ドヴォルザーク(交響曲)

2018年8月11日 (土)

ドヴォルザーク 交響曲第5番へ長調op.76 名盤 ~続・ボヘミアの草原にて~

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ドヴォルザークの交響曲は作曲年代を追うごとに充実して行きますが、それでは滅多に演奏される機会のない第5番までの作品がつまらないかと言えばそんなことはありません。

作品番号の付いていない第1番からして既にドヴォルザーク好きにとってはグッとハートを惹きつけられる魅力が有ると思います。ただ、その割には第2番と第3番に関してはもうひとつ魅力が足りなくは感じています。

第4番以降については文句無しで、諸先輩作曲家達から受けた影響が完全には拭い去れないものの、ドヴォルザーク自身としての音楽の魅力が大きく感じられます。

今回上げた第5番も最初に楽譜出版されたそれ以降の作品の中に有って非常に楽しめる秀作交響曲だと思います。作曲者自身はこの曲に作品番号Op.20を付けたのですが、こともあろうに楽譜出版を行ったジムロックが勝手にOp.76と付けてしまいました。そのために長い間第6番、第7番よりも後に書かれた作品だと誤って考えられていました。

しかし裏を返せば、この第5番がそれだけ魅力的だったということなのでしょう。個人的にも第6番よりもむしろこちらを好んでいます。

第1楽章はアレグロ・マ・ノントロッポで、第6番とも共通したボヘミアの陽光の牧草地をイメージさせる大変美しい楽章です。時折アルペンホルンらしい音も聞こえて爽やかなことこの上ありません。 

第2楽章アンダンテ・コンモートは主部のほの暗く情緒的な旋律の美しさにはドヴォルザークファンならずとも魅了されることでしょう。スラヴの哀愁が一杯に漂っています。

第3楽章スケルツォ楽章ですが、主部はスラブ舞曲風で快活なリズムが印象的です。中間部も明るく幸福感に満ち溢れています。

第4楽章アレグロ・モルトは極めてエネルギッシュであり、その荒々しさは同じスラヴでもむぢろロシア的な印象です。畳みかけるリズムと金管と打楽器の迫力にいやでも興奮させられます。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

41841syprrlヴァ―ツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1972年録音/スプラフォン盤) ノイマンのチェコ・フィルとのドヴォルザーク交響曲全集の旧録音盤に含まれます。写真はその全集盤です。チェコ・フィルの持っている温かく素朴な響きがこの曲にピタリと合っています。ノイマンの指揮はいつも通り、わざとらしさの無い自然体なのですが、終楽章辺りでも、スラヴの迫力を必要十分にしっかりと引き出していて物足りなさは皆無です。ティンパニの切れの良さは印象的です。各楽器の音が明瞭に聞き取れる優れたアナログ録音であるのも嬉しい限りです。 

711lltp5pwl__sl1087_ズデニェック・コシュラー指揮スロヴァキア・フィル(1978年録音/オーパス盤) オーパスレーベルに録音された交響曲全集はノイマンの新旧の全集盤と並ぶ素晴らしい金字塔です。コシュラーとスロヴァキア・フィルのコンビはよほど相性が良いのか、どれもが素晴らしい演奏で驚きます。スロヴァキア・フィルの弦楽の優秀さや管楽の音色の素朴な美しさなど魅力の点ではチェコ・フィルを上回るのではないかと思わせるほどです。コシュラーの全集盤は恐らく日本では僅かにしか流通しなかったと思われますが、単独盤で現在入手できるとすれば英国のライセンスレーベルRegis盤でしょう。明瞭で広がりが有り優秀なリマスターが施されています。 

Dvorak_61j5fwzynl_sy355_ ヴァ―ツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1982年録音/スプラフォン盤) 旧録音からわずか10年後の再録音盤です。写真は単独盤ですが、自分が所有しているのは全集盤です。ノイマンのドヴォルザークは旧盤と新盤のどちらを取るかは毎回迷うところですが、演奏はほぼ同じと言って良いです。新盤はデジタル録音ですが、オフマイクなので客席で聴いているような印象を受けます。各楽器が身近に感じられる旧盤とどちらを好むかは聴き手次第です。個人的にはわずかでも音楽に円熟味を増した感のある新盤を取りたいような気がします。 

Dvorakcci00055ズデニェック・コシュラー指揮チェコ・ナショナル響(1994年録音/ビクター盤) コシュラーは晩年にチェコで新しく創設された楽団を指揮してドヴォルザークのシンフォニーを5、7、8、9の4曲を録音に残しました。この5番はライブ録音ですが優秀な奏者を集めたと言われるだけあり素晴らしい演奏です。しかし長い時間をかけて練り上げられたようなスロヴァキア・フィルの音色の魅力にはまだ僅かに及ばない印象です。しかしスロヴァキア盤が入手するチャンスがほとんど失われた現在、このチェコ・ナショナル盤でコシュラーの素晴らしさを是非味わって頂きたいと思います。

Dvorak_717tis6tkyl__sl1200_イルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィル(2012年録音/DECCA盤) 最も新しいチェコ・フィルによる全集盤ですが、今は亡きビエロフラーヴェクが最晩年に残した最上の遺産です。DECCAによる録音は客席で聴くような臨場感があります。ビエロフラーヴェクの指揮は奇をてらうようなことは全く無く、チェコの伝統的でオーソドックスなスタイルを踏襲しています。スメタナやドヴォルザークはやはりこうでなくては魅力を損なってしまいます。第2楽章の主部の情緒感が今一つの気がしますが、その分終楽章の迫力ある充実感は聴きごたえ十分です。

さてどれもがこの曲の魅力を伝えているのですが、強いて好みで絞ればノイマン/チェコ・フィルの新旧両盤となります。しかしその差はほとんど無いに等しいです。

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2018年7月17日 (火)

ドヴォルザーク 交響曲第6番ニ長調op.60 名盤 ~ボヘミアの草原にて~

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いよいよ全国的に猛暑の到来ですが、記録的な大雨による災害に合われた西日本各地の方々には心よりお見舞い申し上げます。 

