チャイコフスキー(協奏曲)

2014年1月16日 (木)

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 グリゴリー・ソコロフ&フェドセーエフ/バイエルン放送響 ~史上最高のライブ~

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チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番
グリゴリー・ソコロフ&フェドセーエフ/バイエルン放送響(1990年代の録音/En Larmes盤)

このところチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を聴く機会が多いです。元々チャイコはスキ~なのですが、この曲は旋律の美しさとロシアの情緒が際立っていて本当に大好きです。

ところで先に、ロシアの幻の大ピアニスト、グリゴリー・ソコロフがワレリー・ゲルギエフ/キーロフ管と共演したライブのチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の海賊CD-R盤のご紹介をしましたが、ソコロフはこの曲を何度も演奏していたようです。但し、正規ディスクはデビュー時の古いセッション録音盤(露メロディア)しか存在しません。

そのソコロフが、この曲を1990年代(詳細不明)にウラジーミル・フェドセーエフ/バイエルン放送響と共演したライブ演奏が、やはり海賊CD-R盤(En Larmes)でリリースされています。このディスクはショスタコーヴィチの「レニングラード」とカップリングされていて少々高価ですが、音質が優れている分、凄まじさが更に感じられて、ゲルギエフ盤を凌ぐ史上最高の演奏であることを確信しました。

この演奏はYouTubeで聴くことが出来ます。これをお聴き頂ければソコロフのテクニックの凄さと、とてつもない表現力がお分かり頂けると思います。フェドセーエフも素晴らしい伴奏ぶりです。演奏後の聴衆の凄まじい拍手と歓声も収録されています。


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2013年12月20日 (金)

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 グリゴリー・ソコロフ&ゲルギエフ/キーロフ管のライヴ盤

またしても海賊CD-R盤を取り上げるのは幾らか気が引けますが、特筆大書しなければならない物凄い演奏が有りますのでご紹介します。

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ロシアのグリゴリー・ソコロフは、知る人ぞ知る名ピアニストであり、”現役最高のピアニスト”とも称賛されています。演奏を聴いてみる前は、「そんなオーバーな・・・」と思っていましたが、実際に幾つかの録音を聴いてみると、それが少しもオーバーで無いことが納得できます。もっともソコロフはレコーディングが嫌いなようで、録音が非常に少なく、しかもその大半がリサイタルのライブ盤に限られています。協奏曲の録音も無いわけではありませんが、ごく若い頃の録音が僅かに残るだけです。ヨーロッパでは協奏曲を演奏することも決して珍しくは無いようなので、なんとかディスク化してほしいところです。

さて、そんなソコロフが、ワレリー・ゲルギエフ/キーロフ管弦楽団と共演したチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の演奏を聴けるとは思いもしませんでした。これは1993年の、恐らくはサンクトペテルブルグでのコンサートだと思います。

P1010085グリゴリー・ソコロフ独奏、ワレリー・ゲルギエフ/キーロフ管(1993年録音/En Larmes盤 ELS 00-16)

第1楽章冒頭の有名な管弦楽の音は幾らか軽めに聞こえます。これは海賊盤である為に、録音が万全では無いせいかもしれません。
続く弦楽の旋律は非常に良く歌わせていて、さすがはゲルギエフです。ところがソコロフのピアノは管弦楽よりも更に悠然とした足取りのために、オーケストラとのズレを感じます。いや、正確に言えば、ズレないようにゲルギエフがソコロフのテンポに合わせようとしていますが、ソコロフはお構い無しといった調子です。ここまでを聴いても、現代の機械的にテンポを合わせたような演奏とはまるで異なる、正に巨人同士の綱引きが感じられて、非常に興奮します。

ピアノの音はレンジも広めで、綺麗に捕えられていますが、オーケストラの方の特に弦楽器の音にはザラつき成分が多く感じられます。マスターがアナログ録音らしいので、その影響かもしれません。鑑賞に支障が有るほどでは無いのですが、気になる人には気になるかもしれません。

展開部に入ると、ピアノとオケとの丁々発止の掛け合いが増々スリリングになってゆきます。ソコロフのテクニックはもちろん素晴らしいのですが、この人の本当の凄さは単に指が回るとか、音の粒が揃っているとかいう次元の問題ではありません。音楽性の素晴らしさです。表現力の豊かさや気迫の凄さなど全てにおいて圧倒される思いです。弱音部で繊細の限りを尽くした、いじらしいほどの表情も見事の一言です。後半に入ると、ゲルギエフとキーロフ管も、時に大見得を切るソコロフのピアノに慣れてきたようでピタリと合わせています。そして、大きな波がうねりとなって押し寄せるような終結部の迫力は尋常ではありません。

第2楽章はゆったりとした構えで、ソコロフ節全開の極めて抒情的なピアノが奏でられます。キーロフ管の繊細な木管や弱音器を付けた弦の伴奏も実に素晴らしいです。ロシアの情緒や憂愁が一杯に溢れているのが良いです。やはり、この曲はロシア人チャイコフスキーの音楽ですね。

第3楽章は速めのテンポで切れ良く疾走します。それでもソコロフのピアノは余裕のヨッちゃんです。ミスがゼロではありませんが、実演でこれだけ完璧に弾き切れる人はそうは居ません。ゲルギエフのオケ伴奏もいよいよ表情豊かに最高に上手くピアノに合わせてゆきます。そして終結部のスケールが大きく息の長い盛り上がりは最高にドラマティックです。

これは本当に凄い組み合わせの演奏です。もしもですが、この録音が正規盤でリリースされればこの曲のベスト盤として推すのを少しも躊躇わないほどの名演奏です。ですので、海賊盤であることを承知の上で、思い切りお薦めしておきます。

なお、聴かれてみたい方は、こちらから購入が可能です。親切に対応して貰えます。

なお、補足ですが、ソコロフは1966年のチャイコフスキー・コンクールに若干16歳の若さで優勝しています。その時に録音された同じ曲の演奏をメロディア盤で聴くことが出来ます。自分の持っているCDは、以前シューマンの「幻想曲」の演奏をご紹介した4枚組BOXです。

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グリゴリー・ソコロフ独奏、ネーメ・ヤルヴィ/ソヴィエト国立響(1966年録音/メロディア盤)

