グリーグ

2013年2月26日 (火)

グリーグ ヴァイオリン・ソナタ集 ~オーレ・ベーンの名演で~

グリーグはピアノ独奏曲を数多く書いていて、どの作品も抒情的で非常に親しみ易いように感じます。それに比べると室内楽作品はずっと少ないのですが、その中で僕の愛聴曲に3曲のヴァイオリン・ソナタが有ります。各曲について簡単にご紹介しておきます。

ヴァイオリン・ソナタ 第1番ヘ長調 作品8

グリーグがデンマークに住んでいた22歳の年に最初のヴァイオリン・ソナタが作曲されました。ある部分はシューマン風でもあり、またドヴォルザーク風でもあり、まだまだ個性に乏しいのは否定でません。それでも、既にグリーグらしい爽やかな抒情が感じられますし、第2楽章ではノルウェーの民族楽器ハーディング・フェーレのような響きを響かせたりと、それなりの面白さは有ります。

ヴァイオリン・ソナタ 第2番ト長調 作品13

24歳の時にノルウェーに戻ってから作曲されました。第1番から僅か2年しか経っていませんが、内容的には格段に進歩しました。第1楽章からグリーグらしさに溢れていますし、民謡調の旋律が魅力の第2楽章は、なんと深い抒情を湛えていることでしょうか。ドヴォルザークのヴァイオリン小品に通じる雰囲気を感じますが、あくまでもグリーグの音楽そのものです。第3楽章は優雅で美しい北欧舞曲で心が躍ります。

ヴァイオリン・ソナタ 第3番ハ短調 作品45

この曲はずっと後の44歳の時の作品です。どうして20年ぶりに再びヴァイオリン・ソナタを書く気になったのかというと、実はテレジーナ・トゥアという名前のイタリアの女性ヴァイオリニストが、グリーグ宅を訪れたのがきっかけだったようです。これは大いにアヤシイですね。きっと彼女は大変に魅力的だったに違いありません。
この曲はハ短調という調性からも、ドラマティックな要素を持っています。とりわけ第1楽章はブラームスを想わせる曲想と、グリーグ的な抒情とが交互に現れて魅了されます。第2楽章はとてもロマンティックな夜想曲風です。どことなくボロディンのノクターンにも似ていますし、これはテレジーナと二人で語り明かした夜を想って書かれたような気がします。中間部の胸の高まり具合はいかばかりでしょう。第3楽章は民族的な特徴あるリズムが大そうご機嫌です。

3曲のうちで人気の高いのは第3番ですし、グリーグの音楽の魅力に溢れた名曲なのは間違いありません。けれども、個人的には第2番も非常に好んでいます。

Grieg_838オーレ・ベーン(ヴァイオリン)、アイナル・ステーン=ノックレベルグ(ピアノ)(1985年録音/独SOUND STAR-TON盤)

いわゆる「国民楽派」に分類される作曲家の作品は、やはり同郷の演奏家が一番しっくりきます。チャイコフスキー、ドヴォルザーク、シベリウス、いずれもなのですが、グリーグもまた、しかりです。このソナタ集はそれなりに演奏されていて、CDも出ていますが、同郷の演奏家で良さそうなものが無いかと探して見つけたのが、この演奏です。

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オーレ・ベーン

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アイナル・ステーン=ノックレベルグ

オーレ・ベーンは1945年生まれのノルウェーのヴァイオリニストです。欧米ではメジャーオケのソリストとして多く演奏をしている実力者なのですが、日本での知名度はゼロに近いようです。同じノルウェー人のピアニスト、アイナル・ステーン=ノックレベルグのほうは、グリーグのピアノ曲を全曲録音しているのでご存じの方は多いのではないでしょうか。この人は1944年生まれですので、二人は全くの同世代です。