さて毎年6月から今頃まで梅雨時から真夏にかけて聴きたくなってしまうのがスメタナやドヴォルザークなどボヘミアの音楽です。もちろん聴感上の”冷却効果”なら北欧の音楽ということになるのでしょうが、それではなにか冷房の効いた室内にいるような気分になってしまいます。そこへゆくとボヘミア音楽からは屋外、それもボヘミアの草原で爽やかな自然の風に当たるような爽快感が得られます。これはあくまで個人的なこだわりです。 

そこで今回はこれまで取り上げていなかったドヴォルザークの交響曲第6番です。ドヴォルザークの交響曲は第7番以降の三曲が断然素晴らしいのですが、それに次いでは6番と5番が優れているので是非聴いて頂きたいと思います。 

ドヴォルザークの交響曲は最初に現在の第5番から第9番の5曲が出版されました。そのためにその5曲は当初、第1番から5番の番号が付けられました。しかも番号が作曲順では無かったために少々ややこしくなってしまいました。 

出版時の第1番 ⇒ 現在の第6番
      第2番 ⇒ 現在の第7番
      第3番 ⇒ 現在の第5番
      第4番 ⇒ 現在の第8番
      第5番 ⇒ 現在の第9番「新世界より」

最初に出版されたのが第6番であったために、これが当時の第1番とされました。もちろん現在の番号は作曲された順番ですので後期の5曲がやはり作品として充実しており聴き応えが有ります。 

よくドヴォルザークの第7番はブラームスの交響曲第3番の影響を受けたと言われていますが、この第6番はブラームスの交響曲第2番の影響を受けているのが明らかです。この両曲に共通するのは、温かな日差しを一杯に受けているような穏やかで明るい雰囲気を持ち、牧歌的な美しさに溢れている点です。 

第1楽章はアレグロ・ノンタントで、広々と広がるボヘミアの牧草地や遠くの山並みなどをイメージさせます。とても幸福感に包まれています。 

第2楽章アダージョは静けさの中に詩的な抒情性を持つ大変美しい楽章です。 

第3楽章プレストはスケルツォ楽章ですが、スラヴ舞曲の中でも最も急速なフリアントが置かれています。血が沸き立つような魅力が有ります。 

第4楽章アレグロ・コン・スピーリトで、軽やかなリズムで楽しさいっぱいです。第7番以降のシンフォニーの迫力ある終楽章とはまるで異なります。 

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

51p5zwdrwklカレル・アンチェル指揮チェコ・フィル(1966年録音/スプラフォン盤) アンチェルのセッション録音らしい端正な演奏です。1960年代のチェコ・フィルの演奏は素朴さが有り良いです。ただ、これもアンチェルの特徴ですが、響きが凝縮され過ぎている印象で、この曲には、もう少しふくよかな柔らかさが感じられる方が良いと思います。その割に3楽章の切迫感がいま一つです。写真は国内の新リマスター盤ですが、実際に所有しているのは旧リマスター盤です。音質の比較はしていません。 

41841syprrlヴァ―ツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1972年録音/スプラフォン盤) ノイマンのチェコ・フィルとのドヴォルザーク交響曲全集のこれは最初の録音盤です。写真は所有する全集で、現在では単独盤は廃盤かもしれません。ノイマンのゆとりと広がりがあり、温かな味わいが、この曲の持つ楽想とピタリ一致した素晴らしい演奏です。3楽章の切迫感はいくらか物足りなさを感じますが、終楽章のまったり感は独特の魅力です。録音からはだいぶ経ちましたが各楽器の音が明瞭に聞き取れる優れたアナログ録音です。 

711lltp5pwl__sl1087_ズデニェック・コシュラー指揮スロヴァキア・フィル(1977年録音/オーパス盤) 交響曲全集としてオーパスレーベルに録音されましたが、ノイマンの全集に一歩も引けを取らないどころか魅力の点で上回る点が多々あります。コシュラーとスロヴァキア・フィルのコンビは本当に最高でした。コシュラーの高い音楽性を支える弦楽の優秀さ、管楽の音の味わいなど惚れ惚れとする魅力を感じます。所有するのは写真の英国のライセンスレーベルRegis盤です。当時国内ライセンスを所有したビクター盤よりも音が柔らかい印象ですが、明瞭で広がりもあり優秀なリマスターが施されています。 

1982_51x10n830nl_2ヴァ―ツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル(1982年録音/スプラフォン盤) 上記のチェコ・フィルとの全集録音からわずか10年後の再録音盤です。所有しているのは全集ですが写真は単独盤です。演奏そのものはテンポといい解釈といい旧盤とほぼ同じと言って良いです。デジタル録音となりましたが、オフマイクなので客席で聴くような印象です。各楽器が近く感じられる旧盤とどちらを好むかは聴き手により左右されるでしょう。当時のチェコ・フィルの生音はむしろこちらに近いようにも思いますが、あくまで再生録音で楽しむ前提としては旧盤を好みます。 

Dvorak_717tis6tkyl__sl1200_イルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィル(2012年録音/DECCA盤) 最も新しいチェコ・フィルの全集録音盤ですが、ここにはビエロフラーヴェクの到達した円熟の境地の姿が在ります。といっても実に生命感に溢れ、3楽章の速いテンポの切迫感など最高です。終楽章も速く情熱的なのでノイマンのまったり感の対極にあります。好みは別として、これは大変に素晴らしい演奏です。DECCAによる録音も客席で聴くような臨場感があります。数年前に実演で聴いたチェコ・フィルの美音を味わえて、この全集は今は亡きマエストロの最上の遺産となりました。 

さてどれもがこの曲の魅力を伝えているので絞り込む必要はないと思うのですが、強いて好みで上げればノイマン/チェコ・フィルの旧盤とコシュラー/スロヴァキア・フィル盤というところです。

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2017年2月15日 (水)

ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」 再聴盤あれこれ

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”新世界交響曲”はニューイヤーコンサートでよく演奏されますね。新しい世界に足を踏み出すことが、新たな年の一歩に結び付けられるからでしょうね。

