名指揮者

2014年6月27日 (金)

ハンガリー国立フィル 2014日本公演 ~小林研一郎のチャイコフスキー~

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ハンガリー国立フィルはハンガリーを代表するオーケストラですが、以前はハンガリー国立交響楽団の名称で呼ばれていました。コバケン(小林研一郎)がかつて音楽監督を務めたことでも知られています(現在は桂冠指揮者)。もう十数年も前にこのコンビで来日してマーラーの「復活」を聴かせてくれましたが、その素晴らしい演奏を忘れることは出来ません。

コバケンがブダペスト指揮者コンクールに優勝して今年でちょうど40周年なのですね。コンクール以降、ハンガリーですっかり人気指揮者となったコバケンでしたが、よほどハンガリーの国民気質と合ったのでしょう。いわゆるマジャール気質ですね。良く分る気がします。(笑)

そのハンガリー国立フィルが再び来日してくれて、コバケンの指揮するコンサートが昨夜サントリーホールで有りましたので聴きに出かけました。何か、しばらくぶりに旧友に会うような嬉しさで一杯でした。

客席はほぼ満席でした。やはりコバケンは人気が有りますね。

それにしてもコバケンももう74歳ですが、ステージに上がると全く(!)年齢を感じさせません。小走りに登場して指揮台に登り、大きくうなり(笑)、エビぞりになって(笑)、ダイナミックに(笑)指揮します。本当に驚きですね。

昨夜のプログラムは、下記の通りです。
グリンカ ルスランとリュドミラ序曲
チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」

まぁ定番のロシアン・プログラムですが、コバケンとハンガリアン・フィルのマジャール・コンビの演奏にも大いに期待しました。ちなみに協奏曲の独奏は千住真理子さんです。

さて、コンサートですが、グリンカは前プロですし、ウォーミングアップということで良かったように思います。

ヴァイオリン協奏曲では千住さんが真紅のドレスで登場して来ました。彼女は中々に好み(何が?)なので、どんなドレスで登場するか毎回楽しみです。何歳になっても知的で可愛らしい印象が変わらないで良いですねぇ(ドキドキ♡)
演奏については、やはりこの曲は難曲だなぁという印象。技巧だけでも大変だけど、音楽の魅力を引き出すのがまた大変。ロシアの巨匠が弾いてようやく本当の魅力が現れるというように思います。千住さん、頑張って弾いていたので、心の中で一生懸命応援しましたが、やはり曲が難曲過ぎる。でもイイんです。あの美しいお姿を見ているだけでも充分に満足です。
オーケストラは第一楽章の途中までは響きが今一つだったかもしれませんが、中盤過ぎから響いてきましたね。あの暗めだけれど芳醇な懐かしい音が響いてきました。あー、これこれ、これがマジャールの音!

プログラム後半の「悲愴」は聴きものでした。1楽章途中のアレグロヴィーヴォからの壮大なカタルシス!さすがはコバケンです。
2楽章も美しかったですが、三楽章のマーチは凄まじい迫力でした。でもオーケストラが単に音響的に鳴っている虚しい迫力とは異なります。
しかし本当の聴きものは終楽章です。パッションが籠りきった分厚い音の奔流に圧倒されました。全ての物を流し去るような凄みが有りました。
テミルカーノフとサンクトべテルブルグ・フィルの実演の「悲愴」は衝撃的でしたが、その次に感動した演奏だったように思います。

アンコールはブラームスのハンガリア舞曲から第1番と第5番です。わざわざコバケンが「変わった演奏です」と前置きを置いて演奏されましたが、本当にデフォルメが凄かったです。それはまるでハンガリーのジプシーがヴァイオリンを自由自在に演奏する様な趣でした。パーヴォ・ヤルヴィがフランクフルト放送響と聴かせてくれた同曲のアンコール演奏もデフォルメが圧巻でしたが、ジプシーの情念を濃厚に感じさせてくれる点で、昨夜のコバケンに軍配を上げたいと思います。なにせ演奏するメンバーは皆ジプシーの子孫達ですものね。

このコンビの演奏はまた聴けるチャンスが有るでしょうか。有ると良いなぁ。

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2013年12月 8日 (日)

