ブラームス(協奏曲:ピアノ)

2021年1月27日 (水)

東京ニューシティ管弦楽団定期演奏会 指揮 飯森範親 ピアノ 三原未紗子

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日曜日は東京芸術劇場で行われた東京ニューシティ管弦楽団の定期演奏会へ行きました。
一昨年のブラームス国際コンクールのピアノ部門に優勝した三原未紗子さんがソリストを務め、コンクールのファイナルで弾いたブラームスのピアノ協奏曲第1番を聴くことが出来るからです。三原さんは若手ピアニストでは珍しく、非常に懐の広い、含蓄のある演奏をする人です。つまりブラームスの音楽にピッタリですし、実際にコンクールでも審査員の先生方から「ブラームスの音をしていた」と評価されたと聞いています。

緊急事態宣言下の上に更に降雪予報が出ていたのでハラハラしましたが無事に開催されました。

この日指揮者を務めた飯森範親氏は現在契約している東京交響楽団から、こちらのオーケストラの音楽監督へ2022年に就任することが決まっているそうです。今日は就任決定後の初の演奏会であるからか、開演前にプレトークをされて、就任への並々ならぬ意気込みについて語られました。
ということで演奏に期待が高まりました。

前プロのキラールの作品は弦楽合奏で、ヴァイオリン、ヴィオラはスタンディングでの演奏でした。徐々にハーモニーやリズムが重なり合って盛り上がる面白い曲ですが、どこからか「ゴジラ」のテーマを連想してしまいました。

そして前半2曲目がブラームスです。この協奏曲第1番は実演では滅多に聴くことがありませんが、第2番とともに「溺愛する」と言える愛聴曲です。特に第1番はこのホールで1998年か99年にラドゥ・ルプーの独奏、ホルスト・シュタイン(懐かしいですね!)指揮バンベルク交響楽団で大変素晴らしい演奏を聴いたことがあります。(その記事はこちらから ブラームス ピアノ協奏曲第1番 名盤 )
なにしろこの曲を生で聴くのはそれ以来ですし、しかもソリストが三原さんなので胸が高まりました。

いよいよ三原さんが出て来て演奏開始です。冒頭には交響曲以上にシンフォニックな管弦楽が続きますが、中々に気合が入っている重厚な響きが聞こえ、「おっ、これは!」と思いました。
そしてピアノが入ります。それまでの管弦楽のテンポから幾らか落ち着いたテンポで、しかし緊張感の有る空気を作ります。そして曲が進み、ピアノと管弦楽が交互に演奏を繰り広げますが、三原さんの音は打鍵の強さは感じるものの、それが決して力任せでは無いしなやかさが有り、常に管弦楽と共に、ブラームスのあの地味ながら非常に美しいハーモニーをホールに響かせ続けました。
飯森氏の指揮に導かれるようにホルンも非常に好演、弦も木管もとても綺麗でした。それらが三原さんの弾くスタインウェイのピアノと良く溶け合っていて正に至福のブラームスでした。
そうなれば、第2楽章に益々期待します。夜空に浮かんだ月が雲の合間から出てはまた隠れる様を永遠に繰り返すような美しい音楽ですが、正にそんな雰囲気を醸し出してくれました。これぞブラームス!
静寂から一転して始まるフィナーレでは、三原さんは思いのほか速いテンポで弾き出しました。1、2楽章がゆったりと広がりの有るテンポでしたので、スリリングな対比に思わず興奮させられます。しかし基本テンポは速くても、聴かせどころではピアノも管弦楽も大きく歌い、心から堪能させてくれます。

なにしろトータル演奏時間が交響曲よりも長いという長大な協奏曲ですが、その長さを全く感じさせない素晴らしい演奏でした。それは恐らく、三原さんの飯森マエストロへのリスペクト、マエストロの三原さんへの高い信頼、オーケストラ団員の二人への信頼と共感、さらには出演者のこの一年に渡るコロナ禍での苦境を乗り越えての演奏会への気合や喜びや、会場に足を運んでくれたお客様の期待感、それらが全て一体になったからこそ、このような素晴らしい演奏会になったのだと思います。

おっと、後半のストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」についても。
この曲は元々ピアノ協奏曲的な要素が有りますが、三原さんは休憩中に普通の黒衣装に着替えて、今度は後方に下がったピアノに着きました。自らこの曲の演奏も買って出たそうです。凄いですね!
1947年の3管編成版でしたが、飯森氏の指揮は管弦楽を綺麗に鳴らしてまとめ上げ、且つこの曲がバレエ音楽であることを認識させてくれるようなリズム感と楽しさに溢れるとても良い演奏でした。
今後の音楽監督への就任が楽しみです。このオーケストラの実力を見直す演奏会でしたが、今後さらに飛躍させてくれること間違いなさそうです。いずれ三原さんとも次は第2番の協奏曲を聴かせてくれたら良いと思います。

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2014年12月18日 (木)

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調op.83 新々・名盤

人後に落ちぬブラームジアーナーを自負している自分ではありますが、とりわけ溺愛している曲の一つがピアノ協奏曲第2番です。このブログでも、これまで「名盤」「続・名盤」「続々・名盤」「新・名盤」と所有するCDを色々とご紹介してきました。
今年、新しく聴いた演奏としては、シェア奥沢のクラシック鑑賞会で取り上げたポリーニとティーレマンのドレスデン・ライヴが有りますが、それを含めてご紹介したいと思います。偶然ですが、同じ世代の名ピアニストが三人並ぶことになりました。

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ウラディーミル・アシュケナージ独奏、ベルナルト・ハイティンク指揮ウイーン・フィル(1982年録音/DECCA盤)

これは演奏スタイル、録音時期から言っても、ポリーニの1回目のアバド/ウイーン・フィル盤と比較されるべき録音だと思います。アシュケナージのピアノは相変わらず、クリスタルグラスのように透明で美しい響きです。その点ではポリーニ以上です。但し、この人のピアノはいつも感じることですが、余りに端麗ですっきりとしている為に、音楽の翳りの濃さというものが感じられません。ですのでブラームスの音楽の性質がそっくり抜け落ちているように思えます。その点が不満です。ハイティンクはゆったりと落ち着いたテンポでスケールの大きい指揮ぶりです。ウイーン・フィルも時に豪放に鳴り響いて快感です。一方で第2楽章などではピアノを含めた音の静寂の美しさが最高です。オーケストラの演奏と録音のみに関してはアバド盤よりも好みます。トータルでは非常に難しいところで、中々軍配が上げられません。

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アルフレッド・ブレンデル独奏、クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィル(1991年録音/フィリップス盤)

以前からブレンデルの弾くシューベルトは好きなのですが、モーツァルトやブラームスは余り好みませんでした。しかし人気盤を無視するわけにも行かないので改めて聴いてみました。この人のピアノの音はひんやりと冷たいイメージなので、シューベルトでは独特の透徹感が醸し出されて良いのです。しかしブラームスは音色だけで勝負するわけには行きません。ブラームス特有の感情のうねりが欲しくなるからですが、ブレンデルはそういう直接的な感情表出はしません。そこが時に物足りなさを感じたり、理屈っぽさを感じさせたりするように思います。他のウイーン出身のピアニストが往々にして見せるおおらかさとはブレンデルは無縁です。と言って「神経質」だとも思いません。意外に強打音などで豪放さを表したりもします。この演奏は非常に立派です。その点ではアシュケナージよりも数段上の風格を感じます。アバドもブラームスの音楽の翳りには幾らか不足するものの、この大曲を充分に聴かせています。フィリップス録音の影響か、ベルリン・フィルの音色の明るさが余り気にならないのも嬉しいです。

