ドイツ・オーストリア音楽

2021年1月21日 (木)

レハール 喜歌劇「メリー・ウィドウ」 名盤 ~陽気な未亡人~

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喜歌劇「メリー・ウィドウ」(原題はドイツ語で Die lustige Witwe “陽気な未亡人”の意)は、フランツ・レハール作曲のオペレッタで、ヨハン・シュトラウスの「こうもり」と並ぶ人気作品ですね。レハールお得意の甘く美しい旋律がふんだんに取り入れられていて魅了されます。

特に第二幕で未亡人ハンナが故郷を想いながら歌う「ヴィリアの歌」と、第三幕の“メリー・ウィドウ・ワルツ”として有名なハンナとダニロの二重唱「唇は語らずとも」(Lippen Schweigen)は名曲中の名曲です。

メリー・ウィドウ・ワルツは、ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「ヴェニスに死す」の中にも使われていて、主人公の老作曲家がヴェニスのホテルへ到着すると、このワルツの調べが聞こえてきます。また、ディナーの前にロビーでお客たちが待つシーンでもオーケストラによりワルツが演奏されます。この映画はもちろんマーラーの交響曲第5番のアダージェットが余りにも有名ですが、メリー・ウィドー・ワルツも印象的です。

「メリー・ウィドウ」の原作はアンリ・メイヤックの「大使館付随員」で、それを元にヴィクトル・レオンとレオ・シュタインが台本を作りました。
初演は1905年にアン・デア・ウィーン劇場でレハール自身の指揮で行われました。

登場人物
ハンナ・グラヴァリ(ソプラノ):裕福な未亡人
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵(テノール):大使館の書記官、ハンナの元恋人
ツェータ男爵(バリトン):ポンテヴェドロ国のパリ駐在公使
ヴァランシエンヌ(ソプラノ):ツェータ男爵の妻
カミーユ・ド・ロジヨン(テノール):フランス人の大使館員、ヴァランシエンヌの愛人

あらすじ
第1幕 パリのポンデヴェドロ公使館
広間でポンデヴェドロ国王の誕生祝賀パーティーが開かれている。話題の中心はハンナ・グラヴァリ未亡人。ハンナはポンデヴェドロの老富豪と結婚し、そのわずか8日後に夫が急逝したために巨額の遺産を受け取ったのであった。

パーティーに出席したハンナは、多くの男性から口説かれる。しかしハンナがフランス人と結婚すれば、遺産がポンデヴェドロから失われることになるので、ポンデヴェドロ公使のツェータ男爵は、それを阻止するために書記官のダニロ・ダニロヴィチ伯爵とハンナを引き合わせようとする。実はダニロとハンナはかつては恋人同士であったが、二人の身分の違いが彼らを引き裂いたのだった。

ダニロは、ハンナの資産目当てで結婚すると見られるのを嫌い、わざとハンナと距離を置いている。その一方、カミーユ・ド・ロジヨンは、ツェータ男爵の美貌の夫人を熱心に口説くが、その気がないヴァランシエンヌはハンナをカミーユにあてがおうと画策する。

ハンナは踊りの相手にダニロを指名するが、ダニロはその権利を1万フランで売ると宣言する。しかし男たちは「とてもそんな大金は出せない」と諦める。そのため、2人は喧嘩しながらも踊り始める。

第2幕 ハンナの屋敷の庭
パーティーの翌日、来客を前にハンナはここに故郷の風景を再現すると言って「ヴィリアの歌」を歌う。

カミーユはなおもヴァランシエンヌに求愛している。そしてヴァランシエンヌの心が揺らいだと見るや、カミーユは彼女を庭のあずまやに連れ込む。そこにツェータ男爵が現れ、妻があずまやで誰かと会っているのではと勘繰るが、そこから出てきたのは何とカミーユとヴァランシエンヌの身代わりになったハンナであった。

騒動の結果、ハンナとカミーユが婚約宣言するはめになり、国家から富が失われるのを嘆くツェータ男爵とハンナへの想いを胸に秘めたダニロも動揺する。

第3幕 ハンナの屋敷の庭
庭にパリの有名レストラン「マキシム」風の飾り付けがなされ、踊り子たちも揃っている。そこへ故国から「もし富豪の遺産がわが国から失われると、国は破産の危機に瀕する」との電報が届く。決心したダニロはハンナに愛を告白する。

