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2023年12月27日 (水)

ワーグナー 楽劇「ワルキューレ」 ~4部作「ニーベルングの指環」第一日~ 名盤

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早いもので今年もまた終わろうとしています。これが年内最後の記事と成りますが、長編なので何とか間に合って良かったです(笑)。

ワーグナーの「ニーベルングの指環」は、世界の支配者に成ることが出来る魔法の指輪をめぐって繰り広げられる物語が4日間に渡って上演されるという超大作オペラですが、CD聴き比べシリーズは、序夜「ラインの黄金」に続いて第1日「ワルキューレ」です。 

「ワルキューレ」(独:Die Walküre)は、1856年に作曲されて、1870年にバイエルン宮廷歌劇場でフランツ・ヴュルナーの指揮で初演されました。 “ワルキューレ”というのは北欧神話に由来する神々の長の娘たちの軍団で、戦場で生きる者と死ぬ者を定め、死んだ男たちの中から最強の勇士を選んで神々の城のあるヴァルハルに連れて行く使命を持ちます。 

「指環」四部作の中では「ワルキューレ」が最も人気が高く、単独で上演される機会も多いです。とりわけ第1幕は、この幕のみで演奏会形式で取り上げることが有ります。また、第3幕も有名な「ワルキューレの騎行」や終結部の「ヴォータンの告別」「魔の炎の音楽」が単独でしばしば演奏されます。 

<主な登場人物>
ジークムント(テノール) ヴォータンが人間に生ませたヴェルズング族の若者。

ジークリンデ(ソプラノ) ジークムントの双子の妹。フンディングの妻。

フンディング(バス) ジークリンデの夫。ヴェルズング族の宿敵。

ヴォータン(バリトン) 神々の長。神々の没落を予感している。

フリッカ(メゾソプラノ) ヴォータンの妃。結婚の女神。

ブリュンヒルデ(ソプラノ) ワルキューレたちの長女。ヴォータンとエルダの娘。

8人のワルキューレたち(ソプラノ、メゾソプラノ、アルト) 

<物語の概要>
 全3幕(11場)

第1幕 「フンディングの館」
(序奏)低弦が荒々しく奏されて、激しい嵐と逃げてくるジークムントを表す。トランペットにより稲妻が、ティンパニにより落雷が轟き渡り、幕が上がる。 

第1場
戦いで傷ついて嵐の中を逃げてきたジークムントが館に入って来る。フンディングの妻であるジークリンデがジークムントに水を与えて介抱する。すると二人はお互いに惹かれ合う。 

第2場
そこへ館の主人のフンディングが戻って来る。ジークムントの話を聞いたフンディングは、ジークムントが敵であることを悟り、一晩だけは客として扱うが、明日の朝には決闘すると言い渡す。

第3場
ジークリンデはフンディングに眠り薬を飲ませて、ジークムントを逃がそうとする。ジークムントは「冬の嵐は過ぎ去り」を歌う。ジークリンデも「あなたこそ春です」と歌い、二重唱となる。互いに生い立ちを語るうちに、自分たちが兄妹であることを知る。

ジークムントは、庭のトネリコの木に突き立てられて、それまで誰も引き抜くことが出来なかった剣を引き抜くと「ノートゥング」と名付ける。ジークムントはジークリンデを「妹にして花嫁」であると宣言し、二人で館から逃げ去る。

第2幕 「荒れ果てた岩山」

第1場
ワルキューレの騎行の動機が流れて幕が上がる。ヴォータンとブリュンヒルデが立っている。ヴォータンはブリュンヒルデに、ジークムントとフンディングの戦いでジークムントを勝たせるように命じる。ブリュンヒルデが去ったところへフリッカが登場する。フリッカは、ジークリンデの不倫と兄妹の近親相姦を厳しく非難する。ヴォータンは、勢いに押されてやむなくジークムントを負けさせることを誓う。

第2場
ブリュンヒルデが戻ると、ヴォータンは「ジークムントに死をもたらすように」と命じる。ヴォータンによる長い語りで、ファーフナーにヴァルハラ城建造の報酬としてニーベルングの指環を与えたが、それがアルベリヒの手に戻ることを恐れて、神々の意志とは離れた人間にファーフナーから指環を奪わせる構想(「遠大な計画」)を立てたものの、それが挫折して、神々の終末が訪れるという予感が述べられる。ブリュンヒルデはそれに当惑してしまう。

第3場
逃げてきたジークムントとジークリンデが登場する。ジークリンデは、ジークムントが戦いで倒れてしまう幻覚に捉われて気を失う。

第4場
ジークムントが気を失ったジークリンデを介抱していると、ブリュンヒルデが現れる。ブリュンヒルデは「ジークムントはフンディングと戦って死ぬ運命だが、勇者としてヴァルハルに迎え入れられる」と告げる。しかし、ジークムントはジークリンデと離れることを拒否し、ならばノートゥングで二人は死ぬと言う。心を打たれたブリュンヒルデは、ヴォータンの命令に背いてジークムントを救うことを決意する。