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マウリツィオ・ポリーニ独奏、クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2013年録音/グラモフォン盤)

ポリーニはこの曲を得意としていて、正規録音だけでもこれが3回目です。1回目のアバド/ウイーン・フィル盤は若きポリーニの鋭利で研ぎ澄まされたピアノが楽しめますが、いわゆる晦渋なブラームスの味わいはありません。2回目のアバド/ベルリン・フィル盤はそれよりも円熟味を増したポリーニの演奏が聴ける点で、どちらを選ぶかは好みの問題でしたが、今回のティーレマン/シュターツカペレ・ドレスデン盤が出てしまっては、2回目のベルリン・フィル盤の存在意義が薄れそうです。基本的な解釈は以前と大きく変わりませんが、鋭利さはかなり後退していて、代わりに武骨さが加わった印象を受けます。ブラームスの音楽として考えた場合には、ずっとそれに近づいたように感じます。演奏の気迫も凄まじく、とても70歳を越えた奏者には聞こえません。ティーレマンも同様の熱演ぶりで、シュターツカペレ・ドレスデンの持つドイツ伝統の分厚い響きを生かしていて素晴らしいです。

ということで、今回の3枚を加えてこれまでに全部で28枚のディスクを紹介したことになりますが、その中のマイ・フェイヴァリットとなると、やはりバックハウス&ベーム/ウイーン・フィル盤です。音楽の気宇のあれほどまでの大きさというのは、ちょっと他の演奏者からは感じ取ることが出来ないからです。
とは言っても、ルービンシュタイン、ゼルキン、アンダ、リヒテル、アラウなど気に入っているCDは他にも多く有りますし、どの演奏からも異なった良さが感じられるので楽しめています。ということで、未聴のディスクもまだ沢山有りますし、これからも色々と聴き続けてゆくつもりです。

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2013年10月12日 (土)

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~

ここ数日は10月とは思えない暑さですね。まさかエアコンを入れながら”秋のブラームス祭り”を書くことになるとは思いもしませんでした(汗)。でも、開催した以上は続けますよ~、ワッショイワッショイ!

ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、交響曲以上に気宇の大きい、充実仕切った名曲ですので、あらゆるピアノ協奏曲の中でも最も好んでいます。ですのでこのブログでも、これまでに「名盤」「続・名盤」「続々・名盤」と3回の記事を書いています。今回は「新・名盤」と題して4回目となります。

それでは、エレーヌ・グリモーの最新盤からスタートして順にご紹介してゆきます。

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エレーヌ・グリモー独奏、アンドリス・ネルソンス指揮ウイーン・フィル(2012年録音/グラモフォン盤) 

これは1番、2番をセットにしたCDですが、2枚のディスクのラベルに印刷されているブラームスの顔のイラストが、それぞれ若い時の顔と壮年の時の顔と異なっているのが洒落ています。第2番でも指揮者はアンドリス・ネルソンスですが、オーケストラがウイーン・フィルに変わりました。ウイーンのムジークフェラインにおけるセッション録音です。

ところで、グリモーが今年の7月に来日してN響の定期でこの曲をジンマンの指揮で演奏したのをTV放送で観ました。それはブログの記事で書いた通り、彼女の美貌(!)には満足したものの、演奏のほうは正直言って期待の半分ほどの出来でした。速いパッセージの難所も今一つ弾き切れていないように感じました。ですので、その半年前に遡ってのこの録音には少々不安を感じていたのです。もしかして彼女にとって第2番はまだまだ未消化なのじゃないかという不安です。さて実際はどうでしょうか。

第1楽章導入部のウイーン・フィルの美しく柔らかい音は期待通りです。続くグリモーのピアノも無駄な力みの無い、自然体の演奏です。全体的に幾らか遅めのテンポでゆったりと進みますが、物足り無さは感じません。N響定期で弾き切れていなかった部分もしっかりと弾き切っています。オーケストラについては幾らか抑制が効き過ぎで、冷静過ぎる印象を受けてしまいます。ネルソンスがもっと自己主張してくれて、もう少し「熱さ」が有っても良かったように思うのです。もちろん度が過ぎて騒々しくなっては元も子も有りませんけれど。そういう点では、もしもこれがライブ収録であったら結果はどう変わっていたのでしょう。

第2楽章でも、全体にテンポはゆったり気味ですが、グリモーはじっくりと立派なピアノを聞かせます。一方ネルソンスは音に繊細さを表現しようとしているのがよく分かります。大波が寄せるような振幅の巾も中々に感じられますし、ブラームスらしい濃い翳りの有る大好きな楽章の演奏としては合格です。

第3楽章では、枯れ切っていない瑞々しさを感じさせます。グリモーがアルぺッジオひとつにも詩を感じさせる極めてデリカシーと変化に富んだ魅力的なピアノを聴かせてくれます。ネルソンスもこの楽章ではウイーン・フィルの音の美しさを充分に引き出していて魅了します。音楽の持つ寂寥感と幸福感とが絶妙にブレンドされているので、演奏に浸っているうちに、しばし時の経つのを忘れてしまいます。

第4楽章は、テンポそのものは標準的ですが、ピアノもオケも弾むようなリズム感が有って、とても生き生きとしています。正に「イタリアの陽光への憧れ」という雰囲気です。その分、北ドイツ的な音の厚みと翳りは薄くなっていますが、これはこれで良さが有ると思います。

全体的には、N響定期での演奏とはまるで別人です。あの時が単にコンディションが悪かったのか、指揮とオケの影響だったのかは分かりませんが、この録音は遥かに素晴らしいと思います。強いて言えば1、4楽章に更に気迫や高揚感、音の厚みが欲しいかなという想いが残りますが、そこは彼女の美しさに免じて許しちゃいます!(笑)

51wfbzhw8lスヴャトスラフ・リヒテル独奏、エーリッヒ・ラインスドルフ指揮シカゴ響(1960年録音/RCA盤) このころのリヒテルの演奏はどれも凄かったです。この曲には後年のマゼールと組んだEMI盤も有りますが、荒さの方が気になって余り好みません。その点、このRCA盤は理性をかなぐり捨てても音楽に没入するような気迫とデリカシーの両方が備わっていて魅力的です。テンポに即興的な伸縮が有るので、古典的な造形性は希薄ですが、とてもスタジオ録音とは思えないライブ演奏のような熱気は、当時西側にデビューしたリヒテルの意欲の表れなのでしょう。ツボを心得たラインスドルフの指揮するシカゴ響の重厚な音もリヒテルを大いに盛り立てています。とにかく鬼神が乗り移ったかのような壮絶な演奏で、一度聴き始めると麻薬のように虜になってしまう、バックハウスやアラウの名演とは対極的な名盤です。RCAの録音は最新録音のような鮮明感には欠けますが、中々に優れています。

41mkfv28nnlクラウディオ・アラウ独奏、ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1969年録音/フィリップス盤) この曲でも名門コンセルトへボウの美しくしっとりとした音色が素晴らしいです。ハイティンクの指揮も非常に立派で見直したくなるほどです。アラウは実演では意外なほど即興的に演奏する場合が有るように思いますが、ここでは頑固なまでにどっしりとした演奏をしています。正に「動かざること山の如し」といった風情です。ピアノの一音一音には非常に重さを感じさせて聴き応えが有ります。まるでドイツの頑固おやじのような武骨さが、いかにも北国人ブラームスを思わせますが、それが逆に聴き疲れを感じさせないでもありません。この人の演奏するベートーヴェンにもそんなところが有りました。それはともかくとしても、これはコンセルトへボウのいぶし銀の音色と相まって、存在感を感じさせる演奏です。

