シューマン(室内楽)

2009年10月23日 (金)

シューマン ヴァイオリン・ソナタ集 名盤 ~深き苦しみの淵より我れ汝を呼ぶ~ 

シューマンの音楽は、ほの暗くロマンティックであるのが特徴ですが、精神障害を患い始めてからは一層内向的になり、心の奥底へ沈み込んでゆくようになりました。情熱的な曲ですら、何か焦燥感にかられるようであり、心の不安定さが拭いきれません。けれども、ファンにとってはそれが魅力であり、強く惹かれてしまうのです。メンデルスゾーンやサンサーンス、ロッシーニといったネアカの音楽は確かに聴いていて楽しいのですが、どうも余り深みを感じられないのです。心に弱さを持った人間としては、やはり同じような音楽を好みます。

Cci00031 シューマンの後期の作品は、ファンにとってはどれもがかけがえの無いものですが、その中でもどうしても外せない曲がヴァイオリン・ソナタ集です。まだ僕が学生の頃に、アドルフ・ブッシュとルドルフ・ゼルキンの演奏する室内楽の米国盤LP3枚組を購入したのですが、その中にシューマンのヴァイオリン・ソナタの第1番と第2番が入っていました。その演奏に強い衝撃を受けて以来、この曲が絶対に忘れられなくなったのです。

シューマンはヴァイオリン・ソナタを3曲書きました。そのうちブラームス達と共作したFAEソナタを後から自作に編集し直した第3番は近年まで知られる事は有りませんでした。ですので、以前は第1番と第2番のみが演奏されていました。もちろん1番や3番も好きですが、特に優れているのは第2番ニ短調作品121です。シューマン自身も、「第1番よりも第2番のほうが出来が良い」と語っていたそうです。この曲は4楽章の構成です。第1楽章主部には「生き生きと」と指示が有りますが、とても快活と言うには程遠い音楽です。まるで苦しみの中で悶え、叫び、独白しているような印象であり、その中から懸命に這い上がろうとする意思の力を感じます。第2楽章「極めて生き生きと」も全く同じ印象です。そしてこの曲の白眉といえるのが第3楽章で、用いられたコラール「深き苦しみの淵より我れ汝を呼ぶ」の旋律とその4つの変奏からなります。「静かに単純に」と指示が有りますが、このコラール主題はシューマンにとって大変重要な意味があると思います。どれほど人生に苦しんでいても、神を信じて救いを求めようという意思の力です。そんな象徴的なこの楽章は、シンプルな演奏であればこそ、強く心を打たれます。その第3楽章を受けた第4楽章は「動きを持って」との指示が有り、凄く力を感じます。

それでは僕の愛聴盤です。

P1000404 アドルフ・ブッシュ(Vn)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1943年録音/CBS SONY盤) 最初に購入したのは米国アナログ盤でしたが、この写真はその後に購入した国内アナログ盤です。残念なことに、過去にCD化されたことは恐らく無いと思います。ブッシュは戦前のドイツ・ロマン派の伝統を継承する偉大なヴァイオリニストでしたが、娘婿で室内楽パートナーのゼルキンがユダヤ系であるためにナチスに迫害されてしまい、やむなく共にスイスに渡り、最終的に米国に亡命しました。従ってドイツのヴァイオリンの伝統はその時に一度消滅したと言っても過言では有りません。ブッシュは新天地アメリカでヴァイオリン奏法を残す為にマールボロに音楽学校を設立しました。ところが1952年に志半ばで早々と亡くなってしまうのです。その志はゼルキンや、同じようにヨーロッパからアメリカに渡ったブダペスト四重奏団のアレキサンダー・シュナイダー達によってその後に立派に花を開かせました。

この録音はワシントンでのライブ録音で、1番と2番の2曲を弾いています。ブッシュはむろん、華麗なヴァイオリンとは全く異なる、精神性を重視したドイツ流派なのですが、ここではシューマンの音楽と相まって極限の高みにまで到達しています。まずは1、2楽章の情熱に胸を打たれます。けれども、それはあくまで第3楽章のコラールの序奏に過ぎません。僕はこの演奏を初めて聴いた時のことがいまだに忘れられません。冒頭にピチカートでコラールが開始されますが、音は不揃いです。にもかかわらず、異常なまでの緊張感を感じます。そしていよいよコラールが弓で奏されると、それはまるで息絶え絶えのようなのです。それが少しづつ力を増してゆき、重音で大きく歌われ始めると何とも感動的になります。ところが、中間部に差しかかると、何とそこで音が止まりかけるのです。これには聴いている自分の心臓も一緒に止まってしまう様な気がしました。音楽を聴いていて、そんな経験をしたのは後にも先にもたった一度、この演奏を聴いた時だけです。ブッシュは恐らく祖国を追われて遠い国で苦しみ、懸命に神の名を呼ぼうとしている自らの境遇とこのコラールの主題とを重ね合せて、演奏の途中で感極まってしまったのだと思います。この奇跡の演奏が埋もれているのは本当に残念なことです。

