ストラヴィンスキー

2012年10月 9日 (火)

ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」 名盤

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ストラヴィンスキーの三大バレエの第一作「火の鳥」に続く第二作は「ペトルーシュカ」です。彼は気分転換のためにピアノ協奏曲(正確には”ピアノ協奏曲風の管弦楽曲”)を書いていたときに、頭にある幻影が浮かびました。それは、『糸を解かれて自由になったあやつり人形が、悪魔的なアルペジオを響かせると、オーケストラが激怒して、脅かすようなトランペットのファンファーレがやり返し、ひどい騒ぎが頂点に達したときに、哀れなあやつり人形が崩れるように倒れて騒ぎが終わる』というものでした。

ロシアバレエ団のディアギレフは、その話を聞いて気に入り、ストラヴィンスキーにそれをバレエ音楽にするように依頼します。そこでストラヴィンスキーは、例のピアノ協奏曲を途中からバレエ曲に書き替えました。そのため、この曲にはピアノの独奏があちらこちらに登場して、とても重要な役割を果たします。

”ペトルーシュカ”というのはロシア文学に出てくるペーターの縮小名で、他の国では”ピエロ”に当たります。いわゆる、お人好しで間抜けな悲喜劇的人物ですね。

このバレエに登場する主要な人物は、人形のペトルーシュカ、ムーア人、踊り子と、見世物小屋の老手品師です。

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―主なあらすじ―

第1場(謝肉祭の市) サンクトペテルブルクの広場を群衆が行き交います。見世物小屋の前では太鼓が鳴り響き、小屋の老手品師が笛を吹くと、ペトルーシュカ、ムーア人、踊り子の3つの人形が現れて、ぎこちない動きでロシア舞曲を踊り始めます。

第2場(ペトルーシュカの部屋) 劇中劇になり、ペトルーシュカは見世物師に蹴飛ばされて部屋に放り込まれます。そこへ現れた踊り子にペトルーシュカは思いを寄せますが、踊り子は全く相手にしてくれません。

第3場(ムーア人の部屋) 色黒のムーア人がグロテスクな踊りをおどっています。そこへ踊り子が現れて二人は仲良くワルツを踊ります。それを見たペトルーシュカは怒ってムーア人につかみかかりますが、逆に部屋から追い出されてしまいます。

第4場(謝肉祭の市の夕方) 広場の雑踏にペトルーシュカが飛び出してきますが、それを追いかけてきたムーア人に切り殺されてしまいます。見世物師は、ざわつく群衆に向ってペトルーシュカが人形であることを説明しますが、その時突如、見世物小屋の屋根の上にペトルーシュカの幽霊が現れて終わります。

前作「火の鳥」の場合、オリジナルの1910年版は、途中にやや緩慢な部分が見られ、バレエ公演では良いとしても、コンサート曲としては少々長く感じられます。その為に簡略化した1919年版が存在しますが、今度は短くし過ぎた感が有りました。

その点、「ペトルーシュカ」には無駄な部分が全く無く、最初から最後まで飽きさせません。オリジナルの1911年版は4管編成で大規模なので、コンサート用に演奏のしやすい3管編成に書き替えられたのが1947年版です。1947年版には終曲にコーダが付け加えられましたが、それ以外には両者の構成や長さにはほとんど違いは無く、むしろ演奏そのものによる違いの方が大きいと思います。

それにしても「ペトルーシュカ」は素晴らしい作品です。「春の祭典」が最高傑作とはいえども、この曲の魅力はそれに優るとも劣りません。打楽器や管楽器が大いに活躍したり、リズムの面白さが際立ちますが、随所に出てくるメルヘンチックな旋律の魅惑的なことや、漂う詩情が何とも言えません。

恋をしても実らず、哀しい思いをする主人公のペトルーシュカは自分の青春時代と重なり合います。僕もしばしば恋に破れたピエロになったからです。

恋をする者は詩人になり、やがてピエロになる (ハルくん作)

