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2018年5月15日 (火)

ショパン 「ワルツ集」 名盤 ~華麗なる円舞曲~

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ロベルト・シューマンはショパンのワルツについて『ショパンのワルツの踊り手は、少なくとも伯爵夫人たちであるべきだ』と語ったそうです。それに対して往年の巨匠ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインは『それはワルツの僅かなものにしか当てはまらない。ワルツは前奏曲や練習曲と同じぐらい変化に富んでいるので、ワルツの全てを述べるために、一つの事柄で正しく言おうとするのは無駄なことだ。』と否定しました。

ショパンは最初のワルツを1829年に書いてから、18年間の長い期間に数曲づつ書いて行きましたので、作曲された場所も様々であり、それらの曲の性格も明るく華麗なものから、愛情、悲しみ、絶望、孤独感などに彩られたものと、1曲づつがルービンシュタインが述べたような異なる個性に溢れています。

三拍子のワルツという性格上、「前奏曲」や「練習曲集」のように幅広いダイナミクスが存在するわけでは無く、また「ポロネーズ」や「マズルカ」のようなポーランドの民族の血が濃く流れているわけでもありませんが、聴きこむごとにその音楽の持つ楽しさと魅力に惹きつけられます。

個人的な好みだけで言えば、「前奏曲集」「練習曲集」と「ソナタ集」をより好んではいますが、「ワルツ集」もやはり大好きな曲集です。

ショパンは生涯にワルツを全部で20曲近く書きましたが、過去のディスクに収められているのは代表的な14曲のものが多いです。

それでは僕の愛聴盤です。

Chopin_51htoorwail_sy355_アルフレッド・コルトー(1943年録音/EMI盤) この録音は若いころLP盤で愛聴しましたが、元々はSP録音ですので音質は当然悪いです。ノイズも多く入っています。演奏も複雑な箇所では混濁して聞こえます。しかしこの表現力には今更ながら圧倒されます。どんなにテンポを揺らしてみても恣意的なあざとさは感じられず、ショパンの書いた音楽がかくも自由に息づくことにため息をつくばかりです。音楽愛好家もプロを目指す若い演奏家も一度は耳にしておきたい演奏だと思います。写真はBOXセットですがワルツ集のみでも入手可能です。

Chopin_waltzmi0000954720ディヌ・リパッティ(1950年録音/EMI盤) 戦後派世代のリスナーにとってはコルトー以上に懐かしさを感じるリパッティですが、このワルツ集はこの人の代表盤として名高い録音です。自由で表情豊かな演奏ですが饒舌さは無く、むしろスタイリッシュなほどです。そこからショパンの音楽のニュアンスが香るように感じられてくるのは正に天賦の才能です。ピアノの素朴な音色は現代の金属的とも言える音とは異なり、非常に端正な、しかし美しい音に惹かれます。ブザンソン・ライブが1曲欠けている以上、14曲を収録したこちらのスタジオ録音盤がスタンダードには成るでしょう。 曲順は通常の作品番号順ではなく独自に並び変えられています。

51mewcymzl__ss500ディヌ・リパッティ(1950年録音/EMI盤) 若くしてこの世を去ったリパッティ最後のブザンソンにおけるライブ録音です。前述のスタジオ録音ともまた曲順が幾らか異なりますが、病魔に蝕まれた体はとうとう最後の1曲になるはずの第2番「華麗なる円舞曲」を演奏できませんでした。しかし演奏された曲については壮絶なまでの熱演で、その意味ではスタジオ盤以上と言えます。ライブ録音ですが音質的にもそれほど聴き劣りはしません。1曲欠けているのを気にしなければこちらを上位にしたくなる奇跡的な名演奏です。

Chopin_waltz216007825アレキサンダー・ブライロフスキー(1961-62年録音/CBS盤) この当時のブライロフスキーの人気はかなりのものだったようです。音楽がとことん明るく、まるで高級サロンとか社交界で演奏されているかのような華やかさを感じます。それもいかにもアメリカ的で、神経質で暗いショパンとはおよそ縁遠い印象です。現代の感覚では、ややムード的に感じられるかもしれませんが、ワルツをしかめ面をして聴くことも無く、とことん優雅な気分に浸りたいというリスナーにとっては価値ある一枚となることでしょう。

Chopin_walts230023031アルトゥール・ルービンシュタイン(1963年録音/RCA盤) 他の演奏家と比べると常にインテンポで規則正しく流れます。ところがそれでも洒落た味わいが強く感じられるのはさすがは大巨匠です。しかし続けて聴いていると音楽に変化の乏しさを感じてしまいます。ワルツ集そのものが変化にやや乏しい作品なので、それを更に増長してしまうように思います。BGMとして聴く分には良いでしょうが、じっくりと聴き込もうとすると飽きが来る恐れが有ります。リパッティの壮絶なワルツの対極に位置するような演奏です。