第5場
フンディングの角笛が響いてくる。雷鳴が轟き、ジークムントとフンディングの戦いが始まる。ブリュンヒルデがジークムントに加勢しようとするが、その時ヴォータンが現れ、槍でノートゥングを砕く。剣を失ったジークムントは、フンディングの槍に刺されて敗れる。叫び声をあげるジークリンデを、ブリュンヒルデは愛馬グラーネに乗せて連れ去る。ヴォータンは、命令に背いたブリュンヒルデに怒り、恐ろしい勢いで後を追う。

第3幕 「岩山の頂き」
(序奏)「ワルキューレの騎行」に乗って8人のワルキューレたちが歌いながら岩山に集まってくる。

第1場
一歩遅れてブリュンヒルデがグラーネに乗ってやってくる。ヴォータンの命令に背いてジークリンデを連れ去ったことを聞くと、ワルキューレたちは愕然とする。ジークリンデは死にたがるが、ブリュンヒルデがジークリンデの体には子供が宿っていることを告げて、生きるように説得する。いずれ英雄と成るはずの子に「ジークフリート」と名付ける。ジークリンデはノートゥングの破片を持って森へ逃れてゆく。

第2場
後を追って来たヴォータンが怒り狂って到着する。ブリュンヒルデをワルキューレから外し、父娘の縁も切ると告げる。それをなだめようとする他のワルキューレたちを追い払うと、ヴォータンとブリュンヒルデの二人だけとなる。

第3場
ブリュンヒルデは、自分の行動はヴォータンの真意を汲んでのことだと説明するが、ヴォータンは、処罰は変えられないと言う。ブリュンヒルデは「ひとつだけ願いがある、自分の周りに火を放って誰も近づけないようにしてほしい」と言う。ヴォータンは「さらば、勇敢で気高いわが子よ」と歌い、「ヴォータンの告別」の音楽となる。
ヴォータンはブリュンヒルデを抱き寄せ、目を閉じさせると岩山に横たえ、体を盾で覆う。槍を振り、岩を3度突いてローゲを呼び出すと「魔の炎の音楽」となる。
岩から炎が上がり、ブリュンヒルデを取り囲む。ヴォータンは「この槍の穂先を恐れるものは、決してこの炎を踏み越えるな!」と叫ぶ。炎に囲まれて横たわるブリュンヒルデを残してヴォータンが去ると幕が下りる。

―CD紹介―

それでは所有しているCDの紹介です。大半は4部作まとめての全曲盤となりますが、昔のLP盤時代にはそれぞれが単独で発売されましたし、「ワルキューレ」のみでレコード化されることも有りました。LP盤といえども長時間過ぎたのでしょう。現代はブルーレイディスク1枚に「指環」四部作が収まってしまうのですから時代は変わりました。何はともあれ順にご紹介します。 

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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1950年録音/ Gebhardt盤)
第2次大戦後、フルトヴェングラーがミラノ・スカラ座で行った「指輪」全幕上演の際の歴史的な録音です。イタリア放送によるモノラル音源をもとに様々なレーベルからリリースされましたが、自分が所有するのはドイツの復刻盤を主とするGebhard盤です。残念ながら音は貧しく、音揺れも多々あります。キングレコードが伊チェトラ社から取り寄せた初期アナログテープを基にした復刻盤が「音が良い」とのふれこみで出ていますが、かなり高価なのでハイライト盤しか所有しません。ところが高価な割にはGebhard盤より格段に良いとまでは言えませんし、どちらにしてもワーグナーの管弦楽を楽しむには全く物足りません。それでもスカラ座のオーケストラは金管の響きが幾らか明るい傾向はあるものの、フルトヴェングラーの実演だけあって、演奏は白熱してドラマティック、かつロマンティックな息づかいが一杯に漂っています。第三幕など実に感動的です。歌手陣もブリュンヒルデにフラグスタート、ヴォータンにフェルディナント・フランツ、ジークムントにギュンター・トレプトウなど、素晴らしい歌手達が揃っています。 

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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮イタリア放送交響楽団(1953年録音/EMI盤)
1953年にローマで行われた演奏会形式による「ローマ・リング」も素晴らしいです。舞台を伴わなかった分、「ミラノ・リング」の白熱さには及びませんが、オーケストラともども演奏に集中出来たのか、完成度の高さが有ります。「ミラノ」の方がフルトヴェングラーらしいとの評が一般的ですが、ミラノはいわば“戦時中のフルトヴェングラー”のようで、ローマは“戦後のフルトヴェングラー”だとも言えるでしょう。歌手はブリュンヒルデにマルタ・メードル、ヴォータンにフェルディナント・フランツ、そしてジークムントにはヴォルフガング・ヴィントガッセンと主要なキャストも理想的です。録音については「ラインの黄金」の時にも書きましたが、無理に高音域を強調せずに、高中低域のバランスが良いので聴き易いです。惜しまれるのはEMIの優柔不断のためにイタリア放送局がオリジナルテープを消してしまったことです。アセテート盤から起こしたテープではなくて、オリジナル音源から復刻されていたらどんなに良かったでしょう。 

