ブルックナー

ブルックナー 交響曲第2番ハ短調

200_2 曲の完成順に「第1番」、「第0番」、「第2番」の3曲がブルックナーの初期の交響曲です。後期の作品のあの深遠な世界に魅入られてファンになった(入信した?)人達にとっては初期の作品もまた大変味わい深い作品群です。これらを聴いて初めてブルックナー鑑賞の最終段階と言えるでしょう。ですが逆に初期作品から聴き始めると音楽の持つ魅力を理解する前に退屈してしまう恐れがあります。ですのでこれからブルックナーを聴いてみようかと思われる方には、中後期の「7番」辺りから聴き始めて「3番」「4番」「5番」「8番」「9番」と順に制覇して頂くことをお薦めします。

初期の3曲の中では、やはり最後の「第2番」の出来栄えが優れています。中期の「第3番」「第4番」よりも好む方もいらっしゃるのでは無いでしょうか。第1楽章モデラートは、さながら心を弾ませてアルプスの野山を散策しているような雰囲気です。遠くの雄大な山々を眺めてみたり、足元に咲く花々に目を留めたり、爽やかな空気を吸ったりと、大自然の美しさを満喫できます。第2楽章アンダンテも同様なのですが、ゆったりとした曲想でもっとずっと瞑想的です。第3楽章スケルツオは、いかにも初期のブルックナー的な野趣に溢れたとても楽しい曲です。そして第4楽章フィナーレは非常に印象的で心が沸き立つような曲です。この楽章だけは初めて聴く方でも即座に魅了されることでしょう。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。後期の曲に比べると普段聴く回数がずっと少ないので所有するCDは限られています。

Bru_yoh02 オイゲン・ヨッフム指揮バイエルン放送響(1968年録音/グラモフォン盤) ヨッフムの一度目の全集はベルリンフィルとバイエルン放送響とを曲によって振り分けていますが、音の傾向からするとバイエルン放送のほうがブルックナーには適していると思います。オーストリアに最も近く、アルプス山脈の麓と言っても良いミュンヘンの楽団は昔からブルックナーが得意です。恐らくはドイツの国の中でもオーストリアと気質が似ているのと素朴で明るい音が適しているのだと思います。この演奏はそんな特色が生かされた素晴らしい演奏です。曲の隅々までデリカシーに溢れて美しいですし、3、4楽章の切れの良さも最高です。現在は分売もされているので、これ1枚でこの曲を楽しむのにも何ら不足は有りません。

Bru_holst ホルスト・シュタイン指揮ウイーン・フィル(1973年録音/DECCA盤) シュタインはわが国のN響を何度も指揮しましたのでオールドファンには良く知られるドイツ正統派ですが、僕はこれまで特別感動した演奏を聴いたことが有りません。全て中の中レベルどまりでした。とは言え、この演奏はウイーンフィルを指揮したブルックナーなので期待は高まります。ところが第1楽章は早めのテンポにどうも忙しなさを感じますし、響きも少々うるさい感じです。第2楽章はさすがにウイーンフィルでとても美しいのですが、第3、第4楽章になると切れの良い力演ではあるものの、やはり全体的にうるささを感じます。なお、この演奏はハース版ですが、ノヴァーク原典版の方が良いと思います。

Cci00007 オイゲン・ヨッフム指揮ドレスデン歌劇場管(1980年録音/EMI盤) ヨッフム二度目の全集への録音ですが、バイエルン盤の名演をも更に上回る最高の出来栄えです。基本的な表現は同じですし、どちらのオケも魅力的なので1、2楽章は甲乙付け難いですが、3楽章は新盤の方が幾分遅くスケールの大きいことがプラスです。後期の曲的な演奏と言えるでしょう。逆に終楽章はテンポを速めて緊迫感が増しており思わず惹きこまれます。これはブルックナーの指定の"速く"を徹底した結果です。僕はこの演奏を第2番のベスト盤にしたいのですが、現在出ている海外EMI盤のBoxセットはArtリマスターであり、高音が強調されていてドレスデンの音らしからぬ響きに聞こえます。そこで旧盤(オランダ盤)に買い換えたところ、中低域の音がずっと厚くなり、本来のドレスデンらしい音になって非常に満足しています。