それにしても、これほど解かり易く魅力的な曲も珍しいです。僕自身も一番最初に好きなったクラシック音楽ですし、これからクラシックを聴いてみたいという方には真っ先にお勧めしたい曲です。

ですので、これまで色々なレコードやCDを聴いて来ました。そのうちの、お気に入りのディスクに関しては、ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」名盤隠れ名盤マッケラスのライヴ盤でご紹介しましたが、それらのほとんどはチェコもしくはスロヴァキアのいわゆる本場もののオーケストラ、指揮者の演奏でした。

その本場もの嗜好は今でも全く変わりませんが、年齢を重ねてゆくと人間、段々と丸くなるようで(体形の話ではありませぬ!)、世評に高い演奏でありながら、余り好きになれなかったものを改めて聴いてみようかという気になりました。但し一度レコードやCDを手放していますので再購入が必要でした。

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ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1959年録音/SONY盤)
 セルのCBS時代のセッション録音は概して精密ながら「機械的」で整い過ぎているのが面白くないというのが、かつての自分の印象でした。しかし好きな人は非常に好き。ということで再聴です。あっさりと始まる冒頭で「やはり・・・」と思いかけてみたものの、主部に入ると速いテンポで颯爽と飛ばします。よく”室内楽的”と評されるように各パートが緻密で正確無比です。そして剣の達人のごとき最高の切れ味で聴き手を圧倒します。全く何というオーケストラなのでしょう。けれど演奏に血が通っていないかというとそんなことは無く、意外にも熱い血潮が流れています。いい例が第2楽章で、テンポは速めでも豊かな情感を感じさせます。演奏には哀愁が迸っています。そういえばセル自身はハンガリー人ですが、母はスロヴァキア生まれなのでやはり影響は有るのかもしれません。後半3楽章のリズムの切れ味は最高、4楽章に入ると更に高揚感が増してゆき、これを単に「機械的」だなどという軽い言葉で済ますのは大きな誤りであることが分かります。基本はインテンポでも、ここぞというところでテンポを落すのが非常に効果的なのはトスカニーニと似ています。

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レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル(1962年録音/CBS盤)
 これは昔アナログ盤で愛聴した演奏でしたが、セルとは全く正反対のスタイルです。テンポは遅い部分と速い部分の差が非常に大きいので、現在聴くとそのアクセルとブレーキの切り替えの多さに車酔いを起こしそうです。たたみ掛ける迫力は凄いですし、更にダイナミクスの変化も大きいので、正に山あり谷ありのバーンスタイン・ワールドというところです。これがレニー得意のマーラーにおいて絶大な魅力となるのですが、ドヴォルザークではもう少しシンプルな進行が望ましいと思います。どうしても自分にはレニーの独りよがりの解釈に感じられてしまうのです。ニューヨーク・フィルも、ここでは幾らか雑な仕上がりに聞こえる部分も有りますが、これは当時レコーディングが目白押しだった弊害だと思います。

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イシュトヴァン・ケルテス指揮ウイーン・フィル(1961年録音/DECCA盤)
 これは録音当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍をしていたケルテスの代表盤のひとつで、現在でも非常に人気の高い演奏です。テンポの大きな変化、ダイナミクスの巾の大きさはバーンスタインと共通しますが、レニーがやや唐突感を感じてしまうのに対して、ケルテスは若いながらも計算され尽くした演奏である印象を受けます。チェコ出身の指揮者ではここまで自在な指揮はまずしませんが、好みは別として”天晴れ”を送りたいです。良く言われるように若手にもかかわらずウイーン・フィルを手綱で絞めて引き摺り回し、快演させること自体大変凄いことです。当時のウイーン・フィルの音色も都会的でなく田舎臭さを大いに残しているのは大きな魅力です。それでいて弦の音色などはまるで美しいシルクの印象を与えます。デッカの録音はとても聴き易く、古めかしさを感じないばかりか、アナログ的な柔らかさが心地良さを与えてくれます。

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ヴァーツラフ・スメターチェク指揮プラハ放送響(1966年録音/PRAGA盤)
 奇しくも昨年亡くなられた宇野功芳先生の推薦盤がケルテス、スメターチェクと続きます。これは”本場もの”の演奏ですね。実は、このCDも昔手放したもので、その後に随分とプレミアが付いたので再購入を躊躇していましたが、ようやくリーゾナブルな価格で入手できました。スメターチェクは元々ストレートで思い切りの良い直情的な演奏をしますが、そこに熱い血潮が感じられるのが宇野先生の好みであったようです。この演奏はプラハでのライヴなのでその傾向は明確です。洗練されていないオーケストラを熱くドライブさせて楽しませます。しかしオケの響きは薄めで、その割にティンパニを強打させますので、バランスが余り良いとは言えません。これを果たして「迫力」に感じるか、「貧弱」に感じるか、聴き手の耳がどちらに転ぶか際どいと思います。事実自分もかつては後者に感じたのでCDを手放したのでした。では今は?後者にも感じるが、それでも捨てがたい魅力を感じるという処です。やはり人間丸くなったみたいです。

さて、今回の”名盤”再聴の中で、一番気に入ったのはジョージ・セル盤でした。これはチェコやスロヴァキアの本場もの以外の演奏で一番のお気に入りとなりました。
でもまてよ、アメリカのオケの演奏は新世界としての”本場もの”だったかな。

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2014年3月 1日 (土)

ドヴォルザーク 交響曲第8番 ジョージ・セル/チェコ・フィルの1969年ライブ ~決定盤~

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ドヴォルザーク 交響曲第8番 チェコ・フィル(1969年録音)
ブラームス 交響曲第1番 ルツェルン祝祭管弦楽団(1961年録音)

このルツェルン音楽祭におけるライブ録音のCDは昨年9月に発売されたのですが、すぐに飛びつかなかったのはHMVとタワーレコードの紹介記事に騙されたからです。オーケストラが”ルツェルン祝祭管弦楽団”と書かれていたからです。最近のルツェルン管は”ベルリン・フィルの仮の姿のオーケストラ”とも呼べる優秀なヴィルトゥオーゾ・オケですが、当時はそれほどではなかったのでスルーしていたのです。
ところが、後からオーケストラはチェコ・フィルであることを知りました。製造元のauditeのCDケースには正しく記載されているのですが、どうやら輸入販売元のキング・インターナショナルが、カップリングのブラームス1番と混同したようです。そうなれば話は変わります。

