« 2023年8月 | トップページ | 2023年10月 »

2023年9月

2023年9月17日 (日)

ウェーバー ファゴット協奏曲 ヘ長調 Op.75 名盤

Mbsnacadcov_image3


ウェーバーのファゴット協奏曲は何度か聴いたことが有りましたし、ファゴット協奏曲としてはモーツァルトに次いで有名なことも認識していました。しかし、それほどの魅力を感じていた訳ではありません。

それがガラリと変わったのは、この夏に僕が事務局を務める神奈川チェンバーオーケストラの演奏会でこの曲を取り上げたことからです。それは1999年バイロイト生まれでドイツのフランクフルト響などに助演して活躍する卓越した若手ファゴット奏者である長谷川花(はせがわ はな)さんの独奏が本当に素晴らしかったことも大きな理由でした。 リハーサル段階から何回も聴いているうちに、本当に魅力的な曲であることに気付かされました。この時の演奏はYouTubeで観ることが出来ます(⇒こちらから

ところで、木管楽器のファゴットは、バスーンとも呼ばれます。16世紀から使われ始め、18世紀に改良され、19世紀に現代的な形となりました。鼻の詰まったような「ポー」という音が特徴的で、広い音域と、音程間で跳躍する動きが、おどけたような表現を得意としています。一方、低音域では朗々とした音色、高音域では歌うような音色の魅力が有り、リムスキー=コルサコフの「シェヘラザード」の叙情的なパッセージなどは特に有名です。 

ウェーバーは、1811年にヨーロッパの都市を巡るコンサートツアーに出ましたが、最初の都市のミュンヘンで、宮廷楽団のファゴット奏者ゲオルク・フリードリヒ・ブラントから頼まれてこの協奏曲の作曲をしました。楽団の他の音楽家達も、ウェーバーに協奏曲を書くよう頼みましたが、ウェーバーが納得して引き受けたのはブラントだけでした。 

ファゴット独奏のための協奏曲は余り多くは無くて、モーツァルト、ウェーバー以外ではフンメルの作品が知られますが、近年ではロッシーニの作品が復元され注目されています。 

第1楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ ヘ長調
 オーケストラのトゥッティで始まりますが、オペラ作曲家であるウェーバーらしい、オペラ作品における序曲のように華やかです。主部では、ファゴットの持つ幅広いキャラクターと表現能力を生かして、輝かしい気分、穏やかで内省的な気分などを多彩に表現します。同時にソリストのテクニック披露のために、低い音域から高い音域までを切り替え早く音が飛び回ります。 

第2楽章 アダージョ 変ロ長調
 オペラのゆっくりとしたソプラノアリアを想わせて、歌うようなメロディーが非常に美しく魅力的です。 

第3楽章 ロンド アレグロ ヘ長調
 軽快なロンドで、主題が何度も登場しますが、その都度気分を変えて楽しませてくれます。聴いていて本当に胸がわくわくしてしまいます。 

残念ながら、所有しているCDは2種類だけですがご紹介します。 

Weber-41gqjg1aatl_ac_
ミラノ・トルコヴィチ独奏、ハンス・マルティン・シュナイト指揮バンベルク響(1972年録音/グラモフォン盤) トルコヴィチは1939年ユーゴスラヴィア生まれですが、ウィーンで学んで1967年からはウィーン交響楽団の首席奏者として活躍しました。ファゴット吹きとしては録音の数も多く、第一人者の一人と言えます。底光りする音色も魅力ですが、歌い回しや表情の豊かさが見事の一言に尽きます。指揮のシュナイトはギュンター・ラミンに師事して、カール・リヒターの亡き後にはミュンヘン・バッハ管弦楽団/合唱団の後任に就いた名指揮者です。ここではドイツ的な堅牢な演奏でトルコヴィチの独奏を完璧に支えています。このディスクにはライスター独奏のクラリネット協奏曲と五重奏曲が収められています。 

Werba
ミヒャエル・ヴェルバ独奏/指揮ウィーン弦楽ゾリステン(1991年録音/DENON盤) 1955年生まれのヴェルバはウィーン・フィルのメンバーとして40年以上活躍した名手で、父親はピアニストのエリック・ヴェルバです。演奏者として活躍する一方で、ウィーン奏法の伝承活動に力を注いでいます。従ってウィーン的なしなやかな奏法が特徴的です。これはウィーン弦楽ゾリステンに管楽器を加えて自らが指揮しながら録音したものですが、繊細な美しさと柔らかさに溢れる素敵な演奏です。このディスクにはモーツァルト、フンメル、ウェーバーによる3大ファゴット協奏曲が収められているのも便利で、特にモーツァルトが最高です。

| | コメント (0)

2023年9月 4日 (月)

レスピーギ 交響詩「ローマ三部作」 名盤

Rome-slick_fontanaditrevi_1051080x709

イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギは20世紀の著名作曲家の一人ですが、その代表作として管弦楽曲の「ローマ三部作」があります。作曲された順に、『ローマの噴水』(1916年)、『ローマの松』(1924年)、『ローマの祭り』(1928年)となります。
この作品の題材は確かに優秀アイディア賞もので、聴いていてとても楽しめます。色彩的な管弦楽の魅力もあって、昔はかなりの人気曲だったと思いますが、最近ではオーディオマニア以外には余り聴かれていないようなのが残念です。

第1作『ローマの噴水』
ローマのサンタ・チェチーリア音楽院の教授に就任したレスピーギは、1916年に第1作「ローマの噴水」を作曲します。そのスコアの冒頭には次の説明が記されています。