513p08uyjcl__sy355_セシル・ウーセ独奏、クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1974年録音/Berlin Classics盤) ウーセはフランスの女流ピアニストですが、これは38歳の時に東独へ乗り込んでのセッション録音です。彼女は写真で見る限りは、気の強そうなフランス女性に見えますが、演奏のほうも非常に力強く男性的なピアノを弾いています。これを黙って聞かせたらフランス娘だと思う人は居ないでしょう。テクニックも非常に安定していますし、がっちりとした念押しするリズム感覚がドイツのベテラン・ピアニストのようです。マズアもよく感じさせる退屈さは感じさせずに実に立派です。ゲヴァントハウス管の響きが古色蒼然としていて、古き良きドイツの響きを好む人には最高です。ことによるとソリストを含めても”最もドイツ的な演奏”かも知れません。東独エテルナによる録音は分離が明瞭で無く、古めかしさも感じますが、ザンデルリンク/ドレスデン管の録音にも共通したアナログ的な音の柔かさを感じさせます。当時、仏ディスク大賞を獲得したこの演奏は、非常に掘り出し物の名盤だと思います。

8173fa0zdl__aa1459_アリシア・デ・ラローチャ独奏、オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・ドイツ響(1981年録音/WEIBLICK盤) スペインの女流ラローチャの58歳の時のライブ録音です。決して珠を転がすような流麗なピアノではありませんが、アクセントは明確に付けられてメリハリが効いたタッチです。それでも音楽が男性的に聞こえる訳では無く、むしろどことなく優しさを感じさせます。ですので第2楽章などでは荒々しさは無く、おっとりとした雰囲気なのがちょっと物足り無いです。第3楽章は余り深刻にはなりませんが、豊かな情感を感じさせます。終楽章は室内楽的でとてもアットホームな雰囲気なのに心が癒されます。これは彼女の人間性なのかもしれません。ところで余談ですが、若い頃のラローチャは案外ぽっちゃりとして可愛い顔立ちをしていましたが、このころになると年齢相応で、そ・れ・な・りです。年輪を重ねた女性の癒しにも大いに惹かれますが、ビジュアルで比べる場合には、やはり若い美貌のグリモーを取りたいところでしょうか。

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2013年10月 5日 (土)

ブラームス ピアノ協奏曲第1番 続々・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~

本格的な秋の到来となり、いよいよブラームスを聴くのに良い季節となりました。そうしたところ、先日ちょうど良いタイミングで、心待ちにしていたエレーヌ・グリモーが弾くブラームスのピアノ協奏曲第1番と第2番の2枚組CDがリリースされました。この演奏の感想と合わせて、今年新たに加えたCDをご紹介したいと思います。さあさ、今年の秋もブラームス祭りだ、祭りだ、ワッショイワッショイ!

まずはピアノ協奏曲第1番です。さっそくグリモーの新盤からスタートしましょう。

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エレーヌ・グリモー独奏、アンドリス・ネルソンス指揮バイエルン放送響(2012年録音/グラモフォン盤) 

1番と2番をセットにした録音と言うとエミール・ギレリスあたりが印象に残りますが、決して数多いわけではありません。この大作をセットでリリースするのはかなりの自信の表れでしょう。加えてレコード会社の力の入れ具合が良く分ります。指揮はアンドリス・ネルソンスですが、オケが第1番ではバイエルン放送響、第2番はウイーン・フィルと異なりますが、曲の性格からいっても妥当な選択だと思います。

その第1番は、ミュンヘンのヘラクレス・ザールでのライブ録音です。そういえばグリモーが20代後半で録音したザンデルリンクとの旧盤もベルリンでのライブでした。二度ともブラームスの母国のドイツでライブ録音するとは、この曲にどれだけ自信を持っているかが良く分かります。その旧盤はザンデルリンクの指揮が正に最高でしたが、グリモーのピアノもベストを争うほどに素晴らしかったです。そこで今回の新盤ではどんな演奏を聴けるのか興味芯々でした。第1楽章はオーケストラによる長い導入部で始まりますが、ネルソンスの指揮は悪くはないものの、彫の深さと翳の濃さではザンデルリンクとは役者が違うなぁという感じです。録音は旧盤よりもずっと明瞭な割にです。そしてようやくグリモーが登場しますが、旧盤ではザンデルリンクの大河の流れに身を任せて自然体で弾いていた印象でした。それが新盤では、自分自身で音楽の流れを創り出しています。それで再録音の意味合いを理解できました。ピアノのフレージングそのものは旧盤で既に完成されていたので、それほど変わってはいません。けれども細かいダイナミクスの変化やアクセントの付け方の配慮が多分に加わっていて、表現力がかなり増しています。その点では聴いていて非常に楽しめます。ただ、繰り返しますが、旧盤でも音楽は充分に完成されていました。新盤の方が感銘の度合いが飛躍的に高まったということでもないのです。むしろ指揮の貫禄の違いで、元々シンフォニーとしてブラームスが書いたこの曲の分厚い音楽の再現は旧盤のほうが上のように感じます。続く第2楽章では新盤は旧盤よりもずっとテンポを遅めとなり、沈滞したロマンティシズムを極上の美しさで表出させているのが素晴らしいです。部分部分のオケ・パートのキメどころはやはりザンデルリンクが上ですが、全体的には新盤の深みを取りたいような気もします。第3楽章は旧盤では自然なリズム感で強い推進力を感じさせますが、新盤ではアクセントの強調が多く加えられていてとても面白さを感じます。旧盤の一気呵成に突き進む印象は薄くなっています。これは違いを楽しむべきであって、どちらが良いとも好きとも言えません。こうしてみると、旧盤はどちらかいうとザンデルリンクの創り出す巨大な音楽に溶け込んでいた彼女が、新盤では堂々と主役として音楽を自らの手で創り出しています。どちらもが素晴らしいブラームスであることに変わりは有りません。そして彼女がこの曲をどれほど自分のものにしているか感心することしきりです。

419fqkb3cil__sl500_aa300_ブルーノ・レオナルド・ゲルバー独奏、フランツ=パウル・デッカー指揮ミュンヘン・フィル(1966年録音/EMI盤) 若きゲルバーはこの録音当時25歳。ブラームスがこの曲を書いた年齢と同じです。そのせいか何か瑞々しい「青春のブラームス」の印象を感じさせます。その割に、両者とも妙に落ち着き払った大人の雰囲気が有るところも似てはいますが。ゲルバーは既にこの曲を弾きこなすのに十分なテクニックを持ち、或るときは豊かな感受性を前面に出し、或るときは極めて男性的に豪快に弾き切っています。25歳という年齢で、こんな曲をよくも書いたし、こんな演奏をよくもしたりと、ブラームスとゲルバーの二人の天才ぶりに改めて感銘を受けます。ミュンヘン・フィルが、2年前まで指揮をしていたクナッパーツブッシュの影響がまだ残っているのか、しばしば豪快に咆哮するのが楽しいです。それでも決して騒々しくは感じさせないのもクナ譲りです。デッカーは作曲家でもありますが、ゲルバーに負けず劣らずオケを豪快に鳴らしていて見事な指揮ぶりです。ちなみにゲルバーは当時、第2番ではケンぺ/ロイヤル・フィルと録音をしましたが、オケの充実ぶりはこの第1番の方が断然素晴らしいです。