1969年といえばセルがクリーヴランド管とEMI盤を録音する前の年です。あのEMI盤はそれ以前のCBS盤のメカニカルな冷たさを感じさせる演奏とは違って、温もりと立派さを兼ね備えた名演奏なので、自分の愛聴盤の一角を占めています。

さっそく今回のチェコ・フィル盤を入手して聴いたところ、これは大変な名演奏でした。EMIのクリーヴランド管盤と比べてみると、基本的にイン・テンポを通したクリーヴランド管盤に対して、テンポの緩急の巾の広さと呼吸の深さを感じます。歌い方も表情が豊かであり、かなり情緒的に感じられます。ロマンティックな度合いでは、ヴァーツラフ・ノイマンを大きく凌駕しています。例えば第3楽章は遅いテンポで陰影の非常に深い演奏ですが、特にあの美しい主題が中間部を過ぎて再び戻ってきたときの情緒的で翳の濃い歌には体がゾクゾクするほどです。
それでも、もちろんセルのことですから、全体の造形が崩れた感じは全くしません。終楽章では、じわりじわりと高揚感を増してゆきますが、クーベリックのライブのような爆演スタイルにはなりません。それでも終結部ともなると恐ろしいぐらいにたたみ掛けますので、これでもう充分に興奮、満足ができます。

ドヴォルザークの録音はステレオですが、非常に優秀なことが大きなポイントです。EMI録音のように過剰なエコーがかけられていない、とても自然な響きです。チェコ・フィルの美しい木管の音が分離良く忠実に捉えられています。弦楽にも音の伸びと潤いが感じられてとても良いです。実際のホールの真ん中あたりの席で聴いているような臨場感が有るのが素晴らしいです。EMI盤はもちろんのこと、ノイマン/チェコ・フィルの1981年デジタル録音盤よりもむしろ優れていると思います。

演奏のみで比較すれば、アンチェル/チェコ・フィルの1960年ライブ盤が最高だとは思いますが、この演奏もそれに匹敵する素晴らしさです。それに何しろ録音が良いので、総合的にはベストワンにしたいです。ドヴォルザークのファン、チェコ・フィルのファンには宝物のようなこのCDは絶対のお勧めです。

ご参考までに、このドヴォルザークはYouTubeで聴くことができます(こちら)。

カップリングされているルツェルン祝祭管弦楽団を指揮したブラームスの第1番も中々に良い演奏ですし、中々に優れたモノラル録音(疑似ステレオと表記)ではありますが、これはやはりドヴォルザークを聴くためのCDでしょう。

それにしても、こんな素晴らしいCD紹介を誤訳する輸入販売元には呆れかえります。プロの意識の欠如としか言いようが有りません。

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2013年11月 4日 (月)

ビエロフラーヴェク/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 2013 日本公演

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昨夜は、ミューザ川崎にチェコ・フィルハーモニーのコンサートを聴きに行きました。日本シリーズの最終戦が有るので家でテレビ観戦もしたかったのですが、それは諦めて出かけました。

今回指揮をするのはチェコ・フィルの首席指揮者に再び返り咲いたイルジー・ビエロフラーヴェクです。自分が名門チェコ・フィルの生演奏を聴いたのは、これまでにたったの一度だけ。今から30年以上も昔の、確か1976年のことです。自分は20代前半でした。その時の指揮者はヴァーツラフ・ノイマン。会場は東京文化会館。曲目はRシュトラウスの「ドン・ファン」とドヴォルザークの交響曲第8番だったのですが、オーケストラがよほど調子が良かったのか、弦の透明感あふれる瑞々しさも管楽器の輝かしさも最高でした。これまで聴いたウイーン・フィルやシュターツカペレ・ドレスデンの音ともまた違う、けれども魅力の上では全く遜色の無い印象でした。その時以来の生演奏を聴くので本当に楽しみでした。

曲目は、グリンカ「ルスランとリュドミラ」序曲、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」、ドヴォルザーク「新世界より」という、典型的な名曲プログラムですね。ピアノ独奏は日本人の河村尚子です。

イルジー・ビエロフラーヴェクはやはり自分の学生時代に日本フィルに客演したコンサートを聴いた記憶が有ります。ステージに登場した姿を見ると、すっかり貫禄が付いていて、時の流れを感じます。

さて、演奏が始まりましたが、「ルスランとリュドミラ」序曲はごく普通の前プロという印象。弦のアンサンブルの難しいこの曲ですが、特に完璧というほどでも無く、全体の音の厚みもそれなりでした。

「おっ」と思ったのは、二曲目のラフマニノフです。オケの音に非常に厚みが出て、各パートが良く歌います。とくにヴィオラの活躍する部分での押し出しの強さには感心しました。この曲の演奏には、甘くたっぷりと歌うハリウッド・スタイルと、暗く土着的に歌うロシアン・スタイルが有ると思いますが、この演奏は正にスラヴ的とでも呼べる印象です。河村さんのピアノは特別にロマンティックに没入するようなタイプではありませんが、この曲の魅力を中々に伝えていたと思います。まずは好演と言えるのではないでしょうか。

ここで休憩を挟みますが、楽天VS巨人の試合経過をワンセグでチェック。おおっ、楽天が2点のリードです!頑張れ!

