シューマン(交響曲)

2011年4月 9日 (土)

シューマン 交響曲第1番「春」変ロ長調op.38 ~春への祈り~

朝晩はまだ幾らか肌寒く感じますが、昼間はだいぶ暖かくなり、東京では桜が満開となりました。例年であれば春満喫というところですが、今年は未曽有の大災害が起きてしまい、亡くなられた大勢の方や、いまだに被災地で困窮生活を送られている方々のことを思うと非常に心が痛み、とても心の底から春の喜びを感じることは出来ません。きっと同じような心境の方は多いのではないでしょうか。

昨年の春にはこのブログで、ベートーヴェンの「スプリング・ソナタ」を取り上げました。いかにも春を迎えた喜びに満ち溢れた曲です。他にも春を題材にした音楽は、メンデルスゾーンの「春の歌」や、ヨハン・シュトラウスの「春の声」と、多く有りますが、ほとんどの曲は春の喜びが一杯の明るい曲です。そんな中で少々趣が異なるのが、シューマンの交響曲弟1番「春」です。

Robert_schumann_1839

この曲のどこが趣きを異にするかと言えば、明るいだけでは無く、暗さを感じさせる部分が案外多いからです。

シューマンは、この交響曲第1番を初めは「春の交響曲」と呼んでいました。各楽章にも春に関連したタイトルを付けていましたが、それは後で削除してしまいました。それでもシューマンは、この曲の初演者であるメンデルスゾーンに宛てた手紙の中で、第1楽章について「春の訪れを表現している」と記したそうです。確かに音楽にそのようなイメージを感じます。けれども途中途中で幾度も気持ちの翳りを感じさせます。第2楽章ラルゲットも美しいですが、とても寂しい雰囲気が有ります。更に第3楽章スケルツォでの気持ちの重さは一体何なのでしょう。とても春には思えません。第4楽章ではようやく晴れやかな気分を感じさせますが、それでも北ドイツ的な控えめな明るさで、南ドイツのような開放的な明るさとは異なります。

この曲は、明るい陽の光りの下で春の訪れを喜ぶ人が居る一方で、その同じ時間にも世界のどこかには病気に苦しむ人や、命を落としている人が居るのだと言う複雑な気持ちを表現しているように思えてなりません。春だというのに決して底抜けに明るくなれないのが、いかにもロベルトなのだと思います。タイトルに惑わされて、この曲を明るいだけの曲と捉えては大きな間違いです。正にシューマネスクな曲なのです。

実はこの曲のシューマンの自筆譜では、冒頭のトランペットとホルンによるファンファーレが現在の楽譜よりも三度低く書かれていました。ところが当時のバルブ無しの楽器では演奏が難しいことから、初演時にメンデルスゾーンの助言によってシューマンは現在の音に書き変えました。その後、更に改定を加えましたが、現在一般的に使われているのはその改定版のほうです。この自筆譜は改定版に比べると響きが非常に暗く感じます。シューマンは元々はこの曲に随分暗い音をイメージしていたのです。ですので、この曲を理解するためには自筆譜初稿版による演奏も必ず聴いておく必要が有ります。

この曲は1841年に、そのメンデルスゾーンが指揮するライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によって初演されました。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

Furtwangler_schu_franck ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1951年録音/ロンドン盤) ミュンヘンのドイツ博物館のホールでのライブ録音です。この曲の持つデモーニッシュな面を表現した演奏です。導入部の暗い雰囲気に驚きますが、主部に入ると生命力に溢れます。けれども堂々とした重さを失いません。テンポの揺れやルバートが頻繁に現れますが、少しも不自然にならずにスムーズに流れるのは流石です。2楽章の深いロマンも素晴らしいですし、3楽章の重量感には圧倒されます。終楽章もやはり重さと暗い情熱の有る演奏でシューマネスクなことこの上ありません。残念なのは、録音年代の割に音が余り良くないことです。フルトヴェングラーのシューマンと言うと4番ばかりが評価されますが、録音さえ良ければこの1番ももっと評価されてしかるべしです。

Cci00034 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/BerlinClassics) 何と言っても初演を行なったゲヴァントハウスの演奏です。管楽器と弦楽器とが美しく一体化した音は正に伝統的なドイツの響きです。60年代初頭当時の古風な音がたまらない魅力です。コンヴィチュニーは融通の利かない頑固親父のような指揮ぶりで、少しもせせこましさを感じさせない堂々と立派な構えが、いかにも往年のカぺルマイスターです。う~ん、これぞドイツ!

