モーツァルト(交響曲)

2014年4月18日 (金)

モーツァルト 交響曲第29番イ長調K.201 名盤

モーツァルトの全交響曲のうち、第34番まではウイーンに移る前のザルツブルク時代に書かれました。そのうち第31番以降になると管弦楽的にも充実して来ますし、明るく華麗な曲想がモーツァルトのファンの心を捉えることと思います。ただ、その割には天才的な”閃き”や”霊感”といったものは余り感じさせません。むしろ、それより前の第25番ト短調K183や第29番イ長調K201の方にずっと閃きが感じられますし、個人的には終楽章がとてもチャーミングな第28番ハ長調K200にも惹かれます。

交響曲第29番は第25番の翌年、モーツァルトが18歳のときに書かれました。この曲はオーボエ2、ホルン2、それに弦楽だけという、ほとんど室内合奏曲の構成です。曲全体がとても落ち着きのある典雅な趣で覆われているので、いつまでもこの曲の雰囲気に浸っていたくなります。疾風怒濤の第25番が”風雲!真田雪村”だとすれば、第29番はさしずめ”徳川天下太平”といったところで、非常に好対照の曲想です。この2曲はどちらも人気が高いですし、ディスクに組み合わされることがとても多いです。

それでは愛聴盤のご紹介です。

51v9fr97jxl ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1954年録音/CBS盤) モノラル録音ですが、ワルターは第29番をステレオ録音で残していませんので、その点では貴重です。割に速めのテンポで生命力に溢れていますし、チャーミングな表情を多く感じさせるのは流石にワルターです。但し、ステレオ時代のCBS録音に聴かれるような、まるでヨーロッパのオーケストラのような音の柔らかさはいま一つ出し切れていません。ワルター向きと思えるこの曲にはステレオによる再録音を残して欲しかったです。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1968年録音/グラモフォン盤) ベームの交響曲全集に収録されています。ゆったりとしたテンポによる造形のしっかりとした演奏ですが、躍動感も充分感じられます。ベルリン・フィルのくすんだ響きはいかにもドイツ風ですし、弦の十六分音符の刻みは厳格そのものです。ワルターのような微笑みかけるモーツァルトではありませんが、決して厳めしく感じられることは無く、ベームのモーツァルトの音楽への敬愛の念を感じずにはいられません。ベームの第29番というとウイーン・フィル盤が語られることが多いですが、ベルリン・フィル盤も実に素晴らしい演奏です。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1960年録音/Berlin Classics盤) スウィトナーはSKドレスデンと1960年から1975年までの間に第28番以降の全交響曲を録音しましたが、これはその最初の録音です。通常は、相当速いテンポを基調とするスイトナーのモーツァルトですが、この曲では意外にゆったりとしています。ウイーン・フィルほど柔らかくは無く、ベルリン・フィルほど暗さの無い、SKドレスデンの典雅な響きが魅力的です。スウィトナーのモーツァルトは本当にどれも素晴らしかったです。

064 カール・ベーム指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1972年録音/オルフェオ盤) ザルツブルク音楽祭のライブ録音です。テンポ設定や解釈は4年前のベルリン・フィル盤と極似していますが、実演だけあって、各楽器の表情には豊かさが増していますし、自由さも感じられます。中低弦が物を言うのは流石にSKドレスデンですし、終楽章の躍動感もベルリン・フィル盤以上です。もちろん典雅で滋味あふれるオーケストラの音色は健在で、録音もそれをほぼ忠実に捉えてくれています。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1973年録音/DECCA盤) 第21番以降の交響曲選集に含まれています。ウイーン生まれのクリップスは本当にヨーロッパの伝統を持った指揮者だったと思います。大戦中ナチスに非協力的だったためにベオグラードに追いやられて、指揮業の傍らに食品工場で働く時期もあったそうです。そんな苦労人の演奏は、戦前の大指揮者達の個性的なそれとは異なって、過不足の無い中庸の音楽美を感じさせます。そんなスタイルがコンセルトへボウの美しい響きと組み合わさって、この曲にぴったりです。

2531335カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1980年録音/グラモフォン盤) ベームはこの曲を壮年期でもゆっくり目のテンポで振りましたが、最晩年のスタジオ録音ともなると更にゆったりとしていて、人によっては付いていけないかもしれません。けれども、ウイーン・フィルのレガート気味な柔らかい弾き方による美しく優雅な響きに身を浸していると、テンポの感覚が徐々に失われてゆくほどです。自分にはこの曲を非常に愛したベームの辞世の歌とも呼ぶべき感動的な演奏に感じられます。録音はベームの中では最上です。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 同じウイーン・フィルを振ってもベームに比べると、ずっと現世的な喜び溢れる演奏に聞こえます。このシンフォニーから引き出される音楽の奥深さという点では、ベームに一日の長が有りそうですが、こちらは素晴らしく美しい音で、こぼれるほどにチャーミングな演奏ですので、バーンスタインの演奏の方を好まれる人もきっと多いと思います。

この曲については、やはりベームの演奏に格の違いを感じます。ベルリン、ドレスデン、ウイーンのどの演奏にも惹かれてしまい、絞り込むのは中々に困難です。

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2014年4月15日 (火)

モーツァルト 交響曲第25番ト短調K.183 名盤 ~シュトゥルム・ウント・ドラング~

モーツァルトのシンフォニーについては、2年前に6大交響曲を記事にしてから随分と間隔が空いてしまいました。久々の登場です。

モーツァルトの交響曲で聴き応えを感じるのは、第25番以降の作品ですが、その中でも、第40番ト短調に対して『小ト短調』と呼ばれる第25番の魅力はやはり格別です。第1楽章でいきなり開始される切り裂く様なシンコペーションは正に”シュトゥルム・ウント・ドラング(ドイツ語=疾風怒濤)”の典型的表現で、このような音楽を弱冠17歳で、モーツァルト以外の一体誰が書き得たでしょうか。初めてこの曲を聴いた時の印象は決して忘れられません。第40番の冒頭の旋律で受けた驚きにも劣らなかったような気がします。

モーツァルトの交響曲は、もちろんウイーンに移ってからの作品である第35番「ハフナー」から第41番「ジュピター」までの6大交響曲が格段に優れていることは言うまでもありませんが、それに匹敵する個性的な輝きを放っているのが、この第25番ト短調K183です。

曲についてはこの程度にしておいて、さっそく愛聴盤のご紹介に移ります。

51v9fr97jxl ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1954年録音/CBS盤) 当然モノラル録音です。この”コロムビア響”というのは一説ではステレオ時代の西海岸のそれでは無く、ニュヨークPO主体の東海岸のオケらしいです。ワルターがこの曲から引き出す”疾風怒濤”の音楽は、昔からこの曲の一つのリファレンスになっていますが、おかげで世の中の並みの演奏が、何を聴いても物足りなく感じられるほどの影響を与えてしまいました。思えば罪作りな演奏です。