一方で、あずまやからヴァランシエンヌの扇子が見つかり、会っていたのはカミーユとヴァランシエンヌだったことが分かってします。怒ったツェータ男爵は、ヴァランシエンヌと離婚してハンナと結婚すると言い出す。

しかしハンナは、「もしも再婚すると遺産を失う」という夫の遺言を告げる。ツェータ男爵が結婚の申し出を撤回すると、資産を気にしなくて良いことが分かったダニロは、ついにハンナに求婚する。するとハンナは、夫の遺言の続きとして「遺産のすべてを失い、その遺産は再婚した夫のものとなる」と明かす。

ヴァランシエンヌは扇子の中に書かれた言葉を読んで欲しいと夫に請う。そこには、「私は貞淑な人妻です」と書かれてあった。妻を疑ったことに対してツェータ男爵が妻に許しを請い大円団となり幕を閉じる。

オペレッタは実演やDVDでの映像鑑賞が楽しいですが、さりとてCDで美しい音楽と演奏に集中して味わうのも良いものです。
ともかくは所有盤のご紹介をしてみます。

51kfceyu3nl_ac_ オットー・アッカーマン指揮フィルハーモニア管、シュワルツコップ(S)、クンツ(Br)、ゲッダ(T)他(1953年録音/EMI盤) ルーマニア生まれのアッカーマンは戦前からもっぱら各地の歌劇場で指揮者として活躍しましたが、録音はEMIに残したオペレッタが知られています。ロンドンのオケとの演奏でウィーンの味には欠けますが、元々作品の舞台がパリなので、これはこれで良いかもしれません。むしろモノラル録音のためにレトロな雰囲気が醸し出されていて、この作品に似合います。歌手陣に関しては文句無しで、往年の素晴らしい面々がずらりと揃っています。録音は明瞭で優れています。

410y41neh7l_ac_ ロベルト・シュトルツ指揮ウィーン国立歌劇場管、ギューデン(S)、グルンデン(Br)、クメント(T)他(1958年録音/DECCA盤) ウインナ・ワルツで有名なシュトルツはオペレッタの作曲家でもありましたが、この作品の初演時にはレハールの元で副指揮者を務めました。面白いのはシュトルツ作曲の序曲が本篇の前に置かれています。確かにいきなり舞台が始まる作品なのでアイディアとしては面白いです。ただ、少々平凡な序曲なので、飛ばして聴いても差し支えありません。しかし本編の演奏は素晴らしいです。‘50年代のウィーンの粋な味わいと情緒に満ち溢れていますし、それでいて第三幕の舞踏シーンの盛り上がりは凄いです。初演の舞台を彷彿させる点でかけがえがありません。DECCAのステレオ録音で音質も良好です。シュトルツには‘66年のベルリンでの録音も有りますが未聴です。

51ji6rpp5hl_ac_ ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮フィルハーモニア管、シュワルツコップ(S)、ヴェヒター(Br)、ゲッダ(T)他(1962年録音/EMI盤) これもロンドンのオケの演奏で、ウィーンの風味よりはパリ風味寄りです。マタチッチの指揮はやや甘さや軽快さには欠けますが、その反面立派な風格があり、登場人物の故郷ポンデヴェドロが、セルヴィアをモデルにしていることを考えると、マタチッチの持つ旧ユーゴの土臭さが生きているようで面白いです。ただ、主役の歌に関してはシュワルツコップのハンナもダニロもアッカーマン盤の方が魅力が勝るように感じます。録音は当時のEMIにしてはかなり優れていると思います。

61top5gwvnl_ac_ アドルフ・シベール指揮フランス放送リリック・ド・ラ・ラジオ・ディフュージョン・フランセーズ管、シュティヒ=ランダル(S)、エネヴ―(T)他(1970年録音/STUDIO SM盤) 1899年生まれのアドルフ・シベールはウィーン育ちでレハールとも友人であり、レパートリーの大半はオペレッタやワルツです。戦後はフランスで活動しましたが、これは自ら組織したフランス放送リリック管弦楽団を指揮した放送用ライブです。フランス語で歌われているのが特徴ですが、考えてみれば作品の舞台はパリですし、小粋な雰囲気と洒脱で軽快な歌と演奏はウィーン流の演奏よりも作品のイメージに近いかもしれません。録音も優れています。余り知られていませんし、入手性も良くは無いですが、是非お勧めしたい素晴らしいディスクです。