普段CDで愛聴している演奏については、以下の二つです。

41zq7xkd4ql__ss500_ ギドン・クレーメル(Vn)、マルタ・アルゲリッチ(Pf)(1985年録音/グラモフォン盤) 収録は1、2番のみですが、現役盤では恐らくベストの演奏でしょう。ヴァイオリンもピアノも滅法上手いです。クレーメルのヴァイオリンは生で聴くと音に線の細さを感じますが、録音では文句が有りません。全盛期の演奏だけあり、繊細な音と弓使いが非常に素晴らしいです。表情豊かでありながら饒舌にならない歌い回しもとても良いです。2番のコラールでも、ブッシュには及ばないものの深く感動させてくれます。アルゲリッチは後年のような表情過多による"あざとさ"を感じさせないのが好ましいです。

Cci00034 イザベラ・ファウスト(Vn)、ジルケ・アーヴェンハウス(Pf)(1999年録音/CPO盤) ドイツの若手ヴァイオリニスト、イザベラ嬢はケルビーニSQのポッペンに師事を受けました。ブッシュ亡き後のドイツのヴァイオリン界の系譜を継ぐ有能な人材です。彼女はコンチェルトも弾きこなしますが、室内楽にも積極的であり、ブラームスなどに優れた録音を残しています。このCDには3番も含まれているのが貴重です。彼女のヴァイオリンは、切れが良くて情感もあり、クレーメル盤と比べても決して劣らないと思います。それにコラールにおける感動度合もファウストの方が更に上回るように思います。もしソナタを3曲とも欲しいという場合には真っ先にお薦めできるCDです。

<追記> 
アドルフ・ブッシュの録音がCD化されているのが分りました。米国Music&Artsレーベルの4枚組(CD-1244)ですが、とても貴重な録音ですのでお薦めします。

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2009年10月18日 (日)

シューマン ピアノ三重奏曲第1番ニ短調op.63 名盤 ~炎の情熱~ 

431a56ff6a0e198a960e50a1f1db33d0 シューマンは室内楽の分野でピアノ四重奏曲、ピアノ五重奏曲、そしてヴァイオリン・ソナタという傑作を書いていますが、ピアノ三重奏曲にも特筆すべき作品が有ります。ピアノ三重奏曲第1番ニ短調です。

シューマンはこのジャンルで3曲を作曲していますが、奇しくも後輩のブラームスも同じ三曲の作品を残しています。もしも両者が3対3の6人タッグマッチで先輩後輩対決をすれば、これは後輩チームの圧倒的な勝利に終わることでしょう。それほどブラームスのこのジャンルは充実しています。それについてはちょうど1年前に記事にしました。(過去記事:ブラームスのピアノ三重奏曲集 名盤

しかし団体戦で敗れたとは言え、シューマン・チームの大将格である第1番だけはブラームスのどの作品と競っても互角に渡り合いますし、シューマンの四重奏曲、五重奏曲と比べても全く見劣りしません。

第1楽章はいかにも彼らしい屈折した感情を湛えた音楽で、情熱は青白い炎にくすんでいます。第2楽章も「生き生きと」と指定があり情熱的なのですが、その割には相変わらず屈折した焦燥感を感じてしまいます。第3楽章ではとうとう深く心の奥底へ沈んでゆくようです。それはまるで底なし沼のようです。ところが第4楽章では一転して感情が一気に爆発します。それもそのはず、楽譜には「Mit Feuer」と指定が有ります。直訳すれば「炎とともに」。つまり「炎のような情熱をもって」ということでしょう。これが「ファイヤー!」や「燃える闘魂」では、本当にプロレスリングになってしまいますからね。(苦笑) 
くだらない冗談はさておき、この楽章はシューマンの最も情熱的な感情を表わした傑作だと思います。

そして僕がこの曲が大好きな理由は、最高の名演奏が存在するからでもあります。

Scumann_piano_trio_casalsパブロ・カザルス(Vc)、アレキサンダー・シュナイダー(Vn)、ミエチスラフ・ホルショフスキー(Pf)(1952年プラドでのライブ録音/CBS SONY盤)