1960年代のメロディア録音とは言っても、正規録音ですので海賊盤よりは音がシャープです。この時のソコロフのピアノを聴くと、これが本当に16歳の演奏なのかと、とても信じられません。テクニックも素晴らしいですが、何よりもあの若さで演奏の表情づけがとても豊かです。テンポ・ルバートや思い切った音のタメなどは、既に将来のソコロフの片鱗を伺わせています。ただ、1993年の演奏に比べると当然ですが、まだまだ成長途中であることも確かです。あの有無を言わせぬ説得力にはまだ程遠いと言わざるを得ません。それは円熟期のこの人が余りに凄い高みに登ってしまったので、そのように感じるだけでしょう。そもそも世の中には円熟期を迎えても、このレベルに至らないピアニストは大勢居ることでしょうし。
オーケストラ伴奏は、名匠ネーメ・ヤルヴィが珍しくソヴィエト国立響を指揮しています。荒々しい響きが面白いですが、演奏は「中の上」といった出来栄えでしょうか。

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チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 ボレット/ヴァント盤

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2013年12月15日 (日)

ホルヘ・ボレット&ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送響のライヴ盤 チャイコフスキー ピアノ協奏曲/ムソルグスキー「展覧会の絵」 

北国では吹雪だそうですね。今年の冬は雪が多いのでしょうか。関東でも日増しに冷え込んでゆく感じです。ということで、寒さに負けず「冬のロシア音楽祭り」を続けます。

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ホルヘ・ボレットは1914年生まれのピアニストで、若い頃はバリバリのテクニシャンで鳴らしていた割には、余り人気が出なかったようです。それはもしかしたら、この人がキューバの出身だったからなのかもしれませんね。キューバ革命以後、キューバはアメリカにとって最も近くて危険な国であったからです。まぁ、これは単なる邪推に過ぎません。

ボレットに人気が出てきたのは1970代になってからです(といっても相変わらず余り派手さはありませんでした)が、かなり前時代的なロマンティシズムを綿々と感じさせる演奏スタイルだったようです。何しろ、この人はフランツ・リストの孫弟子だった(リストの弟子の一人が長寿だったので、ピアノを教授されたらしい)からかもしれません。

そんなボレットが、名指揮者ギュンター・ヴァントの伴奏で演奏した、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のライブ盤が有ります。

840ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送響、ホルヘ・ボレット(ピアノ)(Profile盤)

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番(1985年録音)
ムソルグスキー(ラヴェル編曲)「展覧会の絵」(1982年録音)

チャイコフスキーのピアノ協奏曲は、ボレットが71歳の時の演奏になります。
総じてテンポはゆったりとしていて、せせこましい印象は微塵も感じられません。幾らか、まったりとしている印象です。このスケールの大きな恰幅の良さはとても魅力です。

テクニック的には全盛期の片りんは窺えるものの、目の覚めるような切れ味とは言えませんし、ミス・タッチも随分多いように思います。自分はライブでのミスは余り気にしない方なのですが、この演奏を最初に聴いた時には結構気になりました。けれども2度、3度と聴いていると慣れてしまいます。

この人のピアノのタッチと音色には得も言われぬ艶やかさを感じます。若いピアニストに良くある冷たく硬質で透明な印象とは正反対の、人間の体温を感じさせるような暖色系の、とても綺麗な音です。昔のピアニストにはこういう温かみの有る音を持つ人が多かったのですが、時代による楽器の音の変化と共にすっかり変わってしまいましたね。

一方、弱音部でのデリカシーに溢れて、じっくりと歌わせる弾き方はまったくもって素晴らしいの一言です。例えて言えば、伝統芸能を演じる人間国宝のように、円熟仕切った本当に味わいの深い演奏だと思います。

ヴァントの指揮も最良の職人芸を聴かせてくれます。ことさらロシア風に歌わせる訳ではありませんが、あるときはしっとりと、あるときは堂々と恰幅良くと、まずは理想的な指揮ぶりです。北ドイツ放送響の音色が暗めなのも、よくある派手派手しい伴奏に陥ってしまうのを防いでいて好ましく思います。

次にムソルグスキーの「展覧会の絵」ですが、この曲はもちろんムソルグスキーの作曲したピアノ曲を、フランスのラヴェルがオーケストラ編曲したものです。ですので、往々にしてこの曲がロシア作曲家の手によるものであるということを忘れさせるぐらいフランス的な明るい響きで演奏されます。それも確かに悪くは無いのですが、よくよく聴けばやはりこの曲にはロシアの土臭く暗い音楽が詰まっているのですね。それを思い出させてくれるような演奏を個人的には好んでいます。

実は意外なことに、ヴァントは「展覧会の絵」を好んでいたようで、スタジオ録音の他にも、複数のライブ録音が有ります。この北ドイツ放送響との演奏は、このオーケストラが持っている暗い響きが、自分の好みの丁度良い色彩バランスを持たせているように思います。これが真正ロシア風かと問われれば、そんなことはありませんが、「ビドロ(牛車)」や終曲の「キエフの大門」などでは息の長い旋律を、堂々と息切らせることなく歌い切っていて中々に感動的です。全体的には、決して聴き手を圧倒するような演奏ではありませんが、何となく聴いているうちに、いつのまにか聴き入っている自分が居ます。ヴァントは決してドイツ、オーストリアものだけが良かった訳では無いのですね。

2曲の録音は3年の違いが有りますが、音質はどちらも優秀で、その差は全く感じられません。

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2013年4月10日 (水)

チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 サラ・ネムタヌ 待望の新盤

005798サラ・ネムタヌ独奏、クルト・マズア指揮フランス国立管弦楽団(2012年録音/仏Naive盤)

待ちに待った新盤がようやくリリースされました。世界中で大ヒットした映画「オーケストラ」(原題:Le Concert)でヒロインが弾くチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を、実際に演奏していたヴァイオリニストであるサラ・ネムタヌさんのCDです。

あの映画の中のコンサートで奏されるヴァイオリンは非常に印象的でした。この曲のCDを飽きるほど聴いて来た人間でも感動するような素晴らしい演奏だった(ように感じた?)からです。これはクラシック愛好家の友人に聞いてもやはり同じ感想でした。ですので、この人の弾く全曲を是非とも聴いてみたかったのです。映画で感動したような演奏を本当に行うのかどうか?それとも、もしやあの感動は映画の中だからそう感じただけだったのだろうか?それを確かめたかったからです。

