ブラームス

ブラームス ヴァイオリンとチェロの為の二重協奏曲イ短調op.102 名盤

いよいよ秋が深まってきました。いやでも「もののあはれ」を感じる季節です。

秋は夕暮。夕日のさして、山の端はいと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音などはたいふべきにあらず。(「枕草子」清少納言)

B0087557_20323156 この季節にはやはりブラームスの音楽が一番心にしみわたります。昨年の秋にはブラームス特集として主要な曲をご紹介しましたが、今秋は一曲も取り上げていません。そこで、未だ触れていなかった「ヴァイオリンとチェロの為の二重協奏曲」を取り上げてみます。この曲には2人のソリストが登場します。ヴァイオリン協奏曲が「独身の曲」だとすれば、二重協奏曲は「夫婦の曲」をイメージできるかもしれません。事実、ブラームスはこの曲に「夫婦」の意味を込めて書いたとも言われています。しかしこの曲の2人のソリストは時に寄り添い、時に激しくぶつかり合い、と正に実際の夫婦の縮図のようです。

何はともあれ、この曲は大変充実しています。この曲もやはり、初めは交響曲になるはずでしたが、作曲途中で協奏曲に変更されました。ブラームスの協奏曲はオーケストラパートが充実しているので、どの曲も「独奏付き交響曲」という雰囲気ですが、この曲は管弦楽をバックにヴァイオリンとチェロがぴたりと寄り添ったり対峙したりする様が絶妙です。これはやはり室内楽作品を得意とするブラームスならではでしょう。第1楽章の展開部に入る前の2つの楽器の重奏にも圧倒されます。そして全体の曲想も大変に魅力的です。第1楽章の主題のカッコ良さにも惚れ惚れしますが、第2楽章の昔を懐かしく回想するような趣きはたまりません。第3楽章も実に充実しています。僕は、この曲がヴァイオリン協奏曲に負けず劣らず好きなのです。それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

Cci00052 アドルフ・ブッシュ(Vn)、ヘルマン・ブッシュ(Vc)、クレツキ指揮フランス国立放送(1949年録音/Music&Arts盤) 戦後、ヨーロッパのフランスでのライブ録音です。戦前のドイツロマン派の最後の大家アドルフ・ブッシュは四重奏団の活動が多かった為に、コンチェルトの録音はブラームスやベートーヴェンといった僅かのものに限られています。ですので二重協奏曲の録音が聴けるのは貴重です。この演奏は正にドイツ浪漫の何物でもありません。第2楽章の主題にボルタメントをかけて大きく歌うあたり、懐かしくもロマンティックな表現には圧倒されることでしょう。他の演奏とは全く次元が異なります。ただ、第1、第3楽章は録音が古い分聴き応えが半減するのが残念です。この録音は他レーベルでも出ていますが、1楽章冒頭の音消えが有りますのでご注意ください。Music&Arts盤は大丈夫です。

Bura005 シュナイダーハン(Vn)、シュタルケル(Vc)、フリッチャイ指揮ベルリン放送響(1962年録音/グラモフォン盤) 決して派手ではないですが、聴いていて自然に心に染み入るような演奏です。ウイーンの名手シュナイダーハンのヴァイオリンは非常に心のこもった良い演奏ですし、シュタルケルの男気の有るチェロはブラームスにぴったりだと思います。またフリッチャイの伴奏指揮もとても素晴らしいです。彼らはブッシュ達ほど表現が濃厚では有りませんが、何度でも聴きたくなるような、実にしっとりとした魅力的なブラームスを聞かせてくれます。個人的にはとても気に入っている演奏です。 

41rvqx5595l__ss500_ オイストラフ(Vn)、ロストロポーヴィチ(Vc)、セル指揮クリーヴランド管(1969年録音/EMI盤) この曲を初めて聴いた演奏です。豪華な顔合わせで、当時は決定盤の名を欲しいがままにしていました。現在よくよく聴いてみると、オイストラフもロストロポーヴィチも元々深刻な演奏はしないためにブラームスにはいま一つの共感を感じません。もっともそれは僕の個人的な感想なので、余り暗くならないブラームスの方が良いと言う人も居るでしょう。そのような方には丁度良い演奏ではないでしょうか。技術的には全員充分に優れていますが、重奏の部分なんかは2人とも勝手に弾いている印象なので意外に凄みが感じられません。

Bura006 エーリッヒ・レーン(Vn)、トレスター(Vc)、シュミット=イッセルシュテット指揮北ドイツ放送(1970年録音/米JOY盤) これは海賊盤ですが、北ドイツ放送響創設25周年記念演奏会の貴重なライブ演奏です。レーンは1940年代のベルリンフィルのコンサート・マスターでした。この時、既に技術的に衰えてしまっていたのか怪しい所が多々有りますし、チェロとの重奏箇所なんかもピタリとは合っていません。けれども第2楽章の深々とした雰囲気なんかを聴いていると、やはりドイツの魂を感じさせてくれる気がします。イッセルシュテットも手兵の北ドイツ放送を指揮して、いかにもドイツ的で味わいのある演奏を聞かせています。

Bura007 シェリング(Vn)、シュタルケル(Vc)、ハイティンク指揮コンセルトへボウ管(1971年録音/フィリップス盤) シェリングは僕の最も好きなヴェイオリニストの一人ですし、シュタルケルも相変わらずブラームスに合う男っぽい演奏です。両者のアンサンブルも申し分が有りません。但し、とても美しい演奏には間違いが無いのですが、いまひとつ高揚感や情熱に不足を感じ無いでもありません。シェリング/ハイティンクのヴァイオリン協奏曲もやはり似たような印象でした。これはもしやハイティンクに問題が有るのではと個人的には思っています。

511kp95dojl__ss500_ クレーメル(Vn)、マイスキー(Vc)、バーンスタイン指揮ウイーンフィル(1982年録音/グラモフォン盤) バーンスタインの引きずるようなリズムはドイツ風とは違いますが、重量感が有って悪くありません。また、ブラームスではとかく透明感の有り過ぎる響きとなるウイーンフィルも厚味の有る音を聞かせています。クレーメルとマイスキーのテクニック、アンサンブルは優秀ですし、独特の繊細な叙情性も持ち合わせていて魅力的です。クレーメルはアーノンクールの伴奏で再録音しましたが、バーンスタインとの旧盤のほうがずっと良いと思います。

Bura008 スターン(Vn)、ヨーヨー・マ(Vc)、アバド指揮シカゴ響(1987年録音/SONY盤) ドイツ系のプレーヤーが誰も居ない演奏であるからか、ドイツ風のブラームスからは程遠い、非常に爽やかなブラームスです。アバド/シカゴのオケ演奏は常に腰が浮いた感じで重圧感は有りません。ヨーヨー・マのチェロも上手いのだけれどブラームスらしい含蓄が無く、えらくお気楽な感じがします。スターンは意外に音の衰えを感じさせません。全体としては大変まとまりが良いのですが、全く北ドイツ風でない点が僕の好みからは外れます。

以上の中で、僕に一番しっくり来るのはシュナイダーハン/シュタルケル/フリッチャイ盤です。オイストラフ/ロストロポーヴィチ盤はソリストの2人が、クレーメル/マイスキー盤はバーンスタインの指揮が、どうも「牛刀をもって鶏を割く」という大げさな雰囲気なのでそれほどは好んでいません。これは全くの好みの問題です。

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~女神の饗宴~ ブラームス ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.77

ブラームスの作品には、明らかにハンガリーのジプシー音楽の影響を受けた哀愁がいっぱいに漂う曲想が数多く見られます。そのなかでも代表的な作品としてはまっ先にヴァイオリン協奏曲二長調が挙げられるでしょうね。

この曲については以前にも一度記事にしています。http://harucla.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-2fed.html

