ベートーヴェン(交響曲第1番~3番)

2010年11月 6日 (土)

ベートーヴェン 交響曲第2番ニ長調op.36 名盤

Beethoven1 ベートーヴェンが、この第2交響曲を作曲したのは、彼が有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた1802年です。弟の問題、難聴や体調の問題、音楽家としての人気の低下などから、あれほど絶望的な感情に陥っていながらも、いざ創作をするとこれほど明るく生命力のみなぎった曲を書いてしまうのですから、なんという人なのでしょう。音楽家としてのプロフェッショナルさには脱帽です。

この曲は古典形式を強く残してはいますが、ハイドンの影響下に留まっていた第1番とは異なって、そこから大きく脱皮したロマンの香りや情熱のほとばしりが聴き手に強く迫ってきます。ですので第3番以降の傑作群と比べても、それほど聴き劣りがしません。特に素晴らしいのは1楽章と2楽章です。第1楽章はいかにもベートヴェンらしい勇壮な主題ですし、終結部も素晴らしく何度耳にしても興奮します。そして第2楽章のロマンティックな歌も実に美しいです。時を忘れてずっと浸っていたい気分になります。そのくせ、どこかにベートーヴェンの苦しい気持ちが隠されているような陰りを感じます。1、2楽章の魅力と比べると後半の3、4楽章は少々物足りない感は有ります。とはいえ、この第2交響曲はやはり魅力的な佳曲だと思います。

それでは、僕の愛聴盤をご紹介します。順番に聴いていきたいと思いますが、まずはモノラル録音からです。

Beethoven-19-lngal_ac_ ウィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1940年録音/フィリップス盤) アムステルダムで行われたライブの全集盤に収められます。1楽章導入部から物々しく、嵐の予感でドキドキします。そして主部に入ると予感が当たり、金管の強奏、ティンパニの強打と凄まじい迫力です。古典的な造形性などクソくらえ、ひたすら我が道を行くのみ。この曲がこれほど劇的な曲であったのかと再認識します。2楽章以降も非常に濃密です。録音は音がざらついてチリチリとノイズが常に入りますが、演奏の面白さから気に成りません。

Beethoven4_furjpg ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウイーン・フィル(1948年録音/EMI盤) ロンドンへの演奏旅行中のライブ録音です。これは正直、愛聴盤とは呼べません。録音が劣悪で、戦時中の録音以下だからです。けれどもフルトヴェングラーに他の録音が無いために、EMIの全集に含まれています。間違ってもこの曲を目当てにしてはいけません。但し演奏そのものは、さすがにウイーン・フィルです。音のしなやかさと、こぼれるようなロマンの香りが素晴らしいです。録音がせめてもう少し良ければ、と思わずにはいられません。

3200060182 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1951年録音/RCA盤) カーネギーホールでの録音です。1楽章は相当に速いテンポで力強く突き進みます。音の迫力が凄いです。2楽章は速めですが、カンタービレを効かせてよく歌っています。3楽章も非常に力強いです。終楽章は速めですが、極端ではありません。全体として、どこまでも明晰で、あたかも地中海の気候のような演奏なので、もう少し陰りというものが欲しくなる気がします。もっともこれはこの人の全ての演奏について言えるのですけれど。

Schu_bet_758カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) これもEMIへの全集に収められています。1楽章の序奏のあとの主部は相当に速めです。けれども音のタメに余裕が有るので、せかつく感じは有りません。このあたりはシューリヒトの魔法と言って良いです。2楽章は粘らず清楚で実に美しいです。3楽章はリズムの切れの良さが光ります。終楽章のテンポは意外にゆとりがあります。フレーズ毎に丁寧に念押ししながら進む感じがしますが、決してもたれません。

ここからはステレオ録音になります。

Beethoven-2-4-t0_ オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管(1957年録音/EMI盤) EMIへのセッション録音による全集用の録音です。1楽章のテンポはクレンペラーにしては意外に速く、推進力が有りますが、要所でリズムに念押しするので演奏に重さが加わり、そのバランスが見事です。2楽章はあっさりしていますが格調が高いです。3、4楽章は遅めのテンポで悠然としていて立派さがこの上ありません。EMIの音造りがオーケストラの色彩感に不足するのはいつもながら、古い録音の割りには聴き易いです。

Beethoven-19-688_20230520105901 オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル(1958年録音/グラモフォン盤) ベートーヴェンの交響曲全集を3回録音したヨッフムの最初の全集に含まれますが、この全集はモノラル、ステレオ録音が混在した為に不遇の扱いを受けました。2番はステレオです。フルトヴェングラーの他界から5年経ちましたが、ベルリン・フィルのほの暗いドイツ的な音色は健在です。1楽章は速めのテンポでエネルギーが漲ります。2楽章も小気味が良いですし、3、4楽章も適度の速さでキレも良く、音楽の推進力が素晴らしいです。

51ysbm2rlel__sl500_aa300_ ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響(1959年録音/CBS盤) 1楽章はかなり速めです。情熱と生命力が凄く、これはワルターが82歳のときの録音ですが、とても年齢を感じさせません。時々感じさせることのある、音の結晶度不足もここでは全く感じません。そしてゆったりと歌う2楽章のロマンの香りはいかばかりでしょう。ここには「田園」の2楽章にも匹敵する深い味わいが有ります。3楽章はリズムが生き生きしています。終楽章は幾らか遅めでゆとりが有りますが、決してもたれるわけではなく、フレーズの歌いまわしが非常に美しいので、せかせかした指揮者の演奏とは別の曲を聴く感じがします。

Beethoven_cluytensアンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィル(1959年録音/EMI盤) 全集盤に収められている演奏です。第1楽章の主部に入ると快速テンポでグングンと進み行くのが快感です。アンサンブルの良さも流石はベルリン・フィルです。2楽章の牧歌的な味わいと美しさは秀逸ですし、3、4楽章の切れの良いリズムによる躍動感と音楽の生命力も最高です。録音についてはEMIなので元々期待は出来ませんし、リマスターが高域型で音そのものが軽く感じられますが、この曲の場合には曲想から抵抗感は少ないです。

Beethoven-2-4-img_1806 ピエール・モントゥー指揮北ドイツ放送響(1959年録音/DENON盤:コンサートホール原盤) 録音時、モントゥーは既に85歳でしたが、とても高齢とは思えないほど音楽が生き生きとしています。特にスケールが大きいわけでは無いですが、味わいが有るのは匠の技というべきなのかも。しかもドイツの優れた楽団とのセッションだったので、堅牢で厚みの有る響きが魅力的です。ただし、コンサートホールの録音は特に優れはしないので、響きが十全に捉えられたとは言い切れないのが残念です。モントゥーはこの翌年、ロンドン響とデッカに再録音をしています。 

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ピエール・モントゥー指揮ロンドン響(1960年録音/DECCA盤) デッカ録音の全集(9番のみウェストミンスター録音)ではロンドン響とウィーン・フィルが半々で起用されましたが、前述した通り2番はロンドン響です。演奏そのものは北ドイツ放送響盤とほぼ同じと言って差し支えありません。ただ、録音に関してはデッカとロンドン響のベートーヴェン録音は相性が悪いようで、響きがどうも薄く感じられます。むしろコンサートホール盤の方がベートーヴェンの音としては好ましいように思います。

Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) これも全集盤に収められていますが、昔、学生時代に廉価LP盤で聴いて非常に好きだった演奏です。1楽章序奏部の和音から厚いドイツの響きがとても美しく魅了されてしまいます。更に主部に入ると、ゲヴァントハウス管の合奏の上手さと切れ味に驚嘆させられます。それは単に機能的に優れているだけではなく、ドイツの伝統そのものから成り立つ凄さを感じるからです。2楽章は速めで甘さは控えめですが、和音はやはり美しいです。続く3楽章も良いですが、終楽章は分厚い合奏に凄みすら感じます。それにしても、この凄さは実際に耳で聴いてみないと分からないと思います。