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サラ・ネムタヌさんの名前は、映画公開当時はほとんど知られていませんでした。けれども、今ではかなりの方が知っていると思います。フランス国立管弦楽団の第1コンサート・マスターです。1981年生れで、出身はルーマニアですが、現在はフランスとルーマニアの二つの国籍を持っているそうです。
まだ30代前半の若手ですが実力が有り、ソリストとしても一流のオケと指揮者の演奏会に招かれています。それに、(ココが肝心!)何と言っても彼女は美しい!ルーマニアもまた美女の宝庫なのですね・・・(羨)

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今回のCDはライブ演奏による録音です。この難しい曲をライブとはよほど自信が有るのでしょう。オーケストラは、彼女の所属するフランス国立管弦楽団で、指揮をするのは、ミスター堅実?ことクルト・マズアです。せっかく映画がヒットしたのですから、ここはロシア出身の指揮者を起用すれば、ずっと映画のイメージに近くなったと思うのですが。人選としてはちょっとマズアかなぁ。

まあ、ともかくCDを聴いてみましょう。

第1楽章冒頭のヴァイオリンの歌わせ方は、映画の時よりもややアッサリと感じます。コテコテのロシア風ではありませんし、さりとて小粋でお洒落なフランス風でもありません。でも味わいが無いわけでは無いのですね。強いて言うと彼女の生まれ故郷のルーマニア風?よく判りませんが、ルーマニアには一部ジプシーの血が混じっていますし、わずかに民族的な味わいを感じないこともありません。
彼女のテクニックは非常に素晴らしいです。オーケストラのコンサートマスター・レベルでも、この難しい曲をこれだけ弾ける人はそうは居ないと思います。それほどの演奏者であれば、ソリストとして独立を目指すのではないでしょうか。

オーケストラの伴奏は普通です。オケはともかくとして、マズアの指揮が相変わらず堅実一本やりで面白みに欠けます。

第2楽章は非常に美しいです。ロシア風の情緒綿々たるエレジーというよりも、いくらか控え目なルーマニア風の「望郷のバラード」といった感じですが、静寂の中を時がゆっくりと流れてゆくような、とても深い味わいを感じます。

第3楽章では、彼女のパッションが全開です。ハッタリは無く、丁寧なのですが、映画での熱狂ぶりを彷彿させる素晴らしさです。ライブでこれだけ、ほぼ完璧に弾けるのは凄いことです。マズアとオーケストラも。ここではピッタリと合わせ健闘していますし、フィナーレの追い込みは荒々しさも加わって映画での興奮を誘います。

と言うことで、全曲を聴き終えてみると、とても満足できる良い演奏でした。ただ、映画で感動したイメージをそのまま期待すると、裏切られてしまう可能性が有ります。あれは、やはり映画によって感動がかなり増幅されていたようです。そして、この演奏が、オイストラフやコーガン、トレチャコフ、レーピンといったロシア出身の名人達を越えるかというと、それは少々難しいです。そういう尺度で聴くと失望しかねません。それでも、録音は生演奏を聴いているような臨場感の有る優れたものですし、映画のシーンを思い浮かべながら聴いていると、とても楽しめる好CDであることは確かです。

繰り返しになりますが、こんなに上手い人がオーケストラのコンサートマスター席に座られていたら、下手なソリストはちょっと演奏しにくいのではないでしょうか。ホントに。

なお、カップリングにはネムタヌさんを中心に、フランスで活躍するメンバーを集めて、同じチャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの想い出」が収められています。これもとても充実した素晴らしい演奏です。

以上、ご興味が有って、このCDの購入を考えておられる方に少しでも参考になればと思います。お聴きになれた方のご感想を楽しみにお待ちしています。

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チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 名盤

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2013年3月 1日 (金)

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 ギレリス/ムラヴィンスキー盤

旧ソヴィエト時代の名ピアニスであったエミール・ギレリスは、我が国でも知られるようになった頃に、日本の記者のインタビューに答えて、「ソヴィエトには私よりも素晴らしいピアニストが居ます。それはスヴャトスラフ・リヒテルです。」と言ったそうです。それは本心からの言葉だと思いますし、確かに好調時のリヒテルの霊感に満ちた演奏に比べると、ギレリスは常に「努力型の名演奏」というように感じられるからです。例えば僕はこの人の弾くドイツものには余り感銘を受けたことがありませんし、霊感からも遠いと思っています。ところが、どういうわけかチャイコフスキーを弾く時には、リヒテルを凌ぐほどの名演奏をします。

過去の記事「チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 名盤」の中で、フリッツ・ライナー/シカゴ響との演奏と、ズービン・メータ/ニューヨーク・フィルとの演奏をご紹介しましたが、この曲に関しては真っ先に上げたい愛聴盤です。

それとは別に、今回ご紹介したいのは、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルと共演した1971年録音のライブ盤です。以前にもRussian Discから発売されていましたが、僕が入手したのは英Master Toneレーベル盤です。初めて聴きましたが、思ったよりも良好でとても気に入りました。

51zdwyktgelエミール・ギレリス(Pf)、エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1971年録音/英Master Tone Multimedia盤)

Russian Disc盤とどちらの音が良いかは比べられませんが、ピアノパートとオーケストラの音の両方が明瞭で、バランス的にも問題がありません。一応ステレオ録音のようです。強いて言えば、高音域にイコライジングを施したような強調感とざらつきが有りますが、昔のライブ録音ということを考えれば、これは許容範囲で大目に見るべきでしょう。

さて、肝心の演奏ですが、メータ盤の時には随分伸び伸びと演奏している印象でしたが、ここでは始めのうち、どことなく窮屈に弾いているような印象を受けます。一つにはムラヴィンスキーのテンポが遅めであることと、余りに毅然とした指揮ぶりに影響されているのかもしれません。それでも、いつもと変わらぬ力強い打鍵の「鋼鉄の音」は健在です。表現も少しも女々しさを感じさせない、男の中の男のチャイコフスキー、そんな感じです。「どうだワイルドだろう~」って、ここにもロシアのスギちゃんが居ました。(笑) 実際、第1楽章の中間あたりからムラヴィンスキーともども、緊張感がみるみる高まってきて、凄みを増してきます。チャイコフスキーのシンフォニーで聴かせてくれる、あのレニングラード・フィルの鋼のような音が鳴り響きます。そういう点では、ギレリスとレニングラード・フィルの音はよくマッチします。弦楽合奏の切れ味の鋭さは、名刀村正のごとくです。木管のピッチがやや不揃いのように聞こえますが、特別に気になるレベルではありません。

第2楽章では一転して、冬のロシアの情緒がこぼれます。ベタベタしないのに空気感を醸し出すのはさすがに自国の演奏家です。

第3楽章はギレリスの独壇場です。激しく刻むリズムがコケたり、のめったりすることはありません。白熱しているにもかかわらず安定感を感じます。やはりこの人にとっては大得意の曲なのでしょう。そして圧倒的な音の乱舞する終結部の凄いこと!