41mkfv28nnlクラウディオ・アラウ独奏、ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1969年録音/フィリップス盤) さすがに名門コンセルトへボウは上手いし、しっとりとした音色が素晴らしいです。フィリップスの録音もそれを忠実に捉えています。ただ、高低弦が厚く充実している割に、中音部の旋律線が良く聞こえて来ないのは残念です。とは言え、全体的にはハイティンクにしてはかなり上出来な部類だと思います。アラウのピアノはライブの時ほど即興性を前面に出しませんが、一音一音に重さが乗った武骨なまでの素朴さがブラームスにはピッタリです。いぶし銀の音色も同様に音楽に適しています。第3楽章あたりは遅めのテンポで少々重ったるい感も有りますし、全体的に「青春のブラームス」というよりは既に壮年期に入ったブラームスのイメージですが、非常に味わいの有る良い演奏だと思います。

41x77ea3xkl__sl500_aa300_ヴィルヘルム・ケンプ独奏、フランツ・コンヴィチュニー指揮ドレスデン国立管(1957年録音/グラモフォン盤) ケンプは元々テクニック主体にバリバリ弾くタイプではありませんし、この曲はどうかなと思いましたが、コンヴィチュニー/SKDとの共演ですので期待して聴きました。モノラル録音ですので、音質が鈍重なのは仕方ありません。全体的にほぼイン・テンポで通し、ルバートを控えた極めて堅実な演奏です。ケンプの打鍵は若い世代の腕前からすれば随分と頼りないものです。「青春のブラームス」には程遠い、老齢者がつまづきそうになりながらも懸命に歩いているという風情です。けれどもこの翁は決してかつての青春時代を忘れない頑固なまでの意志の力が有ります。意外に熱い情熱のほとばしりを感じさせます。オケの音は70年代のザンデルリンクの交響曲全集を期待すると裏切られます。録音が鈍重なせいか、あのいぶし銀の響きは良く聴き取れません。けれども色々とハンディは有りますが、ドイツ音楽の王道を歩んだ二人の巨匠の共演ということで一聴の価値は有ると思います。

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2013年4月 8日 (月)

~クラシック音楽館~ N響定期からエレーヌ・グリモーのブラームス ピアノ協奏曲第2番

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今年1月のNHK交響楽団のB定期演奏会(サントリー・ホール)には、エレーヌ・グリモーがソリストとして登場してブラームスのピアノ協奏曲第2番を弾くと言うので是非とも聴きたかったのですが、平日なので休暇を取らないと行けないなぁ、などとちょっと迷った隙にチケットが完売してしまいました。もう後の祭りです。「いつチケット買うの!今でしょ!」と先生に言われた気がしました。(苦笑)

そのコンサートの録画がついに、Eテレ新番組の「クラシック音楽館」で放送されました。ホント楽しみだったのですよ。なにしろ現役のピアニストで一番好きなのはグリモーです。(ビジュアルでは仲道郁代ですけれども。いえ、もちろんピアノも良いですけどネ。)

グリモーが以前、クルト・ザンデルリンクの指揮で録音したブラームスの協奏曲第1番のCDは本当に素晴らしかったです。ブラームスの晩年のピアノ小品集も素晴らしかったです。どうしてフランス娘の彼女がブラームスをこれほど得意にするのか不思議でなりませんが、なんでも彼女は狼を飼育していて、自分は狼の血をひいていると(本気で?)思っているとかいないとか、ちょっと常人離れした感覚を持っているみたいです。

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演奏が始まる前のインタヴューで、グリモーが興味深いことを話していました。

「第1番はすぐに自分に無くてはならない曲に思えましたが、第2番は中々そうは思えませんでした。最近ようやくそう思えるようになったので演奏会で弾き始めたのです。私はそう思えない曲は弾きませんから。そして面白いことに気が付きました。これはブラームスと同じだからです。彼はこの曲を書くのに大変長い時間がかかったからです。」
そんな内容でした。

ちなみに指揮をするのはデーヴィッド・ジンマンです。正直言って、指揮者は誰でも良かったのです。もしもザンデルリンクが生きているなら話は別ですけれど。まぁ、そんな風に言っては元も子もないので期待して聴きましょう。

そして演奏が始まりました。(前プロについては省略します。ブゾーニの短い曲とシェーンベルクの「浄夜」です。もちろんオケだけの演奏です。)第1楽章はグリモーはよく弾いてはいますが、何かいつものインスピレーションが感じられません。難しいスケールも完全に音になっていないように聞こえます。それにしてもこの曲は本当に難しいですね。テクニックだけ有ってもどうにもなりませんが、テクニックが無くても音楽になりません。グリモーの演奏は、まだ充分に弾き込んでいないような未完成さを感じました。第2楽章は第1楽章よりも上出来でしたが、彼女にはもっと期待したいところです。第3楽章はいかにもグリモーらしい深々と沈滞した素晴らしい演奏だったと思います。第4楽章は軽やかなのだけど、もっとブラームスらしい含蓄が欲しかったです。

全体を聴き終えて思い出したのが初めのインタビューです。彼女にとってはこの曲はまだ完成途中なのではないかと。更なる時間が必要なのではないでしょうか。彼女にはもっともっと閃きに溢れた演奏を期待しますし、それが可能になった時にレコーディングを行ってくれることと思います。現在の彼女の演奏を聴けたことは大変嬉しいのですが、この程度では決して満足できません。彼女のファンであればこそ更なる高みの演奏を期待するのです。

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2012年10月25日 (木)

ブラームス ピアノ協奏曲第1番 グレン・グールドと レナード・バーンスタイン ~歴史的?演奏会~

朝晩めっきり冷え込んで来ましたね。まさに秋本番です。

秋は夕暮。うら寂しく、人を恋しく思うころ、ひとり窓より外を眺め、ブラームスの調べなど聴きたるは、いとをかし。(清少ハル納言)

これは一昨年に、ブラームスのチェロ・ソナタの記事を書いた時の一句ですが、中々にブラームスの音楽の魅力を言い当てていると思いませんか?秋の深まる季節に、ブラームスの音楽ほど似合っているものはありません。

というわけで、今年もまた「秋のブラームス特集」ですが、まずはピアノ協奏曲第1番で行きましょう。

この曲はブラームスの作品15で、彼が23歳から25歳にかけて書いた曲ですが、まぁなんて曲なのでしょうね。まだ青春時代だというのに、まるで初老の作曲家が遠い昔を懐古しているような趣きです。ブラームスは若いころはあんなに可愛らしい顔をしているのに、精神的には完全に「とっつぁん坊や」ですね。しかもこの曲の完成度は並み大抵ではありません。古典的な3楽章構成にして、50分近くの長丁場を少しも飽きさせない、驚くほど充実したピアノ協奏曲です。第2番と並んで、「ピアノ協奏曲」というジャンルにおける頂点ではないでしょうか。それを、まだ20代前半に書いてしまうのですから、これを「奇跡」と言わずして何と言いましょう。

この曲の愛聴ディスクについては、「ピアノ協奏曲第1番名盤」「ピアノ協奏曲第1番 続・名盤」で二度記事にしていますが、今日は、ちょっと別の演奏を聴いてみます。グレン・グールドとレナード・バーンスタインの歴史的?な演奏会の録音です。

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時は1962年4月6日、ニューヨークのカーネギーホールのステージの上からバーンスタインが客席に向かってスピーチをしています。

「驚いてはいけませんよ。ミスター・グールドはちゃんと来ています。」(観客の笑い)

どうしてこんなことを言ったかというと、リハーサルの段階で曲の演奏解釈についてグールドとバーンスタインとの間で論争が起きてしまい、それを新聞が「Who is the boss? Soloist or conductor?」(誰がボスなのか?独奏者、それとも指揮者?)という記事にしたために騒動になっていたからです。

