ショパン(器楽曲)

2018年10月18日 (木)

神野千恵 ファースト・ソロアルバム 「ショパン/バラード&スケルツォ」 ~憧憬のショパン~

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ノーザンライツレコード・クラシックスから、中堅の実力派ピアニスト神野千恵さんのCDアルバム「ショパン/バラード&スケルツォ」が新しくリリースされました。といってもレーベルも演奏家もほとんどの方は初めて耳にする名前だと思います。

それもそのはず、これは私が某録音エンジニアと協力して一昨年立ち上げたCD制作プロジェクトで、主に若手や中堅音楽家の為に良質で本格的なCDを制作しましょうというコンセプトで運営しています。

和楽器の業界で最高の尺八の制作者として評価の高い三塚幸彦氏は尺八の演奏家、更には録音エンジニアの”三刀流”として知られます。三塚氏が運営する音楽レーベル「ノーザンライツレコード」は、これまで和楽器やアコースティック楽器、あるいは歌手のCDを多数リリースしてきましたが、そこに私がサポートをして新たに立ち上げたのがクラシック専門のレーベル「ノーザンライツ・クラシックス」です。録音の音質の良さには是非とも注目して頂きたいと思います。

さて、ここで新しくCDをリリースした神野さんについてざっとご紹介します。

<ピアニスト神野千恵プロフィール>

桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部を経て、同大学音楽学部研究科修了。ジュネーヴ音楽院ソリストディプロマ課程修了。在学中に(財)ローム・ミュージックファンデーションより奨学金を得る。
エルネスト・ファッラ国際コンクール(イタリア)第1位及び特別賞、ブレスト国際ピアノコンクール(フランス)第4位、マリエンバート国際ショパンコンクール(チェコ)入賞、安川加壽子記念コンクール第3位ほか、国内外のコンクールにて入賞。第28回・第35回霧島国際音楽祭賞をそれぞれピアノ、室内楽(ピアノトリオ)にて受賞。 日本ショパン協会主催によるリサイタルシリーズの出演(05年、11年/第227回・第256回例会)をはじめ、現在ソロ、室内楽を中心に各地の音楽祭への出演や定期的なリサイタルの開催等、精力的な演奏活動を展開している。
2018年6月、ノーザンライツレコードクラシックスより初のソロアルバムとなるCD「ショパン/バラード&スケルツォ」をリリース。 桐朋学園大学附属子供のための音楽教室ピアノ実技講師。

以上ですが、彼女はこのアルバムに「憧憬のショパン」と題したライナーノートを書いています。

『ショパンはピアニストにとって、憧れの象徴のような存在です。心に寄り添う優しい旋律には親しみを、しかし内に秘めた情熱と緻密で繊細なピアニズムには孤高を感じさせる、儚くも圧倒的なその姿。共感と畏怖を同時に感じてしまうほどの神聖な美しさを持つ珠玉の名曲たちに、私も叶わぬ恋のような想いを抱いています。皆さまとご一緒に、ショパンを少しでも近くに感じられるような幸せな時間を過ごせたらと思っております。』

このCDにはバラードとスケルツォの全曲、そして最後にノクターン第2番がディスク1枚にフルに収録されていますが、肝心なのはその演奏の質の高さです。もちろん世界的に著名な演奏家のCDを聴くのも良いのですが、もっと身近な存在で、しかし素晴らしい演奏を体感するのもとても楽しいものです。

このCDはどの曲でも彼女の演奏技術の高さとショパンに対する憧れがひしひしと感じられるとても素晴らしい演奏です。このCDをお聴きになられてお気に入られましたら、次はぜひとも彼女の演奏会を聴きに行かれてください。

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2018年5月30日 (水)

ショパン 「練習曲集」(エチュード) 名盤

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ショパンの練習曲(エチュード)集は作品10の12曲、作品25の12曲、作品番号無しの新練習曲の3曲と全部合わせて27曲が楽譜に残されていますが、一般的には作品10と作品25が圧倒的に有名で、この24曲だけでレコーディングされることも多いです。

作品10が発表されたのはショパン23歳のときで、フランツ・リストに捧げられました。
これらの作品はその名の通り”練習曲”として書かれていますが、極めて難易度の高い演奏技術の鍛錬を目的としています。その反面、音楽的にも大変優れているのでコンサートピースとして広く演奏されています。
作品10と作品25では幾らか性格が異なり、高度な技術的要素が前面に現れる作品10に対して、作品25では高度な技術要素を越えた充実した音楽内容が一層感じられます。しかし作品10にはあの美しい名曲「別れの曲」(原題はTristesseで本来は”悲しみ”と訳されます)が有りますし、中々に甲乙は付けにくいです。

それでは愛聴盤をご紹介してみます。
 
Chopin_51htoorwail_sy355_アルフレッド・コルトー(1933-34年録音/EMI盤)(1942年録音/EMI盤) 所有しているBOXセットには2種類の録音が含まれています。録音時期に10年近くの開きがあるので再録音盤は音そのものは明確なのですが、サーフェイスノイズが大きいのがマイナスです。肝心の演奏は似たり寄ったりで、現代の奏者と比べると多くの箇所で指がもつれているように聞こえます。どちらか言えば旧録音盤のほうがまだ良く弾けている印象です。それでも全体がコルトーらしい濃い情緒感に覆われているのはさすがですが、技術的な側面がどうしても前面に出てくるエチュード集はショパンの曲の中では余りコルトー向きでは無いようです。

Chopin71lt58iq8yl__sy355_ サンソン・フランソワ(1959年録音/EMI盤) 残念なことにモノラル録音で音質に古めかしさを感じられるのが残念です。天才フランソワのショパンには常に一定の型にはまらない自由な閃きを感じますが、奇異な印象やあざとさを感じることは有りません。テクニック面でもその後に登場してくる世代と比べてもさほど見劣りすることは有りません。静かな曲での繊細な美しさは見事なものですし、逆に作品25の11、12などでは腹の底まで響き渡る凄みある音を聞かせてくれます。この人もやはり演奏史に残る偉大なショパン弾きだったと思います。

Chopin230028497 ウラディーミル・アシュケナージ(1971-72年録音/デッカ盤) もちろんアシュケナージは指折りのテクニシャンですし、ポリーニ盤とほぼ同時期にリリースされたエチュードでしたが、話題性ではポリーニに負けたように記憶しています。いま改めて聴いてみても高速アルぺジオの音の粒立ち、リズムの堅牢性などでやはりポリーニが一枚上かなと思います。もしもの話、ポリーニ盤が存在しなければ名盤として君臨することでしょうが事実は異なります。もっともポリーニ盤は鑑賞の上で余りに緊張の持続を強いられるので疲れてしまうという方にはアシュケナージ盤はお薦め出来ると思います。

Chopin61okwcttual__sl1096_ マウリツィオ・ポリーニ(1972年録音/グラモフォン盤) 発売当時のLP盤の帯に「これ以上何をお望みですか?」という吉田秀和氏の有名な言葉が印刷されていたのを知らないオールドファンは居ないと思います。ポリーニが18歳でショパンコンクールを制したのちに10年間もの沈黙を守り、再び楽壇に登場して録音をした衝撃的なアルバムでした。10年間の研鑽がそのまま結晶化したかのような演奏は「果たして人間にこのような演奏が可能なものか」と言葉を失わせる演奏でした。この演奏の凄さは正にアポロン芸術の極致で、あたかも情緒の入り込む隙間が無いほどの完璧な演奏なのですが、それでいて無味乾燥では無く、澄み切った空気感が確かに存在することです。もしもケチを付けるとすれば作品25の11、12に関しては制御が聴き過ぎているのでもっと羽目を外して荒々しく終わるほうが好みなぐらいです。これはエチュード集のみならずあらゆるピアノ演奏の五指に入る歴史的な録音だと思います。

Chopin11tbkwi1al__sl1050_ルイ・ロルティ(1986年録音/シャンドス盤) ロルティもまたグールドと同じカナダが輩出した素晴らしいピアニストです。テクニックに優れ、音の粒立ちの良さ、テンポの堅牢さはポリーニ並みですが、ポリーニほどの緊張感を強いられることは無く、むしろ澄み切った叙情性すら感じさせます。全体的にかなり速いテンポなのにもかかわらず上滑りすることなく落ち着いた印象なのは音楽が完成されていて、この難易度の高い曲の演奏にも余裕を持ち合わせるからでしょう。録音も優秀でピアノの音も幾らかオフ気味ですが非常に綺麗です。