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クレメンス・クラウス指揮バイロイト祝祭劇場管(1953年録音/オルフェオ盤)
1953年に初めてバイロイトの指揮台に立ったクラウスでしたが、翌年5月に急死してしまった為に「指環」の演奏はこの時の1回だけで終わりました。クラウスは、同じ時代のクナッパーツブッシュやカイルベルトなどの重厚でゲルマン的な演奏とは異なり、速めのテンポで流れるように進み、旋律もしなやかに歌わせます。リズムのキレが良く生命力に溢れますが、要所でのテンポの変化が秀逸で、劇的さにも何ら不足しません。その辺りは後年のベームやブーレーズ時代の先取りだったのかもしれません。歌手陣に関しては、ヴォータンのホッター、ブリュンヒルデのヴァルナイ、ジークリンデのレズニク、ジークムントのヴィナイ、フンディングのグラインドルと、よくもまぁこれだけ凄いメンバーが揃ったものだと感心します。彼らが各場面で演じる丁々発止のかけ合いには思わず唸らされます。歌の濃さとクラウスの子気味良さとのバランスが絶妙で、作品の長さを少しも感じさせません。オルフェオ盤はバイエルン放送協会のオリジナル音源が使用されて、モノラル録音ながら明瞭で安定した音です。管楽器の音が幾らか奥に引っ込み気味ですが、歌手達の凄い歌をとことん味わうにはむしろ好都合かもです。 

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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル(1954年録音/EMI盤)
EMIはフルトヴェングラーの「リング」全曲のセッション録音を企画していたので、「ローマ・リング」のレコード化の契約を躊躇し、それが結局はオリジナルテープ消去の要因と成りました。EMIの録音は「ワルキューレ」から開始され、1954年の9月末から10月初めにウィーン・フィルとムジークフェラインにおいて行われました。ところがその直後に体調を崩し、僅か2か月後にフルトヴェングラーは肺炎のために亡くなります。このフルトヴェングラー最後の録音は、ミラノやローマでの演奏と比べると、テンポも落ち着いていて、白熱さはやや薄めとなりました。しかし要所での気合の入り方はとても世を去る直前の人の演奏とは思えません。特に第三幕は素晴らしく、終結部の「ヴォータンの告別」から「魔の炎の音楽」にかけては非常に感動的で胸を打たれます。弦楽や管楽の豊かな表現力もウィーン・フィルならではです。歌手もジークムントのズートハウスが素晴らしく、ブリュンヒルデのメードル、ヴォータンのフランツ、ジークリンデのリザネック、フンディングのフリックと最高の面々が揃っています。録音はモノラルですが、「ミラノ」「ローマ」よりもずっと明晰でバランスの良い音です。そうなると尚更のこと四部作が完成しなかったのが惜しまれます。 

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ヨーゼフ・カイルベルト指揮バイロイト祝祭劇場管(1955年録音/テスタメント盤)
演奏会のライヴは1960年代半ばまではモノラル録音が一般的でしたが、それが1955年のバイロイトで「指環」全曲のステレオ録音が行われたのは全くもって奇跡です。デッカ・チームによる録音しに残る偉業と言えます。これは2チクルスあった公演の1回目のチクルス本番を基に編集されていますが、2回目のチクルスによる録音盤も別途リリースされています。どちらにしても「ラインの黄金」と同様に録音は非常に明瞭で、管弦楽の中低域の音の厚みや自然な広がりが素晴らしいです。カイルベルトも堂々たる指揮ぶりで、真のドイツのカペルマイスターとしての実力を遺憾なく発揮しています。要所での劇的な迫力も凄いですし、「魔の炎の音楽」にかけての終結部は凄いです。歌手についてはヴォータンにホッター、ジークムントにヴィナイ、ブリュンヒルデにヴァルナイ、フンディングにグラインドルという強力布陣です。ジークリンデのブラウエンスタインは美声で可憐な雰囲気で、強そうなヴィナイの兄貴との組み合わせが楽しいです。ちなみに第2チクルス盤では、ブリュンヒルデがメードル、ジークリンデがヴァルナイに配役が入れ替わりますが、組み合わせとしてはどうでしょうか。 

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ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭劇場管(1956年録音/オルフェオ盤)
クナッパーツブッシュがバイロイトで「指環」を指揮した1951565758年のうち、唯一の正規盤がリリースされているのが56年で、このオルフェオ盤にはバイエルン放送協会所有のマスター音源が使われています。但しモノラル録音で、管弦楽の音が今一つ明瞭さに不足して感じられる部分も有るものの、歌手の声は非常に明瞭で、この年にもずらりと揃った名ワーグナー歌手達の歌唱を心から味わえます。特にジークムントがヴィントガッセンなのは嬉しく、その英雄的で若々しい美声は、ヴィナイの野趣の有る太い声よりも好みます。ブリュンヒルデのヴァルナイ、ヴォータンのホッター、ジークリンデのブラウエンスタイン、フンディングのグラインドルは前の年のカイルベルト盤と同じメンバーなので文句無しです。しかしこの演奏の主役はやはりクナッパーツブッシュで、第1幕前奏曲から遅めのテンポで雄大に開始します。録音の影響で演奏の凄味がやや損なわれているのが残念ですが、それでも聴く進むうちに現われる様々な動機をスケール大きく劇的に盛り上げてゆく指揮ぶりはやはり圧巻で、他の指揮者がみな矮小に感じられそうです。終結部の「ヴォータンの告別」から「魔の炎の音楽」にかけての何と深いこと! 

