チャイコフスキー(交響曲)

2015年7月14日 (火)

ヴァレリー・ポリャンスキー指揮ロシア国立交響楽団の日本公演 チャイコフスキー三大交響曲

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何という演奏・・・とんでもない「悲愴交響曲」だった。

ロシアの幻の名指揮者ヴァレリー・ポリャンスキーが率いるロシア国立交響楽団の日本公演です。7月12日、会場は横浜みなとみらい大ホールでした。

ポリャンスキーが1990年代に英シャンドスレーベルに録音したチャイコフスキーの三大交響曲の素晴らしさを知る者としては、何とかその実演を聴きたいとは思うものの、知名度の低さから、日本に招聘するマネージメント会社は居ないだろうなぁと諦めていました。

ところが中堅のテンポプリモが招聘をして、しかも三大交響曲を一度に演奏すると言う前代未聞のコンサートの開催を知ったときの驚きと喜びといったら有りませんでした。その時のブログ記事はこちらです。

この半年の間、期待に胸を膨らませてこの時を待ち、ついにその日がやって来ました。

しかし、通常ならメインの曲が3曲続くというマラソン・コンサートです。いくらロシアでも演奏家のスタミナが心配されるところです。

とにかく交響曲第4番から開始されました。バックステージ席ですので、ポリャンスキーの指揮ぶりと顔の表情が良く見えます。
オーケストラの音は暗く、太く、華麗さからは程遠い印象です。ロシア特有の歌い回しにはホッとします。これは他の国には真似できません。演奏は非常にオーソドックスで、テミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィルのような洗練された上手さはありません。特に第3楽章のピチカートなどは、人によっては雑と受け止めるかもしれません。けれどもポリャンスキーは精密さを売り物にしているわけでは無く、音楽を大きくわしづかみにして、ロシア伝統の情緒の味わいと荒々しく豪快な音楽を聴かせてくれます。但し、マラソンに例えればまだ序盤の15km程度。エンジンはまだまだ控え目という印象でした。

第1回目の休憩をはさんで、2曲目は交響曲第5番です。この曲でもやはりオーソドックスなロシア風の音楽を聴かせます。甘さはかなり控えめで、良く歌いますが、ベタベタと甘ったるく演奏するというよりもロシアの土の香りが漂います。しかし第2楽章のホルンのソロは本当に上手かった。ポリャンスキーは合唱指揮者として名を馳せただけにハーモニーの美しさは特筆されます。テンポは全体的にゆったりとして気宇の大きな構えを感じさせます。決して新鮮味が有る訳では在りませんが、とても安心して聴けるチャイ5です。
終楽章の音の充実度と盛り上がりは第4番よりも格段に上がり、非常に聴き応えが有りました。
レースは既に30km地点。スパートをして他選手を振り切ろうという強い意欲が感じられます。

さて、2度目の休憩をはさんだ3曲目は、あの交響曲第6番「悲愴」です。ゴールに向かって驚異的な追い込みを駆けます。
「悲愴」冒頭の弱音部をかなり強く厚い音で弾かせるのは中々にユニーク。そして強音部の音の激しさは意外なほどで驚きを感じます。というのもシャンドスのCDで聴かれた演奏は、哀しみをも通り越して涙も枯れ果てた「虚無感」を感じさせるユニークな名演奏だったからです。
それに対して、この日の生演奏ではずっと普通のチャイコフスキーを聞かせました。といっても中間部のアレグロヴィーヴォ以降の凄さには言葉を失いました。地球上の哀しみを全部集めてきたかのような慟哭の極み!これこそは破滅のカタルシスです。こんな演奏を可能にするのはポリャンスキーの肺腑をえぐるような真実の音楽が団員に徹底的に浸透している証拠でしょう。
となれば、最大の聴きものが終楽章であることは想像が付きます。何という悲劇的で痛切な演奏!こんな「悲愴」は初めて聴きました。
確かにテミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィルの演奏は第一級の芸術品でした。妖刀村正のような切れ味と凄みは比類のないものでした。
しかし、このポリャンンスキーの「悲愴」は、人類の悲劇と哀しみを一身に背負ったかのような慟哭の爆発なのです。オケの音の壮絶さも驚異的でした。3曲目にして最高の盛り上がりを聴かせるスタミナとパワフルさは圧巻です。
こんなとんでもない「悲愴交響曲」を聴くことが出来たのは本当に幸せです。

今週末の18日は東京芸術劇場公演ですが、同じ三大交響曲のプログラムです。この稀有なチャイコフスキーの演奏を聴き逃しては一生の不覚ですよ。
何を置いてもこの演奏体験をしてみるべきです。

ちなみに、三大交響曲の最新録音CDセットが会場で限定販売されていました。¥4500でしたが、最新とあっては買わざるを得ません。
家に帰って「悲愴」を聴きましたが、生演奏の感動には及びません。当たり前です。あの感動は実演でしか感じられないのは間違いありません。

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2014年12月11日 (木)

2015夏 ポリャンスキー/ロシア国立交響楽団の来日公演決まる!

