シューマン(器楽曲)

2012年5月25日 (金)

シューマン 「子供の情景」op.15 名盤 ~子供は眠る~ 

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「眠る子供たち」 ワシーリー・ペローフ(ロシア)

僕は、どちらか言えばピアノ曲よりも、ヴァイオリンや室内楽を聴くことが多いのですが、ピアノ曲も決して嫌いなわけではありません。ベートーヴェン、ショパン、シューマン、シューベルトあるいはドビュッシーなんかも結構好んでいます。中でもシューマンの曲は、自分の肌に一番合っていると思います。明暗が余りはっきりとしないマーブル色の色彩の曲想に、とても惹きつけられるのです。

シューマンのピアノ作品の中では、とりわけ「幻想曲」「クライスレリアーナ」「交響的練習曲」の3曲を好んでいます。楽曲の充実感が群を抜いているからです。それ以外の曲で上げるとすれば、「幻想小曲集」が好きですが、もう一つ「子供の情景」も中々気に入っています。

「子供の情景」を聴いて思い出すのは、児童文学作家の森絵都(もり・えと)さんの短編小説集「アーモンド入りチョコレートのワルツ」に含まれた小説「子供は眠る」です。主人公の中学生が、何人かのいとこたちと海の近くの別荘で夏休みを過ごす話ですが、別荘の持ち主の家の年長のお兄さんが、毎晩、「音楽鑑賞の時間だぞ」と言って、みんなに無理やり「子供の情景」のレコードを聴かせます。ですので、みんなはすぐに眠くなってしまい、最後まで聴き通せないのですが、その時の子供たちの様子や別荘での生活ぶりが、詩情豊かに描かれていて、大変ほのぼのとした気持ちになります。

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さて、シューマンの「子供の情景」は、全部で13曲から成ります。

「知らない国々」「珍しいお話」「鬼ごっこ」「おねだり」「満足」「大事件」「トロイメライ(夢)」「炉辺で」「木馬の騎士」「むきになって」「おどかし」「子供は眠る」「詩人のお話」

これらはすべて3分以内、短いものは30秒ほどの小曲ばかりです。子供のためのアルバム、と言えるのでしょうが、単に子供に弾かせるためのピアノピースということではありません。大人が自らの子供時代の回想をしているような趣が有ります。シューマン自身も、クララから「ときどき、あなたは子供に見える」と言われた言葉の余韻の中で作曲をしたそうです。シューマン特有の光りと影のまだら模様の雰囲気が、全曲に共通して感じられます。

第6曲「トロイメライ」は最も有名で、美しさの極まった名曲ですが、こういう曲は演奏が案外難しいと思います。情緒を感じさせてくれなくては話になりませんが、かといって余りにゆっくり思いを込め過ぎても、もたれてしまい旋律線があやふやになります。いくら「夢」だといっても、それは困ります。

第12曲「子供は眠る」は、子供の寝ている姿を眺めて幸福感に浸るというよりも、「大人になってしまった自分は、もう二度と幸せな子供の頃には戻ることが出来ないのだなぁ」という寂しさや哀しさを感じます。この曲と、それに続く終曲「詩人のお話」は、いかにもシューマンらしい沈滞した雰囲気に包まれています。

それでは、この曲の愛聴盤のご紹介です。

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アルフレッド・コルトー(1947年録音/EMI盤) 非常に古い録音で、昔のSP盤からの復刻ですのでサーフェイスノイズがずっと大きく入っています。しかし演奏そのものは現代では到底聴けないような味わいの深いピアノです。二つの大きな戦渦を越えて生き、演奏をし続けてきた大家がそれからどのような音楽を表現するか、我々現代人には到底理解できる範囲を超えています。技術が優れるとか優れないとかいう次元ではとても語れないようなこの音楽に是非ともじっと耳を傾けて欲しいと思います。

Chopin-5099940960029 サンソン・フランソワ(1964年録音/ERATO盤) これは、パリのサル・プレイエルで開いたリサイタルのライヴです。ゆっくりと躊躇うように始まり、いかにもフランソワらしい閃きやファンタジーが湧き出します。人間的な肌触りが有り、そこに優しい父親が愛おしい我が娘をじっと見守るような慈しみさえ感じてしまいます。ファンならずとも強く惹き付けられるでしょう。録音は明瞭です。これはCD3枚組で1957年のピアノ協奏曲(指揮はミュンシュ)も収められています。

51lod210vsl__ss500_ ウラジーミル・ホロヴィッツ(1969年録音/CBS SONY盤) ホロヴィッツの弾く「クライスレリアーナ」は最高でしたが、「子供の情景」にも一切手を抜きません。ピアノタッチが明瞭で、音符の全てが光り輝いています。とても子供のためのアルバムどころではありません。「トロイメライ」の美しさも際立っています。それに比べると、最後の2曲は、意外にあっさりと流れてしまい、もう少し余韻を感じさせてくれても良かったように思います。