このCDはドイツのレーベルで制作されましたが、本当に魅力的な演奏を聴かせてくれます。二人のテクニックは確かですし、特にオーレ・ベーン思い切りの良い弾き方は、変な神経質さが無くて爽快です。といって無神経で荒い演奏とは全く異なります。何よりも、「面白く聴かせてやろう」という力みを全く感じさせません。曲そのものに自然に語らせるような演奏なのです。シべリウスと同様に、演奏家の我欲や見栄、誇張が僅かでも入り込むと、その瞬間に音楽の美しさは消え去ってしまい、矮小な音楽に落ちてしまいます。それぐらい純粋素朴な音楽なのだと思います。その点、この二人の演奏は正に理想的です。グリーグの書いた美しい作品を、これほどまでに美しい演奏で聴くことの出来る喜びは何物にも代えがたいです。このCDに出会えたおかげで、この3曲が本当に愛聴曲になりました。

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2013年2月23日 (土)

グリーグ 劇付随音楽「ペール・ギュント」全曲 ネーメ・ヤルヴィ/エーテボリ交響楽団

フィンランドのシベリウスと並んで北欧を代表する作曲家といえば、ノルウェーのグリーグですね。シベリウスの音楽が「春が近づいてきた冬の終わり」だとすれば、グリーグの音楽は「冬の寒さが遠ざかってゆく早春」というイメージです。その温度感の差は、両国の気候そのものの違いでもあります。

そのグリーグの代表作の一つ、劇音楽「ペール・ギュント」については、以前「ペール・ギュント第1&第2組曲」の記事にしました。広く親しまれている組曲版で、ラシライネンとノルウェー放送響の素晴らしい演奏をご紹介しました。ラシライネンの演奏が余りに素晴らしいので、これまで特に全曲盤を聴こうとも思わなかったのですが、ブログお友達のmorokomanさんから、全曲盤の素晴らしさを教えて頂いたこともあり、演奏の期待できそうなCDを入手しました。ネーメ・ヤルヴィとエーテボリ交響楽団の演奏です。この演奏は完全原典版として、グリーグが書いた全ての曲を網羅しています。

20100731_612169ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ交響楽団(1987年録音/グラモフォン盤)

この演奏には当然のことながら、オーケストラ以外に歌手や語り手、コーラスが大勢参加しています。

  バーバラ・ボニー(ソプラノ)
  ウルバン・マルムベルイ(バリトン)
  シェル・マグヌス・サンヴェー(テノール)
  ルート・テレフセン(語り)
  エスター・オーリン・ヴォーカル・アンサンブル
  プロ・ムジカ合唱団、といった面々です。
 

参考までに各曲のタイトルを記しておきます。

劇付随音楽「ペール・ギュント」全曲

1.婚礼の場にて(第1幕前奏曲)
2.ハリング(第2場と第3場)
3.スプリンガル(第3場)
4.花嫁略奪:イングリの愁訴(第2幕前奏曲)
5.ペール・ギュントと山羊追いの女達(第3場)
6.ペール・ギュントと緑衣の女(第5場への導入)
7.ペール「育ちの良さは馬具見りゃわかる」(第5場の結び)
8.ドヴレ山の魔王の宮殿にて(第6場の開始)
9.ドヴレ山の魔王の娘の踊り)(第6場)
10.ペールはトロルに追い回される(第6場)
11.ペール・ギュントとベイグ(第7場)
12.オーゼの死(第3幕前奏曲)
13.朝(第4幕前奏曲)
14.泥棒と盗品買い(第5場)
15.アラビアの踊り(第6場)
16.アニトラの踊り(第6場)
17.ペールのセレナーデ(第7場)
18.ペール・ギュントとアニトラ(第8場)
19.ソルヴェイグの歌(第10場)
20.ノムノン像の前のペール・ギュント(第11場への導入)
21.ペール・ギュントの帰郷:夕方の嵐の海(第5幕前奏曲)
22.難破(第1場と第2場の間)
23.小屋でソルヴェイグが歌っている(第5場)
24.夜の情景(第6場)
25.ペンテコステ讃美歌「祝福の朝なり」(第10場)
26.ソルヴェイグの子守歌(第10場)