41tktel40ol_ac_ ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル、ハーウッド(S)、コロ(T)、ホルヴェーク(T)他(1972-73年録音/グラモフォン盤) さすがカラヤンというか、演奏からはオペレッタの庶民性や猥雑さが後退して、すこぶる絢爛豪華さを感じます。元々は酒場の楽団として出発したベルリン・フィルもつくづく出世したものです。特に弦楽セクションの磨き抜かれた美音は、耳がとろけるような甘さに満ちていますし、弱音のデリカシーも素晴らしいです。歌手陣もそうしたコンセプトによる統一感が有り、各歌手の個性よりはアンサンブルの絶妙さに舌を巻きます。もちろん楽しさに事欠く訳では有りません。

71rppitcxcl_ac_sl1200_ ジョン・エリオット・ガーディナー指揮ウィーン・フィル、ステューダー(S)、スコウフス(Br)、トロースト(T)他(1994年録音/グラモフォン盤) 発売時「ウィーン・フィル初のメリー・ウィドウ録音」との触れ込みでしたが、実際にはシュトルツ盤が有るので、半分はウソになります。しかしそれぐらい稀少です。何しろウィーン・フィルが演奏するとワルツもポルカもことごとくウィーン風に聴こえます。ガーディナーがこの曲を指揮したのも意外でしたが、演奏は実に格調が高く、パリの華麗さよりはウィーンの上品さが感じられます。モンテヴェルディ合唱団が起用されたことも、それに輪をかけています。歌手陣も個々の個性は余り強調せずにアンサンブルとしてまとまっています。従って面白みには欠けるかもしれませんが、個人的にはとても気に入っています。

以上、歌手陣と楽しさの極みではアッカーマン盤、古き良きウィーンの味わいではシュトルツ盤、舞台のパリの雰囲気を味わうならシベール盤が特にお気に入りです。しかしカラヤン盤やガーディナー盤も個性的な魅力が有るので楽しめます。

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2019年9月 5日 (木)

カール・オルフ 世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」 名盤 ~ボイエルンの歌集~

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ボイエルン修道院

19世紀初め、南ドイツのバイエルン地方にあるボイエルン修道院の書庫から11世紀から13世紀の間に書かれたとみられる古い詩歌を集めた写本が発見されました。それらは修道院を訪れた若い旅人や修道僧たちが書き遺したものと考えられますが、内容は、酒、恋愛、男女の営み、社会風刺などと極めて世俗的なものが多いのが特徴で、ラテン語、古イタリア語、ドイツ語、古フランス語などの様々な言語で書かれています。

それらが『カルミナ・ブラーナ』(ボイエルンの歌集)という題名で編纂され、1847年に出版されました。それを基にドイツのカール・オルフが作曲したのが同名の有名な世俗カンタータです。

それは“楽器群と魔術的な場面を伴って歌われる独唱と合唱の為の世俗的歌曲”という長い副題が付けられた舞台形式によるカンタータで、ソプラノ、テノール、バリトン独唱、混声合唱、少年合唱、管弦楽、さらに本来は舞踊を伴うという大作です。

作品は3つの主要部分から構成されています。
第1部『初春に』 うららかな春の気分と愛が歌われる
第2部『酒場で』 酒場での男の欲望が歌われる
第3部『愛の誘い』 男女の愛と性欲が歌われる
更にその前後に置かれたプロローグとエピローグでは、「人間は常に運命に支配されて翻弄されるだけである」と歌われます。

曲は原始的なバーバリズム溢れるリズムとシンプルな和音が特徴で、歌詞はラテン語が主体ですが、一部にドイツ語と古いフランス語が用いられています。 初演は1937年にフランクフルトの劇場でベルティル・ヴェツェルスベルガーの指揮により行われました。

オルフは1935年から1951年にかけて“トリオンフィ”(勝利3部作)と呼ばれる舞台演奏用の作品を作曲していて、この「カルミナ・ブラーナ」はその第1作目にあたり、第2作の男と女の愛の現場を描いた「カトゥーリ・カルミナ」、第3作の愛の結実と結婚を描いた「アフロディーテの勝利」へと続きます。しかし演奏頻度においては圧倒的に「カルミナ・ブラーナ」が勝ります。