P2_g3245420wウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立歌劇場管(1972年録音/EMI盤) シュターツカペレ・ドレスデンの全盛期の音は特別です。柔らかく厚みが有り、いぶし銀の響きが最高だからです。当時の録音は余り評判の良くないことが多かったEMIですが、これは東独エテルナとの共同制作だった為に、響きの素晴らしさを損なわない名録音です。サヴァリッシュの指揮は速いテンポで生命力に溢れ、春の息吹を感じさせますが、リズムが前のめりにコケることは決してありません。

Cci00034b ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) 導入部がゆったりと開始されたかと思うと、主部は速めのテンポで闊達になります。曲の各部の気分による変化を明確につけているのは良いのですが、幾らか小賢しさを感じないでもありません。オケのふくよかで柔らかい音は魅力的で、この曲に適しています。うるさいことを言わなければ中々に良い演奏だと思います。クーベリックにはベルリン・フィルとの旧盤もありますが、この再録盤のほうがずっと好きです。

Cci00035 オトマール・スイトナー指揮ベルリン国立歌劇場管(1986年録音/DENON盤) これはシューマン自筆の初稿譜による演奏です。初めてファンファーレ部分を聴くと、普段聴き慣れた曲との余りの違いに驚かされます。けれどもこの音こそがシューマンの元々のイメージなのです。スイトナーの指揮は、ゆったりしたテンポで曲全体の音楽の陰りを忠実に感じさせてくれますし、SKベルリンの深く柔らかい響きにもとても惹きつけられます。この演奏は必ず聴いておく必要が有ります。

Schuman_vonk_654 ハンス・フォンク指揮ケルン放送響(1992年録音/EMI盤) ケルンの大聖堂を想わせるような響きです(なんて陳腐な言い方??)。ふくよかで目の詰んだ響きがいかにもドイツ的で、シューマンの音楽に適しています。フォンクの指揮も全体にゆったりと陰影を生かした表現で中々に素晴らしいです。終楽章の彫の深いリズムと表情も秀逸です。フォンクの残した全集には中々の名演が揃っています。

Cci00036 クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1999年録音/RCA盤) 実演で聴く北ドイツ放送響の音は厚みの有るほの暗い響きでいかにも北ドイツ的です。それがシューマンの音楽には似合います。エッシェンバッハも珍しいくらいに暗い情念を持つ人ですが、1楽章は意外に早いテンポで闊達です。3楽章、4楽章もそれほど重くはなりません。期待が大きい分、エッシェンバッハにしては幾らか肩透かしをくらった印象無きにしもあらずです。

以上の演奏は、どれも魅力的なのですが、録音を度外視した演奏のみの魅力では、フルトヴェングラー/ウイーン・フィルが最高です。コンヴィチュニー/ゲヴァントハウスとサヴァリッシュ/SKドレスデンは、長い歴史を誇るドイツの名門楽団同士の対決で両者譲りません。響きの好みではSKドレスデンを上にしたいところですが、サヴァリッシュの指揮がやや元気に過ぎるので引き分けです。そして、スイトナー/SKベルリンは自筆初稿譜による演奏ということで絶対に外せません。

今年の春には、この曲以上に相応しい曲は無いのではないでしょうか。被災に遭った東北地方には、早く本当に暖かな春が訪れることを心から祈ります。

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2009年11月 1日 (日)

シューマン 交響曲第4番ニ短調op.120 名盤 ~浪漫と幻想~ 

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シューマンは生涯に交響曲を4曲書きました。僕はそのうち第1番「春」や第2番もとても好きですが、第3番と第4番を特に好んでいます。第3番「ライン」については以前、j自分自身のドイツ・ライン地方への旅行記としてご紹介したことが有りました。
<旧記事>
シューマン 交響曲第3番「ライン」 ~ハルくんのラインへの旅~