通常演奏される組曲版では、当然ストーリーの展開とは無関係に曲が入れ替わっています。コンサートで演奏される場合には何ら問題は有りません。但し、少しでもストーリーの展開を意識して聴こうとすれば、どうしても全曲版となります。

全曲版は、CD2枚分のおよそ85分にも及ぶ、短いオペラ並みの規模になります。全ての曲が格別の名曲だとは言えないかもしれませんが、それは大抵のオペラ作品の場合に当てはまることです。それよりも、歌が加わることにより、歌無しの組曲版とは大きく印象が異なってきます。歌やコーラスの役割がとても重要となります。たとえば、第8曲「山の魔王の宮殿にて」では、トロル(怪物)たちがペールを「殺せ!殺せ!」と荒々しく叫びながら歌うのが、管弦楽だけのときよりも遥かに不気味な雰囲気になっています。第16曲「アニトラの踊り」も歌とコーラスが入ったおかげで非常に魅惑的な曲に成りました。それ以外にも有名な「ソルヴェイグの歌」や終曲の「ソルヴェイグの子守歌」など美しい歌曲が多く含まれています。
それと、楽器で面白いのは第2曲「ハリング」ではノルウェーの民族楽器ハーディング・フェーレ(またはハリング・フェーレ)というヴァイオリンの仲間が使用されていることです。アイリッシュ・フィドルによく似た音で、北欧を感じさせてくれて楽しいです。

この演奏では、セリフ部分を歌手とは別の専門の語り手が担当しています。それほど違和感は有りませんし、むしろ迫真のセリフのやりとりが演劇性を高めていて良いです。

この全曲版を聴いていると、まるでオペラを聴いているように思えてきます。それに、ストーリー自体が元々破天荒ですので、ファンタジー冒険映画を見ているような気にもなります。この「ペール・ギュント」が舞台化や映画化されたら絶対に面白いと思うのですがね。

指揮者のネーメ・ヤルヴィは、シベリウスなどの北欧ものが大の得意ですし、グリーグの音楽への共感が強く感じられます。程よくドラマティックでありながらも決して大げさにはならず、「オーゼの死」などでは、静寂の中から哀しみを滲み出させていて感動的です。

確かに全曲版をこのような素晴らしい演奏で聴いてしまうと、管弦楽版には物足りなさを感じてしまい、中々後戻りできないかもしれません。

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2012年8月19日 (日)

グリーグ 「ホルベアの時代から」(ホルベルク組曲)op.40 ~フィヨルドに吹く風~

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グリーグの音楽はどの曲でも、澄み切った空気感と民族音楽的な旋律がベースに有り、その上にノスタルジックな抒情性が覆っているのが魅力だと思います。

そんなグリーグの曲の中で、管弦楽曲よりも静かな曲が聴きたいなぁ、と思う時には、僕はよく「ホルベルク組曲」作品40を取り出します。

これは、元々はピアノ独奏曲「ホルベアの時代から」として作曲されました。ホルベアというのはノルウェーのベルゲンに生まれた18世紀に活躍した文学者です。その時代のバロック音楽の形式に基づいた曲集なのですが、それを後からグリーグ自身が弦楽合奏用に編曲したのです。現在では、その弦楽版のほうが広く親しまれています。また、タイトルもドイツ語版の「ホルベルク組曲」とも呼ばれます。