さらに、バースタインのスピーチは続きます。

「これから、かなり型破りのブラームスのピアノコンチェルトを聴いてもらいます。並外れて幅の広いテンポ、楽譜の指示を無視したダイナミックスは、これまで聴いて来た演奏とは全く異なります。但し、私はグールドの解釈に賛成は出来ません。
それでは、なぜ指揮をするのか?という疑問ですが、それはグールドが真剣な芸術家だからです。その彼が誠意をもって生み出したものであれば、私もそれを真剣に受け止める必要があります。彼の解釈は非常に興味深いものであり、それを皆さんに聴いて頂きたいからです。

コンチェルトにおいて、独奏者と指揮者のどちらがボスかという問題ですが、時には一方、またあるときはもう一方というのが答えです。しかし今回は、お互いの意見が余りにも異なるために、このようなスピーチを行わなければならなくなりました。 
しかし、演奏され尽くしたこの作品に、新しい装いを与えられるチャンスを持てることは喜びです。ミスター・グールドの演奏には、彼の信念が浮き彫りにされています。私たちは、この並外れた芸術家から何かを学び取ることが出来るでしょう。
このブラームスのコンチェルトをミスター・グールドとコラボレートする一週間は正に冒険でした。その冒険の精神を持って、皆さんにこの演奏をお届けします。」

以上がスピーチの概要です。このCDにはスピーチがそのまま(もちろん英語で)収録されています。これを聞いたら絶対に演奏を聴いてみたくなりますよね。

で、演奏を実際に聴いてみた感想です。

第1楽章は確かに遅めのテンポで開始されます。最も遅い部類です。けれども演奏が珍奇かというと、決してそんなことはありません。僕などは堂々とした良いテンポに感じます。ただしオーケストラは幾らか戸惑いを感じているようで、全体的にどことなくしっくりしていないかもしれません。むしろ、それよりも気になるのは、ニューヨーク・フィルの響きです。オン・マイクの録音の影響も大きいとは思いますが、普段ドイツのオケで聴ける、ぶ厚く暗いブラームスの響きからはほど遠いです。アメリカのオケのブラームスの音への適応性は諦めるしかないでしょう。アンサンブルも、少々がさつに聞こえます。ただし、名人揃いのオケですので、管のソロ・パートの演奏には文句が有りません。
グールドのピアノは、テクニックを誇示する様な演奏では有りません。一音一音に心を込めて弾いています。そこかしこに孤独感を感じさせる趣がブラームスに適しています。ブラームスとグールドの二人の青春の孤独感が、そのままピタリと重なり合うように感じられます。聴き進むうちにオケの響きも気にならなくなります。

第2楽章では、さらに深く心の底に沈滞してゆく雰囲気がたまりません。グールドもバーンスタインも、本質的に極めてロマンティックな演奏家ですが、この曲はやはりこうでなくては。孤独でロマンティックな音楽にすっかり浸りきってしまいます。

第3楽章は情熱的ですが、ことさらテンポを速めて煽るわけではなく、ずっしりとした男っぽい手ごたえを感じます。表面的で、単にスマートなだけの演奏とは全く違います。

これは、演奏前のスピーチから想像されるような珍奇な演奏などでは決してありません。ブラームスの心の内にある青春の孤独感と一体になった素晴らしい演奏だと思います。

演奏終了後の盛大な拍手も収録されていて、この日の聴衆が満足し切った様子が手に取るように分ります。

この曲のリファレンスとしては、エレーヌ・グリモーがクルト・ザンデルリンクと組んだCDを第一に選びますが、このCDも天才グールドの残した歴史的ライブの演奏を聴くことが出来る点で大変貴重です。

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2011年11月26日 (土)

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 続々・名盤

ブラームスのピアノ協奏曲の第1番に続いては第2番です。昔は1番に比べて2番のほうを好きな度合いがずっと強かったのですが、ルプーの素晴らしい1番の生演奏に触れてからはその差がずっと縮まりました。それでもやはり2番を上位に置きたいのは、スケルツォに相当する素晴らしい第2楽章が有るからです。もしも2番にこの楽章が無くて、1番と同じ3楽章構成だったとしたら、2曲のポジションは逆転するかもしれません。ブラームジアーナーの心をぐらぐらと揺さぶるこの楽章の存在は大きいと思います。

この曲は既にブラームス ピアノ協奏曲第2番 名盤、それにブラームス ピアノ協奏曲第2番 続・名盤で愛聴盤をご紹介しました。今回はそれ以外のディスクについてのご紹介なのですが、ところがどっこい、それは単なる落穂拾いなどでは無く、大変に個性的なつわもの達が登場します。

129クリフォード・カーゾン独奏、クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1958年録音/DECCA盤) 昔LP盤で聴いていた頃には、締まりの無い気の抜けた演奏に思っていました。それが今では、実にゆったりとして味わい深い演奏に感じられます。年齢のせいでしょうね(苦笑)。まず当時のウイーン・フィルの弦と管の柔らかい音が素敵です。3楽章など絶品と言えます。クナもライブの豪快さとは違って、気楽にくつろいでいるかのような演奏ですが、それでいて所々で聞かせる濃い味わいはさすがに巨人指揮者です。カーゾンも力みやハッタリの全く感じられない誠実なピアノで好感が持てます。音質もオリジナルのモノラルでリマスタリングされて明解になり、ステレオ録音と間違えるほどです。

Evgeny_mravinskyimg600x578128540626クラウディオ・アラウ独奏、マルケヴィチ指揮フランス国立管(1976年録音/INA盤) クナの後にはマルケヴィチと大変な指揮者が続きます。しかもピアノはアラウですので、興味芯々です。これはローザンヌ音楽祭のライブ録音ですが、音質は明瞭です。冒頭から両者が相手に合わせると言うよりも自分のペースで演奏する感が実に楽しいです。これでこそ一期一会のライブです。それでいて、いつの間にか両者ががっぷり四つに組み合ったスケール大きい演奏にぐいぐい惹きこまれてしまいます。スタジオ録音だと案外と退屈してしまうことのあるアラウは実演のほうが断然面白いと思います。

659スティーヴン・コヴァセヴィチ独奏、サヴァリッシュ指揮ロンドン・フィル(1993年録音/EMI盤) 実はコヴァセヴィチの演奏は、このブログでひゅーいさんから教えて頂いて聴いてみたのですが、確かに非常に素晴らしいです。1番の演奏も良いですが、2番は更に良いと思います。遅めのテンポでゆったりとした構えにとても安心感が有ります。音も美しく、テクニックにも充分余裕が有りますが、聴き手を驚かすようなこれ見よがしな表現が全くありません。サヴァリッシュの指揮も同様で、とてもピアノに相応しい極めて誠実な音楽造りをしています。

Brahms_pcon2_axエマニュエル・アックス独奏、ザンデルリンク指揮ベルリン・ドイツ響(1997年録音/sardana盤) ブラームス演奏にかけては比類の無いザンデルリンクのこの曲の正規盤が存在しないのは残念ですが、海賊盤CD-Rで最晩年のライブを聴くことが出来ます。ピアノはアックスです。この演奏には、あの交響曲全集の重厚で味わい深いブラームスそのものが有ります。例によって念押しするリズムが極めてドイツ的ですが、もたれることはありません。内声部の音が大きく物を言っているのも流石はザンデルリンクです。驚かされるのはアックスが、実にドイツ的で重厚なピアノを弾いていることです。この人って、こんなに素晴らしい演奏家でしたっけ?アメリカ人かと思っていたら、ユダヤ系のポーランド人なのですね。両者の演奏は、1楽章から素晴らしいですが、2楽章の巨大な波に揺さぶられるような音楽の大きさはどうでしょう。3楽章の味わいの深さも並みではありません。4楽章は肩に力の入らない悠然とした歩みですが、やはり味が有ります。デジタル録音による音質も優秀で、正規盤でも充分に通用するほどです。