エフゲニ―・ムラヴィンスキー 「ライヴ・セレクション 1972、1982」

”ロシアの生んだ最高の作曲家”と言えば、何と言ってもチャイコフスキー、それにショスタコーヴィチというのが万人の認めるところではないでしょうか。もちろん好みは人それぞれ有るでしょうけれども。
そして、”ロシアの生んだ最高の指揮者”と言えば、エフゲニ―・ムラヴィンスキーです。これはちょっと他には考えられません。

そのムラヴィンスキーが演奏する機会の特に多かった曲として、チャイコフスキーとショスタコーヴィチの同じ「交響曲第5番」が挙げられます。正確な記録は有りませんが、少なくとも残された録音の多さから見れば、この2曲が断然他の曲を圧倒しているように思えます。

僕はムラヴィンスキーの”熱狂的なマニア”というほどでは無いので、その演奏録音の全てを保有しているわけではありません。けれども、今年入手した「ライヴ・セレクション 1972、1982」という2枚組のCDアルバムには、この2曲が収録されていて、どちらも非常に良い演奏でしたので改めてご紹介したいと思います。

51ssyqme4qlエフゲニ―・ムラヴィンスキー「ライヴ・セレクション 1972、1982」(ドリーム・ライフ盤)

収録されている曲目は下記の通りです。

ショスタコーヴィチ 交響曲第5番(1982年11月18日)
プロコフィエフ バレエ「ロミオとジュリエット」組曲第2番(1972年1月30日)
チャイコフスキー 交響曲第5番(1982年11月18日)

もちろん、オーケストラは全てレニングラード・フィルハーモニー(現在は名称が変わって、サンクト・ぺテルブルグ・フィルハーモニー)です。どの曲も過剰なエコー処理を施さない非常に生々しい録音です。特に1982年の2曲の録音は中々に優れています。高音域は幾らか刺激的に感じられますが、これはロシアのオケ特有のバリバリと鳴らす金管セクションの性格から余計にそう感じられるのかもしれません。それでも、低音域の量感がしっかりと確保出来ていますので、音のバランスがかなり良いと思いますし、ダイナミック・レンジも広く感じられます。1972年のプロコフィエフのみ音質がやや落ちますが、音質の傾向は似ていますので、さほど抵抗は感じません。

さて、肝心の演奏ですが、まずショスタコーヴィチの第5番が非常な名演奏です。ムラヴィンスキーのこの曲の演奏では、1966年録音のRussianDisc盤が統率力の素晴らしさと凄まじい切れ味で最も好んでいますが、それに迫る魅力を感じます。オーケストラの統率力は1966年盤の方が上ですが、こちらも晩年の1980年代の演奏とは思えない強い緊張感と迫力が有ります。金管の”粗さ”も”荒々しさ”に転じて、これはこれで悪くありません。愛聴盤として、RussianDisc盤に次ぐポジションを、1973年の初来日ライヴ録音盤(Altus)と並んで占めることになりそうです。

次にチャイコフスキーの第5番についてですが、ムラヴィンスキーはこの曲には毎回非常にこと細かく表情づけを行います。それが余りに旺盛であるがために、少々煩わしさを感じてしまうのです。個人的には、ムラヴィンスキーほどはやり過ぎないゲルギエフの方が好きです。その点が、圧倒的に素晴らしいムラヴィンスキーの第4番と第6番の場合とは大きく異なります。けれどもムラヴィンスキーの第5番の中では、この1982年の演奏は最も好ましいように思います。1960年のグラモフォン盤はセッション録音のまとまりの良さではベストなのですが、細部の表情づけに余りに手練手管を尽くし過ぎていて、姑息な印象を受けてしまいます。1970年代の幾つかのライヴ録音盤はどれも荒さと姑息感の両方を感じてしまい好みません。1983年のライヴ録音は、姑息な印象は受けないものの、逆に迫力不足を感じます。その点で、この1982年の録音は姑息な印象は少めで、ずっとストレートな表現による音楽の感動を誘います。金管の適度な荒々しさも伝統的なロシアのオケを彷彿させます。ということから、消去法でゆくとこの演奏が最後に残ります。

但し残念なことに、このCDは既に廃盤ですので、アマゾンなどではプレミア価格が付けられています。根気良く待っていればリーゾナブルな値段で出ることが有りますし、中古店に安値で出ることも有りますので、チャンスを見逃さないことです。それだけの価値は有るディスクだと思います。

