シューベルト 劇付随音楽「ロザムンデ」 名盤
シューベルトの「ロザムンデ」は正式には「キプロスの女王ロザムンデ」(Rosamunde, Prinzessin von Zypern )作品26、D797で、ベルリン出身の女流作家ヘルミーネ・フォン・シェジーが書いた同名の戯曲のために作曲された劇付随音楽です。
シェジーはそれより前にウェーバーの歌劇「オイリアンテ」の台本を書きましたが、不評だったために、急遽リベンジのために「ロザムンデ」を書き上げ、ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で上演されますが、またしても二日間で上演が打ち切られてしまいます。
その劇音楽の作曲を依頼されたのが他ならぬシューベルトで、短い期間で10曲の付随音楽を完成させました。ところが、序曲だけがどうしても間に合わず、前から作曲されていた歌劇「アルフォンソとエストレッラ」D732の序曲を転用して初演が行われました。
その後、シューベルトは、評判の良かった劇付随音楽「魔法の竪琴」D644の序曲を「ロザムンデ」の序曲として転用しますが、今ではこの形が一般的となり、通称「ロザムンデ」序曲とも呼ばれます。
物語のあらすじ
ロザムンデはキプロス王の娘。幼い時に国王である父を亡くし、その遺言により貧しい未亡人のもとで育てられます。しかし18歳になると、正統な王位継承者であることが明かされて、波乱の人生を歩む事となります。
亡き父王の代理として国を治めていた男は、権力を維持するために、ロザムンデと結婚しようと考えますが、上手く行きません。そこで男はロザムンデを毒殺しようと企てます。彼女に迫る危機に、突如謎の好青年が現れて危機を救います。その正体こそは、亡き父王が生前に定めていた、許婚の王子だったのでした。二人は結ばれてハッピーエンドとなります。
作品構成
序曲(劇付随音楽『魔法の竪琴』D644の序曲)
第1曲 第1幕の後の間奏曲 複数の研究者は、これは「未完成交響曲」の真のフィナーレであると主張している。
第2曲 バレエ音楽第1番
第3曲a 第2幕の後の間奏曲
第3曲b ロマンツェ
第4曲 幽霊の合唱
第5曲 第3幕間奏曲 弦楽四重奏曲第13番『ロザムンデ』D804や即興曲 変ロ長調 D935-3にも流用されている有名な曲。
第6曲 羊飼いのメロディー
第7曲 羊飼いの合唱
第8曲 狩人の合唱
第9曲 バレエ音楽第2番
「魔法の竪琴」序曲(「ロザムンデ」序曲)と第3幕間奏曲は大変有名ですが、全曲の人気はいまひとつかもしれません。大げさなところが無く、控え目なシューベルトの音楽の魅力に溢れていますが、バレエ音楽でさえもまったりとしています。もともとシューベルトの音楽の魅力そのものが地味なわけですので致し方ないところです。シューベルトが好きな方なら、聴けば聴くほどに惹かれてゆく素敵な音楽です。
世に出ているCDが少なめなこともあり、愛聴盤も多くは有りませんがご紹介します。
カール・ミュンヒンガー指揮ウィーン・フィル/ウィーン国立歌劇場合唱団、ロハンギス・ヤシュメ(Ms)(1974年録音/DECCA盤)
シューベルトの音楽はやはりウィーン・フィルの演奏で聴くのが最高です。このミュンヒンガー盤は発売以来、不動の定番でしょう。DECCAの明瞭な録音もあり、情緒が零れ落ちるような美しい音と甘い歌いまわしを堪能出来ます。ただ、あえて言うとすればミュンヒンガーのドイツ風の厳格な指揮が多少なりとも硬い印象を与えているかもしれません。造形がカッチリとし過ぎているように思えなくも有りません。もちろんこれは本当に贅沢な不満です。
クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管、ライプチヒ放送合唱団、エリー・アメリンク(S)(1983年録音/フィリップス盤)