Chopin アンドレイ・ガヴリーロフ(1985-87年録音/EMI盤) ガヴリーロフもユニークな演奏を残しました。特に作品10の大半の曲を超快速(音速か?)でかっ飛ばすのにはただ唖然とするばかりです。しかしここにはポリーニのような微動だにしない堅牢なアポロン芸術というよりはスポーツ的な快感を感じます。それでも「別れの曲」や作品10-6の静寂な雰囲気や作品10-11や25-1の粒立ちの良い光り輝く音など耳を傾ける箇所も多いです。また作品25-11以降の迫力も圧巻です。この曲集を原点の「エチュード」だと考えればポリーニに並び立つ演奏だと断言出来ます。もちろん鑑賞用としても非常に楽しいです。

Chopin51tmn0kd6gl__sy355_ スタニスラフ・ブーニン(1998年録音/EMI盤) あれだけ一般の人気の高かったブーニンですが、マニア筋には必ずしも評価が高かったわけでは無いようです。この演奏はポリーニの透徹したアポロ的な演奏とは反対に感情表現豊かなディオニソス的な演奏と言えます。もちろん技術的にも高いレベルに有ります。ポリーニやロルティのような完全無欠のアルペジオと比べればほんの僅かに劣る感じは有りますが、そもそもブーニンはこの人特有の非常にロマンティックで深い音楽をめざしているために全く気になりません。全体のゆったりと大きなスケール感も特筆ものです。これは中々にユニークな名盤だと思います。

Chopin51qnfz4bmil__sx355_マレイ・ペライア(2001年録音/SONY盤) ペライアがショパンをこれだけ弾けるのかと驚きました。ポリーニのアポロンタイプに僅かにディオニソステイストを加えたようなスタイルです。全体的に速めのテンポで颯爽と進みますが、曲によっては中々の迫力を聞かせます。この人もまた高いテクニックを持ちますが、作品10-4のような曲ではスケールが幾らか不安定のような印象を受けます。もっともそれはポリーニと比較してとお断りしておきます。録音も新しく音質も優れます。

<作品25のみ>
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グリゴリー・ソコロフ(1995年録音/NAIVE盤) 現代の幻の大ピアニスト、ソコロフのエチュードの録音は残念なことに作品25しか有りませんので番外扱いにはなりますが、ライブでこの曲の正規盤を出すのは凄いです。作品25-6のキラキラと輝く光の粒は実に綺麗ですし、25-7の詠嘆の表出には恐ろしく深みが有ります。そして25-10以降の3曲も聴き応えは充分です。決して力で押し切るわけでは無く、迫力ある音の中にも細部までコントロールされ尽くした美しさを感じさせます。作品10の録音が無いのが非常に残念です。但し、ソコロフとしては「プレリュード集」や「葬送ソナタ」の演奏の方が更に出来栄えが上だと思います。

というわけで、作品10と25の24曲をどれか一つだけ選ぶとなればポリーニ以外の選択肢は考えられません。しかし気分に応じて取り出すのは、むしろロルティ、ガヴリーロフ、ブーニンが多いです。「これ以上」を望まなくても「別のもの」を望むことは有るのですね。

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2018年5月15日 (火)

ショパン 「ワルツ集」 名盤 ~華麗なる円舞曲~

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ロベルト・シューマンはショパンのワルツについて『ショパンのワルツの踊り手は、少なくとも伯爵夫人たちであるべきだ』と語ったそうです。それに対して往年の巨匠ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインは『それはワルツの僅かなものにしか当てはまらない。ワルツは前奏曲や練習曲と同じぐらい変化に富んでいるので、ワルツの全てを述べるために、一つの事柄で正しく言おうとするのは無駄なことだ。』と否定しました。

ショパンは最初のワルツを1829年に書いてから、18年間の長い期間に数曲づつ書いて行きましたので、作曲された場所も様々であり、それらの曲の性格も明るく華麗なものから、愛情、悲しみ、絶望、孤独感などに彩られたものと、1曲づつがルービンシュタインが述べたような異なる個性に溢れています。

三拍子のワルツという性格上、「前奏曲」や「練習曲集」のように幅広いダイナミクスが存在するわけでは無く、また「ポロネーズ」や「マズルカ」のようなポーランドの民族の血が濃く流れているわけでもありませんが、聴きこむごとにその音楽の持つ楽しさと魅力に惹きつけられます。

個人的な好みだけで言えば、「前奏曲集」「練習曲集」と「ソナタ集」をより好んではいますが、「ワルツ集」もやはり大好きな曲集です。

ショパンは生涯にワルツを全部で20曲近く書きましたが、過去のディスクに収められているのは代表的な14曲のものが多いです。

それでは僕の愛聴盤です。

Chopin_51htoorwail_sy355_アルフレッド・コルトー(1943年録音/EMI盤) この録音は若いころLP盤で愛聴しましたが、元々はSP録音ですので音質は当然悪いです。ノイズも多く入っています。演奏も複雑な箇所では混濁して聞こえます。しかしこの表現力には今更ながら圧倒されます。どんなにテンポを揺らしてみても恣意的なあざとさは感じられず、ショパンの書いた音楽がかくも自由に息づくことにため息をつくばかりです。音楽愛好家もプロを目指す若い演奏家も一度は耳にしておきたい演奏だと思います。写真はBOXセットですがワルツ集のみでも入手可能です。

Chopin_waltzmi0000954720ディヌ・リパッティ(1950年録音/EMI盤) 戦後派世代のリスナーにとってはコルトー以上に懐かしさを感じるリパッティですが、このワルツ集はこの人の代表盤として名高い録音です。自由で表情豊かな演奏ですが饒舌さは無く、むしろスタイリッシュなほどです。そこからショパンの音楽のニュアンスが香るように感じられてくるのは正に天賦の才能です。ピアノの素朴な音色は現代の金属的とも言える音とは異なり、非常に端正な、しかし美しい音に惹かれます。ブザンソン・ライブが1曲欠けている以上、14曲を収録したこちらのスタジオ録音盤がスタンダードには成るでしょう。 曲順は通常の作品番号順ではなく独自に並び変えられています。

51mewcymzl__ss500ディヌ・リパッティ(1950年録音/EMI盤) 若くしてこの世を去ったリパッティ最後のブザンソンにおけるライブ録音です。前述のスタジオ録音ともまた曲順が幾らか異なりますが、病魔に蝕まれた体はとうとう最後の1曲になるはずの第2番「華麗なる円舞曲」を演奏できませんでした。しかし演奏された曲については壮絶なまでの熱演で、その意味ではスタジオ盤以上と言えます。ライブ録音ですが音質的にもそれほど聴き劣りはしません。1曲欠けているのを気にしなければこちらを上位にしたくなる奇跡的な名演奏です。

Chopin_waltz216007825アレキサンダー・ブライロフスキー(1961-62年録音/CBS盤) この当時のブライロフスキーの人気はかなりのものだったようです。音楽がとことん明るく、まるで高級サロンとか社交界で演奏されているかのような華やかさを感じます。それもいかにもアメリカ的で、神経質で暗いショパンとはおよそ縁遠い印象です。現代の感覚では、ややムード的に感じられるかもしれませんが、ワルツをしかめ面をして聴くことも無く、とことん優雅な気分に浸りたいというリスナーにとっては価値ある一枚となることでしょう。

Chopin_walts230023031アルトゥール・ルービンシュタイン(1963年録音/RCA盤) 他の演奏家と比べると常にインテンポで規則正しく流れます。ところがそれでも洒落た味わいが強く感じられるのはさすがは大巨匠です。しかし続けて聴いていると音楽に変化の乏しさを感じてしまいます。ワルツ集そのものが変化にやや乏しい作品なので、それを更に増長してしまうように思います。BGMとして聴く分には良いでしょうが、じっくりと聴き込もうとすると飽きが来る恐れが有ります。リパッティの壮絶なワルツの対極に位置するような演奏です。