Polyansky          (クリックすると拡大します)

こいつは大変なことになりました!
来年の7月、ヴァレリー・ポリャンスキーが手兵のロシア国立交響楽団を引き連れて東京、横浜、名古屋でチャイコフスキーの三大交響曲を演奏するそうです。

ポリャンスキーが録音したチャイコフスキーの演奏の素晴らしさは、以前ブログで記事にしましたが(こちら)、とりわけ「悲愴」に至っては、かのフェレンツ・フリッチャイ、エフゲニ・ムラヴィンスキーに並ぶ三大名盤の一つだと思っています。(ディスク入手については最下段を参照)

来年の日本公演では、信じ難いことに毎回まとめて3曲を演奏するのだそうです。ですので間に休憩が2回入るとのことです。何とタフなプログラムでしょう。

但し、間違えないように付け加えますと、このロシア国立交響楽団というのは、昔スヴェトラーノフが率いていた楽団とは別の楽団です。現在はロシア国立シンフォニー・カペラという正式名称であり、元々はロジェストヴェンスキーの為に結成されたソヴィエト国立文化省交響楽団なのです。
「なーんだ」と言うことなかれ。CDで聴く限りオーケストラの力量は超一流と比べると僅かに劣る気がしますが、それを補って余りあるのがポリャンスキーの持っている深い深い音楽性だからです。チラシ紹介にある”爆演型指揮者”というのとはちょっと異なるように思います。
どちらにしてもポリャンスキーを実演で聴くことが出来るとは本当に嬉しいです。一体どんな演奏になるのでしょう。
いやぁ、来年の夏は熱いぞぉ~。今から楽しみで成りません。

<参考> 招聘元HP:テンポプリモ

なお、補足ですが、現在「悲愴」のCDはオリジナルのシャンドス盤をAmazon U.K.から購入が可能です。中古であれば日本円決済で¥1,000少々ですのでストックが有るうちにお早めに。

<関連記事>
ポリャンスキー ロシア国立交響楽団 日本公演

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2014年2月15日 (土)

ゲルギエフ/マリインスキー劇場管のチャイコフスキー交響曲全集(映像)

昨日はバレンタイン・デーでしたので、今日は一日遅れの”逆バレンタイン”です。(笑)

ソチ・オリンピック開会式で五輪旗を持って入場行進するメンバーの一人としてヴァレリー・ゲルギエフも加わっていましたね。(前から二人目)

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ゲルギエフは好きな指揮者ですし、チャイコフスキーの演奏も良いと思うのですが、何故かこれまでのCD録音については疑問が多いです。最初に手兵のマリインスキー劇場管と「悲愴」の録音をしたのは良いですが、次に出したのがウイーン・フィルとのライブで「5番」。これも演奏が素晴らしかったので良いです。それから同じウイーン・フィルと「4番」、それに2度目の「悲愴」を出して後期三大交響曲集としました。ところが最近出した初期の第1番から第3番まではロンドン交響楽団との録音です。これにはがっかりでした。マーラーの録音はロンドン響で良いとしても、プロコフィエフやチャイコフスキーはやはりマリインスキー劇場管と録音して欲しかったです。どうもロンドン響との録音には商業主義が強く感じられてなりません。

ところが、DVDではチャイコフスキーの全曲がしっかりとマリインスキー劇場管と演奏されているのですね。何なのでしょうね、これって。CDでも全集出してよと言いたいです。

と、まぁ文句ばかり言わないでYouTubeから聴かせて貰いましょう。
やっぱりチャイコフスキーはロシアのオーケストラが良いですね。

交響曲第1番「冬の日の幻想」

交響曲第2番「小ロシア」

交響曲第3番「ポーランド」

交響曲第4番

交響曲第5番

交響曲第6番「悲愴」

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2014年2月13日 (木)

チャイコフスキー 後期三大交響曲 チェリビダッケの名盤、迷盤? 

ソチ・オリンピックで日本選手が連日活躍をしていますね。スノーボード、ハーフパイプの平野君と平岡君、素晴らしかったです。スケートやジャンプ競技のようにマスコミに大騒ぎをされなかったことも平常心で戦えた理由の一つのような気がします。ノルディック複合ノーマルヒルで20年ぶりのメダルを獲得した渡部選手も素晴らしいです。高梨沙羅ちゃんは余りにも周りが騒ぎ過ぎて可哀そうでした。でも17歳で4位入賞なんてとても凄いことだと思います。
表彰台に手が届かなかった選手たちは本当に悔しいことでしょう。けれども無理は有りません。日本以外の国の選手たちも血の滲む努力をしているわけですし、なにせ一発勝負のオリンピックの舞台で普段の力が出せること自体が極めて難しいことなのだと思います。

さて、ロシアのカーリングチームに脱線していないで、継続中の「ロシア音楽特集」に戻ります。今日は定番中の定番、チャイコフスキーの後期三大交響曲です。但し演奏は、恐らく定番からは幾らか外れるであろうセルジュ・チェリビダッケです。

チェリビダッケは何しろ個性的なので、熱狂的なファンが居ますが、一方でアンチ派も多いと思います。その点は読売ジャイアンツと同じです。「嫌いだ」とわざわざ言うことが、既にその存在を強く意識しているのです。ですので、僕も「嫌いだ」と言いながら、実はやはりファンなのかもしれません。

チェリビダッケの設定するテンポが何故あれほどまでに極端に遅いのか?ひとつの理由は「響き」にあるような気がします。極端に遅く、普通なら管楽器の息が切れてしまうようなテンポでも息を切らさず、しかも透明なハーモニーを保つことが出来る。これはオリンピック選手並みの鍛え方が無ければ無理だと思います。チェリビダッケは間違いなくジャイアンツ以上の鬼の監督です。チェリビダッケの美学を実現する為には無くてはならない条件なのでしょう。