522サンソン・フランソワ(1963年録音/EMI盤) もっと後の若い世代の演奏に比べればテンポがゆったりと落ち着いています。どの曲にも音楽のニュアンスが豊富に感じられて、粋なパリジャンのワルツが聞こえてきます。揺れるようなルバートもそれほど大げさで無いので歌の流れを損なうことが有りません。イ短調ワルツなどは夢見るように美しいです。サロン的な味わいを持ちながらも芸術的な奥行きの深さを感じさせる素晴らしい名演奏だと思います。フランス盤のリマスターは良好で音に古さを感じさせないのも嬉しいです。

Chopin_walz_r902382814734523282671jジャン‐マルク・ルイサダ(1990年録音/グラモフォン盤) ワルツ集の新時代を切り開いた名盤としてリリース当時とても評価の高かった演奏です。曲ごとのテンポの緩急の巾が大きく、速い曲では煽るぐらいに追い込みますが、イ短調ワルツなどでは極端に遅いテンポで、心の奥底に深く沈みこんでゆくようなユニークな演奏を聞かせます。ただし頻繁に表れるテンポルバートがやや極端で音楽の流れを阻害しているように感じます。曲目は通常の14曲に遺作の3曲を加えて作品番号順に並べています。ルイサダは2013年に日本でワルツ集の再録音を行いましたが、この旧盤の価値が失われることはありません。

Chopin_waltzccy3010_2スタニスラフ・ブーニン(1992年録音/EMI盤) ルイサダ盤の2年後の録音ですが、これはミラノスカラ座におけるライブです。ブーニンもやはり曲ごとのテンポの緩急の巾が大きく、歌い回しの表情も豊かで聴き応えが有ります。一方でテンポルパートがで多過ぎて、ルイサダと同じように音楽の流れをせき止めてしまう印象です。ライブ会場で聴けば大いに楽しめそうですが、ディスクとして何度も聴くにはやや煩わしさを感じてしまうかもしれません。

ということで、名盤は幾つも有りますが、個人的にフェイヴァリットを選べば、フランソワ盤ということになります。これは聴いていてショパンに酔えて何度聴いても飽きません。もう一つ、リパッティのブザンソン・ライブはたとえ1曲欠けていようが絶対に外せない演奏です。

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コメント

ハルくん様

ショパンのワルツ、いい曲ですよね。

批評家筋には、ショパンのワルツは「通俗的な作品」といわれて、あまり高い評価を受けていません。ショパン弾きといわれた、アルゲリッチ、ポリーニ、ツィメルマンが、ワルツ集を録音していないのは、それを裏付けるかのようです。

しかし、僕はショパンのワルツが大好きです。

何と言っても、リパッティ盤が最高の素晴らしさです。以前も投稿しましたが、リパッティやグールドに、もっと寿命が与えられていれば、というないものねだりをしたくなるのは、僕だけでしょうか?
リパッティは白血病で亡くなりましたが、もう一人、白血病で亡くなった天才ピアニストがいます。
言うまでもなく、ゲザ・アンダです。
アンダは晩年(1975年)にショパンのワルツを録音しています。
往年の切れはなく、テンポも遅いのですが、随所にアンダにしか表現できない要素を含んでいます。
最近になって、ショパンのワルツを録音するピアニストは増えてきましたが、今のところ、僕にはリパッティ盤とアンダ盤があれば十分です。

投稿: motosumiyosi | 2018年5月15日 (火) 19時44分

motosumiyosiさん、こんにちは。

ゲザ・アンダは素晴らしいピアニストでしたよね。残念ながらご紹介のワルツ集は聴いたことが有りません。晩年であれば尚更独自の味わいが感じられそうですね。
機会あれば是非聴いてみたいです。ご紹介ありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2018年5月16日 (水) 12時51分

ハルくんさん、お久し振りです。ご無沙汰してました。
 
ショパンのワルツ、良いですね。
第1番の「華麗なる大円舞曲」や「小犬のワルツ」がポピュラーになり過ぎたためでしょうか、少し"軽く"見られがちですが、ワルツ集として14曲(+5曲)を聴いていると、世間で言われる程 "軽い"音楽ではないように思います。
 
私は好きですね。
 
CDは、やはり リパッティの2枚が好きです。
あの、真摯な演奏は特別なものがありますね。
 
その他では、ルイサダも良いのですが、ポーランドのハラシェヴィチの"飾らないショパン"が私は好きです。
7番や10番を聴いていると、ボソッ……とした ショパンの独り言のように聞こえます。

投稿: ヨシツグカ | 2018年5月19日 (土) 07時05分

ヨシツグカさん、こんにちは。
こちらこそご無沙汰しましたがお元気そうで何よりです!

ベースがワルツですからもちろん軽快さは有りますよね。ですが音楽が軽薄ということでは決してありませんね。とても魅力的な作品群です。

現在はフランソワに惹かれますが、リパッティはやはり特別だと思います。
ハラシェヴィチは聴いていませんので機会あれば是非聴いてみたいです。ご紹介ありがとうございました!

投稿: ハルくん | 2018年5月21日 (月) 12時37分

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