4104090365ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1956年録音/SONY盤) 余りにも有名な、ウイーンでの40番にカップリングされた録音です。こちらはザルツブルク音楽祭で「レクイエム」の前プロとして演奏されましたが、当日の組み合わせはオルフェオ盤から出ています。但し音質はSONY盤が上です。小編成による室内楽的な演奏ですが、白熱した各楽器パートの息詰まるようなからみ合いが圧巻です。この凄まじい緊迫感の前では、コロムビア響盤さえも”並みの”演奏に感じられてしまうほどです。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1968年録音/グラモフォン盤) ベームの交響曲全集からです。こじんまりとした室内楽的な演奏では無く、大編成のそれです。ドイツ的な厳格なリズムを基調とした、極めて構築性の強い引締まった演奏ですので、贅肉でふやけた印象は全く受けません。それよりも、立派で重厚な音楽を感じられて非常に聴き応えが有ります。当時のベルリン・フィルのほの暗い音色がこの曲に向いていて素晴らしいです。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) ウイーン出身のクリップスはウイーン・フィルと組むと、それ以上は望めないほどに柔らかい演奏をしますが、コンセルトへボウと組んだ場合には、そこにキリリと引き締まった感覚が加わります。極めて格調が高く、疾風怒濤のワルターとは全く異なる印象です。けれども、心を落ち着けてじっくりと味わえる小ト短調として決して悪くありません。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) バーンスタインはウイーン・フィルと25番以降の主要な交響曲を録音してくれました。もちろんウイーン・フィルの演奏は素晴らしいのですが、後期の作品に関しては、どうも含蓄の乏しさが感じられてしまいました。その点、初期の曲ではそれが余り気にも成らず、若きモーツァルトの”感情の揺れ”がストレートに表れていて素晴らしいです。切迫感もしっかりと感じられますが、ワルターほどの怒涛ぶりは見せません。これはワルターの呪縛から自分を解き放してくれた名演奏でした。

ということで、ワルター/ウイーンPO盤は歴史的な凄演として絶対に外すことは出来ませんが、現在のフェイヴァリットはバーンスタイン/ウイーンPO盤です。

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2012年2月11日 (土)

モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」ハ長調K.551 名盤 ~最高の創造神~

Jupiter

「ジュピター」という副題はモーツァルト自身が付けたわけではありませんし、誰が付けたのかも分かっていません。けれども、ローマ神話に出てくる最高の創造神(ギリシア神話ではゼウスのこと)の名前というイメージが、この曲の持つ崇高で壮大な内容にピタリと合うからでしょう。実際、三大交響曲の最後を締めくくるにこれほどふさわしい曲はありません。そしてそれはモーツァルトの全交響曲の最後でもあります。これ以降、彼が天に召されるまでの三年間に交響曲を書くことは二度とありませんでした。

この曲は基調がハ長調ということもあり、最も明快さと壮麗さを持つ作品です。その点、前作の40番とはまるで対照的な内容です。その余りに完全で立派過ぎる曲想が、どこか近寄り難さを感じてしまい、個人的にはむしろ39番や40番、あるいは38番を聴く機会のほうが多いです。とは言え、3楽章のスケール壮大なメヌエット(これが!)や、フーガの技法を駆使した終楽章での、この世のいかなるものも追いつけないかのような疾走感、さらに終結部での三重フーガの壮大さには、ただただ言葉を失います。あのリヒャルト・シュトラウスも、「ジュピター・シンフォニーは、私が聴いた音楽の中で最も偉大なものである。終曲のフーガを聞いたときに、私は天にいるかの思いがした」との賛辞を残しています。

それでは、僕の愛聴盤のご紹介です。

Brahms_sym1 クレメンス・クラウス指揮ブレーメン国立フィル(1952年録音/TAHARA盤) 古いライブ録音ですが、案外明快で生々しい音質です。併録されたメインのブラ1と同様に、速めのイン・テンポで颯爽と進みます。リズムは前のめりですし、下手なミスが随所に聞かれます。ところが、最近の整理された演奏とは比べものにならないニュアンスの変化と面白さが有ります。流石は往年の名人指揮者で、どこをとっても音楽に香りが漂っています。それでいて終楽章の迫力も圧巻です。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) ニューヨークPOとのモノラル盤と比べると、別人のようにゆったりとした演奏です。エネルギー不足という指摘もありますが、僕はこのウイーン的な柔らかさを感じさせるステレオ盤が大好きです。さすがに終楽章では、テンポの遅さが少々まどろっこしく感じさせますが、ワルターの長い生涯にわたるモーツァルト演奏の最終到達点ですので、心から楽しみながら聴いています。

Cdh7649042カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1960年録音/EMI盤) ザルツブルクでのライブです。併録の「プラハ」の演奏は最高でしたが、こちらも素晴らしいです。シューリヒトのウイーンPOとのライブが聴けるのは幸せなことです。例によって速いテンポで飄々と進みますが、ここには1950年代のウイーンPOの柔らかい音がそのままで、管も弦も得も言われぬ名人芸が味わえます。終楽章のじわりじわりと高揚してゆくのも聴き応えがあります。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1962年録音/グラモフォン盤) 流石にベーム壮年期の演奏で、速いテンポで切れ良く厳格なリズムを刻みます。ベルリンPOは上手く力強さに溢れていて圧倒されます。音像が立体的なので、あたかもギリシア神殿を見上げるようです。これは曲と演奏スタイルが見事に合致した、まれにみる幸福な組み合わせの結果だと思います。

Mozart41schurichtカール・シューリヒト指揮パリ・オペラ座管(1963年録音/DENON盤) コンサートホール・レーベル録音です。室内楽的な味わいは良いとしても、編成が小さいせいか、音に薄さを感じます。「リンツ」「プラハ」と比べても、緊張感の少なさに驚きます。終楽章のフーガはシューリヒトならではの面白さは有りますが、この曲の演奏としては、やはりウイーン・フィルとのライブ盤を取るべきだと思います。

706パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1967年録音/SONY盤) 1楽章は遅いですが、リズムには強い念押しが有り、一つ一つの音符に気迫がこめられています。オケの洗練されない音は、例えれば現代のビルディングではなく、人間が手で積み上げた石造りの大神殿のようです。2楽章もこれほど大きな表情で魂に訴えかけるような演奏は聴いたことが有りません。終楽章はテンポアップして炎のように燃えていて圧倒されます。これは真の大芸術家カザルスにしか成し得ない破格の演奏です。

Klempe77d オットー・クレンペラー指揮ウイーン・フィル(1968年録音/テスタメント盤) これはウイーン芸術週間のライブ演奏です。クレンペラーも遅いですが、更に大きいリタルダンドをかけるので余計遅く感じます。ところが大地が動くような推進力が有るので決してもたれません。これもまた「大」芸術です。こんな破格の音楽家がまだ何人も生き残っていた1960年代とは何という幸福な時代だったのでしょう。柔らかい音で目いっぱい歌うウイーンPOの魅力も絶大です。

026 ラファエル・クーベリック指揮ウイーン・フィル(1971年録音/オルフェオ盤) ザルツブルク音楽祭でのライブ演奏です。ことさらに曲の威容を強調した演奏ではありません。ウイーンPOの美音を生かしたすっきりと流れの良い演奏です。テンポも速過ぎず遅過ぎず、実に自然です。クレンペラーほどには大きく歌わせませんが、凡百のオケと比べれば充分に柔らかく歌っています。音楽を安心して楽しめるという点では最右翼の演奏かもしれません。終楽章のフーガの聴き応えも充分です。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) コンセルトへボウの柔らかく溶け合う響きも本当に美しく、正にウイーンPOと双璧です。クリップスはアクセントやフォルテをことさら強調しませんが、その品の良さが魅力です。単に平板な演奏とは次元が異なります。テンポにもゆとりが有り、心に本当に安らぎを与えてくれます。この心地よさは他の演奏ではちょっと味わえません。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1974年録音/Berlin Classics盤) SKドレスデンの響きの美しさもウイーンPOとコンセルトへボウに並びます。木管もまるで「純木」でできているような古雅な音ですし、名手ゾンダーマンの叩くティンパニの音と上手さも最高です。全体のマルカートで楷書的な音の出し方は、39番と並んで曲に向いています。スウィトナーのテンポは速いインテンポで一気苛性の勢いが有りますが、優しさも充分に兼ね備えています。