しかしチェリビダッケの演奏を聴いて、全く別の曲を聴いているような面白さや驚きを得られることは度々有りますが、「ああ良い音楽を聴いたな」と思うことは案外少ないです。何の曲を聴いても、「作曲家の音楽」を聴いているというよりも、「チェリビダッケの音楽」を聴いているような気がしてしまうのです。それで中々「好きだ」と言えないのかもしれません。それでも気になってしまうというところが実に稀な存在です。

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チャイコフスキー交響曲第4番(1993年録音)
チャイコフスキー交響曲第5番(1991年録音)
チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」(1992年録音)

前置きが長過ぎました。このEMIからリリースされた「フレンチ・アンド・ロシアン・ミュージック」というボックスセットには、チャイコフスキー以外にももちろんフランス音楽やショスタコーヴィチやプロコフィエフなどのロシア音楽が収められています。けれどもメインとなるのはやはりこの三大交響曲です。
演奏はもちろん手兵のミュンヘン・フィルハーモニーで、3曲とも演奏会場はミュンヘンのガスタイクのフィルハーモニーホールです。

第4番は、まず第1主題がとにかく遅いです。「でた!」という感じのチェリビ調ですが、リズムが完全に停滞して旋律の味わいと切迫感が消え去っています。しかし展開部では地の底でもだえ苦しむような雰囲気がユニークで、じわじわとファンファーレのクライマックスまで盛り上がってゆくのには興奮させられます。後半は再び遅いテンポが足かせとなって緊迫感を失ったままです。終結部で一般的な速いテンポに変えるのも一貫性に欠けます。
第2楽章も遅く重いテンポで歌われますが、ここは元々緩徐楽章なのでさほど抵抗は有りません。ただ、中間部はやはり遅過ぎで胃にもたれます。
第3楽章も極めて遅く、こういう音楽を遅く演奏する意味は一体何だろうと悩みます。
第4楽章も遅いです。スピードレースのような演奏が多いことを考えると、希少価値ですが、音楽としては異質に感じられます。ところが終結部に向かってテンポが段々と速まるのでいつの間にか普通の演奏に変わっています。

第5番は、第1楽章では導入部の遅さはともかくも、主部の遅さと重苦しさが驚くほどです。但し音楽自体も元々重い運命を背負ったようなところが有るので、意外に違和感を感じません。むしろ胃にもたれながらもズシリとした聴き応えが有ります。
2楽章のテンポの遅さはもう想定通りなので驚きません。でもやはり遅い・・・。音は管も弦もとても美しく、中間部のファンファーレ部分でも響きの美しさを失いません。
3楽章のワルツもかなり遅いですが、こういう暗く沈んだ解釈は有りだと思っています。でもやはり遅い・・・。
終楽章はチェリビダッケの本領発揮で金管をとても美しく響かせます。良くも悪くも「爆演」とは程遠いコントロール下にあります。問題は意外にテンポを動かすことで、基本は遅いのですが、突然速くなったり元に戻ったりする部分が有り、幾らか構築性が失われた印象です。

第6番「悲愴」は、第1楽章第1主題のテンポはもちろん遅く、旋律を歌わせている割にはフリッチャイの「哀しさ」やポリャンスキーの「虚しさ」のような感情への訴えかけが希薄に感じられます。アレグロ・ヴィーヴォの展開部ではテンポの変化が見られます。速くなってみたり、粘って重くなったり、突然元に戻したりと一貫性の無さが少々矮小さを感じさせたりもします。
第2楽章はゆったりとした普通の演奏です。中間部を最弱音に抑えるのも常套的な表現です。
第3楽章のマーチは遅めのイン・テンポで淡々としています。特別な面白みは有りません。
第4楽章は、うって変わって冒頭から人生の虚しさに溢れるような雰囲気に溢れていて胸を締めつけられます。最弱音で始まりゆっくりゆっくりと高まりをみせる歌がとても効果的です。楽章全体が約13分なので、テンポはかなり遅い部類に入ります。バーンスタインの17分が恐らく最長なので、最遅王座は奪われた形です。

ということで、部分的や楽章ごとには聴きどころが多く有るのですが、通して聴くと余り感銘は受けません。最大の原因は、やはりチェリビダッケがチャイコフスキーの音楽を演奏しようというよりも、自分の音楽を演奏しようとしているからだと思います。

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2014年2月 8日 (土)

チャイコフスキー 交響曲第4番 ~40年ぶりに聴くズデニェク・コシュラーの名演~

なにもソチ・オリンピックの開幕に合わせたわけでもないのでしょうが、全国的に雪となり、関東でも16年ぶりの大雪となるようです。雪国の人からみれば数十センチの雪で「大雪」だと慌てふためく都会がきっと可笑しいことでしょうが、雪に慣れていない都市にとってはやはり大ごとです。

雪に覆われると、無性に聴きたくなるのがやはりチャイコフスキーです。交響曲で言えば、第1番と第2番、それに第4番ですね。これは自分のイメージなのです。ですので、今日は朝から3曲を順に聴いています。

ところで最近、交響曲第4番で40年ぶりに聴いて感動した演奏が有ります。それはチェコの名指揮者ズデニェク・コシュラーの録音です。

ズデニェク・コシュラーは1995年に亡くなりましたので、早いものでもうじき20年になろうとします。日本のオーケストラにも度々客演していたので、当時はかなり親しまれていたと思います。けれども録音が決して多いというほどでは無かったために、いつの間にか忘れ去られた印象です。この人がスロヴァキア・フィルと残したドヴォルザークの「新世界より」や「スラヴ舞曲集」、スメタナの「我が祖国」などは、各曲の1、2を争う超名盤なのですが、今ではそのことを語る人をほとんど知りません。

