャイコフスキーの大傑作ピアノ・トリオ「偉大な芸術家の想い出」については、少し前に記事にしたばかりです。<旧記事>チャイコフスキー ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出」 名盤

その時の記事の中で、コーガン/ギレリス/ロストロポーヴィチの古い演奏を、およそ比類の無い名盤だとご紹介しました。それについては全くの事実なのですが、実はその後に、たまたま中古ショップで珍しいCDを見つけました。

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演奏をしているのは、ダヴィド・オイストラフ(Vn)、レフ・オボーリン(Pf)、スヴャトスラフ・クヌシェヴィツキー(Vc)の、いわゆるオイストラフ・トリオで、1961年のライブ録音と記載されています。イギリスのマスタートーン・マルチメディアという会社が「レニングラードマスターズ」というシリーズ?で出したようですが、現在は恐らく廃盤扱いでしょう。実は相当の音の悪さを覚悟の上で購入したのですが、実際に聴いてみると録音は予想以上でした。まあ、この手は粗悪な音の物が多いので最初から期待はしていないからでしたが、幸いにも鑑賞には支障のない良好なレベルでした。そして肝心の演奏が何とも素晴らしいものだったのです。これはまあメンバーを考えれば当然のことではあるのですけれども。コーガン/ギレリス/ロストロポーヴィチの演奏はインテンポで極めて堅牢な造形でありながらもロシアの味わいに満ち溢れた正に純血ロシアンでなければ出来ない演奏でした。こちらはそれに比べればややゆったりとしたテンポでたっぷり歌うことに重点を置いた演奏です。特に素晴らしいのがやはりオイストラフのヴァイオリンです。この人はライブになると本当に良いです。ほれぼれするほど楽器が歌っており素晴らしい味わいです。クヌシェヴィツキーのチェロも非常に上手いです。この人は今まであまり聴いたことは有りませんでしたが、品格から言えばロストロポーヴィチに全然負けていません。ヴァイオリンとチェロに関しては、この両トリオは全くの互角だと思います。残るオボーリンのピアノだけがテクニック面でギレリスと比べるとだいぶ劣っています。個々を比べればそのようになるのですが、アンサンブル全体として比べた場合には、音楽の造形と凄み、迫力でコーガン/ギレリス/ロストロポーヴィチ盤が優れ、豊かな表情と情緒表現の点ではオイストラフ/オボーリン/クヌシェヴィツキー盤が更にその上を行くと思います。自分としてはこの両盤にとても優劣はつけることは出来ません。そしてどちらもつくづく純血ロシアンの演奏なのだと感じ入るばかりです。それにしてもこれほどの名曲の名演奏が現在どちらも陽の目を浴びていないとはかえすがえすも残念なことです。

けれども、幸いなことにYouTubeでこの演奏を聴くことができます。

尚、このメンバーは1950年頃にもスタジオ録音を残していることも今回知りました。部分的に試聴した限りでは後年のライブの円熟味と深さには及ばない気がしますが、その演奏を全部聴いた方がいらっしゃればご感想を是非お聞きしたいと思います。

<後日記事>チャイコフスキー「偉大な芸術家の想い出」 クレーメル新盤

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2009年1月 8日 (木)

チャイコフスキー ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出」イ短調op.50 名盤

お正月気分もどこへやら。すっかり元のせわしない生活に戻ってしまいました。しかも、寒さも厳しさを増して、明日は関東でも雪になるかもしれないそうです。こんな時には家で暖炉にあたりながら音楽を聴いていたいです。と言いたいところですが、我が家に暖炉なんてものは無いので、エアコンとファンヒーター併用でぬくぬくしながら音楽を聴きます。(^^)

Tchaikov 冬にはやっぱりチャイコフスキーの音楽がうってつけです。凍てつくロシアの大地を想像しながら、ワシーリーやゴーゴリー(誰だそれ?)になった気分で彼の音楽を聴いていれば、気分はすっかり冬のロシアです。