この録音は、ムラヴィンスキーのコンチェルトの演奏というだけで希少価値が有りますが、ギレリスとの組み合わせが最高です。

ところで、このCDにはギドン・クレーメルが1970年のチャイコフスキー・コンクールに優勝した次の年のライブ演奏がカップリングされています。そちらについては、「チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 名盤」の記事に追記を行いました。ご興味が有りましたら、ご覧ください。

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2009年2月 7日 (土)

チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.35 名盤

立春と言っても名ばかりで寒い日が続いています。まだまだチャイコフスキーを聴くのに適した気候ですね。寒い外から帰って来て、冷えた体をウオッカで(と言いたいところですが、実は芋焼酎で)暖めながら、ロシア音楽を聴く楽しみは格別です。

チャイコフスキーはヴァイオリン協奏曲にも名作を残しました。曲の激しさにおいてはブラームスと双璧でしょう。ブラームスはジプシー民族の情熱を、こちらはロシア民族の情熱を余すところなく歌い上げます。第1楽章のポロネーズ調に爆発するところなどは何度耳にしても興奮させられます。第2楽章の感傷的なメロディにも心惹かれますし、第3楽章のどんどん高揚してゆくパッションも比類がありません。ところがこの曲は、チャイコフスキーが最初に楽譜を見せた大ヴァイオリニストのアウアーから「演奏不能」だと言われてしまいます。初演後にも散々酷評されて、曰く「余りに酷い曲で周囲に悪臭が漂う」とまで言われたそうです。恐らくは演奏が非常に難しくて、実際にそのような演奏だったのでしょう。それでは曲の真価は判りませんものね。事実、現在でも本当に良いと思える演奏は少ないと思います。テクニックが欠けていれば騒音にしか聞こえませんし、情熱が欠ければ退屈しますし、繊細さに欠ければ楽しめませんし、オーケストラの音がしっかりしていないと拍子抜けしますし、おまけにロシアの味わいも求めたい、などとこれら全ての条件を満たして初めてこの曲の魅力が伝えられると思います。

それでは、僕の聴いている演奏をご紹介させて頂きます。

123 ブロニスラフ・フーベルマン(Vn)、オーマンディ指揮フィルハーモニア(1946年録音/Music&Arts盤) 古い録音ですが音はとてもしっかりしています。これは正真正銘「世紀のヴルトゥオーゾ」の名に相応しい演奏です。但しテクニック的には現代の演奏家と比べると結構おおざっぱで、おおらか。とにかく凄いのは表現力が実に豊かで音楽が大きいことです。その自由奔放な弾き方は現在ではとても考えられない程です。3楽章の追い込みも迫力が凄まじいです。これは是非一度は耳にしておくべき演奏だと思います。

Tchiko_kogan レオニード・コーガン(Vn)、ネボルジン指揮ソヴィエト放送響(1950年録音/Arlecchino盤) ソヴィエト共産党時代に西側に登場して衝撃を与えた演奏家は多く存在しますが、バイオリニストでオイストラフと並び立ったのはコーガンです。録音の数に余り恵まれなかったのと、その後にレコード会社が力を入れなかった為に、だいぶ忘れ去られた存在ですが、実力はピカイチです。これほど凄みのあるヴァイオリンは、ハイフェッツ以外には聞いたことがありません。音そのものは、鋼のように引き締まっていて非常に厳しいのですが、第2楽章などでは悲歌の感情を一杯に湛えて歌わせています。本当に凄い演奏なのですが、オーケストラの音が極端に後ろに引っ込んでいるのが欠点です。僕のCDはイタリアのArlecchino社がアナログ盤から復刻したものです。   

429_2 ヤッシャ・ハイフェッツ(Vn)、ライナー指揮シカゴ響(1957年録音/RCA盤) いつもながらの快速超特急の演奏です。ハイフェッツのバイオリンは全ての音符を粒立ちの良い明確な音でどんどんすっ飛ばしてゆくので、とても爽快ではあるのですが、ゆったりと情緒的に歌って欲しい部分までも同じように飛ばして行くのでおよそ味わいというものが感じられません。こういう演奏は幾ら凄くても僕の耳には少々辛すぎます。

Isaac_vc_アイザック・スターン(Vn)、オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1958年録音/CBS SONY盤) スターンはユダヤ人ですがウクライナ生まれなので、生後間もなく米国に渡ったとはいえども、ロシアに近いルーツを持ちます。1楽章と3楽章では全盛期の完璧な技術に裏付けされた爽快なスタイルですが、2楽章での歌いまわしにはそこはかとなくロシアの土地の味を感じさせます。やはり素晴らしいヴァイオリニストだったと思います。オーマンディのバックは綺麗ですが迫力に少々物足りなさを感じます。

81l6xhwghl__aa1436_レオニード・コーガン(Vn)、シルヴェストリ指揮パリ音楽院管(1959年録音/EMI盤) 一度聴いた時のインパクトにおいては1950年の録音に敵いませんが、繰り返して聴くにはこちらの新盤の方が良いです。ヴァイオリンの凄みとキレは僅かに衰えた感無きにしもあらずですが、まだまだ他のヴァイオリニストに比べれば凄いものです。2楽章では、沈み込んだ虚無的な弾き方がユニークです。オーケストラの音色は明るいですが、シルヴェストリのロシアのオケも真っ青のパワフルな指揮ぶりが見事です。