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

Cci00042bレナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル(1969年録音/SONY盤) 自分でも劇音楽を作曲するバーンスタインらしい、テンポの緩急とメリハリがよく効いた解りやすい演奏です。多少ドタバタした印象も有りますが、聴いていて楽しいことではこの上ありません。アンサンブルの緻密さはそれほどでは無いのですが、各管楽器の独奏に非常に味わいがあるのは流石に名人揃いのNYPです。1947年版による演奏です。

4108081088ズービン・メータ指揮ロサンゼルス・フィル(1969年録音/DECCA盤) 30代でショルティと並ぶDECCAの看板スターになったメータの当時の演奏には確かに魅力を感じます。アメリカ西海岸の楽団とインド出身のマエストロのコンビのせいか、音楽も響きもとても温かく、クールさやドライさを少しも感じません。心の優しいペトルーシュカを想わせるような演奏です。反面。グロテスクさは弱い気がします。アンサンブルもクリーヴランドOのような完璧さは無くとも非常によくコントロールされていて申し分ありません。1947年版による演奏です。

Stravinsky_petrushkaピエール・ブーレーズ指揮ニューヨーク・フィル(1971年録音/Sony盤) 現在は「春の祭典」のCDにカップリングされていますが、LP盤時代に愛聴したせいか、写真のジャケットに愛着が有ります。よく言われるように、ややアバウトなアンサンブルのバーンスタイン時代のNYPとは段違いの完璧さを持っています。バーンスタイン、メータの温かい音楽とは異なり、とてもクールな印象ですが、面白くないわけでは全く無く、この曲の持つ美しさを十全に引き出しています。極めて高い次元の演奏として風格さえ漂わせます。出来栄えとしては1969年のクリーヴランドとの「春の祭典」以上に優れていると思います。これは1911年版による演奏です。

5111kaaeapl__ss500_ コリン・ディヴィス指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1977年録音/Philips盤) つくづくコンセルトへボウは優れたオケだと思います。むろん古典派、ロマン派の音楽には定評が有りますが、近代曲を演奏しても実に素晴らしいです。機能的に上手いだけでなく、厚く美しい響きにはしっとりとした潤いが有ります。デイヴィスの指揮は音楽性に溢れたもので、器用なだけの若手指揮者とはまるで違った貫禄と風格を感じます。何度でも聴きかえしたくなる音であり演奏です。1947年版による演奏です。

1195050668リッカルド・シャイー指揮クリーヴランド管(1993年録音/DECCA盤) クリーヴランド管は優秀ですし、リズムの切れの良い、非常にスタイリッシュな演奏です。但し「春の祭典」でも感じたことですが、どうもオケの音が明るく健康的に過ぎて、この曲のグロテスクな面が感じられません。楽しいばかりでは無く、暗く哀しい部分にもっと注目しなければいけない曲だと思うのです。まとまりの良い演奏ではありますが、特に強く惹かれるということはありません。1947年版による演奏です。

51l67zgy3fl__sl500_aa300_ロバート・クラフト指揮フィルハーモニア管(1997年録音/NAXOS盤) ロバート・クラフトはストラヴィンスキーと親交が深かったので、作曲者の意図を最も理解した指揮者でしょう。この演奏は演出の過剰さを少しも感じさせない、どっしりと構えたオーソドックスなものです。従って若手指揮者のような派手さは有りません。良くも悪くも、ある種の緩さを感じさせます。神経質な演奏が苦手の人には奨められることでしょう。と言っても、昔のモントゥー時代のような大雑把な演奏ではありません。1947年版による演奏です。

ということで、この名曲をどの演奏も楽しめますが、厳選するとブーレーズ/NYP盤とCデイヴィス/コンセルトへボウ盤が双璧です。

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2012年10月 4日 (木)

ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」 名盤 ~ハルの採点~

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ストラヴィンスキーの書いた三大バレエ音楽は、各曲それぞれの個性的な書法や性格の違いが楽しめるので大好きです。複雑な管弦楽法の面白さだけではなく、音楽の内容が真に素晴らしいです。そのうちの「火の鳥」「ペトルーシュカ」も大変な傑作ですが、やはり頂点に位置するのは「春の祭典」ですね。ストラヴィンスキーの最高傑作、そして20世紀の屈指の名曲、それが「春の祭典」です。