冒頭の「おお、運命の女神よ(フォルトゥナ)」は激しいリズムと緊迫感から、スポーツイヴェントの選手入場やドラマや映画のシーンで多く使われので、曲名を知らない方でも必ず耳にしていると思います。 オルフの代表作であり20世紀の音楽作品の傑作の一つと言えます。

ということで、恒例の愛聴CDのご紹介ですが、まずは「勝利三部作」のCDから始めます。

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フェルディナント・ライトナー指揮ケルン放送響/合唱団(1973-74年録音/Acanta盤) 作曲者オルフと親交の厚かったライトナーが、オルフの監修の下に製作した三部作全曲の録音です。初回は分売でリリースされましたが、有難いことに現在ではまとめて発売されています。三部作ともドイツ的な重厚さと素朴さが魅力であり、現代のスマートで颯爽とした演奏とは印象が異なります。「カルミナ・ブラーナ」も、じっくりとしたテンポによる風格が素晴らしく、この曲のリファレンスとしてかけがえのない価値を放ちます。録音も優れています。これが廉価盤で購入できるとは実に有難いですね。

以降は「カルミナ・ブラーナ」単独盤です。

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オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・ドイツオペラ管(1967年録音/グラモフォン盤) ヨッフムもまたオルフ演奏に定評が有り、早々とモノラル期に行った録音に続く再録音盤でした。この録音にもオルフが立ち会っていたようです。長い間ベストセラーとして君臨しましたが、現在聴いてもエネルギッシュでドイツ的なバーバリズム全開の魅力は「カルミナ・ブラーナ」では絶対に外すことの出来ない名盤中の名盤です。これから聴かれる方はまずはこの演奏を。但し、あえて指摘するとすればバリトンのフィッシャー=ディースカウは抜群に上手いもののコントロールされ過ぎの印象です。録音の鮮度はやや落ちていますが、バランスは良く聞きごたえは有ります。

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ヘルベルト・ケーゲル指揮ライプチヒ放送響(1959年録音/エテルナ盤) ケーゲルは元々合唱を得意とする指揮者なのでこの曲にはうってつけです。洗練され過ぎることの無い、粗削りで素朴な味わいはヨッフム以上ですし、魔術的、呪術的という言葉が最も似合うように感じます。現代的で無いところが、逆にこの演奏の最大の魅力となるのでは無いでしょうか。録音は流石に古さを感じますが、鑑賞には問題ありません。ケーゲルは70年代に再録音を行っていますが、そちらは未聴です。

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リッカルド・シャイー指揮ベルリン放送響(1983年録音/DECCA盤) 全体の速いテンポと切れの良いリズム感が魅力です。ですので、この現代的でスマートな演奏を好む方は多いのではないでしょうか。しかしドイツのオケを使っているにもかかわらず、暗さよりも明るさを強く感じる響きと、軽快で健康的に過ぎるように聞こえるのが個人的には幾らかマイナスです。声楽陣も独唱、合唱ともに洗練されていて非常に美しい反面、荒々しい力強さを感じることは有りません。

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ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送響(1984年録音/Profile盤) ライヴ収録ですが、さすがは名職人ヴァントですので緻密な完成度の高さに感心させられます。テンポは速くも遅くもなく中庸。響きについても良くコントロールされていて素朴さこそ有りませんが、さりとて洗練され過ぎることもなく無く、やはり中庸です。そのあたりもヴァントらしいと言えば、いかにもヴァントらしい立派な良い演奏なのですが、個人的には正直もう少し個性や主張が欲しくなります。管弦楽はもちろんのこと声楽陣、合唱とも優秀です。

ということでオルフ自身の監修、立ち合いで録音されたライトナー盤とヨッフム盤が貫録勝ちというところです。ただしオルフは他にもサヴァリッシュの録音やショルティの演奏会など色々と立ち会ったようですので、それが決め手だということではありません。

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2018年3月 6日 (火)

絨毯座公演 クルト・ヴァイル作曲「マハゴニー市の興亡」(ブレヒト台本)