Bru_scro02 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキー指揮ザールブリュッケン放送響(1999年録音/ARTE NOVA盤) スクロヴァチェフスキーの演奏も非常に魅力的です。この人のブルックナーの中でも特に優れた1枚ではないでしょうか。スタイルとしてはヨッフムの旧盤に似ています。1、2楽章は美しいですし、スケルツオや終楽章の切れの良さはヨッフムに比べても遜色有りません。ザールブリュッケン放送も中々優れたオケですし、音色に素朴さを失わないのがプラスです。廉価盤ですが録音も優秀ですし、この演奏だけでも曲の魅力を充分に味わうことが出来ると思います。

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ブルックナー 交響曲第0番二短調 

Bruckner ブルックナーの交響曲には第1番から9番の他にもへ短調交響曲と第0番が存在します。このうちのヘ短調は全くの習作ですが、第0番のほうは少々ややこしいのです。この曲に着手したのは第1番よりも以前ですが、完成したのは実は第1番よりも後だというのが現在の定説です。ですがブルックナー自身は2番の名称を与えることなく0番としました。その理由は分かりませんが、ちょっと可哀相な作品です。ですので一昔前には交響曲全集にも含まれませんでしたし、単独でも録音がされることは滅多に有りませんでした。けれども最近は全集に含まれるケースが増えましたし、ファンの間では結構愛聴されています。

ブルックナーファンにとってはこの曲からアルプスの山々の美しさや悠久の自然を感じ取る事は容易です。第1楽章アレグロは少々変化に乏しく長ったるく感じないでも有りません。しかし第2楽章アンダンテは非常に美しい曲ですし、第3楽章スケルツオも素朴で野趣を感じるあたりは初期の作品としてよく出来ています。第4楽章モデラートはバロック的な対位法による旋律の絡みが主体の曲ですが、初期作品とはいえ音楽はとても立派です。

とは言え僕は第1番も第2番も普段は余り聴きませんし、0番になると更に聴くことが少なくなります。ですので所有CDも僅かに1種類だけなのですが、ご紹介します。

Buru0 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキー指揮ザールブリュッケン放送響(1999年録音/ARTE NOVA盤) ブルックナー指揮者には大きく分けてクナッパーツブッシュ、マタチッチ、ヨッフム、朝比奈などに代表される細部にこだわらない無手勝流豪快型と、細部を彫琢して積み重ねていくシューリヒトやヴァントに代表される職人型の二つのタイプが有ると思います。スクロヴァチェフスキーは完全に後者の職人型です。但しシューリヒトやヴァントは職人として100%完成の域に到達しましたが、スクロヴァチェフスキーは2人と比べてしまうとせいぜい90%というところでしょうか。何年か前にこの人がN響定期で振った8番を聴いてなかなか感心しましたが、後期の曲の場合には更なる高みを望んでしまいます。

とはいえザール・ブリュッケン放送響と残した全集の中でも初期の曲については、非常に満足のできるレベルです。初期の曲を後期の曲のように巨大に演奏するのも一つのやり方ですが、その曲の等身大の大きさの演奏というのもリファレンスとして貴重だと思います。そういう点でスクロヴァチェフスキー盤は安心して曲を楽しむ事が出来ます。ザールブリュッケン放送響は技術的にも問題は有りませんし、この曲に名演奏を残してくれた事を喜びたいと思います。

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ブルックナー 交響曲第1番ハ短調

335pxantonbruckner_2 アントン・ブルックナーはオーストリアのリンツにある聖フローリアン教会でオルガニストを勤めていました。敬虔なカトリック信者である彼は自らの作品を神様に捧げようとしたのです。このことだけでも彼が随分浮世離れした人物であったことが分ります。彼の作品の中心は交響曲と宗教曲ですが、一般に人気の有るのは何と言っても一連の交響曲作品です。よく彼の作品は「オルガン的」と言われますが、それは単に管弦楽の響きの方法論であって、決して音楽の本質では有りません。本質は、浮世(俗世間)を離れた、あたかも自然界や宇宙界、森羅万象の世界を想像させる、およそ他のいかなる作曲家とも異なる独自のものです。けれども、このような音楽というのは、自然や季節の移り変わりや"もののあはれ"を理解する日本人にとっては感覚的に案外受け入れ易いと思います。ですので日本には本国ドイツ、オーストリア以上にブルックナー・ファンが大勢居ます。数年前迄は朝比奈隆やギュンター・ヴァントというブルックナーを得意とする指揮者が現役でしたので、ブルックナー・ファン達も非常に賑やかでしたが、最近は少々沈静化してしまった感が有ります。巨匠の時代の終わりと共に、ブルックナー演奏の時代も区切りが付いてしまったとすれば大変残念な事です。