Beethoven-19-karajan ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1961-62年録音/グラモフォン盤) カラヤンが1960年代に録音した交響曲全集に含まれます。1楽章は比較的速めのテンポですが、リズムは堅牢で重厚さも感じられます。ただ、弦楽がスタッカートをレガート(粘り)気味に弾くのが気に成ります。管弦楽の響きがこの曲には分厚過ぎるように思えますが、ベルリン・フィルならこんなものでしょう。2、3楽章は立派ですが、特別の閃きは感じられません。終楽章はテンポは速めですが、キレの良さよりは重厚さを感じます。録音は優れます。

Beethoven-2-4-odxnjihl_ac_sl1500_ ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮ウィーン・フィル(1968年録音/DECCA盤) 交響曲全集の中の1枚です。この人は手兵だった北ドイツ放送響を振ると、いかにもドイツ風で男性的な演奏になりましたが、ウィーン・フィルを振るとしなやかさの有る演奏となり、オーケストラの特徴を生かしました。この演奏はもちろん後者で、風格ある構えのオーソドックスな解釈ながらも随所に美感が溢れていて魅了されます。デッカの優れたアナログ録音はウィーン・サウンドとの相性も抜群でした。

Beethoveb-19-075_20230522164801 オイゲン・ヨッフム指揮コンセルトヘボウ管(1969年録音/フィリップス盤) ヨッフムが残した三つの全集盤のうち二度目の全集に含まれます。1楽章のテンポは速めで推進力が有りますが、響きが厚く重厚さも有り、そのバランスが見事です。2楽章は深々としていて崇高ささえ感じさせます。3楽章はキレの良さが爽快です。終楽章は中庸のテンポですが重た過ぎること無く、刻々と移り変わる表情に魅了されます。名門コンセルトヘボウの妙技と美しい響きが大きく寄与しているからでしょう。フィリップスの柔らかくヨーロッパ的な録音が素晴らしいです。

Beethoven-2-4-_ac_ パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管(1969年録音/SONY盤) ルドルフ・ゼルキンらが主宰したマールボロ音楽祭におけるライブ録音です。この時カザルスは93歳のはずですが、はち切れるばかりの生命力に圧倒されます。テンポは遅めですが、音符の一つ一つに魂が籠っていて、腹の底にずしりと響いてくるような聴き応えが有ります。正に全盛期のカザルスのチェロの音のようです。2楽章の神々しさもいかばかりでしょう。このような演奏を聴いてしまうと、縦の線を綺麗に整えただけの演奏が何とも虚しく感じられてしまうでしょう。録音は残響が少なめですが、逆に楽器の音の生々しさを伝えていて良いです。

51pbpkptral__ss500_ カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) 全集盤の中に収められた録音です。1楽章序奏部の響きはドイツのオケとはまた違ったウイーン的な柔らかさです。それが主部に入ると驚くほど速いテンポで生命力に満ち溢れます。晩年のベームの演奏が全て重いと思ったら大間違いです。2楽章は一転して、ゆったりとロマンの歌を奏でます。ウイーン・フィルの美しく抒情溢れる音も最高です。3、4楽章のテンポはゆとりが有りますが、リズムの切れも良く、決してもたつくことは有りません。

Beethoven-2-5-179 クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン響(1973年録音/WEITBLICK盤) ザンデルリンクとドイツ楽団とのベートーヴェン録音はどれも貴重ですが、これはベルリンでのライブ収録です。1楽章の導入部は重厚ですが、主部は意外と速めです。風格は有りますが特別な魅力は感じません。2、3楽章も同様の印象です。終楽章はザンデルリンクらしい恰幅の良さが有ります。但しキレの良さがいま一つなのはオーケストラの資質に寄るものでしょうか。録音は柔らかくバランスも良いです。

 Beethoven-2-7-e8domu4l_ac_ ラファエル・クーベリック指揮コンセルトヘボウ管(1974年録音/グラモフォン盤) グラモフォンが制作したクーベリックのベートーヴェン交響曲全集は全ての曲を異なるオーケストラが演奏することで当時話題となりましたが、自分の趣味では有りませんでした。それはそれとして4番は名門コンセルトヘボウなのは嬉しいです。1楽章は速めのテンポで推進力と高揚感が有り素晴らしいです。2楽章は深々としたハーモニーがとても美しいです。3楽章はキレが良く、終楽章は落ち着いた立派な構えで勇壮さが有ります。録音は優れます。 

Beethoven-19-emypxegpl_20230523172501 レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル(1978年録音/グラモフォン盤) 1978年から1979年にかけてウィーンで行われたライブによる全集に含まれます。1楽章導入部は音をためて重々しいですが、主部に入ると一気に活力を帯びて進み行きます。ウィーン・フィルのしなやかさとレニーの豪快さが融合して実に魅力的です。2、3楽章も良いですが、終楽章のいかにもライブらしいダイナミックな演奏には強く惹き付けられます。いま改めて聴いても新鮮ですし、録音も優れています。

649 カール・ベーム指揮バイエルン放送響(1978年録音/audite盤) ウイーン・フィル盤から6年後のミュンヘンでのライブ録音です。1楽章のテンポは6年前とほぼ同じで非常に躍動感を感じます。2楽章も非常に美しく、ウイーン・フィルに中々に迫っています。3、4楽章もウイーン・フィル盤と余り変わりませんが、ドイツのオケのせいか、4楽章の立派さは更に上回っているような気がします。総合的にウイーン・フィル盤とどちらを取るかは非常に難しいですが、個人的には僅差でウイーン盤を選びたいです。

0184442bcヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1978年録音/Berlin classics盤) これも全集盤に収められています。ゲヴァントハウス管の音も素晴らしかったですが、SKドレスデンの音も最高です。演奏の凄みという点ではコンヴィチュニーに及びませんが、この演奏も実に素晴らしいです。1楽章主部は結構速いテンポなのですが、マルカートで全ての音符を弾き切っているので、実際よりも落ち着いて聞こえます。やっぱり伝統的なドイツのオケの響きと演奏には理屈抜きで惹かれます。

Beethoven-2-7-adbfikqul_ac_sl1500_ カール・ベーム指揮ウィーン・フィル(1980年録音/オルフェオ盤) ザルツブルク音楽祭におけるライブで、7番の前プロとして演奏されました。ベームがこの1年後に亡くなるとは予想出来ないような力感に溢れた演奏です。1楽章は悠然としたテンポでスケールが大きいですが、常に気迫に溢れています。2楽章は極めて遅いですが、どこか彼岸にも通じる悟りを開いたような雰囲気が有ります。3楽章も悠然としています。終楽章はかなり遅いですが、ディナーミクの変化が生きているので、むしろ途方もないスケールの大きさに圧倒されます。録音は明瞭です。

Beethoven-19-pzbz147zl_ac__20230524101601 オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1982年録音/DENON盤) 独シャルプラッテンとの共同制作の全集盤に含まれます。以前、スウィトナーとこの楽団とのモーツァルトのシンフォニーの実演を東京で聴きましたが、それは素晴らしい演奏でした。これはそれを彷彿させるベートーヴェンです。1楽章のテンポは速く、生命力に満ち溢れ、「ああ、これこそあの時の演奏だ」と胸が熱くなります。アンサンブルも見事ですが、少しも機械的で無いのがまた魅力です。2楽章はしっとりと美しく、気品が有ります。3、4楽章は弾むリズムとキレの良さが快感です。SKベルリンの響きは弦と管が溶け合ったドイツ的な美しさを持ちますが。それを柔らかく捉えた録音も素晴らしいです。

91wmcdauwbl_ac_sl1500__20230524112601 ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管(1987年録音/フィリップス盤) ハイティンクとしては二回目の全集盤に収められています。これこそヨーロッパ伝統の豊穣の響きと言うべきコンセルトヘボウ管の音に惹かれます。1楽章は卓越した合奏により軽快で生命力に溢れ、聴いていて心が躍ります。2楽章もこぼれるような美しさです。3、4楽章ももちろん素晴らしいのですが、ややオーソドックスに過ぎた感は有ります。フィリップスによる録音はもちろん優秀です。