この曲は、技術的にもそれほど難しくないので、アマチュアの合奏団が良く取り上げますが、中々に侮れない名曲だと思っています。

第1曲 前奏曲 曲はアレグロ・ヴィヴァーチェで疾走しますが、まるでフィヨルドに吹く一陣の風のように爽やかです。抒情味も備えていて非常に魅力的です。

第2曲 サラバンド 穏やかで抒情性に溢れた美しい曲です。

第3曲 ガヴォットとミュゼット 軽やかな舞曲です。

第4曲 アリア 沈んだ暗さを持ちますが、時に情熱的に盛り上がります。

第5曲 リゴドン 北欧風の舞曲となっています。非常に生き生きとした雰囲気が魅力的です。

それでは、愛聴盤をご紹介します。
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テリエ・トンネセン(Vn&指揮)ノルウェー室内管弦楽団(1979年録音/BIS盤)

この団体は常設では有りませんが、1977年にヴァイオリニストのテリエ・トンネセンをリーダーとしてノルウェーの優秀な奏者を集めて結成されました。現在ではトンネセンともう一人イザベル・ファン・クーレンを音楽監督として国際的に活動しています。

彼らが2年前に来日した時に、僕は初台のオペラシティのコンサートで、この曲の生演奏を聴きました。それはもう、本当に「お国もの」の魅力としか言いようの無い、どこまでも自然で美しい演奏でした。

結成された翌々年に録音されたこのディスクでは、14人の小編成で演奏されたようですが、どちらかいうと一回り大きな編成で演奏されることの多い「ホルベルク組曲」が、非常に室内楽的な極め細やかな表情で聴くことが出来ます。

このCDには「ホルベルク組曲」以外にも、グリーグの弦楽合奏の為の小品である、「二つのメロディ」作品53、「二つのノルウェーのメロディ」作品63、「二つの悲しいメロディ」作品34などが収められていますが、そのどれもが北欧の空気と抒情を一杯に感じさせる佳曲と演奏ばかりです。

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2012年8月14日 (火)

グリーグ ピアノ協奏曲イ短調 隠れた名盤

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ロンドン・オリンピックの間は何となくブリティッシュ・ロックを聴いていましたし、毎日暑いのでクラシックにも今一つ触手が伸びませんでした。でも、そろそろクラシックを聴こうかなぁということで、爽やかなグリーグの音楽にしました。

グリーグの作品の中で僕が最も好きな曲というと、ピアノ協奏曲イ短調です。同じ北欧の作曲家でも、シベリウスの曲から感じるフィンランドの空気ほどには冷気を感じませんが、清涼感溢れる音楽が何とも心地良いからです。

この曲の愛聴盤については、かなり以前に「ぶらり北欧の旅」という記事で、グリーグの母国ノルウェー出身のピアニストのエヴァ・クナルダール(Pf)、インゲブレッセン指揮ロイヤル・フィル(BIS盤)と、レイフ=オヴェ・アンスネス(Pf)、キタエンコ指揮ベルゲン・フィル(EMI盤)をご紹介しました。どちらも、北欧の空気感がたっぷりと味わえる素晴らしい演奏なのですが、実は最近両盤を凌駕するほどの素敵な演奏に出会いました。

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それは、イェンス・ハーラル・ブラトリという1948年生れのノルウェーのピアニストの演奏です。(レーベル:ノルウェーNkf)
この人は日本ではまず無名と言って良いですが、本国では演奏家としてよりも、むしろノルウェー音楽院の教授としての仕事が中心のようです。演奏録音もノルウェーの作品が幾らか存在するだけですので、グリーグの協奏曲を録音してくれているのはせめてもの救いです。この録音は1988年頃のものですが、伴奏を務めているのはマリス・ヤンソンス指揮のオスロ・フィルハーモニーです。

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ブラトリの演奏は、音楽の素朴さや土俗感という点では、クナルダールに一歩譲りますが、確かなテクニックは彼女よりもずっと上で、アンスネスと比べても聴き劣りしません。何よりテンポが常にゆったりとして呼吸が深いので、音楽のしみじみとした情緒が如何なく表現し尽くされています。一音一音に念押しをしている感じですが、もちろん決して音楽がもたつくわけではありません。