そこで今回は第4番について書きます。この曲は最もシューマンらしいシンフォニーだと思います。シューマンの最大の特徴である「ロマン的で、幻想的」な要素が一番よく出ています。正にシューマネスクな作品です。この曲には「幻想的交響曲」とでも副題を付けたいところですが、ベルリオーズに先を越されてしまいましたからね。

それにしても、この曲は1楽章の導入部から、なんとも幻想的です。ほの暗いロマンの香りが濃密に漂います。「生き生きと」と指示のある主部に入っても、危うい香りがそのまま続いて行きます。音楽の屈折した雰囲気は正にシューマンの本領発揮です。

第2楽章「ロマンス」は、タイトルどおりロマンの極みです。孤独感いっぱいに沈滞します。オーボエとチェロのユニゾンによる主題も美しいですが、中間部のロマンティックなヴァイオリン独奏もこたえられません。

第3楽章スケルツォにも「生き生きと」と指示が有りますが、まるで楽しい雰囲気にはほど遠い印象です。何か運命的な重みを感じずにはいられません。しかしこの楽章も極めて魅力的です。

第4楽章の遅い序奏部を終えると「生き生きと」と指示された主部が始まります。この楽章でようやく明るさを取り戻します。途中から始まる、付点付きリズムは「交響的練習曲」の終曲に代表されるシューマンのお得意のリズムです。

さて、僕の愛聴盤ですが、この曲にはフルトヴェングラーの歴史的名盤が有りますので、それを中心にご紹介したいと思います。

41zjc1rtd0l__ss500__2 ウイルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) フルトヴェングラーが亡くなる前の年の演奏です。「シューマンの4番と言えばフルトヴェングラー」と言われるぐらい有名な録音です。比類無いほどにロマン的で情熱的な演奏ですが、とにかく凄いのはオーケストラがまるで生き物のように自由自在。楽器の音が全くせずに音楽そのものしか感じさせません。この曲の第1楽章は中間部がとても鳴りにくく、しばしば演奏に失望することが多いですが、フルトヴェングラーの場合は情熱が迸るように立派に鳴り渡ります。第2楽章のロマンも最高。当時のベルリンフィルのコンサートマスター、ジークフリート・ボリスの奏でるヴァイオリン・ソロは甘いポルタメントを効かせて耳がとろけるようです。過去最高の演奏と言えるでしょう。第4楽章も極めてドラマティックであり、中間部の付点リズムの生命力も他の指揮者とは次元が異なります。既に50年以上も昔の録音ですが、いまだに最高の演奏であり続けています。モノラル録音ですが、フルトヴェングラーの録音の中でも最も音質の良い一つなので鑑賞には全く差支え有りません。

Cci00034 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/BerlinClassics) ゲヴァントハウスの音が魅力的です。管楽器と弦楽器とが美しく一体にブレンドされたくすんだ響きは伝統的なドイツの音です。ここまで古風な音は現在ではちょっと聞けないと思います。コンヴィチュニーの指揮も同様にオーソドックスで良いです。けれども、この曲にしては少々落ち着き過ぎている気はします。第2楽章はもっと強いロマンの香りが欲しいですし、第3、4楽章は更に情熱の高ぶりを見せたほうが魅力が増したと思います。

4543638002245 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1962年録音/Altus盤) クナッパーツブッシュ/ウイーン・フィルのライブ盤はどうしても外せません。評論家の福嶋章恭さんが最高の演奏と述べておられる演奏です。確かに余りのスケールの大きさに度肝を抜かれますし、これはフルトヴェングラーに対抗し得る唯一の演奏だと思います。但し、クナ特有の大きな間の取り方や、時に最強奏する金管がまるでワーグナーを感じさせてしまい、シューマネスクな演奏という点ではやはりフルトヴェングラーのほうが上かなと感じるのです。これまでは海賊盤でしか聴くことができませんでしたが、Altusから正規録音盤がリリースされました。モノラルですが音質は極上の素晴らしさで、演奏の凄さが改めて認識されます。