163 ダヴィッド・オイストラフ(Vn)、オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1959年録音/CBS SONY盤) オイストラフという人は、もちろん非常に上手いのですが、スタジオ録音だとどうも気合が入らずに、ぬるま湯的な演奏になることが多いのです。それはオーマンディもしかりです。このCBS盤は、昔は名盤と呼ばれてベストセラーでしたが、後年の素晴らしいライブ演奏が出ている以上、今では存在価値が薄くなってしまったように思います。

814lnxyugl_sl1500_ ジノ・フランチェスカッティ(Vn)、シッパース指揮ニューヨーク・フィル(1965年録音/CBS盤) フランチェスカッティはフランス生まれですが、その為かどうかは分かりませんが、この演奏にはロシアの土の香りは感じられません。まるでイタリアの陽光の下に居るかのように明るく、パガニーニの曲を聴いているかのような派手でオーバーな技巧のひけらかしを見せつけられます。それでも第二楽章での哀愁漂う歌いまわしには惹きつけられます。終楽章の勢いの良さと軽快さも中々に聴きものです。

61phjs8s0l_ac_ クリスチャン・フェラス(Vn)、カラヤン指揮ベルリン・フィル(1965年録音/グラモフォン盤) CDジャケットにはベルマンが写っていますが、ちゃんとフェラスのヴァイオリン協奏曲も収録されています。それどころかこれは中々の名演です。もちろんロシア風の弾き方では有りませんが、切れの有る技巧を基に若々しく思い切り良く、また洒落っ気のある歌わせ方も兼ね備え、ヴァイオリンという楽器の魅力を大いに味合わせてくれます。カラヤン/ベルリン・フィルも充実したサポートで盛り立てています。リマスターも成功していて音質も素晴らしいです。

41ctgtjzgvl__sl500_aa300_ダヴィッド・オイストラフ(Vn)、ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ・フィル(1968年録音/メロディア盤) これはライブ録音なので、CBS盤のようなぬるま湯の雰囲気は全く有りません。常に緊張感を持ち続けますが、それでいて歌心に溢れ、ちょっとしたスケールまでが味わい深いのです。とにかくフレージングが大きく自然で、千両役者に思えます。オーケストラの演奏も最高で、荒々しさやロシアの雰囲気もたっぷりです。とにかく、この曲の魅力を全て表現し尽した稀有な名演奏だと言えます。オイストラフには同曲異演盤は多く有りますが、演奏と録音の両方に優れた代表盤であるのは間違いありません。

053 チョン・キョンファ(Vn)、プレヴィン指揮ロンドン響(1970年録音/DECCA盤) チョン・キョンファのデビュー直後の録音です。彼女の若い時代の演奏はどれもが非常に好きでした。端正で凛としていて、それでいて凄みが有るほどの切れ味の良さを見せるヴァイオリンが実に魅力的です。もちろん後年の円熟した深みのある演奏も素晴らしいのですが、若い頃の演奏で聴ける瑞々しさは本当にかけがえの無いものだと思います。

51zdwyktgel_2ギドン・クレーメル(Vn)、キタエンコ指揮レニングラード・フィル(1971年録音/Master Tone Multimedia盤) クレーメルが1970年のチャイコフスキー・コンクールに優勝した翌年のライブ録音です。この頃には、これほど激しく演奏をしていたのかと驚くほどの熱演ぶりです。弓を荒々しく弦にぶつけるので、松脂が飛び散るのが見えるようです。スケールの音程はハズレ気味ですし、音を間違えている箇所も有りますが、それを忘れさせるほどの強烈な魅力が有ります。キタエンコもレニングラード・フィルを鳴らし切っていて爽快です。録音も明瞭で優れています。

51wjhflunzl__ss500_ ナタン・ミルステイン(Vn)、アバド指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) この人はウクライナ生れで、ロシアのアウアー門下の割には、弾き方が派手ではないですし、歌い方も大げさでありません。どちらかいうと優雅な弾き方のフランコ・ベルギー派に近い印象です。この演奏は2楽章ではさすがにロシア風のエレジーを奏でていますが、他の部分では優雅な歌いまわしで一環しています。ですので、チャイコフスキーの音楽の持つある一面は良いのですが、ロシア的な荒々しさは余り望めません。アバドも全く同じです。

51dsvqfs4ol アイザック・スターン(Vn)、ロストロポーヴィチ指揮ナショナル響(1977年録音/SONY盤) スターンの再録音盤ですが、ロストロポーヴィチの影響なのか全体的にスケールが大きくなりました。歌いまわしの大きさや感情表現の深さが明らかにパワーアップしています。オーケストラも音色にロシアの土の香りが希薄なのはマイナスですが、迫力が有り聴きごたえが有ります。旧盤よりも断然こちらを取りたいです。

Tchiko_trecyakof ヴィクトル・トレチャコフ(Vn)、ウラディーミル・フェドセーエフ指揮ソヴィエト放送響(1984年録音/MELODIYA盤) コーガン盤は東西冷戦時代の演奏ですが、トレチャコフ盤はずっと後のソヴィエト連邦解体が近づく時代の演奏です。この人は1966年のチャイコフスキーコンクールにおいて19歳で優勝したほどで、その腕前は確かです。その上、たっぷりとした歌い回しが特徴ですので僕の好みです。管弦楽に関してもフェドセーエフがオケをいかにもロシア風にゴリゴリとエグく演奏してくれているのが最高です。なお、トレチャコフにはこの3年前のライブ録音(指揮はマリス・ヤンソンス)も有りますが、録音、演奏ともにこの’84年盤のほうがずっと優れていると思います。

205 諏訪内晶子(Vn)、キタエンコ指揮モスクワ・フィル(1990年録音/TELDEC盤) チャイコフスキーコンクール優勝記念のライブ演奏です。はっきり言ってヴァイオリンは非常につたないです。テクニック上の問題というよりも、フレージングがどうにもギクシャクしているのです。ただし、それではこの演奏はつまらないのかと言えばそんなことは有りません。何しろこの当時の彼女は本当に可憐でした。目の中に入れても痛くないぐらい可愛い少女がひたむきに弾く演奏にはオジサンとしてはちょっと参ってしまうのです。3楽章の盛り上がりも中々どうして興奮させられます。

