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2021年2月25日 (木)

メンデルスゾーン 劇付随音楽「真夏の夜の夢」 名盤

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「真夏の夜の夢」(原題:A Midsummer Night's Dream)は、有名なシェイクスピアの書いた喜劇戯曲です。

物語には、森に住む妖精たちや、そこに入り込んだ人間たちが登場します。二組の人間の恋人たちは、惚れ薬のために相手を取り違えてしまったり、妖精の王様と女王は養子を巡って喧嘩をしたりと大騒ぎです。しかし最後には、妖精の王の画策や妖精パックの活躍によってハッピーエンドとなります。

ところで、英語タイトルの Midsummer は、「夏至」(6月21日頃)を意味しますが、この戯曲は6月のことではなく、森で起こる騒動は五月祭の前夜の4月30日のこととなっています。
戯曲のタイトルと内容の時期の不一致については研究家の間でも謎で、シェイクスピアが何故「A Midsummer Night's Dream」としたのかは分からないようです。

日本でも長い間「真夏の夜の夢」とされて来ましたが、近年は文学界も音楽界も「夏の夜の夢」とされる傾向に有ります。

この戯曲に基づいてメンデルスゾーンが有名な「劇付随音楽」作品61を作曲しますが、「序曲」のみは作品21として先行して書かれました。これはメンデルスゾーンが元々はピアノ連弾曲として書いたもので、それを管弦楽用に編曲して完成させたのは僅か17歳のことです。
神秘的な序奏に続いて特徴的な音型や楽器を駆使して、森の中で跳ね回る妖精たちや、ロバの鳴き声、動物たちの幻想的な世界の描写が天才的ですね。
「劇付随音楽」は、この序曲を聴いて感銘を受けたプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世の命令により作曲することとなります。

序曲に続く「劇付随音楽」は全12曲で、以下の通りとなります。

序曲 (作品21)
1. スケルツォ
2. 妖精たちの行進「丘を越え谷を越え」
3. 妖精の歌「まだら模様のお蛇さん」
4. 情景「魔法をかける」
5. 間奏曲
6. 情景「ぶざまな田舎者どもが」
7. 夜想曲
8. 情景「魔法が解ける」
9. 結婚行進曲
10.葬送行進曲
11.武骨者の踊り(ベルガマスク舞曲)
12.終曲

このうち、「情景」は短く、演奏されなくてもさほど影響が無いので除かれ、序曲を含めて全10曲で演奏されるケースが多いです。また、「序曲」「スケルツォ」「間奏曲」「夜想曲」「結婚行進曲」の5曲の組形としてもよく演奏されますが、その場合チャーミングな「妖精の歌」が抜けるのは残念です。

曲の中で最も有名なのは「結婚行進曲」です。高度経済成長期の豪華な結婚披露宴にはぴったりでしたが、バブル崩壊以降には、落ち着いたワーグナーの「婚礼の合唱(結婚行進曲)」が使われることが多くなったような気がします。歌は世につれ世は歌につれ、ですね。

この作品はもちろん舞台劇として公演が行われますが、音楽と題材がバレエにとても適します。以前、オーストラリアバレエ団が日本で公演を行ったので観に行きましたが、実に楽しかったです。もっと取り上げられて良いと思います。

それでは愛聴盤のご紹介です。

81f6uxyo95l_ac_sl1500_ オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管(1960年録音/EMI盤) オールド・ファンにはお馴染みの定盤ですが、今現在聴いても幾らかゆったりしたテンポによるスケールの大きい演奏には圧倒されます。実に立派であたかもシンフォニーを聴くかのような聴き応えが有りますが、その反面この作品にしては重くもたれる気もします。ハーパーとベイカーの歌は上手いですが、やや厚化粧に感じます。ステレオ録音ですが、音質はやや古めかしく感じられます。

41cycebmddl_ac_ オットー・クレンペラー指揮バイエルン放送響(1969年録音/Golden Melodram盤) これはマイナーレーベル盤ですが、演奏はクレンペラーらしさにおいてEMI盤を大きく上回ります。序曲や結婚行進曲などのテンポは相当に遅く、もたれるほどスケールは巨大ですが、ここまで重量感が有ると逆に唖然としながらも聴き入ってしまいます。オーケストラの音に底力が有る点も特筆されます。エディット・マティスとファステンダーの歌唱も万全の素晴らしさです。ミュンヘンにおけるライブですがステレオ録音で音質もバランスもとても良く、何ら不満なく鑑賞が出来ます。曲目はEMI盤と同じです。

511fbx0m2rl_ac_ アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン響(1976年録音/EMI盤) プレヴィンの適度に軽快でロマンティックな雰囲気造りが、この曲にピッタリです。ロンドン響も落ち着いた響きと安定感のある演奏で不満は有りません。コーラスに児童合唱を起用しているのが、下手だと批判されることもありますが、僕はメルヘン的で好きです。完全全曲版であるのも大きなポイントです。録音はどうしても幾らか鮮度が落ちた感は有ります。

