ビゼー

2010年7月 4日 (日)

ビゼー 歌劇「カルメン」 名盤

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世界中の人に愛されているオペラ「カルメン」は、オペラの入門曲に最適だと思います。他にも「椿姫」「蝶々夫人」「魔笛」「こうもり」、あるいは「アイーダ」や「魔弾の射手」あたりも良いのですが、まずは「カルメン」が一番解り易いのではないでしょうか。僕も昔はよくLPレコードで聴いたものです。最近はすっかり遠のいていましたが、先日、新国立劇場で舞台を観てからは、再びCDで聴いています。やっぱりこの作品は理屈抜きで楽しめますね。

このオペラには、パリのオペラ・コミック座で初演されたオリジナル版とウイーンで初演されたグランド・オペラ版の二つがあります。大きな違いは、オリジナル版はセリフ入りですが、グランド・オペラ版はセリフでなく簡単なレチタティーヴォです。生の舞台ではセリフ入りも良いのですが、家でCDを聴く場合はセリフよりもレチタティーヴォのほうが好きです。ただし、余りこだわる必要は無いと思います。実際に鑑賞する場合には、演奏そのものの違いのほうがずっと受ける印象が大きいからです。

Bizet作曲家のジョルジュ・ビゼーはフランス人ですし、歌詞もフランス語ですので、当然このオペラはフランスの香りが多く漂っています。ところがビゼーは作曲の時に舞台設定の地であるスペインに滞在して、民族的な旋律を多く取り入れました。ですので、この作品はフランスとスペイン両方の曲想を持っています。ですので演奏者は、フランスの洒脱さとスペインの土俗的な雰囲気を場面場面で対応しなければならないので苦労します。そのうえ登場人物は個性的なキャラクターばかりですので、声質、上手さなど、全てに満足できる演奏というのは中々に少なくなります。更にDVDともなれば、歌手の容姿までが気になりますので、いよいよ至難の技となります。と、前置きはこれぐらいにして、僕の「カルメン」愛聴盤のご紹介をします。

Carmen_karajan ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウイーン・フィル(1963年録音/RCA盤) カラヤン最初のレコーディングです。ウイーン・フィルはさすがに歌劇場のオケだけあって弾き方が実に上手いものです。表情はリリカルですし、音の艶も申し分ありません。カラヤンの指揮も活力がありますが、重さを感じさせるところでは、充分にタメを作っていて聴き応えがあります。カルメンのレオンタイン・プライスは艶のある声と歌い方でまずは理想的といえるでしょう。コレルリのホセも素晴らしいですが、最高なのはメリルのエスカミーリョです。こりゃカルメンも惚れてしまうだろうという格好良さです。フレーニのミカエラも悪いはずが無く、主役の4人のバランスとしてはベストに思います。プロデューサーは有名なジョン・カルショーですので、臨場感を感じる録音アイディアが豊かでとても楽しめます。録音も明快です。

Karmen_callas ジョルジュ・プレートル指揮パリ国立歌劇場管(1964年録音/EMI盤) マリア・カラスがカルメンを歌う有名な録音です。プレートルは今では巨匠指揮者になってしまいましたが、この頃はまだ青二才という評価だったと思います。けれどもこの演奏は、いかにもフランス的な、軽く粋で流れるような演奏です。歌手も声の軽い人たちで固められています。ただ一人マリア・カラスを除いてです。従って、カラスの表情の濃い歌がよけいに浮き彫りになります。一見アンバランスと思えるこの配役は、実はカラスのために有るのだと思います。この歌はやはり凄いですよ。カルメンが登場したとたんに、空気が変わります。こんな歌手はちょっと居ないですね。紅白のトリの美空ひばりみたいなものです。やっぱりカラスはトリだ?(笑) 但し録音はやや古めかしさを感じます。

Karmen_bulgos ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮パリ国立歌劇場管(1966年録音/EMI盤) フランスの演奏家の場合にはどうしても軽みが出すぎて、スペイン的なアクが無くなるように思います。その点、スペイン系のブルゴスが指揮をすると、フランス的な軽みの中にも情念の濃さと情熱を感じさせて、とてもバランスが好ましく思います。カルメンのグレース・バンブリー、ホセのジョン・ヴィッカースは、ともに美声と表情が魅力的です。ミカエラのフレーニも良いのですが、問題はエスカミーリョのパスカリスで、弱々しく闘牛士らしくありません。全体的には中々に良い演奏だと思います。この演奏はセリフ入り(吹き替え)のオリジナル版です。録音はEMIとしては平均的です。

