ヴェルディ(歌劇)

2009年9月 6日 (日)

2009ミラノ・スカラ座日本公演 ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロ」 他CD名盤

Story04イタリア・オペラの最高峰 ミラノ・スカラ座歌劇場が現在日本公演を行っています。演目はヴェルディの「アイーダ」と「ドン・カルロ」の2つですが、大変運の良いことに「ドン・カルロ」のゲネプロを観ることが出来ました。ゲネプロと言っても舞台装置や歌手の衣装は本番と同じですので、ほとんど本番を鑑賞している気分です。オーケストラ団員は普段着で演奏しますが、どうせピットの中ですので気にもなりません。

一口に「オペラハウス」と言っても、ドイツのベルリン、ドレスデン、ミュンヘン、オーストリアのウイーンなどの主要都市にはモーツァルト、ワーグナー、Rシュトラウスなどのドイツオペラを得意とする歌劇場が有りますし、あるいはバイロイトにはワーグナー専門の祝祭劇場が有ります。これらは中々どこが一番だとは決められないと思います。けれどもイタリア・オペラの場合にはイタリア国内に多くの歌劇場が有りますが、名実共に最高峰はミラノ・スカラ座歌劇場であると相場が決まっています。彼らはドイツ・オペラなども多く上演を行いますが、文句無く素晴らしいのはやはりお国もののヴェルディやプッチーニのイタリア・オペラです。

Doncarlo01 さて、今回「ドン・カルロ」を指揮するのは、イタリアのダニエレ・ガッティです。僕はこの人の演奏はそれほど聴いていませんが、レスピーギの交響詩「ローマ三部作」などは、トスカニーニの大迫力には一歩譲るものの、繊細で詩情に溢れたとても良い演奏でした。オペラについても、この「ドン・カルロ」はミラノで大絶賛されたようですのでとても楽しみでした。

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「ドン・カルロ」には全4幕構成の慣例版の他に、カルロとエリザベッタが婚約時代にパリのフォンテーヌブローの森で出会うシーンを第1幕に置いた全5幕慣例版が代表的ですが、この公演は4幕慣例版での上演でした。演出はシュテファン・ブラウンシュヴァイクです。昨年ミラノでプレミアが行われた新演出だそうですが、伝統的な派手で大掛かりな装置とは無縁ですが、かといって現代的な奇抜で飛躍し過ぎな演出でもありません。それは淡い色彩感と光の陰影とを上手に使った「詩的」で「演劇的」な舞台です。登場人物の心の中や懐古シーンを、舞台の背景に二重に再現してみせるあたりも非常にユニーク。とても美しくセンシティヴな演出でした。

歌手陣はさすがに粒よりです。ルネ・パーぺ(フィリッポ2世)、アナトーリ・コチェルガ(宗教裁判長)、ダリボール・ヴァルガス(ロドリーゴ)はいずれも素晴らしく、バルバラ・フリットリ(エリザベッタ)も人気に違わぬ声と表現力を聴かせてくれました。一つだけ気になったのは主役のラモン・ヴァルガス(ドン・カルロ)でしょうか。テノールの輝くハイトーン部分での声量にやや不足感を感じました。この人はむしろ静かに優しく歌う時の声のほうが魅力的だったように思います。ただ本公演では更に声が出るのかもしれません。それともうひとつ、背が小さい!父のフィリッポ2世や家来で親友のロドリーゴより小さいのは良いとしても、エリザベッタよりもずっと小さいのが気になりました。カルロは確かに英雄的な人物では無く、思い悩めるキャラクターなのではありますけどね。

ダニエレ・ガッティの指揮は大変気に入りました。この人は情熱的で切れの良いトスカニーニやムーティのような要素を持ちながらも、非常に繊細で情感の有る音を出すように感じます。終幕のフィリッポ2世の「彼女は決して私を愛していなかった」など非常に深みのある表現で素晴らしかったです。また歌手と合唱と管弦楽の音をまろやかにブレンドするあたりの能力にも非凡さを感じます。もっと多くのオペラを振って欲しいですね。いずれはイタリアNo.1マエストロに成れる可能性を持っていると思います。