ブルックナーの交響曲には第1番から未完成で終わった9番迄の作品の他にも、第0番、習作の第00番が有ります。近年は全集盤に0番と00番が入るものも増えています。ところで僕はブルックナーは大好きですが、全ての交響曲を万遍無く聴いている訳でも有りません。愛聴していると言えるのは後期の大曲である5番、7番、8番、9番ぐらいです。次いでは3番、4番でしょうか。1番、2番、6番ももちろん好きですが、普段はほとんど聴きません。ところが熱烈なブルックナーファンは初期の0、1、2番も愛好しますし、8番、9番あたりの曲は、あらゆる録音を全て聴くという人も決して珍しくは有りません。事実自分の友人にも存在します。そういう意味では自分は熱烈なブルックナーファンでも無いかもしれません。

交響曲第1番は1868年にブルックナー自身の指揮で初演されました。マーラーの第1番の初演が1889年ですので、先んじること21年です。規律正しくいかにも独欧系の音楽という風情で進行する第1楽章アレグロ、オーストリアの美しい自然を想わせる第2楽章アダージョ、野趣に溢れた第3楽章スケルツオ、激しく高揚する第4楽章フィナーレと、いずれも魅力的です。ブルックナーファンにとっては無条件で楽しめます。しかしファン以外が聴いて楽しめるかというと果たしてどうでしょうか。正直よく分かりません。これからブルックナーを聴かれるという方は、まず先に3、4、5、7、8、9番を聴かれた後からでも遅くないと思います。

この曲は普段聴く事が無いので所有するCDの種類もごく限られてはいますが、ご紹介しておきます。

41kqn94kz0l__ss500_ オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル(1965年録音/グラモフォン盤) ヨッフムもブルックナーを得意にしていた名指揮者です。特に晩年の幾つかのライブ録音はいずれも最上のブルックナーでした。この1番はグラモフォンでの最初の交響曲全集の中の録音で、宇野功芳先生が昔から絶賛している演奏です。ベルリンフィルがフルトヴェングラー時代のドイツ的な音色をかろうじて残している時期の録音なので幸運でした。元々パワフルなオケが音楽を踏み外さずに、力強く、かつ美しく響かせているのはやはりヨッフムの実力だと思います。終楽章などは実に見事です。アダージョの美感やスケルツオの切れの良いリズム感などにも惚れ惚れします。

2059c48ea678dc0cfe8109975a4bb3591 オイゲン・ヨッフム指揮ドレスデン国立歌劇場管(1978年録音/EMI盤) グラモフォン盤に続いて二度目の全集の中の録音です。完全無欠のベルリンフィル盤に対して、ドレスデン盤はどこか集中力にスキが有るような気がします。それはオケの持つ性格も有るのかもしれません。宇野先生などは明らかにベルリン盤の方が上と言われています。ところが人の好みというのは面白いもので、僕はむしろドレスデン盤に惹かれます。聴きようによってはややメカニカルな音に聞こえるベルリンフィルよりも、音に素朴さが有るドレスデンの方が聴いていて心地よいのです。とは言え、どちらか片方を選んでも問題は有りませんし、両方を聴かれればもちろん更に良いと思います。

ヨッフム以外であれば、たぶんヴァントかスクロヴァチェフスキー辺りが無難なところではないでしょうか。但し僕は聴いていません。

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~アルプスへの旅~ ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」 名盤

Alpsa002 さて、ライン地方の風景を満喫し毎日ビールを飲んだくれていたフーテンのハルくんでしたが、ようやく旅を続けてやってきたのはオーストリアはアルプス山脈の麓にあるリンツです。たいそう美しいこの街には有名な聖フローリアン教会が有るのですが、かつてこの教会のオルガニストを勤めたのがアントン・ブルックナーです。この人は一般的には決してポピュラーということは無いのですが、日本では本場ドイツオーストリア以上に人気が有ります。それほどファンの間には熱烈に支持されているのです。それは何故か?この人の音楽の本質をごく簡単に説明すると「悠久の大自然や宇宙を前にしたはかなさ」ということです。これは他の作曲家の音楽が感じさせるものとはだいぶ異なります。しいて言うと晩年のシベリウスが同じような特徴を持つぐらいです。要するに音楽に「人間臭さ」が全く感じられないのです。其処にあるのは、大アルプスの山々とのどかな森林やお花畑。晩年の作品に至っては、大自然の風景すら超越して、まるで大宇宙そのものと自然の摂理みたいな音楽です。いや音楽すら越えてしまっているかもしれません。