Beethoven-19-apmt2mpcl_20230525114201 サー・コリン・デイヴィス指揮ドレスデン国立歌劇場管(1992年録音/フィリップス盤) 交響曲全集に含まれます。1楽章主部は速めのテンポで躍動感に溢れていて、この人の若い頃の演奏を思い出します。リズムを厳格に刻み、弦楽をマルカートで弾くのはこの楽団の特徴で、ドイツっぽさが色濃いです。続く2、3楽章はカッチリとして落ちついた雰囲気ですがやや地味です。終楽章は意外と遅めで堅牢な演奏ですが、重ったるく感じられます。いくらセッション録音だと言っても、もう少し高揚感が欲しいところです。

Beethoven-2-r0l3l_ac_sl1461_-1 クルト・ザンデルリンク指揮スウェーデン放送響(1997年録音/ WEITBLICK盤) 最晩年の演奏は正に神がかっていたザンデルリンクですが、このストックホルムでのライブも素晴らしいです。1楽章の導入部はごく自然、主部は落ち着きと躍動感とのバランスが絶妙です。ドイツの楽団で無くても、低音楽器をしっかり鳴らして重厚な響きを生み出しています。2楽章では逆に澄んだハーモニーが美しいです。3楽章はゆったりし過ぎのようにも感じます。終楽章も遅いですが、悠揚迫らざる風格がまた大きな魅力を示しています。録音は優れます。

Beethoven-19-kr7idozvl_20230525164501 ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管(1999年録音/テルデック盤) 交響曲全集に含まれます。1楽章はスケールが大きく迫力もあり、初期の作品にしては少々カロリー過多に思わなくも有りません。そこが魅力だと感じる方もおられるでしょうけれど。2楽章は様変わりして抑制気味で美しいです。3、4楽章では再びカロリー過多表現に戻りますが、それも好き嫌いの問題かもしれません。個人的にはこの演奏にはそれほどの魅力は感じられません。

Beethoven-19-_ac_ サイモン・ラトル指揮ウィーン・フィル(2002年録音/EMI盤) ウィーンのムジークフェラインで行われた連続演奏会のライヴ録音です。楽譜はベーレンライター版を使用しています。1楽章のテンポは速めでキレが良く爽快です。2楽章も弦楽をノン・ヴィヴラート気味に弾かせ、サクサクと進むのが初期交響曲らしくて惹かれます。3楽章も速めで軽快です。終楽章はかなり速く一陣の風のように流れますが、ディナーミクの変化に過剰さも無く、無理なく自然に楽しめます。録音は優秀です。

Beethoven-19-l1500 リッカルド・シャイー指揮ゲヴァントハウス管(2009年録音/DECCA盤) 全集盤に含まれます。この全集はどの曲もテンポが快速ですが、この曲もまた例外では有りません。オーケストラが優秀なので、1楽章をしっかりと弾き切っていますが、音は明るく軽く、ドイツ的な音からはかけ離れています。もっともどこの楽団でも皆DECCAサウンドに聞こえる録音の影響も有るかもしれません。2楽章以降も同様ですが、特に終楽章では一段とギアを上げています。楽しい演奏には違いありませんが、何か音楽が薄っぺらく感じられるのは何故でしょう?録音は素晴らしいです。

Beethoven-19-dk-yajwl_20230527135701 クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル(2008年録音/SONY盤) ウィーン楽友協会大ホールで行われたベートーヴェン・チクルスのライブ収録による全集に含まれます。1楽章導入部は悠然としていますが、主部に入ると速いテンポで勢いが有り、曲による対応は実に的確です。管弦楽の響きに厚みは有りますが、決してグラマラスにならないのはウィーン・フィルの品格でしょうか。2楽章はしっとりと美しいですが、3、4楽章はどちらも速めのテンポで生き生きと躍動しています。ウィーン・フィルの美しい音色を捉えた録音は実際に黄金のホールで聴いているようです。 

最後に古楽器オーケストラのCDも上げておきます。

Beethoven-19-aidmmnl_ac_ フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ(1988年録音/フィリップス盤) 全集盤に含まれます。当然ノン・ヴィブラートの古楽器奏法ですが、古雅な響きを含めてベートーヴェンの初期のシンフォニーには違和感を感じません。1楽章のテンポは速く、サクサクと小気味良く進みますが、音のアタックには気迫が込められています。2楽章も速く、情緒に沈むような感覚は有りません。意外に常識的な速さなのが終楽章です。ロマン派然とした演奏とは異なりますが、超快速な演奏が流行りの現代にしては落ち着いて楽しめます。録音は素晴らしいです。

Beethoven-19-ga08hkoll_ac_ ジョン・エリオット・ガーディナー指揮オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク(1991年録音/アルヒーフ盤) 全集盤に含まれます。1楽章の主部に入ると超快速テンポで、アクセントやダイナミクスも鋭く爆走するのは超快感です。2楽章も速いですが、ガーディナーのアーティキレーションの上手さは天才的です。3楽章の弾むリズムも楽しさ一杯です。終楽章も超快速で、ひたすら突き進むスピード感が爽快です。この全集に共通しますが、管弦楽が本当に優秀で、録音もバランス、明瞭さが極上です。

以上の中から、特に好きな演奏を上げるとすれば、コンヴィチュニー/ゲヴァントハウス盤がダントツです。これは学生時代から全く変わりません。他では、ベームの中から最晩年の’80年盤を第一に取ります。指揮者の芸格が抜きんでたワルター盤も外せません。カザルス盤、モントゥー/北ドイツ放送盤、ヨッフム/コンセルトヘボウ盤、ラトル/ウィーンフィル盤にも惹かれます。

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2010年9月11日 (土)

ベートーヴェン 交響曲第3番変ホ長調「英雄」op.55 名盤(ステレオ録音編)

Naporeon2 ベートーヴェンが第3交響曲を、初めはナポレオンに献呈するつもりでいたのに、彼が皇帝の座に就いたことに腹を立てて献呈を取りやめてしまった、というのは有名な話です。但し他にも、第2楽章のテーマが「英雄の死と葬送」だったことから、相応しくないと考えて取りやめたという説も有るそうです。まあ歴史の真実は誰にも分らないということです。この曲の副題は「エロイカ(Eroica)」で元々はイタリア語でしたが、もしも英語なら「ヒーロー(Hero)」ですか。ベートーヴェン作曲交響曲第3番「ヒーロー」ではちょっとサマにならないですよねぇ。(笑) それじゃ甲斐バンドか麻倉美樹になってしまいます。(古っ!)

それはさておき、フランス革命の後の混乱を収拾したのがナポレオンならば、ベートーヴェンの「エロイカ」は交響曲に革命をもたらしました。ハイドン~モーツァルト~そしてベートーヴェン自身の第2交響曲から何と大きな飛躍を遂げたことでしょう。それまでの古典派交響曲とは全く異なるスケールの大きさです。正に音楽界の「大革命」と呼べるでしょう。第1楽章の雄大な広がりとうねり、第2楽章「葬送行進曲」の静かに始まり徐々に高まってゆく悲しみの感情と大きさ、第3楽章スケルツォの躍動感と立派さ、第4楽章のエロイカ変奏の呆れるほどの充実感と、それぞれが本当に素晴らしいのですが、長大な曲全体の統一感も実に見事です。

それでは、「フルトヴェングラーの名盤」、「モノラル録音の名盤」に続いて、今度はステレオ録音の名演奏を聴いてみることにしましょう。

Beeth-3-51kzam70ul_ac_ ヨーゼフ・カイルベルト指揮ハンブルク・フィル(1956年録音TELDEC盤) 1楽章、2楽章とも楽章の前半は力むことなく淡々と進みます。しかし純ドイツ風にリズムを刻むので物足りなく有りません。やがて段々と感興を高めてゆき、後半になると壮大に盛り上げます。3、4楽章もことさら劇的にしようとはしませんが、底光するような聴き応えを感じます。さすがはカイルベルトです。ステレオ最初期の録音ですが、その割には音はしっかりしているので北ドイツ的な重みのある響きを楽しむことが出来ます。

Monteux_eroicaピエール・モントゥー指揮ウィーン・フィル(1957年録音/DECCA盤) モントゥーは速めのテンポで気迫がこもり、キリリと引き締まったところがシューリヒトに似ています。即興的な味わいも似ていて、”重量感を増したシューリヒト”という印象でしょうか。当時のデッカ録音の特徴で響きが薄いですが、ウィーン・フィルの美音と室内楽的な合奏を味わえるのは楽しいです。リマスタ―の影響か高音重視のバランスになっているのは残念です。モントゥーには後述する最晩年のコンセルトへボウ管との再録音も有りますが、このウィーン・フィル盤にも独特の良さが有って好んでいます。