976 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1969年録音/オルフェオ盤) ベームには約10年後のグラモフォン盤も有りますが、これはザルツブルグでのライブ録音です。音質は年代相応ですが、幾らか高音に硬さを感じます。60年代のベームにしては意外に解放感があり堅苦しさを感じません。ウイーン・フィルのしなやかな美しさも魅力です。シューマンの音楽に本来ベームの資質は合わないような気もしますが、ウイーン・フィルの音が中和させているように思います。終楽章の序奏で管のピッチが合わないのはご愛嬌ですが、続く主部のシューマン・リズムの味わいが忘れさせてくれます。

P2_g3245420wウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立歌劇場管(1972年録音/EMI盤) 3番「ライン」でも書きましたが、シュターツカペレ・ドレスデンの全盛期の音を聴くことが出来る素晴らしい録音です。柔らかくも厚みが有り、正に「いぶし銀」としか表現のしようの無い素晴らしい音です。ゲヴァントハウスを「野武士」の響きとすれば、ドレスデンはさしずめ「大納言」の響きでしょう。その響きを忠実に捉えた名録音でもあります。サヴァリッシュは早めのテンポで若々しく新鮮な指揮ぶりで、ドレスデンの響きと融合して魅力的です。但しその反面、余りに健康的過ぎるので、彼らの全集の中では1番や3番のほうが曲想に適していると思います。 

Cci00034b ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) クーベリックは60年代にベルリンフィルとこの曲を録音しましたが、それは緊張感の無い演奏で好きではありませんでした。このバイエルンとの新盤の方が優れていると思います。管と弦とが柔らかく混じり合った響きも魅力的です。第1楽章はゆったりし過ぎていて情熱の高まりに不足を感じますが、第2楽章や第3楽章のほの暗いロマンの香りは良く出ています。終楽章も付点リズムの処理にシューマネスクな味が良く出ていますし、徐々に高まっていく情熱が見事です。

Cci00035b セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1988年録音/EMI盤) 遅いテンポによるいかにもチェリビダッケらしい演奏です。第1楽章は柔らかい響きでスケールが大きいのは悪くないのですが、情熱の高まりが感じられないのが気に入りません。第2楽章の深々としたロマンの香りは魅力的です。ヴァイオリン・ソロも味わい深いです。第3楽章は遅いテンポで暗くロマンティックな雰囲気に満ちていて良いと思います。極端に遅い第4楽章冒頭のブリッジ部分はユニークですが違和感を感じます。主部も遅いテンポで聴いていて段々もたれてくるのも事実です。但し、最後は普通にアッチェレランドして終わります。一貫性の無さを感じないでもありません。

Schuman_vonk_654 ハンス・フォンク指揮ケルン放送響(1992年録音/EMI盤) オランダの名匠フォンクが、ケルンの街のオーケストラを指揮した演奏です。フォンクは難病を乗り越えて苦労して活動をしている人ですが、苦悩と浪漫を感じさせるこの曲には向いています。ケルン放送の音はくすんだ北ドイツ的な響きで曲に適しています。1、2楽章は暗いロマンの味わいが有って中々に素晴らしいです。3楽章もリズムに重みが有ります。終楽章はテンポが速めで活力が有ります。全体的に地味な印象が残りますが、この演奏はそこが良いのです。

Cci00036 クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1999年録音/RCA盤) ハンブルグを本拠地とする北ドイツ放送響は今では数少ない古風でドイツ的な音を持つオーケストラです。柔らかく混じり合ったほの暗い響きはシューマンの音楽に適しています。エッシェンバッハも暗くロマンティックな演奏を得意としているので、やはりシューマンに向いています。第1楽章は中間部の爆発力はフルトヴェングラーには及びませんが、全体としては優れています。第2楽章は深々というよりも早めのテンポで軽いながらも優しい雰囲気が独特です。第3楽章も早めですが暗い情熱を感じて悪く有りません。終楽章の情熱の高まりも大変素晴らしいです。