61ez9sietxl__ss500_ ウィルヘルム・ケンプ(1972年録音/グラモフォン盤) ケンプの演奏は、少しもヴィルトゥオーゾ的で無いので、曲によっては物足りなさを感じることが有ります。もちろんそれは、この人の魅力の裏表なのですが。その点、この曲では、少しも物足りなさを感じません。老ケンプが、子供時代に馳せる思いを淡々と弾き表す姿には、とても心を打たれます。特に「子供は眠る」から「詩人のお話」へと続く終曲では、何と深い感動に包まれることでしょうか。

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イエルク・デームス(1972 or 1976年録音/Nuova Era盤) これはデームスが録音したシューマンのピアノ曲全集に含まれています。全曲が僅か2年で録音されたせいかどうかは分かりませんが、幾らか大雑把な処の有る演奏に感じます。ただデームスさんに師事したピアニストに話を聞くと、この人は変わった運指が多いのだそうです。もしかしてそれがそんな印象を与えるのかもしれません。しかし逆にコントロールされ過ぎて人工的に陥るようなことが無く、ある種の素朴さや人肌の温もりを与える結果となり好ましいとさえ思えます。それはウィーン出身なのも影響しているかもしれません。

Schumann-717ktht46zl_ac_sl1200_ アルフレッド・ブレンデル(1980年録音/フィリップス盤) ブレンデルもウィーン出身ですが、その割には演奏はカッチリとしていてクールなので”らしく”はありません。学究派といえばそうなのかもしれないです。けれどもこの演奏では静かなロマンの気分を湛えていて、子供をそっと見守る優しさを感じられるのが素敵です。シューマン特有のあの気の移ろい易さが見られると更に魅力的だったような気がしますが、逆に作品の格を一段引き上げるような立派さが有ります。

51mmmcehxil__ss500_マルタ・アルゲリッチ(1983年録音/グラモフォン盤) アルゲリッチにしては、案外淡々と弾いています。それでもテンポや音の強弱にメリハリが適度に効いていて、バランスの良さを感じます。僕が彼女の演奏でしばしば気に入らない原因となる「あざとさ」をここでは少しも感じさせません。但し「トロイメライ」は、弱々しくのっぺりし過ぎで物足りません。最後の2曲では逆に深々と余韻を感じさせてくれます。ピアノ演奏とは難しいものです。

 これらの演奏にはどれも特徴が有りますが、全曲を聴き終わった後に、一番「良かったなぁ」と思わずにいられないのは、ケンプです。特に最後の2曲の良さが光ります。終わりよければすべて良しですが、この曲の場合には特にそう感じます。

<補足>コルトー盤、フランソワ盤、デームス盤、ブレンデル盤を追記しました。

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2009年9月27日 (日)

シューマン 「交響的練習曲」op.13 名盤

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「交響的練習曲」は「幻想曲」「クライスレリアーナ」と並ぶシューマンのピアノ曲の最高傑作の一つであるだけあって実に素晴らしい作品です。作品の充実度という点だけで無く、自分の”好きな曲”という基準でもこの3曲は抜きん出た存在です。この「交響的練習曲」は主題と12の変奏曲形式の練習曲から出来ていますが、その美しい主題は一時シューマンの婚約者であったエルスネティーネ嬢の父親のフリッケン男爵の作です。シューマンはこの曲を一度改定したことが有りますが、その時には「変奏曲形式による練習曲」とタイトルを変えました。ですが現在では「交響的練習曲」の名で呼ばれる元の版で演奏されています。但しブラームスにより校訂された第3版では遺作の5曲の変奏曲が更に加えられています。それぞれの変奏曲は流れるように連続しており、かつロマンティックなシューマンの音楽そのものです。終曲第12変奏の生命力溢れる付点リズムも交響曲第4番の終楽章に見られる典型的なシューマンの音形です。

この曲にも昔から愛聴している演奏が幾つか有りますので是非ご紹介します。

Cci00021 アルレッド・コルトー(1929年録音/Dante盤) 学生時代にFMから録音して何度も繰り返して聴いていた演奏です。元の録音が秀れていたのでしょうが、Danteの復刻は録音年代が信じられないほど優秀です。低音から高音域までピアノの音に輝きが有ります。コルトーのピアノは相変わらず自在なテンポの変化が天才的ですし、何よりもその濃厚なロマンティックさにすっかり魅了されてしまいます。この人のシューマンでは「クライスレリアーナ」を遙かに凌ぐ出来栄えです。この演奏は是非とも聴いて頂きたいと思います。

Schumannl1600 イヴ・ナット(1953年録音/EMI盤) 吉田秀和がその著書で随所に記したナットはフランス人ながらベートーヴェンとシューマンが本当に素晴らしいです。特にシューマンはしなやかさと自由さがシューマンの精神の移ろい易さに結びついています。シューマンの音楽に不可欠なファンタジーとロマンティシズムを充分に持ち合わせていることからも最も愛すべきシューマン演奏家の一人と言えます。この曲でも柔らかさと温かみが有るピアノの響きによってそうした魅力がことごとく出し尽くされていて強く惹かれます。モノラル録音ですが音質はそこそこ明瞭です。