712dw6se19l_ac_sl1082_ 五嶋みどり(Vn)、アバド指揮ベルリン・フィル(1995年録音/SONY盤) ライブ録音ですが映像化もされました。実際の生演奏に近いダイナミックレンジの広い録音で、それ自体は問題ないのですが、ヴァイオリンが1楽章および2楽章における弱音部分を極端なピアニシモで弾くために、少々聴き取り難くなっています。旋律の歌わせ方に繊細さを求めたのでしょうが、結果的に神経質に感じられてしまいます。歌い方も独特のものでロシア風の歌わせ方と異なりますが、これはやむを得ないでしょう。終楽章ではアバドとオケ共々に熱く盛り上げていて中々に聴かせます。 

Suwanai__1 諏訪内晶子(Vn)、アシュケナージ指揮チェコ・フィル(2000年録音/フィリップス盤) コンクールから10年の時を経た再録音盤です。すっかり大人の女性になった彼女は実に美しいですね。美女に弱いワタクシは参ってしまいます。ここには10年前のぎくしゃくしたフレージングは既に消え去り、端正な弾き方が何となく現代音楽を思わせてユニークです。2楽章の深い情緒の表出や、3楽章の熱気も相当のものです。現在はこの録音から既に9年が過ぎていますが、その間に彼女は結婚、出産、DV、離婚訴訟と私生活では天国と地獄を味わいました。最近は美しい御顔がやや疲れた表情に見えるのが気に成りますが、音楽は逆に深みが増しています。音楽には生きざまが表れるようです。

753 ワディム・レーピン(Vn)、ゲルギエフ指揮キーロフ管(2002年録音/フィリップス盤) これはライブ録音です。レーピンは以前からテクニックには申し分が無かったですが、最近は円熟を増して音楽が実に深くなってきました。歌いまわしの上手さなどはオイストラフにも迫ると思います。それでいて繊細さはレーピンの方が上なのです。そしてなんと言ってもゲルギエフのオーケストラ伴奏はおよそ過去のあらゆる演奏の中でもトップクラスの素晴らしさです。これほど立派で情緒と表情が豊かな演奏は初めて耳にしました。

005798 サラ・ネムタヌ(Vn)、マズア指揮フランス国立管(2012年録音/仏Naive盤) これは映画「オーケストラ」の中でヒロインが弾くこの曲を実際に演奏していたネムタヌさんのCDです。映画の中でのヴァイオリンは非常に印象的でした。彼女はフランス国立管のコンサート・マスターで、若手ですが実力が有り、ソリストとしても一流のオケの演奏会に招かれています。これは映画の演奏では無く本物のライブです。ヴァイオリンの歌わせ方は、映画よりもアッサリと感じますが、わずかに民族的な味わいを感じさせます。テクニックも素晴らしいです。2楽章では静寂の中を時がゆっくりと流れてゆくような味わいを感じます。3楽章は映画での熱狂ぶりを彷彿させる素晴らしさです。(更に詳しくは<関連記事>を参照のこと)

さて、名盤は数々有りますが、マイ・フェイヴァリットはと言えば、第1位はやはりオイストラフ/ロジェストヴェンスキー盤となります。続く第2位にはトレチャコフ/フェドセーエフ盤とレーピン/ゲルギエフ盤が並びます。そして第3位には美人なので贔屓して諏訪内晶子/アシュケナージ盤、それにコーガン/シルヴェストリ盤としましょう。ただし番外としてコーガン/ネボルジンの凄演を上げないわけには行きません。

<関連記事>
映画「オーケストラ」についての記事の中で、サラ・ネムタヌが弾くこの曲について触れています。

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2009年1月29日 (木)

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番変ロ短調op.23 名盤

Tchaikovsky チャイコフスキーは古今の音楽家の中でも稀代のメロディメーカーでしょう。私見ではプッチーニと正に双璧だと思います。白鳥の湖の「情景」や、「悲愴」の第1楽章中間部の有名なメロディなどはチャイコフスキーの代名詞と言える名旋律でしょうし、このピアノ協奏曲第1番の冒頭と第1主題も実に素晴らしいと思います。まさに「これぞクラシック音楽!」と言いたいほどの大傑作です。ところが彼が34歳の時に完成したこの曲は、最初は母国ロシアの音楽家達に全く認められずに初演すら出来ませんでした。やむなく曲を贈った名指揮者のハンス・フォン・ビューローがボストンで初演したところ大絶賛されたのです。今ではとても考えられないことですね。

この曲は、まず冒頭のホルンの4つの音を聴いただけで完全にノックアウトされます。なんという天才的な序奏でしょうか。そこに更にあの美しい第1主題がたたみかけてきます。展開部のロシア風の舞曲もとても楽しいですし、壮麗な終結部も圧巻です。第2楽章の美しさも比類が有りません。詩情溢れるロシア風のメロディの主部に対して中間部のフランス風とも言える洒落た雰囲気の対比が正に絶妙です。第3楽章はロシア舞曲を基にしたような盛り上りに大興奮させられます。この曲は正にピアノ協奏曲の「女王」と言えるでしょう。えっ?それでは王様は何の曲かですって?それは決まっています。ブラームスの第2番です。するとさしずめ「皇帝」が皇太子というところですね。(笑)

これほどの名曲なので古今の名盤はあまたなれど、僕が特に愛聴するCDをご紹介させて頂きましょう。

Cci00013 ウラディミール・ホロヴィッツ(Pf)、セル指揮ニューヨーク・フィル(1953年録音/Otaken盤) ホロヴィッツにはトスカニーニと組んだ録音も幾つか有りますが音が悪すぎました。その点、このセルとの録音はかなり音が良く、特にピアノの音がとても明瞭です。実演なのでミスタッチが無いわけではないですが、いかに昔のヴィルトオーゾの演奏が凄まじいかをまざまざと思い知らされます。テンポは早めですが、味の濃さはちょっと比類が有りません。3楽章の最後の追い込みもセルともどもまるで鬼神のようです。全盛期のホロヴィッツの迫真の演奏は一度は聴いておくべきだと思います。

Cci00011 エミール・ギレリス(Pf)、ライナー指揮シカゴ響(1955年録音/RCA盤) ギレリスはおそらくこの曲の録音の数が一番多いと思います。まだ若い時代のこの録音は、非常にきりりと引き締まった、ピアノパートのみについてはあらゆる演奏のリファレンスと言えるような見事さです。ライナーの伴奏もいつものように筋肉質なので、少々色気の不足は感じますが、ギレリスとの組み合わせのバランスが取れているので良いと思います。