<後日記事>
ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤
ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新々・名盤

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2011年11月23日 (水)

ブラームス ピアノ協奏曲第1番 続・名盤 ~ポリーニ/ティーレマン新盤 他~

ブラームスは自身が名ピアニストであっただけに、ピアノの為の協奏曲やピアノを含む室内楽曲は、どれもが大変な力作です。中でも2曲の協奏曲は充実仕切った傑作中の傑作なので、何度聴いても飽きることが有りません。その第1番については旧記事の「ブラームス ピアノ協奏曲第1番 名盤」で、愛聴盤をご紹介しました。その中のルプー盤とグリモー盤は、どちらもザンデルリンクの比類ないオーケストラ伴奏もあって、現在でも不動のトップ2の位置を占めています。 けれども、その時に触れていなかった演奏にも素晴らしいものがまだまだ有りますので、続編としてご紹介させて頂きます。一番新しいものは、今年の6月に録音されたポリーニとティーレマンの共演したライブ盤です。初めはこのディスクを単独で記事にしようかとも思いましたが、他のディスクも皆素晴らしいことから、まとめた形で取り上げました。

4111090512マウリツィオ・ポリーニ独奏、ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2011年録音/グラモフォン盤) ポリーニのブラームスが特に好きなわけではありませんが、ティーレマン/SKドレスデンの伴奏とあっては興味芯々でした。これはドレスデンのゼンパーオーパーでのライブ演奏です。ティーレマンの指揮はイン・テンポでは無く、幾らかテンポを動かして効果を狙っています。そこが面白くも有る反面、やや矮小さを感じるという結果を生んでいます。SKドレスデンの響きは期待通り柔らかさと深みが有って素晴らしいです。録音も僕が二度聞いた生の音色にとても近いと思います。ポリーニのピアノは、30年前のベーム盤に比べて力んだ硬さは取れていますが、基本的なスタイルは大きく変わりません。とても立派ですが、少なくとも僕にとっては心に浸み渡るようなブラームスの音ではありません。2楽章が良い例で、曲に陶酔させてくれないのです。この人が老練な円熟したピアノを聞かせるようなことは果たしてこの先あるのでしょうか。けれども面白く感じたのは3楽章です。大抵の演奏が、速いテンポの熱演になりますが、この演奏にはある種の余裕を感じます。両者が”楽しんで”演奏している印象です。結論を言うと、優れた録音で今が旬のティーレマンとSKドレスデンのいぶし銀の音と、ポリーニの現在が聴けるこの演奏は、それだけでも充分に聴く価値が有ると思います。先に何となく否定的な感想を書いてしまいましたが、是非ともご自分の耳と感性でお聴きになられてみて下さい。そして感想をお聞かせ頂ければ嬉しく思います。

129クリフォード・カーゾン独奏、セル指揮ロンドン響(1962年録音/DECCA盤) 冒頭のセルの指揮するロンドン響の音の充実ぶりに驚きます。翌年のモントゥーの演奏とはまるで別のオケに聞こえます。カーゾンのピアノは少しも力んだところが無く、淡々としていながらも、しみじみとした味わいに溢れています。テクニックにも特に不足を感じることは有りません。この深い音楽を表現するのには充分過ぎます。デッカの録音も優秀です。

Schucci00019bジュリアス・カッチェン独奏、モントゥー指揮ロンドン響(1963年録音/DECCA盤) カッチェンのブラームスは、やはり素晴らしいです。力強く骨太のフォルテとデリカシーに富んだピアニシモのタッチがブラームスにピッタリです。1、3楽章の荒々しいほどの男っぽさと、2楽章の優しさとロマンティックで陰影の深い情感が、どちらも素晴らしいです。モントゥーの指揮も気力充分で良いのですが、ロンドン響の音が粗削りなのに少々不満が残ります。なお、同時期のコンヴィチュニー/ゲヴァントハウスとのライブ盤も素晴らしい演奏なのですが、モノラル録音なのが残念でした。

569クラウディオ・アラウ独奏、クーベリック指揮バイエルン放送響(1964年録音/オルフェオ盤) ミュンヘンでのライブ録音です。アラウのピアノは、ゆったりとした構えで少しもせせこましさを感じない大家風の演奏です。底光りするような音色も美しいですが、フォルテの幾らか荒々しいほどの力強さも曲にピッタリです。何よりも大人の味わいがブラームスに実に向いています。特に2楽章の味わいは格別です。オーケストラのスケール大きく厚い音も素晴らしいですし、録音が優秀なのも非常に嬉しいです。

200911102140181beマウリツィオ・ポリーニ独奏、ベーム指揮ウイーン・フィル(1979年録音/グラモフォン盤) ポリーニのこの曲の最初の録音です。まずベームがウイーン・フィルから醸し出す重厚な響きに魅了されます。そして、音楽全体の主導はベームにあるように思います。若きポリーニのピアノは剛鍵とも言えるもので、力強く迫力ある音には圧倒されますが、反面硬さを感じます。繊細な部分の情感にもそれほど深みを感じません。大変立派な演奏には違いありませんが、心に浸み渡って来る具合がどうも今ひとつです。

Brahms373d5f4706567bc52f93a1e6afa22 アルフレッド・ブレンデル独奏、アバド指揮ベルリン・フィル(1986年録音/フィリプス盤) ベルリン・フィルの明るく派手な響きはブラームスの曲には余り向いていない場合が多いのですが、このCDも例外ではありませんでした。しかし若い時代の作の第1番の方が第2番よりは抵抗感は少ないです。円熟期に入ったブレンデルのピアノは美しく、しかし華奢にならないのが良いです。そうしてみると優秀で雄弁なオーケストラの伴奏に溶け合ってブラームスの滋味さえ感じさせてくれ、聴いていて心地が良くなります。これは名盤の一つに数えて差し支えありません。

659スティーヴン・コヴァセヴィチ独奏、サヴァリッシュ指揮ロンドン・フィル(1991年録音/EMI盤) この人の生演奏は日本でも聴いたことが有りますが、とても誠実でオーソドックスな印象でした。この演奏でも、自然な流れで味わいの深いブラームスを聞かせてくれます。タッチも美しいですし、力強さとテクニックにも不足は有りません。サヴァリッシュの指揮も素晴らしく、音の薄いロンドン・フィルに精一杯の力演をさせています。一聴したところそれほど強い印象は残らないのですが、不思議と後味の良い演奏です。繰り返し聴くほどに味の出てくるスルメのような演奏でもあります。

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2010年12月18日 (土)

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 続・名盤

すっかり冷え込んできました。北国や山では雪だそうです。いよいよ本格的な冬の到来ですね。晩秋に聴くのが最高のブラームスもそろそろ賞味期限切れ(?)です。冬にはやはりロシア音楽ですからね。さあ年末のブラームス祭りもいよいよ本日限りです。とすれば、やはりこの曲になるでしょう。

古今の数多くのピアノ協奏曲の中で僕の最愛の曲は何かといえば、間違いなくブラームスの第2協奏曲です(もちろんチャイコフスキーも大好きですし、モーツァルトの何曲かも別格ですけど)。交響曲以上に好きかもしれません。以前にも旧記事の「ブラームス ピアノ協奏曲第2番 名盤」で愛聴盤をご紹介しましたが、その中でもバックハウス/ベーム盤は、何度聴き返しても飽きるどころか、毎回新たに良さを発見するという最高の名演奏だと思っています。とは言うものの前回触れなかった演奏にも、とても気に入ったものがありますので、その続編としてご紹介したいと思います。