Schumann-449 ウラジーミル・ソフロニツキー(1959年録音/DENON盤) リヒテルやギレリスが心酔したことで知られるソフロニツキーは、ソビエト国外で演奏をすることが無かったので一般的な知名度は低いのですが、残された少ない録音からもその実力を知ることが出来ます。これは晩年にモスクワで行われたシューマン・プログラムのライヴ録音です。力強い打鍵と輝かしい音、濃厚なロマンティシズムは伝統的なロシアンピアニズムそのものです。この曲は特に出来栄えが素晴らしく、リヒテルが「神様」と称したのもうなずけます。録音は当時のソ連のライヴということを抜きにしても明瞭で優れます。

Schumann-473 サンソン・フランソワ(1965年録音/Melo CLASSIC盤) パリのサル・プレイエルにおけるリサイタルのライヴです。フランソワにはシューマンとは、ある種の同質性を感じます。それは恐らくは精神面における不健康さのようなものです。テクニカル面、またロマンティシズムへの要求にももちろん見事に応えていますが、この点は重要です。幻想的な空間を魂が自由に飛翔する様な演奏スタイルは、現代のテクニックを第一に追求した若手には到底望むべくもありません。こうした演奏こそが本来の芸術の姿では無いかと考えさせられます。フランス放送によるモノラル録音ですが音は明瞭です。

Cci00020 ウィルヘルム・ケンプ(1972年録音/グラモフォン盤) ここでもケンプはとても誠実で堅実なドイツ風の演奏を聞かせています。但しこの曲の「変奏曲」という自由な形式の割りには少々一本調子で融通が利かない印象なのがマイナスです。どちらかいうと「練習曲」としてピアノ学習者が参考に聴くにはとても適していると思うのですが、コルトー、リヒテルのような破格の表現力のピアニストの間に挟まれると、音楽が少々堅苦しく感じられてしまいます。ピアノの音質自体はとても好ましいのですけれども。

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イエルク・デームス(1972 or 1976年録音/Nuova Era盤) デームスは室内楽奏者としては有名ですが、ソリストとしての録音は少ないです。しかし40代の終わりに録音したシューマンのピアノ曲全集はマイナーレーベル制作ながら大変に大きな遺産です。この録音もそれに含まれます。ウイーンの伝統そのものの柔らかなピアノの音と人の温もりを感じる演奏に強く惹かれます。正確無比を目指す現代の演奏家とはだいぶ異なる魅力です。しかし決してぬるま湯的な演奏ではなく、シューマンらしい幾らか屈折した情熱とロマンティシズムが随所に溢れています。

Cci00023 スヴャトスラフ・リヒテル(1977年録音/オイロディスク盤) コルトーにも充分匹敵するほどにロマンティックな演奏です。しかもテクニックはコルトーなど問題にならない上手さです。それでもこの人にピアニスティックなイメージは無く、あくまでも音楽そのものを感じさせます。洗練され過ぎることなくやや朴訥なタッチなのですが、その点もシューマンに実に適していると思います。どの変奏曲も変化と勢いに富んでいて実に聴き応えが有りますし、第12変奏の力強さや見事な高揚ぶりは聴き終えた後に満足感でいっぱいになります。これは真にシューマネスクな素晴らしい演奏です。

Img944e66f5zik5zj マウリツィオ・ポリーニ(1981年録音/グラモフォン盤) 冒頭の主題から第1変奏ではこれがポリーニかと思えるほどのロマンティックな表情です。けれどもそれは濃厚な浪漫というよりは、透明な詩情という感じなので、例えばリヒテルのスタイルとは全く異なります。またピアニスティックな打鍵の固さをそれほど感じさせないので、以前の「幻想曲」よりもずっと良いと思います。第12変奏の切れ味はさすがポリーニ。自分の好みではスタイリッシュに過ぎて今ひとつなのですが、この方が好きだと思われる方もきっと多いと思います。ポリーニのベストのシューマン演奏としてお薦めできます。

Schumann-712gl3umy9l_ac_sl1412_ イーヴォ・ポゴレリチ(1981年録音/グラモフォン盤) ポゴレリチが1980年のショパン・コンクールの本選で落選した為に、審査員のアルゲリッチが「彼こそ天才よ」と言って抗議して審査員を辞任した事は余りに有名ですが、そのおかげですっかり有名となり翌年にはグラモフォンに録音を行います。確かにこの曲も個性的な演奏で、最初のテーマを止まりそうなぐらいに遅く開始します。その後も緩除曲はどれも遅く、速い曲はより速く弾いています。1度聴いただけでは付いていけませんが、繰り返し聴くとやはり天才だと気付かされます。

以上で、魅力的な演奏が沢山有りますが、あえてフェイヴァリット盤を挙げれば、リヒテル、ソフロニツキー、デームスあたりです。

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2009年9月23日 (水)

