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2024年6月 1日 (土)

ゲルギエフ/ミュンヘン・フィル ブルックナー交響曲全集 聖フローリアン修道院のライヴ盤

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ワレリー・ゲルギエフ指揮ミュンヘン・フィル(ワーナークラシックス盤) 

今年はアントン・ブルックナーの生誕200年にあたり、世界各地でその作品が多く演奏会で取り上げられるようです。
ブルックナーが生まれたオーストリアのリンツではブルックナー音楽祭が毎年秋に開催されていますが、ゲルギエフとミュンヘン・フィルが2017年から2019年に3年連続で招待され、ブルックナーの聖地である聖フローリアン修道院で交響曲の全曲演奏と録音を成し遂げました。この教会と言えば、朝比奈隆と大阪フィルの1975年ヨーロッパツアーでのライヴ演奏がまず思い起されます。 

ミュンヘン・フィルは、かつてブルックナーの弟子レーヴェがブルックナー作品を積極的に取り上げましたが、その後もクナッパーツブッシュ、ケンペ、ヨッフム、チェリビダッケ、ヴァント、ティーレマンといった層々たるブルックナー指揮者たちが指揮台へ登壇を重ねて来ました。つまりこの楽団にはブルックナーの響きが底の底から沁みついています。 

2015年からこの楽団の首席指揮者になったゲルギエフはロシア音楽では傑出した能力を発揮しますが、個人的にはブルックナーには懐疑的でしたので、この全集も三年ほど前に出ましたが、全く聴きませんでした。ところがひょんな事から一部を耳にして素晴らしさに驚き、すぐに全集盤を入手しました。 

全体に、特に中期以降の曲ではゲルギエフらしさはほとんど感じません。チャイコフスキーの時のような濃厚さは見せず、ほとんどのブルックナー指揮者が見せる自然体の解釈により、あの深遠な音楽を再現させています。ただ考えてみればロシア音楽でもゲルギエフはテンポの急激な変化は余り取らずに、息の長い旋律を深く歌わせます。そのスタイル自体は実はブルックナーの理想形に共通しています。

管弦楽の響きについては何しろ聖フローリアン修道院の長い残響の美しさは有名で、ここでミュンヘン・フィルが演奏すれば指揮者は普通に指揮しても(変なことをしなければ)まず名演となるでしょう。 

これはミュンヘン・フィルの自主制作録音盤ですが、残響と各楽器の音の分離は良好で、バランスの良さは特筆出来ます。

全集CD盤はワーナークラシックスが販売していますが、他にもBlu-ray + DVD盤も出ていますので価格はともかくお好みで。各曲の1枚盤も出てはいますが、やはり全集をお勧めします。 

各曲の短い感想と録音データ、使用版を付け加えます。 

交響曲第1番ハ短調(2017925日録音)リンツ稿 ノヴァーク版
1楽章を落ちついた歩みで開始され、力みが皆無です。凛とした空気感が素晴らしく、改定前のリンツ稿の使用でありながら、中期作品のような余裕と貫禄を感じさせます。これを聴けばゲルギエフがブルックナーを正統的なスタイルで掌中に収めていることが直ぐに分ります。 

交響曲第2番ハ短調(2018924-25日録音)1877年ノヴァーク版
1楽章は速めのテンポでサクサクと足取りを進め、若々しさを感じます。対旋律は明確に処理されて、各部の表情がとても豊かです。2楽章は美しく、奥深さも感じさせます。3、4楽章はやたら煽らずに落ち着きが有り、底光りするような美しさと魅力が有ります。

交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」(2017925日録音)1888/89年ノヴァーク版
ゲルギエフは最初の年に1番、3番、4番を演奏しました。後期の作品はごく自然体ですが、初期の曲では幾らか表現意欲を感じさせます。それが不自然なことは無く、逆に初期作品の幾らかの物足りなさを補う結果をもたらしています。この曲も震えるほどに美しくロマンティックで心から魅了されます。 