マズアの真面目くさった純正ドイツスタイルの演奏では面白くないかと思いきや、さにあらず。ゲヴァントハウスの古色然とした渋みある音色が、音楽を落ち着いて聴かせます。響きがどことなくメンデルスゾーンにも聞こえますが、特に木管の地味な美しさには大いに惹かれます。これはフィリップスと東独シャルプラッテンの共同制作であるのも音造りに影響しているのでしょう。アメリンクの独唱は言うまでもなく素晴らしいです。
ウイリー・ボスコフスキー指揮シュターツカぺレ・ドレスデン、ライプチヒ放送合唱団、イレーナ・コトルバス(S)(1977年録音/Berlin Classics盤)
この録音では序曲に何と初演時の「アルフォンソとエストレッラ」が使われています。この曲も悪くは有りませんが、「魔法の竪琴」序曲に比べると、魅力は明らかに劣ります。もっとも「魔法の竪琴」序曲は最後に収録されているのでご安心を。ボスコフスキーがSKドレスデンを指揮するのは珍しいですが、この名門オケを自在に統率していて、生き生きと躍動した音楽造りが非常に魅力的となっています。もちろんこのオケの持つ古雅な音色にも大いに惹かれます。コトルバスの独唱もまた素晴らしいです。
一般的にはミュンヒンガー盤を第一に勧めるべきですが、二つの序曲を収録したボスコフスキー盤もまた演奏の良さも有りお勧めです。
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「シューベルト(管弦楽曲)」カテゴリの記事
- シューベルト 劇付随音楽「ロザムンデ」 名盤(2021.03.20)
コメント
「前回、この曲をミュンヒンガー指揮VPO他のLPで聴いてから、一体何十年経過したのだろう」と思い返したら、唖然としました。
「人は自分の死を予知できず、人生を尽きせぬ泉だと思う。だが、物事はすべて数回起こるか起こらないかだ。自分の人生を左右したと思えるほど大切な子供の頃の思い出も、あと何回心に思い浮かべるか?せいぜい4、5回思い出すくらいだ。あと何回満月を眺めるか?せいぜい20回だろう。だが、人は無限の機会があると思い込んでいる」 映画「シェルタリング・スカイ」の中の台詞より
私にとって「ロザムンデ」は大好きなシューベルトの数ある名曲の中では聴く優先順位が低く、気付いたらそんな位置付けになってしまいました。しかし、考えてみたら我が家にはそんな音盤が他にも膨大に有り我ながら閉口しています(苦笑)。
投稿: 犍陀多 | 2021年3月22日 (月) 13時34分
こんばんは。
私もミュンヒンガー指揮盤で曲を覚えました。
私は、女流作家ヘルミーネ・フォン・シェジーの人生に興味があります。
「ヘルミーナ・フォン・シェジー(Helmina von Chézy、1783年1月26日 - 1856年1月28日)は、ドイツのロマン主義詩人、劇作家。1820年代にはドイツでもっとも有名な女性作家のひとりだった。現在ではウェーバーのオペラ『オイリアンテ』の台本およびシューベルトの付随音楽による『キプロスの女王ロザムンデ』(いずれも1823年初演)の作者として記憶されている。
ヘルミーナはベルリンに生まれた。母方の祖母は詩人として有名なアンナ・ルイーザ・カルシュ(英語版)(カルシン)である。ヘルミーナがまだ幼いときに両親は離婚し、祖母に育てられた。
1799年、16歳のときにハストファー男爵と結婚したが、間もなく離婚している。
ジャン・パウルの強い影響を受けて早くから文学界に入った。ジャンリス伯爵夫人 (Stéphanie Félicité, comtesse de Genlis) の招きによって1801年にパリへ行き、フランスの現状をドイツに書き送る通信員として働いた。1803年から翌年にかけてヘルミーナはフリードリヒ・シュレーゲルおよびドロテーア(この2人は1804年に結婚)とパリの同じアパートを共有していた。パリでコッタ(英語版)から雑誌『Französische Miscellen』を出版した(1803-1807年)。著書『ナポレオン以降のパリの生活と芸術』(Leben und Kunst in Paris seit Napoleon、2巻、1805-1807年)はナポレオンによって押収された。