それにしても世界には素晴らしい演奏家が隠れているものです。この人はベートーヴェンやブラームスをどのように演奏するのかと思うと興味が尽きません。

そして、オスロ・フィルハーモニーの音の、まぁ何と素晴らしいこと!世界のどんな名オーケストラでも、この曲のこれほど美しい伴奏は不可能だと思います。単に技術の問題では無く、長い年月をかけて練り上げられた母国の音楽への敬愛が基盤に有るからでしょう。アンスネス盤のベルゲン・フィルの音も素晴らしいですが、このオスロ・フィルの音はそれを更に越えています。

グリーグのこのコンチェルトを、何となく物足りなく感じておいでの方には、是非とも聴いて頂きたい演奏です。但し、日本では入手が難しそうですので、アマゾンのUK(英国)から購入されるのが早いと思います。英語ですが、日本のアマゾンとほぼ同じ構成ですので解りやすいです。

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2009年4月28日 (火)

グリーグ 劇付随音楽「ペールギュント」第1、2組曲 ~ぶらり北欧の旅~ 

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ノルウェーを放浪中のフーテンのハルくんですが、好きな芝居を見たさにとある町の劇場に立ち寄りました。出し物は有名な「ペールギュント」です。この劇音楽は誰でも知っているほど有名ですね。僕が中学校の頃には音楽授業の鑑賞曲でしたし、「朝」という曲はいたるところでBGMに使用されています。でもこの話の内容は結構支離滅裂なのですよ。というよりも主人公のペール・ギュントはとんでもない男なのです。話の内容を引用してみますと・・・・

落ちぶれた豪農の息子ペール・ギュントは母親と暮らす夢ばかり見ている男。かつての恋人イングリッドを結婚式から奪取して逃亡する(まるで「卒業」だね。)ところがじきにイングリッドに飽きて捨ててしまう。それからまた他の娘と婚礼寸前までゆくが逃げ出してしまう。さらに純情娘ソルヴェイグと恋に落ちるが彼女をおいてまた放浪の旅に出てしまう。山師になって金をもうけては無一文になったり、精神病院に入って皇帝になった気になってみたりするが、結局は年老いて帰郷する。ペールが死を意識して歩いていると、あるボタン職人に出会う。このボタン職人というのは実は、死んで天国に行くような善人でもなく、地獄に行くような悪人でもない「中庸」の人をボタンに溶かしこむのが仕事の職人だった。それを知ったペールはボタンには成りたがらず、自分は善悪を問わず中庸では無かったことを証明してもらおうと駈けずりまわる。ところが誰もそれを証明してはくれない。けれども最後の証人として会ったソルヴェイグは彼に子守唄を歌い、それを聞きながらペールは永眠する。

と、ざっとこんな話です。もしも最後にフーテンの寅さんがペールに会ったら何と言うでしょうね。「そうかい、そうかい。おっちゃんは随分苦労してきたんだねえ。でも安心しな。おてんとうさんはみんな分かっていなさるよ。」こんな優しい言葉をかけてあげるのではないでしょうか。

さて、この音楽を聴くのに素晴らしい演奏が有るのでご紹介します。

41b20vy3vyl__ss500_ アリ・ラシライネン指揮ノルウェー放送管(1996年録音/ワーナーミュージック盤) 有名曲だけに昔から多くの指揮者が大オーケストラと録音していますが、それらはまずほとんどが大げさで派手な演奏です。その点、この自国ノルウェーのオーケストラは響きが一味違います。「朝」のなんという爽やかさでしょう。空気感が全然違うのです。カラヤン/ベルリン・フィルだと「朝だぞ~!日の出を拝みにさっさと出て来い~!」という感じなのですが、同じ北欧のフィンランド出身のライシネンが指揮するこの演奏では、静かに優しく声をかけられて気持ちよく目が覚めてゆく感じなのですよ。「オーゼの死」もたいていはぶ厚い弦楽群がこれでもかと大げさに歌い上げますよね。ラシライネンはそうではなく、静かに、しかし心を込めて歌います。なので悲しみの深さが余計感じられるのです。「アニトラの踊り」はうって変わってセンス抜群ですし、「山の魔王の宮殿で」は決してこけおどしでない迫力が最高です。終曲の「ソルヴェイグの歌」では淡々とペールの帰りを待ちわびる心を歌い上げます。