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3月3日(土)のことになりますが、絨毯座の公演でクルト・ヴァイル作曲「マハゴニー市の興亡」(ブレヒト台本)を観に行きました。
ヴァイルはこれまで「三文オペラ」以外は観たことが無く、大変興味深かったです。舞台は仮想?アメリカなのですが、マハゴニーでは1に食うこと、2にセックス、3に賭けボクシング、4に酒。「ここではやっていけないことはない。何でもありだ!」と歌われます。
ドイツにヒトラーのナチス党が勢力を伸ばす直前の作品ですので、やはり当時の混沌、無秩序化したドイツの時代背景を想像せざるを得ません。初演時には保守的な観客が抗議して騒動となり、ナチスのグループが妨害組織をつくりデモを仕掛けました。
我が国でこの作品は演劇としては近年も何度か公演されていますが、音楽劇としての公演は何十年ぶりだとか。貴重な観劇となりました。
 ステージの写真は絨毯座さんサイトから)
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2016年8月15日 (月)

ヴォルフ 「スペイン歌曲集」コンサート/ 黒田大介、宮田珠江、森勝久

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夏休みに入った11日のことになりますが、中村初恵さんつながりでお知り合いになれたテノール歌手、黒田大介さんの出演するフーゴー・ヴォルフの「スペイン歌曲集」コンサートを聴きに行きました。
「スペイン歌曲集」を聴けるだけでも貴重な機会なのですが、このコンサートでは曲の合間にセリフや寸劇を加えて聴衆がイメージを膨らませ易くすることを狙った演出が凄く楽しめました。
ヴォルフ自身の役を務めたピアニストの森勝久さんの発案は素晴らしく、そのアイディアを生かした黒田さんの奥様の訳詞、そしてもちろん黒田さんとソプラノの宮田珠江さんの素晴らしい歌唱と演技にすっかり魅了されてしまいました。

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2014年3月20日 (木)

フルトヴェングラーと同時代の作曲家 ~エルンスト・ペッピング&ハインツ・シューベルト~

ドイツの大指揮者フルトヴェングラーが同時代の作曲家の作品をどれぐらいの頻度で取り上げたのかは詳しく有りませんが、フルトヴェングラー自身が作曲も行なっていたわけですし、演奏会では案外と取り上げていたのかもしれません。
ただ、我々が現在聴くことができる録音はそれほど多いわけではありません。

実は今月初めのことだったのですが、東京フルトヴェングラー研究会の鑑賞ゼミに参加する機会が有りました。その日のテーマの一つが「珍しいフルトヴェングラーを聴こう」ということでしたので、フルトヴェングラーと同時代の作曲家の作品の演奏を鑑賞しました。

その日に鑑賞したのは下記の4作品です。

1.エルンスト・ペッピング:交響曲第2番へ短調
2.ウォルフガング・フォルトナー:ヴァイオリン協奏曲
3.ハインツ・シューベルト:「賛歌的協奏曲」
4.イーゴリ・ストラヴィンスキー:「妖精の接吻」から

このうち、1.と3.に使用したCDを発表者の方からお借りして来ましたので、ちょっとご紹介してみたいと思います。

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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー(ARKADIA盤)

エルンスト・ペッピング 交響曲第2番へ短調(1943年10月30日録音)

ペッピングは1901年にドイツに生まれて、ベルリン音楽大学で作曲を学びました。1934年からベルリンの教会音楽学校で教鞭を取るようになりました。ぺッピングはプロテスタント教会音楽家として多数のミサ曲やモテットを作曲しましたが、それ以外にも3曲の交響曲や、ピアノ協奏曲、管弦楽のための変奏曲、オルガン曲、ピアノ曲などの器楽曲を書いています。ちなみにこの人は1981年まで存命しました。

交響曲第2番は戦火真っ只中の1943年に書かれた作品で、フルトヴェングラーが初演者なのかどうかは定かでありませんが、これが世界最初の録音とのことです。曲は保守的な4楽章構成ですが、全体に悲劇的で重苦しい雰囲気を漂わせています。後期ロマン派のマーラーの作品に近いものが感じられます。

ハインツ・シューベルト 「ソプラノ、テノール、オルガン、管弦楽のための賛歌的協奏曲」(1942年12月6日録音)

シューベルトと言っても有名なフランツ・シューベルトではなく、20世紀生まれのハインツ・シューベルトです。この人は1908年にドイツに生まれて、ミュンヘン音楽院で音楽を学び、作曲と指揮の両方で活躍をしました。
作風はやはり後期ロマン派風で「大管弦楽のためのシンフォニエッタ」、「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏的組曲」などを書いています。