<追記>クナッパーツブッシュのウイーン・フィル盤を正規盤に書き替えました。 

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2009年5月 9日 (土)

シューマン 交響曲第3番「ライン」変ホ長調op.97 名盤 ~ハルくんのラインへの旅~ 

今回の旅行記は創作ではありません。実話なのです。(写真はクリックしてもらうと大きくなります)

今から3年前のことですが、ハルくんはデュッセルドルフに長期赴任している日本人の旧友に会いに行きました。しかも、その友人とはおよそ20年ぶりの再会だったのです。彼はそれは大歓迎してくれて、その晩は街のビアレストランで再会の祝杯を挙げました。ドイツの地ビールはそれは美味しかったです。

P1020050 翌日は友人の車で観光案内をしてもらうことになり、一路ケルンへ向かいました。約一時間程度で着いたケルンには、名高い大聖堂が有ります。中世の巨大な建築物です。ロベルト・シューマンはデュッセルドルフに移ってまもなく、ケルン地方を中心に旅をしましたが、この大聖堂の威容には大変感銘を受けたそうです。旅から帰ってすぐに作曲したのが交響曲第3番「ライン」でした。それにしても、この大聖堂は実に巨大なのです。何でも一年中修復を続けているそうですよ。有る部分の修理が終わると、また別の部分が傷んでくるので、それを永遠に繰り返すのだそうです。大きな修理工房が裏手に有りました。

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大聖堂は上の方まで延々と階段で歩いて登ることができるので、その日も結構な人数の観光客が一生懸命登っていました。フーフー言いながら、やっとこさ展望階まで登ってみると、眼下には街の真ん中を堂々と流れるライン川が見下ろせました。素晴らしい景色です。

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翌日はライン川の上流方面に車を走らせました。川沿いの小高い丘の上に、次々と中世のお城が見えてきます。大きな城も小さな城も、みなその土地のかつての領主の居城だったのです。そしてライン川が悠然と流れる様を眺めていると、頭に浮かんでくるのは「ライン」の第2楽章です。そして周りののどかな町並みと人々の静かな生活風景は第3楽章です。特に夕べの時間帯はイメージがぴったりだと思います。

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更に上流に上ると、だんだん川幅が狭くなり流れの勢いがどんどん増してきます。この辺は「ライン」の第1楽章のイメージですね。そして、ついにあの有名なローレライの岩に到着しました。土曜の昼間にもかかわらず、他にはほとんど観光客が居ないので、友人と僕は岩の上に登ってゆっくりとライン川を眼下に眺められました。「岩」といってもそれは実は大きな丘なのです。なんとも雄大な景色を堪能できました。ローレライ伝説というのは「波の間から聞こえてくる美しい歌声に船の舵取りが気を取られてしまい座礁して沈没してしまう」という内容ですが、確かにこの岩の近くは急流で一番の難所のようです。昔から「美女の誘いには気をつけろ」というのが男性への教訓だったようですね。僕も一度で良いので美女に誘われて沈没してみたいものです。

デュッセルドルフへの帰り途中も、頭の中ではずっとシューマンの「ライン」が流れっぱなし。それはそうですよね、シューマンはこの景色を見て曲を作ったのですからね。ハルくんはラインの旅を体験しながら感慨にひたるのでした。「うーん、ドイツ!」「ライン!」「シューマン!」「ビール!」「美人!」(は余り見かけなかったなぁ。残念。)

さて、思い出深い交響曲「ライン」なのですが、僕はこの曲はどうしてもドイツの楽団の音で味わいたくなってしまうのです。愛聴盤をご紹介しますので、どうぞご一緒にラインの旅を味わいましょう。

P2_g3245420w ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立歌劇場管(1972年録音/EMI盤) 学生時代に最初に買ったのがこの全集。但し当時はLP盤でした。SKドレスデンの全盛期の音を聴ける素晴らしい演奏です。金属的な音が全くしない柔らかさと厚みの有る腰の強さを併せ持つ稀有な音だと思います。ザンデルリンクのブラームス全集とサヴァリッシュのこの演奏でSKドレスデンのとりこになったファンは非常に多いと思います。CDでも充分に素晴らしいのですが、初期のLP盤で聴く音は更に格別です。サヴァリッシュの指揮はテンポ感が非常に良く、生命力と重厚さが両立していて最高です。全集の中でも3番の演奏が特に優れていると思います。