交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(2017926日録音)1877/78年第二稿+1880年終楽章
導入部の神秘的な美しさは特筆されます。主部に入ると割と早めにサクサクと進み、徐々に壮絶なほどに盛り上がります。ロマンティックで表情は豊か、積極的な表現意欲を感じますが、あくまで自然で効果的です。往々に退屈する2楽章も飽きさせません。3、4楽章も作品を再認識するほどの楽しさが有り、この曲が苦手の人にこそ聴いて欲しいです。 

交響曲第5番変ロ長調(2019923-24日録音)原典版
1楽章はゆったりとしたテンポでスケールが大きいのは良いのですが、展開部がイン・テンポ過ぎて高揚感に不足を感じます。しかし後半では巨大な大伽藍となり正に圧巻です。2楽章の荘厳さと美しさも最も素晴らしいものの一つです。後半も3楽章、4楽章と素晴らしく、特に後者の壮大さは特筆されます。この曲のベスト盤のヨッフム/ACOに次ぐ位置を占めるかもしれません。 

交響曲第6番イ長調(2019924-25日録音)原典版
この曲も他の曲と同様にゆったりとしたテンポでスケールの大きい演奏です。1楽章から美しく、ハッタリが皆無なので幾らか地味に感じられます。2楽章も沈み込む雰囲気とは違いますが、大層美しいです。3楽章以降もむしろ地味さが良い方に転んでいて、ブルックナーとしてはともすると外面的に聞こえるこの作品が後期の傑作に近づくような奥深さを感じさせます。過去のヨッフムやスクロヴァチェフスキの名盤に並ぶと思います。但し録音が余りに残響豊か過ぎには思います。 

交響曲第7番ホ長調(2019925-26日録音)原典版
あの朝比奈/大阪フィルのフローリアン盤を思い起こします。ゆったりとした呼吸の深さが素晴らしいです。2楽章の修道院の響きと管弦楽の響きが一体となっての美しさは実に感動的です。終楽章はスケールが巨大で、あたかもアルプスの巨峰を仰ぎ見るようで正に圧巻です。この曲のベスト盤を争うことでしょう。 

交響曲第8番ハ短調 2018926日録音)1890年ノヴァーク版
遅めのテンポで堂々としたスケールの大きさが有ります。クナッパーツブッシュはともかく、ヨッフムやヴァントの演奏のような圭角を感じないのに幾らか物足りない気もします。とはいえ修道院の深い響きで聴けるこの曲の演奏の魅力はやはり特別なものです。 

交響曲第9番ニ短調 (2018926日録音)原典版
ゆったりとしてスケールが大きく、この曲に相応しいです。と言ってもバーンスタインやジュリーニのような余りに遅過ぎてもたれるようなことが無いのが良いです。特に第3楽章は深々として極めて感動的です。この演奏はこれまで双璧として好んできたシューリヒト/VPO、ヨッフム/MPO両盤に加えてベスト3としても良いかもしれません。 

少し前にティーレマンとウイーン・フィルの全集を「決定盤」と言いました。00番、0番が含まれる点を考えるとそれは変わりませんが、1番から9番が揃えば良いという方には、むしろこのゲルギエフ盤をお薦めしたい気がします。 

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聖フローリアン修道院

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コメント

「ハルくん」さん、久し振りの書き込みで失礼いたします。

聖地での全集と云う点と貴台のコメントにひかれ、ポチしてしまいました(政治的な問題で消えるかもしれませんし)。

手始めに今朝4番を聴きましたが、悠然とした指揮と暖かみのある音に魅了されました。「團菊じじい」ならぬ「フル・クナじじい(せいぜいベーム、ジュリーニ辺りまで)」なので、現代の指揮者にも(ライブはともかくCDで聴いても)良い演奏をする人がいるなぁと再認識しました。有難うございます。

投稿: Leikon | 2024年7月13日 (土) 07時54分

Leikonさん、こんにちは。

そうなのですね!
4番をお気に入られましたか。
それなら残りのどの曲を聴かれても大丈夫だと思います。
やはり「聖地」での全集だと言う点には惹かれますね。それを抜きにしても素晴らしいと思いますが。
どうぞごゆっくりと楽しまれてください!

投稿: ハルくん | 2024年7月13日 (土) 12時19分

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