Yamano_3200121246カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1976年録音/グラモフォン盤) ベルリンPOとの旧盤は非常に立派な演奏だと思いますが、改めてウイーンPOとの新盤を聴いてみると、気迫に於いて少しも負けていないことに気が付きます。音楽にゆとりが有る分、一見パワー不足に感じるかもしれませんが、それは誤りです。ギリシア神殿の上空のエーゲ海の青空を仰ぎ見るようなスケールの大きさを感じます。アナログ録音末期の完成された音作りもウイーンPOの美音を完璧に捕えています。

Suitner398オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1978年録音/TDK盤) 僕が聴いた厚生年金会館でのコンサートでも順に3曲が演奏されました。今こうして当夜の録音を聴き直してみると、本当に素晴らしい演奏です。かっちりとしてマルカート的なSKドレスデンに比べると、SKベルリンは音のしなやかさが魅力です。スウィトナーの指揮に大きな違いは有りませんが、やはりライブでの感興の高さが有ります。特に終楽章では当日の興奮がひしひしと蘇ります。続けてアンコールの「フィガロの結婚」序曲も聴けますが、これがまた本当に素晴らしいです。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) クーベリックのモーツァルト全般に言えるのですが、極めてオーソドックスで文句の付けようのない演奏です。ところが、何か特別に印象に残る点が有るかというと考えてしまいます。音楽をありのままの姿で聴こうという場合には良いでしょうが、才気あふれる閃きを期待すると裏切られます。しかし後期交響曲の中では王道を行く音楽内容のこの曲には最も向いていると思います。

175 オイゲン・ヨッフム指揮ウイーン・フィル(1981年録音/Altus盤) ウイーン楽友協会大ホールでのベーム追悼演奏会のライブです。従ってベームの得意とした「ジュピター」を演奏したのでしょう。敬愛するベームを悼んでウイーンPOのメンバー達が熱演しています。ヨッフムの指揮も良いのですが、ベームの指揮と比べるとモーツァルト演奏の深みに於いては一歩及ばない印象です。逆にベームの凄さを再認識することになりました。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) こういう曲をウイーン・フィルに演奏させれば誰が指揮しても美演になるのは確実です。にもかわらず、ベームのような含蓄の深さを誰でも出せるわけではありません。ここが指揮の難しいところです。バーンスタインの指揮は、とても立派で躍動感も有りますが、それ以上の「特別な何か」を感じさせてくれることはありません。

Mozart71k4kzkhdll__sl1200_ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1985年録音/オルフェオ盤) 第40番と同じくSONY盤から5年後のミュンヘンライブです。冒頭は余り気乗りしないような演奏で開始しますが、曲が進むにつれて実演ならではの緊張感と高揚感が加わって来ます。音楽の訴えかける力は明らかにライブが上回ります。SONY盤が余りに客観的に過ぎるのもマイナスでしたが、そうした不満を払拭してくれました。この曲の場合にはウイーン・フィルとのライブが残されていますが、こちらの演奏もまた素晴らしいです。

こうして聴き終えてマイ・フェイヴァリットを選ぶとすれば、やはりベームの2種です。特に、録音、演奏共に最高のウイーン・フィル盤を最上位にしたいです。次いでは、スウィトナーですが、ここはアンコールの「フィガロ」序曲も加えてシュターツカペレ・ベルリン盤としたいです。もう一つはクリップス/コンセルトへボウ盤にします。それと、もうひとつ決して忘れてはならないのがカザルス盤です。

<補足>
クーベリック/バイエルン放送の85年ライブ盤を加筆しました。

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2012年2月 3日 (金)

モーツァルト 交響曲第40番ト短調K.550 名盤 ~永遠の名曲~

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一度聴いたら忘れられない名旋律の第1楽章ですが、僕が初めて聴いたのはたぶん中学生の時、イージーリスニングのレイモンド・ルフェーヴル楽団の曲として耳にしました。当時はハード・ロック小僧だった自分が、「ずいぶん良い曲だなぁ」と感激したのを覚えています。

とにかく、イージーリスニングになってしまうほどの名曲であり、クラシック・マニアをも呻らせるのが交響曲第40番ト短調K550です。「ト短調交響曲」として余りにも有名ですが、この曲はモーツァルトが1788年の夏の僅か2か月の間に作曲した三大交響曲の真ん中に位置する、正に「永遠の名曲」の名に恥じない大傑作です。

この曲は基調のト短調の性格通り、哀しく、悲劇的でありながらもロマンティックな甘さを持ち合わせています。1楽章モルト・アレグロは今更言うまでもない名曲中の名曲ですが、僕が強く惹かれるのは、第3楽章メヌエットです。ここには軽妙な舞踏曲のイメージは全く無く、主部は嵐のように吹き荒れます。それがトリオでは一転して、つかの間の安らぎを得たような懐かしい歌が奏せられます。何という美しさでしょうか。終楽章アレグロ・アッサイは、まるで何者かに追いつめられてゆくような緊迫感が有ります。

この曲には最初はクラリネットは使われていませんでしたが、モーツァルト自身が書き直した第2版には追加されています。古典的な響きの第1版、ロマン的な色彩を加えた第2版と、どちらも良いのですが、通常は書き直しを行わないモーツァルトがそれを行なったということは、やはり第2版が理想の姿だったと考えられなくもありません。

この曲はウイーンで初演されたと推測されていますが、その演奏会で指揮をしたのは、どうやらあのアントニオ・サリエリだったそうです。モーツァルトの天才に呆れて一体どんな顔をして演奏したのでしょうね。

それでは、僕の愛聴盤のご紹介に移ります。

Mi0001086295 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1949年録音/EMI盤) 第1楽章に指定された”モルト・アレグロ”を忠実に守って快速で駆け抜ける演奏です。それについては賛否両論あるところですが、やはり説得力のある解釈だと思います。あの美しい旋律をもっと歌わせてほしいと思う反面、音楽の切迫感が充分に感じられるからです。2、3楽章は比較的オーソドックスですが、終楽章では再び緊迫感を醸し出します。ウイーン・フィルの音と演奏はやはり素晴らしいです。録音は年代的に水準程度というところです。

4104090365ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1952年?録音/SONY盤) 余りにも有名な、ウイーンでのライブ録音です。この演奏の呪縛にかかった人にとって、そこから離れるのは容易ではないと思います。事実、僕もいまだに離れられません。1楽章の上昇音型でのポルタメントは強烈な印象ですが、演奏全体の評価を左右する要素としては小さいです。当時のウイーン・フィルが、まるで生きもののように自由自在にうねり、嵐のように激しく慟哭する凄みこそが、この演奏の比類無さです。古典的造形はどうでも良いのです。録音は悪いですが、その凄さは充分に聴きとれます。

51kgwkdnr1l__ss500__2 ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1956年録音/Altus盤) この演奏は実は前述のSONY盤と同じです。どちらも音源はオーストリア放送協会から提供されたテープですが、録音時期が1956年6月24日と明確に記載されてあったそうです。ということはSONY盤の1952年という記載が誤りだったことになります。ピッチについてもSONY盤では若干高めだったのが修正されています。そのせいか音質は高音成分が減って、だいぶ落ち着いた印象に変わっています。音圧はAltusのほうがボリューム3段階ほど低いですが、問題が有るレベルではありません。どちらかを選べと言われれば、現在ではAltus盤を取りますが、SONY盤を既に持っている人に何が何でも買い替えろと言う気はありません。特別に興味の有る人だけで良いと思います。但し、こちらではカップリングが第25番ではなく、グラモフォンから出た1955年の「プラハ」ですので、お持ちでない方には大いに価値が有ると思います。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) ライブ盤と比べると、まるで別人のように落ち着いた演奏です。それでもゆったりとしたテンポで大きな歌を聴かせてくれるあたりは、やはりワルターです。表情は豊かですが、少しも脂ぎらずに、過ぎ去った過去を振り返るかのような枯淡の雰囲気を感じます。ワルターにはニューヨーク・フィルとのモノラル録音も有りますが、僕が好きなのは、前述のウイーンPOライブとこのステレオ盤です。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1961年録音/グラモフォン盤) ベームらしい立派で格調の高さを感じる演奏です。じっくりとした厳格なリズムに乗った演奏は、一見武骨で冷たく感じられそうですが、情緒に流されない強さを持っています。まだカラヤン色に染まる以前のベルリン・フィルの音もほの暗く、この曲に向いています。時が流れても少しも古臭さを感じない名演奏ではないでしょうか。