その中で巨匠ヴァイオリニスト達に混じっても一段と精彩を放っていたのが情熱的な点でまさに比類の無いジネット・ヌヴーのライブ演奏録音でした。この曲は不思議と昔から女性ヴァイオリニストの名演奏が多いのですね。それはたぶんこの曲は多くの男性奏者が得意とするような古典的な造形性では無く、ジプシー音楽の持つ情熱や感情が主体となっているからだと思います。女性奏者がそういう命がけともいえる情熱的な演奏をすると、男性奏者はとてもかなわないからです。そこで今回は特にジネット・ヌヴー以外の女性奏者による名演奏の幾つかをご紹介したいと思います。名づけまして「女神の饗宴」です。ほらほら美人に滅法弱いフーテンのハルくんがステージにかじりついていますよ。ハルくん何か別のステージ??と勘違いしていないでしょうね。(笑)

Cci00030 ジョコンダ・デ・ヴィトー(Vn)、フルトヴェングラー指揮トリノRAI響(1952年録音/IDイタリア盤) イタリア生れの彼女のスタジオ録音によるヴァイオリンソナタ集などは随分と端正な印象でしたが、このライブ演奏はフルトヴェングラーの伴奏指揮に触発されたからでしょうか、ひとつひとつの音に込めた情念の深さが際立っています。それは少々しつこく感じるほどなのですが、こういう女性の艶かしさも悪くは有りません。でも毎日付き合ったら疲れてしまうかも、っていったい何の話だ?(笑) 但しこれはイタリアの放送録音なので音質はあまり良くありません。

そのヴィトーには、ヨッフム指揮バイエルン放送響(1956年録音/En Larmes盤)という海賊CD-R盤も有ります。イタリアでの演奏会から2年後の録音ですが、伴奏指揮がヨッフムでしっかりしているせいか独奏ヴァイオリンもずっと安定感を増しています。そのうえ艶かしい表情は相変わらずです。録音もずっと良いので、正規録音盤が発売されればこちらを代表盤にしてもおかしくありません。

Cci00031 ヨハンナ・マルツィ(Vn)、クレツキ指揮フィルハーモニア管(1954年録音/EMI盤) ヨハンナ・マルツィはハンガリー生れ。ヌヴーやヴィトーに比べると知名度で劣りますが、実に素晴らしいヴァイオリニストです。非常に情熱的でありながら高い技術と男性的な造形性や堅実性を併せ持っています。第2楽章の深い情感も第3楽章の堂々とした立派さなど見事です。恋人にするならヌヴーやヴィトーがエキサイティングで楽しいのでしょうが、女房にするなら堅実賢母タイプのマルツィが理想的だと思いますね。 

Cci00031b ヨハンナ・マルツィ(Vn)、ヴァント指揮シュトゥットガルト放送響(1964年録音/GreenHILL盤) マルツィは録音が非常に少ないのですが、彼女の全盛期に伴奏者にも恵まれて録音状態の良いライブ演奏が残されているのは大変貴重です。ハンガリー人らしい情熱と情感が溢れるばかりなのですが、音楽が崩れることなく素晴らしいバランスを保っています。それを支えているのが幼少の時から師事したフーバイに鍛えられた演奏技術です。後年の名匠ヴァント指揮のオケ伴奏も充実していて個人的に大好きな演奏です。

Cci00030b イダ・ヘンデル(Vn)、ミュラー=クレイ指揮シュトゥットガルト放送響(1955年録音/ヘンスラー盤) これは彼女がまだ若い頃の演奏です。しかし彼女のヴァイオリンにはどうも余り面白みを感じません。堅実といえば確かにそうなのですが、技術的にも特別上手いわけでも下手なわけでもありませんし、余りに感情をあらわにしないのが気に入らないのです。それは謂わば「三歩下がって夫の影を踏まず」とでもいう感じでしょうか。こういう女性は奥さんにすると良いかもしれません。まあ私の場合は影どころか生身まで踏みつけられましたけど。(笑) 

Cci00032 ミシェル・オークレール(Vn)、オッテルロー指揮ウイーン響(1958年録音/PHILIPS盤) フランス生まれで生粋のパリジャンヌのオークレールも個性的な美人ヴァイオリニストです。フランス以外の欧米男性から見るとフランスの男は嫌われていますが、フランス女性はとても人気があるようです。まあフーテンのハルくんにはとても縁の無い話なのでしょうが。えっ、わからないって?それじゃ次はフランスに行くか!(笑) オークレールのヴァイオンは軽く鼻にかかったフランス語の発音のような演奏です。重厚さとか情念の濃さというものは全然有りません。そこがとてもユニーク。パリジャンヌとデートでもしている気分になって聴いていると結構楽しいです。 

Cci00033 チョン・キョンファ(Vn)、プレヴィン指揮ケルン放送響(1996年録音/En Larmes盤) 韓国に生れた素晴らしいヴァイオリニストのキョンファはブラームスの正規CDをラトルの伴奏で録音しています。でもずっと世評の高いのはこの海賊CD-R盤の演奏のほうです。私は最近ようやく友人から借りてこの演奏を聴くことができました。私は韓国の女性もイイなぁと思うのですよ。何を隠そう女優のチョン・ジヒョンのファンなのです。可愛いじゃありませんか。でもやっぱり彼女は恋人タイプでしょうね、ってまた話が脱線しているな。(笑) ジヒョンじゃなくてキョンファはこの録音と同じ頃に東京でリサイタルを聴きに行きましたが、虚飾の無い素晴らしい演奏でした。このブラームスも同様です。深い情念と気迫を持ちながらも外面的に陥ることなく音楽の心そのものを音にします。タイプとしてはマルツィに似ています。

Cci00032b アンネ‐ゾフィー・ムター(Vn)、マズア指揮ニューヨークフィル(1997年録音/グラモフォン盤) さて最後に登場するのはグラマラス美人の代表ムターです。彼女は10代の若い頃はぽっちゃりふくよかでも演奏はストレートな表現でしたが、年齢を重ねるにつれてボディも音楽も段々グラマラスになりました。フーテンのハルくんはグラマラスは元々余り好みではなくて、どちらかいうとスリムで端正なタイプが好みなのです。でもここまで艶かしく弾かれると、やはりおじさん的にはたまらないのです。ヴァイオリンの上手さも半端でありません。これがジプシー的かどうかはもうどうでもよく、脂の乗り切った濃厚なテクニックにメロメロです。ここは身も心も任せて昇天してしまいましょう!ただしマズアの指揮はいまひとつ元気が無いので、若い美女を囲う金持ちの爺さんパトロンというイメージです。

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~ぶらりドイツの旅~ ブラームス「ハンガリア舞曲集」

20060921_225639 フーテンのハルくんはノルウェーに別れを告げてからスカンジナビア半島の南端からドイツへと海を渡り、ひとり旅を続けました。船で行き着いた港はハンブルグです。この北ドイツの港町はブラームスが生れた町として有名ですね。父親がコントラバス奏者という余り裕福でない家庭に育ったブラームスは、家計を助ける為にレストランや居酒屋で小さい頃から得意のピアノを弾いて稼いでいました。そういう店には港からアメリカへ移住するハンガリーからの避難民が多く来て居たので、小さい頃から異国的なハンガリー音楽に親しんでいたそうです。さらにはハンガリー出身のヴァイオリニストのレメーニやヨアヒムと交友を持ったことが、益々彼をハンガリー音楽に近づけさせました。ブラームスの音楽の特徴の一つの哀愁漂う歌謡調のメロディは明らかにハンガリー音楽の影響です。

そんなハンガリー風音楽の代表作品といえばご存知「ハンガリア舞曲集」です。元々はピアノ連弾用に作られましたが、余りの人気の高さにブラームス自身や他の作曲家の手で管弦楽用に編曲されたので現在も観賞用として大変親しまれています。私も大好きなので珈琲などを飲みながらよく聴いています。

