ヴェルディ&プッチーニ他イタリアオペラ

~ミラノ・スカラ座日本公演~ ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロ」 

Story04 ミラノ・スカラ座歌劇場が現在日本公演を行っています。演目はヴェルディの「アイーダ」と「ドン・カルロ」の2つですが、大変運の良いことに「ドン・カルロ」のゲネプロを観ることが出来ました。ゲネプロと言っても舞台装置や歌手の衣装は本番と同じですので、ほとんど本番を鑑賞している気分です。オーケストラ団員は普段着で演奏しますが、どうせピットの中ですので気になりません。

一口に「オペラハウス」と言っても、ドイツのベルリン、ドレスデン、ミュンヘン、オーストリアのウイーンなどの主要都市にはモーツァルト、ワーグナー、Rシュトラウスなどのドイツオペラを得意とする歌劇場が有りますし、あるいはバイロイトにはワーグナー専門の祝祭劇場が有ります。これらはなかなか何処が一番だとは決められないと思います。けれどもイタリアオペラの場合にはイタリア国内に多くの歌劇場が有りますが、名実共に最高峰はミラノ・スカラ座歌劇場と相場が決まっています。そして彼らはドイツオペラも多く上演を行いますが、文句無く素晴らしいのはやはり自国のヴェルディやプッチーニのイタリアオペラです。

Doncarlo01 さて今回「ドン・カルロ」を指揮するのは、イタリアのダニエレ・ガッティです。僕はこの人の演奏はそれほど聴いていませんが、レスピーギの交響詩「ローマ三部作」などは、トスカニーニの大迫力には一歩譲るものの、繊細で詩情に溢れた良い演奏でした。オペラについても、この「ドン・カルロ」はミラノで非常に絶賛されたようです。ですのでとても楽しみでした。

Story03 「ドン・カルロ」には全4幕構成の慣例版の他に、カルロとエリザベッタが婚約時代にパリのフォンテーヌブローの森で出会うシーンを第1幕に置いた全5幕慣例版が代表的ですが、この公演は4幕慣例版でした。演出はシュテファン・ブラウンシュヴァイクです。昨年ミラノでプレミアが行われた新演出だそうですが、伝統的な派手で大掛かりな装置とは無縁ですが、かといって現代的な奇抜で飛躍し過ぎな演出でもありません。それは淡い色彩感と光の陰影とを上手に使った「詩的」で「演劇的」な舞台です。登場人物の心の中や懐古シーンを、舞台の背景に二重に再現してみせるあたりも非常にユニーク。とても美しくセンシティヴな演出でした。

歌手陣はさすがに粒よりです。ルネ・パーぺ(フィリッポ2世)、アナトーリ・コチェルガ(宗教裁判長)、ダリボール・ヴァルガス(ロドリーゴ)はいずれも素晴らしく、バルバラ・フリットリ(エリザベッタ)も人気に違わぬ声と表現力を聴かせてくれました。一つだけ気になったのは主役のラモン・ヴァルガス(ドン・カルロ)でしょうか。テノールの輝くハイトーン部分での声量にやや不足感を感じました。この人はむしろ静かに優しく歌う時の声のほうが魅力的だったように思います。ただ本公演では更に声が出るのかもしれません。それともうひとつ、背が小さい!父のフィリッポ2世や家来で親友のロドリーゴより小さいのは良いとしても、エリザベッタよりもずっと小さいのが気になりました。カルロは確かに英雄的な人物では無く、思い悩めるキャラクターなのではありますけどねぇ。

ダニエレ・ガッティの指揮は大変気に入りました。この人は情熱的で切れの良いトスカニーニやムーティのような要素を持ちながらも、非常に繊細で情感の有る音を出すように感じます。終幕のフィリッポ2世の「彼女は決して私を愛していなかった」など非常に深みのある表現で素晴らしかったです。また歌手と合唱と管弦楽の音をまろやかにブレンドするあたりの能力にも非凡さを感じます。もっと多くのオペラを振って欲しいですね。いずれはイタリアNo.1マエストロに成れる可能性を持っていると思います。

Cci00018 僕はこのオペラのCDは全5幕版のガブリエーレ・サンティー二指揮ミラノ・スカラ座歌劇場(ドイツ・グラモフォン盤)しか持っていません。しかしこのCDはボリス・クリストフのフィリッポ2世、バスティ二アーニのロドリーゴ、ステッラのエリザベッタ、コッソットのエボーリ公女などの素晴らしい歌をイタリアの名匠サンティー二の指揮で味わえるのでとても気に入っています。

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ヴェルディ 歌劇「アイーダ」の愛聴盤 ~続編~

7e46483b3f9a9b7be61a85fc346e49f1s 今年の夏から秋にかけてはアイーダがどうも流行りそうです。もともとイタリアオペラの中でも「椿姫」「蝶々夫人」「ラ・ボエーム」「トゥーランドット」と並んで公演される回数の多い作品なのですが、今年はオペラだけでなくミュージカルでも色々と取り上げられるからです。