___images_articles_stravinsky_27012この曲は、作曲者本人の空想が基に成りました。それは「一人の乙女をいけにえとして、ハルの神(じゃなかった”春の神”)に捧げる、異教徒の儀式」です。この話をパリでロシアバレエ団のディアギレフにしたところ、彼はすっかり夢中になり、ストラヴィンスキーにバレエ音楽の作曲を頼んだそうです。

曲は第1部と第2部に分かれていて、第1部「大地への賛歌」では、若い男女や、春の祭りのために競う諸部族の踊りが大地への祈りのために捧げられます。第2部「いけにえ」では、若者たちによっていけにえになる乙女が選ばれ、長老たちが円座になって見守る中で踊り狂い、ついには息絶えたその乙女を長老たちが神様に捧げます。

三大バレエに共通しているのは、非常に革新的、斬新な書法で書かれているにもかかわらず、聴いていて少しも難しい気がしないことです。特に「春の祭典」は粗暴なまでのリズムと迫力を持つ一方で、大地の神秘的な美しさと抒情を曲一杯に湛えています。この曲はよく、変拍子のリズムの複雑さや音楽の持つ迫力が語られますが、決してそれだけではありません。それが真の名曲たる所以です。ですので、演奏を鑑賞する場合も、それらをどれだけ表現出来ているかという点を評価のポイントとしたいです。

この曲は、以前ライプチッヒ・バレエ団のDVDをご紹介した時に、CDの愛聴盤についても一部を紹介しましたが、なにしろこの曲には名盤が目白押しです。そこで、今回は改めて愛聴盤をご紹介し直したいと思います。前回ご紹介のディスクについては、おおよそ同じ内容ですが、採点は改めて付け直しました。

それでは順にご紹介してゆきます。推薦CD「ハルの採点」です。

Cci00042b レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル(1958年録音/SONY盤) ヤング・レニーのかつてのベストセラーですが、何故かCDは後年のロンドン響との再録音のほうばかりが販売されていてニューヨーク盤は廃盤状態が続いています(僕のはレニーのエッセンシャル盤です)。なんでやろね?NYP音楽監督就任直後の演奏は荒削りではあっても、若々しい情熱に溢れていて実に魅力的です。彼こそは本物の「青春の巨匠」ですよ。この演奏も始めのうちは安全運転ですが、「春のロンド」あたりから突然アクセルがかかってノッてきます。そういえば、このあたりは曲が「ウエストサイドストーリー」みたいですものね。いや、影響を受けたのは作曲家レニーのほうなのでした。これはやっぱり時々聴きたくなる演奏です。75点。

4108081088ズービン・メータ指揮ロサンゼルス・フィル(1967年録音/DECCA盤) 当時30歳そこそこのメータの才能が光り輝いています。「春のきざし」は超快速で飛ばして爽快この上ありません。速い部分が際立つので、遅い部分が実際以上に遅く感じます。ロス・フィルの音はキレが有りますが、フォルテでも音の柔らかさを失わず、騒々しく刺激的にならないのは素晴らしいです。第2部も非常に美しい響きですが、神秘感と終結部の迫力はいま一つかもしれません。全体を通して、楽しいことこの上なく非常に素晴らしい演奏です。90点。

41spkgnk6sl__ss500_ ピエール・ブーレーズ指揮クリーヴランド管(1969年録音/Sony盤) セルがまだ現役時代の名器クリーヴランド管を使って録音を行った、一世を風靡した歴史的名盤です。よく言われる、各楽器の音がレントゲン写真のように聞こえる演奏は、録音技術の功績も大であって、生のステージではちょっと有り得ないでしょう。切れ味の鋭い演奏ですが、それだけでは無いある種の「落ち着き」や「風格」を感じさせます。ブーレーズはずっと後にベルリン・フィルと再録音をしていますが、聴いていて面白いのは断然このクリーヴランド盤のほうです。前半は文句無しですが、後半の迫力がいま一つなので85点。

