ヴァレリー・ポリャンスキー指揮ロシア国立交響楽団の日本公演 チャイコフスキー三大交響曲
ロシアの幻の名指揮者ヴァレリー・ポリャンスキーが率いるロシア国立交響楽団の日本公演です。7月12日、会場は横浜みなとみらい大ホールでした。
ポリャンスキーが1990年代に英シャンドスレーベルに録音したチャイコフスキーの三大交響曲の素晴らしさを知る者としては、何とかその実演を聴きたいとは思うものの、知名度の低さから、日本に招聘するマネージメント会社は居ないだろうなぁと諦めていました。
ところが中堅のテンポプリモが招聘をして、しかも三大交響曲を一度に演奏すると言う前代未聞のコンサートの開催を知ったときの驚きと喜びといったら有りませんでした。その時のブログ記事はこちらです。
この半年の間、期待に胸を膨らませてこの時を待ち、ついにその日がやって来ました。
しかし、通常ならメインの曲が3曲続くというマラソン・コンサートです。いくらロシアでも演奏家のスタミナが心配されるところです。
とにかく交響曲第4番から開始されました。バックステージ席ですので、ポリャンスキーの指揮ぶりと顔の表情が良く見えます。
オーケストラの音は暗く、太く、華麗さからは程遠い印象です。ロシア特有の歌い回しにはホッとします。これは他の国には真似できません。演奏は非常にオーソドックスで、テミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィルのような洗練された上手さはありません。特に第3楽章のピチカートなどは、人によっては雑と受け止めるかもしれません。けれどもポリャンスキーは精密さを売り物にしているわけでは無く、音楽を大きくわしづかみにして、ロシア伝統の情緒の味わいと荒々しく豪快な音楽を聴かせてくれます。但し、マラソンに例えればまだ序盤の15km程度。エンジンはまだまだ控え目という印象でした。
第1回目の休憩をはさんで、2曲目は交響曲第5番です。この曲でもやはりオーソドックスなロシア風の音楽を聴かせます。甘さはかなり控えめで、良く歌いますが、ベタベタと甘ったるく演奏するというよりもロシアの土の香りが漂います。しかし第2楽章のホルンのソロは本当に上手かった。ポリャンスキーは合唱指揮者として名を馳せただけにハーモニーの美しさは特筆されます。テンポは全体的にゆったりとして気宇の大きな構えを感じさせます。決して新鮮味が有る訳では在りませんが、とても安心して聴けるチャイ5です。
終楽章の音の充実度と盛り上がりは第4番よりも格段に上がり、非常に聴き応えが有りました。
レースは既に30km地点。スパートをして他選手を振り切ろうという強い意欲が感じられます。
さて、2度目の休憩をはさんだ3曲目は、あの交響曲第6番「悲愴」です。ゴールに向かって驚異的な追い込みを駆けます。
「悲愴」冒頭の弱音部をかなり強く厚い音で弾かせるのは中々にユニーク。そして強音部の音の激しさは意外なほどで驚きを感じます。というのもシャンドスのCDで聴かれた演奏は、哀しみをも通り越して涙も枯れ果てた「虚無感」を感じさせるユニークな名演奏だったからです。
それに対して、この日の生演奏ではずっと普通のチャイコフスキーを聞かせました。といっても中間部のアレグロヴィーヴォ以降の凄さには言葉を失いました。地球上の哀しみを全部集めてきたかのような慟哭の極み!これこそは破滅のカタルシスです。こんな演奏を可能にするのはポリャンスキーの肺腑をえぐるような真実の音楽が団員に徹底的に浸透している証拠でしょう。
となれば、最大の聴きものが終楽章であることは想像が付きます。何という悲劇的で痛切な演奏!こんな「悲愴」は初めて聴きました。
確かにテミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィルの演奏は第一級の芸術品でした。妖刀村正のような切れ味と凄みは比類のないものでした。
しかし、このポリャンンスキーの「悲愴」は、人類の悲劇と哀しみを一身に背負ったかのような慟哭の爆発なのです。オケの音の壮絶さも驚異的でした。3曲目にして最高の盛り上がりを聴かせるスタミナとパワフルさは圧巻です。
こんなとんでもない「悲愴交響曲」を聴くことが出来たのは本当に幸せです。
今週末の18日は東京芸術劇場公演ですが、同じ三大交響曲のプログラムです。この稀有なチャイコフスキーの演奏を聴き逃しては一生の不覚ですよ。
何を置いてもこの演奏体験をしてみるべきです。
ちなみに、三大交響曲の最新録音CDセットが会場で限定販売されていました。¥4500でしたが、最新とあっては買わざるを得ません。
家に帰って「悲愴」を聴きましたが、生演奏の感動には及びません。当たり前です。あの感動は実演でしか感じられないのは間違いありません。(注)
(注)今回販売されたCDセットの演奏は全てシャンドス録音と同一であることが分かりました。その経緯はコメントを追って頂けると分かります。
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