Emperar002カール・シューリヒト指揮スイス・イタリア放送響(1961年録音/ERMITAGE盤) スイスのルガノでのライブ録音です。シューリヒトの40番は「リンツ」、「プラハ」のような強烈な個性は有りません。けれども、この演奏の気迫は相当なものです。またしても二流のオケが、驚くほど厳しい音を出しています。シューリヒトが客演で行なう演奏では、よほど厳しい練習を要求したに違いありません。この曲には別の録音が幾つか有りますが、ベストは断然この演奏で、雲泥の差があります。モノラル録音で残響も少ないですが、音質はこれが一番明瞭です。

Morzart_k550_schuricht カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1961年録音/archiphon盤) これもライブ録音です。スイス・イタリア放送盤と同じ年の演奏ですが、あれほどの厳しさは有りません。終楽章の展開部で、だんだんに遅くなり沈み込んでゆくのはユニークですが、それ以外はこの人にしてはいたって普通の演奏です。決して悪い演奏では無いですが、シューリヒトの凄さを知る人は過剰な期待をしてはいけません。モノラル録音ですが音質は明瞭なほうです。

Mozart41schurichtカール・シューリヒト指揮パリ・オペラ座管(1964年録音/DENON盤) コンサートホール・レーベル録音です。ここにも、同じレーベルの「リンツ」、「プラハ」のような強烈な個性は有りません。2年前のシュトゥットガルト放送響盤と、ほとんど違いは無いと言えます。これも悪い演奏ではありませんが、余り期待をして聴くと裏切られた気分になります。ステレオ録音ですが、残念なことに音質は余り冴えません。

695 ヨゼフ・カイルベルト指揮バイエルン放送響(1966年録音/オルフェオ盤) これはミュンヘンでのライブ録音です。ドイツのカぺル・マイスターらしいオーソドックスな演奏で、特に情緒的に訴えるわけではなく、音楽をそのまま聴き手に差し出す印象です。その分、メヌエットあたりは古典的な演奏に終始してしまい、幾らかの物足りなさを感じます。この年代のライブ録音にしては音質は優れています。

M204ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1967年録音/CBS盤) 一聴したところ冷静で情緒に欠けた印象が有りましたが、よくよく聴くと余分な成分を極限まで削ぎ落とした、非常に透徹した演奏であることがわかります。純度の高さで言えば、これ以上のものは知りません。ただし決して無味乾燥ということではなく、モーツァルトの心の奥底の哀しみがじわりと伝わってきます。オーケストラの上手さは言うまでもなく、終楽章の十六分音符も低弦まで完璧に揃っています。

706パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1968年録音/SONY盤) ロココ趣味の華麗なモーツァルトからは最も遠くにある演奏です。テンポは速めですが、アタックは強く、思い切り歌い、モーツァルトの内面をえぐり出すようです。老カザルスが何故こんなにも激しい演奏が出来るのか、つくづく驚くばかりです。残響の無い録音が、ややもするとオーケストラを下手に感じさせるかもしれませんが、そうではなくて彼らは表面的に上手く弾くことなどには少しも執着していないだけなのです。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) カザルスの後に聴くと、何とも品の良い演奏に聞こえます。けれども、コンセルトへボウの柔らかく溶け合う響きを生かした美しい演奏には、いつの間にか自然に聴き入ってしまいます。ワルターやカザルスのように激しい表現とは異なる、このヨーロッパ伝統の音を心落ち着けて味わう余裕は持っていたいと思います。

Yamano_3200121246カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1976年録音/グラモフォン盤) ベルリン・フィル盤と比べると、ずっと遅いテンポでじっくりと歌います。昔はこの演奏をもたれて感じましたが、今日こうして順に聴いてくると、このテンポの素晴らしさが理解できます。但し、唯一メヌエットだけは遅く感じます。ウイーン・フィルの美しい音と表情は、やはり魅力的です。ベルリン・フィル盤も良いですが、やはりこちらの方が好きです。晩年にウイーン・フィルと主要曲を再録音してくれたのは幸運なことでした。「全集だったら」とは言いません。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1976年録音/Berlin Classics盤) SKドレスデンのマルカートで楷書的な音の出し方は、39番のようなシンフォニックな曲には最高ですし、この曲でも3、4楽章は良いのですが、1楽章では必ずしもベストだとは思いません。やはりウイーン・フィルのしなやかで艶のある音の方がこの楽章には適していると思います。スウィトナーのテンポは意外に速くありません。じっくりと腰を落ち着けています。

Suitner398オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1978年録音/TDK盤) これは実際に自分が生で聴いた演奏で、会場の厚生年金会館は残響の少ないホールでしたが、そんなことを物ともせずに美しい演奏を聴かせてくれました。それはひとまず置いてCDで聴き比べると、この曲に関しては音のしなやかさで優るSKベルリン盤をSKドレスデン盤よりも好んでいます。ライブならではの危なっかしい部分が全く無いわけではありませんが、逆にスリリングな緊張感がこの曲に向いています。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) ゆったり気味のテンポで落ち着いた、とても美しい演奏です。細部のニュアンスも豊かで、何気ない部分にも神経が通っています。但し、全体としてはどうも音楽が客観的に過ぎるように感じます。オーソドックスな演奏として完成度が高いのですが、聴いていてぐいぐいと引き込まれるということが有りません。唯一、3楽章はレガートで女性的なのがユニークで面白いです。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) この曲ばかりは、やはりウイーン・フィルが最高です。名旋律を情緒たっぷりに、しなやかに歌う芸当はちょっと他のオケでは真似が出来ません。バーンスタインの指揮も躍動感が有りますし、オケの美しい音を十二分に生かしています。終楽章で突然ギア・アップするのはありきたりの演出ですが、激しく切迫感が増しているので良しとします。選集の中では特に優れた出来栄えだと思います。

Mozart71k4kzkhdll__sl1200_ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1985年録音/オルフェオ盤) SONY盤から5年後のミュンヘンライブです。表現は基本的に変わりませんが、やはり実演ならではの緊張感と高揚感が加わっていて、聴いていて音楽の訴えかける力はこちらの方がかなり上回ります。1楽章の主題の弦の歌い方もずっと彫が深くドラマティックですし、弦の刻みにも気迫が籠っています。そうした細部を十全に捕らえた録音の良さも大いに貢献しています。4楽章はテンポもぐっと上がり切迫感が増していて素晴らしいです。くべりっくの40番なら迷うことなくこちらを取りますし、ベスト演奏の有力な候補の一つです。

913 カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウイーン・フィル(1987年録音/オルフェオ盤) これはザルツブルク音楽祭でのライブです。さすがにウイーン・フィルはここでも実に美しいです。ジュリーニの指揮は遅めのテンポで落ち着いてスケールが大きいので、晩年のベームと良く似ています。しかしそうなると、スタジオ録音のベーム盤の方がウイーン・フィルの音の美しさが際立つのでジュリーニは不利です。2楽章も耽美的で幾らか寂寥感に不足する感が有ります。併録の「大地の歌」のほうが更に素晴らしい演奏だと思います。