そんなコシュラーの録音の中で、今から40年も前に友人の家でたった一度しか聴いたことが無いのに、鮮烈な印象を脳裏に焼き付けられている演奏が有ります。それはロンドン交響楽団を指揮して1972年にConnoiseur Societyというマイナーレーベルに残したチャイコフスキーの交響曲第4番です。何しろ長いことオケがチェコ・フィルだったかロンドン響だったか、あるいはどこのレーベルだったか憶えていなくて、探すことも出来ませんでした。それを、ようやく中古アナログ盤かダウンロードでなら入手が出来ることを突きとめました。CD化はされていないようです。結局ダウンロードで購入したのですが、記憶の通りの凄い演奏でしたのでご紹介しておきます。

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ズデニェク・コシュラー/ロンドン響(1972年録音/Connoiseur Society原盤)(ダウンロード専用:こちら

ちなみに、中古アナログ盤の画像も有りましたので下に貼り付けておきます。頭が光っているのは禿げているから??でしょうか。

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第1楽章の冒頭のファンファーレをゆっくりと威厳を持って開始しますが、気合の籠った音です。そして第1主題が始まりますが、非常に遅いテンポです。悲しみに沈んで息絶え絶えに感じられます。ロシアのポリャンスキーのテンポに近いのですが、フレージングの良さと抑揚の上手さは特筆に値します。ちなみにこの楽章を20分10秒で演奏していますが、ポリャンスキーでも20分は越えていません。チェリビダッケの23分というのは(余りに遅過ぎで)論外としても、極めて遅いテンポにもかかわらず非常に緊迫感を持った素晴らしい演奏です。

第2楽章はコテコテのロシア節で歌ってほしいところですが、ロンドン響としては精一杯の雰囲気を出しています。やはり遅めのテンポでじっくりと歌わせているのが良いです。

第3楽章は平均的なテンポですが中々にリズミカルで愉しめます。

第4楽章はことさらテンポを速めるわけでも無く、堂々と恰幅の良い演奏です。ロンドン響としてはかなり重みのある壮絶な響きを聞かせてくれています。中間部での微妙なテンポの変化も、わざとらしさを感じさせること無く愉しめます。終結部の迫力もかなりのものです。

とても残念なのは、恐らくアナログ音源のデジタル化の問題でなのでしょうが、音が薄く安っぽいことです。ただ、正規リマスター盤ではありませんし、この名演奏を聴けただけでも有り難いと言っておきましょう。何しろ演奏の魅力だけで言えば、マイ・ベストを争えるほどの名演奏です。40年ぶりに初恋の人に会ったような熱い気持ちにさせられました。

<関連記事>
チャイコフスキー 交響曲第4番 名盤
チャイコフスキー 後期三大交響曲 ポリャンスキー/ロシア国立響

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2014年1月30日 (木)

テミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィル 2014来日公演 ~静と動の対比~

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もうじきソチ・オリンピックが開かれるロシアから、ユーリ・テミルカーノフとサンクトぺテルブルグ・フィルハーモニーが3年ぶりに来日しています。そこで昨夜はサントリーホールのコンサートを聴きに行きました。

このロシアの名門オーケストラは近年では、2008年、2011年と来日していますが、いずれもコンサートを聴いて深い感銘を受けました。(詳しくは下記の関連記事を)

このオーケストラはロシア最古の楽団であること以上に、かつてのムラヴィンスキーの手兵レニングラード・フィルハーモニー(旧名称)として余りにも有名です。そのムラヴィンスキーが神格化された存在である為に、どうしても後任のユーリ・テミルカーノフは過小に評価されがちです。確かに、古い演奏には平凡なものも多かったような気がしますが、ムラヴィンスキーの没後から既に25年間も首席指揮者の座に就いている事実と実演を聴く限り、オーケストラの実力、優れた指揮ともにムラヴィンスキーの時代と比べても遜色が無いことを認識させられます。

2008年にはチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」、2011年にはやはりチャイコフスキーの第5番、そして今回交響曲第4番を聴きましたので、これで後期三大交響曲を聴くことが出来ました。現在チャイコフスキーを演奏してこのコンビは世界最高だと思います。

昨夜のプログラムは、前半が日本初演というギア・カンチェリ作曲「アル・ニエンテ~無へ」、後半がチャイコフスキーの交響曲第4番です。

それではコンサートの感想です。

ギア・カンチェリはグルジア共和国生まれの作曲家です。「アル・ニエンテ~無へ」は2000年に書かれた曲で、テミルカーノフに献呈されました。現代曲ですので、訳のわからない音楽を想像していましたが、さにあらずです。鳴る音と長い休符、ピアノとフォルテ部分が繰り返されるという、「静と動」の対比の音楽です。不協和音が多用されますが、不思議な抒情を感じさせる美しい響きが多いです。「現代音楽」というよりもミステリアスな映画に似合うような音楽という気がしました。