522サンソン・フランソワ(1963年録音/EMI盤) もっと後の若い世代の演奏に比べればテンポがゆったりと落ち着いています。どの曲にも音楽のニュアンスが豊富に感じられて、粋なパリジャンのワルツが聞こえてきます。揺れるようなルバートもそれほど大げさで無いので歌の流れを損なうことが有りません。イ短調ワルツなどは夢見るように美しいです。サロン的な味わいを持ちながらも芸術的な奥行きの深さを感じさせる素晴らしい名演奏だと思います。フランス盤のリマスターは良好で音に古さを感じさせないのも嬉しいです。

Chopin_walz_r902382814734523282671jジャン‐マルク・ルイサダ(1990年録音/グラモフォン盤) ワルツ集の新時代を切り開いた名盤としてリリース当時とても評価の高かった演奏です。曲ごとのテンポの緩急の巾が大きく、速い曲では煽るぐらいに追い込みますが、イ短調ワルツなどでは極端に遅いテンポで、心の奥底に深く沈みこんでゆくようなユニークな演奏を聞かせます。ただし頻繁に表れるテンポルバートがやや極端で音楽の流れを阻害しているように感じます。曲目は通常の14曲に遺作の3曲を加えて作品番号順に並べています。ルイサダは2013年に日本でワルツ集の再録音を行いましたが、この旧盤の価値が失われることはありません。

Chopin_waltzccy3010_2スタニスラフ・ブーニン(1992年録音/EMI盤) ルイサダ盤の2年後の録音ですが、これはミラノスカラ座におけるライブです。ブーニンもやはり曲ごとのテンポの緩急の巾が大きく、歌い回しの表情も豊かで聴き応えが有ります。一方でテンポルパートがで多過ぎて、ルイサダと同じように音楽の流れをせき止めてしまう印象です。ライブ会場で聴けば大いに楽しめそうですが、ディスクとして何度も聴くにはやや煩わしさを感じてしまうかもしれません。

ということで、名盤は幾つも有りますが、個人的にフェイヴァリットを選べば、フランソワ盤ということになります。これは聴いていてショパンに酔えて何度聴いても飽きません。もう一つ、リパッティのブザンソン・ライブはたとえ1曲欠けていようが絶対に外せない演奏です。

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2013年3月10日 (日)

カティア・ブニアティシヴィリのショパン・アルバム

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カティア・ブニアティシヴィリは、近年優れた演奏家を次々と世に送り出しているグルジア共和国の出身です。グルジアといえば、これまでならバレエのニーナ・アナニアシュヴィリぐらいしか思い浮かびませんでしたが、最近は色々な音楽家の名前が浮かびます。

ブニアティシヴィリは1987年生まれですので、まだ20代半ばですが、6歳からサイタルやオーケストラとの共演を行なっているそうです。
2003年のホロヴィッツ国際コンクールでは特別賞を、2008年のアルトゥール。ルービンシュタイン国際ピアノコンクールでは第3位と最優秀ショパン演奏賞を受賞しました。
彼女が音楽を勉強したのは自国の音楽学校ですから、きっとグルジアの音楽教育は優れているのでしょう。彼女はマルタ・アルゲリッチ、ギドン・クレーメル、パーヴォ・ヤルヴィ達から才能を認められていますので、これは本物です。

それにしても、彼女は溜息が出るほどに美しいですね。これでは映画女優にでもしたくなるほどです。しかも20代の半ばで、このお色気です!見るからに豊かで美しい胸と、肉感的な唇に思わず吸い込まれてゆきそうです。いえ僕の魂は、もうとっくに奪われています・・・(笑)
わが国の仲道郁代も飛び切りの美人ピアニストで、見ただけでもうっとりとしますが、ブニアティシヴィリの妖艶な美しさには身も心もとろけてしまいそうです。

それに加えて、彼女はピアノも実に魅力的です(どっちが主体なんだ?!)。クレーメルと共演したチャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出」での彼女の素晴らしさはご紹介済みですが、その後にリリースされたオール・ショパン・アルバムも抜群の出来栄えです。

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カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)、パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団(2011‐2012年録音/SONY盤)

―収録曲目―

1.ワルツ第7番嬰ハ短調 op.64-2
2.ピアノソナタ第2番変ロ長調 op.35「葬送」
3.バラード第4番ヘ短調 op.52
4.ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 op.21
5.マズルカ第13番イ短調 op.17-4

このアルバムは曲順がユニークです。もちろん中心となるのは、「葬送ソナタ」と「第2協奏曲」ですが、その前後と中間に、それぞれ「プレリュード」「インテルメッツォ」「アンコール」に相当する曲を配置しています。これが彼女本人のアイディアだとすれば、これはただものではありません。

演奏も極めて素晴らしく、チャイコフスキーのピアノ・トリオでの演奏と比べれば、自分の表現をずっと強く表に出しています。それは感性のほとばしりを感じる自由奔放な演奏で、テンポの変化やルバートが実に大胆です。そういう点では、アルゲリッチとよく似ていますが、若い頃のアルゲリッチほどの激しさや凄みはありません。アルゲリッチは完全な肉食系アマゾネスで、今にも食べられてしまいそうでしたが、ブニアティシヴィリには女性特有の感情の豊かさを感じますが、食べたくなる(?)のはあくまでこちらのほうです。(←意味不明でスミマセン)(汗)

彼女のピアノの打鍵そのものはしっかりしていますが、音が硬いとか強過ぎには感じません。音色は少しも冷たく無く、温かな肌のぬくもりが感じられるような美しい音です。現代に多いメカニカルなタイプの超人演奏家とは異なり、あくまでも人間的な優しさが感じられるタイプだと思います。

「葬送ソナタ」では自由な表現が魅力的で、地獄の深淵を覗かせるような怖さでは無く、大往生した祖母や祖父を温かく天国に送るような「愛情」を感じてしまいます。でも、決して迫力不足の微温的な演奏なのではありません。繰り返して聴いても飽きない面白さに満ちています。これまで愛聴しているこの曲の名盤の仲間入りするのは間違いありません。

「第2協奏曲」はパリでのライブ録音です。天下のパーヴォとパリ管のコンビがバックという豪華さです。これが20代前半の若手のライブかと思うほどに落ち着きがあり、しっとりとした抒情に溢れる演奏です。2楽章での美しさは特筆ものだと思います。3楽章の流れるような優美さも魅力です。一方、パーヴォはことさら自分が目立たないように温かく彼女をサポートしているという印象です。うーん、大人の男性だなぁ。

「バラード第4番」もとても素晴らしいです。「詩情」を充分に感じられる演奏であり、どの大家の演奏と比べても魅力的で遜色が無いように思います。

この素晴らしいショパン・アルバムは自分の愛聴盤になるでしょうし、彼女の他のショパンの曲の演奏も是非聴いてみたいものです。

ところで、やはりパーヴォと共演しているシューマンのコンチェルトの動画サイトを見つけました。ふくよかな胸(!)に目が釘付けになりますが、椅子に座るとお尻のほうにも目が行きます。若い頃から、あんまりグラマラスに過ぎるのも将来的にはどうかなと、いらぬ心配をしてしまいますが、ここはじっくりと見守ってゆきましょう。演奏のほうも中々に良かったような気がします。ついついナイス・バディに気が散ってしまって、集中して聴けてはいませんが・・・(笑)

<過去記事>
ショパン ピアノ・ソナタ第2番「葬送」 名盤
ショパン ピアノ・ソナタ第2番「葬送」 続・名盤

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2012年6月29日 (金)

ショパン 「ポロネーズ集」 名盤

ショパンの曲で僕が特に好んでいるのは2曲のソナタとプレリュードですが、もちろん他の曲も好きです。バラード、ノクターンなど、どれを聴いても「ピアノの詩人」の面目躍如ですものね。孤独な憂鬱さを感じる音楽はショパンの本質をついていると思います。けれどもショパンの偉業の一つとして、舞踏曲の芸術化ということが上げられると思います。ワルツ、マズルカ、ポロネーズなどを、単なる「踊り」の為の音楽では無く、高い芸術性を持った鑑賞用の音楽に昇華させたからです。

それらの曲は、どれも素晴らしいですが、ショパンの祖国ポーランドで祭礼や儀式の時に踊られていたポロネーズは、「ブンチャカチャッチャチャッチャ」という独特のリズムが男性的で、力強く勇壮な雰囲気が大きな魅力です。このリズムは、ロシアのチャイコフスキーなども好んで取り上げましたが、何と言ってもショパンが筆頭格と言えるでしょう。