以上の中で、マイ・フェイヴァリットを上げれば、何を置いてもワルター/ウイーン・フィルです。次点としては、シューリヒト/スイス・イタリア放送、カザルス、それにベーム/ウイーン・フィル、クーベリック85年ライブを挙げます。更に捨てがたいのが、フルトヴェングラー、ワルター/コロムビアSO、セル、スウィトナー/SKベルリン、バーンスタイン、ジュリーニ、というとやっぱりほとんどですね。まぁ永遠の名曲ということでお許しを。

<補足>
フルトヴェングラー盤、クーベリック85年ライブ盤を後から追記しました。

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2012年1月27日 (金)

モーツァルト 交響曲第39番変ホ長調K.543 名盤

モーツァルトの第35番ハフナー以降の六大交響曲はどれもが傑作ですが、中でも最後の第39番、40番、41番の3曲は俗に「三大交響曲」と呼ばれていて、一段と輝きを放っています。この3曲は1788年の夏に、たった2か月という短い間にたて続けに作曲されましたが、このときモーツァルトは32歳。天に召される3年前です。

それにしても、この3曲の完成度には驚くばかりです。透徹した美しさを持つ39番、孤高の哀しみを湛えた40番、あたかも天界に飛翔するかのような41番と、どの曲をとっても完成し尽されています。しかも、3曲を並べた場合の均衡には驚くべきものがあります。それは、後期ロマン派の大シンフォニーをもってしても、比較をすることがおよそ無意味に思われるような存在です。器楽曲としては、モーツァルトの音楽だけでなく、音楽史上のどんな作品をもしのいでいるかもしれません。

3曲のうち、最初に書かれたのが第39番変ホ長調K.543です。この曲ではオーボエが外されて、クラリネットが活躍しますが、これは当時の編成としてはかなり珍しいです。バロック的な音のオーボエでは無く、ずっと新しくロマン的な音色のクラリネットを使うことによって、斬新なオーケストラの響きを生み出そうとしたのではないでしょうか。

前作「プラハ」は3楽章構成でしたが、この曲では再び4楽章に戻りました。けれども、以前の曲と徹底的に違っているのは、それまでは軽妙な舞曲に甘んじていたメヌエット楽章の充実ぶりに有ります。このメヌエットが驚くほどの高みに至っていて、それはベートーヴェンのあの素晴らしいスケルツォ楽章が登場する完全な前触れであったと思います。

ところで、この第39番を聴くと、宮本輝さんの小説「錦繍(きんしゅう)」を思い出します。主人公の女性が通う「モーツァルト」という喫茶店がでてきますが、そのマスターがモーツァルト好きで、流れている音楽はいつもモーツァルトです。マスターは主人公に、モーツァルトについて色々なことを教えてくれるのですが、交響曲第39番のことを「十六分音符の奇跡」と言います。なるほどモーツァルトのこの曲の姿をよく言い表していると思います。

それでは、僕の愛聴盤のご紹介に移ることにします。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1960年録音/CBS盤) 昔はニューヨークPOとのモノラル盤の方が好きでしたが、それは随分とベートーヴェン寄りの演奏ですので、現在はもっぱらステレオ盤を好んでいます。ゆとりのあるテンポで、あたかもウイーンの音のような柔らかい表情を持つのが非常に心地よいです。若いころの師であるマーラーの指揮するモーツァルトを「少々ロマンティックに過ぎる」と語ったワルターでしたが、どうしてどうして自分の晩年の演奏も相当にロマンティックです。

M204ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1960年録音/CBS盤) 昔はセルの演奏はどうも冷たいイメージが有って好みませんでしたし、今聴いても同じように感じることはあります。このモーツァルトもスマートでクリーン、不純物ゼロという印象です。けれども元々、ある意味「孤高の音楽」であるこの曲の表現としては、それもまた大いに魅力となります。いまだ人間が汚していない山の清流のように清らかな美しさを持っています。

Mozart_monteuピエール・モントゥー指揮北ドイツ放送響(1964年録音/DENON盤) 元々メカニカルに整えた演奏では無いので、残響の少ない録音が余計に粗さを感じさせるかもしれません。けれども、このおおらかさがモントゥーの魅力です。少しも神経質にならないウォームな音楽には心がとことん癒されます。このような演奏の良さを感じ取れないような、いわば現代病のような精神状態にはなりたくないと、日頃から思っています。

Vicc2032エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1965年録音/メロディア盤) 昔から宇野功芳先生が絶賛していて、僕も長い間愛聴してきました。演奏には余分な脂肪分を落とし切った純度の高さが有ります。アクセントやフレージングにも豊かなニュアンスが込められていて飽ることがありません。4楽章だけは速過ぎて腰の軽さを感じますが、非常に個性的で、ベートーヴェンの4番と並んで、この39番は孤高の演奏だと思います。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1968年録音/グラモフォン盤) なるほどベームらしい立派で威厳の有る演奏です。ベルリンPOも重厚な響きを聴かせてくれます。但し、一方で余りに常識的で、いくらか四角四面に過ぎる印象も残ります。全集の演奏としては充分素晴らしいですが、この辺りの曲になると、更にプラスアルファの魅力を感じさせてほしいと思ってしまいます。

706パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1968年録音/SONY盤) 序奏後の第一主題の豊かな歌に惹きつけられます。アレグロに入っての力強さも凄いです。2楽章でも短調部分の激しさに驚きます。老カザルスのこの情熱は何なのでしょうか。3楽章の激しさもやはり同様です。4楽章も速いテンポでどんどん高揚します。他の誰よりも命の燃える炎を感じさせてくれます。これこそが「芸術は爆発だ!」ではないでしょうか。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) 序奏部の柔らかく溶け合った響きの美しさに驚きます。やはりこのオケは音の美しさではウイーンPO、SKドレスデンと並びます。クリップスの指揮はフォルテでも柔らかいので、聴き手によっては物足りなく感じるかもしれませんが、これがこの人の味なのです。そして、それを100%生かすコンセルトへボウの音と上手さです。ここには「爆発しない芸術」が有ります。

Hans_schumit_beeth7 ハンス・シュミット‐イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響(1972年録音/GreenHill盤) 北ドイツの雄NDRはほの暗く厚い音が魅力的です。ウイーン風でなく純ドイツ風のモーツァルトなのですが、シンフォニックなこの曲にはこれもまた良いのです。イッセルシュテットにこの曲の正規盤があったかどうか忘れましたが、これは海賊盤ながら優れたステレオ録音です。しかも最良の姿の演奏が聴けますので、有り難い気持ちで一杯です。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1976年録音/Berlin Classics盤) 三大交響曲については後述の日本ライブ盤もありますが、このSKドレスデン盤も本当に素晴らしいです。全盛期のこのオケの各楽器が柔らかく溶け合った典雅な響きが実に美しいですし、スウィトナーの速いイン・テンポによる古典的な造形性も秀逸です。べたべたした演奏が嫌いで、古楽器では味気ないと思う方には最適ではないでしょうか。

Suitner398オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1978年録音/TDK盤) 東京の厚生年金会館で開かれた後期三大シンフォニーのコンサートですが、この時僕は客席で聴いていました。僕がこれまで実演で聴いた最高のモーツァルトです。SKドレスデンとのスタジオ盤も良いですが、こちらのライブ録音も素晴らしいです。精緻さでは僅かに劣りますが、SKベルリンのしなやかさは魅力的で、まるで目の前で演奏されているような臨場感がとても新鮮です。