133 ヴァン・クライバーン(Pf)、コンドラシン指揮モスクワ・フィル(1958年録音/テスタメント盤) 1958年にチャイコフスキー・コンクールを制覇し、センセーションを巻き起こしたクライバーンが、コンクール本選の最終審査で弾いた音源です。音質は後述のRCA録音とは比べものになりませんが、音は明瞭で、鑑賞には耐えます。演奏にも傷は多々有りますが、コンクールにおける一発勝負の緊張感と思い切りの良さが素晴らしいです。コンドラシンとモスクワ・フィルも熱演で、ここには国境も政治も関係の無い、音楽に生きる者同士の共感が溢れています。歴史的なコンサートの記録だと思います。(更に詳細は下記<関連記事>を参照のこと)

81ay1qd39al__ac_sx522_ ヴァン・クライバーン(Pf)、コンドラシン指揮RCA響(1958年録音/RCA盤) クライバーンがチャイコフスキー・コンクールを制覇し、凱旋帰国した直後にカーネギーホールでこの録音を行いました。指揮者にもコンクールで指揮したコンドラシンをわざわざソヴィエトから招くという力の入れようで、クラシック初のミリオン・セラーとなりました。クライバーンのテクニックは当時の若手としては、やはり立派なものですが、何よりも力強さとロマンティックな音楽表現が大きな魅力です。セッション楽団の音色が明るいのがやや気に成りますが、コンドラシンの指揮でカバーしています。欲を言えば終楽章の盛り上がりが更に有ると良かったと思います。 

8361144 スヴャトスラフ・リヒテル(Pf)、カラヤン指揮ウイーン響(1962年録音/グラモフォン盤) リヒテルも古いライブ録音が幾つか有りますが、やはり残念なことに録音の良いものが見当たりません。このカラヤンとのセッション録音は音質も良く、昔から定番として人気がありますが、どうもお互いに構えてしまったようで、中々熱くなりません。確かにピアノもオケも非常に立派な音が鳴ってはいるのですが、逆にそれが空虚にすら感じられてしまいます。リヒテルには条件の良いライブ録音を残して欲しかったと思います。 

Cci00013b アルトゥール・ルービンシュタイン(Pf)、ラインスドルフ指揮ボストン響(1963年録音/RCA盤) 初演の地にちなんでボストンでの録音も挙げておきましょう。セッション録音ということもあるのでしょうが、ルービンシュタインのピアノがずいぶんと穏やかでおっとりした演奏です。余り刺激的でないので心地よさも感じますが、悪く言えばややBGMのようなのです。もちろん好みも有りますが、僕の耳には少々物足りません。オケ伴奏にも余り魅力は感じません。

81zvcovul9l_ac_sl1500_ ウラジーミル・アシュケナージ(Pf)、マゼール指揮ロンドン響(1963年録音/DECCA盤) アシュケナージがチャイコフスキーコンクールで1位となった二年後の録音です。当時まだ28歳の若さでしたが、完成度の高い演奏です。ただし、この人のピアノはとてもスマートで、あっと驚かすような表情過多な弾き方はしません。それがチャイコフスキーのこの曲で聴き手を満足させるかどうかは疑問です。もちろん作曲者と同郷ですので、ロシアの香りが漂いますが、2楽章などの味わいはやや平凡です。共演するマゼールとロンドン響は手堅い演奏でまずまず平均的です。

41bzqilgtvl_ac_ アレクシス・ワイセンベルク(Pf)、カラヤン指揮パリ管(1970年録音/EMI盤) カラヤンはパリ管と幾つかの録音を残しましたが、そのうちの一つです。この当時ワイセンベルクは”帝王”の意のままに弾くロボットのように酷評されましたが、今こうして聴くと決して悪く有りません。技巧も打鍵の強さもかなりのものです。パリ管も音色の明るさは仕方ないとしても良く鳴っています。問題は当時のEMIの録音の悪さです。音の分離が悪くざらつきが大きいです。この演奏ももっと良い音で聴ければ評価も上がるとは思うのですが。。

51zdwyktgel エミール・ギレリス(Pf)、ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1971年録音/英Master Tone盤) かつてRussian Discから出ていたようで、音の比較は出来ませんがステレオ録音で良好です。高域にざらつきが有りますが、まあ許容範囲です。ギレリスは始めは窮屈に弾いている印象ですが、力強い打鍵は健在です。1楽章中間あたりから緊張感が高まってきて、凄みを増します。弦楽の切れ味の鋭さはさすがです。2楽章では一転して、冬のロシアの情緒がこぼれます。3楽章はギレリスの独壇場で、白熱しているにもかかわらず安定感を感じます。そして圧倒的な音の乱舞する終結部は凄いです。(更に詳細は下記<関連記事>を参照のこと)

61phjs8s0l_ac_ ラザール・ベルマン(Pf)カラヤン指揮ベルリン・フィル(1975年録音/グラモフォン盤) 突如「幻のピアニスト」として登場して話題となったベルマンがカラヤンと組んで録音したチャイコフスキーですので、とりわけ注目されました。両者ともにゆったりとしたテンポで非常にスケールの大きい演奏です。ベルマンは弱音では細部まで丁寧に弾いてゆきます。その点でカラヤンとは相性の良さを感じます。ベルリン・フィルは厚い音で良く鳴りますが、騒々しくなることは無く節度を保てているのは良いです。ただしロシア情緒が求められないのは仕方ない所でしょう。

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エミール・ギレリス(Pf)、メータ指揮ニューヨーク・フィル(1979年録音/CBS SONY盤) ギレリスにはスヴェトラノフと組んだ非常に期待できるはずだったライブ盤も有りますが、いかんせん録音が悪過ぎました。その点、同じライブ録音でも、このメータ盤は高弦の音がざらついてはいるものの全体としてはずっと良いです。ギレリスのピアノも若い頃よりも表現が豊かになり、それに加えてライブならではの気迫が素晴らしいです。2楽章の叙情性なども感心するばかりです。メータもロシア風とは幾らか異なりますが、よく歌わせた大熱演をしてくれているので聴き応えが有ります。 