ショパンは7歳の時に最初のポロネーズを作って、10代の頃までに約10曲の作品を書きました。けれども、それらは初期作品と扱われていて、現在一般に聴かれているのは、彼がポーランドを離れてから書いた作品26以降の7曲です。

第1番嬰ハ短調op.26-1

第2番変ホ短調op.26-2

第3番イ長調「軍隊」op.40-1

第4番ハ短調op.40-2

第5番嬰へ短調op44

第6番変イ長調「英雄」op.53

第7番変イ長調「幻想ポロネーズ」op.61

いずれも非常な名曲ですが、勇壮な舞曲にもかかわらず、1、2、4、5番のように暗い情熱に支配された短調の曲が多いです。特に4番、5番が秀逸で、第4番ハ短調では厳しい運命の重さに押し潰されそうになりながらも、必死に立ち上がって進もうとしている姿を想わせます。第5番嬰へ短調は「英雄」と並んで僕の最も好きなポロネーズです。長い曲で第1主題が何度も繰り返されるのに、くどさを感じないでもありませんが、切迫感に包まれた暗い情熱に引き込まれます。中間部は抒情的で美しく魅力的です。

一方で、3、6番のように力に溢れた長調の曲が大きな輝きを放っています。第3番「軍隊」も名作ですが、第6番「英雄」は傑作中の傑作で、何度聴いても胸いっぱいに勇気が広がる最高の曲です。無駄のない構成も実に素晴らしいと思います。

それでは僕の愛聴盤ですが、7曲のポロネーズが収められているCDは意外に多く有りません。常識的には母国ポーランドの大ピアニストであるルービンシュタインが考えられますが、この人のRCA盤は余り気に入りませんでした。どうもサロン的で緊迫感に欠けた感が有るからです。アシュケナージのDECCA盤も、切れのあるタッチと澄んだ美音が耳に心地よいのですが、その分、ショパンの悩み、苦悩という暗い部分が失われている気がします。こんなにも健康的なショパンは自分の好みからは外れます。そうすると、やはりこの人です。

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マウリツィオ・ポリーニ(1974年録音/グラモフォン盤) ポリーニに一番適しているのは「練習曲集」だと思いますが、このポロネーズ集も気に入っています。リズムを崩さずに厳格に刻むので、音楽が非常に威厳を持って立派に感じられます。流れの良さと、重厚さとのバランスが秀逸だと思います。1番、2番では演奏にやや不完全燃焼を感じますが、「軍隊」以降、特に僕の好む第5番と「英雄」の出来栄えが傑出しているので大いに満足です。ここでは装飾音の一つ一つまでが音楽に完全に奉仕していると思います。

ということで、7曲のポロネーズ集としては、昔からポリーニ盤を愛聴していますが、その他にも「英雄」他の単独の録音には良いものが有りますのでご紹介します。

Cci00025アルトゥール・ルービンシュタイン(1960年録音/Muza盤) ルービンシュタインの祖国ポーランドのワルシャワでのコンサートのアンコールで「英雄」を弾きました。この演奏にはRCAのスタジオ録音とは全く異なる気迫と緊張感が感じられます。全盛期ですのでテクニックも申し分なく、これこそが真の「英雄ポロネーズ」なのかと、認識を新たにさせられる感があります。こういう演奏で7曲を残してくれたら、決定盤間違い無しです。

074644230628_2 ウラディミール・ホロヴィッツ(1960年代録音/CBS盤) ベスト盤ですが、「軍隊」「5番」「英雄」「幻想」と主要な曲を聴くことが出来ます。どの曲もホロヴィッツ一流の「クセ」の有る演奏で、好き嫌いの分かれ道ではないかと思います。で、僕は好きです。どんなスタイルでも究極まで突き詰められた「芸」は、やはり真の芸術だと思うのです。但し聴いていて、作曲家よりも演奏家の体臭を強く感じてしまうのは覚悟しなければなりません。

F4db9736 マルタ・アルゲリッチ(1967年録音/グラモフォン盤) 「英雄」「幻想」を聴くことが出来ます。 若きアルゲリッチの録音ですが、僕は70年代までの彼女の演奏は大好きです。本能と感性のままに、曲にストレートにぶつかる演奏が後年の恣意的な演奏とは随分印象が異なるからです。この2曲の演奏も、一気呵成に弾いているようで、表情をひょひょいと変えてゆくのが実に楽しいです。ポリーニのような造形性や立派さは有りませんが、音楽の勢いが非常に魅力的です。

Chopin_kissin エフゲニ・キーシン(1993年-2004年録音/RCA盤) ショパン選集の中から、1、2、4、5、6番を聴くことが出来ます。各曲に共通しているのは、遅めのリズムで重いことです。そのために躍動感に不足するように感じます。それでいて4番などは、引きずる様なテンポが人生の苦悩を増した印象かと言えば、意外にそうでもありません。「英雄」は1999年と2004年の二種類が有りますが、1999年のほうが躍動感に溢れていて好きです。

ということで、「英雄ポロネーズ」単独でも、ポリーニのグラモフォン盤が一番好きですが、それに並ぶのがルービンシュタインのワルシャワ・ライブ盤です。

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2012年6月21日 (木)

ショパン 「バラード集」 名盤

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「バラード(Ballade)」というのは、古くは12世紀頃にフランスで生まれた世俗抒情歌の形式の一つだそうです。その後、声楽曲として広まっていましたが、器楽曲に初めて取り上げたのがショパンだそうです。同じポーランド出身の詩人アダム・ミツキェヴィッチの詩に霊感を受けて作曲したそうですが、各曲の具体的なストーリーについては余り明確では無いようです。ですので、曲を聴く時には、自分で自由にイメージを湧かせて楽しめば良いのでしょう。例えば「愛」でも「恋」でも「孤独」でも「嵐」でも何でも構わないですし、もちろん純粋器楽曲として聴いて良いと思います。

ショパンの書いたバラードは4曲有ります。

第1番ト短調op.23

第2番ヘ長調op.38

第3番変イ長調op.47

第4番ヘ短調op.52

4曲の中で、演奏される回数が多く、最も人気の高い名曲は、やはり第1番でしょう。ロベルト・シューマンは、この曲を「ショパンの曲で最も好きだ」と語ったそうですし、僕も大好きな曲です。ほの暗いロマンティシズムとドラマティックな曲で、いかにもシューマン好みらしい曲ですね。聴きどころは、物思いにふける様なト短調の第1主題と、それまでの暗い気分が晴れやかにがらりと変貌する変ホ長調の第2主題です。もちろんピアニスティックな部分も素晴らしいですが、この曲はやはり、得も言えぬ旋律の美しさに最大の魅力を感じます。

第2番は、優しい牧歌的な部分と、嵐のように激しい部分が交互に入れ替わる非常にドラマティックな曲です。まるで夫婦生活の縮図のようですね。まぁ、そんなことは良いとして、ショパンは、この第2番をシューマンに献呈したのですが、第1番ほどには評価をされなかったそうです。僕はこの曲も大好きだけどなぁ。

第3番は、4曲の中で最も平穏な音楽です。どことなくシューベルトを想わせる単純な旋律が繰り返されます。地味な音楽ですが、やはり美しく魅力的な曲だと思います。

第4番は前半を、メランコリックな旋律が淡々と繰り返されます。憂鬱で沈んだ雰囲気が、いかにもショパンです。それが中間部では穏やかさを見せて、後半では、がらりと変わって激しさを表します。聴きごたえの点では、第1番に次いでいると思います。

僕はショパンの曲では2曲のソナタとプレリュードが特に好きですが、この4曲のバラードもやはりイイですね。とりわけ第1番は何度聴いても魅了されます。う~ん、ショパン!