シューマン 「クライスレリアーナ」op.16 名盤 ~クララへ捧ぐ~ 

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シューマンのピアノ曲で「幻想曲」と並ぶ傑作は、やはり「クライスレリアーナ」でしょう。一般的に人気が高いのはむしろ後者かもしれません。シューマンはこの作品をショパンに献呈しましたが、作曲過程の段階では恋人のクララに捧げました。当時、クララの父親の反対によって、会うことさえ思うようにならなかった未来の妻への情熱と愛をこめて作曲したのです。そのことはクララへの手紙で明らかです。「貴女はこの曲の中に自分の姿を発見して、きっと微笑むでしょう。ときおりは僕の<クライスレリアーナ>を弾いて下さい。いくつかのパッセージには激しい愛が含まれて居ます。貴女と僕の生活が含まれているのです・・・・」

「クライスレリアーナ」というのは、「クライスラーに関すること」という意味です。E.T.A。ホフマンの小説の主人公クライスラーの満たされなかったロマンスを我が身の現状に置きかえて、愛するクララへの想いを一層つのらせた曲なのです。なんともセンチメンタルなロマンティストじゃありませんか。まるで僕みたいだ!?

この曲は8曲の小曲から構成されていますが、第1、3、5、7、8曲は動的な曲で、第2、4、6曲は静的な曲です。全ての曲は有機的に連続している為に、この中のどれかの曲を抜き出して演奏する事は不可能です。

この曲は演奏によって、かなり異なった印象を与えられます。下手な演奏だと曲の真価は伝わりませんが、優れた演奏だと比類の無い傑作に聞こえるのです。演奏家の力をそのまま映す鏡のように怖い曲なのですね。ともあれ、色々なピアニストがこの曲に挑戦していますのでご紹介します。

Cci00021 アルレッド・コルトー(1935年録音/Dante盤) コルトーはいまだに熱烈なファンがいる大ピアニストです。なにしろこの人ほど下手クソでこの人ほどロマンティックなピアノを弾く人は現代には世界の何処にも存在しないからです。この演奏もやるせなくなるほどに濃厚な浪漫の香りを湛えた実に味わい深いものです。早い曲は指が回らずに音形がグチャグチャなのですが、それでも曲を聴かせてしまうところが凄いです。Dante盤の復刻は優秀なので充分に鑑賞が可能です。

Schumannl1600 イヴ・ナット(1955年録音/EMI盤) 吉田秀和が好んだことで知られるナットの主要レパートリーであるベートーヴェンとシューマンは本当に素晴らしいです。特にシューマンに関しては、本家のドイツ人演奏家よりもしなやかさや自由さが有り、シューマンの作品特有のファンタジーやロマンティシズムが香るように沸き立ちます。柔らかさと温かみが有るピアノの音も現代の金属的な音とは全く異なる魅力です。ただしこの曲ではモノラルの録音がかなり古めかしく感じられるのが残念です。

Schumann-411rbf85zpl_ac_ アルトゥール・ルービンシュタイン(1964年録音/RCA盤) ルービンシュタインは少年時代にシューマンの友人だったヨアヒムからその影響を受けたそうです。しかしこの名作の録音はこの1回のみです。シューマンの作品の演奏にはファンタジーとロマンティシズムが欠かせませんが、そこには精神の不健康な要素も必要です。ルービンシュタインはその点でもごく自然体なのですが、それでも音楽に充分な味わいを感じさせるのはさすがです。音そのもののディナーミクにも大袈裟さは無く、美しさと暖かみが特徴です。

51lod210vsl__ss500_ ウラディミール・ホロヴィッツ(1969年録音/CBS SONY盤) ホロヴィッツのシューマン演奏の中でも特に素晴らしい演奏です。全盛期の絶美のタッチから噤み出される演奏にはただただ聞き惚れるしか有りません。あの真っ直ぐに指を伸ばして弾く変わったスタイルだからこそ、かくも繊細な音が出てくるのでしょうか。この人のピアノは本当に千変万化。しかも早い曲でも音符を弾き飛ばすことは決して有りません。それぞれの音の表現の意味深さは他の有名ピアニストを何人連れてきても敵わないと思います。同世代や後輩のピアニストがこの演奏を耳にしたら、この曲を弾くのが嫌になってしまうのじゃないかと思えてしまいます。

61ez9sietxl__ss500_ ウィルヘルム・ケンプ(1972年録音/グラモフォン盤) シューマンから楽譜を贈られて弾いたクララのピアノはこんな感じじゃなかったかとまたまた勝手に思っている演奏です。演奏効果を狙うような派手さの全く無いピアノだからです。演奏会場ではなく、我が家で恋人(か妻)にでも優しく弾いてもらいたくなるような演奏ですね(もちろんそんなことは無理な相談ですけれども)。裏を返せば、コンサートで聞くには物足りなく感じるであろう演奏では有ります。速い第7曲などは中間部ではなんだかバッハのように聞こえてしまいじれったくなります。優しさや愛情だけではこの曲はやはりどうにもなりません。