大音楽家カザルスは母国スペインで内戦が起こると新政権から逃れてフランスの片田舎プラドに亡命して暮らしました。ある日そこへアメリカから一人で訪れたのが、誰あろうブダペスト四重奏団の2ndヴァイオリニスト、アレキサンダー・シュナイダーだったのです。理由はアメリカで開催するマールボロ音楽祭にカザルスを呼ぶ為です。ところがカザルスはこれを断ります。そこでシュナイダーはカザルスと親しいミエチスラフ・ホルショフスキーに相談します。結果、それならカザルスの住むプラドで室内楽中心の音楽祭を開こうということになったのです。カザルス・ファンなら誰でも知っているこの音楽祭は1950年から56年まで開催されて多くの有名演奏家が参加しましたが、開催資金を出した米コロムビア社(現在のSONY MUSIC)が演奏の録音を行いましたので、我々は音楽祭の記録を鑑賞する事ができるのです。

音楽祭実現の立役者シュナイダー、ホルショフスキー、それにカザルスの3人によるこの演奏は記録としても価値が有りますが、それを別にしても大変に素晴らしいです。シュナイダーはブダペスト四重奏団ではセカンド・ヴァイオリンの担当ですが、実は大変な実力者であり、しばしばセッションではファーストヴァイオリンを弾いています。史上最強のセカンド・ヴァイオリン奏者と言っても過言ではありません。そこにヨゼフ・シゲティとの多くの共演で知られた名ピアニスト、ホルショフスキーが組むのですから何をいわんやです。

第1楽章から第3楽章までの音楽の深さと情熱は既に大変に素晴らしいのですが、第4楽章に至っては真に情熱の爆発が起こります。この曲こそは、炎の音楽家カザルスに最も相応しい曲なのです。実際にこの演奏を耳にしてもらえれば、いま僕の書いていることが少しも大げさで無いことがお分かり頂けることでしょう。それにしてもカザルスは当時既に80歳近く。この情熱は一体どこから来るのでしょう。シュナイダーもホルショフスキーもカザルスと堂々と渡り合って実に見事です。3人の情熱の爆発は上手いの下手のという次元を超えて聴き手の魂を揺さぶります。

この曲については他の演奏で聴くことが有りません。破格の音楽はこの破格の演奏を聴いていればそれで良いかなと思えてしまうからです。唯一、存在感を示しているのは同じカザルスがジャック・ティボー、アルフレッド・コルトーとSP時代にEMIに残した古い録音です。音は貧弱極まりないものの、それはレトロの極みと呼べる演奏で、こちらを好むファンも決して少なく無いと思います。

91w8sr5qphl__sl1500_チョン・キョンファ(Vn)、ポール・トルトゥリエ(Vc)、アンドレ・プレヴィン(Pf)(1978年録音/EMI盤) 
 さて、上記のように書いてはいたのですが、不覚にも素晴らしい演奏が有りました。キョンファのヴァイオリンの音色は暗く悲壮感を強く感じさせるもので、シューマンにぴったりなのです。切れ味と気迫が漲っているのにも大いに惹き付けられます。トルトゥリエはさすがにチェロの大家らしく情緒たっぷりと歌わせていて実に見事です。プレヴィンのピアノも大健闘と言えます。終楽章では三者が情熱的に炎のごとく燃え上っています。この演奏はメンデルスゾーンのトリオ第1番にカップリングされていて、そちらも素晴らしいですが、このシューマンはそれを更に上回る名演奏だと思います。

注:記事の一部を修正加筆しました。またチョン・キョンファ、トルトゥリエ&プレヴィン盤を追加しました。

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2009年10月17日 (土)

シューマン ピアノ五重奏曲変ホ長調op.44 名盤

Imc2193_2 シューマンの室内楽曲の最高傑作であるピアノ五重奏曲は、長年の念願がかなってクララ・ヴィークと結婚した2年目の1842年、所謂「室内楽の年」に作曲されました。もう一つの名作ピアノ四重奏曲曲も、そのひと月後に完成されています。当時は弦楽四重奏にピアノが加わるピアノ五重奏という編成は非常に珍しく、この曲は正にピアノ五重奏曲のパイオニアだったのです。その後もブラームスのそれと並んで、このジャンルの2大名作として君臨しています。

その音楽は実にシューマネスクです。非常に美しくロマンティックなのですが、曲の進行が随分と気まぐれに感じられます。大げさに言えば、なんだか”躁鬱気味”なのです。第1楽章からして、心が沸き立っていたかと思えば直ぐに沈んでしまいます。第2楽章は全体的に沈滞していますが、中間部は焦燥感に襲われて居てもたってもいられないという感じです。第3楽章は元気になりますが、またしても中間部ではメランコリックな気分になったり、再び焦燥感に襲われたりと、典型的な躁鬱状態です。そして第4楽章で、やっと覚悟が決まったかのような安定感を得ます。この楽章は、いかにもドイツ的なリズムで何度も繰り返される主題がとても魅力的で大好きです。