それでは僕の愛聴盤ですが、全曲盤と第1番単独とでご紹介します。

―全曲盤―

Chopinsimアルフレッド・コルトー(1933年録音/EMI盤) SP時代の録音なので音質は貧弱ですが、聴き始めるといつしか演奏に惹き込まれてしまう魔力が有ります。テンポの変化やルバートは自由自在、歌い回しは洒落たニュアンスに富んでいて、ああこの人はパリで多くの芸術家たちと交歓し合いながら生涯を過ごしてきたのだなとつくづく感じます。そしてそれはかつてショパンが過ごした街なのです。どんなに優秀な学生が一流音大で必死に研鑽を積んだとしても、こういう演奏が出来るようには絶対に成れないだろうと思ってしまいます。

Chopin41fi89fcx4l_sx300_アルトゥール・ルービンシュタイン(1959年録音/RCA盤) 古い録音ですが音質は悪くありません。過剰な残響が無く、ピアノの生の音をそのまま味わえる点でむしろ好みます。演奏については、聴き手を驚かせるような圧倒的なテクニックで押し切ることなく巨匠の至芸ともいえるようなお洒落な歌い方や間の取り方やが楽しめます。最初はもしかしたら物足りなさを感じるかも知れませんが、何度繰り返して聴いても飽きの来ない奥の深さを感じます。現代の名手達の演奏はもちろん良いですが、この大巨匠の演奏も是非座右に置いて頂きたいと思います。

Chopin41sasv6qdelシプリアン・カツァリス(1984年録音/テルデック盤) カツァリスも中々に個性の強い演奏家ですが、バラードにはそれが似合っています。テクニックは優秀ですが、それで強引に押し切ろうとしないところにとても好感が持てます。どの曲でも一本調子にならない洒落た感じが楽しめます。1番単独でも素晴らしいですし、2番の静寂の詩と嵐の切り替わりも見事です。ピアノの音も強音から弱音まで明瞭でとても美しいですし、過度な残響の無さが聴き易いです。

3836f9980303c78dbd1a76834746599fクリスティアン・ツィマーマン(1987年録音/グラモフォン盤) どの曲でも歌いまわしのスケールが大きく、情緒的な面においても雰囲気満点です。テクニックも素晴らしくヴィルトゥオーゾ性も充分です。器楽的な魅力と情緒的な魅力のバランスが50対50という、正にショパン弾きを目指すピアニストのお手本のような演奏ではないでしょうか。強音での打鍵も非常に力強いのですが、美しさを決して失いません。出来映えが4曲全て素晴らしいと思います。

Chopin_kissin エフゲニ・キーシン(1998年録音/RCA盤) キーシンのショパンCD5枚セットに収められています。この人らしいしなやかで美しいタッチで難しい部分も軽々と弾き切っています。情緒的な部分もゆったりと歌わせます。フォルテの迫力も充分です。但し、「不健康さ」や「毒気」が余り感じられないのに、ある種の物足り無さを覚えます。「これだけ上手くて、何が不満か」と言われるでしょうが、やっぱり有るのですよね。

3199080666 マウリツィオ・ポリーニ(1999年録音/グラモフォン盤) ポリーニの57歳の時の録音ですが、強靭な打鍵は相変わらず健在です。ですので、2番では強音と弱音のコントラストが凄いです。他の曲においてもやはり同様です。但しその反面、1番では陰鬱な部分をさらりと流してしまうのが物足りません。4番の弱音で長く繰り返される旋律もどうも味気が有りません。ダイナミックな部分での迫力は凄みさえ感じますが、どうも自分の好みではありません。ポリーニはバラードには余り向いていないように思います。

4110091410 ジャン‐マルク・ルイサダ(2010年録音/RCA盤) この人はテクニック的に不足は無くても、ヴィルトゥオーゾ性が前面に出ることが有りません。フォルテの迫力も抑え気味です。その分逆に、情緒面の訴えかけが抜群で、何とも深く心に沁み入ってきます。優しく歌う部分での美しさは比類有りません。ですので個性の薄い3番などが非常に魅力的な曲に感じられます。もちろん1番、4番も皆素晴らしいです。最も「詩人」を感じる演奏だという気がします。

Xcd01_4 神野千恵(2017年録音/ノーザンライツレコード盤) 日本の中堅実力派神野千恵のデビューCDです。このCDにはバラードとスケルツォの全曲、そして最後にノクターン第2番がディスク1枚にフルに収録されていますが、肝心なのはその演奏の質の高さです。決して巨匠ピアニストの超人的なショパンではなく、生身で近寄り易い人間ショパンを表現しています。どの曲でも彼女の演奏技術の高さとショパンに対する憧れがひしひしと感じられるとても素晴らしい演奏です。

―第1番ト短調op.23のみ―

41rkeftwicl__ss500_ウラディミール・ホロヴィッツ(1965年録音/CBS SONY盤) ホロヴィッツが12年のブランクから復帰したカーネギーホールでの記念すべきライブ録音です。美しく、かつ強靭なピアノタッチと譜読みの深さ、多彩な表現力にはいつもながら感嘆させられます。ブランク明けのライブですのでミスタッチも見受けられますが、いささかも気にはなりません。やはりこの人のショパンは凄かった!演奏後の盛大な拍手も収録されています。

074644230628_2 ウラディミール・ホロヴィッツ(1968年録音/CBS盤) ベスト盤ですので、記載は有りませんが、たぶん招待客を前にして収録されて全米でTV放映された際の録音です。演奏の勢いはカーネギー・ライブのほうが僅かに上かなとも思いますが、ピアノそのものの音はこちらのほうが明瞭なので迫力を感じます。どちらを選んでもホロヴィッツの凄さは充分に聴けますので問題は有りません。全曲が聴けないのが本当に残念です。

51ukeut7bpl アルトゥーロ・べネディッティ・ミケランジェリ(1967年録音/DIAPASON盤) イタリアのフェレンツエ近郊の町プラトで行われたライブです。録音は多少不安定さを感じますが、ピアノの音に芯が有るので悪くありません。この人の演奏も凄いです。第1主題はさらりと流れて、第2主題で思いきりゆっくりと夢見るように美しく弾くのでインパクトが大きいです。後半も見事で迫力も充分です。ああ、これぞショパン!素晴らしい!

51gypejgpkl__sl500_aa300__2アルトゥーロ・べネディッティ・ミケランジェリ(1971年録音/グラモフォン盤) 昔から有名なショパン・アルバムに含まれますが、プラトのライブ録音のほうが感興の高さを感じます。こちらは良くも悪くもスタジオ録音です。けれども、この人のピアノの持つ美感は本当に他の誰とも違います。力強く、音そのものに独特の輝きが有ります。それでいて脂ぎったヴィルトゥオーゾ性は全く感じません。常に高貴さを失わないのです。やはりホロヴィッツに対抗出来る唯一の名匠です。

以上を聴いてみて、全曲盤の比較では、僕が特に好んでいるのは、コルトーを別格としてルイサダ、ツィマーマン、ルービンシュタインです。

第1番単独ではホロヴィッツとミケランジェリがやはり素晴らしく、現代の名手達をもってしても中々越えることのできない孤高の域に達していると思います。

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2012年6月15日 (金)

ショパン 「24の前奏曲」(プレリュード)op.28 名盤

Chopin
ヴァルデモサの修道院

「24の前奏曲(プレリュード)」作品28は、ショパンがパリでジョルジュ・サンドと知り合い、親しくなっていった頃の約3年に渡って作曲されました。サンドがショパンの病気を心配して、療養のために二人でスペインのマジョルカ島に渡ります。けれども、ショパンの肺結核の病気が島の人々に怖がられてしまったために、二人は人里から遠く離れたヴァルデモサにある修道院に移らざるを得ませんでした。ショパンは、ここでピアノを弾き、「24の前奏曲」を完成させたのです。

ショパンがバッハの「平均律クラヴィーア集」を、座右の曲として弾いていて、この「24の前奏曲」作曲のヒントとなったことは良く知られています。全て(24)の調に対して1曲づつ曲を作ったのですが、ハ長調(第1番)とイ短調(第2番)の平行調をスタートとして、完全五度づつ上昇して全ての調を一巡するというユニークな配列(いわゆる五度循環方式)をとっているために、全体が見事な統一感を持っています。3年の間に別々に書かれた、短く性格の異なる曲たちが、全く違和感を感じることなく、自然に流れゆく川のように移りゆくのには感嘆します。

24曲の中では、やはり第15番変ニ長調「雨だれ」が印象的です。初めから絶え間なく続く同じ音「ラ♭」が雨だれに聞こえるので、この呼び名が付きました。曲は刻々と表情を変えて行きますが、この音だけが変わらずにいつまでも続きます。天才的なアイディアの傑作だと思います。