どうぞ「こんな中学校の鑑賞曲など今更聴かないさ」とおっしゃられる人にこそこの演奏を聴いて頂きたいと思います。たまたま一度お会いしたことも有る音楽評論家の許光俊さんが「クラシック名盤バトル」の中でこのCDを取り上げているのを見たときにはわが意を得たりでした。あの先生は結構キワモノ(?)を推薦することが多いですが、これぞという推薦盤もあるので注目はしています。

それにしても、とうとう世界中で発生した新型インフルエンザ。トンだことになりました。安心して世界を旅行出来なくなってしまいますよね。旅好きのフーテンのハルくんはこのまま旅を続けるのでしょうか。

(注:ハルくんの旅行記はあくまで創作です)

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2009年4月25日 (土)

グリーグ ピアノ協奏曲イ短調Op.16 名盤 ~ぶらり北欧の旅~ 

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ここしばらく、シベリウスの音楽ばかりを聴いていましたので、フィンランドの自然をすっかり満喫した気分になりました。せっかくの美しい北欧の旅ですので、ここはこのままぶらぶらと旅を続けようかと思います。北の海沿いをぐるりと回ってお隣のノルウェーにでも流れて行ってみようかなぁ。さしずめフーテンのハルくんの気ままな一人旅です。

ノルウェーといえば世界に冠たる水産国。僕の好きな鯖が美味しいのですよ。日本の近海ものは乱獲がたたって小ぶりの脂の少ない鯖が多いのですが、ノルウェーは漁船ごとに年間の捕獲量が厳しく決められているので乱獲をせずに魚がすっかり成長するまでは獲らないのだそうです。それを最新鋭の漁船で一瞬にして冷凍にしてしまうのです。なので鮮度が失われません。安くて美味しい鯖がこうして日本の食卓に届くわけです。僕はシンプルに塩焼きに大根おろしが一番好きです。味噌煮も美味しいですけどね。

さて魚くんの話はここまでにして、音楽の話に行きましょう。
ノルウェーと言えばやっぱりグリーグですよねぇ。グリーグのピアノ協奏曲はイントロがとても印象的。「チャン!チャチャチャン。チャチャチャン、チャチャチャン、チャチャチャ~ン♪」というあれです。(って知らない人がわかるかよー。)子供の頃に毎日ラジオで「ルーテル・アワー」という番組を聞いていましたが、その始まりの音楽でしたので良く耳にしました。実際の曲はそのあとに続く木管の調べがなんとも哀愁が漂って美しいです。そしていよいよピアノが登場して静かに優しく木管の旋律をなぞって行くのです。だんだんにテンポアップはしますが曲の瑞々しさはそのままで、やはり北欧の自然を連想させてくれます。第2楽章アダージョがまたすこぶる美しいですね。とっても心を癒される音楽です。第3楽章アレグロ・モデラートはリズミカルですが少しも賑やかに成り過ぎずに楽しませてくれます。

この曲は素晴らしい名曲だと思うのですが、実はヴィルトゥオーゾ・タイプの有名ピアニストが弾いたり、巨匠指揮者が演奏したりすると、どうも大げさに成り過ぎてしまうことが多いようです。この曲はそんな大げさな曲ではないと思うのですね。
僕にとってはノルウェーの港の近くの丘の上に可愛く咲いている花がひっそりと港を見下ろしているような印象なんです。ですので、僕の好きなCDは比較的地味な演奏のものが多いのです。それでは愛聴盤をご紹介させて頂きますね。