Beet-3-4171c94ftbl_ac_ フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン・フィル(1958年録音/グラモフォン盤) フリッチャイには晩年のライブ録音(EMI盤)が有り、それはクナッパーツブッシュ以上に遅い巨大な演奏でした。5番、7番のように凝縮された曲はそのやり方が大いに魅力を発揮しますが、3番のように元々曲長大な曲では聴いていてもたれました。その点、このセッション盤はゆったりとした広がりが有るものの、もたれることはありません。ベルリン・フィルの響き、力量がフリッチャイの巨匠然とした表現を余裕をもって形に出来るので非常に聴き応えが有ります。録音も良好です。

Beethoven_cluytensアンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィル(1958年録音/EMI盤) 全集盤に収められている演奏です。第1楽章から当時としては速めのテンポで颯爽と進みゆく熱のこもった演奏です。ベルリン・フィルの優秀さも手に取るように感じられます。2楽章以降もライブのような気合の入った演奏で、管楽器のソロの上手さも光りますし、合奏はアンサンブルの良さが際立ちます。但し、この仏EMI盤はリマスターが高音強調の為に、当時のベルリン・フィルの重い響きが妙に明るく感じられます。楽器の分離や色彩感も余り芳しくないので残念です。

422 ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響(1959年録音/CBS盤) ワルター晩年のステレオ録音です。第1楽章は戦闘的な雰囲気からは最も遠い、優しく穏やかな表情の「英雄」です。2年前のトスカニーニ追悼コンサートの時に見せた気力もだいぶ影を潜めてしまいました。さすがの英雄(ワルター)もこの時すでに83歳ですので精力減退というところでしょうか。得意の一瞬のパウゼもほとんど見せていません。第2楽章の葬送も余り暗さを感じない演奏です。ワルターらしいと言えばそれまでですが。第3楽章は颯爽として活力があります。そして第4楽章では再び柔和な表情のエロイカ変奏を聴かせます。迫力には欠けますが、決して嫌いではない演奏です。

Beethoven-3-wkto5ouul_ac_sl1500_ オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管(1959年録音/EMI盤) EMIへのセッション録音による全集からです。ゆったりとした構えで頑固一徹イン・テンポを守る典型的なクレンペラーの演奏ですが、巨大な造形には、そんじょそこらの熱演型指揮者からは味わえない正に仰ぎ見るような風格が有ります。これもまたベートーヴェンの音楽の一つの神髄です。最晩年のドイツの楽団との演奏と比べると、管弦楽の響きの魅力において物足りなさは残りますが、録音はまずまずですし文句を言うのは止めましょう。

Cci00055フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年頃録音/edel classics盤) 全集盤に収められている演奏ですが、何と言ってもゲヴァントハウス管の音色が魅力的です。これほどの古き良き時代のドイツの古武士のような音色は今ではもう聴けません。但しコンヴィチュニーの指揮は相変わらずで、融通の利かない(ドイツの)ハゲ頭の頑固おやじのような演奏です。第1楽章提示部も真面目に繰り返しています。ゆったりとしたテンポで堂々とした立派な演奏なのですが、どこか生真面目過ぎて面白みに欠ける面が有ります。そこがいかにもドイツらしいとも言えるのですけれども。

Beet-3-61ithx4vr3l_ac_sl1050_ カール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1961年録音/グラモフォン盤) ベーム壮年期の演奏には非常に厳しさが有ります。テンポは中庸ですが厳格なリズムと凝縮された響きには凄味すら感じます。同じベルリン・フィルでもフリッチャイやクリュイタンスはもちろん、カラヤンともまるで違います。反面息苦しさも無いわけでは有りませんが、しかしこの青銅の鎧を付けたプロイセンの騎士のような趣は、後述する晩年の演奏とは印象が大きく異なります。’60年代のベルリン・フィルとカラヤンに代わって全曲を録音してくれていたらとつくづく思います。

Beethoven160_20230504143201 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1962年録音/グラモフォン盤) ベームのところでケチを付けたカラヤンの1960年代録音の全集に含まれます。昔は随分と速いテンポと思いましたが、最近の耳では特に速くは感じません。2楽章の前半などはBGM的ですが、戦後20年近く経った当時、ドイツ的な重厚長大さから離れたスタイリッシュなベートーヴェンがもてはやされたのは分かる気がします。ベルリン・フィルの合奏能力も完璧に高まりました。録音とリマスターはまずまずだと思います。

Beethoven3-3571977 ピエール・モントゥー指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1962年録音/フィリップス盤) デッカ録音の全集(9番のみウェストミンスター録音)ではロンドン響とウイーン・フィルが半々で起用されましたが、3番をコンセルトヘボウ管とフィリップスに再録音してくれたのは嬉しいです。モントゥーらしい生命力と重厚さがバランス良く両立していますが、オーケストラの優秀さと厚みの有る美しい響きが更に聴き応えを増していて、天馬空を行くようなウィーン・フィル盤とはまた違った魅力が大いに感じられます。

Mahcci00045 カール・シューリヒト指揮フランス国立管(1963録音/PECO盤) 何種類も残るシューリヒトのエロイカの唯一のステレオ録音です。シャンゼリゼ劇場でのライブで、テンポは'61年ウィーン・フィル盤よりも更にゆったり気味です。生命力は全く減じていませんが、一気苛成に進む印象は薄れました。第2楽章だけは逆に速めですが、音楽の流れの勢いが凄まじいです。全体的にシューリヒトらしい一画一画のニュアンスのこだわりがセッション録音並みのアンサンブル精度なのにも驚きます。この素晴らしい演奏が優秀なステレオ録音で聴けるのは幸せです。初出の仏ディスク・モンターニュ盤もこのPECO盤も入手は困難ですが、いずれまた他レーベルで出ることと思います。

Beeth-3-51kzrrswxyl_ac_ ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮ウィーン・フィル(1965年録音/DECCA盤) 交響曲全集の中の1枚です。この人は手兵だった北ドイツ放送響を振るとかなり男性的で力強い演奏をしますが、ウィーン・フィルを振るとその柔らかい音色を生かした演奏となって、オーケストラの特徴が良く現れます。この演奏も中庸のテンポによるオーソドックスなもので、ショルティのように力づくには成りません。ただ全集として聴く分には良いと思いますが、単独で聴く場合にはやや食い足り無さが残るかもしれません。録音は明瞭ですが音は薄めに感じます。

Beethoveb-19-075_20230522164801 オイゲン・ヨッフム指揮コンセルトヘボウ管(1969年録音/フィリップス盤) ヨッフムが残した三つの全集盤のうち二度目の全集に含まれます。1楽章のテンポは中庸ですが、要所で念押しするリズムがドイツ的な重厚さを生みます。但し悠揚迫らざる落ち着きが、幾らか高揚感に欠ける印象を与えます。2楽章はゆったりとして深刻過ぎない高貴さを感じさせます。3、4楽章もオーソドックスですが、名門コンセルトヘボウの妙技と響きに魅了されます。ヨーロッパ的な柔らかい響きを忠実に捉えたフィリップスの録音が素晴らしいです。

026 ラファエル・クーベリック指揮ウィーン・フィル(1971年録音/オルフェオ盤) ザルツブルク音楽祭でのライブ演奏です。ゆったりと広がりのあるテンポでスケールの大きさを感じます。クーベリックは手兵のバイエルン放送響とは実演ではヒートアップし過ぎて前のめりになることがしばしば有りますが、ウィーン・フィルとはそのバランスが上手く保たれています。但し前半の2楽章まではやや不完全燃焼の物足りなさを感じます。第3楽章からはようやくエンジン全開になって、熱気と迫力で聴きごたえ充分です。録音は決して悪くはないのですが、マスタリングのせいか高域が強調され過ぎで音が硬く感じられるのが難点です。