続く第16番変ロ長調も印象的です。速いプレストですので、出来るだけ速く、かつ音を明確に弾き切れるかが勝負です。

第4番ホ短調ラルゴはメランコリックな曲ですが、ショパンが亡くなった時にパリのマドレーヌ寺院で行われた葬儀でオルガンで奏されたそうです。

他のどの曲もショパンらしい詩情に溢れた美しい名曲ばかりですが、それぞれの曲を個別に聴こうとは、まず思いません。多くのピアニストのリサイタルでも「雨だれ」以外の曲は、単独で弾かれることは少ないようです。やはり全曲を通して、はじめて真価を発揮する曲集なのでしょう。ショパンの曲では、ピアノ・ソナタの2番、3番を最も好んではいますが、最高傑作としては「24の前奏曲」だという気がします。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

51bxstk1ael__sl500_aa300_アルフレッド・コルトー(1926年録音/NAXOS盤) コルトーは1933年にも再録音を行なっていますが、これはEMIへの最初の録音をSP盤から板起こししたものです。当然ながら音は非常に古めかしいです。コルトー全盛期ですから、自由自在の表現と引き締まった演奏に高い評価を与える人も居ますが、音楽そのものの深さとしては、僕は晩年の演奏の方が遥かに優れていると思っています。ですので、僕にとっては名ピアニストの遺産としての価値に留まっています。

941アルフレッド・コルトー(1955年録音/ARCHIPEL盤) 同じコルトーでも最晩年の演奏です。クレジットにはミュンヘンでのライブ録音と有ります。EMIにもスタジオ録音を2度行っていますし、コルトー得意のレパートリーだったのではないでしょうか。ですので、演奏に余り衰えを感じません。ミスタッチも少なめです。何と言っても、詩情の豊かさが抜群ですし、演奏の味わいの濃さと音楽の深みは圧倒的です。音質も明瞭ですので、コルトーの代表盤の一つに上げたいと思います。本当に素晴らしいショパンです。

Chopin91o5luzivfl_sl1500_ サンソン・フランソワ(1959年録音/EMI盤) フランソワは好きなピアニストですし、特にドヴュッシーは絶品でした。ショパンに関しては以前は「クセがある」という否定的な評をよく見かけましたが、決してそんなことはありません。確かに伝統的でオーソドックスなショパンとは違うかもしれませんが、この人特有の閃きで音楽の持つ魅力を掘り起こして行きます。大げさに見栄を切ったりしませんが、至る所のニュアンスの変化が本当に洒落ています。EMIの録音は余りパリッとせずに、年代を考慮しても優秀とは言い難いのはやや残念です。

20101028103130db8マウリツィオ・ポリーニ(1974年録音/グラモフォン盤) ポリーニに一番適しているのは「練習曲集」だと思います。感情に溺れず、どの曲でもカッチリと演奏するスタイルは「前奏曲」の場合には、幾らか面白みに欠ける気がします。そうは言っても、決して情緒に欠けているわけではありませんし、これだけ曲そのものを大げさにならずに端正に聞かせることの出来るピアニストは、すぐに思いつきません。やはりこれも、ポリーニの残した名盤だと言って構わないと思います。

F4db9736 マルタ・アルゲリッチ(1977年録音/グラモフォン盤) どの曲でも彼女にしては、あっさりと一筆書きのように弾いているので、後年の味の濃い演奏が好きな人には、物足りないと思います。でも僕は結構気に入っています。頭で余り余計な事を考えずに、感性だけで弾いているのが好きなのですね。それでもピアノタッチは冴えていますし、ニュアンスが豊かで情緒を一杯に感じられるのが素晴らしいです。なお、第16曲プレスト・コン・フォートでは超快速で何と1分を切っています。キーシンでもジャスト1分ですので、恐らく彼女が最速なのではないでしょうか。

Chopin61fpgvjzml_sx355_ イーヴォ・ポゴレリチ(1989年録音/グラモフォン盤) ポゴレリチの魅力全開のユニークな演奏です。特徴は緩徐曲の非常な遅さであり、どこまでも深く沈みこむようです。しかしそこに演出臭さやあざとさが感じられることはありません。これはやはりポゴレリチの心から生まれた音楽表現だからに他なりません。急速な楽章についても速さで押切るようなことはなく、むしろじっくりと聴かせる印象を受けます。これは決して奇異な演奏でもなんでもなく、それはまるで熟達の巨匠の手によるかのような恐ろしく深みのある演奏です。

Chopin51iild0phl__sx425_ スタニスラフ・ブーニン(1990年録音/EMI盤) 豊かな表現力と安定したテクニックで、どの曲もじっくりと仕上げられています。そしてショパンのロマンティシズムがたっぷりと感じられるのが大きな魅力です。ここにはハッとさせるような奇抜さやスリル感こそ余り有りませんが、音楽に真摯に向き合う姿は大変好感の持てるものです。落ち着いてプレリュード集を聴きたいときには最適な演奏だと思います。

865グリゴリー・ソコロフ(1990年録音/NAIVE盤) 素晴らしく聴きごたえのある演奏です。短い一曲一曲を遅めのテンポとルバートで表情豊かに奏でます。弱音のデリカシーには胸を打たれますし、強音の力強さと迫力にも圧倒される思いです。これだけ譜読みの深さと表現力を持つピアニストは余り思い当たりません。しかも、上手いピアニストに往々に感じる「あざとさ」とはまるで無縁なのも凄いです。全体を通して聴いて、この作品がこれほど偉大で巨大に感じられたのは初めてです。この人の「葬送ソナタ」では、完成度が僅かに不足しているかなと感じましたが、「前奏曲集」には、文句の付けようが有りません。

51xcxnjhaql__sl500_aa300_ ニキタ・マガロフ(1991年録音/DENON盤) マガロフが80歳で亡くなる前年のライブです。会場は東京の江戸川文化センターです。いかにも大家の晩年らしく、全体的におおらかでゆったりと構えた印象です。奇をてらった表現は無く、若い演奏家のような挑戦的、刺激的な演奏とは、まるでかけ離れています。ピアノタッチが美しく、端正な音ですが美しいです。フォルテの打鍵は、力みのない伸びのある音で快感です。

Chopin41x3hxn1sdl ウラージミル・アシュケナージ(1992年録音/DECCA盤) いかにもこの人らしいクセの全く感じられない演奏です。優等生的とも言えるでしょうし、音大生がお手本にするにはうってつけだと思います。といって無味乾燥なわけでも無いですし、とても美しく聴かせてくれます。けれどもそこにはハッとするようなスリリングな緊張感は有りません。このピアノの詩人の最高傑作がこのように聞かされて良いものだろうかと考えると聴き終わった後にはやはり物足りなさが残ってしまうのです。

Chopin51rn1ybqwdl シプリアン・カツァリス(1992年録音/SONY盤) テルデックからソニーに移籍して2枚目のディスクですので正に絶頂期の録音です。とにかく余りあるテクニックを使ってどんな風にも弾けてしまうという印象です。普通は目立たない多くの伴奏音型が新しい命を与えられたかのように自己主張しています。聴いていて面白いことこの上ありません。但しこの演奏はショパンの語りには感じられず、演奏者カツァリスがどうしても前面に現れてしまいます。そこが好悪の大きな分かれ道だと思います。

Chopin_kissin エフゲニ・キーシン(1999年録音/RCA盤) テクニックは完璧、ピアニスティックな意味では最高レベルだと思います。音の粒だちや、リズムには曖昧な部分が少しも有りません。但し、僕はそこに逆に窮屈な印象を受けてしまうのですね。あくまでも好き嫌いの問題です。第16曲プレスト・コン・フォートはジャスト1分。アルゲリッチが暴走気味に聞こえるのに、キーシンはきっちり制御されている印象です。それでも速やっ!

Chopin710anlu28ql__sl1103_ ラファル・ブレハッチ(2007年録音/グラモフォン盤) ショパンの祖国ポーランドから生まれた新世代の名ピアニストも目を見張るテクニックで全曲を弾き上げます。これはキーシンとも共通するのですが、一音一音が余りに明晰な為に逆に聴いていて窮屈な印象を与えてしまい、音楽に浸リ切って酔うことが出来ません。それは何もピアニストに限らず現代の演奏家に共通した不満かもしれません。しかし音楽は実に立派ですし、緊張感あふれる音はやはり凄いと思います。聴きごたえは充分過ぎます!