Karmen_bernstein レナード・バーンスタイン指揮メトロポリタン歌劇場(1973年録音/グラモフォン盤) 僕が学生の時に最初に買った「カルメン」は、バーンスタインのLP盤でした。前奏曲から驚くほど遅いテンポで、45回転盤を33回転で回しているかと思うほどでした。(って若い方には意味不明かも?) それは彼の晩年のマーラー演奏を先取りしたかのようです。本幕に入ってもフランスの軽妙さとはほど遠い、重量感のある演奏ぶりですが、不思議ともたれることは無く、聴き応え充分なのです。歌手はカルメンのマリリン・ホーン、ドン・ホセのジェームス・マックラッケンともに、とても良い出来だとは思うのですが、バーンスタインの個性的な指揮の前では歌手はどうしても印象が薄れてしまいます。全体がひとつのシリアスなドラマに感じられるというのが非常にユニークです。

Carmen_abadoクラウディオ・アバド指揮ロンドン響(1977年録音/グラモフォン盤) オケがロンドン響のせいもあるかもしれませんが、オペラっぽくなくて交響作品みたいな演奏です。少々堅苦しさを感じます。リリカルなのは良いですが、生気がいまひとつ欠けています。オペラの得意なアバドですから、これがライブ収録ならば随分違ったことと思います。カルメンのテレサ・ベルガンサは美声ですが、妖艶さよりも清純さを感じさせるので、好みが分かれると思います。ホセのドミンゴは流石に素晴らしいです。ミカエラのコトルバスも良いです。エスカミーリョのシェリル・ミリンズは余り闘牛士という感じではありません。アバドの指揮を含めて、全体的に小ぎれい過ぎる演奏だと思います。

Carmen_kara_berlin ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル(1982年録音/グラモフォン盤) カラヤン二度目の録音です。今回はセリフ入りのオリジナル版ですが、セリフはフランス人による吹き替えなので、歌手の声と異なるコテコテのフランス語発音にしらけます。ベルリン・フィルは響きは立派ですが、オペラの演奏ではやはりウイーン・フィルのほうが上に思います。カラヤンも旧盤よりもゆったりと情緒を強調した表現なので全体的に重く、流れに淀みを感じたり、もたれてしまう場合が多いです。カルメンのアグネス・バルツァは声が非常に好きですし、表情も魅惑的です。ドン・ホセのカレーラスは情熱的で思い込んだら一途という愚かさも感じさせて最高です。問題はエスカミーリョのホセ・ヴァン・ダムが、おじんくさく、伊達男さを感じません。これじゃ最後の場面でカルメンはホセに心が戻っちゃって話の結末が変わってしまうでしょう。というわけで色々と欠点は多いのですが、カルメンとホセの歌が好きなので捨て難い演奏です。

Carmen_kliber カルロス・クライバー指揮ウイーン国立歌劇場(1978年/ORF収録) これはDVDです。昔、NHKで放送されたときにVTRに録画して何度となく鑑賞した舞台映像です。海賊CD盤も出てはいましたが、音が余り良くないので、それならばDVDで観たほうが良いと思います。クライバーのオペラ指揮姿が拝めるだけでも貴重ですしね。カルメンのエレーナ・オブラスツォワは歌はなかなかですが、容姿に期待は禁物です。妖艶というには無理があります。ホセのドミンゴには文句の無いところです。クライバーの指揮は生気と色気を感じさせて見事です。演出はフランコ・ゼフェレッリですので、写実的でオーソドックスな舞台が楽しめます。この人の昔の監督映画「ロミオとジュリエット」も、中世の街を絵に描いたような映像でしたものね。

以上の演奏から、もしも初めてこの曲のCDを買おうという方に勧めるとすれば、迷うことなくカラヤン/ウイーン・フィルの旧盤です。演奏、歌唱、録音すべてにおいて欠点が無いからです。あとはどうしても捨てがたいのが、バーンスタイン/メトロポリタン盤と、カラスのプレートル盤の二つです。