<関連記事>
ショスタコーヴィチ 交響曲第5番 名盤
チャイコフスキー 交響曲第5番 名盤

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2012年3月20日 (火)

ハンス・クナッパーツブッシュ/ウイーン・フィルのライブ盤 ~新盤~

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「新盤」と言っても1961年と62年の録音ですから、もう半世紀も前の演奏です。にもかかわらず、この発売ニュースを知って非常に嬉しくなりました。どちらも巨人(ジャイアンツではありません)クナッパーツブッシュがウイーン・フィルを指揮したライブ演奏ですが、一つはブルックナーの交響曲第8番、もう一つはシューマンの交響曲第4番/Rシュトラウスの「死と変容」です。ブルックナーとシューマンは、過去の記事の中でご紹介済みですが、何しろこれまでは海賊盤でしか聴くことが出来ませんでしたので、いつか正規音源で聴きたいと願っていました。それが、とうとうAltusによってリリースされましたので、早速購入して聴きました。

どちらもオーストリア放送協会によるモノラル録音ですが、音質が期待以上の素晴らしさです。海賊盤の伊Memories盤も悪くありませんでしたが、今回の正規音源の音の良さには感激です。特に1962年のシューマン4番のほうは、下手なステレオ録音を遥かに上回る極上の音質です。元々、クナの演奏は、かのフルトヴェングラーに迫る唯一の凄演でしたが、こうして正規盤で聴くと改めて凄さが伝わります。個人的な好みで言えば、いまだフルトヴェングラーの濃厚なロマン性を取りたいですが、クナの巨大な音楽の凄さは別次元で存在感が有ります。シューマンの4番が好きな方には、フルトヴェングラー盤と並んで必聴だと思います。同じ日の「死と変容」が、これまたとてつもなく巨大なスケールの演奏です。こちらはフルトヴェングラー/ウイーン・フィルの名演奏を更に凌いでいると確信します。

ブルックナーの8番も、当時のウイーン・フィルの弦の艶やかさと管のパワフルさが圧巻です。ただ、余りに陶酔的なのが8番の演奏としては自分の好みにやや合いません。同じライブ演奏ならば、むしろ1963年のミュンヘン・フィル盤を取ります。もちろん、これは人によるでしょうから、是非ご自分の耳で聴き比べてみて下さい。

なお、この2枚については過去記事のMemories盤紹介をAltus盤に書き替えました。

<過去記事>

~浪漫と幻想~ シューマン 交響曲第4番

ブルックナー 交響曲第8番 名盤

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2012年1月27日 (金)

~追悼~ パーヴォ・ベルグルンド

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フィンランドの名指揮者パーヴォ・ベルグルンドが今月25日に病気の為に亡くなられたそうです。82歳でした。

実は今回初めて知ったのですが、この人は左手で指揮棒を持っていたのですね。オーケストラで弦楽奏者が左手で弓を持つと、隣と弓使いが揃わなくて不便そうですが、普通の楽器奏者なら、左手でベースを弾くポール・マッカートニーのような有名な人も居るので不思議はありません。

ベルグルンドと言えば、まず思い浮かぶのは素晴らしいシベリウスの演奏です。この人はなにしろ3回も交響曲全集を録音しています。いずれも名演ですが、第1回目のボーンマス交響楽団とのものは、再録音と比べると、深みにおいて僅かに物足りなさを感じます。2度目のヘルシンキ・フィルハーモニーとのものは、多くのファンに絶賛されて、いまだに決定盤として名高い演奏です。普通ならば、これほどの名演奏を残した後に、更に再録音を残そうとは思いそうに有りませんが、三度目の挑戦をしました。オーケストラはヨーロッパ室内管弦楽団です。当然、フルオーケストラの編成からは小さくなりますが、それこそがポイントです。シベリウスが生きていた時代に演奏をしていた編成に近いからです。ピリオド編成の再現という意義は大いに認めます。確かに極限まで切り詰められた内容の6番、7番あたりは良さが出ていて、ヘルシンキ・フィルと、どちらを取るか迷うところです。けれども他の曲、特に1番、2番、5番のようなスケールの大きい音楽の場合には、ヘルシンキ・フィルに比べると、どうしても音が脆弱に感じられます。音楽評論家は総じて新盤を推薦しているようですが、多くのファンの意見は割れているように思います。僕自身は、もちろん両方とも好きですが、やはりヘルシンキ・フィル盤をリファレンスとしています。