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ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭劇場管(1957年録音/ WALHALL盤)
クナッパーツブッシュのバイロイトの「指環」全曲盤の195758年の正規盤は未だに出ていませんが、MelodramWALHALLなどのマイナーレーベル盤から音の良いディスクが出ていますし、57年盤はキングレコードからも出ています。そのうち自分が所有しているのはWALHALL盤です。モノラル録音ですが、バイロイトにしてはオンマイク的で分離が良く、細部も明瞭で生々しさが有ります。歌手の声も明瞭なのですが、強音で幾らかざらつきが感じられるのがマイナスです。もっとも年代を考えれば気に成るほどではありません。管弦楽は録音の影響で前年1956年盤よりも迫力が感じられ、クナッパーツブッシュの巨大なワーグナーの世界への感銘度が更に増します。歌手については、ヴォータンのホッターはもちろん前年と変わらず、「ヴォータンの告別」から「魔の炎の音楽」は正に感涙ものです。ブリュンヒルデのヴァルナイ、フンディングのグラインドルも前年と同じですが、ジークフリートはラモン・ヴィナイに、ジークリンデはビルギット・ニルソンに変わりました。ヴィナイの男っぽい声は、いかにも強そうで、ヴォータンの槍にも負けそうに無いのが()、いかがなものでしょう?全体の配役だけなら個人的には前年の方が好みです。 

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ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭劇場管(1958年録音/GOLDEN Melodram盤) クナッパーツブッシュとして最後の「バイロイト・リング」となる58年の録音ですが、自分が全曲盤で所有しているのはMelodram盤です。これは非正規盤でモノラル録音ながら音質が驚くほど優れています。57年盤も優れた録音でしたが、この58年の録音は更に音質が向上しています。オーケストラの厚い重低音、澄んだ高音域が素晴らしく、歌手の声も極めて明晰ですし、音場感や舞台の奥行きや広がりが大いに感じられます。55年のステレオ録音のカイルベルト盤と比べても、ほとんど遜色無い様に感じられます。クナの演奏自体も増々音がうねり、彫が深く、翳りが濃くなり、途方も無く深化を遂げています。「ワルキューレの騎行」など要所での迫力にも圧倒されます。オーケストラの質自体も高まり、57年ではオーケストラのアンサンブルや金管のハーモニーがいま一つでしたが、58年では見事に改善されています。歌手はヴォータンのホッター、ブリュンヒルデのヴァルナイ、フンディングのグラインドルは前年と変わりませんが、ジークムントにジョン・ヴィッカーズ、ジークリンデにレオニー・リザネクが起用されました。ヴィッカーズの声質は役柄には相応しいと思います。Melodramの全曲盤は今では入手が難しいですが、WALHALLの「ワルキューレ」単独盤なら入手可能だと思います。 

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ルドルフ・ケンペ指揮バイロイト祝祭劇場管(1961年録音/オルフェオ盤)
戦後にバイロイトの演出を手掛けたヴィーラント・ワーグナーの弟であるヴォルフガンク・ワーグナーが新演出した「指環」でした。指揮を任されたケンペは4年間続けて振りますが、これは二年目の1961年の公演です。ケンペはそれ以前のクナッパーツブッシュやカイルベルトらと比べてしまうと、幾らかスケールに小ささが感じられるのはやむを得ません。これが「指環」でなく「ローエングリン」あたりなら気に成らないのでしょうが。それでもドイツの正統的な実力派として、がっちりとした構築性を持った聴き応えある演奏を成し遂げています。特に後半になるほど凄味を増します。歌手は、ブリュンヒルデのヴァルナイ、フンディングのフリック、フリッカのリザネク辺りは常連ですが、ヴォータンのジェローム・ハインズ、ジークリンデのレジーヌ・クレスパンは新鮮です。ジークムントのフリッツ・ウールだけは何となく“優男(やさおとこ)“に聞こえなくもありません。音源はバイエルン放送協会のマスターで、モノラル録音ながら大変明瞭で音域のバランスも良い優れた音質です。歌声が最強音で僅かに音割れしますが気にするほどでは有りません。 

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エーリヒ・ラインスドルフ指揮ロンドン交響楽団(1961年録音/DECCA盤
ラインスドルフはウィーン生まれで戦前はヨーロッパで活動しましたが、ユダヤ人だった為に米国に移り、1937年からはメトロポリタン歌劇場で活躍します。のちにボストン響の監督にも就きますが、メトでのオペラ指揮者としての活動の方が長いです。「ワルキューレ」は確かメトでのデビュー演目だったと思います。60年代にメトで指揮した「指環」全曲の復刻盤も出ていますが、「ワルキューレ」は最も得意とするようで、DECCAによりロンドンでセッション録音が行われました。ショルティ盤の陰に隠れていますが、これほど刺激的でスリリングな演奏には中々おめにかかれません。冒頭の前奏曲で嵐の中をジークムントが逃げてくるシーンから凄まじい速さで切羽詰まった雰囲気に驚かされます。ロンドン響もラインスドルフの要求に応えて、緊張感あふれる音で熱演しています。しかも歌手はブリュンヒルデにニルソン、ヴォータンにジョージ・ロンドン、ジークムントにヴィッカーズ、ジークリンデにブロンウェイステインと、主要役はバイロイトにも遜色有りません。DECCAの録音ももちろん優秀で、「指環」全曲が録音されていれば、もしやショルティ盤は制作されていなかったかもとさえ思えます。 