この曲には名盤が多く存在します。僕はどうしても古い時代の演奏を好んでしまうのですが、そこはどうかご容赦ください。

P1000403 ブッシュ弦楽四重奏団、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1942年録音/CBS SONY盤) 20世紀の偉大なヴァイオリニスト、アドルフ・ブッシュの主宰するカルテットの演奏です。但し僕が持っているのはアナログLP盤です。本家のCBS SONYがCD化したかどうかは憶えていませんが、現在は英国Pearlから復刻CDが出ています。録音は古いですが鑑賞に全く支障は有りません。それよりも、演奏自体は本当に素晴らしいです。ドイツ・ロマン派の伝統を継承した最後のカルテットはシューマンの音楽に何と相応しいのでしょうか。濃厚なロマンティシズムと、うつろい易い曲想が最高に生かされた演奏です。テンポの緩急やルバートは自在ですが、それがごく自然に感じられるのは正に名人芸です。若きゼルキンのピアノも偉大なカルテットに一歩も引くこと無く、素晴らしいです。 

410 バリリ弦楽四重奏団、イエルク・デームス(Pf)(1956年録音/MCAビクター盤) バリリSQにはどちらかというと四重奏曲のほうが向いているとは思いますが、この五重奏曲もやはり素晴らしい出来栄えです。ブッシュSQのような濃厚なドイツ浪漫の雰囲気ではなく、古き良き時代のウイーン・スタイルの大変瑞々しい演奏です。この曲としてはやや不健康さに欠ける気もしますが、ゆったりと大きく歌ってくれるので、落ち着いて曲を味わうには最適な美演と言えるでしょう。四重奏と五重奏のカップリング・ディスクを選ぶなら迷うことなくこのCDにすべきです。

Cci00030 ブダペスト弦楽四重奏団、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1969年録音/CBS SONY盤) ブダペストSQはブッシュSQと並んで僕の大好きなカルテット、というよりも20世紀を代表する偉大なカルテットです。男性的で厳しい表現を持ち味としているので、ベートヴェンやブラームスでは絶対的な名演奏をするのですが、シューマンになると少々いかつ過ぎる感が無きにしもあらずです。その点では、ブッシュSQに及ばないというのが正直なところです。とは言え、この演奏はロマンティックな面と力強さを兼ね備えていて非常に素晴らしい出来です。

Cci00026schu01 ゲヴァントハウス弦楽四重奏団、ペーター・レーゼル(Pf)(1983年録音/シャルプラッテン盤) この五重奏曲が初演されたのはライプッチのゲバントハウスですが(ちなみにピアノはクララが弾きました)、そのレジデンス・カルテットでカール・ズスケが第1ヴァイオリンだった時代の名演です。四重奏曲と同じ様に、誠実さとしなやかさを持ちあわせた、正統的なドイツのカルテット演奏として大変素晴らしいと思います。2曲のカップリングCDとしてはバリリQのセカンド・チョイスとしてとてもお薦めできます。

91ey9jjbqrl__aa1420_ ボロディン弦楽四重奏団、スヴャトスラフ・リヒテル(Pf)(1994年録音/テルデック盤) リヒテルとボロディンSQは多く共演しています。シューベルトの「鱒」の録音が有りますが、まるで古いウイーンの団体のように甘いポルタメントを使った素適な名演でした。このシューマンも同様な演奏です。リヒテルは不思議な演奏家で、がさつな演奏をしたかと思うと、極めて繊細な演奏をしたりと、一筋縄で行きません。ですがこの演奏は後者の方で、他のピアニストとは貫禄の違いを感じます。同じコンビの1985年モスクワでのライブがDremiレーベルから出ていますが、モノラル録音で音質は良くありません。

Cci00030b ケルビーニ弦楽四重奏団、クリスティアン・ツァハリアス(Pf)(1991年録音/EMI盤) 1stVnを弾くクリストフ・ポッペンは指揮者、教育者としても知られるドイツのヴァイオリニストです。彼の主催するケルビーニSQは地味な存在ですが、ドイツの伝統を継承する素晴らしい団体です。この演奏もゲヴァントハウスSQあたりよりもずっと落ち着いたテンポの美しい演奏です。ただしシューマンの音楽の持つ濃密なロマンの香りや、気まぐれで移ろい易く不健康さの表出が少々不足するのは好みが分かれると思います。この演奏は3曲の弦楽四重奏曲とのカップリングとして収録されていますが、ディスクの少ない四重奏のほうはオーソドックスな名演としてとても価値が高いと思います。