410pr0hx8el__sl500_aa300_カール・ベーム指揮ウィーン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) グラモフォンへのセッション録音です。ベームは実演でこそ燃える人でした。ですので人によってはセッション録音の評価が軽んじられる傾向無きにしもあらずですが、晩年の録音は特にそうです。この録音が含まれる全集盤も昔は人気が有りましたが、現在では余り話題になりません。けれどもこの演奏の安定感は見事です。ドイツ音楽を演奏して、ゆったりとした構えでこれほど安心して聴かせる指揮者はそうは居ません。音楽そのものを心から味あわせてくれます。ウィーン・フィルの美音を捉えた優れた録音も嬉しいです。

0184442bc ヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1976年録音/Berlin classics盤) ブロムシュテットが首席指揮者だった時代に録音した全集盤に収められています。この人は草食系男子(菜食主義者なのは有名)のせいか、どのオーケストラを指揮しても自分の色を要求するのではなく、オケの持つ色を尊重します。ですので、ドレスデンのように元々素晴らしい伝統の音色を持つオケを指揮する時には余計なことを一切しないのが長所となります。このオケのベートーヴェンを聴けるというだけで価値が有るのですが、この演奏は全集盤の中での出来映えは大分劣るほうだと思います。

Beethoven-19-emypxegpl レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル(1978年録音/グラモフォン盤) 当時大いに話題となったウィーンでのライブによる全集盤に含まれます。以前は随分と速くスッキリしている演奏と感じましたが、ベーレンライター版が主流となった現在聴けば、充分に重量感が感じられます。それが推進力、生命力と合わさって、白熱した演奏となっています。2楽章ではバーンスタインらしい深い悲しみの吐露を示し、終楽章は劇的かつ壮大で非常に聴き応えが有ります。ウィーン・フィルの音はもちろん美しいですし、ライブながら録音も優れています。

649 カール・ベーム指揮バイエルン放送響(1978年録音/audite盤) ベームはバイエルン放送響と相性が良く、ライブでの熱演の録音が幾つも残されています。当然期待されるわけですが、この演奏は録音が残響過多でオフ気味なのでオケがだいぶ遠く感じます。実際には中々の熱演をしているようなのですが、柔らかい録音に緩和されてしまっているのが少々残念です。基本的なテンポは6年前のセッション録音とよく似ています。バイエルン放送はもちろん優秀ですので、ウイーン・フィル盤と優劣を付けるのは難しいところです。

Beeth-3-131 クラウス・テンシュテット指揮北ドイツ放送響(1979年録音/Profile盤) テンシュテットの北ドイツ放送響時代のマーラーの1番や2番のライブは海賊盤ながら驚異的な凄演でマニアの間では大変な話題と成りました。この人は何と言ってもマーラーが最高ですが、次に凄いのはやはりベートーヴェンです。3番は後述するウィーン・フィルとの一期一会の演奏が最高ですが、この放送用のライブもひけを取りません。1楽章冒頭から凄まじい迫力と集中力を感じます。全ての音に命がこもっています。2楽章の巨大なスケールも素晴らしいですが、終楽章は正に鬼気迫る白熱した演奏です。併録のコリオラン序曲がまた凄まじい限りです。録音は明瞭ですが高域の潤いがいま一つです。

Beethoven-19-pzbz147zl_ac_ オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリン(1980年録音/DENON盤) 独シャルプラッテンとの共同制作の全集盤に含まれます。スウィトナーはモーツァルトでは相当速いテンポをとるイメージが有りますが、この1楽章はむしろゆったりと感じられ、肩の力が抜け過ぎぐらいの気もします。爆演からは最も遠い純音楽的な演奏です。2楽章も同様で、ことさら慟哭せずとも悲哀が心に沁み込みます。後半3、4楽章がモーツァルト的な歯切れ良い演奏です。SKベルリンの響きはドイツ的ですが、武骨さよりは古雅な美しさが強く感じられます。その分、全体的にはこの曲にしては幾らか迫力不足かもしれません。

875 クラウス・テンシュテット指揮ウィーン・フィル(1982年録音/Altus盤) いまだに熱烈なファンを持つテンシュテットですが、僕がこの人を初めて聴いたのはエロイカでした。70年代終わりのころにNHK FMで「東ドイツの幻の名指揮者」という紹介が印象的でした。その時のオケは記憶ではベルリン・フィルなのですが、確かではありません。さて、このCDはザルツブルク音楽祭でのライブ録音です。以前は海賊盤でしか聴くことができませんでしたが、併録されたマーラーの10番のアダージョが余りに素晴らしいので記事にしたことが有ります。それが最近ついに正規盤でリリースされました。このエロイカも非常な名演奏で、今まで一部のファンにしか知られていなかったのが本当に勿体なかったぐらいです。第1楽章のスケール大きな広がりと流れの良さはフルトヴェングラー以来だと思いますし、フォルテの音のひとつひとつに込められた気迫はトスカニーニ、シューリヒト並みです。極めて繊細な弱音で開始される第2楽章の悲しみの深さも計り知れません。中間部では足取りの一歩一歩が心に重くのしかかるようです。第3楽章も実に堂々としたスケルツォです。第4楽章はスケールの大きさよりも白熱した演奏です。この楽章の白熱度合ではクーベリック/ウイーン盤が並ぶと思いますが、トータルではやはりテンシュテットが圧倒的です。

Beethoven-sym3-fn161xl_ac_ クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィル(1985年録音/グラモフォン盤) アバドがウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任した前後にライヴで収録した交響曲全集に含まれる1枚です。アバドが後にベルリン・フィルと録音したエロイカは非常な力演でしたが、こちらもかなりの熱演です。それに楽団の性格からベルリン盤よりも“しなやかさ”を感じます。終楽章の最初の変奏などは柔らか過ぎにも思いますが、その辺りは聴き手の好みに左右されるでしょう。しかしウィーン・フィルの数多あるエロイカの名盤の一つとしてやはり外せません。録音は客席のやや後方で聴くようなホールトーン的なものです。

91wmcdauwbl_ac_sl1500__20230507153301 ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管(1987年録音/フィリップス盤) ハイティンクの二回目の全集盤に収められています。30年近く務めた常任指揮者を退任する直前の録音だけあり、余裕のあるテンポによる力みの抜けた円熟の味わいが感じられます。単なる熱演とは次元が異なります。またオーケストラの美しい響きが大いなる魅力で、ウィーンともドイツとも違う、しかしヨーロッパ音楽の中心とも言える豊穣の響きは類まれな高い質感の音です。ハイティンクの指揮もこの楽団が有ればこそです。フィリップスの録音も優れています。

Beethven-yhhp5yo0l_ac_ 朝比奈隆指揮ベルリン・ドイツ響(1989年録音/WEITBLICK盤) 1908年生まれの朝比奈が81歳時に客演指揮したベルリン・フィルハーモニーにおけるライブ録音です。生前には我が国の楽団を指揮した実演を何度か聴いて感動もしましたが、CDで聴くとどうしても粗が気に成るのが正直なところです。その点、ドイツ響とは言えドイツの楽団を指揮したベートーヴェンには興味を抱きました。遅いテンポで悠然と進む恰幅の良い演奏は正に朝比奈風です。しかし反面、緊張感に不足するのも事実で、最近の速い演奏に慣れた耳で聴くと、尚さら緩く重たるく感じます。その点ではフリッチャイ、クナの両ライブ盤と並びます。

Beethoven-19-apmt2mpcl サー・コリン・デイヴィス指揮ドレスデン国立歌劇場管(1991年録音/フィリップス盤) 交響曲全集に含まれます。リズムは厳格に刻まれ、弦楽器はマルカートに弾かれ、内声部が厚く奏される典型的なドイツ風の演奏です。普段目立たない音型にも気づかされます。管楽器の古雅な音色と相まって、いぶし銀の響きは今なお健在です。北ドイツ的な武骨さとは異なる貴族的な音なのですが、ウィーン風の流麗な音とはまた異なります。デイヴィスの指揮は堂々と立派な造形を築き上げていますが、それでいてそこはかとなく情緒を感じさせるのは素晴らしいです。ルカ協会で行われたバランスの良い録音で、旧東独エテルナの音造りに似ています。