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ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー(1965年録音/DECCA盤)
ショルティの「指環」で最後に録音されたのは「ワルキューレ」でした。前述したラインスドルフ盤ではケチを付けましたが、何と言ってもこの当時のウィーン・フィルの美しい音を完成度の高い演奏で聴くことが出来るのは価値が有ります。しかしショルティには、まだまだ、少なくともセッション録音でオペラの感興を常に高く維持する能力には不足していた気がします。特に第1幕の緊迫感を欠いた演奏には、まるで各動機のサンプラー盤を聴くような虚しささえ感じます。それは、ジークムントのジェームズ・キング、ジークリンデのクレスパン、フンディングのフリックという歌手達に責任が有るわけでは無く、指揮者の問題なのは明らかです。ところが、第2幕ではヴォータンのホッタ―、フリッカのルードヴィッヒ、ブリュンヒルデのニルソンと共に緊張感を取り戻して良い演奏となり、ムラが大きいです。第3幕の「ワルキューレの騎行」の演奏はフランシス・コッポラ監督の「地獄の黙示録」に使われたことでブレイクしましたが、音響効果を加えているので本当のスペクタクル映画みたいなのが微妙です。その後も迫力ある音が、すこぶる聴き映えしますが、総じてドラマよりはサウンドを楽しむディスクだと言えそうです。しかし、終幕のホッタ―による「ヴォータンの告別」は絶品です。 

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カール・ベーム指揮バイロイト祝祭劇場管(1967年録音/フィリップス盤)
1965年から67年まで三年間続けてバイロイトで「指環」を指揮したベームの全曲盤は66年と67年の録音で編集されていますが、「ワルキューレ」は最後の67年の演奏です。当時は『次の演奏会場へ行くのを急いでいるような演奏だ』と酷評もされましたが、冒頭の前奏曲から緊迫感に溢れ、速めのテンポでぐいぐいと進みます。その後も、凄まじい緊張感と迫力が生きた“ドラマ”を生み、否応なく惹き込まれてしまいます。退屈する余裕など何処にも無く、前述のショルティと何という違いでしょう。管弦楽の迫力はベームのワーグナーならではで、その凝縮された厳しい響きは決して耳に優しい音とは限りませんが、ひとたびその魅力に取りつかれたら、麻薬の様に繰り返して聴きたくなります。このような生き生きとした魅力は劇場の実演の長所で、セッション録音からは中々に生れ辛いものだという気がします。歌手については、ジークムントのジェイムズ・キングは声が若々しい為にジークリンデのリザネクからは弟君のようにも聞こえますが素晴らしいです。ブリュンヒルデのニルソンはもちろん文句無しですが、ヴォータンのテオ・アダムの声質が軽いのが残念。フンディングのニーンシュテットもやはり同様。フリッカのブルマイスターには恐妻ぶりが足らない印象。と、全体的には不満も残りますが、それを全部吹き飛ばしてしまうのがベームの見事な指揮と管弦楽です。フィリップスによる録音は残響の少ないバイロイト劇場の音に忠実で生々しさが有り、この演奏に相応しいです。 

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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー(1966年録音/グラモフォン盤)
カラヤンの「指環」は1966年から1970年にかけて録音されましたが、最初の録音は「ワルキューレ」でした。ちなみに自分が大学生の頃に初めて買った「指環」もこのカラヤンのLP盤でした。「ラインの黄金」の記事の時にも書きましたが、この演奏は正に『室内楽的で精緻な演奏』です。もちろん、ここぞという箇所では凄い音を鳴り響かせますが、全体に渡りベルリン・フィルを駆使して“微に入り細に入り”精緻な音を出させています。管弦楽の音が明るいことも有り、ワーグナーのゲルマン的な響きというよりもリヒャルト・シュトラウスを想わせますが、劇場では実現困難な最高に精妙な演奏が聴かれます。それは入念なセッション録音にして初めて実現するのでしょうが、代償として、劇場の舞台のドキドキする興奮は薄められます。特に第1幕にその弱点が感じられます。しかし第2幕以降では中々のドラマを表出しているのはさすがカラヤンです。歌手に関してはジークムントのヴィッカーズ、ジークリンデのヤノヴィッツには特に不満は有りません。ブリュンヒルデのクレスパンは何となくエキセントリックなところがクンドリっぽい?です。ヴォータンのステュアートは声に貫禄が足りませんし、フンディングのタルヴェラもしかりです。総じて歌手陣には、やや不満が残りますが、ここはまぁベルリン・フィルが主役ということで。録音は優れますが、ショルティの「指環」ほどオーディオ・サウンド風で無いのは好印象です。 