51s68tcedgl__ss500_レナード・バーンスタイン指揮ロンドン響(1972年録音/SONY盤) 旧盤から14年後の再録音盤ですが、旧盤の若々しさに比べて、ずっと大人の印象に変わりました。テンポは遅めでスケールが大きく重量感が増しています。その分、旧盤の切れの良さは失われた感じです。前半よりも後半が良く、深みが有ります。管楽器のソロはNYPのほうが上に思いますが、全体のまとまりは新盤のほうが上です。どちらを好むかは人によって分れそうです。75点。

5111kaaeapl__ss500_ コリン・ディヴィス指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1976年録音/Philips盤) このCDはアナログ録音でありながら非常に音が良いです。というか逆に優秀なアナログ録音だからこそコンセルトへボウの分厚い音の響きを充分に捉えられたのかもしれません。まさに圧倒されるようなパワーなのですが少しもうるささを感じません。これはデイヴィスの指揮と楽団の優秀さのせいでしょう。弦楽や管楽の各パートの上手なことはまさに特筆ものです。ただし前半はややおとなしめ。「春のロンド」あたりから音の厚味を増して本領発揮は後半です。100点。

Aa017878wリッカルド・シャイー指揮クリーヴランド管(1985年録音/DECCA盤) 当然オケは優秀ですし、リズムの切れも良く、現代的な演奏と言えます。迫力は充分に有りますが、非常に健康的でスタイリッシュ、オケの響きは明るく、土俗感や神秘感を余り感じさせません。そのあたりが聴き手の好みの分かれるところではないでしょうか。評論家筋には評価の高い演奏なのですが、自分としては、この曲にしては楽天的過ぎるので、もっと原始的な荒々しさや神秘感が欲しいと思えてしまいます。80点

Stravinsky71eniuaoftl__sl1084_マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ響(1996年録音/RCA盤) トーマスはロシア系の血筋を持ちます。また若いころにストラヴィンスキー本人からこの作品について詳しく伝授されました。ですので曲への思い入れは相当強いと思います。この曲の二度目の録音であり完成度が非常に高いです。第一部から集中力の高いアンサンブルを聴かせますが、第二部に入ると更に集中力と熱気を増してゆきます。非常にダイナミックですが雑な部分が無く各楽器のソロもアンサンブルも非常に優秀です。録音も優秀で分離の良さが見事ですが、演奏そのものが熱いので分析的には聞こえません。100点。

Cci00042ワレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管(1999年録音/Philips盤) もう10年近く前ですがこのコンビの「春の祭典」は東京で生演奏を聴いています。その時はどちらかいうとスマートな印象(席が遠かったせいかも)だったのですが、その頃に録音されたCDでは随分と荒々しさを加えて素晴らしい出来栄えです。精緻さとバーバリズムの共存というこの曲の理想的な演奏となりました。いたるところでロシアの大地の雰囲気を感じさせるのもやはり自国の楽団ならではです。現在も非常に気に入った演奏です。100点

51sq7hjv7blロバート・クラフト指揮フィルハーモニア管(2007年録音/NAXOS盤) ストラヴィンスキーと親交が深く、長くアシスタント指揮者を務めてロシアツアーなどにも同行したロバート・クラフトは、作曲者の意図を恐らく最も理解した指揮者だと思います。この前にもロンドン響との録音を残していますが、僕は新盤のほうで聴いています。複雑な楽譜を目の前に示されるような演奏ですが、最近の指揮者のように、曲を無理やり味付けて料理してやろうというようには感じません。ハッタリや演出が無いので一聴すると面白みに欠けるようですが、実は非常に風格の有る演奏です。ストラヴィンスキーの生誕125周年を記念したこの録音は、やはり聴いておきたいと思います。85点

これ以外の演奏では、ストラヴィンスキー本人の指揮でコロムビア響盤を聴きましたが、正直面白く無かったです。作曲者の演奏ということで過剰な期待は禁物です。イーゴリ・マルケヴィチ/フィルハーモニア管も古くから評判が良かったですが、さほど気に入りませんでした。アンタール・ドラティ/デトロイト響は一時期よく聴いたのですが、オケの響きがドライでキンキンすることもあって現在は余り好んでいません。