41btqb3tdl_ac_ ギュンター・ヘルヴィッヒ指揮シュターツカぺレ・ベルリン(1976-77年録音/キング:シャルプラッテン原盤) 当時の東ドイツ陣営の演奏なので、管弦楽の響きは渋く、生真面目です。西側の華麗なメンデルスゾーンとは一線を画します。しかし古典音楽の形式感が強く感じられていて今聴くと逆に新鮮です。全般的に速いテンポで颯爽としていますが、オーケストラは非常に上手く、キレの良さの中にも、それはかとなくロマンティックな歌心を感じさせるのは、あのアーベントロートに師事したヘルヴィッヒだからでしょうか。録音も演奏に相応しい落ち着いた音造りです。

Previn_midsummer_nights アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィル(1986年録音/フィリップス盤) プレヴィンの再録音で、旧盤と基本解釈は変わりませんが、最大のポイントはウィーン・フィルの起用です。ことさら甘く演奏させている訳ではなくても弦楽や管楽の音の美しさはやはり
大きな魅力です。夜想曲のホルンにも魅了されます。コーラスはウィーン・ジュネス合唱団とありますが、少年合唱団よりも年齢が上のように聞こえます。録音は最新では有りませんが優れています。

Za81liitjyi7l_ac_sl1100_ クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィル(1995年録音/SONY盤) 大晦日恒例のベルリン・フィルのジルベスターコンサートのライブです。全編にナレーションが入っているので対訳を見ながら劇を味わうのは楽しいですが、音楽を何度も聴くうえでは邪魔に感じるかもしれません。石丸幹二による日本語版も制作されています。アバドの指揮はきびきびしたテンポで良いですが、オーケストラの編成が大きくマイクが遠めな為に、楽器の音のキレが悪く聞こえてしまいます。実際にはそんなことは無いのでしょうが、ライブの弊害です。演奏はメンデルスゾーンにしてはグラマラスに過ぎる気もしますが、表現は豊かですし雰囲気一杯ですので楽しめます。

ということで、完全全曲のプレヴィン/ロンドン響盤が自分のファースト・チョイスにはなりますが、唯一のウィーン・フィルによるプレヴィン盤、シュターツカぺレ・ベルリンのヘルヴィッヒ盤はオーケストラの音の魅力で上回ります。番外としてはクレンペラーのバイエルン放送盤を上げないわけにはいきません。

なお、5曲の組曲としては一つだけ印象深い演奏が有ります。

61btjawwbrl_ac__20210225165401 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管(1967年録音/SONY盤) 速いテンポで颯爽と演奏していて、その完璧な合奏能力に舌を巻きます。録音もパートごとに透明感が有るので、響きが重ったるくなりません。妖精が想像されるような神秘性にはもしかしたら乏しいかもしれませんが、器楽的、純音楽的にこれほど素晴らしい演奏は知りません。是非一度聴いて頂きたいと思います。

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コメント

ハルくんさん、おはようございます。

プレヴィン指揮ロンドン響で「真夏の夜の夢」、いいですね。SACDやBD-Aでリマスター盤を出したら、きっと、もっと鮮度ある音になりそうですね。

ここで私が注目するのは70年代後半ごろのロンドン響の適応力についてです。思いつくだけでも、プレヴィンとのメシアンやチャイコフスキーや今回ご紹介の曲他諸々の名曲、ヨッフムとの純ドイツ的なベートーヴェン交響曲全集等、アバドとのラヴェルやストラヴィンスキーやモーツァルトの数々、ベームとのチャイコフスキーの後期交響曲集、チェリビダッケとの展覧会の絵他(来日ライブ)、レヴァインとのマーラー等々、これだけ個性が異なる指揮者でそれぞれ違った音色(それが凄い!)の名盤を出しており、「どれだけカメレオン・オケやねん」という感じでございます(笑)。

投稿: 音頭丸殿 | 2021年2月26日 (金) 08時38分

音頭丸殿さん

ロンドン響はドイツなどの名門には及びませんがイギリスの団体では一番好きです。響きが暗く個性的でないのが正に特徴。イギリス料理のようなものですね。
面白いのは「真夏の夜の夢」の録音にはロンドン響以外でも英国のオーケストラが多いことです。
やはりシェイクスピアだからなのでしょうね。

投稿: ハルくん | 2021年2月27日 (土) 10時24分

お邪魔します!!