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イエルク・デームス(1972 or 1976年録音/Nuova Era盤) マイナーレーベルの制作なので余り注目されませんが、デームスが40代の終わりに録音した最大の遺産とも言えるシューマンのピアノ曲全集に含まれます。ウイーンの伝統に根付いた柔らかなピアノの音と演奏には人の温もりを感じます。第7曲など指のぎこちなさも感じられなくも無いですが、正確無比を目指す現代の演奏からは失われてしまった魅力も感じます。しかし決して微温的なものでは無く、熱い情熱と迸るロマンティシズムが随所に溢れています。どこか気分の移ろ気を感じさせるのも実にシューマンらしいです。

Schumann-717ktht46zl_ac_sl1200_ アルフレッド・ブレンデル(1980年録音/フィリップス盤) ブレンデルはウィーン出身の割には演奏がカッチリとしていて常にクール、感情に溺れ浸ったり熱く燃えたりはしません。ですのでシューベルトあたりが一番合うようには思います。この演奏では静かなロマンの気分をかなり湛えていますが、シューマン特有のあの気の移ろい易さが見られないためにやや物足りなく感じます。それでも聴いているうちに耳に溶け込んで来るのが面白く、わざとらしく煽る姑息な演奏よりも好ましいとは言えそうです。

51mmmcehxil__ss500_ マルタ・アルゲリッチ(1983年録音/グラモフォン盤) 自由奔放で多彩な表現と、速い曲を超快速で弾くのは彼女の良くあるパターンです。初めて聴く時には、とても興奮させられるのですが、何度も聴くとだんだんと飽きてしまいます。しかも第7曲などは余りに速過ぎるので一つ一つの音形が聞こえなくなっています。好き嫌いで言うと正直難しいところです。そうなるとホロヴィッツ・シンドロームとでも言いましょうか、全盛期のホロヴィッツを越えられる演奏などというものは存在し得ないのではないかと思えてしまうのです。

Schumann-460 ウラディミール・ホロヴィッツ(1986年録音/SONY盤) ホロヴィッツのベルリンにおけるライヴ録音ですが、この時82歳でした。晩年の演奏の中でも出色の出来と評されますが、1940年代から60年代の全盛期の凄演と比べるのは無理があります。どうしても”暴走老人”の感が有ります。しかしテクニック面はさておき、シューマン特有のファンタジーとロマンティシズムの表出にかけてはやはり一目置けます。この同じ年代でも活躍したピアニスト達の至芸と比べてみるのも興味深いです。“腐っても鯛”ならぬ、“壊れても名陶器”というところです。

Medium_image_file_url ワレリー・アファナシエフ(1992年録音/DENON盤) 確かに「鬼才」と呼ばれるだけあって一筋縄では行かない演奏です。異型の曲を、それ以上に異型に演奏しています。アルゲリッチと同様に速い曲では必要以上に速く弾くので、やはり音形が聞こえなくなっていますが、最も驚かされるのは第8曲の異様な遅さです。何か重たいものを地面に引きずるかのような進みには唖然とします。第2曲の遅く重苦しい気分も独特です。一度取り付かれると、この演奏には麻薬のような魅力が有るかもしれません。ロベルトとクララもこの演奏には驚いているのではないでしょうか。

51ng8mv49ll__ss500_ エレーヌ・グリモー(1998年録音/DENON盤) この当時録音したブラームスの協奏曲第1番はザンデルリンクの伴奏指揮の素晴らしさと相まってそれは見事な演奏でした。独奏曲もやはり優れていました。その期待をもって聴いたところ、やや期待はずれといったところしょうか。このような一癖も二癖も有る様な破格の曲というのは若手にとってはなかなか難しいのでしょうね。とは言え、確かなテクニックに支えられた、正攻法で等身大のシューマンの印象は決して悪くはありません。それになによりも彼女は美人なので全てを許せてしまいます。

694 マウリツィオ・ポリーニ(2001年録音/グラモフォン盤) デビューから40年という長い時が過ぎたポリーニが、一体どのようにシューマンの難曲を聴かせてくれるのだろうかという興味で聴いてみました。けれども答えはよく分かりませんでした。テクニック的にはまだまだ上手いものの、若い時のあの凄みは有りません。ピアノの音にかつての「幻想曲」のような力こぶは感じられないので良いのですが、かと言って音楽に優しさとか愛情が感じられるという訳でも有りません。ポリーニはこれから先はどんなピアニストになるのでしょうね。

これらの中で他の演奏を断然圧倒しているのはホロヴィッツの1969年盤です。奇跡的な完成度のシューマンと言って良いのではないでしょうか。こんな演奏が存在すると、その他の演奏家は非常に分が悪くなりますが、もう一人選ぶとすれば僕はアファナシエフを上げたいです。この演奏も「クライスレリアーナ」を愛好する人にとっては必聴だと思います。

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2009年9月19日 (土)