Mi0001148763ール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1979年録音/グラモフォン盤) ベルリンPO盤と比べると、ゆったりした印象を受けます。けれども、決してもたれることはありません。この絶妙な味わいは晩年のベーム以外には中々聴くことが出来ないと思います。ウイーンPOの音も非常に美しく、1950年代の柔らかさががかなり減退したとはいえ、まだまだ魅力的です。3楽章が遅過ぎには感じますが、全体的には四角四面のベルリンPO盤よりもずっと好きです。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) まず序奏の和音の美しさに惹きつけられます。アレグロ部のアンサンブルも素晴らしく、相当に弾きこんだ印象です。ベーム/ベルリンのような四角四面さは感じますが、明るいオーストリア的な音色が固さを中和しています。リファレンス的な演奏としては、クリップス盤以上だと思いますが、少々一本調子なので反復されると幾らか退屈感が残ります。そうなると、もう少し閃きが欲しくなります。

Sawallische657ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ウイーン・フィル(1983年録音/Altus盤) 最近リリースされたばかりのザルツブルクでのライブです。メインのブルックナー9番については、別にまた記事にしたいと思います。モーツァルトは、ウイーンPOの室内楽的な自発性を感じるのが愉しいです。テンポはやや速めで躍動感がありますが、音楽には落ち着きを感じます。録音も自然で臨場感が有り、ウイーンPOの弦楽を主体にした美しい音を捕えています。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) ウイーンPOの音はそれなりに美しいですし、音楽に躍動感が有りますが、録音時期の近いベームやサヴァリッシュと比べると、音そのものが上滑りをしているような気がします。それにウイーンPOにしては、何となく音が雑に感じられます。終楽章を速いテンポで煽ってみるのも、いかにもありそうな表現で、大きな感銘を受けるに至りません。

以上を聴いた上でのマイ・フェイヴァリットなのですが、この曲にシューリヒトの録音が無いのはつくづく残念です。そこでベスト盤は、ずばりスウィトナー/SKドレスデン盤です。心情的には生演奏に接したSKベルリン盤にしたいのですが、CDで聴き比べた場合には、この曲に関してはドレスデン盤を上にします。

その他で絶対に外せないのは、ムラヴィンスキー盤、カザルス盤、ベーム/ウイーンPO盤です。そう言いながらも、ワルター、セル、モントゥー、サヴァリッシュなどにも後ろ髪を引かれる思いです。

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2012年1月20日 (金)

モーツァルト 交響曲第38番「プラハ」ニ長調K.504 名盤

Prague

モーツァルトのシンフォニーで、タイトルに土地名を持つ曲は3曲あります。第31番「パリ」と第36番「リンツ」、そしてこの「プラハ」です。前2作品はその街で作曲されたことから名付けられましたが、この曲は初演された街がプラハだったからです。

この曲は後期の曲では唯一、メヌエット楽章の無い3楽章構成です。その理由は明らかではありませんが、従来ともすると軽妙な舞曲楽章が、モーツァルトの音楽がウイーンの大衆好みの内容から、よりシリアスな内容に変化する過渡期において、曲想にそぐわなくなってしまったからなのかもしれません。それは、次の第39番以降のメヌエット楽章はスケールが格段に大きくなり、後のベートーヴェンが生んだスケルツォ楽章のあたかも先駆けのような充実感を感じるからです。とは言え、この曲は3楽章構成でも少しも物足りなさを感じません。特に1楽章のアレグロで、同じ音がスタッカートで速いリズムを刻みながら疾走するのは、まるでオペラ「魔笛」のようであり、次々と展開してゆく部分は霊感に満ち溢れていて、音楽の素晴らしさに言葉を失うばかりです。この傑作楽章を持つので、個人的には39番から41番の三大シンフォニーに並べたいぐらい好きな曲です。

それでは僕の愛聴盤を順にご紹介します。

Mahr4walt_cci00023 ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1955年録音/グラモフォン) ウイーン国立歌劇場再建記念演奏会の録音です。マーラー4番と一緒に演奏されました。ワルターの「プラハ」には数種類の録音が有り、古くはSP時代のウイーンPOとの録音や、50年代のニューヨークPOやフランス国立放送管とのライブ盤なども大変に素晴らしいのですが、僕が一番好きなのは、このウイーンPO盤です。当時のウイーンPOのしなやかなで柔らかい音が何とも魅力的ですが、一方で1楽章アレグロ部や3楽章での速いテンポによる激しさは物凄いです。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) モノラル期の一連のライブから僅か数年後のステレオ録音ですが、スタイルはかなり変化しています。1楽章ではアレグロ部のテンポがだいぶ遅くなりましたし(といっても普通の速さです)、第2主題ではゆったりと歌います。元々ワルターが持つロマンティックな面が前面にぐっと出た印象です。これはこれで非常に惹かれます。やはりワルターとシューリヒトのモーツァルトは別格だと思います。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1959年録音/グラモフォン盤) 僕が初めて聴いたベームの「プラハ」はウイーンPOとのDECCAへのモノラル録音でした。きりりと引き締まった良い演奏でしたが、このベルリンPO盤は厳しく重厚な響きで非常に立派な演奏です。といって決して鈍重なことは無く、壮年期のベームの活力を感じます。ワルター、シューリヒトとはまた異なるスタイルで素晴らしいモーツァルトを聴かせてくれます。

Cdh7649042カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1960年録音/EMI盤) ザルツブルクでのライブです。ワルターとシューリヒトのウイーンPOとのライブが聴けるのは何という幸せでしょう。特にシューリヒトは後述のスタジオ盤が奇跡的な演奏なので、それに対抗できるとすればウイーンPOしか考えられません。1楽章アレグロの凄まじい速さの中に得も言われぬニュアンスが存在していて呆然とします。2、3楽章も同じように素晴らしいです。

51rn9ijfmkl__ss500_カール・シューリヒト指揮パリ・オペラ座管(1961年録音/DENON盤) カップリングの「リンツ」以上に素晴らしい演奏で、評論家の宇野功芳先生が昔から絶賛しています。学生時代にアナログLP盤で初めて耳にして、大ショックを受けました。聴いたことも無いような速いテンポでしたが、少しも珍奇ではなく、モーツァルトの音楽の底知れぬ凄さを教えられたように感じました。一流オケでは無いパリ・オペラ座管が一糸乱れぬアンサンブルを聴かせるのも驚異的です。この演奏を聴かずして、モーツァルトを絶対に語れません。同じ演奏がScribendumボックス盤にも含まれていて、より明瞭なマスタリングですが、どちらを選ぶかは好みの問題です。

706パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1968年録音/SONY盤) カザルスの他のモーツァルト演奏と同様に、ひたすらに音楽の核心に迫ろうという魂の力を感じます。アカデミックなモーツァルトの正に対極に位置する演奏です。アタックの音や歌いまわしはこれ以上ないほどに激しく、正に圧倒されます。「ベートーヴェン的」という表現も使えなくは無いですが、モーツァルトの音楽に普段隠されているものを、むき出しにして聴き手に差し出しているような印象を受けます。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1968年録音/Berlin Classics盤) スウィトナー/ドレスデン歌劇場のコンビのオペラ「魔笛」での素晴らしい演奏が思い起こされます。ウイーンPOとは違った、目の詰んだ典雅な響きが聴けるからです。かなりの快速のイン・テンポでアンサンブル優秀でありながら、メカニカルな印象は少しもしません。手作りの肌触りを感じさせます。これはこのコンビでなければ出来ない演奏だと思います。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) いつも同じような事ばかり書いて申し訳ありませんが、本当にこれほど「ヨーロッパの伝統」という言葉が似合った音と演奏は無いように思います。テンポは中庸、フォルテのアタックは適度で重みを感じる、楽器のアンサンブルとハーモニーは最高、全体が一つにまとまって聞こえる、といった具合です。ハッとするようなことは一つも無いのに、聴いてて飽きるどころか何度でも繰り返して聴きたくなる。そんな演奏です。