Brahs250 ハンス・リヒター=ハーザー独奏、カラヤン指揮ベルリン・フィル(1958年録音/EMI盤) オールドファンには知られた演奏だそうですが、僕が聴いたのは割と最近です。バックハウスよりもドイツ的だという記事も見かけたことが有り、ある部分言い得ていると思います。但しバックハウスが一貫して堂々としているのに対して、この人の場合は、時に僅かではありますが、せわしなさを感じる部分が有ります。とは言え、バックハウスよりも豪快さで上回り、情緒的な部分は大変美しいですし、これだけ立派な演奏にもそうそうお目に掛れないと思います。録音年代のわりにピアノの音がしっかり録れていますし、ベルリン・フィルの響きも少々こもってはいますが標準的なレベルです。

1198010917 ゲザ・アンダ独奏、フリッチャイ指揮ベルリン・フィル(1960年録音/グラモフォン盤) アンダはこの曲を得意としていたようで、幾つもの演奏が有ります。’67にはカラヤンとも録音していますが、フリッチャイ/ベルリン・フィルと’60に録音を残してくれたのは嬉しいです。フリッチャイのゆったりと深みのある伴奏に乗って、アンダの実に男っぽいながらもデリカシーを持ち合わせた素晴らしいピアノを味わえます。正にブラームスを聴く醍醐味です。録音も良いので当時のベルリン・フィルのドイツ的な響きが聴けるのが大変嬉しいです。

Brahms_pcon_anda ゲザ・アンダ独奏、クーベリック指揮バイエルン放送響(1962年録音/オルフェオ盤) フリッチャイ盤から2年後のミュンヘンのヘラクレス・ザールでのライブ録音です。一瞬ステレオかと聴き間違える位に明晰なモノラル録音です。この演奏もとても魅力的です。堂々たる演奏なのですが、ライブならではの即興性を感じてとても楽しめます。クーベリックの指揮の影響か、フリッチャイ盤よりもテンポは速めです。熱気が非常に有りますが、勇壮さと陰影の深さが素晴らしく、ブラームスの音楽に非常に適しています。

Schucci00019b ジュリアス・カッチェン独奏、フェレンチク指揮ロンドン響(1967年録音/DECCA盤) カッチェンと言えばやはりブラームス。早逝する前にこの曲の録音を残してくれていたのは嬉しいです。非常に力強いタッチがブラームスにピッタリです。荒々しさを感じますが、決して乱暴には聞こえません。沈滞する部分では共感を持って美しく奏でています。この人はやはり天性のブラームス弾きだったと思います。フェレンチクの指揮は悪くありませんが、ロンドン響の音は時に薄く聞こえてしまい、ブラームスの分厚い響きを再現するにはやや物足りない印象です。

51dx28dv2fl__sl500_aa240_ ブルーノ・レオナルド・ゲルバー独奏、ケンぺ指揮ロイヤル・フィル(1973年録音/EMI盤) ドイツ音楽を得意とするゲルバー32歳の時の録音です。どうしてそんな若さでこれほど大人のブラームスを表現できるのか不思議です。タッチも美しいですが、何よりゆったりとした構えで少しもせわしなさを感じません。問題はロイヤル・フィルの音が薄いことです。ケンぺの指揮をもってしてもどうにもならなかったようです。ピアノは素晴らしいのに残念です。但し、このEMI廉価盤には独奏曲の「16のワルツ」作品39が収められていて、通称「ブラームスのワルツ」の第15曲が聴けるのが嬉しいです。

Brahms_gilels エミール・ギレリス独奏、ヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1973年録音/AUDIOPHILE盤) コンセルトへボウ・シリーズの1枚ですが、同じコンビのグラモフォン盤の翌年のライブ録音です。以前にも書きましたが、グラモフォン盤のベルリン・フィルの音は威圧的なのでブラームスとしてはどうかと思います。響きの点ではこちらのコンセルトへボウのほうが好きです。ギレリスの弾くピアノはほぼ同じで、いわゆる「鋼鉄の音」の迫力は健在です。録音はグラモフォン盤に比べれば劣りますが、ライブ録音としてはそれなりです。

Brahmspf2_2 マウリツィオ・ポリーニ独奏、アバド指揮ウイーン・フィル(1976年録音/グラモフォン盤) 僕はそれほどには感じませんが、この曲はブラームスのイタリアへの憧れが反映されていると言われます。その点、イタリアン・コンビの演奏はドイツ的な晦渋さからは解放されています。若きポリーニのピアノも切れの良いテクニックで颯爽としているので、沈滞するようなブラームスらしさは感じません。時にはこういうブラームスも良いのかもしれませんが、筋金入りのブラームス好きには幾らか物足りないかもしれません。ウイーン・フィルの響きが厚く捉えられた録音なのは嬉しいです。

795 ミシェル・べロフ独奏、ヨッフム指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1979年録音/WEITBLICK盤) このディスクの目当ては実はSKドレスデンでした。オケの重心の低い響きは圧倒的です。ヨッフムとしても、前述のコンセルトへボウやベルリン・フィルと比べてずっと上回る指揮ぶりです。ベロフもドビュッシーなどを弾くときとは別人のような熱演であり、打鍵は荒々しいぐらいですしテンポも前のめりなのですが、不思議と惹きつけられます。難点はマスタリングが、恐らくはイコライジング過多だと思いますが、高音強調型なことです。これではせっかくのSKドレスデンの音色の魅力が半減です。とは言え、それでも尚、魅力的なことには変わりません。

51utxbxft6l__ss500_ クリスティアン・ツィメルマン独奏、バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) まだ27歳という若きツィメルマンの演奏です。初めて冒頭の何十小節かを聴いた時は、「なんて凄い演奏だ!」と思いました。表情の彫の深さといい、打鍵の美しさといい申し分無かったからです。ポリーニのほうがよほど青二才に思えました。けれどもだんだん聴いているうちに、特にゆったりとした部分で間がもたないのですね。こういう処はバックハウスや他の巨匠の至芸には及びません。バーンスタインも力演ですが、音楽に含蓄の深さは余り有りません。それでも、大変美しく分かりやすい演奏なので、初めてこの曲に親しもうという方にはお勧めできます。

というわけで、この中から愛聴盤1部リーグへ昇格させて良いのは、リヒター=ハーザー/カラヤン盤とアンダ/フリッチャイ盤です。ベロフ/ヨッフム盤にも中々に惹かれるのですが。

<後日記事>
「ブラームス ピアノ協奏曲第2番 続々・名盤」
「ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤」
「ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新々・名盤」

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2008年10月25日 (土)

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調op.83 名盤

ブラームスの残した2曲のピアノ協奏曲はどちらも大曲です。2曲とも演奏時間が50分を越える演奏も有りますし、この人のどの交響曲よりも長大な作品です。管弦楽パートは実に充実して響きは分厚くスケールが大きいので「ピアノ独奏を伴う交響曲」とも呼べるでしょう。事実当時のウイーンの評論家ハンスリックもそのように述べました。早い話が「交響的協奏曲(シンフォニック・コンツェルト)」なのですね。