Cci00029 ブラームスの故郷ハンブルクには北ドイツ放送交響楽団という素晴らしい楽団が有ります。このオーケストラは戦後直ぐに創設されたのですが、ハンス・シュミット=イッセルシュテットやカール・シューリヒトという大指揮者の手によって育てられた為に急速に優秀な楽団に成りました。ブラームス作品はこの楽団の主要レパートリーの一つです。その初代常任指揮者であるイッセルシュテットが指揮をした「ハンガリア舞曲集」の素晴らしい演奏が有ります(1962年録音/ユニヴァーサルミュージック・フランス盤) やや古めかしい録音ですが、リマスタリングが良いので聴きにくいことは有りません。それよりもイッセルシュテットの指揮が大変に素晴らしいのです。リズムの良さと哀愁漂う歌い回しが最高です。全21曲が収められているのも嬉しい限りです。

さて、ハンブルグの港町でフーテンのハルくんは果たして憧れのマドンナとの出会いを果たすことが出来るのでしょうか。案外色っぽいジプシーの娘といい仲になってしまうのかも知れませんね。

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ブラームスの室内楽 弦楽六重奏曲 名盤

ブラームスは弦楽器のみの編成の為に、四重奏3曲(op.51-1と2,op.67)、五重奏2曲(op.88,op.111)、六重奏2曲(op.18,op.36)を作曲しました。ご覧の通り、作品番号は早い方から六重奏→四重奏→五重奏の順です。そのため六重奏にはやや若書きの未熟さが感じられ、曲の深さ、充実度から言えば五重奏、四重奏が優れると思います。しかし逆に難解とは言わないまでもかなり曲が渋いので、五重奏、四重奏については他のピアノや管楽器入りの曲に充分馴染んでから聴いても遅くないと思います。その点六重奏は曲も分かりやすいし、ヴィオラとチェロをダブルにして非常に重厚なシンフォニーのような響きをかもし出していて実に魅力的な佳曲だと思います。そこでここでは六重奏曲についてご紹介することにします。

弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調op.18

ブラームスがまだ27歳の時に書いただけあって、青春の息吹に溢れるロマンティックな名曲です(まあ、この時も彼は絶対恋をしていたでしょうね)。ですがそこはブラームス、師匠シューマンと比べれば随分甘さが控えめですし、それどころか甘さの中にも渋味がたっぷり含まれた「一番絞り」という感じです。第1楽章アレグロ・マ・ノントロッポがとりわけ素晴らしいです。若い情熱に溢れているのに、何故か昔を懐古しているような曲想はいかにもブラームス。全く精神年齢不詳の青年です。第2楽章アンダンテは名女優ジャンヌ・モロー主演の古い映画「恋人達」で使用されたので有名です。名旋律が何度も何度も繰り返し変奏されるこれも傑作です。長大なこの曲は第3楽章以降が少々落ちますが、決して水準以下ということは無く、1,2楽章の感動の余韻を楽しんでいられます。

弦楽六重奏曲第2番 ト長調op.36

第1番に比べるとかなり地味ですが、甘く優しい曲想の溢れる名作です。それもそのはずブラームスは当時婚約者のアガーテに熱烈だったです。なので、この曲は別名「アガーテ」とも呼ばれます。心静かに味わうには1番よりも2番の方が向いているでしょう。第1、第2楽章の幸せ一杯の雰囲気に比べて、第3楽章以降にはどことなく不安な気分が顔を出すのはブラームスの『またも失恋』への予感からでしょうか。恋愛に関してはつくづく気の毒な男だと思います。だからよけいに親近感(連帯感?)が湧くのですけれど・・・。

―第1番変ロ長調op.18―

Cci00043 スターン(Vn)、シュナイダー(Vn)、カティムス(Va)、カザルス(Vc)他(1952年録音/CBS SONY盤) この演奏の凄さを何と表現したら良いのでしょう。昔、私はまだ学生時代にこの演奏のLPを聴いて心底打ちのめされました。カザルスを中心とした豪華メンバーが音楽に真摯に立ち向かい、魂の演奏を繰り広げる様は壮絶です。今でもこの演奏だけは比較出来る対象の全く無い孤高の極みに達していると思っています。1楽章、2楽章の荒く喘ぐような楽器の息遣いを耳にして平静で居られるような聴き手は絶対に存在しないでしょう。全クラシックファン必聴の歴史的名盤と言えます。

409 ウイーン・コンツェルトハウスSQ他(1951年録音/ウエストミンスター盤) 古き良き時代の柔らかいウイーン風の演奏を味わうことが出来るのでとても価値が有ります。甘い青春の息吹を感じるということでは、この曲の本来持つ姿に一番近いのかもしれません。それにこのCDはピアノ五重奏曲とカップリングになっているのも嬉しいです。

Cci00050b アマデウスSQ、アルバンベルクSQ各メンバー(1990年録音/EMI盤) 個人的にはアマデウスQは余り好みません。ブレイニンのVnの過剰な表現とわざとらしさが大抵の場合に鼻についてしまうからです。ところがこの演奏には実に真実味が有って素晴らしいのです。というのもこの演奏は長年の盟友Va奏者シドロフへの追悼演奏会の後に再び実現したABQメンバーとの共演だからです。以前のグラモフォンの録音とは全く次元の異なる名演奏だと思います。

Cci00052_2 ブッシュSQ他(1949年録音/Music&Arts盤) これは番外と言うべきブッシュ晩年のライブ録音です。少々音が悪すぎるからです。ですがそれでもこの演奏の深く濃厚なドイツロマンは聞き取ることができます。よほどのファン以外には勧められませんが、失われてしまった戦前のドイツロマン派時代の偉大なカルテットの演奏記録ということでは大変貴重です。

―第2番ト長調op.36―

Cci00051 ウイーン・コンツェルトハウスSQ他(1954年録音/ウエストミンスター盤) これも1番と全く同様に、古き良き時代の柔らかいウイーンを味わえる素晴らしい演奏です。アントン・カンパーのヴァイオリンが何とも味わい深く素適です。このCDでは五重奏の第1番が組みになっていますが、それも実に素適な演奏です。

Cci00050 アマデウスSQ、アルバンベルクSQ各メンバー(1987年録音/EMI盤) 盟友シドロフへの追悼演奏会のライブ演奏です。ここでは旧グラモフォン盤での表現のわざとらしさは全く無く、心からの悲しみを歌っていて感動的です。彼らは盟友を一人失うことで初めて真実の音楽表現が可能になったとは何とも皮肉なものです。まあそれはともかくとして本当に素晴らしい演奏だと思います。

弦楽四重奏曲&弦楽五重奏曲全集

せっかくなので、四重奏と五重奏の全集盤のご紹介もしておきます。

177 ブダペストSQ(CBS SONY盤) 本家SONYが長い間廃盤にしていた名盤をまとめてタワーレコードが発売してくれました。(SONYは全く何を考えていたのかなぁ) 他にもゼルキンとのピアノ五重奏、クラリネット五重奏が収められています。ブダペストQの演奏は非常に音が渋いですが、だからこそブラームスの良さが際立つものと信じています。この全集はブラームジアーナーの座右の名盤と言えるでしょう。

790 アマデウスSQ(独グラモフォン盤) 上記であれだけけなしておいてご紹介するのもどうかとは思いますが、アマデウスのファンが多いのも事実です。それにこの全集は他にも弦楽六重奏、エッシェンバッハとのピアノ五重奏、ライスターとのクラリネット三重奏/五重奏と盛りだくさんですので、お買い得なのは間違いありません。好みの問題を抜きにすればこれはこれで良いのではないでしょうか。私は滅多に聴くことは無いですけれど。

11月に始めたブラームスの室内楽特集も今回ではや9回目。ひとまずは最終章とします。まだまだ触れたい曲も残ってはいますが、それはまたの機会にということで。皆様、ご笑読と多くのコメントを大変有り難うございました!