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ピエール・ブーレーズ指揮バイロイト祝祭劇場管(1980年録音/フィリップス盤)
「指環」のバイロイト初演100周年となった1976年以来、毎年の公演を指揮したブーレーズですが、これは1980年の舞台収録です。ブーレーズのテンポは比較的速めで淀むことなく進みます。印象的なのは管弦楽の響きで、過去のゲルマン的な厚い音から地中海的な美しく澄んだ音に変わっています。しかしカラヤン/ベルリン・フィルの様にリヒャルト・シュトラウスに聞こえることも無く、やはりワーグナーの音です。劇場での実演ならではの緊張感や高揚感、息づかいに満ち溢れていて、ブーレーズのオペラがこれほど素晴らしいとは改めて驚かされます。歌手については、ジークムントのペーター・ホフマンが“勇者の力強さ”と“愛に目覚める情感”の両方を見事に表現し尽くしています。声そのものはヴィントガッセンを最も好みますが、表現力ではそれ以上かもしれません。ジークリンデのジャニーヌ・アルトマイアーも声と表現どちらも良いです。その他、ヴォータンのマッキンタイア、ブリュンヒルデのギネス・ジョーンズ、フンディンクのサルミネン、フリッカのハンナ・シュヴァルツと全体的にやや小粒ながら、どこにも隙が見られません。録音はバイロイトで何年も経験を積み重ねたフィリップスが、このホールの音の柔らかさに加えて、舞台の上の歌手達の動きが手に取るように分かる遠近感を見事に再現していて素晴らしいです。 

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マレク・ヤノフスキ指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1981年録音/RCA盤)
ドレスデンのゼンパー・オパーの再建落成記念として「指環」が上演された際にDENON、西独オイロディスク、東独シャルプラッテンの共同制作により全曲が録音されました。ドイツの歌劇場でたたき上げられてオペラを得意としたヤノフスキの指揮には、強い個性は無いものの、オーソドックスな誠実さが魅力でもあります。第1幕前奏曲がベーム並みの速さなのは驚きますが、それ以降は手堅く堅実な演奏と成り、更にメリハリをつけて歌わせて欲しい部分も頻出しますが、良くも悪くもリラックスして聴いていられます。管楽器も抜群の上手さです。歌手については、ジークムントのジークフリート・イェルザレムは若々しい声と表現が魅力です。一方、ジークリンデのジェシー・ノーマンは余りにクセが強く、この役には適しません。ブリュンヒルデのジャニーヌ・アルトマイヤーも幾らかクセが有るものの許容範囲です。ヴォータンのテオ・アダムは、やはり声の軽さがマイナスですが、「告別」は感動的です。フンディングのクルト・モル、フリッカのイヴォンヌ・ミントンには文句ありませんが、総じて歌手には少々不満が残ります。録音に関しては、名門シュターツカペレ・ドレスデンを、響きの良いルカ協会でセッション録音したので、いぶし銀のドレスデンサウンドを味わえます。ヤノフスキの演奏スタイルとも合致しますし、ベームのような極度の緊張感を強いられないので、逆に好む方もおられるかもしれません。 

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ジェイムズ・レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場管(1987年録音/グラモフォン盤)
1987から89年にかけてセッション録音された「指環」全曲からで、メトにおけるDVD映像とは別演奏です。世界に誇るオペラハウスの名に恥じず、オーケストラの優秀さに感心します。ゲルマン的な音の暗さ、厚みは無いとしても、この時代のベルリン・フィルの明る過ぎる音色よりもむしろ好ましく思います。レヴァインの指揮は基本のテンポが遅く、下手をするともたれてしまう危険性が有りますが、生の舞台の息づかいや雰囲気を感じさせて上手く盛り上げて乗り切っています。巨大な広がりの有るクナッパーツブッシュのタイプとも言えます。終幕の「告別」もヴォータンの哀しみが深く静かに伝わって感動的です。歌手はジークムントのゲイリー・レイクスは声が若々しく凛々しさが有り、強さの陰にも戦いで倒される悲哀を感じさせて気に入りました。ジークリンデはジェシー・ノーマンですが、ヤノフスキ盤の時よりはクセの強さが薄らいでいるのは好ましいです。ブリュンヒルデのベーレンスは映像で観ても素敵ですが、歌唱だけとっても大好きです。役柄上、更に強さが感じられるともっと良かったのですが。その他も、ヴォータンのジェイムズ・モリス、フリッカのクリスタ・ルートヴィッヒ、フンディングのクルト・モルと万全の布陣です。バイロイト以外でこれだけ高い水準の配役は稀だと思います。グラモフォンによりマンハッタンセンターで行われた入念な録音も優秀です。 

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ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場管(1989年録音/EMI盤)
これは我が国、NHKと深いつながりを持っていたサヴァリッシュがバイエルン歌劇場でNHKが制作した「指輪」映像および録音です。ワーグナーの第二の聖地ですし、「ラインの黄金」と「ワルキューレ」はこの劇場で初演されました。サヴァリッシュは1950年代末からバイロイトで大きな実績を残したようにワーグナーは十八番で、それをこの歌劇場の総監督として指揮した演奏なので、極めて充実しています。全体の統率力、管弦楽と歌手の絡み合いは全く見事です。サヴァリッシュとして最も充実していた時代の記録と言えます。オーケストラが持つ南ドイツ的な温かみのある音は、バイロイトの凄味の有る響きとはまた別の魅力があります。金管楽器がどことなく角笛を想わせるも楽しいです。その代わりに幾らか凄味には欠けます。歌手ではブリュンヒルデのベーレンスは言うまでも無い素晴らしさですが、ジークムントのマンフレート・シェンクが美声で若々しく魅力的です。雄々しさも有りながら、どこかいずれ命果てる弱さも感じられて適役です。ジークリンデのユリア・ヴァラディも声質が役に適していて不満有りません。ヴォータンのロバート・ヘイルには更に性格模写が増したら良いとは思いますが、フンディングのクルト・モル、フリッカのリポヴシェクと、主要な配役はレヴァイン盤と同格か、それ以上です。NHKによる録音は響きが柔らかく、かつ個々の楽器の音が明瞭で素晴らしいです。 

