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2020年11月

2020年11月26日 (木)

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」ハ短調 Op.13 名盤 ~三大ソナタ~

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今年も残りひと月余りとなりました。コロナ禍で明け暮れた大変な年となってしまった為に、ベートーヴェンの生誕250周年どころではなくなりました。しかし、それではいけないと思い、これまで楽聖の曲を特集して来ました。

ベートーヴェンが大変なピアニストであったことは良く知られています。故郷のボンから音楽の都ウィーンに移り住んで間もない若きベートーヴェンは、まずピアニストとしてその演奏でウィーンの聴衆を驚かせました。まだ22歳の時です。既に“学生”ではなく“楽聖”?

そのベートーヴェンが生涯を通して作曲を続けた32曲のピアノ・ソナタは“旧約聖書”と称されるバッハの『平均律クラヴィーア曲集』に対して“新約聖書”と呼ばれます。若くして手がけた習作ソナタから、最後の第32番まで作曲は約40年にも渡ります。そんなジャンルはピアノ・ソナタのみです。

もちろんベートーヴェンの作品群において交響曲も弦楽四重奏曲も不滅の領域ですが、こと楽器との結び付きの深さの点ではやはりピアノを置いて他には有りません。そのピアノ・ソナタをこともあろうにこれまで1曲も記事にしたことが有りませんでした!

32曲のピアノ・ソナタを作曲の順に追ってみると、ベートーヴェンが次々と新しい世界を切り開いてゆく様や作曲の進化ぶりが解かります。
その中で俗に「3大ソナタ」と呼ばれる「悲愴」「月光」「熱情」が有り、続いて「テンペスト」「ワルトシュタイン」「告別」を加えて「6大ソナタ」とも呼ばれます。「3大」は、その名の通りの傑作揃いで文句は有りません。自分の好みで言うと「ワルトシュタイン」を加えて「4大」としたいところですが、キリが悪くなるのでやむなしです。

一方、最後の第30番、31番、32番は「後期3大ソナタ」と呼ばれますが、これはピアノ・ソナタの孤高の領域に到達しています。ただただ畏敬の念を持つばかりです。

これらを今年中に記事にするには、もう時間が足りませんが、ともかく初期のピアノ・ソナタの頂点である「悲愴」を取り上げます。ベートーヴェン自身がその標題を付けたかどうかは不明ですが、初版譜に標題が付けられていたことから、本人が認めていたことは確かです。

古典的な形式をしっかりと保ち、劇的であり且つ気品を失わない楽想が本当に魅力的です。その名の通り悲愴感を一杯に湛えて疾走する第1楽章、稀代の美しい主旋律を持つ第2楽章、そして走りゆく哀しみを湛えた第3楽章と、聴きどころが満載で聴き手を一瞬たりとも飽きさせません。
後年の深遠さとは異なる若きベートーヴェンの魅力に満ちていて、初期ピアノ・ソナタの頂点と言わしめます。

楽曲構成
第1楽章 グラーヴェ ― アレグロ・モルト・コンブリオ ハ短調 ソナタ形式
第2楽章 アダージオ・カンタービレ 変イ長調 ロンド形式
第3楽章 ロンド・アレグロ ハ短調

さて所有CDのご紹介ですが、まとめて聴くことが無い為に、CD棚から集めるのに苦労しました。

51rgdgm0fll_ac_ ヴィルヘルム・バックハウス(1954年録音/DECCA盤) 後年のステレオ録音が定番として知られますが、その6年前のモノラル録音の旧盤です。テクニックで唸らせようとする煩悩や飾り気を全く感じさせない男性的で朴訥としたスタイルがベートーヴェン自身のピアノのイメージと重なり合います。良く聴くと決してインテンポでは無く微妙なテンポの浮遊性を持ちます。切れの良さで旧盤を好む声も有りますが、自分は録音も加味して新盤を好みます。