「真夏の夜の夢」の結婚行進曲についてですが、同じメンデルスゾーン作曲「無言歌 Op62-3」冒頭と関連がありそうで、

https://www.youtube.com/watch?v=GsqyGJklR5I&list=RDGsqyGJklR5I&start_radio=1

さらに同じユダヤ人作曲家マーラーの交響曲第5番1楽章「葬送行進曲」も何らかの影響を受けていると考えて間違い無さそうですね!!

https://www.youtube.com/watch?v=z4BoBe1Hzq0

ここでマーラーが言いたかったことは、
『結婚は人生の墓場』 ということかも??(-_-;) …あーあ。

投稿: 海の王子 | 2021年2月27日 (土) 10時58分

こんにちは。

僕のこの曲のお気に入りは、国内盤では、確かプレヴィン指揮ウィーン・フィル盤と近い時期に新譜だった、デュトワ指揮モントリオールSOによる爽やか極まりない演奏で、これは初夏~真夏に聴くにはぴったりです。

・・・・・・・・・・・・・・・・

ここから横レス御免!!
海の王子さん、こんな動画もありますよ!!

https://www.youtube.com/watch?v=VRNK2kBnn48

https://www.youtube.com/watch?v=2_4dzM0xga0

しかし、今回の海の王子さんのご指摘は非常に鋭いものを含んでおり、案外当たっているかもしれないと感心しました!!

投稿: 照る民 | 2021年2月27日 (土) 13時06分

海の王子さん

特徴的なリズムですからね。マーラーが聴いていた可能性はあるでしょうね。


照る民さん

デュトワ盤も興味ありますが、これは10曲ぐらい収録されているのでしょうか?

長調曲を短調に変えたパロディは良く有りますね。笑えます。

投稿: ハルくん | 2021年2月28日 (日) 00時46分

初めまして。真夏の夜の夢は本当に好きな曲なので、取り上げていただいて嬉しいです。自分のお気に入りは、クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団のグラモフォン盤で、少し早めの細かいテンポが癖になります。また機会があれば聞いてみてください。今後とも更新楽しみにしております!

投稿: あれっくす | 2021年2月28日 (日) 12時55分

デュトワ盤は、セル盤同様、残念ながら5曲抜粋で、序曲「フィンガルの洞窟」、序曲「美しいメルジーネの物語」、序曲「ルイ・ブラス」との組合せです。「(真)夏の夜の夢」好きとしては物足りない曲数ではあります。

余談ですが、メンデルスゾーンの曲というと、どうしても、弟と同じく優れた作曲家でもあった姉、ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの存在が見え隠れしてしまい、近年の研究によれば、無言歌などメンデルスゾーンのピアノ曲や歌曲のかなりの部分が姉の作品、または姉との共作ではないかといわれていますね。 「(真)夏の夜の夢」でも、元々、姉とのピアノ連弾を前提として書かれた序曲をはじめ、姉の強い影響課下にある作品に個人的には聞こえます。どことなく中性的なメンデルスゾーンの作風は、姉の存在抜きに語れないと感じます。

作曲家としての姉の存在は、もっと注目されるべきですし、ジェンダーレスが叫ばれる現在こそ、メンデルスゾーンは、姉弟共に再評価されてしかるべき作曲家だと確信しています。

投稿: 照る民 | 2021年2月28日 (日) 14時09分

あれっくすさん、初めまして!

ご投稿ありがとうございます。
クーベリック盤は随分以前にLP盤で聴いたことがあります。友人の所有でしたが。
好きな指揮者ですのでまた聴いてみたい気がします。ありがとうございます。

いつでもまたお気軽に書き込み下さい。楽しみにお待ちしております!

投稿: ハルくん | 2021年2月28日 (日) 17時10分

照る民さん

ありがとうございます。
組曲なのはちょっと残念でしたね。

昔の多くの芸術世界は男性中心ですので、女性がアシストしていたものが、全て男性の作品となっているケースは多いと思います。
それらが少しでも研究で明らかにされると良いですね。

投稿: ハルくん | 2021年2月28日 (日) 17時15分

愚生が日々愛でて止まない盤は、ご多分に漏れずクレンペラーです。今は、『‥シンフォニーズ&オーヴァチュアズ』なる輸入盤10枚組(50999-4043092-8)の中に納まって、呉れております。堂々とした足取りの中にも、精妙な仕上げにある種の軽やかさも在る、二律背反的な要素を表出し得た、見事な演奏とでも申せましょうか。脱線ですが上記のセットに含まれます、J・シュトラウス二世のオペレッタ『こうもり』序曲が、聞き物ですね。この華やかな曲にある時は気だるげなメランコリー、ある楽想にはシニカルな要素が見え隠れする、何かそんな指揮ぶりでございます。

投稿: リゴレットさん | 2021年3月 1日 (月) 17時58分

リゴレットさん

クレンペラー盤が、堂々とした足取りとある種の軽やかさを持つ、二律背反的な演奏というのは全く同感なのですが、最近はプレヴィンの両盤やヘルヴィッヒ盤を更に楽しんではいます。

投稿: ハルくん | 2021年3月 2日 (火) 00時45分

ハルくんさま、みなさま、こんばんは。
「真夏の夜の夢」といえば、中学の文化祭で隣のクラスがこの芝居をやることになり、BGMを捜してくれと頼まれ、オーソドックスにこの曲を勧めたことが。担任の先生がクレンペラー盤を買ったはず。ワタシは当時この曲の盤を持ってませんでした。
現在の愛聴盤はプレヴィン/LSOです。やはり完全版に惹かれました。語り入りはチョッと…ですね。

投稿: 偽のディミトリー | 2021年3月 8日 (月) 19時36分

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