さて、どれもが優れた演奏なのですが、最も濃厚なロマンティシズムを感じるブッシュSQ/ゼルキンがやはり最高です。ただ、これはアナログ盤ですので、CD限定では、もっとオーソドックスで録音の優秀なボロディンSQ/リヒテルを選びます。それに古きウイーン・スタイルを継承したバリリSQ/デームスも絶対に落とせません。

<補足>
ボロディンSQ盤の紹介をDremi盤からテルデック盤に書き替えました。

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2009年10月10日 (土)

シューマン ピアノ四重奏曲変ホ長調op.47 名盤 ~ヴィオロンのためいき~ 

Schumann_3 シューマンの作品はピアノ曲と歌曲の数が圧倒的に多く、室内楽はそれほど多く有りません。その中でも良く知られた名作としてはピアノ四重奏曲と五重奏曲が有ります。作品の出来栄えとしては五重奏曲のほうが上だとは思いますが、四重奏曲には何といってもあの絶美の第3楽章アンダンテ・カンタービレが有ります。その美しさは到底言葉に表わせないほどなのですが、しいて言えばこんな感じです。

秋の日の ヴィオロンのためいきの 身にしみて うら悲し (ヴェルレーヌ/上田 敏) 

この美しいメロディを耳にして心に響かない人がもしもおられるとすれば、それはシューマンの音楽に縁が無い、というよりも音楽に縁が無い方だと思います。実は大学時代に某国の皇太子殿下が愛好するのと同じ弦楽器を弾いていた僕は、この曲をどうしても自分で弾いてみたくなり、楽譜を購入してメンバーを集めて演奏したことが有ります。それもこれもこの第3楽章の旋律に魅せられたからに他なりません。主旋律は最初チェロに、次にヴァイオリン、静かに沈滞する中間部を経てから再びヴィオラにと何度も現れます。僕はこのメロディほどにあのヴェルレーヌの詩のイメージにぴったりと感じる曲は無いような気がします。

この曲は第3楽章が余りに素晴らしいので他の楽章はやや聞き劣りがしますが、このアンダンテ・カンタービレが有るだけで、不滅の名作だと断言出来るのです。この作品はそれほど多くの愛聴盤は有りませんが、飛び切り素晴らしい演奏が有りますので是非ご紹介します。

410_2 バリリ弦楽四重奏団、イエルク・デムス(Pf)(1956年録音/MCAビクター盤) 有名なウエストミンスター録音の復刻の中でも特に価値の高い演奏の一つです。この演奏は昔LP盤で何度聴いたか分かりません。優秀なモノラル録音なので室内楽を楽しむには支障は全く有りません。元々それほどディスクの種類が多いとは言えないこの曲ですが、このバリリ盤がある為にそれを不満に感じた事も有りません。ややゆったりしたテンポですが、逆に落ち着いて聴くには最適です。デムスのピアノも同様です。それにしても第3楽章の美しさはどうでしょう。正にヴェルレーヌの詩をそのまま感じさせるような、ヴィオロンのためいきは白眉です。それ以外の言葉にはとてもなりません。 

Cci00026schu01 ゲヴァントハウス弦楽四重奏団、ペーター・レーゼル(Pf)(1984年録音/シャルプラッテン盤) 名ヴァイリニストのカール・ズスケは東独でゲヴァントハウスSQの2ndVnから、ベルリンSQ(途中からズスケSQと名称変更)の1stVnとなり、以後再びゲヴァントハウスSQの1stVnとなった人です。ドイツ音楽愛好家にはとても人気が有ります。この演奏は彼が1stVn時代の録音です。バリリQと比べればずっとスマートに聞こえます。けれども誠実でしなやかさも持ちあわせる表現は、正統的なドイツの演奏として素晴らしいと思います。バリリQの他にどうしてももう一つと望まれる方にはとてもお薦めできます。

唯一つ心残りなのは、かのブッシュ四重奏団の録音が無いことです。戦前のドイツロマン派の最後の生き残りである偉大なヴァイオリニスト、アドルフ・ブッシュの主催するカルテットの真髄はベートーヴェン、ブラームス、シューマンなので、絶対にこの曲を演奏したはずなのですが、録音が有りません。ブッシュの弾くアンダンテ・カンタービレこそはバリリをもってしても及び得ない、唯一無二のためいきの歌であっただろうことは想像がつきます。

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