オペラでは9月に世界一のイタリアオペラハウスであるミラノスカラ座が来日して「ドン・カルロ」とこの「アイーダ」を公演します。同じ9月には梅田芸術劇場が東京と大阪でミュージカル「アイーダ」を公演します。これは数年前の宝塚のミュージカルがベースだそうです。もうひとつは劇団四季がディズニー製作のブロードウェイ作品を公演します。但し音楽はどちらもヴェルディとは関係無いようですし、ディズニー版の音楽はエルトン・ジョンですので、お得意のラブ・バラードが満載でしょう。昨年夏に歌舞伎座で公演された野田秀樹さんが演出した「野田版・愛蛇姫」は逆にヴェルディの音楽を和楽器にとても面白くアレンジしていたのでオペラファンとしてはとても楽しめました。それにしても、これだけ色々と形を変えて公演されるということはこの「アイーダ」がそれだけ人々にとって魅力有る作品だということでしょう。

昨年「愛蛇姫」を観た時に自分の愛聴CDとしてリッカルド・ムーティのEMIスタジオ盤とバイエルン歌劇場でのライブ盤の2種類、それにクラウディオ・アバド/ミラノスカラ座のライブ盤について紹介記事にしました。http://harucla.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_ed43.html

もちろんこれらは不動のベスト3である事に変わりは無いのですが、実は他にも非常に魅力的な演奏が有りますので追加でご紹介したいと思います。

Cci00015アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響(1949年録音/RCA盤) 20世紀最大の指揮者の一人トスカニーニにとって「アイーダ」は曰く付きのオペラです。すでに19歳でイタリアの歌劇場の首席チェリストであり合唱副指揮であった彼は、ブラジル演奏旅行の時に正指揮者が倒れた為に急遽本番を指揮することになりました。その時の演目が「アイーダ」であり、演奏会は大成功を収めたのです。このCDはモノラル録音ですし、歌手陣も弱い部分は有ります。しかしこの力強く圧倒的なエネルギーを持つ管弦楽の音はまぎれも無くトスカニーニです。想像を絶する迫力が有ります。これは単に歴史的な録音ということだけではなく是非とも聴いて頂きたい演奏だと思います。

Cci00015b ズビン・メータ指揮ローマ歌劇場(1967年録音/EMI盤) メータはオペラのレパートリーは決して多くは無いですが、得意な演目はなかなか素晴らしいのです。例えば「トゥーランドット」を十八番にしていて、フェレンツェ歌劇場の3年前の日本公演も素晴らしかったですし、DECCAへの録音盤も自分の愛聴盤です。この「アイーダ」はほとんど話題にならない演奏ですが、素晴らしいニルソンのアイーダ、コレッリのラダメスを聴くことが出来ますし、ローマ歌劇場管の音がとても地中海的に輝かしくて良いのです。特筆すべきは凱旋行進の場のトランペットが荒々しく勇壮で実にリアルです。軍隊ラッパはこうでなくてはいけません。まるで行進が目に浮かぶようです。いくらアイーダトランペットを使っても、綺麗で上手に吹かせて雰囲気が出ないのでは困ります。全体も熱くドラマティックで素晴らしいです。このような名演奏が世に埋もれているのはとても残念なことです。

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傑作オペラ映画「ラ・ボエーム」

Cci00012s_2 先週公開されたオペラ映画「ラ・ボエーム」を観に行きました。マスコミでも結構取り上げていますが、何といっても私がイタリアオペラの中で最も愛する作品ですし、主役が絶世の美人歌手アンナ・ネトレプコにローランド・ビリャソンのコンビとあっては見逃すわけには行きません。プッチーニ生誕150周年記念というこの映画はドイツ・オーストリアの合作です。監督はロバート・ドーンヘルム、音楽はベルトラン・ド・ビリー指揮、バイエルン放送響です。

さて、その映画ですが、幕が上がって(じゃなくて上映が始まって)いきなりスクリーンに目を奪われます。美しい!オペラの舞台では無く完全な映画として撮影されているのですが、19世紀のパリのうす汚れた部分、美しい部分がそっくり再現されています。映像そのものが詩情を表現していて本当に素晴らしいのです。そして、この映画は完璧にオペラの楽譜通りに進行しますが、音とシーン、演出が有機的に結合していて実に自然です。「映画」として見事に完成されているのです。