シューマン 「幻想曲」ハ長調op.17 名盤 ~幻想と情熱~ 

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随分と秋めいて来ましたね。夏の暑い間はクラシックを余り聴きませんでしたが、芸術の秋ともなると無性に聴きたくなります。それも特にドイツ・ロマン派の音楽にどっぷりと浸りたいところです。なんとなく寂しく思えて人が恋しくなる今頃の季節には、何といってもロマンティックで心の奥底に優しく染み入って来るようなロベルト・シューマンの音楽が最高です。実は自分はブログ友達のはるりんさんが主催する「シューオタ同盟」の一員なのですが、その割りにこれまでシューマンの記事をほとんど書いていませんでした。そこで好きな曲を中心に記事にして行きたいと思います。

シューマンは、もちろん様々な編成の曲を書いてはいますが、シューマンの最もシューマンらしい音楽と言えばやはりピアノ曲だと思います。そして個人的にはピアノ曲に限ってはベートーヴェンよりもショパンよりもシューマンが好きなのです。感覚的に一番しっくり来ますし、最も僕の心を打つのです。その中でも特に好きな曲といえば、何を置いても「幻想曲」ハ長調です。僕はこの曲と心中しても構わないほどです(古い表現だなぁ)。たとえベートーヴェンのどんなピアノ・ソナタを持ってきてもこの曲のほうが好きなのです。

この曲は元々は1836年ボンでベートーヴェンの没後10年の記念碑を建てる計画が持ち上がった時にシューマンが募金集めの為に書いたソナタでした。ですが出版の時に「幻想曲」とされたのです。この頃、シューマンは後に夫人となるクララ・ヴィークと恋人関係でしたが、クララの父親に結婚を反対されて「別れなければシューマンを殺す」とまで言われたそうです。そんな不安定な心とクララへの愛と情熱とが入り混じってこの作品は書かれたのでしょう。第1楽章には「非常に幻想的、情熱的に」と記されています。シューマン自身もこの楽章を「クララを失ったといううめきに突き動かされて書いた」と述べています。音楽的にも劇的に変化に富んだ実に素晴らしい楽章です。第2楽章は一転して輝かしい音楽になりますが、どことなく屈折した翳りを感じます。第3楽章はひたすら静かに続くモノローグですが時に胸の高鳴りが押さえ切れなくなります。

それでは僕の愛聴盤です。さすがにこの曲には良い演奏が目白押しです。

Schumannl1600 イヴ・ナット(1953年録音/EMI盤) 吉田秀和が好んだナットはフランス人ながらベートーヴェンとシューマンを最も得意としましたが、60代半ばで早世してしまう前に主要な録音を行ってくれたので今でもこうして演奏に接することが出来ます。他のフランス人ピアニストとは違い、ドイツ的なかっちりとしたピアノを弾くのが特徴ですが、それでも純粋なドイツのピアニストよりはずっとしなやかさや自由さが有ります。その為にシューマンの音楽には特に適性を感じます。この幻想曲の演奏も非常に味わい深いですし、柔らかさと温かみが有るピアノの響きに惹かれます。モノラル録音ですが音質は明瞭です。

Schucci00019b ジュリアス・カッチェン(1957年?録音/DECCA盤) カッチェンは肺癌の為に42歳という若さで世を去りましたが、特にブラームスの演奏に高い評価を受けていましたが、シューマンのこの曲も録音を残しました。当時よくも悪くも「衝動にかられて情熱的に演奏する」と評されたそうですが、そんな危なっかしさがむしろシューマンの音楽に適しています。随分と即興的な弾き方ですが、それがアルゲリッチに見られるような矮小さを感じさせはしません。これは自然に彼の心から出た表現だからなのでしょう。

Schumann-449 ウラジーミル・ソフロニツキー(1959年録音/DENON盤) リヒテルやギレリスが心酔していたことで知られるソフロニツキーですが、ソビエト国外で演奏をすることが無かったので、残された数少ない録音で聴くことが出来るだけです。これは晩年にモスクワで行ったシューマン・プログラムのライヴ録音です。ソフロニツキーはショパンを最重視していたそうですが、シューマンもまた得意だったようです。実演の為のミスは有りますが、力強い打鍵と輝かしい音、濃厚なロマンティシズムはリヒテルの原型といったところに思えます。録音は当時のソ連のライヴということを考慮すれば良好だと言えるかもしれません。

Schumann-41dqh7gg6zl_ac_ スヴャトスラフ・リヒテル(1960年録音/SONY盤) リヒテルが1960年の秋に3か月に渡って行った全米ツアーの際にカーネギー・ホールで開いた5回の連続リサイタルはコロンビアによって全てのライヴ録音が行われましたが、その第5夜です。鉄のカーテンを越えて初めてアメリカの聴衆を前にしたリヒテルの気迫がもの凄いです。ホロヴィッツに接していた聴衆もさぞや驚いたことが想像されます。細かいミスは散見されますが、それが問題にならないくらいの凄さとロマンティシズムに溢れる演奏です。録音は明瞭ですが、ピアノの音が幾らか古めかしく感じられるのは残念です。