Beethoven-3-4-_ac_sl1006_ カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウィーン・フィル(1994年録音/Altus盤) ウィーンのムジークフェラインにおけるライヴです。1楽章からフルトヴェングラー晩年のEMI盤を想わせる遅さで重厚感が半端有りませんが、強音の気合の込め方、拍の念押しが徹底されているので、もたついた印象は受けません。この大河のような演奏こそジュリーニの真骨頂です。2楽章も遅いですが、悲劇性よりも雄渾さを感じます。3、4楽章もスケール大きく貫禄十分で聴き応えがありますが、特にフィナーレは圧巻です。オーストリア放送協会による録音ですが、音質、リマスタともに不満有りません。

Beethoven-19-kr7idozvl ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管(1999年録音/テルデック盤) 交響曲全集に含まれますが、バレンボイムの指揮はじっくりとしたテンポで雄渾さが感じられます。スフォルツァンドや、ティンパニの程よい強打が非常に効果的です。管弦楽の音色にはドイツ的なほの暗さが有り、ホルンの音にも野趣が感じられて素敵です。熱演で一気に引き込まれるタイプの演奏では無いですが、じっくり聴いていると、その良さがじわりじわりと増して感じられます。単独で聴くよりは全集での鑑賞に向くかもしれません。指揮者のとしてのバレンボイムに懐疑的な声も耳にしますが、そのような方に是非聴いて貰いたいです。録音も優秀です。

Beethoven-19-_ac_ サイモン・ラトル指揮ウィーン・フィル(2002年録音/EMI盤) ウィーンのムジークフェラインで行われた連続演奏会のライヴ録音の全集盤に含まれます。ベーレンライター版を使用していますが、快速テンポで進みつつ、フォルテやアクセントの強調が刺激的なほどです。加えて弦楽は明らかにノン・ヴィヴラートに近いので、ちょうど最近の古楽器派の挑戦的な演奏スタイルを狙ったのでしょう。この録音当時では正直耳に心地よさは感じられませんでしたが、時代の経過と共に段々と楽しめるように成りました。ラトルがそれだけ先を行っていたということでしょう。ライブですが、さすがウィーン・フィルの演奏は完璧、録音も優秀です。 

Beethoven-19-l1500 リッカルド・シャイー指揮ゲヴァントハウス管(2008年録音/DECCA盤) 全集盤に含まれます。体感上は上述のラトルよりもテンポが速く、ドイツ的なリズムの念押しが無いばかりか、前のめりになるほど煽っています。第楽章でさえもサクサクと進みますし、終楽章などベートーヴェンというよりもロッシーニみたいです。さすがはオペラの得意なイタリア人です。管弦楽の響きは基本的には古のゲヴァントハウスの音を残してはいますが、音の出し方は、かなり軽いそれを目指しているようです。“軽薄短小”ならぬ“軽薄短速”のベートーヴェンは好みの分かれるところでしょう。自分は。。。まぁ付いて行けませんが。()

Beethoven-19-dk-yajwl_20230527135701 クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル(2010年録音/SONY盤) ウィーン楽友協会大ホールで行われたベートーヴェン・チクルスのライブ収録による全集に含まれます。ヴァイオリン両翼型の配置で、楽譜も古いブライトコプフ版を使用するという、最近の流行にあえて逆った解釈です。猫も杓子も古楽器奏法的な快速テンポでキレの良い演奏を目指す「軽薄短速」時代にあって伝統を重んじるとは、さすがはティーレマンです。テンポは概して遅めでスケールが大きく、リズムにも重量感が有ります。「黄金のホール」と呼ばれるこのホールで実際に聴いているような臨場感の有る録音も素晴らしく、ウィーン・フィルのしなやかで美しい音色を味わうことが出来ます。

さて、古楽器オーケストラの演奏が一つも無いのでは古楽派ファンに叱られますので上げておきます。

Beethoven-19-aidmmnl_ac_ フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ(1987年録音/フィリップス盤) 録音から随分経ちましたが、このころからピリオド楽器演奏がブームに成りました。とは言え自分が聴いたのはバロック音楽までで、ハイドン、モーツァルトが限界。ベートーヴェンは全く聴きませんでした。この18世紀オーケストラの音は古雅で美しいですが、ノン・ヴィブラートの痩せた音は貧相です。強調されたアクセントは新鮮でした。時おり聴くには良いのですが、自分の鑑賞の主食(メイン)とは成り得ません。特に2、4楽章の音の薄さは、如何ともしがたいです。巨大オーケストラの厚切りステーキのような音に飽きた時の箸休めという感じです。写真の全集盤で所有しますが、単独でも出ています。

Beethoven-19-ga08hkoll_ac_ ジョン・エリオット・ガーディナー指揮オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク(1993年録音/アルヒーフ盤) ブリュッヘン盤からさして時を経ていない時期の全集盤に含まれますが、この演奏には驚きました。1楽章は超快速ですが、シャイーが前のめりに感じられたのとは違い、決して上滑りすることなく安定感が有り、このテンポの必然性が感じられるからです。2楽章は潔良いほどサクサクと爽快に進み、3、4楽章もかなり速いですが、効果的なダイナミクスなど聴いていてワクワクします。オーケストラの技量も非常に高く、ピリオド楽器なのに音の薄さが気に成りません。弦、管、打楽器の録音バランスも絶妙です。フルトヴェングラーにも匹敵する凄演だと思います。

というわけで、3回に亘って「エロイカ」の名盤を聴いて来ましたが、フルトヴェングラーの「エロイカ」は他のどんな指揮者をもってしても越えられない孤高の高みに到達した演奏だと改めて思いました。ステレオ録音盤に限定して言えば、テンシュテット/ウィーン・フィル盤が最高です。これは正規盤で出て入手がし易くなりましたし、録音も優秀ですので絶対のお薦めです。
モダンオケでピリオド的演奏のラトル/ウィーン・フィル盤にも惹かれますが、それならいっそ古楽器オーケストラのガーディナー盤を取りたいです。
それ以外では、クーベリック/ウィーン・フィル、ジュリーニ/ウィーン・フィル、ティーレマン/ウィーン・フィルが素晴らしいですが、いずれもウィーン・フィルのライブでした。最後はモントゥー/コンセルトヘボウ盤あたりも。。。

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2010年9月 4日 (土)

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」 名盤(モノラル録音編) ~指揮者の英雄たち~

フルトヴェングラーと同じ時代を生きた指揮者たちは本当に個性が豊かでした。現代であれば間違いなく巨匠と呼ばれたであろう人たちでさえも(たとえばルドルフ・ケンぺとか)、当時の大勢の巨人たちの間にあってはただの中堅指揮者程度にしか見られませんでした。もちろんフルトヴェングラーの振るベートーヴェンは神様の領域でしたが、彼以外にも指揮者の「英雄」は何人も存在します。正に巨匠の時代だったわけです。そんな人たちの演奏をあらためて聴いてみましょう。まずはモノラル録音期の演奏からです。

Beet-3-img_1692 フェリックス・ワインガルトナー指揮ウィーン・フィル(1936年録音/新星堂:EMI原盤) 往年の大巨匠として知られるワインガルトナーがマーラーの後任としてウィーン宮廷歌劇場の監督に就いたのが1908年で、この時44歳だったことからいかに歴史上の人物かということが分ります。そして、このSP録音からは、この人が驚くほど古典的でスタイリッシュな演奏を行っていたか知らされます。また、戦前のウィーン・フィルの優秀さにも驚かされます。このCDは新星堂から企画リリースされたものですが、サーフェイスノイズこそ有るものの、音像が非常に明瞭なので充分に鑑賞に耐えます。

Beethoven-19-lngal_ac_ ウィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1940年録音/フィリップス盤) 1940年にアムステルダムで行われたライブによる全集録音に収められますが、「英雄」だけは音源上の問題から同年のテレフンケンへのセッション録音が使用されています。メンゲルベルクらしいテンポの変化や弦のポルタメントが頻繁に現れるので、聴き手の好み(と慣れ?)次第ですが、楽しい演奏なのは確かです。但しセッション録音なので、ライブのような興の高まりには欠けています。音質は当時としてはこんなものかなレベルですが、追加加工された拍手は余計かも。