チャイコフスキーは交響曲、ピアノやヴァイオリン協奏曲、それにバレエ音楽も良いですが、室内楽にも名作が有ります。弦楽四重奏曲や六重奏曲です。しかし、なんといってもピアノ三重奏曲が群を抜いた出来栄えの傑作です。「偉大な芸術家」というのは、モスクワ音楽院の初代院長でピアニストのニコライ・ルービンシュタインのことです。(ポーランド出身のアメリカの大ピアニストのことでは有りません。)その院長の死を弔って書いた作品です。曲は長大壮大で、演奏時間に約50分を必要とします。第1楽章の中心となるのは悲歌風の主題ですが、それがチェロ、ヴァイオリン、ピアノと交代に何度も繰り返されます。なんと悲しくも美しいメロディなのでしょうか。チャイコフスキー一世一代の名旋律です。第二主題以降も魅力に溢れていて、本当に息つく暇も与えません。長大な第1楽章はこの曲の前半部分であり、後半は二部に分かれた第2楽章です。僕は延々と変奏の続く第2楽章も大好きです。変奏の一つ一つが、とてもしゃれていたり、激しかったりと、本当に変化に富んでいる傑作だからです。

この曲は彼の交響曲、それも後期のそれらと比べても、同等かそれ以上に好きなのです。同じピアノ・トリオで比較をしても、僕の大好きなブラームスの3曲よりも好きかもしれません。

さて、それでは、僕がぬくぬくと部屋で温まりながら聴いているCDをご紹介させて頂きますので、どうぞお付き合いください。

Rostrotrio_tchaikoコーガン(Vn)、ロストロポーヴィチ(Vc)、ギレリス(Pf)(1952年録音/ビクター盤) これは昔、新世界レコードから出たLP盤で何度も愛聴した演奏です。少々古いモスクワでの録音ですが、3人の技術的レベルと音楽性が正に最高です。これから西側の音楽界へ羽ばたいて行こうとする若き3人の実力と気迫が凄まじいのです。三者が真剣で切り合うような凄みに満ちていますが、各者の力量が全くの同格ですので、見事な黄金比を形成しています。しかも全員が純血ロシアンメンバーですので母国の音楽への共感が限りなく深く、一つ一つの節回しにロシアの味わいが滲み出ています。正に桁違いの演奏です。この録音は、以前ビクターがCD化しましたが、現在は廃盤です。強音部で幾らか音が割れますが、全体的には良好の音質です。現在はカナダのDremiがセット物で出しているのみだと思います。やや高価ですが、この演奏を聴くだけでも充分に価値が有ると思います。

Tchaikovsky51xouvgvppl G.フェイギン(Vn)、V.フェイギン(Vc)、ジューコフ(Pf)(1973年録音/ビクター盤) 当時は良く知られたピア二ストのイーゴリ・ジューコフが組んでいたトリオの演奏です。ヴァイオリンのグリゴリー・フェイギンは後年日本でも教鞭を取った名手、チェロのヴァレンティン・フェイギンはグリゴリーと兄弟です。ちなみにその息子のドミトリー・フェイギンも現在東京音大教授のチェリストです。流石はファミリーが脇を固める常設トリオだけあり、演奏の息の合い方は見事ですし、どこをとってもロシアそのものの歌いまわしに魅了されます。この伝統的なロシアン・スタイルの演奏をステレオ録音で聴けるのは貴重です。

1977 スーク(Vn)、フッフロ(Vc)、パネンカ(Pf)(1976年録音/スプラフォン盤) これは僕が学生の時にベストセラーになった演奏でした。このトリオはいかにも「室内楽」という感じで好感は持てるのですが、その分スケールは小さく、スーク以外の2人の技術が弱いです。なのでチャイコフスキーあたりになると聴いていてどうしても物足りなさを感じてしまうのです。ですので正直言って、この演奏でこの大曲を心底味わえるとは思えません。