後半はいよいよ「新世界より」です。チェコの楽団の演奏するドヴォルザークは言うまでもなく本場もの。本場ものの大好きな自分は最近では、どちらかいうとチェコ・フィルよりも更にローカル色の濃厚な、スロヴァキア・フィルやブラティスラヴァ放送響といったオケの音を好んで聴いています。しかしチェコ・フィルの音色はやはり素晴らしいです。現代的なオケの輝かしい極彩色の音とは全く異なる、ずっと暖色系のくすみがかった響きです。それはドイツの重量感のある音とも違います。チェコの爽やかな弦楽カルテットがそのまま大きくなったような弦楽器群の音に、重くなり過ぎない管楽器の音が絶妙にブレンドされているのです。昔、東京文化会館で聴いた音には、透明感と輝かしさを非常に感じたものですが、今日はそれよりもずっと古風な響きに感じられたのはホールや座席の違いも影響しているのかもしれません。けれども極めて魅力的な音であったのは確かです。ホルンの音色は本当に美しいですし、例の第2楽章のイングリッシュ・ホルンのソロの歌わせ方なども絶品です。ともすれば爆演になってしまう終楽章でも、騒々しさとはまるで無縁でハーモニーを”美しく”鳴り響かせる充実し切った演奏でした。

ビエロフラーヴェクの指揮はもちろん極めてオーソドックスなのですが、100%オケ任せで何もしないわけではありません。微妙なテンポの変化、楽器同士のバランスの扱い、聞かせどころでの楽器の目立たせ、アクセントなど、意外なほどコントロールしています。けれどもそれが全て適度な範囲なのですね。大袈裟にならないので全く違和感を感じません。それをみな消化して、伝統的な演奏スタイルを聞かせるチェコ・フィルという楽団。彼らが世代も越えて一体どれだけ演奏したかしれない「新世界より」という名曲。これを聴いていると例えてみれば、歌舞伎十八番の出し物を観ているかのような満足感を得られます。やはり、本場ものの伝統芸からは圧倒的な説得力と感銘を受けずにはいられません。

アンコールは、ブラームス「ハンガリア舞曲第5番」、ドヴォルザーク「スラヴ舞曲第3番」、日本の歌「ふるさと」でした。こういうオーソドックスな選曲、演奏がやはり良いのです。心から満足出来ました。

演奏会場を出て再び日本シリーズをチェックすると、楽天が3点リードをして、最終回に田中マー君が登場するではありませんか。電車の中で固唾を飲んで試合を見守っていると、ピンチを迎えたものの抑え切りゲームセット。やりましたね!

コンサートの余韻と日本シリーズの喜びとが混じり合って、なんとも心地良かったです。ジャイアンツは残念でした。でも今年も優勝してしまったら世の中から憎まれますよ。今年はこれで良かったのですよ。

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ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」 名盤

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2013年7月19日 (金)

ドヴォルザーク 交響曲第8番&第9番「新世界より」 チャールズ・マッケラス/プラハ響のライブ盤

Mackerras_dvorak_0チャールズ・マッケラス指揮プラハ交響楽団(2005年録音/スプラフォン盤)

サー・チャールズ・マッケラスは、オーストラリア人ながら、自国の他にイギリス、ドイツ、チェコなどの国で活躍しました。レパートリーも幅広く、モーツァルトの交響曲や管弦楽曲の録音でも良く知られていますが、ユニークなのはヤナーチェックの音楽に造詣が深いことでしょう。恐らく20代の頃にプラハでヴァーツラフ・ターリッヒに師事した影響だと思われます。マッケラスがヤナーチェックのオペラを録音する時に、チェコ人の歌手たちにチェコ語で指示を出していたので皆を驚かせたそうです。また、チェコ・フィルの首席客演指揮者になった時期も有りますので、チェコの音楽全般を得意としています。

そんなマッケラスが亡くなる5年前の80歳の年、2005年にライブ録音されたドヴォルザークの交響曲第8番と第9番「新世界より」が有ります。最近、この演奏を聴いてみたのですが、非常に素晴らしかったのでご紹介します。

オーケストラはプラハ交響楽団、演奏会場はプラハのスメタナ・ホールです。チェコの管弦楽団の王座に君臨するチェコ・フィルは音色、技術ともに最高ですが、レコーディングに関してはヴァーツラフ・ノイマン時代に極め尽くされてしまった為に、その後の色々な指揮者の演奏にもそれほどの新鮮味を感じません。むしろ洗練されたチェコ・フィルよりもプラハ響、プラハ放送響、あるいはスロヴァキアのスロヴァキア・フィルやブラティスラヴァ放送響といった技術的には少々劣っていても、よりローカル色の強い味わいを持つ演奏の方に新鮮味を感じています。

さて、この演奏ですが、プラハ響は、とても美しく良い響きを出しています。録音もホール・トーンを生かしたコンサート会場の臨場感を感じさせる優秀なものです。

マッケラスの解釈は極めてオーソドックスで、まるでチェコ人が指揮しているような安心感を感じます。チェコ以外の国の指揮者が演奏すると、大抵の場合「曲を自分の腕でどんな風に料理してやろうか」という欲を感じるものです。そうすると面白くは有っても、チェコの音楽からは遠ざかってしまいます。そういう演奏は個人的には好みません。マッケラスのテンポ、歌いまわしは本当にチェコの伝統に忠実なので、人によってはつまらないと感じるかもしれません。自分のように「国民楽派は自国の演奏家が一番だ」と考える人には、きっと自然に受け入れられるでしょう。もちろんライブですので、高揚感は充分に有ります。しかし過剰と思えるような強奏やハッタリの要素はどこにも有りません。

プラハ響は、随分以前には実演だと技術的に粗さを感じてしまうことが有りましたが、この演奏にはほとんど感じられません。でも繰り返しますが、無機的なメカニカルさを感じることは全く有りませんし(そこまでは上手く無い?)、人間的な肌触りや、ローカルな素朴さを多く感じます。弦楽も美しいですが、木管の音質はチェコ・フィルと全く同質の美しさを持ちます。

第8番、第9番の2曲の出来栄えは、どちらも素晴らしいのですが、8つの楽章どれをとっても魅力的です。第8番であれば、第2楽章の抒情性、第3楽章の哀愁を一杯に湛えたゆったりとした歌いまわし、第4楽章の高揚感、どれもが心から満足できます。全般にアレグロ部で幾らかリズムが前のめりになりますが、これはむしろライブなのでプラスに感じられます。

第9番の演奏も、8番の特徴がそのまま当てはまりますが、出来栄えは第8番を更に上回るかもしれません。第1楽章での余り仰々しくならない音のタメ具合と、瑞々しく流れるようなフレージング、第2楽章での心の奥から淋しさが滲み出てくるような望郷の念、第3楽章の切れのあるリズム、第4楽章での高揚感を強く感じさせながらもドンチャン騒ぎの爆演に陥らない理性や、金管の強奏でも濁らずにふっくらと広がる響きの美しさ、どれも本当に素晴らしいです。