シベリウスの交響曲の演奏には、この人以外にもオッコ・カム、レイフ・セーゲルスタム、オスモ・ヴァンスカ、ユッカ‐ペッカ・サラステ、それにネーメ・ヤルヴィといった素晴らしい録音が多く存在しますが、それらの中にあって一段と輝やかしい光を放っているのがベルグルンド盤です。僕は実演で聴く機会が持てなかったことがとても心残りですが、残された宝の名録音をいつまでも大切に聴き続けたいと思います。

<過去記事> 「シベリウス交響曲全集で思うこと」

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2011年9月19日 (月)

~追悼~ クルト・ザンデルリンク

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ドイツの巨匠指揮者クルト・ザンデルリンク氏が9月18日に死去されたそうです。享年98歳でした。

僕はこの人には、物凄く思い入れが有ります。高校生の時に初めて耳にしたレコードによるブラームスの交響曲の演奏。これがブラームスの響きというものなのか、音楽というものなのかと目を覚まさせられた体験です。それは30年以上経た今でも少しも変わっていません。

ザンデルリンク氏はプロイセンに生まれましたが、ユダヤ系であったためにナチス政権が起こってからは旧ソヴィエトに亡命しました。そこでは、かのレニングラード・フィルハーモニーの指揮者の一人として活動しました。戦後ドイツに帰国してからは、東ドイツのドレスデン国立歌劇場やベルリン交響楽団で指揮をしました。氏は、ソヴィエトで活動したことから、チャイコフスキー、ショスタコーヴィチや、あるいはシベリウスなども多く指揮しましたが、やはり生れながらに持つプロイセン魂を如何なく発揮したのは、ドイツ音楽、それも特にブラームスの曲です。ブラームスの音楽の古典的構築性、微動だにしない重量感と、じわじわと心の底からにじみ出てくる情感を、この人ほど素晴らしく表現出来た指揮者を他に知りません。僕にとっては、この人の演奏するブラームスは、フルトヴェングラーのベートーヴェンやムラヴィンスキーのチャイコフスキーと同じような意味を持つのです。

既に現役を引退して10年近く経っていましたが、氏の残してくれた名演奏はいつでもCDで聴くことができますし、今後もライヴ録音が新たに陽の目を浴びることを願ってやみません。

ザンデルリンクさん、本当にありがとうございました。黙祷。

最後に氏の録音の中から、特に素晴らしいものを5つ挙げておきます。

①ブラームス 交響曲全集(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団/DENON盤) 最高のオーケストラと最高の指揮者との一期一会の全集です。

 <旧記事>ブラームス交響曲全集/最高の名盤

②ブラームス ピアノ協奏曲第1番(ベルリン国立歌劇場管弦楽団、エレーヌ・グリモー独奏/エラート盤) オーケストラの響きと重圧さが最高です。独奏も素晴らしいです。

③ブラームス 交響曲全集(ベルリン交響楽団/カプリッチオ盤) 人によっては再録音の全集を好む方も居ます。重量感は旧盤以上ですが、オケの響きはドレスデンには敵いません。今となってはどちらも大切にしたいです。

④ブルックナー 交響曲第3番(ライプチヒ・ゲヴァントハウス管/Berlin Classic盤) 武骨で野趣に溢れたブルックナーです。響きも素晴らしいです。

⑤ブルックナー 交響曲第7番(シュトゥットガルト放送響/ヘンスラー盤) 雄大なスケールのブルックナー。それでいて音楽がもたれません。

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2011年7月31日 (日)

オーケストラの森 尾高忠明/札幌交響楽団 「悲愴交響曲」  ~青春の思い出~

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今日のNHKテレビ「オーケストラの森」の出演は創立50周年の”北の雄”札幌交響楽団で、指揮は尾高忠明氏でした。曲目はチャイコフスキーの「悲愴交響曲」です。尾高さんには特別な思い出が有るので、とても楽しく観ることができました。それは、今から約30年以上前になりますが、当時の「青少年音楽祭」のジュネス・コンサートで尾高さんの指揮でマーラーの「復活」の演奏をすることができたからです。もちろん僕は当時一般大学で三年生のアマチュア、ビオラ奏者でしたので本当に幸運で貴重な体験だったのです。当時まだ30代だった尾高さんは、アマチュア大学生たちに本当に気さくに接してくれて、親身になってぐいぐいと引っ張ってくれました。皆は尾高さんのことを親しみを込めて「忠(チュー)さん」と呼んでいました。そんな風に指揮者とメンバーが一体となった結果、演奏会当夜のNHKホールの上でマーラーの大シンフォニーが爆発しました。正に火の出るような熱演だったのです。たぶん僕が今まで生きてきた中で五指に入る感動的な体験です。