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ブラームスの室内楽 ヴィオラソナタ集 vs チェロソナタ集

114 それでは、ヴァイオリンソナタとの巴(ともえ)戦で敗れたヴィオラソナタとチェロソナタの2位決定戦に移るとします。ここで対戦に先立ってひと言触れておきますと、ヴィオラソナタの方は実は元々は晩年にクラリネットソナタ作品120の1、2として書かれたものです。それをブラームス自身がヴィオラ用に書き換えたという謂わば競技転向組なのです。個人的にはオリジナルのクラリネット版よりもヴィオラ版の方を遥かに好んでいます。何故かと言うとクラリネット選手時代には持っていなかった美技、ダブルとトリプルのストップ(重音のこと。回転ジャンプ?では無いです。)を取り入れたからなのです。このブラームスならではの六度ほかの和音はたいそう美しく魅力的で、これを味わってしまうと単音ではちょっと物足りなくなってしまうのです。(クラリネットファンの方、ゴメンなさい)

さて、いよいよ選考試合開始ですが、楽器としてのポピュラリティが高く、名プレイヤーの録音が多く存在するチェロソナタが有利と思いきや、ヴィオラソナタもさすがにブラームス最晩年のクラリネット名曲ファミリーからの転向パワーアップ選手だけあって一歩も引けを取りません。それどころか見事な旋律、楽想の数々を次々と繰り出して、名作であるチェロソナタをすっかり圧倒してしまいました。これは完全なヴィオラソナタの判定勝ちであります。(チェロファンの方、ゴメンなさい) それにしてもそれほど有名でもない作品の中にこれほどの大傑作が有ろうとは、正にブラームスの室内楽恐ろしです。

ヴィオラ・ソナタ第1番ヘ短調op.120-1

第1楽章アレグロアパッショナートの冒頭にいきなり出てくる暗くくすんだ感情溢れる旋律に一遍に魅惑されてしまいます。ブラームス晩年の寂寥感に覆われてはいるのですが、その情熱は少しも枯れることなく迸り出てきます。中音部楽器のヴィオラがまるで人間の声のようにうねり歌い上げて胸を打ちます。優しく静けさ一杯の第2楽章、哀愁を漂わせながら優美に踊る第3楽章アレグレットも素晴らしいですが、第4楽章ヴィヴァーチェがまたどことなくラプソディックでとても楽しいです。

ヴィオラ・ソナタ第2番変ホ長調op.120-2

ヴァイオリンソナタの1番、2番のように穏やかで叙情味に溢れたアレグロの第1楽章からして既にとても魅力的です。そして一転して不安に心揺れるような素晴らしい第2楽章アレグロアパッショナート。白眉は中間部のゆったりとしたバラード風の旋律とあの何とも美しい六度ほかの重音部分ですが、これには言葉を失うほどです。第3楽章アンダンテは再び落ちついて心を和ませます。

この曲はCDが少ないので余り多くは聴いていないのですが、一応私の愛聴ディスクをご紹介させて頂きたいと思う。

Cci00048a ピンカス・ズーカーマン(Va)、ダニエル・バレンボイム(Pf)(1975年録音/独グラモフォン盤) 学生時代にテープデッキに録ったものを何度も聴いた演奏です。当時ヴァイオリンとヴィオラの全集という形でリリースされましたが、私はヴィオラソナタの演奏の方がずっと好きでした。ズーカーマンのヴィオラはヴァイオリン奏者らしい軽く明るい音色なので、生粋のヴィオラファンには好まれないかもしれません。専門のヴィオラ奏者は弓を持つ右手の肘に腕の重さをかけるので、音色は厚く渋くなり、しばしばこの楽器特有のグチャっという潰れたような音を出します。それがヴァイオリニストがヴィオラを弾く場合には、腕の重さを余りかけないのでどうしても軽いヴァイオリン的な音色になってしまうのです。しかし私はさんざん昔に聴いたせいか、この演奏はやはり好きです。バレンボイムもロマンティックなのですが芯の有る音で実に堂々とピアノを弾いていて素晴らしいと思います。

Cci00048b ヨゼフ・スーク(Va)、ヤン・パネンカ(Pf)(1990年録音/スプラフォン盤) スークが最円熟期に素晴らしい録音を残してくれました。この人のヴァイオリンは若い頃は少々線が細過ぎて物足りない印象でした。虚飾の無い端正なスタイルはその後もずっと変わらなかったですが、年齢を重ねるにつれてだんだんと音と表現に厚みを増して行ったと思います。この演奏はズーカーマンに比べればずっと渋いヴィオラの音を聴くことができますし、表現も晩年のブラームスの枯淡の気分が感じられてとても好ましいです。パネンカのピアノがいつもながら少々頼りないのが惜しいですが、これはこれで室内楽的な雰囲気といえないこともないので一応合格とします。

Cci00049 キム・カシュカシャン(Va)、ロバート・レヴィン(Pf)(1996年録音/ECM盤) この人は本職のヴィオリストです。ならばヴィオラ本来の深い音を期待したいところなのですが、意外に音が軽いのです。いかにも女性が弾いているブラームスという感じです。歌いまわしも叙情的な部分は良いとしても、晩年の男性的な渋さに欠けるのでどうも物足りません。やはりアメリカ人女性奏者にブラームスは無理なのでしょうか。レヴィンのピアノが抜群なだけに残念です。

この他には、私がLP時代に聴いていたヴィオラの神様ウイリアム・プリムローズ/ルドルフ・フィルクスニーの録音(EMI)がありましたが、現在CDでは出ていないようです。これは少々残念なことです。

ユーリ・バシュメット盤は聴いていません。どうもこの人のヴィルトゥオーゾ風のイメージが私を食わず嫌いにさせています。ヴィオラ奏者にしては活躍が華々し過ぎるのです。ヴィオラはもっと日陰者の方が似合う楽器です。(などとウジウジ理屈にもならない理屈をこねるのがブラームジアーナーの面目躍如なのです)

以上、私の好きな演奏はこの中ではヨゼフ・スーク盤です。このCDはつい最近コロムビアの廉価盤で再リリースされたばかりなのでお薦めできます。

さて次回はいよいよブラームスの室内楽特集の最終章、弦楽器のみの編成曲を予定します。年末ご多忙の中で御笑読頂ければ幸いです。

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ブラームスの室内楽 ヴァイオリン・ソナタ集 名盤

ブラームスの室内楽特集なのですが、「ピアノ三重奏曲」の次であれば「ピアノ二重奏曲」ということになるのですが、そのような呼び名は存在しませんので、「ヴァイオリン・ソナタ」あるいは「チェロ・ソナタ」や「ヴィオラ・ソナタ」がそれに該当することになります。

「ヴァイオリン・ソナタ」は正式に訳せば「ヴァイオリンとピアノの為のソナタ(Sonata for Violin and Piano)」です。それはチェロ・ソナタも、ヴィオラ・ソナタも同様です。どれも合奏曲の原型としての「ピアノ二重奏曲」です。などと言うと、なんだかへ理屈をウジウジ言っているように思われるでしょうが、まあこういうところがブラームジアーナーの性ということでご容赦頂きたいと思います。(^^)

さて、何故その中で最初にヴァイオリン・ソナタを選んだかと言いますと理由は簡単、ポピュラリティだけです。自分の好みで言えばあるいはヴィオラ・ソナタという線もあります。ただこの曲はクラリネット・ソナタの改作ですし、チェロ・ソナタにしても少々渋過ぎます。それに両者は作品が2曲づつですがヴァイオリン・ソナタは3曲有ります。2対2対3となればこれは変則タッグマッチ戦になりますから、数で有利なヴァイオリン・ソナタが最後は体力勝ちするのは間違い無いところです。まあこれは妥当な勝負判定でしょう。

ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調op.78 <雨の歌>

実に穏やかな佳曲です。ブラームス特有のドロドロさが無く、爽やかな印象なので若い時代の作品かと思いそうですが、れっきとした円熟期の作品です。それにしてもなんという詩情に溢れた音楽なのでしょう。<雨の歌>というタイトルは別としても、この曲を聴いていると、なんだか自分が詩人にでもなった気がしてきます。この曲の試演会には不倫恋人のクララ・シューマン夫人が同席したというが、ブラームスの彼女への恋慕心が曲に垣間見えるようです。

ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調op.100

この曲もやはり穏やかな美しい旋律に満ち溢れた佳曲です。それもそのはずでブラームスがスイスの美しい自然の中で過ごした時に書かれた作品なのです。更にはこの頃ブラームスは歌手のヘルミーネ・シュピース嬢に恋していたそうです。(またか!)そんな心境が反映されているのでしょう。第1番と第2番を続けて聴くと最高のBGMになります。

ヴァイオリン・ソナタ第3番二短調op.108

この曲は1番、2番とはだいぶ曲想が異なります。穏やかさは影を潜めて、暗く内省的な部分と激しく高揚する部分とが交錯する、まさにブラームスの本領発揮の曲です。構成も4楽章でスケールが大きく、聴き応え充分です。なのでこの曲はちょっとBGMには不向きですね。

当然CDには3曲をまとめた物とそうでない物とが有りますが、ここでは順不動でご紹介させて頂きたいと思います。

Cci00034 アドルフ・ブッシュ(Vn)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1931、32年録音/EMI盤) 古き良きドイツロマン派の伝統を受け継ぐ最後の偉大なヴァイオリニストが、幸運にも第1番と第2番の録音を残してくれました。いささか古めかしいポルタメントを多用したスタイルですけれど、だからこそ現在では絶対に聴くことの出来ない貴重な演奏なのです。これを単に「古い」で片付けてしまっては絶対にいけません。シューマン~ブラームス直系のこの限りなく深いロマンを心から味わおうではないですか。第1番の終楽章は大きく揺れるように歌い上げていて特に白眉です。

462 ゲオルグ・クーレンカンプ(Vn)、ゲオルグ・ショルティ(Pf)(1947、48年録音/DECCA盤) 戦前のドイツの名ヴァイオリニストで本国ではアドルフ・ブッシュと並び人気が高かったのですが、録音が少ないせいか現在ではほとんど忘れ去られています。やはりドイツの伝統的なロマン性を存分に感じさせる演奏なのですが、ブッシュのいささか古めかしいスタイルと比べれば幾らかスタイリッシュな印象です。ピアノ伴奏がショルティというのはご愛嬌で決して悪くは無いのですが、他に誰か居そうなものなのにねぇ。

Cci00045 ヴォルフガング・シュナイダーハン(Vn)、カール・ゼーマン(Pf)(1957、60年録音/独グラモフォン盤) この人はウイーン出身の代表的なヴァイオリニストですが、バリリやボスコフスキー、ウェラーといったいかにもウイーン的な柔らかい音というよりも随分ドイツ的な音に近いように思えます。この演奏も謂わばウイーン/ドイツ折中型のイメージなのでブラームスに実に自然にマッチしています。ただしゼーマンのピアノは重厚な純ドイツ風です。

188 ジョコンダ・デ・ヴィート(Vn)、エドウイン・フィッシャー(Pf)(但し2番のみティート・アプレア)(1954、56年録音/テスタメント盤) 純粋なイタリア娘(この時は既に47歳のおばさんですが)の弾くブラームスもなかなかに魅力的です。イタリアといっても北イタリアの生まれですのでスイスにほど近く、南国の脳天気な風土とはだいぶ異なったのかもしれませんね。事実この人はブラームスを得意にしていたそうで、この演奏でも違和感など感じさせないどころか、とても味わい深くブラームスを弾いています。フィッシャーのピアノは立派ですが少々ヨレているところもあります。

Cci00047b ヘンリク・シェリング(Vn)、アルトゥール・ルービンシュタイン(Pf)(1960年録音/RCA盤) 幸運にも私はシェリングの弾く第1番の実演を東京で聴いた経験があります。それは柔らかくて澄み切った非常に端正で美しい音でした。CDで聴くともう少し硬い音に聞こえますが、それでもこの録音は素晴らしいです。ルービンシュタインが母国ポーランド出身の破格の実力を持つ無名ヴァイオリニストを世に紹介して2年後の再セッション録音ですが、ルービンシュタインが普段にも増して真剣に弾いていて、シェリングがそれに十二分に応える見事な演奏をしています。特に第1番と第3番が非常に素晴らしい出来ばえです。

Cci00045b アイザック・スターン(Vn)、アレクサンダー・ザーキン(Pf)(1960年録音/CBS SONY盤) シェリングと同じ年にスターンも録音を行っています。彼はウクライナ出身のユダヤ系のアメリカ人ですが、若い頃は端正な中にも力強い演奏をした良いヴァイオリニストでした。ですがこのブラームスのソナタの演奏に於いてはシェリングの完成度に大きく水をあけられていると思います。中では第3番だけはなかなか良い演奏だと思いますが、これは曲の性格の為でしょう。

Cci00046 ヨゼフ・シゲティ(Vn)、ミエツィスラフ・ホルショフスキー(Pf)(1961年/Philips盤) これは第2番だけの録音なのですが、私がLP時代から愛聴している演奏です。その演奏の素晴らしさは正に比類がありません。何しろシゲティの師匠は第3番の初演を行ったハンガリーの大ヴァイオリニスト、フーバイです。つまりはブラームスの直伝のようなものなのです。いつもながら弓がかすれる部分も度々有りますが、音楽の余りの深さに圧倒されてしまい全く気になりません。ホルショフスキーのピアノもまた実に深いです。よく評論家はシゲティの演奏を一般向きでないと言うことが多いですが、真の芸術を後の世代に広め伝えるのが彼らの使命なのではないでしょうか。良いと思うならもっと自信を持って薦めて欲しいものです。

Cci00047 ダヴィド・オイストラフ(Vn)、スヴャトスラフ・リヒテル(Pf)(1968年録音/メロディア盤) これは第3番だけのディスクです。このコンビでは2番も録音していますが、彼らに向いているのは3番のほうだと思います。LP時代には気に入ってよく聴きました。ですが今改めて聴くと、ロシアの巨人同士の演奏はブラームスの音楽にはちょっと規格外のような気がします。弾き方がオーバー過ぎるように感じますし、終楽章のバリバリ弾く迫力などは尋常でありません。これがコンチェルトだったらまだ良いのかもしれませんが。

660 チョン・キョンファ(Vn)、ペーター・フランクル(Pf)(1995年録音/EMI盤) 韓国出身の突然変異の天才ヴァイオリニストです。この人も実際の生演奏に接したことがあります。彼女は若いときから基本的に端正な弾き方をしますが、時に彼女独特の粘りを見せます。それはアウアー流派の豊穣な音の粘り気では全くなく、例えば多分に精神的な朝鮮民族の「恨(ハン)」という性質のもののような気がするのです。そしてそれは意外にハンガリーのジプシー民族のそれに似たものを感じます。その暗さがブラームスの音楽にとても向いています。

901981_g イザベル・ファウスト(Vn)、アレクサンドル・メルニコフ(Pf)(2007年録音/ハルモニアムンディ盤) 第1番だけですが、とても面白い1品があります。ホルントリオでもご紹介したイザベル・ファウスト嬢の最新録音盤です。これもヴァイオリンにはガット弦を使用し、ピアノは19世紀製のベーゼンドルファーです。果たしてブラームスの時代に響いていた音はこのようなものであったのかと思うと興味津々です。

さすがにブラームスのヴァイオリン・ソナタは名曲だけあって実に名盤が揃っています。中でも私が好きなのは、第1番と第3番はシェリング/ルービンシュタイン。とりわけ第1番がピアノもヴァイオリンも最高です。第2番だけはシゲティ/ホルショフスキー。それ以外ですと、3曲まとめたクーレンカンプとシュナイダーハンというところでしょうか。さて、皆さんのお好きな演奏はいかがでしょうか?