ということで、僕にとってはアルフレッド・コルトーの1955年録音盤とグリゴリー・ソコロフ盤、それにイーヴォ・ポゴレリチ盤の三つが群を抜いています。更に次点を選ぶとすれば、アルゲリッチ盤に惹かれます。

本当は、どうしても聴いてみたかったのがホロヴィッツです。しかし、残念なことに録音を残してはくれませんでした。今後の録音に期待しているのは、ルイサダとツィマーマンです。

<補足>後からブーニン、アシュケナージ、カツァリス、ブレハッチを追加しました。

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2012年6月 1日 (金)

ショパン ピアノソナタ第2番変ロ短調op.35「葬送」 続・名盤

ショパンの曲の中で、僕が一番好きなのはピアノ・ソナタです。2番と3番は中々に甲乙が付け難いところですが、どちらか1曲と言われれば、やはり第2番を選びます。第1楽章の焦燥感と感情の高まりには心を激しく揺さぶられますし、第3楽章の葬送行進曲と美しい中間部もとても好んでいます。この曲については、以前、ピアノ・ソナタ第2番「葬送」名盤で記事にしていますが、それ以降に聴いた幾つかの演奏を今回はご紹介します。

Cortot_chopin_sonataアルフレッド・コルトー(1933年録音/EMI盤) コルトー全盛期のSP録音です。現代の耳からすれば、テクニックは乏しく、仕上がりも粗いです。ところが演奏からプンプンと迸る香りはいかばかりでしょう。どんなに表情が大げさで芝居がかかっていても、少しもわざとらしく聞こえません。コルトーが心で感じたそのままを自然に演奏するからだと思います。それは、まるで人間の肉声の歌声を聴いているようです。これほど真に「心」を感じさせるピアニストは現代には中々見当たりません。

941アルフレッド・コルトー(1956年録音/ARCHIPEL盤) 同じコルトーでも最晩年の演奏です。クレジットには一応ミュンヘンでのライブ録音と有ります。ミスタッチは数え切れず、テクニックの衰えは痛々しいほどですが、音楽の表情の大きさと豊かさは、1933年盤を更に上回ります。パウゼやルバートも頻出しますが、全てが堂に入っていて、驚くほど説得力が有ります。現代のメカニカルな演奏に慣れた耳だと、受け入れ難いかもしれませんが、「音楽とは本来何なのか」という、哲学的な思考を試みるためにも、これは一聴の価値が有ると思います。

865グリゴリー・ソコロフ(1992年録音/NAIVE盤) ソコロフはヨーロッパではチケットが入手できないほど有名だそうですが、日本では余り広く知られていない云わば幻のピアニストです。実は僕も演奏を聴いたのはこれが初めてです。感想を一言で言えば「凄いピアニスト!」です。スケールが大きく、足取りは非常に巨大です。と言っても、速い部分はそれなりに速く弾きます。テクニックも申し分有りませんし、ダイナミックレンジの広さも尋常ではありません。フォルテシモの打鍵の強さと繊細なピアニシモのどちらもが凄いです。但し、この演奏ではフォルテが強過ぎに感じた箇所も有りました。表情づけは極めて豊かで、テンポ・ルバートを駆使した歌いまわしの大きさには驚かせられます。第3楽章での、葬礼の列が遠くから足取り重く、少しづつ近づいて来る表現や、低音を鐘のように響かせるのも面白いですし、アイディアが実に豊かですね。但し、余りに演奏のカロリーが高過ぎて、繰り返して聴くと胃が持たれる感もあります。この感覚は最近のツィメルマンの演奏に共通しているかもしれません。コルトーの味の濃さは決してもたれないのですが・・・。この辺りは好みということでしょう。カップリングの「24の前奏曲」も凄い演奏ですが、それは次回にまた。

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カティア・ブニアティシヴィリのショパンアルバム

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2010年11月23日 (火)

ショパン ピアノソナタ第3番 ロ短調op.58 名盤

1172688185 自分は、ピアノ独奏曲のジャンルをそれほど多く聴くほうではありません。それでも、特に好きな作曲家を挙げればシューマンとベートーヴェンです。この二人は特別な存在です。もちろんショパンも好きですが、日頃聴く曲というと限られてきます。そんな中でピアノソナタの2曲(第2番、第3番)は聴くことが多い曲です。第2番「葬送ソナタ」については以前記事にしましたので、今回は第3番ロ短調に触れてみます。

ショパンの真に天才的な作品である「葬送ソナタ」から5年後の作品となる第3番にはずっと円熟味を感じます。加えて”閃き”に溢れる楽想はやはり天才の作品です。1楽章の何物かに追われているような緊迫感、3楽章のどこまでも深く静かで例えようのない美しさ、4楽章の勇壮でいて嵐の中の苦悩を感じさせるロンドと、本当に素晴らしい曲だと思います。僕はどちらか1曲をと言われれば、葬送ソナタのほうを選びますが、第3番の魅力にも中々に抗しがたいです。

それでは、僕の愛聴している演奏をご紹介します。

4107081279 ディヌ・リパッティ(1947年録音/EMI盤) 古いモノラル録音でヒスノイズが入っていますが、ピアノの音が明瞭なのでさほど気にはなりません。早世の天才リパッティの録音の数は決して多くありませんが、残された貴重な録音はどれもが彼独特の素晴らしい魅力に溢れています。ピアノの音は姉弟子のクララ・ハスキルと同じように、少しも金属的で無いいぶし銀の響きであるのが好きです。現代のピアノ奏者はとかく大ホール向けの音なのが余り好きではありません。それにしても、この詩情溢れるピアノはどうでしょう。33歳の若さで亡くなったことが本当に惜しまれてなりません。

41lnhodiz0l__ss500_アルトゥール・ルービンシュタイン(1961年録音/RCA盤) ポーランド出身の大巨匠ルービンシュタインのショパンは昔から定番として愛好されていますが、ポリーニやアルゲリッチの登場以降は、微温的で切れ味に欠ける演奏に受け止められていないでしょうか。確かにスタジオ録音にはそういう傾向は有ります。けれども逆に余裕ある音楽の大きさを感じられる点では、やはり素晴らしいと思います。とても若手奏者には真似のできない芸当です。この人が残した多くのショパンの録音は、ある意味でバックハウスの残したベートーヴェンの録音に匹敵するのではないでしょうか。

51o5s6arc1l__ss500__2マルタ・アルゲリッチ(1975年録音/グラモフォン盤) アルゲリッチの演奏は60年から70年代が一番好きです。80年代を過ぎると、徐々に頭で考えた演出臭さを感じる様になってしまうからです。女性の最大の強みはたぶん本能で感じるままに音楽に没入することのような気がします。それは男性には真似の出来ない能力だからです。それはヌヴーやデュプレを聴いても同じように感じます。この演奏は70年代のアルゲリッチとしては普通の出来だと思います。曲への没入加減がいまひとつに思います。おそらくスタジオ録音のせいかもしれません。それでも終楽章の焦燥感などは独特の魅力です。

51qthr2xf0l__ss500_ マウリツィオ・ポリーニ(1984年録音/グラモフォン盤) ポリーニのソナタの演奏はディスクではなく、当時FMで放送された、確かウイーン芸術週間のライブを録音して良く聴いていました。堅牢な造形と音楽の流れの良さがとても気に入っていました。このスタジオ録音はそれに比べると、造形性は増しているものの、勢いだとか流れの良さが幾らか劣るような気がします。ポリーニ全盛期の素晴らしい演奏には違いありませんが、あの衝撃的なエチュード集ほどの高みには至っていないような気がします。

51xcxnjhaql__sl500_aa300_ ニキタ・マガロフ(1991年録音/DENON盤) マガロフが80歳で亡くなる前年に東京の江戸川文化センターで演奏した録音です。元々ハッタリの無い端正な演奏をした人ですが、ここでは遅めのテンポで悠然とした構えの骨太のピアノを聴かせます。さしずめ晩年のベームのような演奏です。あるいはルービンシュタインから洒落っ気を取り除いた生真面目な演奏とも言えます。使用されたスタインウェイは瑞々しくとても自然なピアノの音なので好ましいです。