というわけで、3年前にはゲルギエフ盤を一番に上げましたが、現在はコリン・ディヴィス盤、ティルソン・トーマス盤、ゲルギエフ盤がトップスリーです。

次点としてはメータ/ロス・フィル盤を上げたいですが、ブーレーズ/クリーヴランド盤とロバート・クラフト盤も外せません。

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2011年2月18日 (金)

~名曲シリーズ~ ストラヴィンスキー バレエ音楽「火の鳥」 愛聴盤

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今回の名曲シリーズは、 ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」です。クラシック音楽ファンで、このタイトルを聴いて「ああ、手塚治虫のマンガね。」などという方はおられないでしょうが、20世紀初頭に書かれたバレエ音楽です。当時のパリで一大旋風を巻き起こしていたディアギレフのロシア・バレエ団(いわゆるバレエ・リュス)の依頼によって作曲をしました。新進作曲家のストラヴィンスキーに仕事を頼むあたりは、ディアギレフの音楽への造詣は相当深かったのでしょうね。ですが、余り知られてはいませんが、ディアギレフはこのバレエの為の音楽を先にリャードフに依頼していました。リャードフが一向に着手する気配が見られなかったので、しびれを切らせてストラヴィンスキーに依頼したのです。時間は差し迫っていましたが、ストラヴィンスキーは短期間で作曲に取り組み、無事完成させました。初演されたパリのオペラ座での公演は大成功となりました。一躍名の売れたストラヴィンスキーは、「ペトルーシュカ」「春の祭典」の三大バレエを作曲するチャンスを得て大変に有名となり、とうとうココ・シャネルと恋に落ちて不倫にまで至ることになります(というもっぱらの話です)。

もしもリャードフが作曲を行なっていたら、 ストラヴィンスキーの「火の鳥」は世に存在しませんでした。そうなれば「ペトルーシュカ」「春の祭典」」も存在したかどうか分かりません。運命の悪戯というのは実に面白いものです。

「火の鳥」はロシアの民族童話に基づいて台本が書かれています。登場人物は、自分の庭園に入ってきた乙女達を魔法の力で捕えてしまい、男達を石に変えてしまう魔王カスチェイ、妖精の火の鳥、勇敢な王子イワン、カスチェイに捕えられた王女13人です。ストーリーは簡単で、火の鳥を捕えた王子が、逃がしてやる代りに魔法の羽をもらい、その後自分が魔王の庭園に入って捕えられそうになった時に魔法の羽の力でカスチェイを倒し、捕えられていた乙女達を全員解き放してやるという話です。めでたしめでたし・・・だけど、石にされた男たちは本当に元に戻してもらったのかしらん?今度は王子が乙女たちを傍に囲うなんてことは無かったのでしょうね。男はスケベだから信用できん!(苦笑)

音楽については、斬新な書法を用いながらも、ロシアの民謡を基にしたような旋律が出てきたり、夢のように美しく繊細であったり、激しい部分があったりと飽きさせません。とても分かりやすい音楽だと思います。初演の際のオリジナル版が通称「1910年原典版」です。4管編成の完全版で演奏には40分以上かかりますので、家で聴くには少々長く感じるかもしれませんが、これはやはり必聴です。のちにストラヴィンスキーが自分でコンサート用に編集した2管編成の組曲「1919年版」は7曲の抜粋で、原典版のおよそ半分の長さです。「王女達のロンド」、「カスチェイの凶暴な踊り」などの聴きどころがてっとり早く聴けて便利なのですが、短過ぎて少々物足りなく感じられます。同じ組曲版でも「1945年版」は、編成は2管編成で12曲の抜粋ですので、原典版では長過ぎる、1919年版では短過ぎるという人には丁度良いと思います。
もちろんストラヴィンスキーの最高傑作と言えば「春の祭典」ですが、僕はこの「火の鳥」をとても好んでいます。

僕は大学4年の時に母校のオーケストラで1919年組曲版を演奏したことがあります。就活中だったために余り練習が出来なかったので、本番では難しい箇所はほとんど弾けなかった記憶が有ります。バレエ音楽といえども一切の手抜きをしなかったからこそ、ストラヴィンスキーは音楽家として大成功したのでしょう。