後半のチャイコフスキーの交響曲第4番では、テミルカーノフの旺盛な現意欲が感じられました。普段聴き慣れた演奏とは一味も二味も異なりました。

まず第1楽章冒頭のファンファーレが極めてゆっくりと、控え目に鳴らされます。はじめ「迫力に欠けるな」と感じましたが、それが解釈であることがあとから判ります。主部に入ると、テンポは逆にかなり速くなります。良く言えば「切迫感の有る」、悪く言えば「せわしない」テンポです。個人的にはこのテンポは少々速過ぎに感じられます。ところが、ゆったりとした部分に入ると再びテンポがぐっと落ちます。要するに、この曲でも表現のテーマは「静と動」の対比なのかと理解しました。
金管を派手に「爆奏」させないのはいつものテミルカーノフです。ムラヴィンスキーやスベトラーノフなどのタイプとは明らかに異なります。弦楽の音が常に表に出て、管楽の音に消されることがありません。消されない弦楽群の力ももちろん凄いです。あの延々と続く付点音符のリズムを正確に弾き切るのは非常に奏者を疲れさせるのですが、それを微塵も感じさせません。
第1楽章も後半に入ると音がどんどんと高揚してゆきます。終結部に入りたたみかけてゆく音の持つ凄みは流石にこのオーケストラの伝統です。

第2楽章はこれまで聴いた演奏の中でも最も遅いぐらいのテンポです。あの美しい旋律がもたれるほどですが、深く沈み込んでゆく虚無的なまでの雰囲気は悪くありません。オーボエ独奏の音色もとても美しいです。弦楽の音の美しいことも流石です。柔らかくふわっとホールに広がってゆきます。

第3楽章は聴きものの弦のピチカートの精度が気になるところですが、セッション録音ではありませんし、実演でこれだけ揃って演奏するのは並みのオケではありません。

第4楽章は当然速いテンポが予想されますが、その通りです。ここでも金管の音が制御されていて、弦楽の音がかき消されません。それどころか、あの速い音符を弾き切る弦楽群の優秀さには脱帽です。第1プルトから最後尾のプルトまでが全く同じようにピタリと合って凄みの有る音を出しています。昔、ムラヴィンスキーの「ルスランとリュドミラ」序曲を初めて聴いて驚愕したときを思い出します。このような「凄み」は、そうそう感じられるものではありません。そして一糸乱れぬアンサンブルで進軍を進めて、あのフィナーレにたたみかけてゆきます。終結前に冒頭のファンファーレが再び現れますが、今度は冒頭のときよりも遥かに力強く奏されます。
この楽章においても、決して「爆演」という印象では無く、極めて理知的な凄さ、興奮を感じさせるユニークなものです。こういうチャイコフスキーを聴かせるコンビが他に居るかどうか、少なくとも自分には思い当りません。

アンコールは2曲。このコンビの定番のエルガーの「愛の挨拶」とストラヴィンスキーの「プルチネッラ」から第7曲「ヴィーヴォ」でした。コントラバスとトロンボーンのソロが活躍してコンチェルトの趣のある「ヴィーヴォ」を実演で聴いたのは初めてですが、これはとても愉しかったです。

75歳になったテミルカーノフさんは3年前と少しも変わらず、まだまだ元気そうです。これからも何度でも日本に来てくれると良いなと思います。

<関連記事>
テミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィル 2011来日公演
テミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィル 2008来日公演
チャイコフスキー 交響曲第4番 名盤

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2013年12月12日 (木)

ロストロポーヴィチ モスクワ・コンサート ~リターン・トゥ・ロシア~

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ひとくちに”コンサート”と言っても、ごく普通のそれも有れば、歴史の上で何らかの意味合いを持つものなどと様々です。例えば、偉大なチェリストであり名指揮者でもあったムスティスラフ・ロストロポーヴィチが1990年にロシアで行ったコンサートなどは、典型的な後者の一つですね。

誰もが知っている通り、ロストロポーヴィチは当時のソヴィエト社会主義の反体制派である作家ソルジェニーツィンを擁護したことから、同じように反体制派の烙印を押されて、1970年以降は国内外での演奏活動を極端に制限されてしまいました。そして、とうとう1974年にアメリカへ亡命したために、ソヴィエトの国籍は剥奪されます。

それから16年という長い年月が経ち、ソヴィエト国内の政治情勢がペレストロイカによって大きく変化すると、ようやく祖国への帰還が認められました。1990年のことです。再び祖国の土を踏めることになったロストロポーヴィチに、アメリカから同行したのは当時、音楽監督を務めていたワシントン・ナショナル交響楽団です。彼らがレニングラードとモスクワで3回のコンサートを行うことが許可されたからです。

ロストロポーヴィチたちが到着したモスクワの空港は、彼らを出迎える大勢の人々で埋め尽くされ、コンサートが行われる会場には、ロシアの多くの要人や文化人、外国の要人たちが訪れました。誰よりも大歓迎したのはロシアの一般民衆だったことでしょう。

ロストロポーヴィチ自身も、このように語っています。「私たちがソ連を離れた頃には、国籍を剥奪されて、その後祖国に迎えられた例などは一つも有りませんでした。それが今回、ソ連政府がこのような処置を取り、私たち一家だけではなく、オーケストラも一緒に迎えられたのですから、我が人生、最良の時です。」

そのモスクワでのコンサートは米国SONYによって録音されて、CD化されています。それが「ロストロポーヴィチ・モスクワ・コンサート」(オリジナルタイトル:ロストロポーヴィチ・リターン・トゥ・ロシア)と題されたCDです。

61tqjegqhll__sl500_sx300_ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ/ワシントン・ナショナル交響楽団(1990年録音/SONY盤)