R800 ハンス・リヒター=ハーザー(1955年録音/DECCA:フィリップス原盤) バックハウス以上にドイツ的で1980年辺りまで現役で活躍したにもかかわらず商業的な理由で知名度が低いのは残念ですが、ベートーヴェンのソナタをモノラル期からステレオ期にかけて結構な曲の録音を残しているのは嬉しいです。この曲も骨太の音で、ゆったりとスケールの大きい演奏が素晴らしく、同時期のバックハウスと充分に渡り合います。

51wjxhhn5l_ac_ イーヴ・ナット(1955年録音/EMI盤) ベートーヴェンのソナタの全曲録音を行っていて根強い人気の有るナットはフランス人で、同時期のドイツ系のピアニストよりは演奏にしなやかさや即興的な閃きが有る印象を受けますが、音のタッチは明確でベートーヴェンの音楽の威厳というものを案外と感じさせます。モノラル録音ですが良好で同時期のDECCAと遜色は有りません。

81v4ermuo1l_ac_sl1500_ アニー・フィッシャー(1958年録音/EMI盤) 導入部のグラーヴェが正にその通り“重々しく、荘重に“弾かれます。主部もがっちりと男性的な演奏であり、打鍵も重いので非常に聴き応えが有ります。第2楽章も遅いテンポで荘重さを保ちますので段々と胃にもたれて来ます。更にそれが第3楽章にも続くので気分まで重くなります。え、”悲愴”だから良い?いや、もう少しすっきりした古典的な軽みが有っても良さそうです。所有はBOXセットです。

811tspiultl_ac_sl1500_ スヴャトスラフ・リヒテル(1959年録音/ビクター盤:メロディア音源) 古いモスクワ録音でマスターテープに僅かに劣化した部分も散見されます。しかしステレオ録音で気にはなりません。それよりも壮年期のリヒテルの音楽への没入度の凄まじさに圧倒されます。ある意味でフルトヴェングラーのライブ的です。第1楽章主部はかなり速いですが、グールドは速く弾くこと自体が目的ですが、リヒテルは音楽に没入して速く弾かずにいられないという大きな差が有ります。ですので、第2楽章は速めに流れますが、情感がひしひしと感じられて惹きつけられます。そして第3楽章も気迫に溢れ切っています。

996 ヴィルヘルム・バックハウス(1960年録音/DECCA盤) もちろん昔から定番中の定番として知られる演奏で、男性的で朴訥としたスタイルがベートーヴェン自身のピアノを感じさせるのは旧盤と同じですが、よりスケール感を感じます。テンポの浮遊性もいよいよ神業の域に入り、どこまでも自然に感じさせます。DECCAの優れたステレオ録音で、バックハウス愛用のベーゼンドルファーがこれほど美しく聞こえるのにも感嘆するばかりです。所有するのは全集ですが、三大ソナタ単独でも出ています。

71ppjemblql_sl1500_ ルドルフ・ゼルキン(1962年録音/CBS盤) これはあくまでも自分の感覚なのですが、この当時のゼルキンには最も古典的な造形感を感じます。それでいて溢れ出るパッションをも同時に感じられるという言うなれば稀有な演奏です。颯爽としたテンポで駆け抜けますが決して軽くなり過ぎずに、しっかりとした音楽の手応えが有ります。

4158hes8gml_ac_ アルトゥール・ルービンシュタイン(1962年録音/RCA盤) 比較的ゆったり気味のグラーヴェから主部に入りますが、疾走感は無く、おっとり刀で旋律線を強く意識しているように感じられます。第2楽章では逆に朗々と歌い上げるというよりも静寂感に包まれています。第3楽章にしても常にゆとりが有り、“ドラマティックな”演奏とは対極に位置する印象です。

6189bgv0xl_ac_ ウラディーミル・ホロヴィッツ(1963年録音/CBS盤) スタジオ録音ですが、ベートーヴェンの音楽への敬意からか、とてもオーソドックスな演奏です。もちろんドイツ的な朴訥としたスタイルでは無く、この人らしいインパクトのある音とデリカシーの有る音とで紡ぎ出されるスマートな演奏ですが、聴いていて自然に引き込まれます。