「ローマの四つの噴水で、その特徴が周囲と最もよく調和している時刻、あるいはその美しさが最も印象深く出る時刻に受けた感情と幻想を表現しようとした。」 

作品は交響詩の形式でありながら、古典交響曲のように4楽章構成をとっているのがユニークで、それぞれに「夜明け」、「朝」、「真昼」、「黄昏」の時刻と、ローマの4つの噴水が割り当てられています。
初演は1917年にローマに於いてアントニオ・グァルニエリの指揮サンタ・チェチーリア音楽院管により行われましたが、評論家には不評でした。その翌年にトスカニーニがミラノにおいて行った再演は大成功で、作品の評価が定まりました。 

1部 夜明けのジュリアの谷の噴水

2部 朝のトリトンの噴水

3部 真昼のトレヴィの泉

4部 黄昏のメディチ荘の噴水  

第2作『ローマの松』
作目となる「ローマの松」は1924年に完成されました。前作同様4つの部分によって構成され、各部分においてそれぞれの松と場所、時間を描写しています。ですが、それは単に松のことを描こうとしたわけではなく、自然の松を通して古代ローマの往時の幻影に迫ろうという意図がありました。その為、グレゴリオ聖歌などの古い教会旋法が引用されたり、ブッキーナという古代ローマの兵士が用いた古代ラッパをイメージしたり、あるいは、夜鳴きウグイスの鳴き声の録音を第3部で使ってみたりと、様々な手法により、古代への郷愁と幻想が表されています。
初演は1924年にローマで行われましたが、1926年にはレスピーギは自らフィラデルフィア管弦楽団を指揮して演奏をしました。 

1部 ボルゲーゼ荘の松

2部 カタコンバ付近の松

3部 ジャニコロの松

4部 アッピア街道の松 

第3作『ローマの祭り』
三部作の最後を飾る『ローマの祭り』は、1928年に完成しました。曲は4つの部分が切れ目なく演奏されますが、それぞれ古代ローマ時代、ロマネスク時代、ルネサンス時代、20世紀の各時代にローマで行われた祭りを描いたものです。初演は、1929年にトスカニーニ指揮ニューヨーク・フィルの定期演奏会で行われました。 

1部 チルチェンセス

2部 五十年祭

3部 十月祭

4部 主顕祭  

所有CDについては、それほど根詰めて聴き比べるわけでも無いので少ないのですが、一応ご紹介します。 

Rome-71rttzcczdl_ac_sl1200_ アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団(1949-53年録音/RCA盤) 何といってもトスカニーニは「噴水」の評価を高めた功労者で、「祭り」の初演者です。だからということも有って、昔から「ローマ三部作」のトスカニーニといえば不動の定盤でした。もちろん当時のRCA録音が優秀だとは言え、モノラル録音なのは近代管弦楽作品にはハンディが余りに大きい。。。はずなのですが、ひとたび聴き始めてしまうと、あら不思議、下手なハイファイ録音盤以上に演奏に聴き入ってしまいます。迫りくる音の切迫感、豊かな表現、静寂における詩情はトスカニーニの魔法以外の何物でもありません。「祭り」終曲の“主顕祭”の何と熱く凄まじいこと! 

Rome-1292124615447319786120 リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団(1986年録音/EMI盤) 「松」をレスピーギが指揮をしたフィラデルフィア管のパート譜にはその時の指示が色々と書き込まれているのではないでしょうか。それはともかく、若きムーティの堂々たる指揮ぶりは素晴らしいです。オーケストラの優秀さ、鳴りっぷりの良さも特筆されます。それでいて静寂部における詩情の趣には深く味わいがあります。同郷のイタリア人指揮者であるのでレスピーギへのリスペクトは半端ないことが伺い知れます。録音はEMIらしいホールトーン的な音ですが、年代が幾らか古いわりには非常に優秀です。 

Rome-zap2_g6432927w ダニエレ・ガッティ指揮ローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管(1996年録音/RCA盤) イタリア指揮者のガッティが「ローマ三部作」の初演を担ったサンタ・チェチーリア管の音楽監督時代に残した録音です。ムーティにも負けない迫力は有りますが、それが派手な管弦楽曲としての誇示には感じられず、むしろ情緒や詩情の表現に耳を奪われます。細部を疎かにしない非常に緻密な指揮ぶりが見事です。この楽団はアンサンブルの優秀さではアメリカの楽団には敵いませんが、美しく明るい地中海的な響きを生かしていて実に魅力的です。個人的にはこちらのほうがより楽しめる気がします。このRCA録音も非常に優れています。 

Rome-51qjngnh6l_ac_ アントニオ・パッパーノ指揮ローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管(2007年録音/EMI盤) パッパーノはオペラ指揮者というイメージですが、やはりイタリア人。レスピーギは外せないのでしょう。それもガッティに続く由緒あるオーケストラとの録音とあれば大歓迎です。面白いことに、「松」などはストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」やプッチーニの「ボエーム」を想わせる部分が有ります。元々近代管弦楽として響きが似ているのに不思議は無いのですが、この演奏で聴くとそれが著しく感じられます。しかもこの年代の録音となると非常に素晴らしい音質でそれを楽しむことが出来ます。ただし「祭り」でのな荒々しさは控えめで、美しさが前面に表れます。なお、このディスクには「祭り」の前に弦楽合奏とメゾソプラノによる歌曲「夕暮れ」が収められています。

以上の4種はどれも魅力に感じていますが、もしも録音も含めて一つだけ選ぶとすれば、歴史的名盤のトスカニーニに後ろ髪を引かれながらもガッティ盤を選びたいです。

| | コメント (4)

« 2023年8月 | トップページ | 2023年10月 »