Toscanini_beethoven_3_4 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1953年録音/RCA盤) 陰影の深いフルトヴェングラーとは正反対の演奏です。速いイン・テンポでぐんぐん進む推進力は爽快ですが、余りに陰りの無い健康的な音楽は自分の好みとは言えません。けれどもこの生命力に溢れる演奏は、決して好き嫌いで片付けられない圧倒的な存在感を示します。激しいスタッカートと明るいカンタービレもトスカニーニならではです。この人に鍛え抜かれたNBC交響楽団が手足の如く統率されて、豪快に骨太の演奏を聴かせるので正に圧巻です。録音は明快ですが、残響の少ないデッドな音なので耳には優しくありません。

Beethoven-19-688_20230222143101 オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) ベートーヴェンの交響曲全集を3回録音したヨッフムの最初の全集に含まれます。フルトヴェングラー存命中のベルリン・フィルの音の素晴らしさに魅了されます。何と暗く厚みの有るドイツ的な響きなのでしょう。ヨッフムはフルトヴェングラーのように無我夢中には成りませんが、充分な気迫が込められている上に、堅牢な建築物のような、ずっしりとした手応えも合わせ持ちます。録音は優れていて初期のステレオ録音と比べても遜色有りません。

Beeth-3 エーリッヒ・クライバー指揮ウィーン・フィル(1955年録音/DECCA盤) 昔LP盤で聴いていた演奏で、当時は自分はフルトヴェングラー一色だった為に、どうしても比較してしまいましたが、今改めて聴けば非常に素晴らしいです。全体に速めのテンポでトスカニーニ張りの鋭くソリッドなテンポ、ダイナミックなアクセント、弾むようなリズム、彫の深い表情が有りながら、当時のウィーン・フィルの持つ美しく味わいの有る音が聞けるのが最高です。録音もモノラル末期のデッカの録音で非常に明瞭です。フルトヴェングラーのウラニア盤にも匹敵する名盤だという気がします。

630 ブルーノ・ワルター指揮シンフォニー・オブ・ジ・エア(1957年録音/MUSIC & ARTS盤) シンフォニー・オブ・ジ・エアというのはトスカニーニの手兵だったNBC交響楽団のことで、これはトスカニーニの追悼コンサートをワルターが指揮したものです。トスカニーニのスタイルを意識したのかは分かりませんが、ワルターにしては速めのテンポで贅肉の少ない演奏です。とは言え、ところどころにやはりワルターらしい、柔らかい表情や一瞬の間(ま)が現れるのが面白いです。録音は特に良いわけではありません。歴史的な演奏を聴けるだけで喜ぶべきでしょう。

Schu_bet_758 カール・シューリヒト指揮パリ音楽院管(1957年録音/EMI盤) シューリヒトのEMIへの全集の中の1曲です。エロイカの録音は多いのですが大半がライブ録音で、これは唯一のセッション録音です。トスカニーニよりも早いテンポで一気苛成に進みますが、熱い情熱がほとばしるようです。しかもこの速いテンポで一画一画に深いニュアンスが込められているのは本当に凄いことだと思います。切れの良いスタッカートの切迫感もトスカニーニ並みです。オケの音は明るいですが、演奏スタイルがドイツ的では無いので意外と違和感は感じません。録音もモノラル末期で非常に明快です。

550 カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1961年録音/オルフェオ盤) ザルツブルク音楽祭のライブです。表現的には速いテンポで一気苛成に進むパリ音楽院管盤と変わりません。テンポが僅かにゆっくりになりましたが、生命力は相変わらずです。それにやはりウイーン・フィルですので、その音には柔らかさと甘さを感じます。完成度ではセッション録音のパリ音楽院盤に及びませんが、ウイーン・フィルの音には捨て難い良さを感じます。録音は年代的には標準レベルだと思いますが、音質が硬く分離が悪いのが気になります。

494 カール・シューリヒト指揮ベルリン・フィル(1964年録音/テスタメント盤) ベルリンでのライブです。録音はモノラルですが明快です。シューリヒト晩年の「エロイカ」はここに挙げた4種の中では最もテンポが遅くなっています。決してもたつくわけでは有りませんが、それ以前の生命力と気迫は明らかに後退しています。更にはこの人特有の一画一画のニュアンスのこだわりも余り見られません。その理由はドイツの名門オケなので逆に徹底できないのかもしれません。普通の意味ではとても良い演奏なのですが、もしも名前を伏せればシューリヒトと分からないと思います。なお、シューリヒト唯一のステレオ録音のエロイカが前年の’63年にフランス国立管とのライブで残されています。そちらはステレオ録音編を参照下さい。

71gbxmstql_ac_sl1429_ ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1962年録音/オルフェオ盤) このウイーンでのライブ録音は、これまで伊メモリーズ盤を基準に「テンポが遅過ぎてもたれる」と書いていました。しかしその後にオルフェオからリリースされたCDでは音質が飛躍的に向上していて、印象が大きく変わりました。非常に遅いテンポで悠然と進み、そのスケールの巨大さに唖然としますが、随所に濃厚な表情や音のメリハリが利いていて少しも飽きさせません。クナの遊び心にウィーンPOの面々が付き合って楽しんでいるかのようです。このCDは2枚組で、1954年のベートーヴェン7番、ピアノ協奏曲4番(バックハウス独奏)が収まっていますが、同様の凄い演奏で音質も良好なのでお薦めです。

これらの今では伝説ともいえる英雄たちの演奏を、ここで良いの悪いのなどと言う気は起りません。すべてが個性的で真に素晴らしい演奏ばかりだからです。我々音楽ファンは、それらになるべく多く触れる機会を持って、自分の気に入った演奏を味わえば良いだけではないでしょうか。

次回はステレオ録音期の演奏を聴いてみます。

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フルトヴェングラーの「エロイカ」の名盤

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2010年8月29日 (日)

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」 ~フルトヴェングラーの名盤~

Furtwangler1 フルトヴェングラーは自身の著書「音と言葉」のなかで、ベートーヴェンの音楽についてこのように語っています。

『ベートーヴェンは古典形式の作曲家ですが、恐るべき内容の緊迫が形式的な構造の厳しさを要求しています。その生命にあふれた内心の経過が、もし演奏家によって、その演奏の度ごとに新しく体験され、情感によって感動されなかったならば、そこに杓子定規的な「演奏ずれ」のした印象が出てきて「弾き疲れ」のしたものみたいになります。形式そのものが最も重要であるかのような印象を与え、ベートーヴェンはただの「古典の作曲家」になってしまいます。』

フルトヴェングラーは当時から既に、ベートーヴェンの曲が多くのコンサートの中でルーティンワークのように演奏されることに大きな危機感を感じていたのです。そして演奏を行う際には古典的な形式感だけでも、内心の情炎だけでもいけないと述べています。

フルトヴェングラーの演奏は現代の「演奏ずれ」したものと比べれば、随分と造形を損なっているように感じないでもありません。急激なアッチェレランド(たとえば第九の終結部)などは一見、そう見えます。但し、曲全体を通して眺めると、不思議と構造的な破たんを感ずることはありません。部分的なデフォルメが決して全体の統一感を損なわないのです。このことは驚くべきことです。なぜならそんな相反することを同時に成し遂げられるような演奏家は他に存在しないからです。この点が古今の指揮者のなかで独自の位置に置かれる理由だと思います。もっとも個人的には、ブルックナー、ワーグナー、ブラームスなどの演奏においては、一部の例外は有るにしても、大半の演奏で人間感情の吐露が余りに勝り過ぎている点で余り好んではいません。やはりフルトヴェングラーに最も適しているのはベートーヴェンの音楽だと思います。

僕がクラシック音楽を聴き始めたころ、当然ベートーヴェンのシンフォニーを聴きたいということになります。そこで「運命」「田園」「合唱」などと副題が付いて親しみが湧く曲を順に聴いていきました。買ったのは当時のベストセラーのカラヤンのレコードです。でも「英雄」だけは、さて誰の演奏で聴いてみようかと音楽書籍を調べてみると、なんでもフルトヴェングラーという人の第二次大戦中の演奏が伝説的な名演らしいことが分かりました。いわゆる「ウラニアのエロイカ」です。それをどうしても聴きたくなってレコード店で探してみると、もちろんオリジナルのウラニア盤ではありませんが、海外の廉価LP盤がありました。音質は貧弱でしたが、元々古い録音なので意外と抵抗感なく聴けました。それよりも音楽の凄さが直感的に伝わってきたのです。目の前に迫りくるこの音は一体何なのだろう・・・と。恐らく貧弱な音質を通してでも、フルトヴェングラーの言う「演奏ずれ」のしていない一度限りの演奏を心に感じたからなのだと思います。