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ダニエル・バレンボイム指揮バイロイト祝祭劇場管(1992年録音/ワーナークラシックス盤)
UNITELがバイロイトで映像制作したプロジェクトで、この「指環」はハリー・クプファーの前衛的な舞台演出が大きな話題となりましたが、バレンボイムが1988年から1992年まで5年連続で同公演の指揮台に立ちました。収録がライヴでは無くセッションで行われたことで録音が非常に明瞭です。それでいて生の舞台の雰囲気が失われていないのは、オペラ、特にワーグナーを得意とするバレンボイムと製作スタッフの力でしょう。バレンボイムの指揮は、ゆったりとした遅めのテンポを基調としますが、随所で大きく歌わせてドラマティックさを引き出します。音の押し出しが強いので、どことなくクナッパーツブッシュの演奏を想わせます。トゥッティの響きには荒さも感じますが、バイロイトのオーケストラの音の威力に圧倒されます。歌手ではジークムントのポール・エルミングの声が少々優(やさ)男っぽいですが熱演です。ジークリンデのナディーネ・ゼクンデも情熱的で、この二人の第一幕終末は「もうどうにも止まらない!」という感じです。第二幕でヴォータンのジョン・トムリンソンが、恐妻フリッカのリンダ・フィニーに始終押されっぱなしなのはご愛敬。ブリュンヒルデのアン・エヴァンスの知名度は高く無いですが、男勝りというよりも凛とした女性の雰囲気が魅力です。フンディングのマティアス・ヘレ、フリッカのリンダ・フィニーは役柄に合った声が良いです。これもまた管弦楽と声楽、それに録音のどれもが満足出来る良いディスクだと思います。 

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クリスティアン・ティーレマン指揮バイロイト祝祭劇場管(2008年録音/オーパス・アルテ盤)
バイロイトの「指環」ライブ録音としては、ベーム盤以来40年ぶりとなりました。ティーレマンは、遅めのテンポでスケールの大きな、現代で最もドイツ的なマエストロとして疑いなく第一人者です。クナ亡き後に失われてしまった後期ロマン派然とした巨大な演奏をこうして聴くことが出来るのは何とも嬉しいです。音に重量感が有り、各動機、フレーズの一つ一つがまるで大波がうねるように奏されます。「ワルキューレの騎行」で途中からテンポをぐっと落とすのもクナそっくりです。オーケストラの質もおよそ最高で、ライブとは思えない完成度の高さです。歌手については、ジークムントのエントリク・ヴォトリヒは声に伸びと輝きが足りませんが、悲哀を感じさせるのは良いです。一方ジークリンデのエファ=マリア・ウェストブロックは美声で優しさを感じさせて魅力的です。ブリュンヒルデのリンダ・ワトソンは声がややカン高いものの勇女らしくて良いと思います。ヴォータンのアルベルト・ドーメンも悪くは無いのですが更に深味が加わると良かったです。フリッカのミシェル・ブリート、フンディングのクヮンチュル・ユンについては問題ありません。それにしても録音が本当に素晴らしく、祝祭劇場の柔らかい響きが忠実に再現され、その割に個々の楽器の音も良く聴き取れます。バイロイト「指環」録音のベストだと思います。歌手陣はベストとは言えませんが、指揮、オーケストラ、録音が余りに素晴らしいので「指環」の世界にどっぷりと浸りきれます。終幕「魔の炎の音楽」の何と感動的なこと! 

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クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン国立歌劇場管(2011年録音/グラモフォン盤)
何と2008年のバイロイト盤から僅か3年後のティーレマン二度目の録音です。今度はショルティ盤以来およそ半世紀ぶりのウィーン・フィルの「指環」となりました。ティーレマンの解釈に大きな違いは有りませんが、やはりオーケストラの音の性格の違いが明らかです。音の凄味、迫力はバイロイトには及びませんが、ゆったりと歌われるシーンなどでは特に弦楽器の持つ柔らかい美しさが格別です。録音がホールで聴くような臨場感が有って非常に自然ですが、音像が柔らかく、やや遠く感じられる為に幾らか物足りなさを感じるのも確かです。バイロイト盤と比較して録音が劣るというレヴューも目にしますが、これは音造りのコンセプトの違いの影響でしょう。歌手はジークリンデのヴァルトラウト・マイヤーが囚われの嫁としての哀しさ、強さを上手く演じています。ジークムントのクリストファー・ヴェントリスはいかにも優男らしく、殺されてしまう役柄に似合います。ブリュンヒルデのカタリーナ・ダライマンは、声にカン高さが気に成るのと、もう少し優しさが欲しいです。ヴォータンのドーメンはバイロイト盤と共通ですが、やや深みが増したような気がします。特に終幕はオーケストラ共々非常に感動的です。もしバイロイト盤とどちらか一つ選ぶとすれば、迷わずにバイロイトとは成りますが、ティーレマンや「指環」のファンでしたら、二つを聴き比べるのもまた一興です。