せっかくですので、このオペラのCD愛聴盤のご紹介もしておきます。

Cci00018 ガブリエーレ・サンティー二指揮ミラノ・スカラ座歌劇場(1961年録音/独グラモフォン盤) 僕は現在CDは全5幕版の一種類しか所有していません。けれども、この録音はボリス・クリストフのフィリッポ2世、バスティ二アーニのロドリーゴ、ステッラのエリザベッタ、コッソットのエボーリ公女などの最高の歌唱の数々を聴くことが出来るので非常に気に入っています。イタリアの名匠サンティー二の指揮もミラノ・スカラ座管弦楽団を完全に手中に収めてイタリア・オペラの粋を思う存分味合わせてくれます。

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2009年8月23日 (日)

ヴェルディ 歌劇「アイーダ」全曲 続・名盤

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今年の夏から秋にかけては、ヴェルディの傑作オペラ「アイーダ」がどうも流行りそうです。もともとイタリアオペラの中でも「椿姫」「蝶々夫人」「ラ・ボエーム」「トゥーランドット」と並んで公演される回数の多い作品なのですが、今年はオペラだけでなくミュージカルでも色々と取り上げられるからです。

オペラでは9月に世界一のイタリアオペラハウスであるミラノ・スカラ座が来日して「ドン・カルロ」とこの「アイーダ」を公演します。同じ9月には梅田芸術劇場が東京と大阪でミュージカル「アイーダ」を公演します。これは数年前の宝塚のミュージカルがベースだそうです。もうひとつは劇団四季がディズニー製作のブロードウェイ作品を公演します。但し音楽はどちらもヴェルディとは関係無いようですし、ディズニー版の音楽はエルトン・ジョンですので、お得意のラブ・バラードが満載でしょう。昨年夏に歌舞伎座で公演された野田秀樹さんが演出した「野田版・愛蛇姫」は逆にヴェルディの音楽を和楽器にとても面白くアレンジしていたのでオペラファンとしてはとても楽しめました。それにしても、これだけ色々と形を変えて公演されるということはこの「アイーダ」がそれだけ人々にとって魅力有る作品だということでしょう。

以前、自分のCD愛聴盤としてリッカルド・ムーティのEMIスタジオ録音盤とバイエルン歌劇場でのライブ録音盤の2種類、それにクラウディオ・アバドのミラノ・スカラ座でのライブ録音盤について記事にしました。
<旧記事>ヴェルディ 歌劇「アイーダ」全曲 名盤

もちろん、これらは不動のベスト・スリーである事に変わりは無いのですが、実は、他にも非常に魅力的な演奏が有りますので続編としてご紹介したいと思います。

Cci00015アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1949年録音/RCA盤) 20世紀最大の指揮者の一人トスカニーニにとって「アイーダ」は曰く付きのオペラです。すでに19歳でイタリアの歌劇場の首席チェリストであり合唱副指揮であった彼は、ブラジル演奏旅行の時に正指揮者が倒れた為に急遽本番を指揮することになりました。その時の演目が「アイーダ」であり、演奏会は大成功を収めたのです。このCDはモノラル録音ですし、歌手陣も弱い部分は有ります。しかしこの力強く圧倒的なエネルギーを持つ管弦楽の音はまぎれも無くトスカニーニです。想像を絶する迫力が有ります。これは単に歴史的な録音ということだけではなく是非とも聴いて頂きたい演奏だと思います。

Cci00015b ズビン・メータ指揮ローマ歌劇場(1967年録音/EMI盤) メータはオペラのレパートリーは決して多くは無いですが、得意な演目はなかなか素晴らしいのです。例えば「トゥーランドット」を十八番にしていて、フェレンツェ歌劇場の3年前の日本公演も素晴らしかったですし、DECCAへの録音盤も自分の愛聴盤です。この「アイーダ」はほとんど話題にならない演奏ですが、素晴らしいニルソンのアイーダ、コレッリのラダメスを聴くことが出来ますし、ローマ歌劇場管の音がとても地中海的に輝かしくて良いのです。特筆すべきは凱旋行進の場のトランペットが荒々しく勇壮で実にリアルです。軍隊ラッパはこうでなくてはいけません。まるで行進が目に浮かぶようです。いくらアイーダトランペットを使っても、綺麗で上手に吹かせて雰囲気が出ないのでは困ります。全体も熱くドラマティックで素晴らしいです。このような名演奏が世に埋もれているのはとても残念なことです。

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2008年8月23日 (土)