Cci00005 カガン(Vn)、グートマン(Vc)、リヒテル(Pf)(1986年録音/Live Classics盤) これも純血ロシアンメンバーの演奏です。既に老境入りのリヒテルと若手2人との組み合わせなので、完全にリヒテル翁が主導権を握っています。翁の手のひらの上で2人が懸命に踊っている感じなのです。従ってコーガン達盤のような凄みに不足するのはやむを得ません。またライブ録音なので傷も多いですが、逆に感興の高さは充分です。スケールの大きさも素晴らしいですし、ロシアの味わいや悲歌の表現ぶりも見事です。

579 キョンファ(Vn)、ミュンファ(Vc)、ミュンフン(Pf)(1988年録音/EMI盤) 純血コリアンブラザー&シスターズの演奏です。ブラームスの時にも書きましたが、韓国の人は「恨(ハン)」という朝鮮民族特有の性質を心に秘めているそうです。なのでこういう悲歌を歌わせると実にツボにはまるのです。ロシア風とはちょっと違いますが、エレジーでの泣き節が非常によく似ている気がします。チェロが若干弱さを感じさせますが、それでも3人とも立派に弾いていて、なかなか見事です。

Cci00032 レーピン(Vn)、ヤブロンスキー(Vc)、べレゾフスキー(Pf)(1997年録音/Erato盤) ロシアの若手3人による新しい録音についてもご紹介しておきます。先輩達の歴史的録音のように大見得を切る事は有りません。それではこの演奏が味気ないかと言えば決してそんなことは無く、同郷人の共感がしっかりと胸の内に秘められているのを感じます。どの変奏曲もごく自然に歌われて曲の美しさを味わう事ができます。アルゲリッチ盤とは対照的な演奏なので好みは分かれるでしょうが、個人的にはこちらの方が好きです。テクニックも楽器バランスも申し分なく、録音も優秀です。

122 クレーメル(Vn)、マイスキー(Vc)、アルゲリッチ(Pf)(1998年録音/グラモフォン盤) これは東京のトリフォニーホールで演奏会が行われた際にセッション録音したものです。僕はその時の演奏会を生で聴きました。当然、前評判通りの実に興味深い演奏でありました。実力者3人がその持てる個性を披露し合ったのです。ところがどうもチャイコフスキーにはいまひとつ聞こえませんでした。演奏家の個性のほうが勝っていたのです。これは特にアルゲリッチに原因が有ると言って良いです。ご縁が有って後日、宇野功芳先生とこの時のコンサートについてお話する機会が有ったのですが、先生も僕と全く同じ感想を持たれていました。

Cci00064b スターン(Vn)、ロストロポーヴィチ(Vc)、ホロヴィッツ(Pf)(1976年録音/SONY盤) 凄い顔ぶれですが、この演奏は番外です。何故ならこれはカーネギーホール85周年記念演奏会で第一楽章のみ演奏された録音だからです。3人とも元々はロシア出身なのでこれもほぼ純血ロシアンメンバーと言って良いです。しかしホロヴィッツの個性が余りに強烈であるのとマイペースなので、コーガン達盤のような黄金バランスによる凄みは有りません。またライブ録音の為にどうしても音量バランス的にもピアノが勝っています。ですが、それでも聴き応え充分のこの演奏、もしも第二楽章も演奏されていればコーガン達盤に並び得る唯一の録音になっていたことでしょう。非常に残念です。

以上、この曲はコーガン/ロストロポーヴィチ/ギレリス盤が余りに凄すぎるので、他の演奏が少々気の毒です。それにしても、このような天下の名演がずっと廃盤のままというのは、一体なんとしたことでしょうか。レコード会社の見識の無さには呆れるばかりです。

なお、入手しやすいもので1枚、録音の良いものを求められる方にはレーピン達のCDを強くお薦めします。

<後日記事> 

チャイコフスキー「偉大な芸術家の思い出」 もうひとつの名盤

チャイコフスキー「偉大な芸術家の想い出」 クレーメル新盤

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