1805年に東洋学者アントワーヌ=レオナール・ド・シェジーと再婚し、ヴィルヘルムとマックスの2人の息子を生んだが、1810年に離婚してフランスを離れた。
ヘルミーナは社会慈善活動にかかわり、1813年には戦争病院で働いた。後にベルリンで戦争負傷者調査委員会(Invaliden-Prüfungs-Kommission)を誹謗した罪で告発されたが、裁判官のE.T.A.ホフマンは彼女を無罪とした。1817年に女性の恋愛遍歴を描いた小説『Emma, eine Geschichte』を著している。
1817年にドレスデン、1823年にウィーンに移り住んだ。ウィーンでもベルリンと同様の裁判沙汰を引き起こした。1830年からミュンヘンに住んだ。
1832年に元夫のシェジーが没すると、パリに赴いて1200フランの年金を得た。ヘルミーナはジュネーヴに住んだ。晩年はすでに病気でほとんど盲目になっていたが、ここで回想録を口述筆記した(『Unvergessenes』2巻として没後の1858年に出版)。1856年にジュネーヴで没した」(ウィキペヂア記事から)
あのナポレオンやE.T.A.ホフマンとも関わりがあるなど、ちょっと大河ドラマか朝ドラのヒロイン以上に凄い人生です。
投稿: 照る民 | 2021年3月22日 (月) 20時37分
ウェーバーの歌劇「オイリアンテ」の台本を書いたものの不評だったために、急遽リベンジのために「ロザムンデ」を書き上げるエピソードひとつとっても、ヘルミーネ・フォン・シェジーは、「転んでもただでは起きぬ」、よい意味で図太い根性を持った女性だったのかもしれませんなあ。
さて、「ロザムンデ」を聴きながら満開の桜を愛でることにしますか。私はボスコフスキー指揮盤で。コトルバスも、見上げたプロ根性ある名ソプラノ歌手でしたなあ。
花も、桜やシューベルトのように、儚く潔く散るばかりが能ではありませんなあ。
投稿: 音頭丸殿 | 2021年3月23日 (火) 08時46分
犍陀多さん
同じような悩みをかかえますね。
所有ディスクが増えれば増えるほど繰り返して聴ける愛聴盤は少なくなります。
まだレコードを数えるぐらいしか買えず、同じディスクを何度も何度も聴いていた高校生の時代。
どちらが幸せと言えるのか。。。
投稿: ハルくん | 2021年3月23日 (火) 22時17分
照る民さん
シェジーさん、日本人だったら朝ドラの主人公になっていたことでしょうね。
投稿: ハルくん | 2021年3月23日 (火) 22時20分
音頭丸殿さん
儚く潔く散るからこその美学って、やはり有るのでは無いですかねぇ。
そんな気はします。
投稿: ハルくん | 2021年3月23日 (火) 22時32分
お邪魔します!!
「ロザムンデ」中、「満月は輝き(ロマンツェ)」 D.797-3b の歌詞を短歌にしてみました!!
来年の歌会始に応募するための練習です!!
満月の 春の光に 誓う愛 現世で遠く 離れようとも
この曲では、アメリンクの独唱を最も好んでいます!!
投稿: 海の王子 | 2021年3月27日 (土) 14時38分
海の王子さん
ほお、歌詞を短歌にですか。中々の風情ですね。
アメリンクはやはり流石と言うか素晴らしいです。
投稿: ハルくん | 2021年3月28日 (日) 23時06分
因みに、宮内庁発表、来年の歌会始お題は「窓」とのことです!!
「白鳥の歌」より「鳩の便り」(D.965A)
伝書鳩 恋人の文 寄越したり 涙も運べ 君の窓辺に
気が付いたんですが、「冬の旅」であろうが「美しき水車小屋の娘」であろうが、シューベルトの歌曲はほとんど短歌にしちゃえます!!
投稿: 海の王子 | 2021年3月29日 (月) 20時43分