~浪漫と幻想~ シューマン 交響曲第4番ニ短調op.120
シューマンは生涯に交響曲を4曲書きました。僕は第1番「春」や第2番もとても好きなのですが、第3番と4番を特に好みます。そのうち第3番「ライン」については以前、僕自身のドイツ・ライン地方への旅行記としてご紹介したことが有りました。http://harucla.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-5fe3.html
そこで今回は第4番についてです。この曲は最もシューマンらしいシンフォニーだと思います。シューマンの最大の特徴である「ロマン的で、幻想的」な要素が一番出ています。正にシューマネスクな作品です。「幻想的交響曲」とでも副題を付けてもらいたいところですが、ベルリオーズに先を越されてしまいましたからね。それにしてもこの曲は1楽章導入部からなんとも幻想的です。ほの暗いロマンの香りがプンプンです。「生き生きと」と指示のある主部に入っても危うい香りがそのまま続きます。音楽の屈折した雰囲気もシューマンの本領発揮です。第2楽章「ロマンス」はタイトルどおりロマンの極み。孤独感いっぱいに沈滞します。中間部のロマンティックなヴァイオリンソロはこたえられません。第3楽章スケルツォにも「生き生きと」と指示が有りますが、まるで楽しい雰囲気にはほど遠い印象です。しかしこの楽章も極めて魅力的です。第4楽章の遅い序奏部を終えると「生き生きと」の主部が始まります。この楽章でようやく明るさを取り戻します。途中から始まる、付点付きリズムは「交響的練習曲」の終曲に代表されるシューマンのお得意リズムです。
さてこの曲にはフルトヴェングラーの歴史的名盤が有りますが、それを中心にご紹介したいと思います。
ウイルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル(1953年録音/グラモフォン盤) フルトヴェングラーが亡くなる前の年の演奏です。「シューマンの4番と言えばフルトヴェングラー」と言われるぐらい有名な録音です。比類無いほどにロマン的で情熱的な演奏ですが、とにかく凄いのはオーケストラがまるで生き物のように自由自在。楽器の音が全くせずに音楽そのものしか感じさせません。この曲の第1楽章は中間部がとても鳴りにくく、しばしば演奏に失望することが多いですが、フルトヴェングラーの場合は情熱が迸るように立派に鳴り渡ります。第2楽章のロマンも最高。当時のベルリンフィルのコンサートマスター、ジークフリート・ボリスの奏でるヴァイオリン・ソロは甘いポルタメントを効かせて耳がとろけるようです。過去最高の演奏と言えるでしょう。第4楽章も極めてドラマティックであり、中間部の付点リズムの生命力も他の指揮者とは次元が異なります。既に50年以上も昔の録音ですが、いまだに最高の演奏であり続けています。モノラル録音ですが、フルトヴェングラーの録音の中でも最も音質の良い一つなので鑑賞には全く差支え有りません。
フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960年録音/BerlinClassics) ゲヴァントハウスの音が魅力的です。管楽器と弦楽器とが美しく一体にブレンドされたくすんだ響きは伝統的なドイツの音です。ここまで古風な音は現在ではちょっと聞けないと思います。コンヴィチュニーの指揮も同様にオーソドックスで良いです。けれども、この曲にしては少々落ち着き過ぎている気はします。第2楽章はもっと強いロマンの香りが欲しいですし、第3、4楽章は更に情熱の高ぶりを見せたほうが魅力が増すと思います。
ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立歌劇場管(1972年録音/EMI盤) 3番「ライン」でも書きましたが、シュターツカペレ・ドレスデンの全盛期の音を聴くことが出来る素晴らしい録音です。柔らかくも厚みが有り、正に「いぶし銀」としか表現のしようの無い素晴らしい音です。ゲヴァントハウスを「野武士」の響きとすれば、ドレスデンはさしずめ「大納言」の響きでしょう。その響きを忠実に捉えた名録音でもあります。サヴァリッシュは早めのテンポで若々しく新鮮な指揮ぶりで、ドレスデンの響きと融合して魅力的です。但しその反面、余りに健康的過ぎるので、彼らの全集の中では1番や3番のほうが曲想に適していると思います。
ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送響(1979年録音/SONY盤) クーベリックは60年代にベルリンフィルとこの曲を録音しましたが、それは緊張感の無い演奏で好きではありませんでした。このバイエルンとの新盤の方が優れていると思います。管と弦とが柔らかく混じり合った響きも魅力的です。第1楽章はゆったりし過ぎていて情熱の高まりに不足を感じますが、第2楽章や第3楽章のほの暗いロマンの香りは良く出ています。終楽章も付点リズムの処理にシューマネスクな味が良く出ていますし、徐々に高まっていく情熱が見事です。
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(1988年録音/EMI盤) 遅いテンポによるいかにもチェリビダッケらしい演奏です。第1楽章は柔らかい響きでスケールが大きいのは悪くないのですが、情熱の高まりが感じられないのが気に入りません。第2楽章の深々としたロマンの香りは魅力的です。ヴァイオリン・ソロも味わい深いです。第3楽章は遅いテンポで暗くロマンティックな雰囲気に満ちていて良いと思います。極端に遅い第4楽章冒頭のブリッジ部分はユニークですが違和感を感じます。主部も遅いテンポで聴いていて段々もたれてくるのも事実です。但し、最後は普通にアッチェレランドして終わります。一貫性の無さを感じないでもありません。
クリストフ・エッシェンバッハ指揮北ドイツ放送響(1999年録音/RCA盤) ハンブルグを本拠地とする北ドイツ放送響は今では数少ない古風でドイツ的な音を持つオーケストラです。柔らかく混じり合ったほの暗い響きはシューマンの音楽に実に適しています。エッシェンバッハも暗くロマンティックな演奏を得意としているのでシューマンに向いています。第1楽章は中間部の爆発力はフルトヴェングラーには及びませんが、全体としては優れています。第2楽章は深々というよりも早めのテンポで軽いながらも優しい雰囲気が独特です。第3楽章も早めですが暗い情熱を感じて悪く有りません。終楽章の情熱の高まりも大変素晴らしいです。
これ以外の演奏では、友人に聴かせて貰ったクナッパーツブッシュ/ウイーンフィルの1962年盤がどうしても忘れられません。評論家の福嶋章恭さんが最高の演奏と述べておられる演奏です。確かにスケールが大きく非常に立派でフルトヴェングラーに対抗し得る唯一の名演奏だとは思いますが、シューマネスクな演奏という点ではやはりフルトヴェングラーのほうが上に感じるのです。
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