Mi0001148763 カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1979年録音/グラモフォン盤) ベルリンPO盤と比べると、だいぶ遅く感じます。特に序奏部です。主部のアレグロはゆったりはしていますが遅くは感じません。逆に落ち着いた良いテンポです。第2主題でテンポを落とし気味にして歌うのはワルターに似ています。人間、晩年にはロマンティックになるものなのでしょうか。それにしてもウイーンPOのしなやかな音の美しいこと。やっぱりモーツァルトにはこの音でしょう。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) クーベリックの「プラハ」というと、40年ぶりに「プラハの春音楽祭」で母国の指揮台に立った翌年のチェコ・フィルとのライブが記憶にあります。記憶のチェコ盤、実質のバイエルン盤、どちらを取るかと聞かれれば、やはり演奏としてはバイエルン盤を取りたいと思います。ただ、それにしてもオーソドックスですが、特別に優れた演奏とまでは思っていません。

Buru8_suitner570 オトマール・スウィトナー指揮ベルリン国立歌劇場管(1984年録音/WEITBLICK盤) まだ20代の頃に東京で、このコンビのモーツァルトの後期三大シンフォニーを聴きましたが、僕がこれまで実演で聴いた最高の演奏でした。SKドレスデンとのスタジオ盤も良いですが、こちらのライブ録音も実に素晴らしいです。速いテンポ設定はほぼ同じ。生命力に溢れています。音のしなやかさはSKドレスデン以上で、非常に魅力に感じます。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 同じウイーンPOでもベーム盤とは僅か5年しか離れていませんが、音の響きとフレージングの深さが、いずれもベーム盤には敵わないと思います。それでもウイーンPOの美音には違いありませんし、若々しい躍動感も魅力的です。2楽章の室内楽的な表現もユニークです。一般的に言えば、充分に素晴らしい演奏です。

以上の中で、僕が特に気に入っている演奏としては、シューリヒトのウイーン盤とパリ・オペラ座盤、それにワルターのウイーン盤を加えて不動のベスト・スリーです。次点としてはスウィトナーの2種類と、クリップス/コンセルトへボウ盤、ベーム/ウイーン盤というところです。

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2012年1月14日 (土)

モーツァルト 交響曲第36番「リンツ」ハ長調K.425 名盤

モーツァルトが新妻コンスタンツェとザルツブルクからウイーンに向かう旅の途中でリンツに立ち寄った時、トゥーン=ホーエンシュタイン伯爵の邸宅に滞在しました。音楽好きの伯爵は彼らを大歓迎して音楽会を企画しました。そこでモーツァルトは、コンサートまで僅か4日という極めて短い時間の中で、新しい交響曲を作曲しました。それにはオーケストラのパート譜の作成も必要となりますから、どんなに速筆のモーツァルトとは言え、とても信じがたいことです。ともかく、その曲が交響曲第36番であり、副題の「リンツ」はもちろんこの町の名前から付けられました。

それほどの短い時間で完成させたにもかかわらず、この曲の完成度は非常に高く、充実しています。確かに38番以降のような霊感は感じませんし、作曲技法を駆使して書かれた印象は有りますが、大変魅力的な作品です。前作「ハフナー」のようにとても明るい曲想ですが、元々セレナーデとして書かれた「ハフナー」と比べると、構成感や立派さで格段に上回ると思います。

それでは僕の愛聴盤を順にご紹介します。

706パブロ・カザルス指揮プエルト・リコ・カザルス音楽祭管(1959年録音/SONY盤) カザルスの残した後期六大交響曲の中でも最も古い録音ですし、この曲だけがオケがマールボロ管ではありません。残響も無いので、慣れないと聴きづらいと思います。という悪条件なのですが、表現はやはり凄いです。1楽章は驚くほど遅いテンポで威容を感じます。2楽章の歌は極めて濃厚です。3、4楽章は割に普通ですが、味の濃さは相変わらずです。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1960年録音/CBS盤) 全体に柔らかい響きのヨーロッパ的な演奏は、どこか戦前のウイーンPOを連想します。テンポはゆったり気味ですし、フォルテのアタックも激しくなく、非常に優雅な気分に覆われています。2楽章の歌いまわしのチャーミングなことはどうでしょう。アメリカの楽団にこのような演奏をさせられるのはワルター以外には考えられません。といって3、4楽章などに躍動感が無いわけではありません。

51rn9ijfmkl__ss500_カール・シューリヒト指揮パリ・オペラ座管(1961年録音/DENON盤) コンサートホール・レーベル録音ですが、音質はまあまあです。1楽章は快速テンポで駆け抜けてまるで機関銃のようですが、僕は大好きです。2楽章もテンポは速いのに、典雅な表情が素敵です。3楽章は力強く、リズムの切れが抜群です。終楽章は再び快速テンポですが、展開部以降で同じ音型を各パートが次々と後から追いかけてゆく部分の立体感が実に素晴らしく、まるで魔法のようです。実はその秘密は、後から登場するパートほど音量を増して、頭の音を強いアタックで弾くからなのです。決して魔法でも何でもないのですが、シューリヒトならではの天才的な閃きです。この演奏、確かにオケは一流では有りませんし、シューリヒトのファンでもそれほど高い評価はされませんが、僕は非常に好んでいます。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1966年録音/グラモフォン盤) ベームのリンツというと、僕はウイーンPOとDECCAに残したモノラル録音が忘れられません。速めのテンポで素晴らしく切れの良い演奏でした。このベルリンPO盤もやはり速めで、同じように切れが良く立派な演奏です。これだけ品格の高さを感じさせるモーツァルトを振ることが出来る指揮者はちょっと他に知りません。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1968年録音/Berlin Classics盤) これもシンフォニー選集です。導入部分がベーム並みに立派なのに驚きます。主部は速いテンポで躍動感があります。SKドレスデンンが古風で典雅な音色なのもいつもながら魅力的です。2楽章の優しい表情も素晴らしく、この人のモーツァルトはやはり良いです。但し3楽章が遅めで、終楽章が速めなので、幾らか一貫性に欠ける印象は残ります。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1974年録音/DECCA盤) クリップスのモーツァルトの素晴らしさを知ったのは、歌劇「ドン・ジョヴァンニ」でした。そしてシンフォニーもまた素晴らしいです。ウイーンPOを振れば、もっと柔らかい音を出したのでしょうが、コンセルトへボウの熟成された音もまた魅力的です。今にも歌手が歌い出しそうなオペラの伴奏のような2楽章が何ともチャーミングです。他の楽章も、聴いていて心が本当に充実感で満たされます。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) これも非常にオーソドックスな演奏です。全体的にテンポは中庸ですし、オ―ケストラも優秀です。個人的には、1楽章でフォルテの音が柔らか過ぎるのが少々気に入りませんが、全体の響きがとても柔らかく、美しいので良しとしましょう。面白みは感じませんが、一般的に薦められる演奏だと思います。ただ、この人はライブでは別人のようにドラマティックに豹変するので、一度聴いてみたかったです。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 非常にメリハリのついた演奏です。1楽章導入部はゆったりしたテンポで重厚ですが、主部に入ると躍動します。2、3楽章は中庸のテンポですがウイーンPOの美質が良く生きています。終楽章は非常に速いテンポでたたみ掛けます。非常に解りやすい演奏で、全体の統一感は不思議とまとまっている印象です。

以上の中で、僕が特に気に入っているのは、やはりシューリヒトです。モーツァルトをロココの美しい音楽として、耳触りの良いBGMのように聴きたいと思っている人には決して勧められませんが、自分にとってはこの音楽の迫真性が他に代えがたい演奏だからです。

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2012年1月 6日 (金)

モーツァルト 交響曲第35番「ハフナー」ニ長調K.385 名盤

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新春気分もすっかり抜けてきましたが、今年のスタートはモーツァルトのシンフォニー特集です。それも後期六大交響曲です。この6曲はどれもが本当に傑作ですので、毎回名曲シリーズのようなものですね。その中でも、最も明るく華麗で人の心を浮き立たせるような交響曲第35番「ハフナー」から聴くことにします。

モーツァルトはザルツブルクの富豪ハフナー家の祝賀行事のために2曲のセレナーデを書きましたが、その片方をシンフォニーに改作したのが、この曲です。従って、4楽章全てが明るく輝き、喜びの気分に満ち溢れています。中期以降の曲で、寂しい翳りの表情がどこにも顔を出さないのはむしろ珍しいと言えます。それでいて、決して馬鹿騒ぎな印象は無く、曲を聴き終えた後の心の中には、しっとりとした愉悦感、幸福感が余韻として残ります。う~ん、なんと素晴しき哉、モーツァルト!