Chopin_kissin エフゲニ・キーシン(1993年録音/RCA盤) 神童キーシンが青年となった22歳の時のライブ録音です。僕はCD5枚セットで聴いています。この人はとにかく音が美しいですね。良くも悪くも優等生的で面白みに欠ける印象は有りますが、ライブにもかかわらずテクニックは完璧ですし、オーソドックスな美演を選ぶとすれば良い演奏だと思います。確かにショパンの暗く追いつめられる様な苦悩は感じませんけれども、とても繊細な感情のひだを感じさせてくれます。

これらの演奏はどれも特徴が有って一長一短ですので、なかなか好みの順番を付けるのは難しいところです。さて皆さんは誰がお好きですか。

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2010年2月28日 (日)

ショパン ピアノソナタ第2番変ロ短調op.35「葬送」 名盤 ~祝・生誕200年~ 

Chopin001 今年はピアノの詩人フレデリック・ショパンの生誕200年のアニバーサリーイヤーですね。そして明日3月1日が彼の誕生日です。僕ももちろんショパンは好きですが、それほど頻繁に聴いているわけではありません。彼の作品の中でよく聴く曲と言えば、小林麻美の「雨音はショパンの調べ」 あっ、これは違いました。(笑) いやいや、そうではなくて、ピアノ協奏曲、エチュード集、プレリュード集とかなのですが、最も好きな曲を上げろと言われれば、たぶんピアノ・ソナタ、それも第2番「葬送ソナタ」だと思います。この曲の特に第1楽章がたまらなく好きなのですね。ゆっくりとどこまでも高く魂が飛翔してゆくような中間部にさしかかると、ホントに逝ってしまいそうになります。(それじゃマズイですけれどね~)(笑) もちろん第3楽章の葬送行進曲も好きです。何度も何度も聴いているせいか、ことさらに葬式の音楽だとは感じないですが、この楽章にもやはり魂の飛翔を感じます。中間部の静かな叙情も素晴らしいですね。やはりこの曲は掛け値なしの名曲だと思います。

この曲には好きな演奏が幾つも有りますので、ご紹介しておきます。誕生日に葬送ソナタというのも何ですがまあいいでしょう。

41lnhodiz0l__ss500_ アルトゥール・ルービンシュタイン(1961年録音/RCA盤) 同じ祖国ポーランド出身の大巨匠ルービンシュタインのショパンは素晴らしいのですが、この人はスタジオ録音の場合にはどうもサロン的に軽く(気楽に)弾き過ぎる傾向が有ります。それでも構わない曲目も多く有りますが、ソナタのような重厚な曲はやはりもう少し気合を入れて弾いてもらいたかったです。これがもしもライブ演奏であれば、ずっと真剣勝負の演奏を聴くことが出来たことと思います。

41ecwmpllxl__ss400_ ウラディミール・ホロヴィッツ(1962年録音/CBS盤) 高校生の時に始めて買ったレコード(もちろんアナログLP)でした。これはホロヴィッツがステージ活動を一切行わなかった12年間の間の録音です。この人の音をいつも聴いて思うのは、本来の「ピアノ」の音を感じるのです。現代のピアノ録音がなんだか電子ピアノのような綺麗さを感じるのとはやはり違うのです。この演奏も精神の強靭さを感じる1楽章が大好きです。2楽章の機関銃のような弾きぶりは圧巻です。そして3楽章葬送行進曲での限りない精神の深さと中間部の静寂の美しさの対比は得も言われぬ見事さです。うーん、ホロヴィッツ!

51ukeut7bpl アルトゥーロ・べネディッティ・ミケランジェリ(1967年録音/DIAPASON盤) イタリアのフェレンツエ近郊の町プラトで行われたコンサートの記録です。録音状態は万全ではありませんが、ピアノの音に芯が有るので充分鑑賞できます。僕はこの人は好きです。何しろ名前が良いですよ。いかにも芸術家という名前じゃないですか。その上、顔つきもいかにもですし。実際のピアノも音色といい、テクニック、気品、全てにおいて最も「芸術家」という呼び方に相応しいと思います。それは「機械的に」上手い若手の遠く及ばない境地だと思います。

996 アルトゥーロ・べネディッティ・ミケランジェリ(1973年録音/TOKYO FM盤) ミケランジェリが日本に来て東京文化会館で行ったリサイタルの完全ライブ録音です。大学生のときにFM放送を録音して何度も聴いたものです。この人は葬送ソナタのスタジオ録音を行っていませんので、保存状態の良いライブ録音がこうして聴けるのは実に幸せです。よく言われるように、この人のピアノの音色は他の誰とも違う美しさです。力強く、輝きを放つ音そのものが独特の存在感を示しています。表現も余裕が有り、いつもながら高貴さを一杯に湛えて実に素晴らしいです。

51o5s6arc1l__ss500_マルタ・アルゲリッチ(1975年録音/グラモフォン盤) 個人的にはこの人の演奏は70年代が一番好きです。60年代は若さの勢いが魅力的ですが音楽が未消化気味。80年代以降はだんだん恣意的な演奏になって、こざかしさを感じてしまうからです。元々出来不出来にムラの多い人だとは思いますが、この葬送ソナタは70年代の彼女としては普通の出来だと思います。特に3楽章葬送行進曲がいまひとつ感銘度合いに欠けているのが残念です。

382 ウラディミール・アシュケナージ(1976年録音/DECCA盤) アシュケナージのピアノの音は実に美しいです。なんだか電子楽器のように聞こえます。まあそれは良いとしても、この演奏はまるで深刻さの無いあっけらかんとした演奏です。1楽章を飄々と快速に飛ばして行くところなどは、余りに脳天気に感じます。この曲をこんなに楽しく弾かれると唖然とします。2楽章もスピードを競うスポーツのような弾きぶりにまたも唖然。葬送行進曲は実に堂々とした演奏ですが、うーん、この曲をここまで立派に弾かれてもねえ・・・。こういう求道精神の無い弾き方をしていたら飽きてしまって指揮者に転向したくなるのはよく分かります。

Chopin61fpgvjzml_sx355_ イーヴォ・ポゴレリチ(1981年録音/グラモフォン盤) ショパンコンクールに出場したときの審査員アルゲリッチが賞賛したようにポゴレリチは正に天才です。緩徐部分でのでゆったりと沈みこむような情感の深さは独特ですし、急速な楽章についても決して速さで押切るようなことはせずに、じっくりと聴かせます。強音のタッチは武骨なほどですが乱暴にはならず、一転して弱音では極めて繊細な美しさを引き出します。他の誰とも違うこの人だけの演奏に一度ハマると抜け出せなくなります。

51qthr2xf0l__ss500_ マウリツィオ・ポリーニ(1984年録音/グラモフォン盤) ポリーニのエチュード集は衝撃的でした。サロン的な甘さを一切取り払って芸術性一本で勝負という気迫を感じたものです。また、それを支える最高のテクニックが凄かったです。何人たりとも近づけない孤高の境地だったと思います。その後もプレリュード、ポロネーズなど色々と録音していますが、あのエチュードはとうとうポリーニ自身でも二度と到達出来ない「世界最高得点」になってしまったのではないでしょうか。この葬送ソナタは甘さの一切無い演奏ということでは個性的です。やはり孤高の素晴らしい演奏だと思います。

Chopin_kissin エフゲニ・キーシン(1998年録音/RCA盤) 神童キーシンの27歳の時の演奏です。キーシンの最近発売のCD5枚セットに収められています。とにかく音が綺麗です。和音が本当に美しい。ショパンの不健康な香りはありませんが、決して脳天気ということでは無く、ニュアンスの変化も感じさせます。けれども本当の白眉は3楽章です。遅いテンポで重く引きずるような足取りは、まるで皆で棺を担いで歩いでいるかのようです。これこそは葬送行進曲ではありませんか。中間部の静かな詩情もとても美しいです。そして最後は葬列が少しづつ遠くへ去って行きます。非常にユニークな名演奏だと思います。

以上の中で僕のベスト3を選ぶとすれば、第1位ホロヴィッツ、第2位ミケランジェリ東京ライブ、第3位にはポゴレリチとポリーニ、それに次点にキーシン、というところです。さて皆さんのお気に入りは?

<後日記事>
ショパン ピアノソナタ第2番「葬送」 続・名盤
カティア・ブニアティシヴィリのショパンアルバム

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