41dm63skc4l__ss500_スヴャトスラフ・リヒテル(1961年録音/EMI盤) シューマンはリヒテルの最も得意とするレパートリーの一つです。この人はモーツァルトやベートーヴェン、ブラームスの場合にはしばしばガサツとも思える演奏をしますが、シューマンでは繊細で心のこもり切ったピアノを聞かせます。非常にスケールが大きく、この曲の枠を少々はみ出すほどですが、立派さという点では比類が有りません。第1楽章ではシューマンの心のうめきを他の誰よりも激しく感じさせます。第2楽章もスケールの大きさと高揚感とが共存して素晴らしいですし、第3楽章の深い祈りも最高です。録音は少し古めかしさを感じますが、セッション録音による音の安定と演奏の素晴らしさでリヒテルのこの曲の演奏では代表盤とするべきでしょう。

41rkeftwicl__ss500_ ウラジーミル・ホロヴィッツ(1965年録音/CBS SONY盤) ホロヴィッツが12年という長いブランクから復帰したカーネギーホールでのライブ録音です。この人もシューマンを非常に得意にしていて、美しいピアノタッチと千変万化の表現力には圧倒されます。ピアニスティックな面白さではリヒテル以上です。それでいてシューマンのある種不健康なロマンの香りも漂わせているために、聴いていて音楽にどっぷりと浸ることができます。さすがは20世紀を代表する大ピアニストです。ミスタッチは非常に多いのですが、この素晴らしい表現の前では気にもなりません。録音はとても良く録れています。

Schumann-411rbf85zpl_ac_ アルトゥール・ルービンシュタイン(1965年録音/RCA盤) ルービンシュタインは少年時代にシューマンの友人だったヨアヒムからその影響を受けたそうです。その割にシューマンの録音は少なく、この傑作の録音も1回のみです。シューマンの演奏にはピアニズムもさることながら、ファンタジーとロマンティシズムが最も重要です。ルービンシュタインはその点、ゆったりとごく自然体で弾いているにもかかわらず、それらが滲み出ています。ヴィルトゥオーゾ的なアプローチからは最も遠いにもかかわらず、それに少しも劣らない魅力を感じさせるのは凄いの一言です。 

Cci00020 ウィルヘルム・ケンプ(1971年録音/グラモフォン盤) この人のピアノの音はとても好きです。最近のピアノの音はみな大ホールに響き渡るような輝かしい音色になりましたが、僕は小さめのホールで柔らかく綺麗に響くような音の方が好きです。たとえばバックハウス。あの人やケンプの音にはとても安らぎが有ります。かと言ってケンプの演奏が聴き応えの無いなよなよした演奏ということでは決して有りません。無駄な力みが無いので自然に音楽に入っていけるということです。これは堅実なドイツピアノの良さが満喫できる名演奏だと思います。勝手な想像ですがシューマン本人のピアノはこんな感じだったのではないでしょうか。

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イエルク・デームス(1972 or 1976年録音/Nuova Era盤) マイナーレーベルの制作なので余り注目されませんが、デームスが40代の終わりに残した最大の遺産とも言えるシューマンのピアノ曲全集に含まれます。ケンプとも共通したピアノの柔らかな音には温もりを感じさせます。現代のピアノと演奏家からはこうした音は失われてしまいました。しかしこの演奏は決して微温的なやわなものでは無く、まるでライブのような充分に胸に迫りくる気迫と情熱が迸っています。それでいて常にどこかで気分の移ろいを感じさせるのは、いかにもシューマネスクというところでしょう。

Dg2032thumb300xauto マウリツィオ・ポリーニ(1973年録音/グラモフォン盤) 若い頃の演奏ですが、この人としては標準レベル以下のような気がします。特に第1楽章に感心しません。タッチが固くて伸びやかさの無い、なにか非常に力みを感じるピアノの音なのです。元々そういう傾向が無いわけでは無いですが、ショパンの演奏では余り気にならないこの人の特質がシューマンでは気になるということでしょうか。当然ピアニスティックなタイプの演奏ですが、それがどうも音楽には余り奉仕していない気がします。ルービンシュタインやケンプの演奏とは対照的です。

Schumann_argerich マルタ・アルゲリッチ(1976年録音/RCA盤) この人の若い頃の演奏は、感性と直感に任せた非常に素晴らしいものが有ったり、逆に気の乗り切らないものが有ったりと、波が非常に大きかったと思います。この演奏は例によって気の赴くままに自由自在に泳ぎ回っていますが、時に矮小さを感じさせてしまうのです。感じている以上に指が小細工をしているとでもいうのでしょうか。不安定な気分はシューマン的と言えない事もないのですが、どうも音楽に前面奉仕していない気がしてなりません。第2楽章も案外平凡で高揚感に欠けます。ただしリヒテルではスケールが大きすぎてどうもという方には逆に向いているのかもしれません。