「賛歌的協奏曲」は1939年に書かれた作品ですが、このフルトヴェングラーがベルリン・フィルを指揮し、それにエルナ・ベルガー(ソプラノ)、ヴァルター・ルートヴィヒ(テノール)、フリッツ・ハイトマン(オルガン)と行ったこの演奏が世界で最初の録音だったようです。よく”世界初演”と書かれているのを見受けますが、指揮者でもあったシューベルト本人がそれ以前に初演した可能性も有り得ると思いますが確証は有りません。

この曲は単楽章構成で、”協奏曲”と言っても二人の独唱歌手とオルガンのための協奏曲という非常に珍しい編成です。更には弦楽器による独奏も用いられています。”賛歌”というのは教会音楽的な厳粛なものではなく、”苦悩を背負った人間が人間らしく生きられるような強い祈りの気持ち”が込められているように感じます。
ところが、この人は1944年に徴兵されて、翌年の1945年に戦死してしまいました。楽譜もほとんど戦火で焼失されてしまったそうです。

それにしてもぺッピングとシューベルト、どちらの曲も全くの後期ロマン派風の音楽で、ワーグナーやマーラーなどの影響を強く感じます。同じ時代のロシアの革新的な音楽と比べれば、随分と保守的な音楽に聞こえます。もっとも、それはナチス・ドイツによって「退廃的な音楽だ」という烙印を押されて迫害を受け、国外に亡命せざるえを得なかったパウル・ヒンデミットの例に代表されるように、ドイツ国内に留まって音楽家として生き残るためには、このようなナチスの意向に沿った保守的な音楽を書く道しか無かったのかもしれません。
従って、フルトヴェングラーと同時代の作曲家の作品であるにもかかわらず、「現代の音楽」というよりは「前時代の音楽」という気がしてなりません。

ただ、これらが陳腐な音楽かと言えば、決してそのようなことは無く、現代音楽の無味乾燥なものに比べれば遥かに音楽の体を成しています。革新的な新鮮さは持たなくとも、心に自然と浸みこんでくるような親しみ易さが有ります。あの佐村河内氏も好むかもしれません??

ARKADIA盤はCD2枚組で、他にブラームスの交響曲第4番やベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(コンラート・ハンゼン独奏)といったフルトヴェングラーの第二次大戦中の定番とも言える録音が収められています。
録音はもちろんお世辞にも明瞭とは言えませんが、アナログ的で柔らく聴き易い音だと思います。1枚ものではメロディアやロシアン・ディスクなどのレーベルからぺッピングとシューベルトの2曲が組み合わされた形でリリースされていますので、ご興味の有る方は一度お聴きになられてみても決して損は無いと思います。

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2009年11月12日 (木)

後期ロマン派交響曲作曲家の巨人 マーラーとブルックナー

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ブログを初めてから1年3ヶ月が過ぎましたが、これまで一度も記事を書いていない作曲家が居ます。グスタフ・マーラーです。その理由は決して興味が無いからでは無くて、大好きだからなのです。どうしても気軽には書けないのです。アントン・ブルックナーについてもやはり同じです。第4番「ロマンティック」だけは記事にしましたが、それはむしろ気楽に書けるからであって、4番より好きな曲は他に幾つも有ります。それが正直なところです。ベートーヴェンやモーツァルトもほとんど記事にしていませんが、それは名作が余りに多過ぎる為に、一体どこから手をつけて良いのか見当がつかないからなのですね。

ともかくは、マーラーとブルックナーの記事をしばらく続けようと思っています。2人は同じ後期ロマン派の交響曲作曲家として並び立つ存在ですが、作風はまるで正反対です。教会のオルガニストであり、俗世間を超越して森羅万象を音にしたような作品を神様に捧げようとしたブルックナー。それに対して、コンサート・オーケストラの指揮者であり精神分裂的と思えるほどに人間の喜びや悲しみ、あるいは厭世感を音楽にしたマーラー。しかし両者はどちらも掛け値なしの大作曲家です。

なにせ自分は多忙のサラリーマンの身ですので、これまでの「名曲名盤案内もどき」のスタイルでは、記事を書くのに結構時間がかかってしまい、週一回のペースではとても更新が出来ないかもしれません。そこはどうぞ気長にお付き合い頂ければと思います。そして気軽にコメントを頂けることを楽しみにしていますので、どうぞ宜しくお願いします。

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