フルトヴェングラーの「エロイカ」の録音は「運命」と並んで非常に多く、恐らく10種類以上は有るでしょうが、僕は主要なものしか聴いていません。それでも片手の指の数以上にはなってしまいます。まずはそれらをご紹介します。

71nahic3mul_ac_sl1432_ ウイーン・フィル(1944年録音/ターラ盤、メロディア盤) いわゆる「ウラニアのエロイカ」です。僕はターラの戦時中録音集BOXと露メロディアの単独盤で持っています。戦時中の古い録音にしてはバランスが良く、随分と音がしっかりしていますし、ウイーン・フィルのアンサンブルが驚くほど優秀です。とにかく演奏の燃焼度が半端でなく、凄まじいほどの燃え上がり方です。明日をもしれぬ当時の時代の緊張感が、このような演奏にさせたのかもしれません。フォルテの一つ一つの音がまるで雷の一撃のように迫り来ますし、ウイーン・フィルの楽員が死んだ気になって弾いている姿が目に浮かびます。この演奏は歴史的な記録ということを別にしても、絶対に聴かれるべきです。CDは色々なレーベルから復刻されていますが、メロディア盤かターラの1枚ものなら手堅いところだと思います。(※2022年5月補完:2021年にグランドスラムからリリースされた2トラック、38センチオープンリールテープ復刻盤(写真)が素晴らしい音でした。過去のディスクからベールを1枚剝いだ印象で、高音域こそ幾らかハイ上がり気味なものの、中低域が厚く、明瞭なので生々しい迫力が有ります。これから購入される方には強くお勧めします。)

Furt_be3_1950 ベルリン・フィル(1950年録音/ターラ盤、audite盤) 戦後のベルリン・フィルとの演奏です。翌々年1952年には幾つものエロイカの録音を残しますが、それに比較するとテンポがだいぶ速めで、ウラニア盤に近い印象です。但し音はウイーン・フィルのしなやかさの代わりにベルリン・フィルの剛直さを感じます。音楽に勢いを感じるので、52年の一連の演奏よりも好むファンも少なくないと思います。CDは1枚ものではターラ盤が有りますが、auditeから最近出たRIAS放送録音集は高音が少々固い面はあるものの、ターラ盤からベールを1枚も2枚も剥ぎ取った印象で完全に上です。但しセット物のみになります。

5159l4rmptl_ac_ ウイーン・フィル(1950年録音/EMI盤) ザルツブルグ音楽祭でのライブであり、この録音が陽の目を見たのはだいぶ後でした。残念なのは、当時のこの音楽祭の録音は余り芳しくなく、エアチェックのような音質は古い’44年と比べても似たり寄ったりです。ウイーン・フィルのアンサンブルも’44年の方がずっと整っています。しかしこちらはテンポが幾らか遅めになっていて、スケールの大きさを感じます。結局は聴き進むうちにフルトヴェングラーの魔術にすっかりはまってしまいます。結局はマエストロのファンにとってはベートーヴェンの演奏に駄盤はただの一つとして無いと言えるでしょう。 

Furt_be3 ウイーン・フィル(1952年録音/EMI盤) 昔はウラニア盤以外では、このEMI録音しか聴くことができませんでした。僕は独エレクトローラの疑似ステレオLP盤で聴いていましたが、これは非常に美しい音がしていました。唯一のスタジオ録音盤ということもあり、他のライブ録音と比べると興奮度合いがずっと控えめですが、その代わりにゆったりとした広がりが有ってスケールの大きさを感じます。近年流行の古楽器派的な演奏と比べると非常に遅いテンポですが、音楽が停滞したりもたれると感じることは全く有りません。フルトヴェングラー以外の一流指揮者が、この遅いテンポをとると大抵もたれてしまうのとは、やはり大きな違いです。特に極めて遅いテンポでじっくり始まって徐々に巨大に高揚してゆく終楽章は素晴らしいです。録音も良いですし、代表盤のひとつとして選択するべきです。僕はCDでは海外EMIのReferences盤で聴いていますが、この音はとても気に入っています。

794 ウイーン・フィル(1952年録音/ターラ盤) EMI録音が11月26/27日に行われて、その直後の30日に同じウイーンで開かれた演奏会の録音です。従って表現はほぼ同じです。とは言え、やはりライブのほうが気分的な高揚感が勝り、即興性を強く感じます。逆にその分だけEMI盤の安定感には欠けることになりますが、この辺は一長一短だと思います。ファンにとってはEMI盤と比較する興味は起きますが、繰り返して鑑賞することを考えた場合には、やはり録音が優れていてウイーン・フィルの柔らかい音質を味わえるEMI盤をとることになります。こちらも当時の発掘ライブにしては音質は良好ですが、音の揺れとざらつきが幾らか目立ちます。

Furt_be3_be ベルリン・フィル(1952年録音/ターラ盤) 前述したウイーンでの演奏会の一週間後の12月7日に今度はベルリンでこの曲を指揮しました。第1楽章は速めのテンポでストレートに進むのが1950年盤に似ています。一転して第2楽章は重く暗く粘ります。終楽章はやや彫の深さにかける気がします。録音状態はウイーンでの前の週のライブに比べると音が安定はしていますが、終楽章のみ幾らかざらつきを感じます。余り奥行きを感じない録音なので1950年盤と大差は無いところです。

41uvmjpcql__sl500_aa300_ ベルリン・フィル(1952年録音/audite盤) ’52年12月のベルリン演奏会は二日間で、これは翌日8日の録音です。RIAS放送局のオリジナルテープからCD化されたために非常に良い音質です。演奏も二日目ということもあり、オーケストラに安定感を感じます。切迫感は前日のほうがあるかもしれませんが、録音が良い分だけ演奏に彫の深さを感じられて満足できます。印象としてはEMI盤の大きな広がりに、ライブの高揚感を加えた感じです。第2楽章も悲しみが深く心に染み込んで非常に感動的です。フルトヴェングラーが亡くなって50年以上も経って、実に素晴らしい録音が現れました。但しこれもRIAS録音集なので、是非とも分売して欲しいと思います。

61csek5ybyl_ac_sl1024__20210315235801ルツェルン祝祭管(1953年録音/audite盤) ルツェルン音楽祭でのライブ演奏です。音質は高音域が強調されてイコライジングがかっているのが気に成りますが、低音もしっかりしていて全体のバランスは悪く有りません。演奏は晩年のせいか悠揚迫らざる雰囲気です。推進力や高揚感はそれ以前の演奏に比べて減衰していますが、それでも凡百の演奏とは訳が違います。ルツェルン祝祭管もアバド時代のヴィルトゥオーゾオケのレベルとまでは行きませんが大健闘です。代表盤には入りませんがファンならば一聴の価値はあると思います。

Beethoven-3-733 ウィーン・フィル(1953年録音/EMI盤) <20世紀の巨匠達>シリーズでリリースされたミュンヘンのヘルクレスザールで行われたライブです。前述のルツェルン音楽祭から間もない9月4日の公演でした。テンポはルツェルン同様に遅いのですが、ウィーン・フィルだけあり、より大きなスケールに圧倒される感が有ります。特に終楽章の壮大さは特筆出来ます。最晩年のエロイカ録音として大きな価値が有ります。バイエルン放送協会の録音ですが、どことなくEMI的で音質が柔らかく、イコライジング感が有るものの52年のウイーン・フィル盤より音のひずみやざらつきが少なく楽器の分離も良いので聴き易いです。

以上から厳選すれば、1944年ウイーン盤、1952年ウイーンEMI盤、1952年ベルリンRIAS盤の三つです。それぞれに特徴が有るのでこれ以上は絞ることは出来ません。

次回は、フルトヴェングラー以外の「英雄」のCD(モノラル盤編)を聴いてみます。

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