Schumann-uccd9965 スヴャトスラフ・リヒテル(1979年録音/DECCA盤) これはドイツのレーヴァークーゼンにおけるライヴです。最初はフィリプスからリリースされましたが、その後DECCAとして再リリースされました。演奏は打鍵から意外なほどに力が抜けていて、2楽章などは華やかさがかなり抑えられています。1楽章、3楽章では孤高のロマンティシズムとでも言いましょうか、深い海の底に沈むような趣があります。リヒテルの硬質で澄んだピアノの音が捉えられていて、録音的にはそこそこ優れていると思います。ただしこれをもってリヒテルの「幻想曲」のベストと呼ぶのには幾らか躊躇います。

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スヴャトスラフ・リヒテル(1980年録音/カナダDOREMI盤) これはハンガリーのブダペストでのライヴです。EMI盤の音楽の深さとスケールの大きさをそのままに、実演の高揚感を更に増した名演奏だと思います。リヒテルはよほど好調だったようで、完成度が高く目立つミスもほとんど有りません。リヒテルにはこの曲は幾つものライブ録音が有りますが、演奏の出来栄えとしては最上位に置きたいです。録音も良好ですが、EMI盤やDECCA盤と比べると音の安定性にやや欠ける気がします。

342 グリゴリー・ソコロフ(1988年録音/メロディア盤) かつては幻のピアニストだったソコロフもすっかり知られる存在と成りました。この演奏は1980年代にソヴィエト国内で行った演奏会の録音集4枚組に含まれています。どれも素晴らしい演奏ですが、とりわけ「幻想曲」が傑出しています。第1楽章は非常にゆったりとしたテンポで一音一音に深い意味を与えるように丁寧に弾いてゆきます。どこまでも深く沈滞するロマンティシズムを感じさせます。リヒテルとも良い勝負です。第2楽章はリヒテル以上に遅いテンポで大きなスケールを感じさせますが、熱い情熱のほとばしりは薄く、幾らかクールさを感じます。第3楽章で訪れる沈滞ぶりも特筆されます。録音は中々に優れていて、粒立ちの良いタッチによる繊細で美しい音が忠実に捉えられています。

5024709160341 セルジオ・フィオレンティーノ(1993年録音/APR盤) 1927年にイタリアに生まれたフィオレンティーノは飛行機事故に遭った為にその後は音楽教師として過ごし、若い頃に残した録音もほとんど廃盤となったことで、幻の演奏家の存在でした。しかし幸いなことに演奏活動再開後の円熟期のライヴ録音が多くリリースされたことで驚くほど素晴らしいピアニストであることが証明されました。この録音は1993年のドイツでのコンサートツアーから編集した2枚組に収められています。所謂ヴィルトゥオーゾ的な演奏とは異なり、おおらかにゆったりと歌わせていますが、テクニックも優れますし、何よりもその味わいの深さは流石です。ミケランジェリがこの人を激賞していたのもうなずけます。音質も優れます。

093 レイフ・オヴェ・アンスネス(1995年録音/EMI盤) 現在の若手ピアニストの中でとても好きな人です。この演奏も正攻法でとても優れています。しかも既にどこか熟した演奏家の雰囲気を持ち、若手によく感じられる拙稚さが感じられません。テクニックも非常に素晴らしいです。ただ少しだけもの足りなく感じるのは音楽の「うめき」でしょうか。その点だけが残念です。もしかして彼は恋をして、もだえ苦しんだ経験がまだ無いのかもしれませんね。

Schumann-71rzddpy5ul_ac_sl1050_ セルジオ・フィオレンティーノ(1996年録音/APR盤) フィオレンティーノが1994から1997年にかけてドイツで演奏したライヴはAPRによって何と10枚ものディスクに編集されました。これはそのシューマンの演奏をまとめた盤です。前述の‘93年の演奏も素晴らしいものでしたが、この’96年の「幻想曲」は音楽の深さ、幻想性、ロマンティシズム、そしてテクニック面においてそれを更に上回り、過去の他の演奏家と比べても全くひけを取らないどころか、トップを争う素晴らしさです。ミケランジェリがこの曲を弾かなかったのは、もしやフィオレンティーノの演奏を知っていたからかもと勝手に勘繰りたくなります。録音も美しく絶品です。

41q8w8hh5yl_ac_ アルフレッド・ブレンデル(1997年録音/フィリップス盤) ブレンデルはウィーン出身の割には若い頃の演奏はカッチリし過ぎて窮屈で面白みが有りませんでした。変わったことは何もせず、ひたすら冷静、誠実に弾くのでシューベルトなんかは悪く無かったです。このシューマンも初めはやや退屈に感じますが、聴くうちに不思議と耳に溶け込んで来ます。恣意的で姑息な演奏よりはずっと好ましいということでしょうか。

以上、つれづれなるままに色々と書きましたが、マイ・フェイヴァリットを選ぶとすれば、リヒテルのEMI盤、ソコロフ盤、ホロヴィッツ盤、フィオレンティーノの1996年盤ですが、結局この曲はどの演奏を聴いてもやっぱり魅了されてしまうのです。

<補足>ナット、ソフロニツキー、ルービンシュタイン、デームス、リヒテルの1960年/79年盤、フィオレンティーノの1993年/96年盤、ブレンデルを加筆しました(2024.5.12)

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