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ブラームスの室内楽 ピアノ三重奏曲集 名盤

Brahmss このところ寄り道が続いたのですっかりブラームスの室内楽特集がストップしてしまいました。これでは晩秋に始めた特集が終わるのは初冬どころか初春になってしまいます。新年早々から「うら寂しいブラームスの・・・・」というのも何なので、ここはペースを上げて年内の終了を目指したいと思います。

ブラームスはピアノ三重奏曲もやはり3曲書きました。3曲とも4楽章構成であり、いずれも名作揃いです。分りませんが本人もこのジャンルを好んでいたのでは無いでしょうか。

「ピアノ三重奏曲第1番 ロ短調Op.8」

第1番から充実した傑作です。第1楽章アレグロ・コンブリオの若々しい曲想は何となくシューベルトかシューマンを思わせますが、長く続く旋律線はまぎれもないブラームスです。ファンにはたまりません。第2楽章スケルツォの中間部のゆったりとした旋律も実に魅力的です。第3楽章アダージョは若きブラームスの青春の甘い憂鬱といった趣きです。第4楽章アレグロは不安げに始まって徐々に情熱的になっていく展開が見事です。この曲は円熟期に改作が行われていて、通常は改作版のほうで演奏されます。

「ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調Op.87」 

第1楽章アレグロは悪くは無いのですが、どうもウジウジと理屈っぽい気がします。それより第2楽章アンダンテのジプシー調のエレジーが魅力的です。主題と5つの変奏でできていてブラームス円熟の匠の技といえるでしょう。第3楽章スケルツォは中間部の旋律が実に魅力的です。第4楽章アレグロは極めて情熱的に高揚して素晴らしいです。 

「ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調Op.101」 

第1楽章アレグロ・エネルジーコはいかにも円熟期のブラームスらしく堂々と重厚なリズムで開始されますが、その後に続くユニゾンの主題が最高です。ブラームスにしか書き得ない男のロマンが何とも魅力的で、「うーんブラームス!」と思わずうなってしまいます。第2楽章プレスト・ノン・アッサイも繊細で不安感を感じさせるとても魅力的な楽章です。第3楽章アンダンテ・グラチオーソは優しく繊細なメロディが心をとても癒してくれます。第4楽章アレグロ・モルトはスタッカートのリズムで不安げに始まりますが、時にゆっくりと歌いながら徐々に情熱的に高揚していく様が素晴らしいです。個人的にはこの第3番に特に惹かれています。

それではいつものように僕の愛聴ディスクをご紹介させて頂きたいと思います。

-第1番ロ短調Op.8-

Cci00043 アイザック・スターン(Vn)、パブロ・カザルス(Vc)、マイラ・ヘス(Pf)(1952年録音 CBS SONY盤) カザルス主催のプラド音楽祭でのライブです。限りなくスケールの大きな演奏はまるでブラームス円熟期の曲に聞こえます。ヘスのピアノは実に慈愛に満ちていて、スターンのヴァイオリンも素晴らしいです。当時のカザルスを中心とした演奏はどれもこれも比較するものの無いほどに偉大な演奏なのですが、それは全てカザルスの精神から生まれているに違いありません。

-第2番ハ長調Op.87-

Cci00044 ヨゼフ・シゲティ(Vn)、パブロ・カザルス(Vc)、マイラ・ヘス(Pf)(1952年録音 CBS SONY盤) これもやはりプラド音楽祭でのライブです。ヴァイオリンがシゲティに代わって演奏は益々深みを増しました。ゆったりとしたテンポでブラームスの叙情を歌い表現し尽くしています。シゲティの偉大な魂がカザルスのそれとぶつかり合う様は壮絶でさえあります。第2楽章ではカザルスが大きなうなり声を出しっぱなしですが、その音楽の崇高さには言葉を失ってしまいます。

Cci00043b アドルフ・ブッシュ(Vn)、ヘルマン・ブッシュ(Vc)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1951年録音CBS SONY盤) これはブッシュ達が米国に渡った後の晩年を迎えた録音です。この演奏もカザルス達に引けを取らない偉大な演奏だと思います。SP時代の甘ったるいポルタメントがだいぶ減りましたが、懐かしい雰囲気をたっぷり味合わせてくれるところは少しも変わっていません。第2楽章などはまるで「荒城の月」でも聴いているようです(^^)。だが私はこれも好きです。そして終楽章の情熱的な高揚感も流石にブッシュです。

しかし、出来ればやはり3曲揃った演奏も聴きたいので、その場合には好きな演奏が二つ有ります。

Cci00042 ルービンシュタイン(Pf)、シェリング(Vn)、フルニエ(Vc)(1972&74年録音 RCA盤) このメンバーなら悪い演奏になるはずがありません。どの曲も3人が持てる実力を発揮していますが、統一感と力関係のバランスが正に絶妙なのです。3人とも誠実な演奏でひたすらブラームスの音楽に奉仕するので、このディスクは正に定番の名に相応しいと思います。もしも初めて3曲まとめたものを購入して聴こうとする場合にはこのCDを選べばまず間違いないと思います。

Cci00042b イストミン(Pf)、スターン(Vn)、ローズ(Vc)(1964、66&69年録音 CBS SONY盤) このトリオは最近はすっかり人気が落ちてしまった様に感じて残念ですが、演奏はルービンシュタイン/シェリング/フルニエと比べてもよりスケールが大きく素晴らしいです。スターンの力強いヴァイオリンはしばしばシェリング以上ですし、他の二人も実力で決して引けを取りません。3曲とも良いのですが、特に素晴らしいのが第3番で、僕が3番を好むのもこの演奏が有るからかもしれません。さんざんカザルスと共演していたスターンのヴァイオリンには大カザルスの魂を感じる部分が少なくありません。

ともあれこの3曲はいずれも素晴らしい曲でブラームスを心から堪能できますので、これまで余りお聴きになられておられない方には是非ともじっくりと聴いて頂けたらと思います。

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ブラームス 交響曲第3番 ザンデルリンク/ウイーン響他 愛聴盤諸々

546 ブラームスの室内楽特集を続けている途中ですが、先日クルト・ザンデルリンクがウイーン交響楽団を振った演奏会のライヴCDが発売されました。新盤といっても1997年の録音ですが、私にとっては「ブラームスといえばザンデルリンク、ザンデルリンクといえばブラームス」と言えるほどの存在なのです。この人のシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管)との演奏が昔からどれほど好きかは以前の記事でお話しました。

http://harucla.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-3c7c.html

ザンデルリンクのブラームスはこの他にもベルリン交響楽団を振った1990年の全曲録音が有ります。しかし私はドレスデン盤のほうが遥かに好きなのです。そしてドレスデン盤の中でも3番と4番の演奏は特に優れています。なので今回新盤が出るとはいえ、正直あのドレスデン盤を越える可能性は99%無いとは思っていました。ですがそれでも非常に楽しみにしてしまうのがファンたる所以です。