21k0ktk0nsl_ac_ul320_ クラディオ・アラウ(1963年録音/フィリップス盤) アラウの壮年期の録音ですが、既に普通の奏者の最晩年の趣です。テンポは遅めで間をたっぷりと取り、一音一音に念を押すような重量感が有ります。両端楽章などは聴き応え充分です。但し第2楽章の遅過ぎるテンポは少々胃にもたれます。これは指揮者で言えばさしずめクレンペラーの演奏で、好きな人には応えられないかもしれません。

71wykr2aukl_ac_sl1400_ ヴィルヘルム・ケンプ(1965年録音/グラモフォン盤) 昔の定番ということではバックハウスと双璧でした。両者に共通して感じるのは、極めて自然に音楽の素晴らしさに引き込まれることです。技術偏重でもなく、威圧的でもなく、神経質でもなく、しかし威厳も味わいも失わずにただただ聴き惚れてしまいます。これがドイツの伝統というものでしょうか。しかし、その中でも抜きん出た一握りの巨匠による演奏。そんな気がします。所有するのは全集ですが、もちろん三大ソナタ単独で出ています。

7116u6m7akl_ac_sl1500_ グレン・グールド(1966年録音/CBS盤) やってくれるね、グールド!という感じの強烈な演奏です。第1楽章のアレグロは疾走感どころでは無く、猛スピードであれよあれよと駆け抜けます。第2楽章もすっきり速めですが、第3楽章がまたしても超スピードでかっ飛ばします。現代に流行りの快速ベートーヴェン演奏の先駆けだったのかもしれません。また、ある意味ロマンティシズムを排除したバロック的だとも言えるのかも。

412cmdz5gjl_ac_ フリードリヒ・グルダ(1967年録音/アマデオ盤) グルダは若い頃にアマデオに全曲録音を行い、DECCAの協奏曲全集と共に新時代のベートーヴェン像を打ち立てました。それ以前のドイツ系巨匠ピアニストの重厚さとは異なる、ほとばしる生命力と若い躍動感を強く感じさせるものです。この曲でも同様なのですが、それでいてウィーンの伝統の上に立った一種の安心感も与えるところが大きな魅力です。

492 エリック・ハイドシェック(1967年録音/EMI盤) ハイドシェックが若い頃に録音した全集盤からです。この人は後年にわが国でちょっとしたブームを巻き起こしましたが、個性が強過ぎて好みからは逸れています。しかし若い頃の自由奔放なモーツァルトなどは大好きです。このベートーヴェンも個性は強く、古典的にきっちりした演奏では有りません。けれどもそれがこの人のインスピレーションから出ているからか、それほどの抵抗は感じません。むしろ洒脱なフランス人の弾くベートーヴェンを楽しむならお勧めかもしれません。

230051167 エミール・ギレリス(1973年録音/グラモフォン盤) 感情が激流のごとく迸るリヒテルの演奏に比べるとずっと客観的ですが、それでもこの演奏は中々に情念の高まりを感じます。それでいて造形性をしっかりと保っているのが、この初期の曲ではプラスしています。ただ、第2楽章がやや平板に感じられるのは残念です。

51x095kohl_ac_ クリストフ・エッシェンバッハ(1975年録音/グラモフォン盤) 今では指揮がメインのマエストロですが、録音当時は若手ピアニストとして注目を浴びていました。冒頭グラーヴェの遅さはトップクラスですが、アレグロに入ると標準的な速さと成ります。しかしテンポの速さとは別に音そのものに重量感が有るのが印象的です。第2楽章もかなり遅いテンポで身体と感情を引き摺るようであり、哀しみと諦めに包まれているのがかなりユニークです。第3楽章は重量感は有るものの標準的な速さです。小股の切れ上がったスマートさとは無縁の重い聴き応えのある演奏です。