これまで自国演奏家でなければ、決して出来ないと思っていた、ボヘミアの自然の味わいと美しさに満ちた演奏をマッケラスは成し遂げています。この人にとってチェコは第2の故郷だったのかもしれませんね。

自分のフェイヴァリット盤としても、第8番では、アンチェル/チェコ・フィルの1960年ライブ(PRAGA)、ノイマン/チェコ・フィルの1982年盤(スプラフォン)に次いで、セル/クリーヴランド管(EMI)と並ぶベスト3に、第9番「新世界より」では、ノイマン/チェコ・フィルの1971年ライブ(PRAGA)、アンチェル/チェコ・フィル(スプラフォン)、ターリッヒ/チェコ・フィルの1954年盤(スプラフォン)のベスト3に続く、コシュラー/スロヴァキア・フィル(オーパス)、レナルト/ブラティスラヴァ放送響(Amadis)と並ぶ第二グループに加えたいと思います。2曲が1枚のディスクに収録されていて、どちらも非常に高い水準というのがポイントです。

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ドヴォルザーク 交響曲第9番 隠れ名盤
ドヴォルザーク 交響曲第9番 続・隠れ名盤

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2013年7月13日 (土)

ドヴォルザーク 交響曲第8番 カレル・アンチェル/コンセルトへボウ管のライブ盤

31qbwg0ngblカレル・アンチェル指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1970年録音/EMI盤)

それにしても暑いですね~(汗汗)
毎日毎日、鉄板の上で焼かれてイヤになっちゃう、泳げたいやきくんになった気分です。(苦笑)

こういう季節にはクラシックよりも、むしろバリバリのロックやラテン・ミュージック、ボサノヴァなんかが聴きたくなりますが、クラシックであれば、ボヘミア音楽なんかは爽やかで良いですよね。ドヴォルザークとかスメタナとか。
ということで、今日はドヴォルザークです。
つい先日も、コシュラーのドボ8を記事にしたばかりですが、今度はカレル・アンチェルのドボ8です。

何年か前にIMGの企画、EMIの制作で出た「20世紀の不滅の大指揮者たち」は、非常に素晴らしい企画でしたので、僕も何人かのマエストロのディスクを購入しました。このシリーズの中の一人に、カレル・アンチェルが居ましたが、僕はアンチェル・ファンであるにもかかわらず、そのディスクは購入しなかったのです。理由は簡単、メインのドヴォルザークの交響曲第8番の演奏が、アムステルダム・コンセルトへボウ管だったからです。この名門オケの演奏とあれば飛びつきたいところですが、ことドヴォルザークに関しては、チェコおよびスロヴァキアのオーケストラの音が圧倒的に好きなので、他の国のオケには余り興味が沸かないのです。これはもう好みの問題ですので、どうにもなりません。

名指揮者アンチェルが西側へ亡命する前にチェコ・フィルとスプラフォン・レーベルに残したセッション録音には、ドヴォルザークの「新世界より」と、スメタナの「我が祖国」という、いまだに同曲中の決定盤とも呼べる名盤中の名盤があります。チェコ・フィルの前任の主席指揮者ヴァーツラフ・ターリッヒは、「指揮するたびに一度として同じ演奏はしなかった」と、同業のフルトヴェングラーに言わしめたほど即興性が高かったのですが、アンチェルはセッション録音を聴く限りでは、極めて構築性の強固な指揮者の印象です。ところがライブになるとまるで人が変わり、驚くほど開放的な演奏を行い、時には阿修羅のごとき爆演と化します。「新世界より」や「我が祖国」でのライブ盤が、それを証明しています。

この人には、ドヴォルザークの第8番のセッション録音が無いのが残念ですが、それでもチェコ・フィルとの1960年のライブ録音(PRAGA盤)が有るのが幸いで、モノラル録音であるハンディを度外視すれば、やはりベストの演奏だと思います。ですので、以前はコンセルトへボウ盤が出ても購入意欲が湧かなかったのです。ところが時が経つと人間の気持ちは変わるもので、せっかくのアンチェルのステレオ録音ならば一度は聴いてみるべきだったかな、と思い直しました。

このシリーズは既に廃盤なので、安価で入手するのには時間がかかりましたが、先日無事に入手することが出来ました。「いつ買うの?今でしょ!誰が買うの?君でしょ!」と言われた気がしました。(苦笑)

それでは聴後の感想をご紹介します。

第1楽章から非常に安定感が有ります。チェコ・フィルとのライブ盤での彫の深い歌い回しに比べると非常にオーソドックスな表現です。それでもフレージングが自然なのは、さすがに名匠です。コンセルトへボウはチェコ・フィルほどの素朴な音色ではありませんが、さりとて都会的でメカニカルな音でも無いので、このような曲には比較的適していると思います。少なくとも違和感は感じません。もっとも、このような曲での木管群の音は、やはりチェコ・フィルの素晴らしさには及びません。フィナーレの追い込みでの叩きつけるような迫力もチェコ・フィル盤の凄さには到達していません。

第2楽章は安定したテンポですっきりと流れます。得てして指揮者の思い入れが過剰でもたれるように歌うと、ボヘミアの爽やかな空気感が失われがちですが、そのような愚は犯しません。ヴァイオリン独奏部はなんだか怪しい出来栄えですので、おそらくは名コンマスのクレヴァースさんではなかったのでしょう。この楽章での楽器のハーモニーの美しさや翳りの濃さもチェコ・フィルに一日の長が有りそうです。

第3楽章の歌い方は美しいのですが、スラブ舞曲のリズムと歌の彫の深さではやはりチェコ・フィルに及びません。

第4楽章での厚く充実した音と迫力は素晴らしいです。この楽章だけはチェコ・フィル盤の熱演にかなり迫っています。フィナーレもチェコ・フィル盤の阿修羅のような追い込みには及ばないまでも相当なものです。