メインの演奏曲目はチャイコフスキーの「悲愴交響曲」ですが、かつてロストロポーヴィチがソ連から亡命をする直前に指揮をしたのも、やはりこの曲だったのだそうです。

CDには、演奏が始まる前の聴衆の大きな声援と盛大な拍手から収録されていますが、それはまるで演奏が終了した後のような凄さです。

ロストロポーヴィチの指揮する「悲愴交響曲」は、骨太のロシアン・スタイルを感じさせる演奏ですが、ワシントン・ナショナル交響楽団の音には、ロシアのオーケストラのような荒々しいまでの豪放さはありません。やはり、ずっとアメリカ的な明るさと洗練を感じさせるものです。もちろんこのコンサートの状況下から、当然ながら力強い熱演を行なっていますが、決して”爆演”ではありません。また、この演奏からは苦悩や悲しみにひたすら耐え偲ぶような印象も余り受けません。むしろ力強く、逆境を乗り越えて行こうとするような、人生に肯定的な強い意志の力を感じます。それは正にロストロポーヴィチの人生そのものなのかもしれません。この演奏が、とても力強く生きようとする勇気に満ち溢れているのは、決してオケの響きの為だけでは無いように思うのです。

演奏が終わった後の拍手と声援が、それは凄まじいことは言うまでもありません。

このCDには「悲愴交響曲」の他にも、当夜演奏されたヨハン・シュトラウス(ショスタコーヴィチ編曲)のポルカ「観光列車」、グリーグのペールギュントから「オーゼの死」、パガニーニ(マーキス編曲)の「常動曲」、プロコフィエフのロミオとジュリエットから「タイボルトの死」、ガーシュインの「プロムナード」、スーザの行進曲「星条旗よ永遠なれ」といった、短い曲が何曲も収録されています。

これは、時代と国家によって自らの人生を翻弄されても、決して負けることなく生涯に渡ってヒューマニズムに満ち溢れた素晴らしい演奏をし続けた一人の偉大な演奏家の歴史的なコンサートです。

<関連記事>
チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」 名盤

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2013年12月 4日 (水)

テミルカーノフ/サンクトペテルブルグ・フィル&エレーヌ・グリモーのライヴ盤 チャイコフスキー「悲愴」/ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番

もうじき冬将軍の到来ですね。北海道や東北、北陸地方では来週あたりから雪の降る日が増えるようです。皆さん、お風邪など召されませぬようにお気を付け下さい。
でも、音楽鑑賞では冬の季節を味わうことにしましょう。しばらくは「冬のロシア音楽祭り」で行きたいと思います。

ロシア音楽といえば何と言ってもチャイコフスキーですね。現在、チャイコフスキーのシンフォニーを演奏して、これ以上のコンビは絶対に無いと思えるのが、ユーリ・テミルカーノフとサンクトペテルブルグ・フィルのコンビです。彼らは1990年代の前半に後期三大シンフォニーをRCAレーベルにCD録音していて、それは良い演奏には違いないのですが、最近の彼らの演奏の凄さはとてもとてもそんなレベルでは無いからです。

比較的最近の彼らの来日公演で聴いたのは、2008年の「悲愴交響曲」と2011年の「交響曲第5番」です。どちらも戦慄が走るぐらい凄みのある演奏でした。特に「悲愴」の素晴らしさは正に言葉を失うほどで、この歴史あるオーケストラの前任シェフであるムラヴィンスキー(その当時は”レニングラード・フィル”の名称でした)のライブ録音と比べても、どちらが凄いかとても判断が付かないほどに思えました。当然、最新録音盤が期待されるところですが、実現していません。ただ、幸いなことに海賊盤CD-Rながらも、2009年のライヴ録音が出ています。これには、同じ日に演奏されたエレーヌ・グリモーが独奏するラフマニノフのピアノ協奏曲第2番も収められているのが嬉しいです。

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ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィル、エレーヌ・グリモー(ピアノ)(2009年9月17日録音/DIRIGENT DIR-0677)

このCD-Rは米国の海賊レーベルDIRIGENTが出していますが、このレーベルは音質が優れたものが多いことで知られています。このライブは2009年にハンガリーのブカレストで録音されたものですが、非正規盤にしては音質はかなり良い方です。弦楽器の音に僅かにざらつき感が有りますが、ほんの些細な程度なので演奏の良さに気にならなくなるレベルです。