100000009000828373_10204 ラザール・ベルマン(1979年録音/SONY盤) 当時のソヴィエト出身で西側の国際コンクールで優勝して一躍センセーションを巻き起こし、カーネギーホールで行ったリサイタルのライブ録音です。“森の熊さん“然とした顔つきですが、演奏は質実剛健そのものでした。この曲の演奏も、打鍵にも演奏にも重量感が有りますが、気をてらわない極めてオーソドックスなものです。師でもあるリヒテルの若い頃とはタイプがだいぶ異なり、むしろギレリスに似たタイプだと言えます。

71tckqlt5ml_ac_sl1200_ ダニエル・バレンボイム(1983年録音/グラモフォン盤) バレンボイム二度目の全曲録音からです。この人の中核レパートリーはベートーヴェンとモーツァルトですが、より才能が輝いているのは後者の方だと思っています。この「悲愴」の演奏はとても美しく、オーソドックスで安心して聴いていられますが、反面、情念の高まりに不足するように感じられます。少なくとも自分にはです。

412kpwv2cgl_ac_ クラディオ・アラウ(1986年録音/フィリップス盤) アラウは23年前の旧録音でも晩年の趣を持ちましたが、こちらは正真正銘の晩年録音であり、テンポは更に遅くなり、巨大なスケール感と聴き応えを感じさせます。楽聖の若き青春の日の音楽が、まるで後期の音楽のごとく聞こえてきます。第2楽章のテンポについては旧録音と余り変わらないにもかかわらず、感覚上はむしろもたれません。これはアラウの芸格がついに神域に入ったということだと思います。

51m2ven1xl_ac_ ブルーノ=レオナルド・ゲルバー(1987年録音/DENON盤) アルゼンチン生まれながらドイツ物を中心とした王道レパートリーを得意としたゲルバーは40代後半の円熟期に全曲録音を行いました。インテンポで堅牢な造形を保つわけではなく、あちらこちらで微妙なルバート、間、アッチェランドを駆使しています。けれどもそれらが決して煩わしさを感じさせないのは自然に湧き起こるインスピレーションに従っているからかもしれません。

71qlzzgwgel_ac_sl1050_ スタニスラフ・ブーニン(1993-4年録音/EMI盤) ブーニンがまだ20代のときに日本で録音した演奏です。後の2007年に再録音を行いますが、そちらは未聴です。第1楽章は速めのテンポで焦燥感が出ていて良いと思います。第2楽章はやや詰めが甘く含蓄やロマンティシズムが不足しているのが残念です。第3楽章も淡々とし過ぎで気迫不足に感じられますがとても綺麗です。

Eyjidwnrzxqioijwcmvzdg8ty292zxitaw1hz2vz アルフレッド・ブレンデル(1994年録音/フィリップス盤) ブレンデル全盛期の演奏は非常に細かくディナーミクの変化やアゴーギグを行っていて一見気づき難いのですが、そのコントロールが自然にというよりも理知的に頭で考えているように感じてしまいます。
その為に、音楽に中々没入して行きません。とりたてて欠点ということでも無いのですが、ベートーヴェンの魅力を余り感じ取ることが出来ません。

716wmdys7ul_ac_sl1400_ マウリツィオ・ポリーニ(2002年録音/グラモフォン盤) いかにもポリーニらしく、テンポもディナーミクも完ぺきに統率が取れていて、そこには情に流されるようなことは寸分も有りません。聴いていて頑丈な高層ビルディングを仰ぎ見るような印象を受けます。
さて、それでベートーヴェンの音楽に感動できるかと言えば首をかしげます。むしろ座り慣れない高級ソファに座らせられたような窮屈さを感じてしまいます。これは2枚組CDのお得盤です。

ということで、世に知られたピアニストが弾けば、聴いていられない演奏などは有りませんが、個人的に楽しんで聴ける演奏と言えば、リヒテル、バックハウスの新盤、ゼルキン、ケンプ、ラザール・ベルマン、そしてアラウの新盤。というところです。

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2020年11月16日 (月)