ということで、全体的にチェコ・フィルのライブ盤以上の魅力は感じませんが、なにしろ良質なステレオ録音ですし、アンチェルの数少ないドヴォルザークの至芸を味わえるという点では、ファンにとってはやはり有難い録音です。

なお、このディスクには他には自国のスメタナ、マルティヌ―、それにショスタコ―ヴィチの小品が収められています。

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2013年5月11日 (土)

ドヴォルザーク 交響曲第8番 ズデネェク・コシュラー/プラハ響のライブ盤

Dvorak_sym8_cd102010_2ズデネェク・コシュラー指揮プラハ交響楽団(1967年録音/英Orchestral Consert盤)

こんなCDに興味の有る人は少ないと思います。けれども新宿の中古ショップで偶然目にした僕は飛び付いてしまいました。チェコの名匠ズデネェク・コシュラーは、東京都交響楽団に長く客演してきたので知名度はそれなりに有るとは思います。しかし元々少ないCDの大半が廃盤であり、商業ベースで言えば、既に忘れ去られた存在でしょう。この人の実力を知る者としてはとても残念なことです。しかも、この人の録音は真価を出せている演奏は3割ぐらい。残りは比較的平凡な出来栄えです。打率が決して高くないのです。最高レベルの演奏は、スロヴァキア・フィルとのドヴォルザーク「新世界より」「スラヴ舞曲集」、スメタナ「我が祖国」、そしてチェコ・フィルとのドヴォルザーク「チェロ協奏曲」で、どれもがその曲のベストを争います。

そんなコシュラーのドヴォルザーク第8番には1970年代のスロヴァキア・フィルとのOPUS録音、1990年代のチェコ・ナショナル響とのビクター録音が有りますが、決して悪いとは言わないまでも、特別な閃きを見せた演奏では有りませんでした。ですので今回のCDを目にした時にも期待半ばでしたが、時々かっ飛ばす満塁ホームランの可能性に賭けてみました。

この録音はライブですが、1967年にプラハ響がイギリスのノッティンガムのアルバートホールで行ったコンサートのものです。コシュラーの出世のきっかけとなったミトロプーロス指揮者コンクールでの優勝(但しアバドと両者の優勝)の1963年から4年後で、プラハ響の首席指揮者に就任した年の貴重な記録です。

後年の二つの演奏は、ともにスタジオ録音ということも有って随分大人しく感じました。もう少し大胆さと熱っぽさが有ってよいかなぁと思わずには居られませんでした。ところが、この演奏はさすがにライブの熱っぽさ、それに表情の若々しさと大胆さを感じます。当時のプラハ響は技術的には大分低いように思いますが、それを忘れさせる魅力が有ります。ですので、聴き始めは音の粗さに抵抗が有りましたが、聴き進むうちに徐々に惹きつけられて行きました。

それにしても、やっぱり国民楽派の音楽は同じ血を分けた演奏家のものが良いなぁと、どうしても思ってしまいます。スロヴァキア・フィルやプラハ響はチェコ・フィルと比べると技術的には劣りますが、逆に機能的に成らない素朴さが魅力となるのです。

録音ソースがさほど優れたものではなさそうで、音質的には大して良いとは言えませんが、コシュラー・ファンにとっては聞き逃せない演奏でした。この人はやっぱり良いなぁ。

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2010年6月13日 (日)

スロヴァキア・フィルハーモニー日本公演 ~スラヴの魂~

Slovak_po スロヴァキア・フィルが3年ぶりに来日しています。チェコを代表するのがチェコ・フィルならば、スロヴァキアを代表するのはスロヴァキア・フィルです。昔から地味なオーケストラでしたが、個人的には30年前に聴いた名匠ズデニェック・コシュラーとのドヴォルザークの交響曲の録音が余りに素晴らしかったので、忘れられない存在でした。とはいえ実際に生の音を聴いたのは、3年前の公演が初めてでした。チェコ・フィルがチェコの高級レストランの味だとすれば、スロヴァキア・フィルは片田舎のレストランの味とでも言いましょうか、実に素朴な音色と味わいなのです。僕がしばしば「本場もの」の演奏に固執するのは、こういう味わいにかけがえのなさを感じるからです。

昨夜、サントリーホールで聴いたプログラムはスメタナの「モルダウ」とドヴォルザークの「チェロ協奏曲」に「新世界より」という、これ以上の組み合わせはないというプログラムです。ツアー終盤の今週、東京芸術劇場と新潟の長岡では、話題の辻井伸行くんがショパンの協奏曲を弾くのと、メインもブラームスの1番です。そちらも興味深いプログラムですが、チケットはどうやら完売しているようです。

さて、昨日のコンサートですが、指揮はチェコのレオシュ・スワロフスキー。日本には何度も来ていますが地味な存在です。ノイマンやコシュラーに指揮を学んで、地元やヨーロッパでは随分と活躍しています。実は3年前の公演もこの人の指揮でしたので、今回も奇をてらわないオーソドックスな演奏だろうとは思っていました。1曲目の「モルダウ」は正にそういう演奏でした。安心して曲そのものの美しさをうっとりと味わえます。2曲目のチェロ協奏曲の独奏は、イスラエル人のガブリエル・リプキンでした。33歳ですから若手です。非常に表現力の豊かな人だなと感じました。ただし僕の席がバックステージで、ちょうどチェロが彼の体に隠れてしまうので、音がはっきり聞きとりづらかったです。ですので、音そのものの評価は出来ないと思います。それよりも感激したのは、オーケストラの響きです。僕はこの曲が本当に好きなのですが、CDで聴いて心の底から満足できるオケの演奏は、コシュラーがチェコ・フィルを指揮した録音(独奏は提剛さん)です。けれども、昨日のスロヴァキア・フィルの響きも本当に素晴らしいものでした。そしてメインの「新世界より」も、当然のことながら、このオケの民族的な響きを堪能できる名演奏でした。スワロフスキーの指揮は3年前よりも随分、テンポの動きや表情づけが大きくなった印象です。といってもアメリカ風やドイツ風の派手な表現とはまるで異なります。演奏がどんなに盛り上がっても、管が弦の音を掻き消すように咆哮することもありません。あくまでも節度があるのです。それでこそボヘミアの音楽は生きます。