さて、新盤をいよいよ聴いてみました。最初の十数小節でほぼ答えは出ました。うーん、これは駄目だ。ウイーン交響楽団がドイツの楽団のような分厚い響きを出すとは思いませんが、中音部が痩せて金管とヴァイオリンが目立ち過ぎます。いつものザンデルリンクでは有りません。テンポもベルリン盤と同じくらいのはずなのに、いやに遅く感じます。ベルリン盤も遅過ぎてもたれると思いましたが、あれは聞きようによってはスケールの大きさを感じないでもありません。ですがこのウイーン響盤は本当にもたれます。響きにも充実感が感じられません。有機的なハーモニーに成っていないからでしょう。これならベルリン盤のほうがどれほど良いことでしょうか。それにしても不思議です。同じ1997年にはエレーヌ・グリモーが独奏を弾くピアノ協奏曲第1番の録音が有りますが、あの演奏はシュターツカペレ・べルリンが分厚く充実した音を出していて凄かったのです。ですから年老いたとかいうことでは説明が付かないのです。オケの違い?かもしれません。ウイーンの楽団は第2番を除いては決してブラームスの音に向いていないと思うからです。この新盤はザンデルリンクのファンの人には余り期待して聴いて欲しくありません。ドレスデン盤の素晴らしさを知っている人はたぶんがっかりすると思うからです。

でもそれはそれとして第3番は本当に良い曲です。どこを取っても渋い響きで最もブラームスらしいのでは無いでしょうか?第1楽章や終楽章の内向的な秘めたる情熱の燃え上がりも素晴らしいですが、第2楽章の静かな歩みのほの暗いロマンや第3楽章の哀愁漂う名旋律もたまりません。個人的にはブラームスの交響曲の中では最も好きかもしれません。

私はザンデルリンク/ドレスデン盤以外はほとんど聴きませんと言いましたが、せっかくの機会ですので一応他の指揮者の演奏にも触れてみます。

・クナッパーツブッシュ/ベルリンフィル(1943年盤と1950年盤) これは巨大なスケールの正に巨人的な演奏。宇野功芳先生大絶賛の演奏なのですが、全くブラームスを聴いた気になれません。金管の咆哮などはこれではまるでワーグナーに魂を売ったブラームスです。私はこのような異型のブラームスはご免です。

・ウィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリンフィル(1954年DG盤) フルトヴェングラーは頻繁にテンポを動かします。ベートーヴェンの場合はそれが自然に受け入れられるのですが、ブラームスにはそれがとても煩わしくなるのです。この演奏はまだ良いほうですが、どっしりとしたスケール感はやはり感じられません。なので私は余り好みません。 

・エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム/コンセルトヘボウ管(フィリップス盤) ステレオ初期の演奏で、高校生のころにカラヤン盤とかと一緒によく聴きました。割りと早めのテンポで実にオーソドックスな演奏です。当時のコンセルトへボウの響きもとても魅力的でした。CDになってずっと聴いていないので久々に聴いてみたい気がします。

・ジョン・バルビローリ/ウイーンフィル(EMI盤) 情緒綿々と歌っているのはそれはそれで良いとしても、ウイーンフィルの澄んだ音は元々ブラームスには向いていませんし、この気の抜けた薄い響きはとてもブラームスの響きではないと思います。私にとっては聴いているのが辛い演奏です。

・エードリアン・ボールト/ロンドンフィル(EMI盤) 過剰なところの無い中々渋く良い演奏だと思います。けれども一方で今ひとつ充実感を与えられません。聴いているときは悪くないのですが、聴き終わった後には余り印象の残らない演奏です。

・オットマール・スイトナー/シュターツカペレ・べルリン(シャルプラッテン盤) 第1、第4楽章はなかなか聴き応えが有ります。響きもドイツ風でブラームスを聴いた気になれてとても良いです。残念なのは第2.第3楽章の旋律の歌わせ方が少々弱いのが気になることです。

・ハンス・シュミット‐イッセルシュテット/バイエルン放送響(GreenHILL盤) 但しこれは海賊盤です。しかし録音も良いし非常に良い演奏なので無視できません。流石はドイツの優秀なオケ。共感たっぷり表情豊かで分厚い響きがなんとも魅力的ですし、意外に早めのテンポにもかかわらず決して軽くはなりません。それにライブならではの高揚感が素晴らしいです。ザンデルリンク/ドレスデン、べルリン両盤以外ではこの演奏が一番好きです。たまに中古店で見かけるのでこれは是非ともお薦めできます。

他にも昔から随分聴いたはずなのですが、今はぱっと出てきません。年かなぁ。(苦笑)

<追記> 棚にCDがまだ有ったので以下に追記します。

・ピエール・モントゥー/コンセルトへボウ管(1960年ターラ盤) モントゥーのブラームスと言えばロンドン響との2番が有名ですが、あれは特には気に入りませんでした。ですがこちらはライブ録音で、オケがベイヌム時代のコンセルトへボウということも有って中々凄い演奏です。テンポは早いのですが表情が豊かで彫りが深いので聴き応えが有ります。金管は鳴り過ぎな位なのですが、ぎりぎりのところで踏みとどまっています。ただしブラームスらしさと言う点ではどうでしょうか。

・エフゲニ・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル(1996年メロディア盤) ムラヴィンスキーは作品によっては相当に手の込んだ演奏をします。ここでも楽器の音量バランスなどはかなり考えられています。けれど正直それが何だ?という印象なのです。逆に煩わしくさえ感じてしまいます。トゥッティも全体は柔らかく音を出そうとしているのに、しばしば金管が咆えては耳にうるさく感じます。これではブラームスの響きからはかけ離れてしまいます。第3楽章を軽く歌うのも独特ではあります。だが結局のところ私はこの人のブラームスは余り好みません。

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ブラームスの室内楽 ピアノ四重奏曲集 

ブラームスの書いたピアノを伴う室内楽曲は全て名作と言えます。と言うよりもともと完璧主義者の彼の作品にはそうでない物はおよそ存在しないのですが、ともかくはピアノ五重奏曲の次はピアノ四重奏曲に行きましょう。彼はこのジャンルでは3曲を残しています。

「ピアノ四重奏曲第1番 ト短調Op.25」 若かしい曲想に満ちていて(ブラームスにしては)(^^)、とても親しみ易い名作だと思います。そのため最も演奏される機会が多いです。短調の割りには暗すぎず、終楽章などは実に情熱的。第三楽章の中間部にとつぜん行進曲が出てくるのもユニーク。この曲には有名なシェーンベルクが編曲した管弦楽版も有りますが、その行進曲部分の大迫力には思わず仰け反ってしまいます。

「ピアノ四重奏曲第2番 イ長調Op.26」 第1番と同時進行で書かれたらしいですが、第2番のほうが曲想はやや明るめです。しかし随所に哀愁漂う旋律がちりばめられていますし、第2楽章などは完全にエレジーです。この辺りはやっぱりブラームス先生ですねぇ。(^^)

「ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調Op.60」 さすがにこの頃の作品になると円熟して実に素晴らしいです。曲の進行に無駄が無く、飽きるところが有りません。不安げな曲想の第二楽章スケルツォ、歌謡調の第三楽章アンダンテ、暗い情熱一杯の終楽章アレグロコモード、いずれも大好きです。

私は第1番と第3番が特に好きなのですが、どうせなら3曲まとめて聴きたいものです。そこで3曲まとまった演奏をということなのですが、これが案外と少ないのです。ここでは私の愛聴盤を二つだけご紹介させて頂きます。

415 イエルク・デムス/バリリSQ(1956年/ウエストミンスター盤) オールドファンなら誰でも知っている、長年王座に君臨してきたバリリSQ盤です。モノラルでも再後期の録音なので音質は良好。表現はどこまでも無理なく自然。若きデムスのピアノもとても味わい深いです。何よりも今では失われてしまった古きウイーンの情緒をバリリSQの名演奏でたっぷりと味わえるのがかけがえがありません。正に永遠の名盤と言えるでしょう。