数年前にベストセラーになった藤原正彦さんの「国家の品格」の中に、日本人の持つ特徴として「自然に対する繊細な感受性が他の国民よりも格段に豊かであり、悠久の自然の儚い人生に美を感じる」とあります。僕はこの文章を読んだときにまるでブルックナーの音楽を言い表しているなぁ、と思いました。それゆえに多くの日本人がブルックナーの音楽の本質を理解し愛好するのでしょう。

ですが音楽を聴いて大宇宙や人間の存在の小ささをを感じるなんてつまらない、そんなのまっぴら御免だという方も居るでしょう。そんな方にはこの交響曲第4番は彼の作品の中では一番アルプスの山々や自然どまりの雰囲気なので聴きやすいと思います。終楽章の終結部は流石に宇宙を感じさせますがそれまでは馴染みやすいと言えます。その分、後期の一連の作品のような深みには欠けますけれど。でも曲の副題が「ロマンティック」というのはちょっといただけないですがね。いっそ「アルプスシンフォニー」にでもすればいいのにね。それは他にあるって?そうでしたね。さあ涼しい風を体いっぱいに感じながらアルプスの山々を眺めましょう。

343 カール・ベーム指揮ウイーンフィル(1973年録音/DECCA) アルプスの空気と言えばやはりウイーンフィルの澄み切った清純な音で聞きたいですね。しかもベームはオーストリアの山岳地帯グラーツの出身です。このコンビ位にイメージがピッタリの組み合わせはなかなか無いでしょう。弦も木管も実に美しいですが、音を割ったウインナホルンの威力がアルプスの威容をとことん感じさせてくれます。録音もアナログ全盛期のDECCAだけあって優秀です。

Ph06046 ギュンター・ヴァント指揮ミュンヘンフィル(2001年録音/Profil盤)リンツからドイツ側に下るとミュンヘンが有ります。だからか昔からミュンヘンのオーケストラはブルックナーを得意にしています。ヴァントもブルックナーを最も得意としていてこの曲を何度も録音していますが、特に優れたものの一つがこの演奏です。最晩年のヴァントは職人技を極めて人間国宝みたいな域に達していたと思います。

108 ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送響(2001年録音/RCA盤) ミュンヘン盤が2001年の9月録音、こちらは10月の録音です。そしてこのコンサートがヴァントの最後の演奏会になりました。ですのでこのコンビが直前の2000年に日本で9番を聴かせてくれたのは実に幸運でした。あの時の生の音は決して忘れることができません。そしてこの4番の演奏にはヴァントも団員もまるで最後を予感していたかのような特別な雰囲気が漂っています。枯れているといえばそうなのですが、そこが独特の魅力を湛えていて実に感慨深いものが有ります。

Cci00039_2 ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘンフィル(1972年録音/IMG盤) これはライブ録音であり、昔出ていたスタジオ録音とは違います。ケンペもブルックナーを得意としていて、同じミュンヘンフィルとは5番の超名演を残していますが、このライブの4番もそれに匹敵する素晴らしい出来栄えです。この名匠の腕による彫りの深い演奏はどちらかいうとアルプスの自然よりはミュンヘンの街のあのゴシック様式の巨大な聖母教会を想わせる様な立派さです。僕が生で聴くことができたその聖母教会のパイプオルガンの地響きを立てるような音はミュンヘンフィルの響きに通じていると感じます。

Cci00039b ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーンフィル(1955年録音/DECCA盤) クナ抜きにブルックナー演奏は語れません。但しこの演奏はスタジオ録音なので非常に柔らかい演奏であのクナの地響きを立てるような実演とはかけ離れています。ところがそれでも魅力が失われないのがクナの面目躍如です。何と美しい響き、表現の演奏なのでしょう。クナには最晩年1964年に同じウイーンフィルとのライブ録音が有り、それは正に空前絶後、恐らく最も素晴らしい4番の演奏なのですが、残念なことに音質の悪い非正規盤しか有りません。是非正規盤で聴きたいと思うのですが。

Cci00040 カール・シューリヒト指揮シュトゥットガルト放送響(1955年録音/Archiphon盤) 最後にもう一人ブルックナーを得意としたシューリヒトのご紹介も。ウイーンフィルとの3、5、8、9番ほどの名演とは言い難いので、まあこんなのも有りますということで。軽い足取りはアルプスの野原をさっさと早足で散策しているかのようです。ドイツでビールを飲んだくれてお腹がポッコンのフーテンのハルくんにはこの速さに付いて行くのはちょっと辛いなぁ。

ブルックナーの他の曲、特に好きな5、7、8、9番などについてはそのうちにじっくり触れたいと思っています。

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