残念なことに最近は、尾高さんの演奏会をずっと聴いていませんが、今夜はテレビ放送とは言え指揮姿をじっくり観て堪能することができました。北の大地の唯一のプロ・オーケストラ、札幌交響楽団のチャイコフスキーやシベリウスはいうなれば「本場もの」です。そして尾高さんの若々しく情熱的な指揮ぶりは、昔も今も少しも変わりません。とても素晴らしい「悲愴交響曲」でした。おまけにアンコールには尾高さん得意のエルガーの「エニグマ変奏曲」から「ニムロッド」です。これも素晴らしかったです。嗚呼、音楽とは何と素晴らしき哉!

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2010年8月22日 (日)

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー ~最高のベートーヴェン~

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僕がクラシック音楽というものを聴くようになったきっかけは、高校生の時に「新世界交響曲」やチャイコフスキーのピアノ協奏曲という素晴らしい名曲を耳にする機会があって、心の底から感動したからです。けれども、それから更に深く入りこんだ理由としては、フルトヴェングラーの演奏するベートーヴェンを聴いたことが一番の理由だったと思います。

僕が高校生の時代、とは言っても1970年代に入っていましたから、当然フルトヴェングラーが亡くなってから既に十数年が経っていました。それでも当時の音楽雑誌の推薦盤は大抵、カラヤン、ワルター、フルトヴェングラー、それにトスカニーニだったと記憶しています。ですので、それぞれの演奏を当時のLPレコードで色々と聴いてみたのです。当時はカラヤンの人気が凄くて、一番店頭を賑わしていたのですが、実際に聴いてみると、どうも面白くないのです。特にベートーヴェンが全く心を打たないのですね。余りにスタイリッシュに過ぎるというか、ベートーヴェンのあの「苦悩を突き抜けて歓喜へ」というイメージから遠く離れているのです。それに比べてフルトヴェングラーの演奏はどれもモノラル録音で音質が貧しいのですが、心への響き方がまるで違いました。特に第二次世界大戦中の「英雄」「運命」「第七」「第九」などの演奏には、余りの凄さに魂を抜き取られてしまうぐらいの衝撃を受けました。

その後も色々な音楽、演奏を聴いてきましたので、もちろんフルトヴェングラー以外にも大好きな演奏家は大勢居ます。作曲家によっては、フルトヴェングラーが一番好きなわけでは無いケースも多くあります。けれども、ことベートーヴェンに関しては、いまだにフルトヴェングラーが最高です。もちろん全ての曲で一番では無いのですが、多くの曲において他の指揮者の演奏はフルトヴェングラーの到達した崇高な境地には遠く及ばないと思うのです。その理由は、フルトヴェングラーの創り出す音楽の持つ「ドラマ」です。絶妙なフレージングに、リタルダンドとアッチェレランド、クレッシェンドとデミュニエンドを魔法のような上手さで駆使して、比類なくドラマティックな表現と化すのです。それはフルトヴェングラーにしか出来ない天才の業です。そしてそれはベートーヴェンの音楽の持つ激しさや劇的な要素に正にピタリと一致するのです。

余り語られませんが、戦前のドイツ/オーストリアでフルトヴェングラーは、ベルリン・フィルとゲヴァントハウス管弦楽団とウイーン・フィルの首席指揮者を同時期に兼任しました。ヨーロッパのこれほどの主要ポストを掌握できた指揮者は後にも先にも決して存在しません。それほど絶対的な存在だったのです。

夏休みも終わって、段々と芸術の秋が近づいてきます。そこで、しばらくはベートーヴェンを集中的に聴こうと思っています。但し、恐らくはベートーヴェンの記事を書いているのか、フルトヴェングラーの記事を書いているのか分からなくなりそうな気がします。一応このことをお断りしておいて、次回からベートーヴェンの交響曲を聴いていきます。

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