880 デレク・ハン(Pf)/イザベル・ファウスト(Vn)/ブルーノ・ジュランナ(Va)/アラン・ミュニエール(Vc)(1996年/ブリリアント盤) 実は私はずっとバリリSQの一本道だったのでしたが、最近この素晴らしい演奏を知りました。ヴァイオリンのイザベル・ファウストについてはホルントリオの記事でご紹介しましたが、この演奏は10年前のデビュー直後にこの録音されました。メンバーが凄いのです。弦に詳しい方ならヴィオラのブルーノ・ジュランナはご存知でしょう。昔はウィリアム・プリムローズがヴィオラの神様でしたが、その神様の後継者と言えばこの人でした。ピアノのデレク・ハンのことは知りませんでしたが、ゼルキンにマールボロ音楽祭に招かれた程のピアニストだそうです。どうりで実力は確かなはずです。チェロのミュニエールについてだけが良く分かりませんがやはり上手いです。若手実力ヴァイオリニストをベテラン勢が脇をしっかり固めただけあって演奏は非常に素晴らしいです。よく若手の演奏家が集まったときに感じるような、現代的過ぎて味気無いような演奏とは全く異なります。ベテラン勢とファウストのヴァイオリンとのバランスが絶妙なのです。このCDはブリリアントの「ブラームス室内楽全集」にも入っています、単売でも出ています。この名演奏が廉価盤で買えるなんて何と幸せなことでしょうか。

さて、せっかくの機会だし「第1番」のみだと世評の高い演奏が有るので、触れてみたいと思う。

474 まず昔から人気の高いギレリス/アマデウスSQ盤。評論家もよく推薦していたが、私は好まない。アマデウスQのいつもながらのオーバーな表現には特に驚かないが、ギレリスがどうもいただけないのだ。力み過ぎてしまって音に余裕が無いばかりか、終楽章の16分音符などでは走って前のめりに転んでいて、とても聴いていられない。この時ギレリスは人気カルテットとグラモフォン録音のチャンスを得たことで、余りに張り切り過ぎてしまったのではないだろうか?

903 そして天下の爆演、アルゲリッチ/クレーメル/バシュメット/マイスキー盤。凄いメンバーの凄い演奏だ。面白いことは間違いない。だが果たしてこれが良い演奏かというと?だ。彼らは曲の良さを表現しようというよりも、いかに自分達の腕前を披露してやろうかという態度にしか思えない。曲の節々のいじらしいメロディに少しも共感が無いし、終楽章の快速弾き飛ばしぶりは何!?昔、ワルターバリリが「16分音符は一つ一つの音がはっきりと聞こえるように正確に弾かなければならない」とどこかで話していたが、これは全然逆の演奏だ。バリリ教授は怒るだろうな(^^)。私はこの演奏を全然好まないが、逆にブラームスが苦手な人には間違いなく受けることだろう。

さて皆さんのご意見はいかがなものでしょうか?(反対意見は大歓迎ですよ)(^^)

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ブラームス ピアノ五重奏曲ヘ短調 Op.34 名盤

ブラームスは少年時代、北ドイツの港町ハンブルクで生まれ育ちました。幼少から父親に音楽を習いますが、ピアノ演奏にかけては天才的でした。けれども余り裕福でない家の家計を助ける為に、子供ながらにレストランや酒場でピアノを弾いて稼いだのです。その心境の程は計り知れるところではありませんが、彼は生まれながらのピアニストだったことは確かです。しかるにブラームスの室内楽作品のうちでピアノを伴う曲目は最も重要ですし、実際に作品数も多いのです。

その中でまず1曲を挙げるとしたら、私は迷わず「ピアノ五重奏曲ヘ短調 Op.34」を挙げます。この曲は正に「クラリネット五重奏曲」と双璧の傑作だからです。青年期の作品なので情熱と生命力に溢れていて、ピアノと弦楽は始終寄り添うというよりも、まるで協奏曲のようにお互いがぶつかり合いますが、その迫力に思わず手に汗を握ってしまいます。それでいて、いかにもブラームスらしい哀愁と寂寥感が至るところに漂っているのがファンにとってはたまらない魅力です。

Cci00029 ルドルフ・ゼルキン/ブッシュSQ(1938年/EMI盤) この曲の名盤といえば古いところではゼルキンとブッシュSQのSP録音が有ります。アドルフ・ブッシュは戦前のドイツ・ロマン派のヴァイオリンの伝統を継承する最後の生き残りです。この演奏は力強さは有りますが、非常に情緒的でほの暗い浪漫の香りが一杯に漂っています。ですので第2楽章などは最高です。ブラームスファンは一度は聴いておくべき演奏だと思います。但し、この曲は非常に立体的な作品なので、できればステレオ録音で聴きたいところです。そこで以下はステレオ録音の愛聴盤をご紹介します。

Cci00035 パウル・バドゥラ=スコダ/ウイーンコンツェルトハウスSQ(1960年/オーマガトキ盤) ウイーンコンツェルトハウスというとウエストミンスターのモノラル録音が有名ですが、これはそれとは別のステレオ盤で、彼らが来日した時にNHKのスタジオで録音されたものです。彼らは日本でこの他にも日本コロンビアに数曲のステレオ録音を残しているのですが、今では話題に上がることすら有りません。いずれもすこぶる名演なのに実に残念です。さて、この演奏の難点はバドゥラ=スコダのピアノが柔らかすぎて迫力に欠けることです。ウエストミンスター盤ではデームスでした。ピアノだけならデームスが上なのですが、この60年盤はコンツェルトハウスSQが非常に良く、立体的に歌いきっていて実に素晴らしいです。これは恐らく第2Vnに若き名手ワルター・ウェラーが入ったことが大きいと思います。第1Vnのアントン・カンパーとの強力2トップでウイーンの弦の魅力をこれ以上無いほどとことん味合わせてくれるのです。

Cci00033 ルドルフ・ゼルキン/ブダペストSQ(1963年/CBS SONY盤) この演奏は若いときからブッシュSQとの競演でさんざん鍛えられた豪腕ピアニストのゼルキンと、世紀の豪傑カルテット、ブダペストとの正に真剣勝負です。その精神性の厳しさと音楽の深さは比類が無く、最初から最後まで惹きつけられっぱなしになります。第3楽章の緊迫感も唖然とするほどです。初めてこれを聴く人はきっと腰が抜けるでしょうから注意して頂きたいです(^^)。この歴史的名盤は全ての人に聴いて頂きたいですし、個人的にも最も好んでいる演奏です。

393 マウリツィオ・ポリーニ/イタリアSQ(1980年/グラモフォン盤) この演奏は一般的には一番人気が高いのではないでしょうか。オール・イタリアンの実に流麗で爽やかな演奏なので聴いていてとても楽しいです。ですがそれは脳天気な明るさとは無縁です。ブラームスにしてはやはり渋みが少々足りないかもしれませんが、そこはこの曲の持つポテンシャルの広さということで素直にこの名演奏を楽しみたいものです。 

31409651 クリストフ・エッシェンバッハ/アマデウスSQ(1968年/グラモフォン盤) この録音はアマデウスSQの録音の中ではそれほど目立たない気がします。しかし第1Vnブレイニンの表情たっぷりの演奏は健在ですし、他のメンバーも同様です。「おいおいもう少し肩の力抜けよ~」と言ってやりたいくらいです(苦笑)。若き日のエッシェンバッハも悪くはないですが、ゼルキン、ポリーニと比べるとどうしても格の違いを感じてしまいます。

それにしても、この曲は何回聴いても飽きないです。つくづくブラームジアーナーで良かったと思っています。どうですか、あなたも私と同じ穴のムジナになりませんか?(^^)

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