―第1幕のみのCD―

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ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィル(1957年録音/DECCA盤)
LPレコードの時代には第1幕、あるいは第3幕のみの録音は度々見られましたが、4部作が簡単にCDで入手出来る現代において、1幕だけのCDに意味が有るとは思えません。ですが、その中でも特筆大書すべきディスクが有るので上げておきます。クナは1957年にバイロイトで「指環」を指揮した後に「ワルキューレ」の第1幕だけをDECCAにセッション録音しています。ジークリンデのフラグスタートとジークムントのスヴァンホルムによる感涙の歌唱など、感興の高さにおいても実演に匹敵するほどで、スケールの大きさも相変らずです。しかもウィーン・フィルのこぼれるような美音でクナのワーグナーを味わうことが出来ます。当時としては優れたステレオ録音ですし、各楽器の分離の良さは一連のバイロイト盤を上回ります。 

というわけで、「ワルキューレ」には単独盤も有ることから、結局20種となりました。全てまとめて聴くことは最初で最後になるかもしれません。その中で特に気に入ったのは、やはり「ラインの黄金」と同じく、クナッパーツブッシュの1958年バイロイト盤、カイルベルトのバイロイト盤、ベームのバイロイト盤、ティーレマンのバイロイト盤の4種類でした。

しかし次点グループとしてクナッパーツブッシュの1956年盤、ラインスドルフのロンドン響盤、ブーレーズのバイロイト盤、レヴァインのメロポリタン盤、サヴァリッシュのバイエルン盤、バレンボイムのバイロイト盤などにも大いに惹かれますし、それ以外の盤も聴いていてやはり楽しめます。 

さて、次回は「ジークフリート」ですが、新年の初荷となるのはいつになりますか。。。 

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コメント

ハルくんさん、こんばんは。

この長大な作品も、ライブ録音を含めるとこんなにも多くの名盤が有るのですね。ご紹介いただいた演奏の多さにも感服いたしました。

かくいう私はというと、お恥ずかしながらその数分の一しか聴いておりません。そんな少ない中からではありますが、マイ・ベストはラインスドルフのDECCA録音(正確には英RCAによるDECCA録音)です。ご紹介されていらっしゃるとおり、この楽劇は氏の十八番だったらしく完全に自家薬籠中の物とされており、勢いと緊迫感、そして激性の表出力の凄さに圧倒されます。ディテールの細やかさと流れの良さが両立しており、長さを全く感じさせません。ハッキリ言って、ショルティのような木偶とは比較するのも失礼でしょう。

歌手も全く穴が無く、ニルソンや声がしゃがれる前のヴィッカーズはもちろん、可憐なブラウエンスタインや貫禄のあるゴールも素晴らしいです。しかし、一番驚いたのはジョージ・ロンドンによるヴォータンの感動的なこと。私は常々このお方は1.5流歌手だと思っておりましたが(失礼!)、このヴォータンは本当に素晴らしいです。ロンドンさん、ごめんなさい(汗

音についても、これは驚異的なオーディオファイルです。私はショルティ盤と共に英本国アナログオリジで聴いているのですが、優秀録音で有名なショルティ盤をも遥かに凌駕しています。というか、これははっきり言ってデジタル録音では敵わない程の凄まじい超絶オーディオファイルだと断言しましょう。空間の巨大さ、音色のナチュラルさ、音の減衰の自然さ、気配、ディテール、どれをとっても満点としか言えません。ちなみに、担当した録音エンジニアはかのケネス・ウィルキンソンで、彼の遺したオペラ録音の中でも最高峰の一つです。

総評となりますが、これは我が国の評論雑誌の功罪でも有るのですが、ラインスドルフへの評価の異常なまでの低さに改めて呆れます。マーラーの6番へのコメントにも書かせていただきましたが、「事務的で面白味が無い」「無難でつまらない」というのが日本での氏への一般的な評価です。確かに、ボストン時代の粗製濫造な録音の中にそういうものが無いとは言えません。しかし、未だに不当に無視され続けているのは本当に勿体無いことこの上ないと思います。特にこのワルキューレはきっとそんな先入観を粉々にしてくれる素晴らしさだと大いに激賞いたします。嗚呼、四部作全部セッション録音を遺して欲しかった・・・。

投稿: げるねお | 2024年3月10日 (日) 00時41分

げるねおさん

まったくその通りですね。ラインスドルフやヨーゼフ・クリップスなどは大手レーベルがかついだ”大物”指揮者の陰に隠れて過小評価されていますね。
その点、この「ワルキューレ」は衝撃的です。果たしてリング全曲を録音してここまで優れたかどうかは分かりませんが、ショルティ盤よりも聴いてみたかったです。メトロポリタンでのライブは残っていますが、’60年代初めの割りには録音条件が良くない印象です。

投稿: ハルくん | 2024年3月10日 (日) 12時02分

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