ベートーヴェン チェロ・ソナタ第3番 イ長調Op.69 名盤

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ベートーヴェンが器楽曲のジャンルで最も情熱を注いだのが32曲のピアノソナタ、そして16曲の弦楽四重奏曲だというのは紛れもない事実ですが、続いてはヴァイオリンソナタを全部で10曲書き上げています。それに比べればチェロソナタの5曲というのは決して多くは有りません。

しかし、チェロソナタは初期の作品5の第1番と第2番、中期の作品69の第3番、後期の作品102の第4番と第5番と、それぞれの時代の特徴や形式を代表するような傑作を残しています。ですので比較的初期に作品が集中しているヴァイオリンソナタ以上にベートーヴェンの作風の進化を示しているように思います。

5曲のうち、最も良く知られていて一際人気の高いのは作品69の第3番ですが、作品5の2曲の親しみやすい魅力にも大いに惹かれます。一方で作品102の2曲には後期に見られるある種の理屈っぽさが感じられる為に、いつでも楽しく聴けるという訳には行きません。

なにはともあれ第3番は中期の"傑作の森"において「運命」「田園」「皇帝」などと共に書かれましたので、演奏時間こそ20分ちょっとと比較的短めながらもおよそ内容に無駄が無く、凝縮しきった大変な傑作です。

ベートーヴェンが様々な曲で試みたように、ここでもまたチェロはピアノと対等な役割を担っています。それ以前のチェロソナタは、実質「チェロ伴奏付きのピアノソナタ」でした。
この曲のチェロ奏法は格段に高度な技術を求められるようになっていて、低音から高音まで広い音域が要求され、ピアノと時には寄り添い、時には渡り合い、かつ豊かに歌い上げなければなりません。

曲は三楽章構成です。

第1楽章 アレグロ イ長調。2分の2拍子。
冒頭のチェロの勇壮な第1主題を聴いただけで一瞬にして惹き込まれてしまいます。展開部に入っても、チェロとピアノの絡み合いが息つく間を与えません。曲は更に盛り上がってフィナーレに突入します。

第2楽章 スケルツォ、アレグロモルト イ短調。4分の3拍子。
チェロとピアノ共に鋭いリズムで切り裂くように奏でる精悍なスケルツォで大変に魅力的です。

第3楽章 アダージオ・カンタービレ-アレグロ・ヴィヴァーチェ
大らかな序奏部に始まり簡潔に終えると、直ぐに快活なアレグロに入り、音楽が疾走する中でチェロが優美な主題を大きく歌い上げます。これぞ正に『歌うアレグロ』の真骨頂ですが、このように勇壮でいながらも優美さを持つ音楽というのはベートーヴェンでなければちょっと書けません。聴き惚れているうちにあっという間にコーダに入り、チェロとピアノが白熱したまま堂々と曲が終わります。

CDを購入される際には、2枚のCDにまず5曲全てが収められていますので、もし好きなチェリストが全集を出して入れば、それを求められると良いと思います。そうでなければ第1番から第3番の1枚もの、あるいは第3番から第5番(このパターンは多いです)の1枚ものを求められれば宜しいです。

ということで愛聴盤のご紹介です。

028945301327 ピエール・フルニエ(Vc)、ヴィルヘルム・ケンプ(Pf)(1965年録音/グラモフォン盤) パリのプレイエル・ザールで行われたコンサートの全曲ライブ録音です。フルニエの素晴らしいテクニックと美しい音色が臨場感ある優れた録音で捉えられていて、共演するケンプのピアノも素晴らしく、両者による古典的な造形性を保つ極上の名演奏となっています。ライブでありながら演奏の完成度の高さは驚くほどで、これをリファレンスにするのには何の抵抗も有りません。第3番以外の曲も全て名演ですし、チェロとピアノの為の3曲の変奏曲作品も含まれていますので、これは是非とも全曲盤を座右に置かれて聴かれるべきです。