僕は高校生の頃にブラームスの交響曲が大好きになったのですが、ピアノ協奏曲についてはそれまで一度も聴いたことが有りませんでした。そこで、ある日レコードを買うことを思い立ち、当時新盤のギレリス独奏、ヨッフム/ベルリン・フィルのLP盤を買いました。ところが、そのレコードを聴いてみたのですが良く分かりませんでした。長過ぎてつかみどころが無かったのです。今思えば、高校生の若造が一度聴いて理解出来るような曲でしたら、とっくに世の中から飽きられていることでしょう。何度も聴き返し聴くうちにだんだんと気に入り、いつしかブラームスの中でも最愛の2曲になっていました。

第2番は疑いなく古今のあらゆる協奏曲のジャンルの最高峰だと思います。かの楽聖の「皇帝」でさえもひれ伏す、正に「協奏曲の王様」ではないでしょうか。曲の構成もユニークな全4楽章から成ります。通常の3つの楽章に更にスケルツォが加わるのです。

第1楽章アレグロ・ノン・トロッポ ソナタ形式で長大でシンフォニック。ホルンのゆったりとしたソロにピアノの分散和音が寄り添う序奏からして、もうぐっときてしまいます。その後もピアノとオーケストラが丁々発止と渡り合って全く飽きさせることがありません。

第2楽章アレグロ・アパショナート 大海のように勇壮なスケルツォ楽章です。スケールの大きさはマーラーのシンフォニーのそれにも匹敵するでしょう。けれども曲想はいかにもブラームス風なので魅力充分です。

第3楽章アンダンテ ゆったりとした緩徐楽章です。秋も深まった頃に聴くと一層に味わい深いです。チェロのしみじみとした独奏が長々と続くのも大きな聞きものです。

第4楽章アレグレット・グラチオーソ 軽快なロンド楽章です。この楽章は作曲期間中の2回のイタリア旅行の影響があるので明るいとよく言われるのですが、そこはブラームスのこと。メンデルスゾーン先生のような脳天気な明るさには到底なりません。それでも終楽章が軽やかなので曲を聴き終った後にどっと疲労することがありません。もしも仮にこの楽章が重々しい曲だったら、まるでマーラーやブルックナーを聴いた後のように(良い意味で)どっと疲れ果てることでしょう。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

Cci00028 ウィルヘルム・バックハウス独奏、カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1967年録音/DECCA盤) 僕が最も愛してやまない演奏は、宇野功芳先生ではないですが、やはりバックハウス盤です。晩年のバックハウスのピアノは本当にしみじみとして心の奥底に染み入る美しさです。決して力で押しまくるようなことは無いのですが、堂々としていて威厳が有り、実に立派なピアノです。普通のピアニストが軽く弾く最終楽章でも、ゆったりと一音一音を慈しむかのように弾き進める愉悦感は、他のピアニストからは決して味わえません。どの部分をとっても含蓄の深さを感じるので何度聴いても飽きることが有りません。強いて不満を言えば、ベームの指揮は大変立派なのですが、ウイーン・フィルの音がDECCA録音ということも手伝い、透明感が有り過ぎて(音響的に)分厚さ感がやや不足することぐらいでしょうか。

Cci00027アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管(1971年録音/RCA盤) ルービンシュタインのブラームスも非常に素晴らしいです。最近では、さっぱり話題に登りませんが、これはバックハウスに次いで味わいの深い名演奏だと思います。それはルービンシュタイン晩年の録音だということもあるでしょう。オーケストラの音はやや明るめですが違和感を感じる程ではありませんし、オーマンディのリズム感もずっしりと落ち着いていてブラームスらしく、とても好ましいです。これはもっと多くの人の話題に上がって良い名盤です。

Cci00025アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、ヴィトルド・ロヴィツキ指揮ワルシャワ・フィル(1960年録音/Muza盤) ルービンシュタインには1960年のライブ録音もあります。この2枚組みのCDには、親切にもステージ・リハーサル(中断無しの通し練習)とコンサート本番の両方の録音が収められているので、とても楽しめます。ルービンシュタインの祖国ポーランドでの演奏会ですので、RCAへのスタジオ録音とはまるで違った気迫が感じられます。ピアノのミスタッチが幾つも有るのはご愛嬌ですが、ほとんど気にもなりません。これは隠れ名盤であり、個人的にはRCA盤以上に好んでいます。

Brahms617ukoewu5l_sy355_  アルトゥール・ルービンシュタイン独奏、クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮ケルン放送響(1966年録音/ICA CLASSICS盤) これは1966年のチューリッヒでのライブ録音ですが、オーケストラがケルン放送響というのが嬉しく、ドイツ的な分厚い響きは当然ですがワルシャワ・フィルを凌駕しています。ルービンシュタインも相変わらず男性的で豪壮なピアノが素晴らしく、ここでもミスタッチなど少しも気になりません。曲が進むにつれて両者の気迫がどんどんと増していき、思わずのけ反りたくなるような迫力と充実感に圧倒されます。録音も良いのすし、ルービンシュタインだけに限らず、この曲のベスト演奏の一つに数えたいと思います。

075ルドルフ・ゼルキン独奏、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1966年録音/CBS盤) バックハウス、ルービンシュタインと来れば、ここはオールド・ファンの為にはゼルキンに登場してもらうしかないでしょう。第1番と同じジョージ・セルとのコンビの演奏ですが、演奏そのものはピアノとオケのどちらに関しても第2番のほうが更に充実しています。この頃のゼルキンのピアノにはまだまだ若々しさがあります。この人の壮年期の演奏は本当に気迫がもの凄かったです。これもとても好きな演奏です。

51yrcvk8tl__sl500_aa300_ エミール・ギレリス独奏、オイゲン・ヨッフム/ベルリン・フィル(1972年録音/グラモフォン盤) LP盤では愛聴しましたが、そのうちにベルリン・フィルの余りに豪放な響きがブラームスには似合わない気がするようになりました。しかし、これほどまでに壮大でスケールの大きな演奏も珍しく、聴き応えは充分です。またギレリスは余裕のテクニックで弾きこなしていますが、第3楽章などでは淡々と深い抒情性を感じさせます。これはやはりこの曲の名盤の一つとして上げておかねばならないでしょう。

035イヴァン・モラヴェッツ独奏、イルジー・ビエロフラーヴェック指揮チェコ・フィル(1988年録音/スプラフォン盤) 第1番と同じ演奏家ばかりが並んでしまうのは申し訳ないのですが、このモラヴェッツ盤も大好きです。ここでも第1番と同じように、テクニックだけでない非常に音楽的な名人芸を披露していて大変に魅了されます。およそ"愉しさ"という点では随一の演奏ではないでしょうか。但しビエロフラーヴェックの指揮は割に平凡でオケの音も厚みに不足します。録音はデジタルで非常に優秀なのが嬉しいです。

P2-71thhrjtdl_ac_sl1425_ 二コラ・アンゲリッシュ独奏、パーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放送響(2009年録音/ERATO盤) これはずっと新しい録音となります。フランス系ですがドイツ音楽を得意とするアンゲリッシュにとってブラームスは重要なレパートリーです。卓越したテクニックで難曲を悠々と弾きこなしていて爽快です。随所でちょっとしたルバートや音のタメを利かせるのは、伝統的なドイツスタイルの味わいを感じさせます。ただし重ったるくなることは有りません。パーヴォが統率している管弦楽も非常に充実しています。これは先行した第1番の協奏曲と並ぶ新鮮な名盤です。

それにしても何度聴いても飽きない名曲中の名曲ですね。まだまだ素晴らしい演奏が沢山有りますので、それらについては下記の記事からご参照ください。

<補足>
ルービンシュタインの1966年盤、アンゲリッシュ盤を追記しました。

<後日記事>
ブラームス ピアノ協奏曲第2番 続・名盤
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ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤
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