Cci00014b マルタ・アルゲリッチ(Pf)、コンドラシン指揮バイエルン放送響(1980年録音/フィリップス盤) 僕はアルゲリッチの若い頃の演奏はそれは大好きでした。出来栄えに凸凹は有っても、彼女の本能の命ずるままの閃きのある演奏にとても惹かれたからです。ところが後年は、すっかり演出臭い恣意的な演奏をするようになってしまいました。彼女もこの曲には幾つもの録音が有りますが、中ではロシアの名匠コンドラシンの伴奏指揮で弾いたこの演奏が僕は一番好きです。

81st5lek1fl_ac_sl1500_ イーヴォ・ポゴレリッチ(Pf)、アバド指揮ロンドン響(1985年録音/グラモフォン盤) さすがポゴレリッチで非常にユニークな演奏です。テンポの振幅の巾が驚くほど広く、静かな部分では止まりそうなほどスローな箇所が有ります。そうかと思えば、何気ない経過句がハッとするほど印象的に弾かれていたりと中々一筋縄で行きません。アバドは見事にピアノに合わせていて音楽に隙間を与えません。2楽章はまるで儚い夢の様です。終楽章も変化に富んで楽しいです。ロンドン響は大健闘していますし、録音が優秀なのも嬉しいです。

840 ホルヘ・ボレット(Pf)、ヴァント指揮北ドイツ放送響(1985年録音/Profile盤) ボレットが71歳の時の演奏です。総じてテンポはゆったりとしていて、せせこましい印象は微塵も感じられません。スケールの大きな恰幅の良さは魅力です。テクニック的には全盛期の片りんは窺えるものの、ミス・タッチは随分多いです。しかしこの人のピアノのタッチと音色には艶やかさを感じます。人間の体温を感じさせるような暖色系の、とても綺麗な音です。弱音部でもデリカシーに溢れ、じっくりと歌わせる弾き方は素晴らしいです。ヴァントの指揮も職人芸を聴かせてくれます。あるときはしっとりと、あるときは堂々と恰幅良くと、まずは理想的な指揮ぶりです。(更に詳細は下記<関連記事>を参照のこと)

Cci00014 エフゲニ・キーシン(Pf)、ゲルギエフ指揮サンクトペテルブルグアカデミー響(1987年録音/YEDANG盤) キーシンのデビュー間もない16歳の時に若きゲルギエフの伴奏指揮で弾いたライブ演奏です。翌年のカラヤン伴奏のグラモフォン録音盤は有名ですが、なんだかお爺さんの監視の下で子供がお行儀良く遊んでいるようで面白みの無い演奏でした。それに比べてこちらは近所のお兄さんと子供が元気一杯に遊んでいるような演奏なので断然楽しいです。力強く輝かしい打鍵でこんなにも上手く表現力豊かな天才少年にはほとほと驚かされます。

91jgcovjowl__sl500_aa300_アンドレイ・ガヴリーロフ(Pf)、アシュケナージ指揮ベルリン・フィル(1988年録音/EMI盤) 名ピアニストのアシュケナージの指揮するベルリンPOがバックとあっては並みのピアニストなら萎縮すると思いますが、さすがに超人ガヴリーロフです。この難曲を軽々と演奏しています。余りに楽々と弾く(上手過ぎる)ので、部分によっては緊迫感が失われ気味なのが欠点ですが、感興が高まった時の演奏は唖然とするほど凄いです。ベルリン・フィルにロシア的な土臭さは薄いとしても、やはり名盤の一角を占めると思います。

Cci00015 中村紘子(Pf)、スヴェトラーノフ指揮ロシア国立響(1990年録音/CBS SONY盤) これは日本でのスタジオ録音ですが、オーケストラの演奏が絶品です。金管の荒々しさと木管や弦の歌い回しはつくづくロシアのオケを感じさせて、「ああこの曲はやっぱりロシアの音楽だったのだ!」と改めて認識させてくれます。この曲の管弦楽の素晴らしさが初めて完全に味わえたと言っても大げさではありません。中村紘子については、彼女に特別な音楽性が有るとも思いませんし、強烈な打鍵を持つわけでもないですが、ここではとても立派なピアノを聴かせています。ロシア国立響の深い音にしっとりと溶け合っていて非常に美しいです。これは掛け値なしの愛聴盤です。

618qvgsf6yl_ac_ マルタ・アルゲリッチ(Pf)、アバド指揮ベルリン・フィル(1994年録音/グラモフォン盤) この曲を何度も録音しているアルゲリッチですので、当然以前と同じようには弾きたくないでしょう。ありとあらゆる部分にまで表現を駆使した凄まじい演奏です。アバドとベルリン・フィルもピアノに負けじと凄い音を鳴らしています。フィナーレの怒涛の迫力も圧倒的です。ですので、アルゲリッチのファンにとってはおよそ最高の演奏だと思います。しかし一歩下がって冷静に聴いてみると、凄い演奏だとは認めながらも、恣意的で演出臭いように感じてしまい、何となく引いてしまいます。私は「へそ曲がり」なのでしょうか。。

61rtevtuvxl_ac_sl1089_ 上原彩子(Pf)、フリューベック・デ・ブルゴス指揮ロンドン響(2005年録音/EMI盤) やはり自分が「へそ曲がり」だと思うのは、あのセンセーショナルな成功を収めた上原さんを長いこと聴いていませんでした。ところがたまたま室内楽演奏を聴いたところ素晴らしかったので、ようやくこのCDを買ったという訳です。チャイコフスキーコンクール優勝から3年後の録音です。1楽章、それに3楽章の前半が遅めのテンポなのは良いとしても、慎重すぎて高揚感が感じられません。どうしたことかと思っているとどちらも中間部以降は集中力が増してきて中々のものです。しかしブルゴスの指揮は全体的に重過ぎるように思います。

以上、結局のところ僕はどれも楽しめてしまうのですが、独奏ピアノについては、ギレリス(メータ盤)、アルゲリッチ(コンドラシン盤)、ガヴリーロフがベスト3。敢闘賞がリヒテル、キーシン、ポゴレリッチです。一方、オケ演奏については断然スヴェトラーノフがナンバーワンですので、理想の組み合わせは有りません。世の中なかなか上手くは行かないものですね。

ところが実は海賊レーベルのCD-Rながら史上最高の奇跡的な演奏が存在します。下記の関連記事から<ソコロフ/フェドセーエフのライブ>をご参照ください。

<関連記事>
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