Cci00034 フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/BerlinClassics) ゲヴァントハウスの音もまた格別です。よくシューマンのオーケストレーションは鳴りが悪いと言われますが、カラヤンのようにピッチを上げて鳴りを良くしてしまっては全く違った音に変わってしまいます。管と弦が混じりあったくすんだ響きこそがシューマンの音なのですよ。この古色然としたオケの音を味わいましょう。コンヴィチュニーの指揮もゆったりしたテンポで貫禄充分です。 

Cci00036b カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1962年録音/Scribendum) 音楽評論家の中にはこの演奏を推薦している方もいらっしゃるし、僕自身も人後に落ちぬシューリヒトファンなのですが、この演奏は正直余り好きはありません。軽快なテンポで颯爽と進む演奏からは、どうもシューマンの音楽の持つほの暗さが聞こえてこないからです。元々がコンサートホールという廉価レーベル録音なので音質が良くないせいも有るかもしれませんが、もう少し厚みの有るドイツ的な響きを聞かせて欲しいものです。

Cci00034b ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) クーベリックは60年代にもベルリン・フィルと全集を録音しましたが、それは余り印象には残っていません。このバイエルン放送響との全集の方が格段に優れていると思います。響きは南ドイツ的で明るめですが、ふくよかで柔らかい音が非常に魅力的で、この曲には適しています。スケールも大きいですが、要所で現れる微妙な間やリズムの念押しが非常に効果的で、これは中々に良い演奏だと思います。

Cci00035 オットマール・スイトナー指揮ベルリン国立歌劇場管(1986年録音/DENON盤) スイトナーはモーツァルトのような古典派は早いテンポで颯爽とした演奏をするのですが、ロマン派の曲になると案外遅いテンポでスケール大きく演奏します。このシューマンもそのスタイルです。第1楽章は金管のバランスが強いので、柔らかさよりも力強さを感じます。好みで言えばもう少し弦とまろやかに一体化した方が好きですね。ですが逆にこの方が好きと言う人も多いのではないかと思います。終楽章は音がまろやかに溶け合って美しいです。

Cci00035b セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1988年録音/EMI盤) いつもながらの遅いテンポによるチェリビダッケらしい演奏です。響きの美しさは有りますが、素朴さに欠けるのでこの曲に向いているとは思えません。それに情熱の高まりが無いのが気に入りません。私の好きな第3楽章も遅すぎるので、すっかりもたれてしまいます。4楽章、終楽章も同様です。終楽章の最後になって突然壮大に鳴り出すのですが、これは何なのでしょう。やはりチェリビダッケは僕の感性からは大分遠い指揮者であると思います。

Schuman_vonk_654 ハンス・フォンク指揮ケルン放送響(1992年録音/EMI盤) この曲とは所縁の深いケルンの街のオーケストラの演奏です。僕はこういうのに弱いのです。オランダ人のフォンクは何度か難病を乗り越えて指揮活動をしている人なので尊敬します。ケルン放送はベルティーニ時代よりも幾らか精度が落ちたような気もしますが、ドイツのオケらしい音色はやはり魅力です。フォンクの指揮もライン川のように雄渾で自然な流れを感じさせてとても良いです。

Cci00036 クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1999年録音/RCA盤) 北ドイツ放送響は2000年にヴァントの指揮でブルックナーの9番の名演を聴きましたが、実に北ドイツ的な響きでした。厚みの有るほの暗い響きはシューマンの音楽に一層似合うと思います。エッシェンバッハは今どきの指揮者にしては珍しいくらいに暗い情念を持っている人なのでやはりシューマンに相応しいと思います。僕はこの演奏もとても好きです。

以上から、僕のベスト盤を一つ上げるとすれば、何の迷いも無くサヴァリッシュ/ドレスデン国立歌劇場管盤です。この曲の演奏として傑出していると思います。

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