ミミ役のネトレプコは大スクリーンに映し出されると、正直ちょっと齢を取ったかな、という感じです。但しそれは若い娘役として見た場合であって、彼女の美しさ、色っぽさは今だ健在であり、演技ぶりも立派なものです。おじさん的には実にそそられてたまりません。歌の方も、その美貌で大幅にポイント加算されるので問題ありません。そしてルドルフォ役のビリャソンが本当に素晴らしいのです。見た目も役柄にぴったりだし、演技がまた驚くほど上手いし、おまけに歌の方も抜群です。これは過去の名歌手達と比べても充分並び立つ素晴らしさです。他の脇役達もとても達者で感心することしきりです。私の大好きな第1幕の若い2人が恋に落ちるシーンの感動、終幕のミミの息絶えるシーンの悲哀さなどは観ていて涙がこぼれるほどです。

また、この映画は音楽伴奏にも手を抜くことなく、オペラの得意なビリーの指揮するバイエルン放送響の演奏が素晴らしい表現力で酔わせます。これはCDとして聴いても充分満足出来る演奏ではないかと思います。

この映画は恐らくは過去のあらゆるオペラ映画を越える完成度でしょう。どんなに素晴らしいオペラ公演とも違った音と映像とドラマの魅力を伝えてくれると思います。いずれDVDにも成るでしょうが、是非とも劇場の大スクリーンの迫力でご覧になられることをお薦めしたいと思います。しかしこれほどの名画が現在東京では新宿のタイムズスクエア1館のみの上映というのは寂しいものです。もっとも土曜午後というのに空席が目立っていましたから興行的には致し方ないのでしょう。

映画ボエームの予告編リンク:http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD13657/trailer.html

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ヴェルディ 歌劇「アイーダ」の愛聴盤

歌舞伎座の「野田版 愛蛇姫」の評判をネットで見てみると、感想は様々のようです。オペラを観たことの無い人も多く、「違和感を感じた」と言う人と「楽しめた」と言う人が半々かもしれません。またオペラのアイーダを知っている人の中にも「壮大な凱旋の場面の再現には無理がある」と言う人も。自分はとても楽しめたのですが。そもそもこれはパロディです。壮大な舞台を求める方が野田さんの意に沿わないと思います。ともかく観客の受止め方が様々なのが舞台芸術の面白いところですね。

ところで、僕はこの「アイーダ」というオペラが大好きです。ヴェルディの作品の中でも「オテロ」と並んでよく聴きます。伝統的なイタリアのオペラというと、歌い手達の妙技を順番に披露するスタイルなので、1曲ごとに番号を付けた紋切り型の構成なのですが、この作家後期のこの作品は、実に”器楽的に”ゆったりと曲と場面を移し変えてゆきます。それはまるでワーグナーの中期以降の作品のようです。一般的には派手な凱旋行進の場面ばかりがクローズアップされてしまいますが、実際には管弦楽、合唱とも繊細で絶美なメロディの宝庫なのです。そして最後のあの二人のこの世への別れのシーン。愛し合う二人はもはや死をも恐れ無い。永遠にお互いの心が結びつくことを喜び、抱き合って最後の時を迎えるのです。

Cci00031 リッカルド・ムーティ指揮ニューフィルハーモニア管(EMI盤)  この作品はまずオーケストラの演奏が重要です。オケが燃えないことには退屈してしまいます。私の愛聴盤は、まずリッカルド・ムーティが若い頃にEMIに録音した盤です。なんといっても演奏全体が生命感に満ち溢れていますし、カバリエやドミンゴ、コッソットなどの素晴らしい歌手たちで固められています。

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リッカルド・ムーティ指揮バイエルン歌劇場(オルフェオ盤)  もうひとつムーティには1979年に彼がミュンヘンのバイエルン歌劇場に客演指揮した時のライブ盤がオルフェオから出ています。それはまさに体から火の出るごとくに燃えに燃えた演奏であり、より興奮するのはこちらです。正規録音の音質もとても優れています。ですので私はEMI盤とこのミュンヘンライヴと両方を愛聴しています。                             

467クラウディオ・アバド指揮ミラノスカラ座(OPERA D'ORO盤)  けれども、私が全てのアイーダ録音の中で(とは言っても、とても全ては聴いていませんが)最高だと思うのは、クラウディオ・アバドがミラノスカラ座を引き連れて、奇しくも同じバイエルン歌劇場へ1972年に引越し公演をした時の演奏です。当時NHKもFM放送したらしいのでオールドオペラファは聴かれていると思います。残念ながらその時は私は聴いていません。幸いなことに、現在OPERA D'OROからこのライブCDが出ているので聴くことができます。録音は一部音ゆれも有りますが、この手のものでは随分良い方です。オケが生々しくうねり、歌手が絶唱する、正に入魂の演奏です。イタリアオペラの総本山が、いわばアウェーであるドイツの歴史有るオペラハウスで演奏するという状況が、このような精神の異常な高揚を生んだのでしょう。アバドはグラモフォンにスタジオ録音も行っていますが、演奏には天と地ほどの違いがあり面白くも何とも有りません。

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