Bee-91m1jsqhll_ac_sl1500_ ジャクリーヌ・デュプレ(Vc)、ダニエル・バレンボイム(Pf)(1970年録音/EMI盤)この全曲のセッション録音が行われた当時、デュプレ25歳、バレンボイム28歳という若さでしたが両者の才能が溢れ出た素晴らしい演奏です。テンポは幾らかゆったり気味で、豊かな表情でスケール大きく歌い上げるデュプレのチェロがとにかく魅力的ですが、バレンボイムのサポートも不満有りません。古典的な造形性をはみ出しているわけでも何でもありませんが、やがて訪れるロマン派への憧憬が感じられます。リファレンスとしての完成度においてはフルニエに一日の長が有りますが、こちらもまた聴かれて損のない演奏だと思います。

Cla110616142 ダニール・シャフラン(Vc)、アントン・ギンズブルグ(Pf)(1971年録音/Venezia盤) シャフランはロストロポーヴィチと同時代の旧ソ連を代表する名チェリストで、1949年のブダペスト、1950年のプラハの二つのコンクールでどちらもロストロポーヴィチと共に優勝を分け合っていることからも実力が計り知れます。ヨーロッパやアメリカ、日本へもツアーを行い活躍しましたが、ロストロポーヴィチほど一般の知名度の高さは有りません。けれども名器アマティの太い低音と美しい高音で表情豊かに歌わせた、このスケール大きく素晴らしいベートーヴェンを聴きさえすれば誰しもが魅了されることと思います。ピアノのギンズブルグも優秀です。この全曲CDはロシアのマスターテープをリマスターしたものですので音は良いですし、バッハの無伴奏チェロ組曲全曲と組み合わされているのでお勧めなのですが、残念なことに既に廃盤ですので入手は難しいかもしれません。

Bee-celo ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(Vc)、スヴャトスラフ・リヒテル(Pf)(1961年録音/フィリップス盤) もちろんこの曲でスラヴァの演奏を外すことは出来ません。フルニエ盤と双璧のベストセラーとなったディスクです。もっとも私は第3番以降しか持っていませんが、出来れば全曲盤で入手されると良いと思います。チェロとピアノが対等に渡り合うという点ではこの二人以上の組み合わせは無いかもしれません。正にがっぷり四つの力比べをしている感が有ります。随所にみられる激しい音のアタックは、さながら対決をしているかのようで、「優雅さ」よりは「真剣勝負」の印象が強いです。ですので聴き手によっては幾らか好みが分かれるかもしれません。

Bee-61hf0zvxagl_ac_ パブロ・カザルス(Vc)、ルドルフ・ゼルキン(Pf)(1953年録音/CBS盤) もうひとつは大巨匠カザルスのモノラル録音で、フランスのプラドにおけるカザルス音楽祭でのライブ録音です。これは第3番以降のみのディスクですが、1951年のペルピニャンの収録と合わせて全集としても出ています。カザルス晩年の演奏ですが、ゆったりとしたテンポで雄大なベートーヴェンを聴かせます。何か曲の大きさが一回りも二回りも大きくなったような貫禄が有ります。壮年期のゼルキンのピアノがまた実に立派で素晴らしいのですが、主役はあくまでもカザルスです。リファレンスには向きませんが、やはりこれも是非聴いておいて頂きたい演奏です。

Zap2_a2021420w 鈴木秀美(Vc)、小島芳子(Hf)(1996年録音/独ハルモニアムンディ盤) 別に古楽器が嫌いなわけでは無いのですが、モーツァルト以降の音楽はやはりモダン楽器演奏を好みます。というわけで1点だけは古楽器演奏盤です。なにも日本人だからなどという安っぽい基準でなく鈴木秀美は本当に凄い演奏家だと思いますし、ハンマーフリューゲルで共演する小島芳子もまた素晴らしいです。しかし、前述した錚々たる面々のモダン楽器の表現力と比べると楽器の限界を感じます。もっとも、その古雅な響きがピリオド楽器の魅力ではありますし、ここは無心で楽しむことにしましょう。

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