それでは愛聴盤を順に聴いてゆきます。

51v9fr97jxl ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1953年録音/CBS盤) ワルターのモーツァルトでは、こちらのモノラル録音盤が良いというファンはとても多いと思います。生命力に溢れていて豊麗な歌い回しが絶大な魅力だからです。但しニューヨークPOの翳りの無い音がいかにもアメリカ的に感じられるのがマイナスに感じられて、個人的にはステレオ録音盤のほうを好んでいます。これは完全に聴き手の好みの問題です。

Mozart_6_symph_walterブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1959年録音/CBS盤) 前述のニューヨークPOとのモノラル録音盤は、演奏にエネルギーが充満している反面、しっとりとした潤いに不足する気がします。その点、このステレオ盤には、ずっとヨーロッパ的な柔らかさが感じられます。3楽章のみテンポが遅過ぎに感じますが、それ以外は生命力だけでなく落ち着きと余裕が感じられるので、安心して身を任せて居られます。こんな風に音楽を聴く幸福感を心の底から感じさせてくれる指揮者が果たして現代に存在するでしょうか?

Schurichtカール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/IMG盤) 何というオーケストラの音の柔らかさでしょう。ここには戦前のウイーンPOの音が有ります。冒頭はなんだか嫌々音を出すように開始しますが、曲が進むにつれてどんどんと興が乗ってきます。この即興性がたまりません。2楽章の柔らかさ、瑞々しさはどうでしょう。3、4楽章の何度聴いても飽きない味わいも格別であり、現代の機械的に整えられたアンサンブルとは対照的に感じます。僕はIMG盤で持っていますが、オリジナル盤はDECCAです。

Mahcci00006 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/Tresor盤) これはウイーン・フィルがアメリカに演奏旅行したときに国連会議場で行った記念コンサートです。会場の音響はデッドで音質的には不満です。けれども演奏の熱気は充分で、アンサンブルもDECCA盤よりもむしろ優れています。シューリヒトを深く知りたいと言う人には勧めることが出来ます。僕はTresor盤で持っていますが、初出のarchiphon盤と音質は同等です。

31jkgj0kfhl__sl500_aa300_ カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1956年録音/ISMS盤) これはモーツァルト生誕200周年のザルツブルクでのライブ録音です。シューリヒトはこの年にハフナーを多く演奏しました。同じライブでも熱気は国連コンサートのほうが上回りますが、基本的には同じですし、録音がモノラルとは言え、この年代にしてはかなり明瞭ですので、シューリヒトのライブとしては、こちらを代表盤に選びたいと思います。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1959年録音/グラモフォン盤) 何しろ、世界最初の交響曲全集です。この頃は、まだベルリン・フィルがドイツ伝統の音を保っていましたし、スタジオ録音のベームは幾らか堅苦しいとはいえ、壮年期のこの人以外に、この大仕事にふさわしい人が他にいたとは思えません。非常に立派で重厚ですが、躍動感にも事欠きません。

Mozart_monteuピエール・モントゥー指揮北ドイツ放送響(1964年録音/DENON盤) 極めて躍動感に溢れていて、かつ歌心で一杯です。ニュアンスに富んでいる点では、シューリヒトと並ぶと思います。アンサンブルが結構甘いのですが、そんな些細なことに目くじらを立てるのが、どうでも良くなるぐらいに魅力的な演奏です。元々はコンサート・ホールレーベル録音ですが、DENONのリマスターは優れています。

706パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1967年録音/SONY盤) 故岡本太郎氏が「芸術は爆発だ」と語っていましたけれども、ゴッホの絵画やカザルスの演奏には、正にその言葉が当てはまると思います。モーツァルトをロココ趣味の単に美しいだけの音楽にしないで、これほどまでに激しく情熱が爆発する演奏を聴かせる演奏家は他に決して居ません。好き嫌いは別にして、一度は聴いておかなければならない演奏だと思います。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1968年録音/Berlin Classics盤) 相当に速いテンポを基調とするスイトナーのモーツァルト演奏ですが、機械的な印象は全く無く、きりりと引き締まった古典的な造形美を感じます。しかも、音楽の内側には愛情が充分に込められているので、冷たい印象も無く、人間的な心の温かさを感じずにいられません。SKドレスデンの典雅な響きもウイーンPOとはまた異なる素晴らしさです。現在は交響曲選集で聴いています。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) 元々はフィリップス録音の中期以降の選集です。ウイーン生まれのクリップスがヨーロッパ伝統の音のオーケストラを指揮したこの演奏には、過剰なものも不足するものも無く、正に「中庸の美」を感じます。どれか特定の曲を取りだして聴くというよりも、選集として聴いてこそ価値が有ると思います。地味ですが、やはり良い演奏です。

2531335カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1980年録音/グラモフォン盤) 晩年のベームの、特にスタジオ録音をよく「タガの緩んだ」などという人が居るけれど、とんでもない話です。確かに壮年期の凝縮した音や、ライブの鬼神のような演奏はしないものの、立派で落ち着いた風格の演奏は常に健在です。この「ハフナー」もベルリンPOとの全集盤とはまた異なる、ウイーンPOのしなやかな音を美しく生かしていて、本当に素晴らしい演奏です。

Cla111012012ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1980年録音/SONY盤) ヨーロッパの伝統をそのまま受け継いでいるかのような非常にオーソドックスな演奏です。その点でクリップス盤とよく似た印象です。テンポも速過ぎず遅過ぎずですが、もしもこれがライブであればずっと熱演型になったことでしょう。オケは優秀で響きもとても美しいです。ハッとするような閃きや仕掛けはどこにも有りませんが、安心して聴いていられる演奏です。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 普通の意味ではとても良い演奏だと思います。ウイーンPOの音は美しいですし、活力と切れのあるリズムで音楽が生き生きとしています。ところが、ヨーロッパの名匠達の腹芸のような演奏を次々に聴いてきた後だと、何か物足りなさを感じるのです。ウイーンPOがモーツァルトをやれば、間違いなく良い演奏をするぞ、という想定範囲を超えないのです。贅沢な不満でしょうか。

834 アレクサンドル・ラヴィノヴィチ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア(1999年録音/accord盤) これはライブ演奏です。アルゲリッチとよく共演をするラヴィノヴィチですが、二人はタイプが似ています。表現意欲が旺盛で、ニュアンスの変化が自在です。10年ほど前に生演奏でも聴きましたが、呆れるほどでした。但し、それは練習をしつこく繰り返して到達したような印象であって、シューリヒトやモントゥーのような即興的な感じは受けません。そのあたりは好みの問題ですが、凄い演奏には違いありません。

というわけで、僕が何度聴いても飽きないのは、シューリヒトのDECCA盤とザルツブルク・ライブ盤、それにモントゥー盤です。あとは、次点ではもったいないくらいのカザルス盤、ベームの新旧両盤ですが、ワルターやスイトナーも大好きです。あれれ、これではほとんどですね。(苦笑)

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