ヴェルディ 歌劇「アイーダ」全曲 名盤

先日、歌舞伎座で観劇した「野田版 愛蛇姫」の評判をネットで見てみると、感想は様々のようです。オペラを観たことの無い人も多く、「違和感を感じた」と言う人と「楽しめた」と言う人が半々かもしれません。またオペラの「アイーダ」を知っている人の中にも「壮大な凱旋の場面の再現には無理がある」と言う人も居ました。けれども自分はとても楽しめました。そもそもこれはパロディです。ここで壮大な舞台を求めるのは野田さんの意に沿わないと思います。ともかく観客の受止め方が様々なのが舞台芸術の面白いところですね。

ところで、僕はこの「アイーダ」というオペラは大好きです。ヴェルディの作品の中でも「オテロ」と並んでよく聴いています。伝統的なイタリアのオペラというと、歌い手達の妙技を順番に披露するスタイルですので、通常は1曲ごとに番号を付けた紋切り型の構成なのですが、ヴェルディ後期のこの作品は、実に”器楽的に”ゆったりと曲と場面を移し変えながら進行してゆきます。それはまるでワーグナーの中期以降の作品のようです。このオペラはどうしても派手な凱旋行進の場面ばかりがクローズアップされてしまいますが、実際には管弦楽、合唱とも繊細で絶美なメロディの宝庫なのです。そして最後のあの二人のこの世への別れのシーンは非常に感動的です。愛し合う二人はもはや死をも恐れ無い。永遠にお互いの心が結びつくことを喜び、抱き合いながら最後の時を迎えるのです。

それでは、その「アイーダ」のCD愛聴盤をご紹介します。

Cci00031 リッカルド・ムーティ指揮ニュー・フィルハーモニア管(1974年録音/EMI盤)  この作品はオーケストラの演奏がとても重要です。オケが燃えないことには、どうしても退屈してしまいます。その点、リッカルド・ムーティが若い頃にEMIに録音した演奏は全体がはち切れるような生命感に満ち溢れています。それに加えて、歌手陣もカバリエやドミンゴ、コッソットなどの最高のメンバーたちで固められています。管弦楽がイタリアではなくイギリスのオーケストラであるのが幾らかマイナスですが、ムーティの熱い指揮がそれを補って余り有ります。

072 リッカルド・ムーティ指揮バイエルン歌劇場(1979年録音/オルフェオ盤) ムーティにはもう一つ1979年に彼がミュンヘンのバイエルン歌劇場に客演指揮した時のライブ録音盤がオルフェオから出ています。それは正に体から火の出るごとくに燃えに燃えた演奏で、その点ではEMIの演奏をも凌駕しています。トモワ=シントウ、ファスベンダー、ドミンゴらの歌手も水準以上ですが、最大の魅力はやはり全体の熱演ぶりです。正規録音のために音質も優れています。ですので僕はムーティではEMI盤とこのミュンヘン・ライヴ盤の両方を愛聴しています。                        

467クラウディオ・アバド指揮ミラノ・スカラ座(1972録音/OPERA D'ORO盤)  ムーティも素晴らしいのですが、僕が全てのアイーダの演奏の中で最高だと思うのは、クラウディオ・アバドが1972年にミラノ・スカラ座を引き連れて、奇しくもムーティ盤と同じバイエルン歌劇場へ引越し公演をした時の演奏です。当時NHKもFM放送したらしいのでオールド・ファンには聴かれた方も多いと思います。残念ながら自分はその時には聴きませんでしたが、幸いなことに、現在マイナーレーベルのOPERA D'OROからライブCDが出ているので聴くことができます。録音は全体的に音ゆれやザラつきが有りますが、一応はステレオ録音ですし、この手のものとしては随分とマシな方です。管弦楽が生々しくうねり、スカラ座の圧巻の合唱と歌手が絶唱する、正に入魂の演奏です。イタリア・オペラの総本山が、いわばアウェーであるドイツの歴史有るオペラハウスで演奏するという状況が、このような尋常でない精神の高揚を生んだのでしょう。アバドはグラモフォンにスタジオ録音も行っていますが、演奏はずっとおとなしいので余り面白くは有りません。このライブがいつか正規録音盤で出ることを願ってやみません。
また、アバドとスカラ座は同年に本拠地のミラノ、またモナコでもほぼ同じキャストで公演を行い、別のマイナーレーベルからCDが出ています。それらについては残念ながら聴いたことがありません。

<補足>
この他にも大好きな演奏であるトスカニーニ盤、メータ盤について名盤の続編として記事にしました。
ヴェルディ 歌劇「アイーダ」 続・名盤

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