この作品を実際にバレエとして観たのは、3年くらい前に東京バレエ団のモーリス・ベジャール追悼公演で観た一度だけです。その時の音楽は録音だったので、今度は生のオーケストラ付きでぜひ観たいと思っています。でも滅多にやらないのですよね。「春の祭典」や「ペトルーシュカ」と一緒にもっと公演が行われれば良いと思います。

それでは愛聴盤をご紹介します。

<1910年原典版>

41mlat0sdl ピエール・ブーレーズ指揮ニューヨーク・フィル(1975年録音/SONY盤) 現代作曲家ブーレーズが指揮活動を盛んに行っていた頃の演奏です。当時の「運命」「幻想交響曲」それにストラヴィンスキーの三大バレエなど、毎回リリースされる度に話題となりました。CBSの録音の分離の良さが演奏を余計に引き立てていたと思います。個々の楽器の動きがとても明確で聴き易いです。後年グラモフォンに再録音を行いますが、この頃の演奏と録音のほうがブーレーズとしては個性がはっきりと際立っていると思います。

41aqabhvrzlコリン・デイヴィス指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1978年録音/フィリップス盤) ブログお友達のオペラ・ファンさんご推薦の演奏です。ややもすると冷たい管弦楽の響きになるストラヴィンスキーですが、その点ACOは音に人肌のぬくもりを感じさせます。そのオーケストラの響きの美しさは正に極上です。アンサンブルも優秀なのですが、「カスチェイの凶暴な踊り」あたりは、ブーレーズやゲルギエフたちの切れの良さと迫力には一歩譲る印象です。

51tcmpn3hol ワレリー・ゲルギエフ指揮キーロフ管(1995年録音/フィリップス盤) 非常に繊細で美しい演奏です。弱音部の音をとても抑えるので、うっかりすると聴き逃しかねませんが、ある程度ボリュームを上げて真剣に耳を傾けると、素晴らしさが良く分かります。あの美しい「王女のロンド」は震えるほどの美しさですし、「カスチェイの凶暴な踊り」は凄みが有りますし、「終曲」での音のつながりと高揚感も見事です。それにちょっとした節回しに、ロシアの作曲家の手による作品であることを思い出させてくれます。やはり現在では一番の愛聴盤です。

Stravinsky71eniuaoftl__sl1084_マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ響(1998年録音/RCA盤) トーマスはロシア系の血筋を持ちます。また若いころにストラヴィンスキーと親交が有りましたので曲への思い入れは強いと思います。各楽器のソロもアンサンブルも優れていますが、肌触りは温かく、クールな印象は受けません。当然アメリカのオケですので音そのものや民謡的なメロディの歌い回しにロシア臭さは感じられません。また「カスチェイの凶暴な踊り」の迫力がいま一つなのは残念です。録音は優秀で分離の良さが見事です。

<組曲1919年版>

Smk60694 レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル(1957年録音/SONY盤) バーンスタインの「火の鳥」は1974年のニューヨーク・フィルの来日公演で聴きましたので、とても思い出深いです。あの広いNHKホールでしたが、3階席までずしりとした音が響き渡りました。このCDは初期のステレオ録音というのが信じられないほどに音が優秀です。演奏も非常に新鮮です。ただ「カスチェイの凶暴な踊り」は非常に躍動的ですが、健康的なので凄みに欠ける印象も有ります。「ウエストサイド」みたい?そうかもしれません。この演奏は1919年版では古典的な名盤と言えると思います。

<組曲1945年版>

Decca4581422 リッカルド・シャイー指揮(1995年録音/DECCA盤) 1945年版の演奏は珍しいですが、シャイーが素晴らしい演奏を聴かせてくれます。あのいぶし銀のコンセルトへボウから、非常に透明感の有る美しい音を引き出しています。機能的にも極めて優秀なのですが、それでいて音楽の温かさを失うことがありません。組曲でも1919年盤では物足りないと思う時に取り出すには最高だと思います。

<追記>コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトへボウ管盤、リッカルド・シャイー/アムステルダム・コンセルトへボウ管盤、マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ響盤を後から書き加えました。

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