Cci00026b エヴァ・クナルダール(Pf)、インゲブレッセン指揮ロイヤル・フィル(1978年録音/BIS盤) 僕が一番気に入っているのはノルウェーに生れて子供のときに米国に渡り、35歳になって再びノルウェーに戻ったクナルダールという女流ピアニストの演奏です。 写真をご覧になって頂ければ、およそヴィジュアル路線からはかけはなれたプレイヤーだということがお分りになることでしょう。(笑) でもね、演奏が本当に素晴らしいのです。正直テクニックは大したこと無いのですが、曲をゆったりと本当に心から慈しむように弾いているのです。 Cci00027_2このような演奏はこれまで決して耳にしたことが有りません。 同じノルウェー人のインゲブレッセンの指揮する伴奏も素晴らしいです。同郷ならではの音楽への共感と味わいに満ち溢れています。ですのでこのCDは過去の好きな演奏を全て忘れてしまうほどです。但し繰り返しますがテクニックを気にされる方にはお薦めできません。音楽の味わいを最も大切にされる方だけにお薦めします。

Cci00026 レイフ=オヴェ・アンスネス(Pf)、キタエンコ指揮ベルゲン・フィル(1991年録音/EMI盤) ノルウェー生れのアンスネスは抜群のテクニックと才能を持った若手ですが、これはまだデビュー時の10代の時の録音です。テクニックは既に完成されていますが、驚くのは音楽の深さです。表現力は豊かですが、そこは自国出身の人だけあって、よくあるヴィルトゥオーゾ・ピアニストのような大げさなところは全く感じさせません。このCDはまた自国オケのベルゲン・フィルの音が最高なのですよ。弦楽器も管楽器も音色からして北欧の空気に満ち溢れています。フィンランドのオケの奏でるシベリウスといい、この空気感の違いというのは何なのでしょうね。前述のクナルダール盤に加えてこのCDが有るので充分満足しています。

Schcci00037 ラドゥ・ルプー(Pf)、プレヴィン指揮ロンドン響(1973年録音/DECCA盤) ルプーのデビュー直後の録音です。当時のキャッチコピー「千人に一人のリリシスト」を証明する、繊細なリリシズム溢れる演奏です。プレヴィンの美しい伴奏にサポートをされた大変に素晴らしい演奏だと思います。僕もかつてはとても愛聴していました。北欧の味わいも感じさせますが、クナルダールとアンスネスの二つの演奏に比べてしまうと、その点ではどうしてもかないません。

Griegchopin_61tyfqvvxyl_2 ディヌ・リパッティ(Pf)、ガリエラ指揮チューリッヒ・トーンハレ管(1947年録音/EMI盤) もう一つ、殿堂入りの録音と言えば、リパッティの演奏です。古いモノラル録音ですが音は明瞭であり案外と聴き易いです。既に悪性リンパ腫の病魔に侵されていたのかもしれませんが、演奏は非常に力強く、かつロマンティックに歌い上げていて引き付けられます。ただ、これが北欧の抒情を十全に表わしているかといえば必ずしもそうとは言えません。リパッティの演奏としてはどんなに素晴らしくても、北欧系の優れた演奏と比べるとそこがやや物足りません。しかし、リパッティファンにとってはかけがえの無い1枚です。オケ伴奏は可も無く不可も無くです。 

さてノルウェーのひとり旅、フーテンのハルくんは旅先で素適な女性に果たしてめぐり合うことが出来るでしょうか。楽しみですね~(笑)

<補足>★ここ重要
その後に聴いたノルウェーのピアニスト、インス・ハーラル・ブラトリのCDは正に同郷の演奏家でしか出来ないような音楽への共感度200%の最高の名演でした。誰が何と言おうと過去の名盤すべてが霞んでしまいます。もちろんヴィルトゥオーゾの派手な演奏が良いのだという方は別ですけれど。
その記事はこちらから。

グリーグ ピアノ協奏曲イ短調 隠れた名盤

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