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2010年6月21日 (月)

新国立劇場 ビゼー 歌劇「カルメン」 

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新国立劇場で公演中の「カルメン」を観に行きました。なんといっても、このオペラは有名ですし、世界中で愛好されていますよね。「わたしの名前は~カルメンでっすっ!♪」といえば、子供(但し昔の?)も知ってるピンクレディーです。冗談はさておき、このオペラは日本での初演も古く、1922年にいわゆる浅草オペラで公演されました。このときの合唱団にはエノケンも加わっていたそうです。浅草オペラは1923年に起きた関東大震災で浅草が壊滅的になったために、僅か数年間で幕を閉じてしまいましたが、当時一大オペラ・ムーブメントを起こしました。その熱狂的なファン達の中には、宮沢賢治や川端康成、それに小林秀雄、サトウハチロー、東郷青児などのそうそうたる文化人が居たんだそうですね。彼らに「カルメン」は大受けだったそうですが、それもそのはず、まずストーリーが実にわかり易いです。軍隊のしがない伍長ドン・ホセが、喧嘩騒ぎで捉えられたジプシーの美女カルメンに色目を使われて逃がしてしまい、あげくに軍隊を脱走して恋するカルメンを追いかけますが、カルメンは花形闘牛士に惚れてしまいます。結局ホセは嫉妬のあまりにカルメンを刺し殺す、という話です。モテない男がふられてストーカーになってしまい、逆恨みをして事件を起こすなんていう話は、昔からどこの国でもあったのですね。女の人(には限りませんが)は、別れ話の時にはよくよく気をつけましょうね。それと、このオペラの人気は音楽にあります。何しろわかり易いメロディの宝庫なのです。前奏曲は、あの浅草オペラ時代に「チャンチャカチャカチャカ・チャンチャカチャカチャカ・チャンチャカチャカチャカ・エッヘッヘ♪」などという可笑しな歌詞をつけて歌われて親しまれたそうです。カルメンが歌う「ハバネラ」、闘牛士エスカミーリョが歌う「闘牛士の歌」も最高ですね。

さて、前置きが長くなりましたが、現代では「浅草オペラ」ならず「新宿オペラ」です。我が国唯一のナショナル・オペラ・シアターでの「カルメン」です。演出は話の舞台であるスペインの香りがプンプン漂うオーソドックスなものなので楽しめました。指揮はマウリツィオ・バルバチーニさん。イタリアのオペラ指揮者なので手堅かったですが、もう少しスペインの土臭い歌い回しが欲しかったかなぁ。歌手については、カルメン役のキルスティン・シャべスさんはとても良かったですよ。豊満な肉体と色気が正にカルメンです。ドン・ホセ役のトルステン・ケールさん、エスカミーリョ役のジョン・ヴェーグナーさんも良かったですが、むしろ浜田理恵さんのミカエラが情感一杯の歌唱で素晴らしかったです。歌手陣にはほとんど不満が無かったのですが、実はレレレと思ったのはオーケストラです。今回担当の東京フィルハーモニーは新国立歌劇場のオケ・ピットには常連ですが、今日の演奏は正直いただけなかったです。普段の定期演奏会で弾くメンバーがどれぐらい居たのかな、と首をかしげました。もちろん定期がベストメンバーで、それ以外の公演には準メンバーが出てくるのはわかっていますけれど、それにしても腕前が随分低かったなぁ。元々こういうオペラに管弦楽の出来栄えをうるさく言うお客さんは多くはないと思いますし、僕だって生の舞台と歌には、それだけで充分満足してしまうのですが、それにしてもあんまりオペラ観客をなめたような演奏をするのは、けしからんです。そうなるとやっぱり劇場専属のオーケストラが欲しくなりますよね。海外の歌劇場の専属オケは仮に技術的に完璧ではなくても、オペラやバレエの伴奏に慣れていて、表現が上手いのですよね。せめてそういう良さを持ってもらいたいと思うのです。せっかくのナショナル・オペラ・シアターにはこれからも多く通いたいと思っているので、オーケストラにももっと力を入れて欲しいなぁ。今は亡き若杉さんの後を次いで芸術監督に就任したオダチューさん、頑張ってくださいね。

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