アンコールは定番の「スラヴ舞曲集」から急速な曲の作品72の7です。これまで聴いた演奏の中でも特に速く切れの良い演奏だったので、体中の血が踊りました。これこそが本場のスラヴ舞曲ですね。スロヴァキア(スラヴの国)の民族の魂を聴いた気がします。演奏終了後の聴衆の拍手も凄かったです。

せっかくですので、僕の愛聴するスロヴァキア・フィルの名演をいくつかご紹介してみます。

Kosler_dvo9 ズデニェック・コシュラー指揮/ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」(オーパス/ビクター盤) この演奏こそが学生時代に聴いて感激した、コシュラー/スロヴァキア・フィルの名演です。この時にはこのコンビで交響曲全集を残したのですが、現在では全て廃盤です。せめて「新世界より」だけでも再リリースしてほしいところです。ちなみに自分の持っている海外盤CDは第3楽章の頭の音が編集ミスで欠如していますので、最近は仕方無く買いなおした中古LP盤で聴いています。コシュラーはこの後も、チェコ・フィルとのライブ盤、チェコ国立響との新盤を残しましたが、やはりスロヴァキア・フィルとの演奏が一番好きです。

Pesek_dvo9 リボール・ペシェク指揮/ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」(仏GMS盤) チェコの指揮者ペシェクは地味な存在ですが、幸いスロヴァキア・フィルと「新世界より」を残してくれました。デジタル録音でこのオケの音を味わえるのはとても有りがたいです。全集盤ではオケがロイヤル・リヴァプールPOでしたので、個人的には引いてしまいます。ただし、この演奏は速めのテンポで、実にあっさりとしていますので、アメリカ風やドイツ風の演奏スタイルに慣れたファンの耳にはたぶん物足りなく聞こえると思います。

Cci00008ズデニェック・コシュラー指揮/ドヴォルザーク「スラブ舞曲集」(ナクソス盤) コシュラーは「スラブ舞曲集」をスプラフォンレーベルにもチェコ・フィルと録音を残しましたが、それを上回る素晴らしい演奏です。やはりコシュラーはスロヴァキア・フィルと最も相性が良かったと思います。全曲ともローカルな味わいに溢れていて、いかにも農民達の踊りを感じさせてくれますし、作品72-2のドゥムカの情感の美しさは他にちょっとありません。個人的にはノイマン盤よりも好んでいます。録音も優秀ですし、入手もしやすいので絶対のお薦めです。

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2010年1月 2日 (土)

~新春第二弾~ ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」 続・隠れ名盤

「新世界より」の隠れた名盤の筆頭はノイマン/チェコ・フィルの1971年ライブ盤だと思いますが、いかんせん廃盤で入手が難しいのが残念です。そこで"隠れ名盤”の続編として、もう1枚僕の愛して止まない演奏をご紹介したいと思います。もっともこの演奏は以前にも愛聴盤の記事の中で一度触れた事は有りますが、改めて詳しくご紹介したいと思うのです。

Cci00053b オンドレイ・レナルト指揮ブラティスラヴァ放送響(1987年録音/Amadis盤) オンドレイ・レナルトは何年も前から日本のオーケストラに客演をしているスロヴァキア出身の指揮者なので、ある程度馴染みが有ると思います。ですがこの人のCDの数は極めて少ないので、中堅の大したことの無い指揮者だと思われている方が多いのではないでしょうか。事実、僕もその一人でした。それでも「新世界より」や「我が祖国」となると、本場物の演奏なら何でも聴いてみたくなるので、この人の新世界を聴いてみたのです。オーケストラはブラティスラヴァ放送響です。ブラティスラヴァはチェコとスロヴァキアが分離した時にスロヴァキアの首都になった都市ですが、決して有名では有りません。この国のオーケストラとしてはズデニェック・コシュラーが率いたことのあるスロヴァキア・フィルのほうがよほど知られているでしょう。スロヴァキア・フィルは二年前に日本公演を聴きましたが、ローカルな音色に味わいの深い素晴らしいオーケストラです。ところがこのレナルト/ブラティスラヴァ放送響のCDを聴いてみて、スロヴァキア・フィル以上にローカルな音色なのに驚きました。もしも日本食に例えて言えば、チェコ・フィルの音は都心の高級料理屋で腕利きの板前さんが料理する極上和食のようなものです。ところがスロヴァキア・フィルやブラティスラヴァ放送響の音は、田舎の民家の囲炉裏端で味わう郷土料理のような味わいなのです。これはどちらが良いとか言うことでは無く、味わいの違いを楽しむべきなのです。そういう意味でこのレナルト/ブラティスラヴァ放送響の演奏は最上の演奏だと思います。これまで宇野功芳先生が推薦されたスメターチェク/プラハ放送響や、コシュラー/スロヴァキア・フィル、ペシェク/スロヴァキア・フィル、ヴァーレク/プラハ放送響といったチェコフィル以外の「新世界より」も聴いてきましたが、最もローカルの味わいが深い演奏はこのレナルト盤です。第1楽章導入部のホルンやティンパニの田舎臭い音色は驚くほどです。しかも主部に入ってからのレナルトの指揮は遅めのテンポで心がこもり切った素朴な味わいが最高です。この演奏には「激情」「演出」「洗練」そんな言葉は全く当てはまりません。第2楽章も同様に滋味に溢れていて実に感動的です。第3楽章、第4楽章も派手さは皆無ですが、充実した素朴な響きは満足感で一杯にさせてくれます。レナルトが他の曲で同じような感動を与えてくれるかどうかは分かりませんが、少なくともこの「新世界より」は他の多くのCDとは一線を画す素晴らしい名盤だと思うのです。

ちなみにこのCDはデジタル録音の現役盤ですが、HMVでは正価でも僅か800円そこそこです。騙されたと思って、是非ご自分の耳でこの演奏をお聴きになられることをお薦めします。このCDにはスラヴ舞曲集作品72から第1、2、7、8番の4曲も入っていて、やはりローカル色溢れる名演です。

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