それにしても、この「悲愴」の演奏は素晴らしいです。ムラヴィンスキーはチャイコフスキーをライブで演奏する場合に、意外にリミッターを外してしまい”爆演”になることも多かったのですが、テミルカーノフはオーケストラを完全に制御統率したうえで、それでいて劇的な演奏を行っています。その点では、ムラヴィンスキーよりも上なのかもしれません。この前年に自分が接した生演奏と全く同じ凄さです。オーケストラのアンサンブルは完璧で、個々の奏者達も最高レベルの上手さです。ムラヴィンスキー時代のあの高いレベルをそのままに維持しています。テミルカーノフというマエストロは職人タイプの指揮者で、大袈裟に大見得を切るような表現は有りませんが、創り出す音の充実度と音楽性の高さは本当に驚くほどです。例えて言うならば、それはギュンター・ヴァントが演奏した一連のブルックナーに匹敵すると思います。
もちろん、実際には生演奏で受けた感動には及ばないのですが、家で鑑賞できるディスクということでは、フリッチャイやムラヴィンスキー、ポリャンスキーといった名盤に肩を並べると思います。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の演奏も素晴らしいです。グリモーは2000年にアシュケナージ/フィルハーモニアと録音した正規録音CDがとても良い演奏でしたし、2008年のルツェルン音楽祭でアバドと共演した際の演奏もDVD化されていますが、それは彼女のピアノの更なる進化が感じられる素晴らしい演奏でした。
そのルツェルンの翌年になるこの演奏ですが、グリモーの弾くピアノの素晴らしさはルツェルン盤と同格に思います。異なる点は、アバドとルツェルン祝祭管の音と演奏が非常にゴージャスでグラマラスなラフマニノフの印象なのに対して、テミルカーノフとサンクトペテルブルグPOの音は、非常に暗い印象で、荒涼としたロシアの大地を想わせる響きだと言えます。これはベルリン・フィルのメンバーを母体とするヴィルティオーゾ・オケであるルツェルン管と生粋のロシアン・オケのサンクトペテルブルグ・フィルとの違いでもあるでしょう。僕はハリウッド的なラフマニノフ演奏も好きなのですが、ロシア的な演奏にはやはりそれ以上に強い共感を覚えます。グリモーのピアノの音もとても美しく捕えられていますし、オーケストラの音とのバランスもとても良く取れています。これがもしも正規盤であれば、間違いなくベスト盤の一つに入ります。
2曲の演奏のどちらもが最高レベルの素晴らしさですし、音質も優れているこの海賊盤CD-Rは、古今の名盤と同等か、あるいはそれ以上の素晴らしさだと思います。

DIRIGENTの海賊盤は幾つかの輸入取り扱い店が有りますが、今回購入したのはこちらからです。一応ご参考までに。

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2011年12月29日 (木)

チャイコフスキー 交響曲全集 ロジェストヴェンスキー/モスクワ放送交響楽団

本当に大変だった一年もいよいよ終わろうとしています。気が付けば「晩秋」もどこへやら、真冬となり各地から大雪のニュースが伝えられてきます。僕が住む神奈川に雪が降ることは滅多にありませんが、それでも冬の寒さはこたえます。そんな時には、やはりチャイコフスキーを聴くのが良いんですね。大オーケストラの勇壮な響きで、冬将軍に負けるな!という気になります。

そんなチャイコフスキーの交響曲全集というと、現在では幾らでも選ぶことが出来ますが、僕が学生の頃にはごく限られたものしか有りませんでした。世界初の録音として、スヴェトラーノフの全集について以前記事にしました。本国ロシアが1960年代に当時新進気鋭のスヴェトラーノフとソヴィエト国立交響楽団(現在ではロシア国立響)に託した事業です。その後を追って1970年初めに、モスクワの放送交響楽団と全集録音したのが、やはり当時若手のロジェストヴェンスキーでした。この全集はとても話題になり、僕もアナログLP盤で購入しました。そのような、とても思い出深い全集なのですが、そのアナログ盤は既に手放してしまい、長いことCDも出ていませんでした。前からもう一度聴いてみたいと思っていたところ、少し前にようやくリリースされたので、久しぶりに聴くことが出来ました。その感想をお伝えしたいと思います。

Tchaikovsky158_2
ゲンナジ・ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送交響楽団(1972年録音/ヴェネツィア盤)

オリジナルはロシアのメロディア録音ですが、定評のあるヴェネツィア・レーベルのリマスターですので、まずは信頼できます。アナログ録音のデジタルリマスターのために、どうしても高音型になり、かつてのアナログ盤と比べると低域の量感不足を感じますが、音造りとしては決して悪くないと思います。

250pxgennady_rozhdestvenskyロジェストヴェンスキーという指揮者は、たとえばスヴェトラーノフがロシアの広大な大地を想わせるような土臭さは持っていません。ずっと洗練されたスマートさを感じさせます。その点では、ムラヴィンスキー・タイプなのかもしれません。けれどもムラヴィンスキーもそうでしたが、一たび指揮棒に気合が入ると耳をつんざく様な金管が炸裂する凄まじい爆演を行ないます。ところが、それとは逆にチャイコフスキーにしばしば登場する軽やかなバレエ音楽のような美しい部分の表現にかけても、大変な素晴らしさなのです。この両面性がこの指揮者の最大の魅力です。

ところで、当時のモスクワ放送響は、相当のヴィトゥオーゾ集団でした。ホルンの首席の名前は知りませんが、長いパッセージを朗々と歌い切る実力は他の一流楽団の奏者と比べても群を抜いています。ですので第1番「冬の日の幻想」の2楽章や第5番の2楽章のような、ホルンのソロの聴かせどころは最高です。また、弦ではチェロ・パートをヴィクトル・シモンというロストロポーヴィチばりの名奏者が統率していましたので、低弦の歌い方といったらそれは素晴らしかったです。もちろん金管楽器のパワーもさすがにロシアの一流オーケストラです。当時のスヴェトラーノフのソヴィエト国立交響楽団、ムラヴィンスキーのレニングラード・フィルと並びます。

昔は、初期の第1番から3番までの演奏は非常に気に入っていましたが、4番以降についてはムラヴィンスキーと比べて物足りなさを感じていました。けれども現在聴き直してみると、4番以降も実に素晴らしい演奏です。いかにもロシア的な荒々しい音の迫力と、洗練されたおしゃれなセンスとを兼ね備えている非常に稀有な演奏だということに気づきます。チャイコフスキーの交響曲全集としては、スヴェトラーノフの晩年のスタジオ録音と東京ライヴの二種類が最高だとは思いますが、やや違う味わいを楽しめる演奏としてはこのロジェストヴェンスキー盤が真っ先に挙げられそうです。

この全集は6枚組ですが、実はサービスが満点なのです。「マンフレッド交響曲」が入っているだけでも有り難いのに、更に「ヴァイオリン協奏曲」のオイストラフ/ロジェストヴェンスキーの1968年ライブの天下の名演が入っています。そのほかに、ロストロポーヴィチ独奏の「ロココの主題による変奏曲」や序曲「1812年」、バレエ「くるみ割り人形」組曲も全てロジェストヴェンスキーの指揮で入っています。正にジャパネット・タカダばりの出血大サービスです。

というわけで、これが本年最後の記事になると思います。明日明後日は家の大掃除ですので。

皆様方もどうか良い年越しをお過ごしになられ、そして素晴らしい新年をお迎えください。一年間拙ブログにお越し頂きまして本当にありがとうございました。

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2011年11月 6日 (日)

テミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィル 2011来日公演

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サンクトぺテルブルグ・フィルハーモニーが来日していますが、今日は横浜みなとみらいホールに聴きに行ってきました。このロシアの名門オーケストラを前回聴いたのは、ちょうど3年前の2008年ですが、そのコンサートについては「サンクトぺテルブルグ・フィル来日公演」の記事にしています。この時には、本当に素晴らしい「悲愴交響曲」を聴くことができました。今回は同じチャイコフスキーでも交響曲第5番を聴けるので、とても楽しみにしていました。

このオーケストラはロシア最古の楽団であり、ソビエト連邦時代には、レニングラード・フィルハーモニーの名称で、かのムラヴィンスキーが50年間の長きに渡って率いたオーケストラとして、その名を知られています。

ムラヴィンスキーの後を引き継いだユーリ・テミルカーノフは、先代が余りに偉大であったために大いに苦労したことが想像されます。実際に人気の上では(地元では知りませんが)凋落しました。けれども前回のコンサートを聴いた限り、オーケストラの実力は全く落ちておらず、テミルカーノフの円熟した指揮ぶりが素晴らしかったです。翌年に聴いたゲルギエフのマリインスキー劇場管弦楽団よりもオケの実力は上だと思いました。スヴェトラーノフも居ない今、ロシアの最もロシアらしい音を聴くことが出来る最高のコンビなのは間違いありません。

今日のプログラムは、前半がラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、後半がチャイコフスキーの交響曲第5番と、ロシア音楽のファンにとっては嬉しい組み合わせです。それではコンサートの様子をお伝えします。

前半のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、ピアノ独奏はロシア出身のルーステム・サイトクーロフという人です。恥ずかしながらこのピアニストは名前も知りませんでした。ですので期待値はそれほど高くは有りません。ところが!最初の和音から中々の手ごたえです。音も美しいですし、この難曲を弾きこなすテクニックに不足は感じません。そして何よりも、オーケストラの合い間に奏でるロマンティックな旋律が何ともデリカシーに富んでいます。ラフマニノフの暗甘い音楽を心から堪能できました。オーケストラの分厚い響きも素晴らしかったです。ラフマニノフはやっぱりロシア音楽なんですよね。こういう音での伴奏は、滅多に聴けません。う~ん、ラフマニノフ!

後半のチャイコフスキーの交響曲第5番も、結論から言うと非常に素晴らしい演奏でした。本場もの嗜好の自分にとっては、これ以上のチャイコフスキーを現在、生で聴くのはまず難しいです。導入部は遅く、主部に入ると徐々にテンポを上げてゆきます。速い部分では切迫感を感じるほどに追い上げます。そして再びゆったりとしたテンポで大きく歌い上げます。要するに緩急の巾が極めて大きいのです。アゴーギグもふんだんに取り入れます。けれども唐突な感じは全く有りません。僕はこういうチャイコフスキーが大好きです。テミルカーノフの熟達した職人技には本当に感心します。金管の迫力も相当なものなのですが、決して騒々しくはなりません。どんなフォルテシモの場合でも響きのバランスが保たれて美しさを失いません。かつてのロシアの名指揮者達である、ムラヴィンスキー、スヴェトラーノフ、ロジェストヴェンスキー(はまだ現役か)のチャイコフスキーは実演の場合、金管のバランスのタガが外れてしまい、余りの音量に騒々しくなることが往々にして有りました。テミルカーノフはその点、よくも悪くも冷静です。演奏がヒートアップしても、指揮者は冷静さを失いません。ところが聴衆は充分に興奮させられます。これは大したものです。ということで、今回もまた、素晴らしいチャイコフスキーを堪能しました。演奏後の聴衆の拍手は当然凄かったです。

ちなみにこのコンビが1992年にRCAに録音したCDが有って素晴らしい演奏でしたが、今日の演奏は感興の高さがそれを上回り、更に素晴らしかったです。

アンコールは2曲。エルガーの「愛の挨拶」とチャイコフスキーの「白鳥の湖」から「四羽の白鳥の踊り」です。エルガーの弦楽がいじらしいほどの美しさで感激しました。

テミルカーノフさんは現在73歳ですが、まだまだ日本に来てくれることでしょう。その時には何を置いても、また聴きに行きたいと思わずにいられません。

<旧記事> 「チャイコフスキー 交響曲第5番 名盤」

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